ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー*”Cien años de perdón” ― 2016年07月03日 08:40
『インベーダー・ミッション』の監督最新作

★今年期待できるスペイン映画としてチラッとご紹介したダニエル・カルパルソロの新作“Cien años de perdón”、3月4日スペイン公開以来、上質のサスペンスとして興行成績もよろしいようです。銀行を襲う強盗団の物語は幾つか過去にもありますが、導入部は似ていてもテーマは異なる。いずれ劇場公開されるでしょうね。原タイトルは、「Quien roba a un ladrón, tiene cien años de perdón」というスペインの格言から採られています。簡単にいうと「泥棒から物を盗むのは罪になりません」ということで、悪事をはたらく人間が自分の行為を正当化するときに言う捨てゼリフですが、悪事は悪事でしかありません。一部の金融システムのエリートだけが潤っている現状に庶民は不信を抱いている。この格言には幾通りかバージョンがあります。エジンバラ映画祭上映の英題は“To Steal from a Thief”でした。
★アクション映画の監督では、アルベルト・ロドリゲス(『UNIT 7 ユニット7/麻薬取締第七班』『マーシュランド』)、エンリケ・ウルビス(『貸し金庫507』『悪人に平穏なし』)、ダニエル・モンソン(『プリズン211』『エル・ニーニョ』)などが挙げられるが、本作のダニエル・カルパルソロもアクション映画の旗手として加えていいでしょう。低予算ながらハリウッド並みの策略、緊張、エモーションと大衆が求めるものを取り込んでいる。
“Cien años de perdón”(“To Steal from a Thief”)2016
製作:Vaca Films / Morena Films / Telecinco Cimema / K&S Films / Telefónica Studios
監督:ダニエル・カルパルソロ
脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア
撮影:トス・インチャウステギ
音楽:フリオ・デ・ラ・ロサ
編集:アントニオ・フルトス
データ:製作国スペイン=アルゼンチン=フランス、言語スペイン語、2016、96分、サスペンス、製作資金670万米ドル、興行成績1211万米ドル。公開アルゼンチン2016年3月3日、スペイン3月4日、ウルグアイ3月12日、チリ4月14日、イギリス(エジンバラ映画祭)6月16日。ポルトガル7月7日、ギリシャ7月28日の予定
キャスト:ロドリゴ・デ・ラ・セルナ(エル・ウルグアジョ)、ルイス・トサール(エル・ガジェーゴ)、ラウル・アレバロ(フェラン)、ホセ・コロナド(メジーソ)、ホアキン・フリエル(ロコ)、パトリシア・ビコ(サンドラ)、マリアン・アルバレス(クリスティナ)、ルシアノ・カセレス(バレラ)、ルイス・カジェホ(ドミンゴ)、ホアキン・クリメント(エル・プニェタス)、他

(性格の異なる両首領エル・ウルグアジョとエル・ガジェーゴはこんなマスクで登場)
解説:〈エル・ウルグアジョ〉と〈エル・ガジェーゴ〉を首領とする盗賊団がバレンシアのある銀行を襲う計画を実行しようとしていた。任務は可能なかぎりのセーフティ・ボックスを入手することであった。メトロの廃駅から銀行まで予め掘っておいたトンネルを通じて逃走する手筈にしていた。一方、首相の報道官は盗賊団の真の狙いが貸し金庫「314」であることに気づいた。大事故で現在は昏睡状態にある政府の元メンバー、ゴンサロ・ソリアーノ所有のそのボックスには表沙汰にできないマル秘文書が入っていた。エル・ウルグアジョとその一味は、昨夜から降り続いた大雨のせいでトンネルが浸水、想定外の苦境に立たされていた。盗品が政府内のある派閥のマル秘であるにもかかわらず、銀行職員には逃亡阻止の指示も届いていなかった。平凡な出だしながら時間とともに複雑になっていくストーリー展開、対照的な両首領の性格的戦略的対立、アクションとユーモアのバランスもよく、上質なエンターテイメントとなっている。

(バレンシア銀行の金庫室床に開けたトンネルの穴、映画から)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★ダニエル・カルパルソロ、1968年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。誕生間もなくバスク自治州サンセバスチャンに転居したため、バスク出身の監督と紹介されることもある。マドリードで映画、政治科学を並行して専攻、後ニューヨークに渡って映画技法を学んでいる。監督・製作者のフェルナンド・コロモの目に止まって、1995年“Salto al vacío”(“Jump Into the Void”)でデビュー、批評家からも観客からも受け入れられた。本作は武器の密売で一家を養っている二十歳の娘をヒロインにした殺るか殺られるかの物語、主役を当時妻だったナイワ・ニムリが演じ、彼女を立て続けに起用して4作ほど撮っている。なかではこの第1作が特に評価が高かった。ナイワ・ニムリの衝撃的な髪型(後頭部に〈VOID〉の剃りが入っている)も話題になった。それがそのままポスターに使用され、後にダニエル・モンソンが『プリズン211』(09、“Celda 211”)で模倣した。

(ナイワ・ニムリの髪型を使った“Salto al vacío”のポスター)
★今世紀に入ってからは、TVミニシリーズを主に手掛けていたが、第7作となる“Invasor”(『インベーダー・ミッション』12、公開14)で映画復帰、8作目“Combustion”(『ワイルド・レーザー』13、公開14)、9作目“Cien años de perdón”と続いて映画を撮っている。監督談によると、「社会派ドラマではないが、ヒリヒリした痛みをもった映画」ということです。

(プレス会見に勢揃いしたキャストとスタッフ)
*主な登場人物たち*
★強盗団の首領にアルゼンチンのロドリゴ・デ・ラ・セルナが扮し、スペインのジェームズ・ギャグニーことルイス・トサール(1971年ガリシアのルーゴ生れ)とタッグを組みました。1930年代のギャング映画の大スターとはいえ、ジェームズ・ギャグニーをどれくらいの年齢層までが知っているか疑問ですが。ダニエル・モンソンの『プリズン211』『エル・ニーニョ』、ダニ・デ・ラ・トーレの『暴走車 ランナウェイ・カー』と日本でも存在感が増してきたトサール、本作ではちょっとオンナに弱い人格造形のようです。主役としてはイシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』(99)が映画チャンネルで放映されたのが初登場でしょうか。つづく『テイク・マイ・アイズ』(03、ゴヤ賞主演男優賞)、『ザ・ウォーター・ウォー』(10)などボリャイン作品に出演しています。高校時代からの仲間でもあるホルヘ・コイラの『朝食、昼食、そして夕食』(10)では製作者も兼ねた。マイケル・マンの『マイアミ・バイス』(06)でアメリカ映画にデビューするなど。今やアクションもドラマもこなせるスペイン映画を代表するカメレオン俳優となっている。

(CELDA 211の剃りを入れたトサール&2個めとなるゴヤ賞主演男優賞授賞式の写真)
★ロドリゴ・デ・ラ・セルナは、1976年ブエノスアイレス生れ、ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』で若きチェ・ゲバラと南米縦断旅行をしたアルベルト・グラナード役で、2004クラリン賞、2005銀のコンドル賞、他受賞多数。TVドラ出演が多く、マルティン・フィエロ賞も受賞している。フランシス・フォード・コッポラがブエノスアイレスを舞台にしてモノクロで撮った『テトロ』(09)に出演している。本作には当時の妻だったエリカ・リバス(『人生スイッチ』)も出ていた。二人の間には1女がある。新作では刑務所に戻るのも恐れないという粗野な人格を演じる。「スクリーン上のルイスにはいつも感嘆していた。今度実際に仕事をしてみて、その人柄にも惚れました、彼と仕事ができて素晴らしかった」と、相棒ルイス・トサールを褒めちぎる。もしかして初顔合わせでしょうか。
★他に『貸し金庫507』『悪人に平穏なし』のホセ・コロナド、『マーシュランド』のラウル・アレバロ、フェルナンド・フランコの“La herida”でゴヤ賞2014主演女優賞受賞のマリアン・アルバレス、現在の監督夫人パトリシア・ビコ(2006年に1男誕生)など演技派が脇を固めている。

