ラテンビート2014*あれやこれや ④2014年11月03日 15:07

★劇場公開に一番近いポジションを占めているのが、映画祭の目玉だったダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』です。しかし2009年の「スペイン映画祭」上映の前作『第211号監房』(“Celda 211”)は、スペイン・サイドでは日本公開がアナウンスされていたにもかかわらずポシャってしまった経緯がある。DVD化こそされましたが、なんと邦題が『プリズン211』、タイトルは自由に付けていい決まりですけどアンマリです。

 

 

     サスペンスが120分を超えると・・・

 

: 残念ながら、やはりホルヘ・ゲリカエチェバリアは来日しませんでした。

: アレックス・デ・ラ・イグレシアが来日なら一緒に来るんじゃないかと思っていましたが。

: 公開が決まっていて、モンソンが一緒ならプロモーションを兼ねて来たでしょう。それにしても本映画祭のゲストの少なさは課題の一つですね。

: スポンサーが充実している東京国際映画祭のようにはいきません。作品で勝負するしかなさそうです。

 

: さて既に、キャスト並びに監督以下スタッフを紹介しているので書くことないかなと思っていましたが(LB2014 920)、中だるみ気になって思い直しました。軽快な滑り出しにヨシヨシと身を乗り出し、これは<監房>より面白くなりそうだとワクワクしましたが、136分が長かった。

: 前作は110分、最近は2時間超える作品が少なく、特にサスペンスが120分を超えるとキツイ。主人公エル・ニーニョとムスリムの仲間ハリルの姉、麻薬の運び屋を引き受けたアミナとの愛の物語が長すぎたんじゃないですか。

: 前にも書いたことですが、「モデルは存在するが実話ではない」から愛の物語も結構です。しかし、「20年前30年前の話ではなく、現在日常的に起こっている」事件という触れ込みが途端に嘘っぽくなってしまった。前作でも感じたことですが、モンソンもゲリカエチェバリアもラブストーリーは得意じゃなさそうです。

: しかし、前作より幅広い層に受け入れられたのは、「女性を感激させるエモーショナルなスリラーだから」と監督は分析していますよ()

 

: へえ、そうですか、女性も千差万別だから。ヘスス・カストロは突然スカウトされて出演したわけで、勿論演技を学んでいたわけではない。撮影当時二十歳そこそこだったことを考慮すれば仕方ないかもしれないが、アクション・シーンの格好良さとの落差がありすぎました。

: 出演が決まってからは大車輪でランチや水上バイクの運転練習、アクション・シーンの演技指導とシゴかれ、愛の指導は時間切れだったのではないの。

: これはアクション好きの若者をターゲットに製作されたのだから、そういう意味では興行的にも大成功、観客層が女性にも広がったのはオマケかもしれない。

 

                         

                      (若者三人組、エル・コンピ、ハリル、エル・ニーニョ)

: ルイス・トサール扮するヘススとバルバラ・レニー扮するエバの関係もヤキモキさせた。ただの相棒じゃなさそうです。

: こちらは抑制型、犯人に勘づかれないよう恋人を装って腕を組んで追跡するシーンが切ない()。相手にはバレバレなんですが。それでニセの情報をつかませられ、国家に大損害を与えてしまう。

: 凄いシーンでした。本当の冷凍魚を切り刻んだのでしょうね。もう一つの愛がエル・ニーニョの仲間エル・コンピとアンダルシア娘のマリフェ、父親の職業が警官なのには笑えました。モンソン映画はコメディ部分が結構楽しい。

 

     度肝を抜く首なし死体が風に吹かれてゆらゆら

 

: 伏線として、首なし死体が橋の欄干に吊るされるシーンが出てくる。次に吊るされるのは誰だろうか。かなりシュールな映像です。

: こういう制裁の仕方は事実としてあるのでしょうか。裏切り者というより麻薬取引に失敗して組織に損害を与えた人ですね。命がけなのは、密売者、取締官の双方にある。

: 組織を危うくした者には「見せしめの制裁」を加える、これがオキテなんでしょう。

 

: いいところまで犯人を追いつめるが、あと一歩で逃げられる理由は、警察内部に裏切り者がいるというのがイロハです。仲間を疑うわけだから疑心暗鬼になる。

: まず警察腐敗は上司を疑えが定番、『L.A. コンフィデンシャル』でも『ダーティ・ハリー』でも、汚い裏切り者は上司だったからね。

: 上司役セルジ・ロペスは、『パンズ・ラビリンス』の憎きビダル大尉になった人、強面だから冷酷無比なファシスト役にはぴったりだった。悪役が多そうだね。

: パリの演劇学校で演技を学んだからフランス語ができる。フランス映画にも悪役で出演しているバルセロナ派のベテラン。イサベル・コイシェの『ナイト・トーキョー・デイ』(09、公開10)にも顔を出していた。

  


: ヘススの同僚セルヒオに扮したのがエドゥアルド・フェルナンデス、娘を費用の掛かる海外の学校に行かせている。

: 父親という役柄かもしれませんが、白髪混じりのフェルナンデスには冷酷な時の流れを感じました。トサールと同じように、どんな役をやっても地でやってると思わせるカメレオン役者。安心して見ていられる。

