「監督週間」にペルー映画*カンヌ映画祭2019 ⑤ ― 2019年05月01日 20:21
メリナ・レオンの「Canción sin nombre」は80年代の実話に基づく
★4月23日、第51回「監督週間」のノミネーション発表がありました。今年からディレクターがイタリアのパウロ・モレッティに変わりました。ノミネーションも24作と増え、うち16作が長編デビュー作です。スペイン語映画ではペルーのメリナ・レオンのデビュー作「Canción sin nombre」(「Song Without Name」スイス合作)と、アルゼンチンのアレホ・モギジャンスキイの「Por el dinero」(「For the Maney」)がノミネートされました。共にワールドプレミアです。先ずはレディファーストとして前者からご紹介。「監督週間」のオープニングは5月15日。
★メリナ・レオンの「Canción sin nombre」は、1988年リマで実際にあった乳児誘拐事件にインスパイアされて製作されました。ペルーの1980年代は、政治経済のみならず社会全体が長い内戦状態でした。この時代を背景にしたペルー映画は数多く、例えばクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(09金熊賞受賞作品)や、当ブログ紹介のバチャ・カラベド&チノン・ヒガシオンナ監督の「Perro guardián」(14)他、内戦の瑕をテーマにした映画が多い。
*「Perro guardián」の紹介記事は、コチラ⇒2014年09月04日
「Canción sin nombre」(「Song Without Name」)
製作:Bord Cadre Films / La Vida Misma Films / Mgc Marketing / Torch Films
監督:メリナ・レオン
脚本:メリナ・レオン、マイケル・ホワイト
編集:マヌエル・バウアー
撮影:インティ・ブリオネス
音楽:パウチ・ササキ
美術:ギセラGisela・ラミレス
録音:オマル・パレハ
キャスティング:ルス・タマヨ
製作者:ティム・ホッブズ、Ori Dav Gratch、メリナ・レオン、ヘスス・ピメンテル
データ:製作国ペルー=スイス、言語スペイン語・ケチュア語、スリラードラマ、モノクロ、撮影地ビリャ・エル・サルバドール、リマ中心街、イキトス。2014年長編映画プロジェクト・ナショナル・コンクール優勝、ニューヨークのジェローム基金、グアダラハラ共同マーケット、クラウドファンディングで製作資金を得て製作された。
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2019「監督週間」正式出品、
キャスト:パメラ・メンドサ(ヘオルヒナ・コンドリ)、トミー・パラガ(記者ペドロ・カンポス)、ルシオ・ロハス(レオ)、マイコル・エルナンデス(イサ)、ルス・アルマス(マルタ)、他
ストーリー:1988年アンデス出身のヘオルヒナは、リマのサン・ベニト・クリニックで女の子を出産するが、娘の姿は突如消えてしまい誘拐されたことを知る。必死で探すうちある新聞社のジャーナリストのペドロ・カンポスに出会うことができ、彼は娘の捜索を引き受けてくれる。1980年代のペルーは内戦のさなかで社会はカオス状態であった。実際にリマで起きた乳児誘拐事件にインスパイアされて製作された。
★公式サイトに製作国が「ペルー、スイス」だが、ペルーでの紹介記事では「ペルー、米国、スペイン、メキシコ」、IMDbでは「ベル―、米国」と若干食い違う。メインの制作会社Bord Cadre Films の本社はジュネーブにあり、最近のラテンアメリカ諸国映画に力を注いでいる。クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラ『夏の鳥』、アマ・エスカランテ『触手』、カルロス・レイガーダス『われらの時代』、スペイン映画ではイサ・カンポ&イサキ・ラクエスタ『記憶の行方』など話題作に出資している。
★ニューヨークの制作会社 Torch Filmsはドキュメンタリーを得意とし、ドラマではアントニオ・メンデス・エスパルサの『ヒア・アンド・ゼア』などメキシコとの合作映画に出資しており、メインプロデューサーのティム・ホッブズは本作も手掛けている。もう一人のOri Dav Gratchは監督の短編「El Paraíso de Lili」がニューヨーク映画祭2009で上映されたときに知り合ったプロデューサーで、ホッブズ同様『ヒア・アンド・ゼア』を手掛けている。本作には米国の資金が入っていることは明らかです。ヘスス・ピメンテルはメキシコの製作者、Mgc Marketingはスペイン、La Vida Misma Filmsはメリナ・レオン監督が出資先が見つからない「Canción sin nombre」のために2012年に設立した。
