ゴヤ賞2013 予想と結果③2013年08月18日 13:50

新人男優賞:これは見当つかない。そうは言っても『インポッシブル』で三人兄弟の長男役を演じたトム・ホランドは選ばれないか。イギリスの舞台子役として活躍しているせいかその演技力に感心したが、今後に期待したい。予告編しか見ていないパトリシア・フェレイラの“Els nens salvatges”(Los ninos salvajes)の主人公アレックス・モネールは、先だって開催された第5回ガウディ賞で最優秀男優賞を受賞した。エミリオ・ガビラ(“Blancanieves”)の出発はバリトン歌手。日本でも公開されたハビエル・フェセルの『モルタデロとフィレモン』やラテンビート上映の『カミーノ』などに脇役出演、今ではテレビに舞台にと忙しい。1964年生れの経験豊富な「新人」というわけです。最後がホアキン・ヌニェス(“Grupo 7”)、本作が認められて人気テレドラ・シリーズ“Aida”にも出演。この二人のどちらかになると予想しましたが、ホアキン・ヌニェスがゲットしました。

新人女優賞:カルミナ・バリオス(“Carmina o revienta”)かマカレナ・ガルシア(“Blancanieves”)のどちらかが受賞しますと宣言しました。二人はマリベル・ベルドゥとフォルケ賞を争いましたが、マリベルに軍杯が上がったことは先述しました。7歳のときから喫煙しているというカルミナ・バリオスは、もう実物をYouTubeで見て頂くのが一番いい。誇りに思う息子と娘のために出演を承諾したと語る。演技でなく地でやってるんでしょと言われるが「自分自身を演じるのは結構難しいもんですよ、まだ出演料を貰ってないの」と(笑)。フォルケ賞授賞式に親子3人揃って出席、司会者から「カルミナ、タバコ15分ぐらい我慢できる?」と聞かれて、「大丈夫よ」とにっこり。マラガ映画祭で最優秀女優賞を貰った時には感極まって大泣きしたとか。ゴヤ賞でも再び見られるかと予想しましたがライバルの白雪姫に渡ってしまいました。1954年セビーリャはトリアナ地区の生れ、59歳の新人にしては大変な貫禄です(笑)。

マカレナ・ガルシア、またしてもスター誕生です。本作が映画デビュー、テレビ出演も2010年からというから女優歴は3年足らず。しかしサンセバスチャン映画祭の銀貝賞女優賞に選ばれるという文字通りのシンデレラ・ガール。フォルケ賞は逃しましたが欲しかったのはコチラでした。1988年生れのマドリっ子。今年6月に、’Premio Un Futuro de Cine’ という若い俳優に与えられる賞を受賞しました。その短い経歴にもかかわらず審査員たちの惜しみない賞讃を受けたようです。いずれラテンビート上映、劇場公開などのタイミングを見計らってアップしたい。

長編ドキュメンタリー賞:例年片隅に追いやられがちなセクションですが、今年は個人的に気になる作品があるので触れました。昨年からノミネートが確実視されていたのがエリアス・レオン・シミニアニの“Mapa”。彼は数々の受賞歴もある短編を手掛けており、昨年も“El premio”(2010)が短編ドキュメンタリー賞にノミネートされました。初の長編となる本作は既に「セビーリャ・ヨーロッパ映画祭‘12」でベスト・ドキュメンタリー賞、タラゴナ映画祭でもデビュー作に贈られるオペラ・プリマ賞を受賞しています。
最近4年間の自分自身の日常を語ったもので文学で使用される新語オートフィクションのジャンルにあたります。「厳密な事実をもとにした虚構」とでも言えばいいでしょうか。彼によればパワー・ポップの分野で活躍しているシンガーソングライターの「マシュー・スウィートの“Walk out”が映画の真意」とか。‘When you look into a mirror’という歌詞で始まるところから鏡がキイポイント、そしてつまらなかったら途中退場もオーケーなんでしょう。じゃあ、自作自演のフィクションですか?「いいえ、ここで語られていることは100%現実です」ときっぱり。オリジナル・メーキングをYouTubeで覗くなら一目瞭然、そのユニークさに飲み込まれます。
1971年サンタンデール生れのカンタブリアっ子、ムルシアで文献学を学んだ後、フルブライト奨学金を得てコロンビア大学でも学んだ。日本で紹介されているイサキ・ラクエスタとかダニエル・サンチェス・アレバロなど一癖も二癖もある監督が仲間。後者は本作の製作者の一人でもあり出演者でもある。

