「ある視点」にアルベルト・セラの「Liberte」*カンヌ映画祭2019 ③2019年04月25日 11:43

           アルベルト・セラの9作目「Liberté」の時代背景はフランス革命前夜

 

アルベルト・セラはカンヌ映画祭2016に特別招待作品として上映されたLa mort de Louis XIV(仏語)が評価され本邦でも2年後に『ルイ14世の死』の邦題で公開された。広島国際映画祭2017 関連企画として「アルベルト・セラ監督特集」(1124日~26日)が組まれ、自身もゲストとして来日、『ルイ14世の死』と3作目『鳥の歌』(2008El cant dels ocells)が上映された。引きつづきアテネ・フランス文化センターでも特集が組まれ(1130日~122日)、2作に加えて『騎士の名誉』(06Honor de cavalleria)、ドキュメンタリー『主はその力をあらわせり』(11El Senyor ha fet en mi meravelles)、ロカルノ映画祭2013の金豹賞受賞作品『私の死の物語』(Historia de la meve mort)の5作が上映された。そして翌20185月にはシネマニアの情熱が実って公開され、再び監督を招いてのイベントも開催されたのでした。

ロカルノ映画祭「金豹賞」受賞と監督キャリアの記事は、コチラ20130825

    

           

                         ロカルノ映画祭2013金豹賞のトロフィーを手にした監督

   

       

           (ジャン=ピエール・レオがルイ14世を演じた)

 

★アルベルト・セラ(ジローナ、1975)は、監督、脚本家、製作者、舞台演出家。スペインでも作家性の強い監督の一人、国際映画祭や映画賞受賞者として本国よりも海外のほうが有名なのではないかと思います。これには作品がカタルーニャ語またはフランス語映画という事情もあって、バルセロナ以外の国内での上映機会が少ないことも一因です。ガウディ賞受賞はあってもゴヤ賞はノミネーションさえありません。カタルーニャ人は複雑で、昨今の独立運動でも分かるように心理的にはマドリードは遠くフランスは近いのです。

 

        

      (セルバンテスの『ドン・キホーテ』を素材にした『騎士の名誉』から)

 

★「ある視点」ノミネーションの新作Libertéの詳細は、IMDbでは情報不足ですが、フランス共和国の標語「自由、平等、友愛」から取られているようです。時代はルイ16世の御代、1774年フランス革命前夜、場所はポツダムとベルリン間のどこかという設定、タイトルから判断して言語は仏語ではないかと思いますが公式サイトにありません。主演のヘルムート・バーガーはオーストリア人、晩年のヴィスコンティが寵愛してやまなかった俳優、イリアナ・ザベートと『ルイ14世の死』出演のマルク・スジーニはフランス人、監督作品にはお馴染みのリュイス・セラーはカタルーニャ人など国際色豊か、他にテオドラ・マルカデハビ・ぺレスアレックス・デュトマンなど。

 

★セラ監督はスタッフは同じメンバーで映画作りをするタイプ、エグゼクティブ・プロデューサーのモンセ・トリオラは監督の全作を手掛けており、作品によっては女優としても出演しています。他にプロデューサーとしてセラ監督、フランスのピエール=オリヴィエ・バルデ、他にポルトガルのホアキン・サピニョが前作に続いてクレジットされている。編集も監督、アリアドナ・リバスアルトゥル・トルトと前作と同じです。

 

20182月、ベルリンのフォルクスビューネ劇場でアルベルト・セラ演出で初演された「Liberté」がベースになっているようです。こちらはドイツ語でヘルムート・バーガーとイングリッド・カーフェンが主演しました。まだ映画の写真が入手できませんでしたので、少しは雰囲気の分かる舞台での写真をアップしておきます。

    

       

         

               (20182月公演のLiberté」から、フォルクスビューネ劇場)

 

★「ある視点」部門には、スペインからはガリシア出身のオリヴェル・ラセO que ardeもノミネートされています。2作とも最初からカンヌ映画祭の資金援助を受けて企画されていたものです。というのもラセ監督の前作Mimosas16)は、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」のグランプリ作品だったからです。今回はコンペティションではありませんが、カンヌ映画祭本体のノミネート、階段を1段昇ったことになるのでしょうか。


アルモドバルの新作「Dolor y gloria」*カンヌ映画祭2019 ②2019年04月22日 15:10

       カンヌ映画祭コンペティション部門のノミネーション発表

 