★監督によると「ヘオルヒナ・コンドリは、貧しい移民で身寄りのない女性だったが、アーティストでファイターだった」と語っている。ヘオルヒナ役のパメラ・メンドサとレオ役のルシオ・ロハスは初出演、ジャーナリスト役のトミー・パラガは「El Paraíso de Lili」、マリアネラ・ベガの短編「Payasos」(09、20分)、スペインからはマイコル・エルナンデスが出演、サルバドル・カルボの『1898:スペイン領フィリピン最後の日』、アルバロ・フェルナンデス・アルメロの『迷えるオトナたち』などに出演、マルタ役のルス・アルマスもスペイン女優、オスカル・サントスの『命の相続人』(10)、ホルヘ・ナランホの「Casting」(13)ではマラガ映画祭「銀のビスナガ助演女優賞」をグループで受賞している。
(ヘオルヒナ役のパメラ・メンドサと新聞記者役のトミー・パラガ)
(本作撮影中のメリナ・レオン監督)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★リマ大学で映画&ビデオを学び、その後2009年ニューヨークのコロンビア大学映画監督科の修士号を取得する。監督、脚本家、製作者、編集者。コロンビア大学卒業後もニューヨークに留まって、アンダーグラウンドのアーティストたちとのコラボ、『エル ELLE』のようなモード雑誌のイベントを手掛けた。リマに戻ってからは、グーグルが支援するユニセフのためのビデオを製作、2012年制作会社「La Vida Misma Films」を設立、長編デビュー作「Canción sin nombre」を製作する。本作で音楽を担当した日系ペルー人パウチ・ササキとの共同監督で「Sho」というドキュメンタリーを企画中。パウチ・ササキは作曲家フィリップ・グラスに師事しているヴァイオリニスト、カーネギー・ホールでの演奏経験をもち来日もしている。現在は主にアメリカで活躍中。前述のバチャ・カラベド&チノン・ヒガシオンナの「Perro guardián」の音楽も手掛けている。
(パウチ・ササキとフィリップ・グラス)
★「Una 45 para los gastos del mes」と「El Paraíso de Lili」がConacine(ペルーの文化省主催)によって最優秀短編賞を受賞した。特に後者はニューヨーク映画祭2009に正式出品され受賞歴多数。うちサンパウロ短編映画祭ラテンアメリカ部門で短編賞を受賞している。
2000「Una 45 para los gastos del mes」短編
2007「Girl with a Walkman」短編、監督・脚本・製作
2009「El Paraíso de Lili」短編、モノクロ、監督・脚本・製作
2019「Canción sin nombre」本作
追加情報:『名もなき歌』の邦題で劇場公開になりました。
東京はユーロスペース、2021年7月31日(土)~
「監督週間」のもう1作はアルゼンチン映画*カンヌ映画祭2019 ⑥ ― 2019年05月05日 21:00
アレホ・モギジャンスキイの第6作目「Por el dinero」
★今年の「監督週間」は24作中16作がデビュー作というなかで、アルゼンチンのアレホ・モギジャンスキイ「Por el dinero」は第6作目と異例、少し変わった作風の監督という印象です。2009年の長編第2作「Castro」がブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIで作品賞を受賞、続いてロカルノ、バンコク、ワルシャワ、ロンドン、ウィーン、テッサロニキほか各国際映画祭巡りをしました。BAFICI は4月下旬開催の映画祭で、マラガ映画祭と重なることから定期的に作品紹介はしておりませんが、カンヌのような大きな映画祭へ繋がるのでアルゼンチンの若手監督には重要な映画祭です。
(キューバのカストロとは無関係な「Castro」のポスター)