受賞したのは、まったく対照的な社会派ドキュメンタリーアルバロ・ロンゴリアの“Hijos de las nubes, La ultima colonia”でした。ハビエル・バルデムを道案内人にしてヨーロッパの国々から見捨てられた西サハラ砂漠の人々の苦しみを描いたもの。2012年ベルリン映画祭がプレミア、マラガ上映作品。重いテーマ、エモーショナルな映像は魅力的。他にハビエルの兄カルロス・バルデム、エレナ・アナヤなど出演しています。サプライズはその道案内人ハビエルがロンゴリア応援に授賞式に馳せつけたことでした。1968年サンタンデール生れ。初監督作品だが製作者歴は長く、公開作品では『チェ28歳の革命』『チェ38歳別れの手紙』、『セブン・デイズ・イン・ハバナ』などに携わっています。地味ながら本作も日本公開が決定しています(配給:コムストック・グループ)。

イベロアメリカ映画賞:大外れだったのがこの部門、まさかこのキューバ作品“Juan de los muertos”(2011)が受賞するとは思わなかった。製作年も1年前だからノミネート自体にビックリしたほど。ラテンビート2012で『ゾンビ革命フアン・オブ・ザ・デッド』の邦題で早々と上映、公開もされました。ホラー・コメディですが、ゾンビとは誰のことかと考えて切なかった観客もいたのではないか。ゾンビ映画大好き人間アレハンドロ・ブルゲス監督によると、皆がゾンビになりたがって、ゾンビ学校でそれらしい歩き方を猛練習した(笑)。さぞかしメイクアップに長時間かかって撮影は大わらわだったでしょう。フアン役には最初からアレクシス・ディアス・デ・ビジェガスを念頭において脚本を書き、ドン・キホーテにはサンチョ・パンサが必要と友人ラサロにホルヘ・モリナを抜擢したとか。『ドン・キホーテ』キューバ版でもあるのかな。1976年ブエノスアイレス生れのボリビア系キューバ人。脚本家として出発、こちらには映画祭上映の作品もあるが、監督としては“Personal belongings”(2006)が『恋人たちのハバナ』の邦題でキューバ映画祭2009で上映されました。本作が2作目になる。

本命はパラグアイの“7 cajas”が貰うと予想しましたが空振り三振でした。社会から疎外された少年グループが複雑な闇社会に翻弄されるスリラー。フアン・カルロス・Maneglia(マネグリア?)とタナ・Schembori(シェンボリ?)という二人の監督が撮った。2011年サンセバスチャンの「Cine en Construccion賞」という新人監督に与えられる賞をもらい、翌年の同映画祭で「Euskatel de la Juventud賞」(ユース賞)を獲得した話題作。今年27回目を迎えるゴヤ賞でもパラグアイ作品ノミネートは初めてのことでした。軍事独裁制(1959~84)が長く続いたパラグアイでは映画はまだ黎明期を迎えたばかり、本国での盛り上がりも頷けます。資金集めは言わずもがな、キャスト陣も初出演がほとんどだから演技指導もゼロから始め忍耐の日々だったとか。モントリオール(カナダ)、マル・デル・プラタ(アルゼンチン)などの各映画祭で上映、パルマ・スプリング国際映画祭(カリフォルニア)New Visionsセクションで特別賞を受賞しました(賞金5000$)。
フアン・カルロス・マネグリアは1966年首都アスンシオン生れ、タナ・シェンボリは1970年同アスンシオン生れ。1990年代にテレビのミニシリーズでコンビを組んだのがコラボの始まり。予告編、メーキングがネットで見られますが、公開が待たれる作品。(苗字の表記がはっきりしないが、一応サンセバスチャン授賞式での司会者に従った。)

ゴヤ賞常連国から選ばれたベンハミン・アビラの“Infancia clandestina”(アルゼンチン他)、マイケル・フランコの“Despues de Lucia”(メキシコ他)、ともにサンセバスチャンで上映された力作。特に前者はHorizontes Latinos部門のオープニング作品。同映画祭での評価も高かったし、観客の反応もよかった。個人的には後者のほうが気に入っているが、いずれご紹介する機会を作りたい。

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