       

418日、第72回カンヌ映画祭2019514日~25日)のコンペティション部門(19作)、「ある視点」(16作)のノミネーション発表があり、今後追加の可能性もあるということでした。スペイン語映画はペドロ・アルモドバルの新作Dolor y gloria(「Pain and Gloria」)1作のようです。スペインでは322日に封切られました。1週間前の公開記念イベントには出演者のみならず大勢の関係者が出席しました。もう二度とはできないだろうという盛大な夜を仲間とファンで過ごしたようです。カンヌに合わせて映画製作をしているアルモドバル、ノミネーションは暗黙の了解だったでしょう。コンペティション部門の審査委員長は、カンヌとは縁の深いメキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が既にアナウンスされています。

審査委員長アレハンドロ・G・イニャリトゥの記事は、 コチラ2019年03月06

 

      

          (フランス語のカンヌ映画祭用ポスター)

 

      

      (公開記念イベントの最終リハーサルでのアルモドバル監督

 

★作品の詳細はいずれアップする予定ですが、ざっくり紹介するとアルモドバルの自伝的フィクション、監督の分身サルバドール・マジョSalvador Malloを演じるのが、かつてアルモドバルのお守りfeticheと言われたアントニオ・バンデラス8作目となります(因みにSalvador MalloAlmodóvarのアナグラムになっています)。サルバドールの少年時代の母親ハシンタにこれまたアルモドバル映画6作目となるペネロペ・クルス、父親にラウル・アレバロ、現在の母親にアルモドバル映画は『神経衰弱ぎりぎりの女たち』以来30年ぶりとなるフリエタ・セラーノ、他にアシエル・エチェアンディアレオナルド・スバラグリアセサル・ビセンテなど。共にサルバドールの母親を演じたペネロペ・クルスとフリエタ・セラーノの演技を称賛する批評家が目立ちました。

 

              

              (監督とバンデラス)

 

    

(バンデラスとエチェアンディア、映画から)

    

    

         (バンデラスとスバラグリア、映画から)

    

    

                  (バンデラスと母親役フリエタ・セラーノ)

 

★女優陣にノラ・ナバスセシリア・ロススシ・サンチェスとなんとも豪華版、必ず顔を出す製作者で弟アグスティンも司祭役で出演します。話題を集めているのが歌手のロサリアがラブ・コールを受けてデビューしたことです。クルスとデュオで「A tu vera」をご披露します。ロサリアはアルモドバルの新ムーサになるのではないかと、外野は騒々しい。ゴヤ賞ガラ登場に続いて活躍が注目されています。

 

     

 (ペネロペ・クルス、息子役アシエル・フロレス、ロサリア、スペイン語版ポスター)

 

   

  (故郷を後にするサルバドール一家、フロレス、クルス、ラウル・アレバロ)

 

      

            (バンデラスとノラ・ナバス)

 

★アルモドバル映画が大嫌いな批評家も今回はまずまずで、酷評に歯止めがかかっています。公開第1週目興行成績120万ユーロをはじき出しましたが、そのあと公開されたカルロス・テロンTherónのコメディ「Lo deje cuanndo quiero」が150万ユーロとあっさり記録を塗り替えてしまい、スペイン人のコメディ好きには苦笑いです。ダビ・ベルダゲルとエルネスト・アルテリオが主演、イタリア映画「Smetto quando voglio」のリメイクのようです。

 

★カンヌには他に、ロドリゴ・ソロゴジェンの短編「Madre」(17)をベースに長編化した同タイトルの作品も応募していたようですが採用されませんでした。スペイン公開は1018日と決定しておりますが、プレミアは7月のカルロヴィ・ヴァリ映画祭、続いて秋のトロントやサンセバスチャン映画祭がアナウンスされています。もう一作、アレハンドロ・アメナバルの久々の長編「Mientras dure la guerra」も選に漏れてしまった。哲学者ミゲル・デ・ウナムノの最晩年を描いた伝記映画、ウナムノにカラ・エレハルデが扮している。

アメナバル「Mientras dure la guerra」の紹介記事は、コチラ20180601

   

   

    (撮影中の母親役マルタ・ニエトとロドリゴ・ソロゴジェン)

 

  

     (撮影中のウナムノ役のカラ・エレハルデとアメナバル)