★モギジャンスキイが編集を担当したマリアノ・ジナス監督の「La flor」(18)を製作したEl Pampero Cine が手掛けました。今作はBAFICI 2018の作品賞受賞作品、若い監督をサポートしている制作会社、ロカルノ、ニューヨーク、ウィーン各映画祭で上映された話題作です。モギジャンスキイは編集者として若手監督とのコラボを多く手掛けています。編集者というのは大体が監督との共同作業がもっぱらで目立たない存在ですが、これなくしては完成しない。マリアノ・ジナスは反対にモギジャンスキイの第4作「El escarabajo de oro」(14)の脚本を共同執筆するなどしている。エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』やロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』をベースにして作られたたコメディ・アドベンチャー映画です。
(監督・脚本・編集の「El escarabajo de oro」のポスター)
★前作5作まではすべてBAFICIに出品されましたが、「Por el dinero」はいきなり「監督週間」でワールドプレミアされます。詳細を入手できていませんが、どうやら2016年10月に舞台で上演された同タイトルの映画化のようです。その際は女優でダンサーのルチアナ・アクーニャと共同で演出、主演しましたが、映画のほうはモギジャンスキイが一人で監督しました。
(演劇「Por el dinero」のポスター)
(演劇「Por el dinero」の舞台から4人の出演者)
「Por el dinero」(「For the Money」)
製作:El Pampero Cine
監督・脚本:アレホ・モギジャンスキイ
脚本:ルチアナ・アクーニャ(共同執筆)
音楽:ガブリエルChwojnik
撮影:セバスチャン・アルペセジャArpesella
衣装デザイン:マリアナ・ティランテTirantte
データ・映画祭:製作国アルゼンチン、スペイン語、2019年、社会風刺コメディ。カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品。
キャスト:ルチアナ・アクーニャ(ダンサー)、ガブリエルChwojnik(ミュージシャン)、マチュー・ペルポイント(フランス人ダンサー)、アレホ・モギジャンスキイ(シネアスト)
ストーリー:現代社会に生きるアーティストたち4人の現状にフォーカスした政治的風刺コメディ。一人はミュージシャン、二人は舞踊家、もう一人はシネアスト。私たち「どうやって生きていく?」「映画製作の資金は?」「生活費はどうやって稼ぐ?」「愛かお金かどっちがいい?」「すべきことは何?」エトセトラ。もしかしたら困難なテーマについて何かヒントが見つかるかもしれません。(文責:管理人)
★舞台と同じメンバーが出演していることからプロットに変更はなさそうですが、映像が入手できないので、これ以上は深入りできません。下の写真はたまたま見つかったもので、グーグルで目にするのは大体舞台で上映されたときの写真です。
(どういうシチュエーションか分からないが見つかったフォト)
(ルチアナ・アクーニャ、後ろ向きはモギジャンスキイか)
★アレホ・モギジャンスキイAlejo Moguillansky 1978年ブエノスアイレスうまれ、監督、脚本家、編集者、俳優、製作者。2004年映画編集者として出発、監督デビュー作はBAFICI出品の「La prisionera」(05)、以下の長編6作のほか、長編ドキュメンタリーや短編ドキュメンタリーを撮っている。第5作となる「La vendedora de fosforos」(2017「The Little Match Girl」)が話題になった。
(アレホ・モギジャンスキイ、2018年)
2005「La prisionera」監督・脚本・編集
2009「Castro」同上 BAFICI 2009 作品賞受賞作、
インディリスボン映画祭2010国際映画批評家連盟FIPRESCI賞受賞作
2013「El loro y el cisne」同上、BAFICI 2013 スペシャル・メンション
2014「El escarabajo de oro」監督・脚本・編集
2017「La vendedora de fosforos」監督・脚本・編集
2019「Por el dinero」同上、省略
「批評家週間」にグアテマラ映画*カンヌ映画祭2019 ⑦ ― 2019年05月07日 16:47
セサル・ディアスのデビュー作「Nuestras madres」
(フランスの売出し中の俳優フェリックス・マリトーを配したポスター)
