アレックス・デ・ラ・イグレシア特集 『トガリネズミの巣穴』 *LB2014 ⑫2014年10月22日 22:08

         『トガリネズミの巣穴』はスペイン発ホラー・スリラー 

  

★トロント映画祭2014「バンガードVanguard 部門でワールド・プレミア、続いてスペインのシッチェス・ファンタジック映画祭正式出品、ラテンビートがアジアン・プレミアでした。「スペイン公開前に東京で上映して頂けて製作者として本当に誇りに思う」と、エグゼクティブ・プロデューサーのアレックス・デ・ラ・イグレシアEFEのインタビューに語っていましたが、日本はスペイン産ホラーのファンが多い。スペイン公開はクリスマスの1225日が決定しています。なおMusarañasShrew’s Nest)のデータは、簡単にトロント映画祭ノミネーションでアップしていますが(コチラ⇒813)、文末にキャストとプロット、監督紹介を付録として採録しました。

 


              登壇しなかったカロリーナ・バング

  

: 21時からの上映にも拘わらず結構入っていたのは、ホラー映画だったからですかね。

: デ・ラ・イグレシア来日が大きかったのじゃないですか。一口にホラーといってもタイプによりけり、『REC』シリーズはあまり怖くないですが、これはちょっと不気味。

: 『スガラムルディの魔女』でもクレームつけましたが、共同プロデューサー、出演者でもあったカロリーナ・バングをどうして登壇させなかったんですかね。シッチェス・ファンタジック映画祭のプレス会見では並んで座っていた。写真の角度がずれてバングのプレートがウーゴ・シルバの前にきてしまっていますが。

 

      
   (左から、マカレナ、シルバ、バング、デ・ラ・イグレシア、シッチェス104

 

: 今年のゲストはたったの二人と稀少価値もあったのに。デ・ラ・イグレシアが前列に座っていたバングを見やって、「この作品は彼女が持ってきた企画です」と気遣ってましたが、二人の監督の紹介すらなかった()

: プレス会見席上、デ・ラ・イグレシアは「二人はまだ駆け出しの監督ですが、この映画は<完全に>二人の監督の映画です」と、自分に質問が集中しないよう二人の才能と経験を賞讃していました。「トビー・フーバーの『悪魔のいけにえ』4回も観たという友人と一緒に楽しみを共有できた」とも。

1974年製作のホラー映画の原点、原題は直訳すると「テキサス・チェーンソー虐殺」。4000万ドルの製作費で60億(2006データ)の収益をあげたというヒット作。

 

: 二人の新人監督とは、フアンフェルことフアン・フェルナンド・アンドレスエステバン・ロエルです。共に長編デビュー作、脚本も同じです。カロリーナ・バングは以前、二人の短編0362011)に出演しており、その関わりということです。

: Youtube 200万回のアクセスがあったという短編ですね。

: デ・ラ・イグレシアが若い二人に資金援助をして製作した。デ・ラ・イグレシアはカロリーナと新しく製作会社 PokeepsieFilmsを立ち上げ、その第1作が本作。ファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな二人を船出させました。

 

              

           (シッチェスに勢揃いしたスタッフとキャスト)

 

: かつてのデ・ラ・イグレシア自身がアルモドバル兄弟の「エル・デセオ」の資金援助を受け、『ハイルミュタンテ!~』をデビューさせたのでした。

: 兄弟に足を向けては寝られない。初めてシナリオを目にしたシネアストは、「これは時代をスペイン内戦後の1940年代に設定したら面白くなる」と直感したそうです。

: 結局は1950年代のマドリードになったわけですが、50年代の一般庶民は内戦を引きずって飢え死にこそしなかったが貧しかった。それにしては姉妹の部屋は広く生活に困っているふうではなかった。

 薄暗いマンションでしたが、それに比較して調度品やコーヒーセットなどは、映画の宣伝ポスターからも分かるように高級感がありましたね。驚くことに父親がカメラを持っていた!

 

         『何がジェーンに起こったか?』がアタマにあった

 

: フアンフェル・アンドレス監督によると、シナリオを書いているあいだ常に『何がジェーンに起こったか?』が念頭にあった。

: ロバート・アルドリッチの1962年製作の映画、ベティ・デイヴィスが妹、ジョーン・クロフォードが姉を演じた。その後多くの監督のみならず俳優たちにも影響を与えたクラシック名画。

: ロブ・ライナーの『ミザリー』も挙げていた。キャシー・ベイツにアカデミー主演女優賞をもたらした、怖い映画でした。

: こちらは1990年製作だし吹替え版もあるほどだから観てる人多いでしょう。この2作は「トガリネズミ」のヒントになります。それにカメラ、ホラー・スリラーですから、衝撃のラストは言えませんけど()。ジグソーパズルのように嵌めこんでみてください。

 