(ダニエル・カルパルソロ監督と夫人パトリシア・ビコ)
盗作論争――盗作の範囲はどこからどこまで?
★盗作の狼煙を上げたのが、アルゼンチン出身のアレハンドロ・サデルマンのベネズエラ映画“100 años de perdón”(98)です。「タイトルから筋まで類似している」と指摘。確かにタイトルは指摘通りです。チリやウルグアイでは「100」も使用するなど、言いがかりとは一概に言えない。しかし、脚本を書いたホルヘ・ゲリカエチェバリアはベネズエラ作品を見ていないと語る(スペインでは未公開のようです)。「タイトルは同じでもストーリー展開はまるで違う」と反論している。チラリ見ですが確かに異なっている。マル秘文書が採用された映画としては、当ブログに登場させたエンリケ・ウルビスの『貸し金庫507』(02)がある。銀行を襲った強盗一味に貸し金庫室に閉じ込められた支店長が、貸し金庫「507」に入っていた書類から、我が娘の焼死が事故ではなく、ウラで糸を引く大物マフィアの仕業だったことを知るというもの。土地買収に関する政治汚職を浮かび上がらせている。
*『貸し金庫507』の記事は、コチラ⇒2014年3月25日

(アレハンドロ・サデルマンの“100 años de perdón”)
★アメリカ映画だが、スパイク・リーのコメディ仕立ての『インサイド・マン』(06)、マンハッタン信託銀行の貸し金庫「392」の中身が銀行はもとより警察、交渉人、謎の女性交渉人までが出張ってきて右往左往するエンタメ。貸し金庫にはナチがユダヤ人からせしめた宝石以外に表沙汰にしたくないマル秘文書が入っており、強盗団の狙いは宝石じゃない。どうしてそんな古い危険文書を今まで処分しなかったのか(笑)、ストーリーにいくつも綻びがあるのだがエンタメの要素をぎょうさん盛り込んでいる。何しろキャストが豪華版、意表をつく結末に唖然とする。面白いのは『狼たちの午後』(75)のパロディを含んでいることです。今でも映画チャンネルで放映されているシドニー・ルメットの映画、実際に起きた銀行強盗事件に材をとっている。若くてほっそりしていた頃のアル・パチーノが主役を演じていた。実際の犯人の後日談もなかなかこれが興味深い。
グラシア・ケレヘタ*スペイン映画アカデミー副会長辞任 ― 2016年07月05日 11:58
何かあったのでしょうか?
★当ブログ開設以来、折りに触れて記事にしてきたグラシア・ケレヘタのスペイン映画芸術科学アカデミー副会長辞任の報道がありました。スペイン映画アカデミー前会長エンリケ・ゴンサレス・マチョの突然の辞任をうけ、昨年5月に新体制ができて就任したばかり、今回も水面下はともかく、突然の辞任劇でした。新会長アントニオ・レシーネス、もう一人の副会長エドモン・ロチも辞任を受け入れたようです。後任が決まるまではレシーネス会長をエドモン・ロチが一人で補佐することになる。プレス向けの辞任理由の他に何かあったのでしょうか。

★去る6月27日に会長に提出された辞任文書によると、「副会長の仕事と本来の監督業との両立が困難になった」というのが辞任理由だそうです。激務を承知で引き受けたのでしょうが、頭で考えていたことと実際では、かなりの差があったということですかね。「ここ数ヶ月は自分の仕事に手がつけられなかった。ここに至るまでには何度も何度も考えた」とプレスには語ったようで、熟考の末に出した結論だったことを強調した。前会長ゴンサレス・マチョも「会長職と製作者としての本業の両立ができなかった」が辞任理由でした。「食べていくには仕事をしなくては」とも語っていた。名誉職ではあるが現役ばりばりでは激務をこなすのは難しいのでしょう。会長が辞任するわけではないので再選挙にはならず、レシーネス会長が次を指名するまで空席になります。

(顔も気性も似ていたケレヘタ父娘)
★グラシア・ケレヘタ、1962年マドリード生れ、監督、脚本家。2013年6月鬼籍入りした大物プロデューサー、エリアス・ケレヘタの一人娘。代表作“Una estación de paso”(92)、“Siete mesas de billar frances”(07)、“15 años y un día”(14)、最新作は“Felices 140”(15)など。なかで“15 años y un día”は、例年4月開催のマラガ映画祭2014のグランプリ作品、同年のオスカー賞のスペイン代表作品にも選ばれましたが最終候補に残れませんでした。ゴヤ賞も作品賞以下7カテゴリーにノミネートされましたが無冠に終わってしまいました。ゴヤ賞関連では、マリベル・ベルドゥを起用した“Siete mesas de billar francés”(2007)も、ベルドゥが主演女優賞、アンパロ・バロが助演女優賞を受賞しましたが、自身は監督賞・作品賞とも逃しました。

(“15 años y un día”のポスター)
★父エリアス・ケレヘタは、ビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』『エル・スール』、カルロス・サウラがベルリン映画祭で監督賞を受賞した『狩り』、『カラスの飼育』『急げ、急げ』、マヌエル・グティエレス・アラゴンの『激しい』、フェルナンド・レオン・デ・アラノアのデビュー作『ファミリア』、『月曜日にひなたぼっこ』、ほかモンチョ・アルメンダリス「タシオ」、リカルド・フランコ『パスクアル・ドゥアルテ』、ハイメ・デ・アルミニャン、イマノル・ウリベなど「映画の近代化」または「スペイン映画の国際化」に寄与した製作者、脚本家。彼なしでスペイン映画史を語ることはできない。

(『ミツバチのささやき』30年後、左から、エリアス・ケレヘタ、妹アナ役アナ・トレント、
姉イサベル役イサベル・テリェリア、ビクトリ・エリセ監督)
*スペイン映画芸術科学アカデミー選挙関連の記事は、コチラ⇒2015年05月11日
*ゴヤ賞2014ノミネーション“15 años y un día”の作品紹介と監督フィルモグラフィーの記事 は、コチラ⇒2014年1月26日/2月06日
*“Felices 140”の記事は、コチラ⇒2015年01月07日
パディ・ブレスナックの新作”Viva”*ハバナを舞台にしたアイルランド映画 ― 2016年07月11日 22:06
ホモ嫌いの父と女装趣味の息子
★パディ・ブレスナックの“Viva”は、第88回アカデミー賞外国語映画賞部門のアイルランド代表作品、プレセレクションまで残りましたがノミネーションは逃しました。製作はアイルランド共和国ですが、「ハバナを舞台にしたスペイン語映画」として以前ご紹介しております。主人公にエクトル・メディナ、その父親に最近アカデミー会員に選ばれたホルヘ・ペルゴリア、ベテラン俳優ルイス・アルベルト・ガルシアと、キャスト陣はキューバで固めています。ブリュッセル映画祭2016のコンペティション部門にノミネーションされ(受賞は逃したが)、7月にはスペイン公開が実現しました。アイルランドは、EU離脱(ブレグジットBrexit)で世界に激震を走らせ、冷たい視線を浴びせられているグレート・ブリテンの一員ではありませんが、隣国ですから政治的にも経済的にも混乱は避けられませんね。
*“Viva”の紹介・アカデミー賞関連記事は、コチラ⇒2015年10月3日/同年12月19日
★IMDbによれば、肝心のキューバではまだ公開されていないようですが、少なくともキューバ人のキャストを起用してハバナでの撮影を許可したのですから、いずれ公開もあるでしょう。アグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』(15)は、撮影さえ拒否されたのでした。文化の雪解けはずっと先の話なのかもしれません。父親の長い不在、ルイス・アルベルト・ガルシアが「ママ役」、どうやら甘ったるい味付けの父子の憎悪劇ではなさそうです。