★第58回「批評家週間」2019のコンペティション部門のノミネーションは7作、うちスペイン語映画はセサル・ディアスのデビュー作「Nuestras madres」(グアテマラ=ベルギー=仏)とソフィア・キロス・ウベダの「Ceniza negra」(コスタリカ=アルゼンチン=チリ=仏)の2作が選ばれました。他に特別上映としてコロンビアのフランコ・ロジィの「Litigante」がオープニング作品に選ばれています。「批評家週間」はカンヌ本体より先に結果が発表になります(15日~23日)。審査委員長はコロンビアの監督チロ(シーロ)・ゲーラ、『夏の鳥』や『彷徨える河』が記憶に新しい。「批評家週間」ポスターのフェリックス・マリトーは1992年ヌヴェール生れの26歳、『BPMビート・パー・ミニット』、新作「Sauvage/Wild」で初めて主役を演じた目下売り出し中。先ずセサル・ディアスのデビュー作からご紹介します。
「Nuestras madres」(「Our Mothers」)
製作&製作者:Need Productions(Geraline Spimont)/ Perspective Films(Delphine Schmit)
監督・脚本:セサル・ディアス
撮影:Virginie Surdej
編集:Damien Maestraggi
音楽:Rémi Boubal
録音:Vicent Nouaille、Gilles Bernardeau、Emmanuel de Boissieu
衣装デザイン:ソフィア・ランタン
プロダクション・デザイン:ピラール・ペレド
データ・映画祭:製作国グアテマラ=ベルギー=フランス、スペイン語、2019年、ドラマ、82分、配給:Pyramide International。第58回「批評家週間」2019正式出品、ワールドプレミア。
キャスト:アルマンド・エスピティア(エルネスト)、エンマ・ディブ(クリスティナ)、Aurelia Caal、ビクトル・モレイラ、フリオ・セラノ・エチェベリア、他
ストーリー:2013年、グアテマラは内戦を引き起こした陸軍将校たちの裁判に釘付けになっている。犠牲者たちの証言が次々に行方不明者を特定していく。ある日、法医学財団の若い人類学者エルネストは、老婦人の話を通して、内戦中に行方不明になったゲリラ兵の父親を見つけられたと考えている。彼は母親の願いに逆らって、真実を求めて心身ともにのめりこんでいく。
(犠牲者の証言をもとに行方不明者を特定していくエルネスト)
★当ブログのグアテマラ映画紹介は、ハイロ・ブスタマンテの『火の山のマリア』(15)1作しかないという寂しさです。ベルリン映画祭で銀熊賞「アルフレッド・バウアー賞」を受賞した作品、この映画も20世紀後半のグアテマラを殺戮と恐怖に陥れた内戦(1960~96)を時代背景にした力作でした。36年に及んだ内戦の死者・行方不明者20万人のほぼ全員が先住民マヤの人々、先住民族ジェノサイドと言われる所以です。1996年「恒久的和平協定」が調印された後も殺害やリンチは後を絶たず、ジェノサイドをめぐる真相の多くは「殺害」されたまま残されているということでしょうか。中米グアテマラは総人口1760万人の約40%を先住民族が占め、彼らは公用語のスペイン語を話さない人々も多数存在する。ということで本作の使用言語はスペイン語だけではないと想定しております。
★主人公エルネストの父親は軍事独裁政権と闘ったゲリラ兵、内戦中に行方不明になったという設定のようです。エルネストに証言した老婦人役を誰が演じているのか目下詳細が不明ですが、『火の山のマリア』でマリアの母親になった、プロの女優マリア・テロンに似ているようですが。
*『火の山のマリア』の作品紹介は、コチラ⇒2015年08月28日/10月25日
(老婦人役は、もしかしてマリア・テロンか?)
★セサル・ディアスCésar Díaz、1978年グアテマラ・シティ生れ、監督、脚本家、映画編集者。ベルギーとグアテマラの国籍を持つ。メキシコとベルギーで学んだあと、パリのLa FEMISの脚本コースに参加する。10年以上編集とドキュメンタリーに取り組む。2010年、短編ドキュメンタリー「Semillas de Cenizas」が好評で20数ヵ所の映画祭で上映される。2015年、長編ドキュメンタリー「Territory Liberado」がメキシコのIMCINE(Instituto Mexicano de Cinematografía)賞を受賞、今回初長編映画が「批評家週間」にノミネートされた。
(短編ドキュメンタリー「Semillas de Cenizas」から)
(長編ドキュメンタリー「Territory Liberado」から)