カンヌ映画祭審査委員長にアレハンドロ・G・イニャリトゥ*カンヌ映画祭2019 ①2019年03月06日 17:51

       メキシコからは初めての審査委員長、スペイン語話者としては3人目

    

★今年のアカデミー賞はメキシコ映画のROMA/ローマ』が、アルフォンソ・キュアロンの監督賞と撮影賞、外国語映画賞ではガブリエラ・ロドリゲスが初ノミネート初受賞したばかりでした。そんな熱気も冷めやらぬ226日、今度はカンヌ映画祭の事務局から第72回の「審査委員長はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ」とアナウンスされた。

 

      

     (第70回カンヌ映画祭2017でのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)

 

2015年からカンヌ映画祭会長職にあるピエール・レスキュールは「アレハンドロは勇気と驚きにあふれたシネアストであり、信念の人、時代のアーティストでもある」と選んだ理由をコメントしました。同じく映画祭総代表のティエリー・フレモーは、「カンヌはすべての映画に開かれている映画祭、『バベル』の監督の出席を通して、今度の映画祭ではメキシコ映画が特集されるだろう」と述べたようです。監督自身も「とても名誉なこと」というコメントを出した。映画祭の審査員を引き受けるのは稀なことらしいのですが、丁度10年前、第22回東京国際映画祭2009の審査委員長を務めた経験があります。

 

★スペイン語を母語とする審査委員長第1号は、1967年にノーベル文学賞を受賞したグアテマラの作家ミゲル・アンヘル・アストゥリアス18991974)で、第23回の1970年のことだった。第2号が2017年のペドロ・アルモドバル、第3号がゴンサレス・イニャリトゥ、勿論メキシコからは初めてです。戦後すぐの1946年に始まったカンヌ映画祭の審査委員長は、第1回~3回までがフランスの歴史家ジョルジュ・ユイスマン、第4回がアンドレ・モーロワ、他ジャン・コクトーマルセル・パニョルマルセル・アシャールなどと作家が続き、映画産業に直接携わっているシネアストではありませんでした。製作者や監督、俳優が務める今とは大分様子が違っていた。ヨーロピアンではないアストゥリアスが選ばれたのは、ノーベル文学賞受賞のほかに、一時パリ在住だった時期があったからでしょうか。

 

★ゴンサレス・イニャリトゥ監督が国際舞台に電撃デビューしたのが、ここカンヌでした。2000『アモーレス・ぺロス』がカンヌ映画祭併催の「批評家週間」のグランプリを受賞、本作で同じく鮮烈デビューしたガエル・ガルシア・ベルナルの人生もひっくり返ってしまいました。2006『バベル』で監督賞、2010BIUTIFUL ビューティフル』では主演のハビエル・バルデムが男優賞を受賞、第70回の節目となる2017年には、コンペティション外だが実験的なヴァーチャルリアリティ映画Carne y arenaを、小型飛行機専用の格納庫で上映するという試みをした。審査委員長をつとめたアルモドバルが「映画は映画館だけで見る時代は終わったのか」と語ったのでした。

 

           

 (二人とも若かった『アモーレス・ぺロス』当時のG.G.ベルナルと監督)

    

          

           (バルセロナで撮影中の監督とカンヌ男優賞受賞のハビエル・バルデム)

 

★オスカー像もトータル4個せしめている。大激戦だった2015年に「ハリウッドはコメディが嫌い」を覆して『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』により作品・監督・脚本の3冠、文字通り<奇跡>の受賞でした。手は2本しかないから同時に全部持てなかった。しかし、授賞式のテレビ視聴率はすこぶる悪く、大枚をはたいて放映権を買った企業からはブーイングの嵐、そんなこと「オレの知ったことか」と監督。本作は全米公開ではなかったので見てる人が少なかったのでした。翌年『レヴェナント 蘇えりし者』でまさかの連続監督賞を受賞、主演のレオ様にも念願の男優賞がもたらされ、極寒のカナダで頑張った二人の努力が報われました。Netflix 問題を抱えたまま、何はともあれカンヌは発車しました。

 

     

  (バードマンのマイケル・キートンと監督)

    

       

    (『レヴェナント』撮影中の監督とオスカー賞男優賞のレオナルド・ディカプリオ)

 

 管理人覚え

2015年アカデミー賞受賞の記事は、コチラ20150306

2016年アカデミー賞受賞の記事は、コチラ20160302