(元ボクサーの父ホルヘ・ペルゴリア、息子エクトル・メディナ)
★パディ・ブレスナックの公開作品は、イギリス映画『シャンプー台のむこうに』(01“Blow Dry”)1作だけです。『フル・モンティ』のサイモン・ボーフォイが脚本を執筆、アラン・リックマンがカリスマ美容師に扮した。他に『デス・トリップ』(07“Shrooms”)、『ホスピス』(08“Freakdog”)のホラー映画2本がDVD化されております。ホラーはDVD化される確率が高い。サンセバスチャン映画祭にブレスナックのデビュー作“Ailsa”(94)が上映された折には、「ダブリンのキェシロフスキ」と話題になったそうです。つづく第2作がスリラー仕立てのアクション・コメディ“I Went Down”(97)、本作は同映画祭の新人監督賞、審査員賞を受賞した。クールでバイオレンスもたっぷり、自由奔放、たまらなく可笑しいブラックユーモア溢れた作品に審査員からも批評家からも、勿論観客からも歓迎された。彼の代表作は公開された『シャンプー台のむこうに』より、むしろこちらのほうではないか。

★今年のブリュッセル映画祭(6月17日~24日)は、バスクを含むスペイン映画が気を吐きました。“Viva”以外にもカルレス・トラスの“Collback”(西=米)が審査員賞、若手ベン・シャロックの“Pikadero”(西=英)が脚本賞、ベテランイシアル・ボリャインの“El olivo”(“The Olive Tree”)が観客賞を受賞しました。未紹介の“Pikadero”は、サンセバスチャン映画祭2015の新人監督・バスク語映画部門に出品された作品。チューリッヒ、エジンバラなど国際映画祭での受賞歴多数。経済の落ち込みで恋人ができても独立できない。二人とも親と同居、出口なしの若い恋人が主人公、切なくておかしくて、その斬新な映像美が若い観客の心を掴んだ。

(私たち、どこで愛し合ったらいいの? “Pikadero”から)
*カルレス・トラス“Collback”の作品・監督紹介記事は、コチラ⇒2016年5月3日
*イシアル・ボリャイン“El olivo” の作品・監督記事は、コチラ⇒2016年2月21日
アントニオ・レシネス*スペイン映画アカデミー会長を辞任 ― 2016年07月15日 09:29
不協和音がつづくスペイン映画アカデミー
★2週間前にグラシア・ケレヘタの副会長辞任が受理されたニュースをアップしたばかりですが、13日アントニオ・レシネスも会長辞任を表明、当然3人セットですから、もう一人の副会長エドモンド・ロチも右へならえです。「撤回不可能の決心」というわけで昨年5月5日に新体制が発足して以来14ヶ月の短命に終わりました。これでは都知事選同様年中行事化しかねませんが、フェルナンド・トゥルエバのように1年未満の方もおりますから、よくもったとも言えるでしょうか。混迷を深める政治経済とも絡んで現役の俳優や監督が兼職するには限界があるということかもしれません。レシネスは「アカデミーが難問山積なのは充分承知で引き受けたが、連日のように持ち込まれる些末な揉め事には対応できなかった。より作業能力に優れている人にお願いしたい」と皮肉たっぷりのコメントをいたしました。また現行の「選挙法」に問題があるという指摘もしたようです。

★野球に譬えると、現場監督(アカデミー側)と球団運営フロント(重役会)の摩擦や食い違いが常にあって、フロントからの些細な要求に納得できなかったのが背景にあるようです。前会長とポルフィリオ・エンリケスCEOとの関係は比較的良好と言われていただけに残念な結果になりました。現在の会員は約1400人、アカデミー執行部は14名、任期は6年で日本の参院選のように3年毎に半分が改選されるシステムです。次期会長はどなたになるのか、いずれにせよ会長辞任ですから再選挙がおこなわれる。
★スペイン映画芸術科学アカデミー設立の発端は、今から遡ること30年、プロデューサーのアルフレッド・マタスの呼びかけで1985年12月12日、マドリードのレストランでの会合から始まった。いわゆるマドリード派の監督ルイス・ガルシア・ベルランガやカルロス・サウラ、製作者マリソル・カルニセロ、テディ・ビジャルバ、俳優ホセ・サクリスタン、チャロ・ロペス、編集者パブロ・ゴンサレス・デル・アモ、作曲家ホセ・ニエト、美術監督ラミロ・ゴメスなどが参加した。正式な発足は1986年、ホセ・マリア・ゴンサレス・シンデ監督が初代会長に就任した。
★監督、脚本家のアンヘレス・ゴンサレス=シンデは初代の娘、社労党PSOEのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ政権の文化教育スポーツ相就任のため、任期半ばで辞任した。映画産業に多くの予算を回したことで、国民党PPから「あなたは映画大臣ではなく、文化教育スポーツ省の大臣だ」と野次を飛ばされた(笑)。今思うとあの頃はPSOEとPPの二大政党だったのでした。『プリズン211』、『悲しみのミルク』、『瞳の奥の秘密』、『デブたち』、『ナイト・トーキョー・デイ』、『泥棒と踊り子』の名作が上映された「スペイン映画祭2009」の企画者が彼女でした。
*歴代スペイン映画アカデミー会長*
初代 1986~88 ホセ・マリア・ゴンサレス・シンデ
2代 1988 フェルナンド・トゥルエバ
3代 1988~92 アントニオ・ヒメネス・リコ
4代 1992~94 フェルナンド・レイ
5代 1994 ヘラルド・エレロ
6代 1994~98 ホセ・ルイス・ボラウ
7代 1998~2000 アイタナ・サンチェス=ヒホン
8代 2000~03 マリサ・パレデス
9代 2003~06 メルセデス・サンピエトロ
10代 2006~09 アンヘレス・ゴンサレス=シンデ
11代 2009 エドゥアルド・カンポイ
12代 2009~11 アレックス・デ・ラ・イグレシア
13代 2011~15 エンリケ・ゴンサレス・マチョ
14代 2015~16 アントニオ・レシネス
15代 2016~ ?
★13代のゴンサレス・マチョのように2期目途中での辞任は少数派、1年未満が3人もいて3年の任期を全うするのは難しいようです。
*グラシア・ケレヘタ副会長辞任の記事は、コチラ⇒2016年7月5日
イシアル・ボリャイン新作「オリーブの樹」*ブリュッセル映画祭観客賞受賞 ― 2016年07月19日 12:05
世界に残された大樹の売買を背景にスペインの危機が語られる