★エルネスト役のアルマンド・エスピティアはメキシコの俳優。カンヌ映画祭2013コンペティション部門に出品されたアマ・エスカランテの『エリ』(13)で17歳のエリ役でデビューした。エスカランテ監督は本作で監督賞を受賞して周囲を驚かせた。翌年マックス・スニノのコメディ「Los Bañistas」(14)に出演、メキシコのTVシリーズにも出演している。
*『エリ』の作品紹介は、コチラ⇒2013年10月08日
*「Los Bañistas」の作品紹介は、コチラ⇒2014年08月21日
★クリスティナ役のエンマ・ディブはメキシコの女優、メキシコ映画マリアナ・H・メンチャカの「Preludio a una siesta」(18)、アイザック・チェレムの「Leona」(18)などに脇役で出演している。
(アルマンド・エスピティアとエンマ・ディブ、映画から)
(エルネストと先住民族マヤの女性たち)
「批評家週間」にコスタリカ映画*カンヌ映画祭2019 ⑧ ― 2019年05月09日 16:10
ソフィア・キロス・ウベダのデビュー作「Ceniza negra」
★「批評家週間」のもう1作「Ceniza negra」は、アルゼンチン出身のソフィア・キロス・ウベダのデビュー作です。「批評家週間」2017の短編部門にノミネーションされた「Selva」がベースになっているようです。両作とも主役にスマチレーン・グティエレスSmachleen Gutiérrezを起用している。ソフィア・キロス・ウベダ監督は1989年ブエノスアイレス生れですが、ここ数年はコスタリカに在住している。
「Ceniza negra」(「Land of Ashes」「Cendre Noire」)
製作:製作者:Sputnik Films(マリアナ・ムリージョ・Q)、Murillo Cine(セシリア・サリム)、
La Post Producciones(ミジャライ・コルテス、マティアス・エチェバリア)、
(共同)Promenades Films(サムエル・チャウビン)
監督・脚本:ソフィア・キロス・ウベダ
撮影:フランシスカ・サエス・アグルト
編集:アリエル・エスカランテ・メサ
音楽:Wassim Hojeij
録音:クリスティアン・コスグロベ
プロダクション・デザイン:カロリナ・レットLett
データ・映画祭:製作国コスタリカ=アルゼンチン=チリ=フランス、スペイン語、2019年、ドラマ、82分、撮影地コスタリカのリモン、配給EUROZOOM。「批評家週間」2019正式出品、5月19日(英語と仏語の字幕上映)他
キャスト:スマチレーン・グティエレス(セルバ)、ウンベルト・サムエルズ(祖父タタ)、オルテンシア・スミス(エレナ)、キハ(ケハ)・ブラウンKeha Brown(ウインター)
ストーリー:13歳になるセルバは、カリブ海沿岸の町に住んでいる。セルバは死ぬと脱皮できることを発見する。例えばオオカミやヤギ、影、または自分で思いつくどんなものにも変身できる。野菜畑に囲まれた家で暮らしているが、父に続いて母親も突然姿を消してしまうと、残されたセルバは死にたがっている祖父の世話を一人でしなければならない。祖父の願いを叶えてやるかどうか決心しなければならないが、それは子供時代との最後の決別を意味したからだ。
(セルバ役のスマチレーン・グティエレス)
(祖父タタとセルバ)
★キロス監督によると「子供たちが死をどのように理解するのかに興味をもって、2012年ごろから温めていた。約5年前に執筆をスタートさせ、2016年に「Selva」として短編が結実、翌年カンヌで上映できた。長編は主役セルバに同じスマチレーン・グティエレスを起用してその成長課程を追っている。多くの子供たちの中から彼女を見つけられたことは幸運だった。小さな映画だが、カンヌにノミネートされた最初のコスタリカ映画ということに誇りを感じている」とインタビューに答えている。
(短編「Selva」のポスター)
★ソフィア・キロス・ウベダ Sofía Quirós Ubeda は1989年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、編集者、製作者。2011年短編ドキュメンタリー「Al otro lado」(15分、共同監督)、2016年、コスタリカ、アルゼンチン、チリ合作短編フィクション「Selva」(17分、西語・英語)は、カンヌ上映後40数ヵ都市で上映された。なかでビアリッツ映画祭、グアナファト映画祭が含まれる。製作はSputnik Filmsのマリアナ・ムリージョ・ケサダ、撮影監督にフランシスカ・サエス・アグルトと長編に同じでした。2019年本作、次回作「Entretierra」が進行中。
(ソフィア・キロス・ウベダ監督、2017年)
(短編ドキュメンタリー「Al otro lado」ポスター)