: エル・ニーニョ役のヘスス・カストロのゴヤ賞2015新人男優賞は太鼓判ですが、エバ役のバルバラ・レニーも助演女優賞に絡んできそうです。

: 本作というより、カルロス・ベルムトの“Magical Girl”のほうかもしれない。こちらはサンセバスチャン映画祭で作品賞と監督賞の異例のダブル受賞をした作品です。

 

     経済的困難にもめげず映画好きのスペイン人

 

: 封切り3日間で300万人が見たという本作ですが、人気は衰えていないのですか。

: 10月に入ってサンチャゴ・セグラの“Torrente 5”が公開され、観客53万人(360万ユーロ)とトップを走っています。アルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”(916)が80万、続く『エル・ニーニョ』が5070003作で約500万ユーロ、全興行成績の70%を占めるそうです(レントラックRentrak 105日調べ)。

: 消費税が21%と値上がりしたのにね。

: 『エル・ニーニョ』は公開1ヵ月で1400万ユーロですから、国家に充分貢献しています。

Rentrak:アメリカのメディア調査会社、視聴率データを取っている。

 

: 経済的な困難が映画産業を苦しめているというわりには、好い数字になっている。

 失業して時間があるから映画館に行ってるわけではないでしょう。

 観客が楽しんでくれる映画作りをモットーにしているモンソン監督、「これといった大宣伝はしないのに多くの観客が見てくれるのは、観客のクチコミのお蔭」と観客に感謝している。

 

 過去に密売に携わった関係者に取材して細部を固め、小道具の一つだったハシッシュ(大麻)の密輸品を押収するシーンでは治安警備隊の警官を動員してもらえた。ヘリコプターも、3トンのランチも、出動してくれた治安警備隊もホンモノだった。(前回の資料部分を下記に再録しました)

 

  <資料再録>

キャスト:ルイス・トサール(警察官ヘスス)、ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)、イアン・マクシェーン(エル・イングレス)、セルジ・ロペス(ビセンテ)、バルバラ・レニー(ヘススの相棒エバ)、ヘスス・カロッサ(エル・コンピ)、エドゥアルド・フェルナンデス(セルヒオ)、Saed Chatiby(ハリル)、ムサ・マースクリ(ラシッド)、マリアン・ビチル(アミナ)、スタントマンも含めてその他大勢。

 

プロット:エル・ニーニョは、英領ジブラルタルの国境沿いラ・リネア・デ・ラ・コンセプションに住んでいるモーターボートの修理工。ある夜、ダチのエル・コンピと出掛けたパーティの帰途、二人はムスリムの青年ハリルと出会った。彼の叔父ラシッドは麻薬密売のディーラーを生業にしている。エル・コンピに説得され、得意のモーターボートを駆使してブツをアフリカからスペインに運び込む「運び屋」を引き受ける。一方ベテラン警官のヘスス、その相棒エバは、ジブラルタルの密売組織を牛耳っているイギリス人麻薬密売人エル・イングレスの足跡を2年間ずっと追い続け包囲網を狭めていくが尻尾が掴めない。そんなとき若い二人の運び屋ニーニョとコンピの若者が網に掛かってきた。  (文責:管理人)

 

ダニエル・モンソン Daniel Monzón Jerez1968年マジョルカ島のパルマ生れ、監督・脚本家・俳優。脚本家として出発した短編を撮らない珍しい監督。

 

監督としてのフィルモグラフィー

11999El corazón del guerrero 邦題『クイーンウォリアー』アドベンチャー・ファンタジー20025月公開。

22002El robo más grande jamás contado”(アントニオ・レシネス主演のコメディ)本作からホルヘ・ゲリカエチェバリアとタッグを組み現在に至る。

32006The Kovak Box”(“La caja Kovak”西= 英合作、西語・英語・独語)、『イレイザー』の邦題でDVD化されたSFサスペンス、未公開。

42009Celda 211”『プリズン211DVD (映画祭タイトル『第211号監房』)未公開。

52014El Niño”『エル・ニーニョ』LB2014上映。

 


ホルヘ・ゲリカエチェバリア Jorge Guerricaechevarría1964年アストゥリアスのアビレス生れ、脚本家。アレックス・デ・ラ・イグレシア(ゴヤ賞にノミネートされた『ビースト 獣の日』、『みんなの幸せ』、『オックスフォード殺人事件』他、ほぼ全作)、ペドロ・アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』、モンソンの第2作から本作までを執筆している。

 

ヘスス・カストロJesús Castro1993年カディスのベへール・デ・ラ・フロンテラ生れの21歳、俳優。父親はカフェテリアを経営している。母親はヒターノ出身、弟と妹がいる。スカウト前はカディスの中央部に位置するラ・ハンダ La Jandaの高等学校 Ciclo Formativo de Grado Medio で電子工学を学んでいた。ESO(中等義務教育1216歳)資格がないと入れない。同時にディスコで働き、父親のカフェテリアでチューロを作って家族の経済を支えていたという孝行息子です。他にサンセバスチャン映画祭2014オフィシャル・セレクション正式出品のアルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”に出演している。

 

★第29回を迎えるゴヤ賞2015の「栄誉賞」にアントニオ・バンデラスが決定、記者会見がありました。一気に30歳ぐらい若返り、サプライズを超えて我が目を疑いました。次回は古くなってしまった<ニュース>も含めて落ち穂拾いを致します。


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