★イシアル・ボリャインの長編7作目となる“El olivo”がブリュッセル映画祭の観客賞を受賞しました。今秋のラテンビート上映を期待して作品紹介をしたい。実にありふれたストーリーだが、ボリャイン映画はメッセージが明確である。「安っぽいメタファー」あるいは「既視感がある」などのマイナス評価を物ともしない強さが、観客の心を掴んでしまう。サンチャゴ・セグラの「トレンテ」シリーズやアメナバルの『アレクサンドリア』、またはJ・A・バヨナの『インポッシブル』のような大資本を使わずに、それなりの興行成績を上げている。つまり観客はこういう映画も必要としているということです。俳優を信頼してあまりリハーサルをしないタイプの監督、1シーン1ショットが好き、気配りがあって撮影が楽しいなどキャスト陣の好感度も高い。彼女自身も女優であるから俳優心理のメカニズムをよく知っているせいでしょうか。
*“El olivo”についての記事は、コチラ⇒2016年2月21日
“El olivo”(“The Olive Tree”)2016
製作:Morena Films / The Match Factory
監督:イシアル・ボリャイン
脚本:ポール・ラヴァティ
音楽:パスカル・ゲーニュ
撮影:セルジ・ガジャルド
美術:ライア・コレト、Anja Fromm(独)
衣装デザイン:フラン・クルス
メイク・ヘアー:マルセラ・バレト
キャスティング:ミレイア・フアレス
製作者:ペドロ・ウリオル(エグゼクティブ)、フアン・ゴードン、マイケル・ウェーバー、ほか
データ:製作国スペイン=ドイツ、言語スペイン語・ドイツ語・英語・フランス語、2016年、コメディ・ドラマ、100分、製作費420万ユーロ、撮影スペイン&ドイツ、公開スペイン5月6日、ギリシャ&イスラエル6月2日、フランス7月13日、ドイツ8月2日予定
映画祭・受賞歴:ブリュッセル映画祭観客賞受賞、シアトル映画際監督賞第2席、女優賞アナ・カスティージョ第3席。ほかマイアミ、シドニー、ミュンヘン、エジンバラ、各国際映画祭2016正式出品。
キャスト:アナ・カスティーリョ(アルマ)、ハビエル・グティエレス(叔父アルカチョファ)、ペプ・アンブロス(ボーイフレンド、ラファ)、マヌエル・クカラ(祖父ラモン)、イネス・ルイス(少女アルマ)、アイナ・レケナ(アルマの母)、ミゲル・アンヘル・アラドレン(ルイス)、カルメ・プラ(バネッサ)、アナ・イサベル・メナ(ソレ)、マリア・ロメロ(ウィキィ)、パウラ・ウセロ(アデリェ)、クリス・ブランコ(エストレーリャ)、パコ・マンサネド(ネルソン)、ほか多数
解説:樹齢2000年のオリーブの樹をめぐるアルマと祖父の物語。二十歳になるアルマはバレンシア州カステリョンの養鶏場で働いている。気掛かりなことは自分を可愛がってくれた祖父ラモンが口を利かなくなり、今では食事も摂らなくなってしまったことだ。思い当たるのは12年前、父親がレストランの開店資金のため、祖父が心から大切にしていた樹齢2000年のオリーブの樹を伐り倒して売ってしまったこと。ドイツの金融都市デュッセルドルフにあるエネルギー関連会社が所有しているという情報を得たアルマは、叔父アルカチョファとボーイフレンドのラファを巻き込んで、お金もないのにスペインからドイツに向けてトラックで出発、こうしてトンチンカンなゲームよろしく珍道中がはじまった。

(オリーブの樹の下で、8歳のアルマと祖父ラモン)

(オリーブの樹があった場所で失意の日々を送る祖父に寄り添うアルマ)
アルマ・キホーテと二人のサンチョ・パンサ、アルカチョファとラファ
★本作はあくまでフィクションですが、ポール・ラヴァティによると、アルマとラモンのような祖父と孫にカステリョンで実際に出会ったのが執筆の始まりだったという。樹齢二千年というオリーブの樹は、かつてイベリア半島を占領したローマ人が植林したものだそうです。野外劇場や水道橋を建設しただけではなかったということ。しかし大樹でもオリーブの実の収穫とは正比例しないから効率は良くない。しかし生産高だけで悪者と決めつけていいのか、慣習や社会規範に従順であることが常に正しいとは限らない。時には非従順にも価値があるのではないかと語りかけている。
★8メートル、10メートルの大樹が豊かなドイツに4万ユーロほどで買われていく。デュッセルドルフはノルトライン=ヴェスファーレン州の州都、約60万人と人口は多くないが、ドイツを代表する経済や芸術分野の中心都市である。経済危機のスペインとは対照的に豊かなドイツ、同じEU 域内でも経済の二極化は鮮明です。

(デュッセルドルフのエネルギー関連会社のホールにオブジェとして飾られていた)
★アルマと祖父の関係は愛で繋がっている。しかし12年前に伐り倒されたオリーブの樹を求めてドイツまでトラックで出かけるというのはあり得ない話です。監督は「ドン・キホーテ的な行動に走るリーダーのアルマ、アルマ・キホーテに従う二人の従者サンチョ・パンサが叔父アルカチョファとボーイフレンドのラファだ」と語っている。スペイン人が大好きな騎士道物語の別バージョンというわけです。
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★イシアル・ボリャイン(ボジャイン)Icíar Bollaín Pérez-Minguez、1967年マドリード生れ、、監督、脚本家、女優。父は航空学エンジニア、母は音楽教師、双子の姉妹がいる。マドリードのコンプルテンセ大学美術科に入学するも映画の道に進むべく途中で断念する。しかし趣味として絵筆は手放さない。1991年初頭、サンティアゴ・ガルシア・デ・レアニスやゴンサロ・タピアと制作会社「ラ・イグアナ」を設立する。『ザ・ウォーター・ウォー』(10)に続いて本作の脚本を担当したポール・ラヴァティとは『大地と自由』(95、ケン・ローチ)の撮影中に知り合って結婚、3児の母である。2014年からスコットランドのエジンバラに本拠地を移して、スペインと行ったり来たりして活動している。

(樹齢千年のオリーブの樹の下のイシアル・ボリャイン、マドリード植物園にて)
★女優として出発、ビクトル・エリセの『エル・スール』(83)に16歳でデビューを飾る。叔父フアン・セバスティアン・ボリャイン監督の“Las dos orillas”(86)、“Dime una mentira”(93)に出演する。代表作は、ケン・ローチの『大地と自由』だが、ほかにマヌエル・グティエレス・アラゴン“Malaventura”(89)、ゴヤ賞主演女優賞ノミネーションのホセ・ルイス・ボラウの“Leo”(2000)、ジョゼ・サラマーゴの小説『石の筏』を映画化した『石の筏に乗って』(02、シネフィル・イマジカ放映、オランダ・西・ポルトガル)、エクアドルのセバスティアン・コルデロの『激情』(10、メキシコ・コロンビア)出演を最後に目下のところ女優業は休止している。ほかTVドラにも出演している。