: ラテンビートの上映は、まだ大阪・横浜とありますからネタバレできない。シネアストのトークの全てを書いてしまうと分かってしまう。

: 本ブログは新作とか上映中のもの、特にスリラーのネタバレは避けている。何人か血は流れますが、誰とか凶器とかは書けません。ただ普通はモンスターは男性だがここでは逆転している。怖がるのは女でなく男です。

 

: 親が子供に与える虐待は、当時も実際に起こっていたことだと語っていました。

: これはフランコ体制に対するメタファーです。本作はホラーとしてはかなり政治的メッセージが濃厚で、強制された宗教教育の弊害も盛り込まれています。

 

          モンセの妹役は最初からナディアに決めていた

 

: この映画の成功はひとえにモンセ役のマカレナ・ゴメスの怪演につきます。『スガラムルディの魔女』でもマドリードの魔女を見事に演じました()

: 監督たちも「マカレナはホラー・ファンには絶大な人気があり、彼女は日常では見せない顔を出してくれると確信していた。その通りになった」と、彼女が引き受けてくれた幸運を喜んでいた。

: 真に迫った狂気の目が印象的です。

: 素顔のマカレナ・ゴメス(1978コルドバ)はとてもかわいい。ミュージシャンのアルド・コマスと結婚、マカレナは妊娠を公開したばかり。未公開ながらミゲル・マルティのコメディ・ホラー“SexyKiller, morirás por ella”(2008)が『セクシー・キラー』の邦題でDVD化されている(2010発売)。

 

: ブリュッセル・ファンタジー映画祭でペガサス観客賞を受賞、マカレナ自身もスペイン俳優組合賞にノミネートされた。

: アントニア・サン・フアンの監督第2作コメディ“Del lado del verano”(2012)では主役タナに起用された。サン・フアンはアルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』で女性に性転換したアグラード役で、観客に鮮烈な印象を残した女優。現在は女優と監督の二足の草鞋を履いている。

: 主役のセシリア・ロスやマリサ・パレデスを食ってしまった。

 

             

           (アツアツの夫アルド・コマスとのツーショット)

 

: モンセの妹役は最初からナディアに決めていた。ナディア・デ・サンティアゴは、1990年マドリード生れだから、10代の妹役はギリギリです。12歳のテレビ・デビューから数えると結構芸歴は長く本数も比例して多い。サンティアゴ・タベルネロの『色彩の中の人生』(ラテンビート2006)や『アラトリステ』(06)にも出演している。ゴヤ賞ノミネートの話題作だったエミリオ・マルティネス・ラサロの“Las 13 rosas”(07)やハビエル・レボジョの“La mujer sin piano”(09)にも。

: 初お目見えではないわけですね。 

                          

                                    (ナディア・デ・サンティアゴ、映画から)

 

: カルロス役にはウーゴ・シルバ以外に誰が考えられますか、というほどだから決まっていたのでしょう。父親ルイス・トサールはシッチェスには現れなかったから談話は取れなかったが、相変わらずのらりくらりのカメレオン俳優だ。

: 付録としてプロットを再録しましたが、果たして真実が語られているのかいないのか、劇場でお確かめ下さい。 

               
              (ルイス・トサール、映画から)

 ≪付 録

*監督紹介:二人はともに本作が長編デビュー作。マドリードの映画研究所のクラスメイトだった。彼らの短編0362011)は、Youtube 200万回のアクセスがあり数々の賞を受賞している。本作はデ・ラ・イグレシアがファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな若い二人に資金援助をして製作された。エステバン・ロエルはテレビ俳優としても活躍しているようです。カロリーナ・バングはデ・ラ・イグレシアの異色ラブストーリー『気狂いピエロの決闘』(2010)に曲芸師として出演していた女優、プロデューサーの仕事は初めて。“036”に出演している。

 

*キャスト:マカレナ・ゴメス(モンセ)、ナディア・デ・サンティアゴ(モンセの妹)、ルイス・トサール(姉妹の父親)、ウーゴ・シルバ(隣人カルロス)、カロリーナ・バング(カルロスの婚約者)、グラシア・オラヨ(モンセの顧客)、シルビア・アロンソ(顧客の姪)、他

 

*プロット:広場恐怖症のモンセの物語。1950年代のマドリード、母親が出産したばかりの赤ん坊を残して死んでしまうと、臆病な父親は耐えきれなくなって蒸発してしまう。モンセは不吉なアパートから一歩も出られず、父と母と姉の3役を背負って青春を奪われたまま、義務感から洋服の仕立てをしながら赤ん坊を育てていた。苦しみから主の祈りとアベマリアの世界に逃げ込んで、今では一人の女性に成長した妹を通して現実と繋がっている。ある日のこと、この平穏の鎖が断ち切られる。上階の隣人カルロスが不運にも階段から落ち、唯一這いずってこられるモンセの家の戸口で助けを求めていた。誰かが特に無責任だが若い男がトガリネズミの巣に入ってしまうと、たいてい二度と出て行くことはできない。                                       (文責:管理人)

 

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