ゴヤ賞2013 予想と結果②2013年08月18日 13:47

主演男優賞:迷うことなくホセ・サクリスタンを予想、的中しました。ハビエル・レボージョの第3作目“El muerto y ser feliz”は、これ以外ノミネートなしで個人的に大いに不満が残りました。いかに上記の4作に偏っていたかが分かります。2012年のサンセバスチャン映画祭コンペのスペイン代表作品の一つ。彼は2度目の銀貝賞男優賞を受賞、1回目はペドロ・オレアの“Un homble llamado Flor de Otono”(1978)の女装役でした。シラノ・ド・ベルジュラックのようなあの鼻でと言うなかれ。1月末に開催されたフォルケ賞でも男優賞、ただし本作でなくダビド・トゥルエバ(フェルナンドの弟)の“Madrid 1987”(2011)の老ジャーナリスト役のほうでした(2012年4月公開ということで対象作品)。

彼は2005年以来スクリーンから姿を消しており、本作が映画界復帰第1作でした。常に映画と舞台の二足の草鞋人生ですが、もともとの出発は舞台、ここ6年ほどは“Un Picasso”や“Yo soy Don Quijotea de la Mancha”の当り役で舞台に専念していたのでした。またアルゼンチンで最高の映画賞といわれる「銀のコンドル賞」で助演男優賞(“Un lugar en el mundo”1993)、2012年にはコンドル栄誉賞まで受賞しています。

さて、ゴヤ賞歴は第1回ゴヤ賞の“El viaje a ninguna parte”(1986)主演男優賞ノミネートが1回あるだけです(調べてビックリ)。この作品はフェルナンド・フェルナン・ゴメスが作品賞・監督賞・脚本賞を受賞し、更に別作品で主演男優賞までさらってしまい、第1回授賞式は彼のために開催されたようなものでした。半世紀にも及ぶ役者人生、名脇役の誉れ高いサクリスタンにしては信じ難い少なさです。もっとも彼の代表作の一つに挙げられるマリオ・カムスの『蜂の巣』(1982「スペイン新作映画‘85」上映)は、まだゴヤ賞などなかった頃の作品です。レボージョの新作では病いで余命幾ばくもない雇われ殺し屋を飄々と演じています。舞台はアルゼンチンのブエノスアイレス→ロサリオ→サンタフェ→ツクマン→サルタと愛車で北上、ボリビアに至る5000キロに及ぶウエスタン風ロードムーヴィであり、死出の旅であり、しかし紛れもなくジャンルはコメディなのでした。

1937年マドリッドはチンチョン生れ、半分はアルゼンチンは南米のスイスと言われるバリロチェの人。古くからの映画仲間は大方が鬼籍入りしており、貴重な存在になっています。レボージョ監督が頭に描く映画は、ハイメ・ロサーレスのように傍流かもしれません。しかし独創性に富んだ注目の監督です。今年のラテンビートに期待してますが。

主演女優賞:やはりマリベル・ベルドゥが強いと予想、その通りになりました。フォルケ賞もライバルの白雪姫役マカレナ・ガルシアと熟女カルミナ・バリオスを抑えて彼女の手に(二人については新人女優賞の項目で)。マリベルは昨年パウラ・オルティスの“De ventana a la mia”で助演女優賞にノミネートされたばかり。主演女優賞ノミネートは今回で7回目、うちグラシア・ケレヘタの“Siete mesas de billar frances”(2007)で受賞しています。日本公開の映画も多く、フェルナンド・トゥルエバの『ベル・エポック』(1992)、アルフォンソ・キュアロンの『天国の口、終りの楽園』(2001)、デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(2006、ゴヤ主演ノミネート)ではメキシコのアカデミー賞と言われるアリエル女優賞を貰っています。1971年マドリード生れ、13歳でテレビ初出演、映画はモンチョ・アルメンダリスの“27 horas”(1986)でデビュー。既に出演本数76本にも驚くが、ノミネート数の割には受賞は少ない印象です。

賞こそ逃しましたが一番の好敵手だったのがハリウッド・スターのナオミ・ワッツ、その迫真の演技と役者根性には感動いたしました。バヨナ監督は主役に彼女を想定してシナリオ作りをしたが、水浸しの連続シーンに女優生命にかかわるようなメイク、果たしてウンと言ってくれるか自信がなかった由。ところが一発でOKしてくれた。オリジナル版言語は英語だし、バヨナ監督自身も海外の映画祭では「私の国籍はスペイン、これはスペイン映画です」と言っても、なかなか納得してもらえなかったそうです。

「もうguapa役には飽きた」という“Volver a nacer”のペネロペ・クルス、今後が期待される“El artista y la modelo”のモデル役アイーダ・フォルチの二人については、いずれ映画が公開された折りに触れることに致します。