(16歳の女優ボリャイン『エル・スール』から)
★監督デビューは「ラ・イグアナ」の製作で短編“Bajo, corazón”(93)、続いて“Los amigos del muerto”(94)を撮る。長編デビューは1995年“Hola, ¿ estás sola ?”(95、ゴヤ賞新人監督賞ノミネート)、『花嫁の来た村』(99、ゴヤ賞脚本賞ノミネート、シネフィル・イマジカ放映)、ゴヤ賞監督・脚本賞を受賞した『テイク・マイ・アイズ』(03)やアリエル賞イベロアメリカ作品賞受賞の『ザ・ウォーター・ウォー』(10)など、本作含めて7作、ほかに長編ドキュメンタリー“En tierra extrana”(14)、NGO の仕事として“Aldeas Infantiles SOS”(12)や“La madre SOS”を撮って、社会に静かに質問を投げかけている。彼女の複眼的な視点は、当事者を決して糾弾しないところが魅力である。
*ドキュメンタリー“En tierra extrana”の記事は、コチラ⇒2014年12月4日
*主なスタッフ紹介*
★ポール・ラヴァティ(ラバーティ)、1957年インドのカルカッタ生れ、父はスコットランド、母はアイルランド出身、スコットランドの脚本家。ケン・ローチの脚本を8本手がけている。現地に赴いて執筆したニカラグア内戦をテーマに『カルラの歌』(96)で初めてタッグを組んだ。以来『やさしくキスをして』(04)、『この自由な世界で』(07)、カンヌ映画祭2006のパルムドール受賞の『麦の穂をゆらす風』、『エリックを探して』(09)、『ルート・アイリッシュ』(10)、『天使の分け前』(12)、『ジミー、野を駆ける伝説』(14)がある。妻イシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)の脚本も手がけている。14年間のスペイン暮らし、こよなくスペインの田舎の風土を愛している。それは母親が語ってくれたアイルランドの風土に似ており寛げるからだそうです。本作のアイデアもここから生まれた。

(ポール・ラヴァティとイシアル・ボリャインのツーショット)
★パスカル・ゲーニュ、1958年すランスのカーン生れ、作曲家。現在はバスク自治州のサンセバスチャンで暮らしている。ボリャイン監督とは『花嫁の来た村』が最初の作品、エリセのドキュメンタリー『マルメロの陽光』(92)、ラモン・サラサール『靴に恋して』(02)、ダニエル・サンチェス・アルバロ『漆黒のような深い青』(06)と『デブたち』(08)、サルバドル・ガルシア・ルイス『砂の上の恋人たち』(03)、ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガ『フラワーズ』(14)など公開、映画祭上映作品も多く、DVDなどで聴くことができる。
*パスカル・ゲーニュの詳細は『フラワーズ』の記事で紹介、コチラ⇒2014年11月9日
*主なキャスト紹介*
★アナ・カスティーリョ、1993年バルセロナ生れ、女優。映画、TV、舞台で活躍の22歳。7歳からバルセロナとマドリードで演技指導を受けている。2011年芸術高校卒業後、“Sant Joan Bosco Horta”でも学び、2005~11年まで音楽グループ「ep3」のメンバーと、早熟な才能の持ち主。長編映画デビューはエレナ・トラペの“Blog”(10)、ハビエル・ルイス・カルデラの『ゴースト・スクール』(12)、3作目となる本作でヒロインに抜擢された。テレビで出発している。本作については「カフェテリアで渡された脚本を読み始めたが感動して大泣きしてしまい、お店にいた人をびっくりさせてしまった」と語る。デビューした頃のボリャイン監督を彷彿させると評価も高い。脚本にキスの雨を降らせて奮闘した。本作出演が決まってから『エル・スール』を見たと語るが、生まれる10年前の作品(笑)。「女優になるべく生まれてきた、生まれつきのスター」と共演のハビエル・グティエレス、新たなスター誕生となるか。

(デュッセルドルフに到着した主従3人組、アルカチョファ、ラファ、アルマ)
★二人の従者サンチョ・パンサの一人、叔父アルカチョファのハビエル・グティエレスについては、アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』(14)でゴヤ賞2015男優賞受賞の折に詳細を紹介している。本作でサン・ジョルディ賞、サンセバスチャン銀貝賞、フォルケ賞、フェロス賞、シネマ・ライターズ・サークル賞と貰える賞の全てを独占した。またダニ・デ・ラ・トーレの『暴走車 ランナウェイ・カー』にも出番こそ少ないが重要な役を演じた。アルカチョファは本名ではなくアンティチョークのこと、渾名でしか登場しない。
*『マーシュランド』(原題“La isla mínia”)の記事は、コチラ⇒2015年1月24日
★もう一人の従者、同僚でアルマに恋しているラファ役ペプ・アンブロスは、本作が映画デビュー作。バルセロナ生れ、2010年バルセロナ演劇研究所の演劇科を卒業。2005年舞台俳優として出発、カタルーニャTVコメディ・シリーズ“Les coses grans”(2013~16、21エピソード)にペプ役で出演、母語のカタルーニャ語の他、スペイン語、英語、フランス語ができる。舞台出演を主軸に映画出演にも意欲を示す。本作ではアルマが働く職場の同僚役、コメディアンとしての優れた才能を発揮したと高評価。「ラファの人格はとても複雑、セリフは少ないのに多くのことを語らねばならない役柄、これは自分にとって難しいことだった。自分の意見も言わずに、どうしてこんな羽目に巻き込まれてしまったのか、それを理解することだとイシアルが助け舟を出してくれた」とアンブロス。自分のデビュー作がボリャインやグティエレスのような素晴らしい才能たちとの出会いであった幸運をかみしめている。

★マヌエル・クカラ、監督とキャスティング担当のミレイア・フアレスが、トラクターから降りてきた彼に「同時に一目惚れして」祖父ラモン役に抜擢されたというズブのアマチュア。起用が誤算でなかったことは映画を見れば納得するとか。

(左から、ラファ役ペプ・アンブロス、叔父アルカチョファ役ハビエル・グティエレス、
ボリャイン監督、アルマ役アナ・カスティーリョ、祖父ラモン役マヌエル・クカラ)
シガニー・ウィーバーがドノスティア賞を受賞*サンセバスチャン映画祭2016 ② ― 2016年07月22日 11:52
J・A・バヨナのファンタジー「怪物はささやく」はコンペ外上映
★第63回サンセバスチャン映画祭の栄誉賞ドノスティア賞は英国女優エミリー・ワトソン一人でしたが、今年は米国女優のシガニー・ウィーバーがアナウンスされました。今のところ受賞者は一人、時期的にはかなり早い発表ですから、増える可能性があります。フアン・アントニオ・バヨナの新作“A Monster Calls”(西題“Un monstruo viene a verme”仮題「怪物はささやく」)に出演しているので、周囲は予想していたかも知れません。授賞式は本作上映の9月21日当日に、メイン会場クルサール・オーディトリアムの予定です。イチイの大木の怪物(リーアム・ニーソン)と13歳のコナー少年(ルイス・マクドゥーガル)のファンタジー・ドラマ。シガニーはコナー少年の祖母役です。

(シガニー・ウィーバー、右手にあるのがドノスティア賞のトロフィー)
★“A Monster Calls”の製作発表は2014年3月でしたから大分待たされました。オリジナル言語は英語です。第64回サンセバスチャン映画祭2016のコンペティション外でワールド・プレミアされます。癌で夭折したシヴォーン・ダウドの原案をパトリック・ネスとイラストレーターのジム・ケイが完成させたもの。若い読者のためのベストセラー小説の映画化、本作ではパトリック・ネスが脚本を手掛けました。日本では、児童図書出版社から『怪物はささやく』の邦題で既に翻訳書が出ています(2011年、あすなろ書房)。