特別上映作品にG. G.ベルナルの第2作*カンヌ映画祭2019 ⑨ ― 2019年05月13日 15:42
11年ぶりG. G. ガエルの監督第2作めは「Chicuarotes」
★コンペティション部門他、追加作品や特別上映のアナウンスが五月雨式にアナウンスされています。中でスペイン語映画としては、特別上映部門にメキシコのガエル・ガルシア・ベルナルの「Chicuarotes」と、チリのパトリシオ・グスマンの「La Cordillera de los Sueños」の上映が発表されました。ガルシア・ベルナルは自他ともに許す国際的俳優ですが、監督としては2007年の監督デビュー以来ブランクが長く11年ぶりの2作目となります。それにはそれなりの理由があると思います。一つには第1作『太陽のかけら』の失敗が尾を引いていると考えられます。本国では「一体全体、ガエルは何を考えてんの?」と、肝心の若者からそっぽを向かれ、評価はイマイチでした。原タイトルは「DEFICIT」(欠乏・欠如)という邦題のつけにくいものでしたが、選りに選って<太陽のかけら>と意味不明となりました。本邦でもガエル人気をもってしてもファンから歓迎されませんでした。
★デビュー作はカンヌ映画祭併催の「批評家週間」に出品されたのが幸いして、ラテンビート2008で「デフィシット」とカタカナ起こしの題名で上映されました。金も権力も有りあまる政治家の息子クリストバル(G.G.ガエル主演)が、別荘で金持ちぼんぼんを集めてどんちゃん騒ぎをした結果、思いもよらない事件が起こり、息子は一人取り残される。メキシコ社会に根づいてしまった経済文化の二極化、硬直化したメキシコ独特の政治システムに切り込んで、何が<欠如>していたのか、または<欠如>とは何かという重いテーマでした。しかし演出法にも問題があって観客の心を捉えるには至りませんでした。
(デビュー作『太陽のかけら』)
★第2作「Chicuarotes」は、生れ故郷を後にした10代の若者二人が、惨めな現状を打開してリッチになるための方策に着手するが、それは危険な世界に足を踏みだすことだった。今回は監督業に専念し、キャストは2人の青年役にベニー・エマニュエルとガブリエル・カルバハル、ベニーのガールフレンドにレイディ・グティエレス、若い3人を支えるのがダニエル・ヒメネス=カチョ、ドロレス・エレディアなどベテラン勢で脇を固めている。
(本作撮影中のG.G.ガエル監督)
「Chicuarotes」メキシコ、2019
製作:Canana Films / La Corriente del Golfo / Pulse Films
監督:ガエル・ガルシア・ベルナル
脚本:アウグスト・メンドサ
撮影:フアン・パブロ・ラミレス
音楽:レオナルド・Heiblum、ハコボ・Lieberman
編集:セバスティアン・セプルベダ
美術:ロベルト・ピサロ
プロダクション・デザイン:ルイサ・グアラ
キャスティング:ルイス・ロサレス
衣装デザイン:アマンダ・カルカモ
メイクアップ:アントニオ・ガルフィアス
プロダクション・マネージメント:オスカル・エストラダ
製作者:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、マルタ・ヌニェス・プエルト、(ライン・プロデューサー)マリアナ・ロドリゲス・カバルガ
データ・映画祭:製作国メキシコ、スペイン語、2019年、シリアス・コメディ、撮影地ソチミルコのサン・グレゴリオ・アトラプルコ、メキシコシティ、撮影期間2017年12月~2018年1月、公開メキシコ2019年6月28日。カンヌ映画祭2019コンペティション部門の特別上映作品
キャスト:ベニー・エマニュエル(エル・カガレラ)、ガブリエル・カルバハル(エル・モロテコ)、ドロレス・エレディア(トンチ)、ダニエル・ヒメネス=カチョ(チジャミル)、ペドロ・ホアキン(ビクトル)、レイディ・グティエレス(スヘイリ)、サウル・メルカド(カリナ)、他
ストーリー:二人の若者エル・カガレラとエル・モロテコの物語。惨めな現状から抜け出すべく生れ故郷を後にする。友達から電気工シンジケートの中に潜り込める可能性を聞き出した二人は手始めに抜け道に着手する。カガレラのガールフレンドのスヘイリも一緒に、お金と権力をまとめて手に入れようとさまざまな方法を考える。それは犯罪の世界に足を踏みだす危険なアバンチュールでもあった。自由を手に入れようとする貧しい若者たちの姿がコメディタッチで語られる。
(ベニー・エマニュエルとガブリエル・カルバハル)
(エル・カガレラのガールフレンド、レイディ・グティエレス扮するスヘイリ)