助演男優賞:ダニエル・カルパルソロ監督の“Invasor”でノミネートされたアントニオ・デ・ラ・トーレに取って欲しかったが、彼自身主演男優賞ノミネートの“Grupo7”のフリアン・ビリャグランの手に。主演男優賞に続いてこちらも涙を飲む結果になり、ちょっと意外な展開でした。“Invasor”はフェルナンド・マリアスの同名小説の映画化。『インベーダー』の邦題で2014年全国ロードショー(配給:ブロードメディア・スタジオ)。
デ・ラ・トーレの出演本数は脇役が多いとはいえ88本と物凄い。名無しの新聞記者、トラック運転手、タクシー運転手、パーキング店員などなど、彼と気づかずに何度も目にしているようです。アルモドバルの『ボルベール』(2006)でペネロペの夫になり義理の娘に早々と殺されてしまう役者といっても「えっ?」となる。ダニエル・サンチェス・アルバロの『漆黒のような深い青』(06「ラテンビート‘07」上映)あたりでやっと顔を覚えてもらえた。その後の快進撃はもう書く必要ありません。カメレオン俳優の代表格。

助演女優賞:これは混線が予想されました。誰が取ってもおかしくない顔ぶれでしたから。カンデラ・ペーニャがセスク・ガイの“Una pistola en cada mano”で唯一ノミネートされた。ノミネートが「これきりとはアンマリだ」と外野席からはブーイングしきりでしたが、結局彼女の手に渡りました。セスク・ガイは、かつてのシネフィル・イマジカ(イマジカBSに変更)で「ニコとダニの夏」の邦題で放映された“Krampack”(2000)、“En la ciudad”(2003)など緻密なストーリーや場面展開が見事な監督。
新作も6つのエピソードで構成された群集劇、ペーニャの他、スバラグリア、エドゥアルド・フェルナンデス、ハビエル・カマラ、ノリエガ、トサール、ダリン、ワトリング、カエタナ・ギジェン・クエルボ等など名前を列挙するだけで、中年にさしかかった人気演技派たちが網羅されてしまいます。中で際立っているのがカンデラ・ペーニャというわけです。彼女はゴヤ賞に限ってもボジャインの『テイク・マイ・アイズ』(2003、助演)とフェルナンド・レオンの“Princesas”(2005、主演)で2度受賞しています。衝撃デビュー作、イマノル・ウリベの『時間切れの愛』(1994)で新人と助演に同時ノミネート、これは異例のことでした。

ライバルは“El artista y la modelo”のチュス・ランプレアベ、トゥルエバやアルモドバルに愛され、コンチャ・ベラスコに先を越されましたが栄誉賞に選ばれてもおかしくないベテラン、その存在感は揺るぎない。脇役に徹しゴヤ賞はオール助演で受賞が『ベル・エポック』(1992)、ノミネート4回。
次が“Blancanieves”の祖母役アンヘラ・モリーナ、映画だけでなく昨年8月末にお孫さんが誕生した。ゴヤ賞は主演助演含めて4回のノミネートがあるだけで「まさか」と驚いている。海外での活躍が背景にあるのかもしれない。ベルヘル監督の“Torremolinos 73”を見て以来、彼の映画に出たかったそうです。歌手アントニオ・モリーナの長女、1955年マドリッド生れ。 
最後がパコ・レオンの“Carmina o revienta”のマリア・レオン、昨年ベニト・サンブラノの“La voz dormida”(2011)で新人女優賞に輝く。御年59歳で「新人」女優賞にノミネートのカルミナ・バリオスは実母、新人監督賞ノミネートのパコ・レオンが兄、親子トリプル受賞は夢に終わりました。                          
                     
新人監督賞:アニメ“Las aventuras de Tadeo Jones”のエンリケ・ガトとコメディ“Carmina o revienta”のパコ・レオンの一騎打ちになると予測しました。前者エンリケ・ガトは予告編を見ただけでもワクワクする(時に面白いのは予告編だけということもあるが)。スペイン公開17週の興行成績が1800万ユーロ(製作費500万ユーロを楽々回収できた)、観客動員数200万人もハンパじゃない。ディズニーの二番煎じや子供にせがまれて大人がしぶしぶ付き添う数字ではない。アニメも子供騙しでは通用しなくなったのですね。結果はエンリケ・ガトが受賞しました。本作は長編アニメーション部門、脚色賞、作曲賞、歌曲賞などにノミネート、長編アニメと脚色の2部門で受賞しました。初めて中国で公開されるスペイン映画だそうで、中国向けコピーを約2000部(!)製作、人口14億人の大国ですからね。日本上陸も期待したい。1977年バリャドリード生れ、若いね。

後者のパコ・レオン、この人の才能もハンパじゃない。「カルミナ」というのは母親の実名、これがモウレツに傑作なお母さんなのです。息子パコと娘マリアが誇りにしている母親のために作った映画だそうで実話とフィクションが半々。アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』がラ・マンチャ版なら、こちらはセビーリャ版というところ。監督、脚本、出演、製作費4万ユーロも自前で調達、親子3人が中心になって作った家族映画だそうです。マラガ映画祭のグランプリ受賞作品、7月公開以来実に楽しい話題を提供しつづけています。パコ自身は監督というより長寿テレドラ・シリーズ“Aida”のカリスマ的な主人公Luisma Garcia Garcia役、その他で認知度バツグン。1974年セビーリャ生れ。「ようこそ、ミスター・パコ・レオン!」
今秋カルミナ第2弾として“CarminaⅡ”(多分このタイトルになる由)の撮影がセビーリャを舞台に始まるようです。前作よりコメディ仕立てながらずっとシリアス、つまりフィクション性が強いということでしょうか。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://aribaba39.asablo.jp/blog/2013/08/18/6950181/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。