(イチイの大木とコナー少年、映画“A Monster Calls”)
★シガニー・ウィーバー(ウィーヴァー)Siigourney Weaver、1949年ニューヨーク生れの66歳、40年のキャリアがあります。リドリー・スコット、ピーター・ウィアー、ジュームス・キャメロンなどに起用されている。一応代表作はシリーズ『エイリアン』のリプリー役、ゴールデン・グローブ賞助演女優賞の『ワーキング・ガール』(88、マイク・ニコルズ)、同主演女優賞(ドラマ部門)の『愛は霧のかなたに』(88)、ロマン・ポランスキーの『死と乙女』(94)、英国アカデミー助演女優賞『アイス・ストーム』(97、アン・リー)、J・キャメロンの『アバター』(09)など多数。

(リーアム・ニーソン、ルイス・マクドゥーガル、パトリック・ネスと一緒に)
★フアン・アントニオ・バヨナの「母子三部作」の最終編、「母子三部作」というのは、第1作『永遠のこどもたち』(07)と第2作『インポッシブル』(12)、本作が第3作になります。「これで母子三部作は終りにするつもりだ」と監督は語っています。公開は来年でしょうか。

ハビエル・バルデム*古典ホラー『フランケンシュタイン』のリブートに出演? ― 2016年07月25日 15:33
フランケンシュタイン博士、あるいはモンスター役?
★ショーン・ペンのアフリカ内戦もの『ザ・ラスト・フェイス』(“The Last Face”)が今年のカンヌ映画祭でワールド・プレミア、シャーリーズ・セロンと共演(公開が予定されている)、今年夏公開が予定されていた「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ第5弾は遅れて来年になる由、久々のスペイン語映画フェルナンド・レオン・デ・アラノアの“Escobar”(麻薬王パブロ・エスコバルのビオピック、妻ペネロペ・クルスと共演)、ダーレン・アロノフスキーの新作にジェニファーローレンスと出演、更にイランのアスガル・ファルハディの新作に夫婦で出演、来年夏にはスペインでのクランクインが予定されている。
★“Escobar”は、コロンビアのメデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバルの伝記映画。エスコバルの1980年代の愛人、元ジャーナリストのビルヒニア・バジェッホの同名回想録“Amando a Pablo, odiando a Escobar”(2007年刊)の映画化。バルデムがエスコバル、クルスが愛人ビルヒニアになります。

(ハビエル・バルデムとペネロペ・クルス)
★そして今回アナウンスされたのが、1930年代にユニバース・ピクチャーズが製作した一連のホラー映画の一つ『フランケンシュタイン』のリブート出演のニュースです。本作はイギリスのメアリー・シェリー(1797~1851)が、1818年に匿名で発表したゴシック小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を、1931年にジェイムズ・ホエールが映画化したもの(当時の女性作家は匿名)。ボリス・カーロフが扮した怪物の造形イメージが今日でもモンスター像として定着している。小説と映画の人物造形にはかなりの違いがあり、新作が原作重視か、あるいは映画重視かは分からない。そもそもバルデムがフランケンシュタイン博士になるのかモンスターになるのかさえ不明である。今後も紆余曲折がありそうです。製作は2019年と大分先になるようだ。

(ボリス・カーロフ、1931年映画版のフランケンシュタインの怪物)
★ジェイムズ・ホエールは1935年に『フランケンシュタインの花嫁』も監督しており、モンスターは同じくボリス・カーロフが扮した。こちらには原作者のメアリー・シェリーまで登場するというもので、ますます原作から離れてしまっている。新作「フランケンシュタイン」には、両作を合体させるのかもしれない。資金力はあっても企画力が乏しくなっているせいか、リブートだのリメイクだの新鮮味に欠けるニュースのご紹介です。
★新作は、昨年の夏以来、アレックス・カーツとクリス・モーガンを主軸に、ユニバース・ピクチャーズが「古典モンスター映画」のリブートを企画した第3作目に当たる。第1作は『ミイラ再生』(1932)の“The Mummy”、トム・クルーズが主役のタイラー・コルトに、ラッセル・クロウがジキル博士を演じた。このジキル博士役のオファーをバルデムが断ったと聞いている。2017年6月公開予定。第2作が『透明人間』(1933)、ジョニー・デップが主役を演じる。
*アスガル・ファルハディの新作の記事は、コチラ⇒2016年06月06日
アンヘラ・モリーナ*映画国民賞2016受賞のニュース ― 2016年07月28日 17:38
ブニュエルの気まぐれから『欲望のあいまいな対象』のヒロインに
★2016年映画国民賞*の受賞者がアンヘラ・モリーナとアナウンスされました。1955年10月5日マドリード生れの60歳、女優。映画、TV、舞台と活躍、2013年にスペイン映画アカデミーの「金のメダル」を受賞したばかりです。1987年に第1回が開催されたゴヤ賞は5回のノミネーションがあるだけで無冠、フランコ没後の民主主義移行期(1976~80)に活躍の中心があるせいかもしれない。

★初期作品では、ハイメ・カミーノの『1936年の長い休暇』(“Las largas vacaciones del 36”1976)、ほかマヌエル・グティエレス・アラゴンの『黒の軍団』(“Camada negra”)、ハイメ・デ・アルミニャンの“Nunca es tarde”、ルイス・ブニュエル の『欲望のあいまいな対象』(“Ese oscuro objeto del deseo”)、ハイメ・チャバリの“A un dios desconocido”、以上4作すべて1977年、スペイン映画史に残る作品です。なかでもM・グティエレス・アラゴンのお気に入りで、彼の代表作『森の中心』(79 “El corazón del bosque”フォトグラマス・デ・プラタ受賞)、『庭の惡魔』(82“Demonios en el jardín” フォトグラマス・デ・プラタ、ニューヨーク批評家賞、ACE賞など受賞)に出演している。映画祭上映なので若い方には見るチャンスがなかったと思います。公開された『天国の半分』(86“La mitad del cielo”)では、サンセバスチャン映画際の女優賞、フォトグラマス・デ・プラタを受賞しておりますが、ゴヤ賞はノミネートされただけでした。

(左モノクロ『庭の惡魔』、上『森の中心』、下『天国の半分』)
★M・グティエレス・アラゴンの『黒の軍団』の脚本と製作を担ったセ・ルイス・ボラウの“La Sabina”(79、フォトグラマス・デ・プラタ受賞)を懐かしむファンはシニアにかぎらない。音楽を担当したのがパコ・デ・ルシアでした(息子クーロ・サンチェスが撮ったドキュメンタリー『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』が現在公開中)。スウェーデンとの合作、アンダルシア地方の山中に住むというドラゴンの女性モンスター伝説をめぐるドラマ。スペイン俳優だけでなく、スウェーデンのハリエット・アンダーソン、イギリスのジョン・フィンチ、アメリカのキャロル・ケインと、吹替えながら国際色豊かなキャスト布陣も話題になった。

(二十代前半のアンヘラ・モリーナとジョン・フィンチ、“La Sabina”)
★「ブニュエル映画」に出演したスペイン女優は、彼の最後の作品となった『欲望のあいまいな対象』(仏西合作、1977)に出演したアンヘラ・モリーナだけかもしれない。そもそもブニュエルはスペイン単独の劇映画を1本も撮っていない。亡命する前に撮ったドキュメンタリー『糧なき土地』(32、27分)が唯一です。カンヌ映画祭グランプリ受賞の『ビリディアナ』(61)はメキシコとの合作、ペレス・ガルドスの短編の映画化『哀しみのトリスターナ』(70)は仏伊との合作、『欲望のあいまいな対象』出演も監督の気まぐれからだったという。ヒロインのコンチータ役をキャロル・ブーケとアンヘラが演じた。

