アルベルト・セラの「Tardes de soledad」*サンセバスチャン映画祭2024 ⑥ ― 2024年08月04日 16:27
アルベルト・セラの「Tardes de soledad」―セクション・オフィシアル④
★セクション・オフィシアルの4作目は、アルベルト・セラ(カタルーニャ州バニョラス1975)のドキュメンタリー「Tardes de soledad」、連想ゲーム風にいうとセラといえばカンヌですが、今回初めてサンセバスチャンのコンペティション部門にノミネートされました。スペイン、フランス、ポルトガル合作、言語はスペイン語です。監督キャリア&フィルモグラフィーと、デビュー作以来セラ監督とタッグを組んでいる女優でプロデューサーを務めるモンセ・トリオラの紹介は、東京国際映画祭2022ワールド・フォーカス部門で『パシフィクション』(原題「Tourment sur les iles」)がエントリーされた折にアップしております。ミニ映画祭、特別上映会で一部のファンは字幕入りで鑑賞できましたが、劇場公開は『ルイ14世の死』(16)1作である。
*『パシフィクション』の作品&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2022年10月13日
(アルベルト・セラ監督)
★セクション・オフィシアルは初登場ですが、メイド・イン・スペイン部門には『騎士の名誉』(06)、『鳥の歌』(08)、前作『パシフィクション』が上映されている。言語がカタルーニャ語だったり、フランス語あるいはドイツ語、イタリア語、英語、ヘブライ語だったりするので、スペイン語オンリーの話者には取っつきにくい。本作はスペイン語のうえ、闘牛がテーマということが幸いしたのかもしれない。スペインを含むヨーロッパやラテンアメリカ諸国で活躍する、ペルー出身の闘牛士アンドレス・ロカ・レイが、闘牛場の砂場の中で体験する、心理的精神的な葛藤を描いている。闘牛の精神的な痛み、神聖な儀式である闘牛の複雑な美学を追求するドキュメンタリー。
「Tardes de soledad」
製作:Andergraun Films / Arte France Cinéma / Idéale Audience /
LaCiima Producciones 協賛ICEC / ICAA
監督・脚本:アルベルト・セラ
撮影:アルトゥール・トルト
編集:アルベルト・セラ、アルトゥール・トルト、
録音:ジョルディ・リバス
衣装デザイン:パウ・アウリAuli
製作者:アルベルト・セラ、モンセ・トリオラ、ルイス・フェロン、ペドロ・パラシオス、リカルド・サレス、ピエール≂オリヴィエ・バルデ、ヨアキム・サピーニョ
データ:製作国スペイン=フランス=ポルトガル、2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、120分、撮影地セビーリャ、2023年夏クランクイン
映画祭・受賞歴:第72回サンセバスチャン2024セクション・オフィシアル
キャスト:アンドレス・ロカ・レイ、パブロ・アグアド
解説:闘牛士アンドレス・ロカ・レイの、闘牛用の光の衣装着用から闘牛が終わり衣装を脱ぐまでの或る1日が描かれている。複雑な闘牛の美的な部分に取りくむドキュメンタリーであり、監督はその表現力と可塑的な洗練さを目指そうとしている。同様に、個人的な義務として雄牛に対峙するリスクを負う闘牛士の視点からも描こうとしている。それは伝統への敬意からだが、何よりも人間がもつ平静さと合理性、野生の野蛮な動物の残忍さ、この二つの出会いから生じる、儚い美のかたちを作り出す美的挑戦である。どのような理想に導かれて、この危険で不必要と思われる闘いを追求する人がいるのか。ほかのあらゆる物より優先し、何度も危険を冒してまで挑戦する精神性とはどのようなものか、が語られるだろう。
★制作会社の製作意図によると以上のような概要になりますが、なかなか難しそうです。キャスト欄にはアンドレス・ロカ・レイとパブロ・アグアドしかクレジットされていませんが、闘牛は3人の闘牛士で構成されるので、もう一人登場するのかもしれません。
(撮影中のセラ監督)
★アンドレス・ロカ・レイは1996年ペルーのリマ生れ、父方の曽祖父の時代から闘牛に関わっている家柄で、兄フェルナンド、叔父ホセ・アントニオも闘牛士だった。2011年スペインのバダホスの闘牛学校に入学するため海をわたった。2013年見習い闘牛士ノビジェーロnovilleroとしてスペインでデビュー、2014年からはフランス、コロンビア、ペルーでも闘い、2015年フランスのニームで正闘牛士への昇進式であるオルタナティブがあり、先輩闘牛士エンリケ・ポンセによってムレータと剣が授けられ、金の刺繍で被われた光る衣装を着ることが許された。立会人はフアン・バウティスタでした。ロカ・レイの闘牛スタイルは堅実さ、節度をわきまえたセンス、勇気と献身的な闘牛で知られ、短期間に闘牛界の中心人物になっている。
★パブロ・アグアドは、1991年セビーリャ生れ、セビーリャ大学で経営学の学士号を取得している異色の闘牛士です。ロカ・レイより5歳年長ですが、正闘牛士になったのは2017年9月でした。セビーリャのマエストランサ闘牛場、ロカ・ルイと同じエンリケ・ポンセがムレータと剣を授け、立会人はアレハンドロ・タラバンテでした。アグアドの闘牛スタイルは、その自然さ、誠実さ、セビーリャ派の伝統に沿ったクラシカルな闘牛で際立っているということです。
★スタッフ紹介:撮影監督、フィルム編集者アルトゥール・トルトは、セラ監督とは10年来タッグを組んでいる。例えば『パシフィクション』、『リベルテ』、『ルイ14世の死』(編集のみ)、監督の初期の短編「Els tres porquets」(12)、「Cuba libre」(13)、中編「Roi Soleil」(18)の撮影を手掛けている。『パシフィクション』でガウディ賞、フランスのセザール賞、ルミエール賞、国際オンラインシネマ賞などで撮影賞を受賞している。衣装デザイナーのパウ・アウリは、1992年マジョルカ島生れ、アグスティ・ビリャロンガの遺作「Loli tormenta」、「El ventre del mar」(22)を担当している。今回エグゼクティブ・プロデューサーも務めたモンセ・トリオラは、制作会社「Andergraun Films」の代表者である。
(アルトゥール・トルト撮影監督)
★監督フィルモグラフィーは、上記したように『パシフィクション』での紹介に譲りますが、一応長編映画だけ時系列にアップしておきます。日本では『騎士の名誉』をデビュー作と紹介する記事が多いのですが、当ブログではスペイン語版ウイキペディアを参考にして作成しました。
2003年「Crespia」ミュージカル、長編デビュー作
2006年「Honor de cavalleria」『騎士の名誉』カンヌFF併催の「監督週間」プレミア
2008年「El cant dels ocells」『鳥の歌』同上
2011年「El senyor ha fet en mi meravelles」『主はその力をあらわせり』
ドキュメンタリー
2013年「Historia de la meva mort」『私の死の物語』ロカルノFF金の豹賞
2016年「La mort de Louis XIV」『ルイ14世の死』カンヌFF特別招待作品
2019年「Liberte」『リベルテ』カンヌFF「ある視点」審査員特別賞
2022年「Tourment sur les iles / Pacifiction」『パシフィクション』
カンヌFFコンペティション部門
2024年「Tardes de soledad」(仮題「孤独の午後」)SSIFFセクション・オフィシアル
(中央が監督、右モンセ・トリオラ、SSIFF2024ノミネート発表)
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