(左から、L・ブニュエル、フェルナンド・レイ、A・モリーナ『欲望のあいまいな対象』)
★1980年代以降の作品では、映画祭上映後公開されたアルモドバル『抱擁のかけら』(09)、『ライブ・フレッシュ』(97)、パブロ・ベルヘル『ブランカニエベス』(12)、他にアルフレッド・アリアス『フエゴス』(86)、ハイメ・カミーノ『ベラスケスの女官たち』(88)、ハイメ・チャバリ『歌と踊りと恋のいざこざ』(89)、コロンビアのアリ・トリアナ『コロンビアのオイディプス』(96)、アルゼンチンのシーロ・カペラッリ『フラミンゴの季節』(97)、ラモン・サラサール『靴に恋して』(02)、エミリオ・エステベス『星の旅人たち』(10)、イタリア語が堪能なことからジュゼッペ・トルナトーレ『題名のない子守唄』(06)、『シチリアシチリア』(09)、またはリドリー・スコットの『1492 コロンブス』(92)など、スペイン語圏以外の監督からもオファーを受けている。いずれも原タイトルとはかけ離れた邦題が殆どで原題を辿るのに骨が折れる。
★私生活、歌手、俳優アントニオ・モリーナを父に8人兄弟姉妹の3番目、他の兄弟も俳優や音楽家として活躍している芸能一家。最初のフランス人写真家エルヴェHerve Timarche(1977~91)との間に3子、長女オリビアも女優、というわけでフランス語もできる。1995年再婚したカナダ系の企業家レオLeo Blakstadとの間に2子、合計5人の子持ち女優はスペインでも珍しい。5子目は47歳という高齢出産で周囲を驚かせた。長女オリビア・モリーナがヒロインになったホアキン・オリストレルの『地中海式 人生のレシピ』が公開されている。2012年、『ブランカニエベス』で祖母役を演じていた母親を、実人生でもおばあちゃんにしてしまった罪深い娘である。

(第5子を抱くアンヘラ・モリーナ、2003年4月)
★脇役を含めると3桁になる出演本数だが、その他演劇畑でも活躍、昨年、マグィ・ミロ演出の「シーザーとクレオパトラ」の熟年クレオパトラ役は、シーザー役のエミリオ・グティエレス・カバとの息もあって特に好評だった(若い頃はルシア・ヒメネスとマルシアル・アルバレス)。例年7月にメリダの野外ローマ劇場で開催される由緒ある演劇フェスティバルで上演された。他にカンヌやサンセバスチャン映画祭の審査員、ベルリン映画祭1999,マラガ映画祭2010ではコンペティション部門の審査委員長を務めた。白髪も皺も目立つようになったアンヘラだが、今回の映画国民賞受賞を機に一段の活躍を期待したい。

(クレオパトラを演じるアンヘラ・モリーナ、2015年7月)
★昨年の映画国民賞はフェルナンド・トゥルエバが「今さら頂いても・・・嬉しくない」と、受賞に難色を示した賞、今年のアンヘラ・モリーナはすんなりいきそうです。今回もトゥルエバほどではありませんが、「まだもらっていなかったのか」という感は拭えません。トゥルエバのケースでは、関係者も周囲もファンも受賞していると思っていました。オスカー賞監督(『ベルエポック』92)だし、スペイン映画界の貢献者でしたから。また“La niña de tus ojos”(1998、『美しき虜』DVD)は未公開でしたが、ゴヤ賞1999の作品賞、ペネロペ・クルスが主演女優賞、ミロスラブ・タボルスキーが新人男優賞、他に美術、衣装デザイン、メイクアップ&ヘアー、プロダクションの7賞を受賞した作品、前年に受賞してもおかしくなかった。
★新作となる『美しき虜』の続編“La reina de España”は、今年11月25日公開がアナウンスされました。9月下旬開催のサンセバスチャン映画祭には間に合わなかったのでしょうか。
*“La reina de España”の紹介記事は、コチラ⇒2016年2月28日
*映画国民賞 Premio Nacional de Cinematografia というのは1980年に始まった賞、まだ「ゴヤ賞」(1987年から)が始まっていない時期で、シネアストに与えられる賞としては唯一のものでした。国民賞は他に文学賞、美術賞、科学賞などと各分野に分かれています。選考するのは日本の文部科学省にあたる文化教育スポーツ省と映画部門ではICAA(Instituto de la Cinematografia y de las ArtesAudiovisuales)です。副賞の3万ユーロは多額というわけではありませんが、栄誉賞としてはゴヤ賞より上かもしれません。
第3回イベロアメリカ・プラチナ賞2016*結果発表 ― 2016年07月31日 17:03
『大河の抱擁』のモノクロ映像美の前にひれ伏した授賞式でした

★ベロアメリカ・プラチナ賞授賞式がウルグアイのプンタ・デル・エステで開催されました(7月24日)。「梅雨が明けたらプラチナ賞の結果発表」と思っていたのに忘れていました。梅雨明けが遅かったせいです(笑)。コロンビアのチロ・ゲーラの『大河の抱擁』が7賞とほぼ独占状態でした。もう少しバラけるかと予想しておりましたが、今回も前回同様1作品に集中する結果になりました(前回は『人生スイッチ』の8賞)。スペインはもともとノミネーションが少ないこともあってアニメーション賞だけでした。
★総合司会はサンティアゴ・セグラとアルゼンチンで活躍しているウルグアイのナタリア・オレイロ、ガラの総指揮ガラはアダル・ラモネス、ケーブルテレビを介して生中継の責任者を担いました。スペインからは候補者以外、プレゼンター役に選ばれているナタリア・デ・モリーナ、ゴヤ・トレド、エドゥアルド・ノリエガ、ウーゴ・シルバ、ペポン・ニエトなど若手も応援に馳せつけました。グアテマラからは、ハイロ・ブスタマンテの『火の山のマリア』がノミネートされていたせいか、ノーベル平和賞受賞者リゴベルタ・メンチュウが小柄な体に美しい民族衣装を纏って登壇、基本的人権の闘いを力強く呼びかけました。今ではスペイン語話者は23カ国で6億人に上るという。英語で撮る監督が増えたとはいえ、スペイン語映画の今後の躍進を祈りたい。

(左から、ナタリア・オレイロ、サンティアゴ・セグラ、アダル・ラモネス)
★各カテゴリーのノミネーションと結果(邦題『』は公開・映画祭上映作品、「」は仮題)
作品賞
◎"El Abrazo de la Serpiente" 『大河の抱擁』コロンビア、ベネズエラ、アルゼンチン
"El Clan" 「ザ・クラン」 アルゼンチン、スペイン
"El club" 『ザ・クラブ』 チリ
"Ixcanul" 『火の山のマリア』 グアテマラ
"Truman" 「トルーマン」 スペイン、アルゼンチン

(ガラに勢揃いした『大河の抱擁』のスタッフとキャストたち)
*アマゾン河沿いの村に暮らすコロンビア先住民たちが自然と対峙する姿が美しいモノクロ映像で語られた(ダビ・ガジェゴが撮影賞を受賞した)。その生き生きした、現代とは異なった哲学が受賞の決め手になったのではないでしょうか。
*作品紹介記事は、コチラ⇒2015年5月24日
監督賞
アロンソ・ルイスパラシオス Alonso Ruizpalacios "Güeros"『グエロス』(メキシコ)
セスク・ゲイ Cesc Gay 「トルーマン」
◎チロ・ゲーラ Ciro Guerra 『大河の抱擁』
パブロ・ララインPablo Larraín 『ザ・クラブ』
パブロ・トラペロ Pablo Trapero 「ザ・クラン」

(チロ・ゲーラ)
男優賞
アルフレッド・カストロAlfredo Castro 『ザ・クラブ』
ダミアン・アルカサルDamián Alcázar "Magallanes"(ペルー、アルゼンチン・コロンビア・西)監督:サルバドル・デル・ソラル
◎ギジェルモ・フランセージャGuillermo Francella 「ザ・クラン」
ハビエル・カマラJavier Cámara 「トルーマン」
リカルド・ダリンRicardo Darín 「トルーマン」

(ギジェルモ・フランセージャ)
*ギジェルモ・フランセージャは、『瞳の奥の秘密』でリカルド・ダリンの相棒役を演じたアルゼンチン人なら知らない人がいないという有名なコメディアン、ドロレス・フォンシが女優賞を受賞、リカルド・ダリンも「栄誉賞」を受賞しましたから、アルゼンチンは大喜びでしょう。「ザ・クラン」はベネチア映画祭2015銀獅子監督賞受賞作品、今秋の映画祭上映を期待したい作品。
*「ザ・クラン」の主な紹介記事は、コチラ⇒2015年8月7日
女優賞
アントニア・セヘルスAntonia Zegers 『ザ・クラブ』
◎ドロレス・フォンシDolores Fonzi『パウリーナ』(アルゼンチン、ブラジル、フランス)
監督:サンティアゴ・ミトレ
エレナ・アナヤ Elena Anaya "La memoria del agua"(チリ、アルゼンチン、西・独)
監督:マティアス・ビゼ
インマ・クエスタInma Cuesta
"La novia"(西・トルコ・独)監督:パウラ・オルティス
ペネロペ・クルスPenélope Cruz "Ma Ma"(スペイン) 監督:フリオ・メデム

(ドロレス・フォンシ)
*スペインの大女優たちを振り切って受賞、本作を機に結婚したサンティアゴ・ミトレ監督とハグして喜びをかみしめていた。
*ドロレス・フォンシと『パウリーナ』の主な紹介記事は、コチラ⇒2015年5月21日
オリジナル音楽賞
アルベルト・イグレシアス Alberto
Iglesias "Ma Ma"
フェデリコ・フシド Federico Jusid
"Magallanes"
ルカス・ビダル Lucas Vidal "Nadie
quiere la noche" 監督:イサベル・コイシェ
◎ナスクイ・リナレス Nascuy Linares 『大河の抱擁』
パスクアル・レイジェス Pascual
Reyes『火の山のマリア』監督:ハイロ・ブスタマンテ
ドキュメンタリー
"Allende mi abuelo Allende"(チリ、メキシコ)『アジェンデ』
監督:マルシア・タンブッティ・アジェンデ
"Chicas nuevas 24 horas"(西、アルゼンチン、パラグアイ、コロンビア、ペルー)
監督:マベル・ロサノ
◎"El botón de nácar" 『真珠のボタン』(チリ・仏・西) 監督:パトリシオ・グスマン
"La Once"(チリ)監督:マイテ・アルベルディ
"The Propaganda Game" (スペイン)監督:アルバロ・ロンゴリア

(パトリシオ・グスマンの 『真珠のボタン』)
脚本賞
セスク・ゲイ、トマス・アラガイ Tomás
Aragay 「トルーマン」
チロ・ゲーラ、ジャック・トゥーレモンド Jacques Toulemonde 『大河の抱擁』
ハイロ・ブスタマンテ Jayro Bustamante 『火の山のマリア』"
◎パブロ・ラライン、ギジェルモ・カルデロンGuillermo Calderón他 『ザ・クラブ』
サルバドル・デル・ソラルSalvador
Del Solar
"Magallanes"
撮影賞
アルナルド・ロドリゲス Arnaldo Rodríguez "La memoria
del agua"
◎ダビ・ガジェゴ David Gallego 『大河の抱擁』
ルイス・アルマンド・アルテアガ Luis Armando Arteaga 『火の山のマリア』
ミゲル・アンヘル・アモエド Miguel Ángel Amoedo "La novia"
セルヒオ・アームストロング Sergio Armstrong 『ザ・クラブ』
初監督作品賞
"600 millas"(メキシコ) 監督:ガブリエル・リプスティン
"El desconocido"(スペイン)『暴走車 ランナウェイ・カー』 監督:ダニ・デ・ラ・トーレ
"El patrón: Radiografía de un crimen"(アルゼンチン、ベネズエラ)
監督:セバスティアン・シンデルSchindel
◎『火の山のマリア』 監督:ハイロ・ブスタマンテ
"Magallanes" 監督:サルバドル・デル・ソラル

(スタッフとキャスト、トロフィーを掲げているのがブスタマンテ監督)
*『火の山のマリア』とハイロ・ブスタマンテ紹介記事は、コチラ⇒2015年8月28日/10月25日
★その他、ノミネーションをアップしなかったカテゴリーの受賞者
美術賞:アンへリカ・ペレア 『大河の抱擁』
編集賞:エティエンヌ・Boussac & クリスティナ・ガジェゴ 『大河の抱擁』
録音賞:カルロス・ガルシア&マルコ・サラベリア 『大河の抱擁』
アニメーション賞:“Atrapa la bandera” エンリケ・ガト(スペイン)
◎Cine en valores価値ある映画:“Una segunda madre”Anna Muylaert(ブラジル、ポルトガル語)
*アナ・ムイラエルト(またはミュイラート?)は、1964年サンパウロ生れの女優、脚本家、監督。サンダンス映画祭2015でワールド・プレミア、英題“The second Mather”、つづくベルリン映画祭「パノラマ」部門出品、Männer Magazine Readers審査員賞を受賞している(男性雑誌でしょうか)。プレゼンターはリゴベルタ・メンチュウでした。

(左側の横向きが監督、リゴベルタ・メンチュウ)
栄誉賞
リカルド・ダリン(1957年ブエノスアイレス、俳優・監督)、ここ30年間のスペイン語映画でもっとも活躍している俳優の一人、人徳、才能、カリスマ性の三拍子が揃っている。特にセスク・ゲイの「トルーマン」(2015)でサンセバスチャン映画祭男優金貝賞、ゴヤ賞主演男優賞を受賞して、タイミング的によかった。プラチナ賞は友人のギジェルモ・フランセージャが受賞したが、ダリン的には満足だったのではないでしょうか。受賞の弁は「映画のお陰でより良い人生が送れています」、俳優だった両親と11歳で舞台デビューした少年も、来年は還暦を迎えます。大資本を駆使するハリウッド支配に対抗してイベロアメリカ映画に貢献していることが評価された。私生活では1988年フロレンシア・バスと結婚、今もってラブラブはこのギョウカイでは珍しい。1男1女があり、長男リカルド・(チノ)・ダリンも俳優、共演している。

(リカルド・ダリン)
★第4回イベロアメリカ・プラチナ賞2017のマドリード開催がアナウンスされました。開催日は6月か7月になる模様。マドリード市が100万ユーロを拠出する。現在のマドリード市長は反フランコ体制の闘士と言われたマヌエラ・カルメナ(アオラ・マドリードAhora Madrid党)氏、2015年6月に就任した。市長の右腕と言われるルイス・クエト氏がウルグアイ入りして映画祭のノウハウを見て回ったとか。「いい体験ができた」とプレスのインタビューに答えていました。未だスペインは2回の総選挙にもかかわらず組閣ができておりませんので、社労党からも国民党からも資金提供は望めません。というわけでマドリード市が一肌脱ぐことになったようです。
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