(中央ダニエル・ヒメネス=カチョと若者たち)
★タイトルの《Chicuarotes》の意味は二つあり、一つはメキシコ固有のチリトウガラシ、もう一つが「見栄っ張り、または頑固者で扱いにくい」という、映画の舞台となる町サン・グレゴリオ・アトラプルコ出身の住民の特徴を指す単語だそうです。サン・グレゴリオ・アトラプルコ(ナワトル語で泉の湧き出るの意)はメキシコシティ南東部、観光地としても有名なソチミルコに所属、「大きな問題を抱えた美しい町」と称されている。G.G.ガエル監督は、この町の歴史、人類学、観光、社会の成り立ちを調査するために、スタッフと共に6~7年前からしばしば現地の取材に訪れている。脚本家のアウグスト・メンドサはこの町の出身者ということです。
★サン・グレゴリオ・アトラプルコは、2017年9月19日正午すぎ、メキシコを襲ったマグニチュード7.1のメキシコ中部地震で甚大な被害を被った都市の一つだそうです。メキシコ全体で約360名の人命が奪われ、日本からも救助隊が駆けつけるなど大きく報道された、記憶に新しい地震でした。
★表面的にはコメディタッチだが、深層的には「かなりダーク、不本意のコメディ」とエル・カガレラ役のベニー・エマニュエルは語っている。メキシコを代表するG.G.ガエルの監督第2作ということで情報は結構ありますが、コンペではないの簡単なご紹介とします。
特別上映作品にパトリシオ・グスマンの新作*カンヌ映画祭2019 ⑩ ― 2019年05月15日 15:43
もう1作はパトリシオ・グスマンの「La Cordillera de los sueños」
★特別上映作品のもう1作は、チリのパトリシオ・グスマンの「La Cordillera de los sueños」というドキュメンタリーです。チリ最北部を撮った『光のノスタルジア』(10)と最南端を撮った『真珠のボタン』(15)は2部作となっています。後者がベルリン映画祭2015の銀熊脚本賞を受賞したことで本邦でも公開されたのでした。ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン(1930)との対談(2015年1月)で、「もし第三部を撮るとしたらアンデス山脈になるが、目下具体的な案はないし、その可能性もない」とかつて語っていた監督、幸いなことに可能性があったようです。
「La Cordillera de los sueños」(「The Cordillera of Dreams」)2019
製作:ARTE / Atacama Productions
監督・脚本:パトリシオ・グスマン
撮影:サムエル・ラフ Lahu
データ・映画祭:製作国フランス=チリ、スペイン語、2019年、ドキュメンタリー、85分、撮影地アンデス山脈。配給Pyramid Distribution(仏)。カンヌ映画祭2019コンペティション部門特別上映作品、ドキュメンタリー賞(ルイユ・ドール賞)を受賞。
解説:カンヌ映画祭総ディレクターであるティエリー・フレモーのコメントによると「パトリシオ・グスマンは、軍事独裁政権が民主的に選ばれた政府を転覆させた40年前にチリを離れた。しかし片時も忘れたことがない地図上の母国、その文化について考え続けている。『光のノスタルジア』で北部を『真珠のボタン』で南部を描いたのち、彼が<チリの過去と現在の歴史をつらぬく広大で明白な脊柱>と称するところに近づいて行く。「La Cordillera de los sueños」は、映像詩であり、歴史的質疑であり、映像エッセイであるとともに個人的な心の探求である」
★チリのピノチェト軍事独裁政権を倦むことなく糾弾し続けるグスマン監督は、第1部、第2部に続いて本作で三部作を完成させたことになる。広大なチリの脊柱アンデス山脈を舞台に、精神的探求者が語るビジュアルなエッセイのようです。数カ月前に完成させたばかりの新作がカンヌ映画祭のセレクションで特別上映されることについて「カンヌは私の仕事のために常に連携してくれている。チリの隠された歴史シリーズの第3部が、このような重要な映画祭で上映されるのは光栄なことです」と語っている。
★「わたしの国ではあらゆる場所に山脈がありますが、チリの国民にとっては殆ど見知らぬ領域同然なのです。『光のノスタルジア』で北を、『真珠のボタン』で南端を描き、今度は山脈の美しさを探求し、その神秘を明らかにするために、この広大な脊柱をフィルムにおさめる用意ができたと思いました」とグスマン。
★チリの製作者で配給を手掛けるアレクサンドラ・ガルビスは「この映画は大きな挑戦でした。しかし監督は、撮影がアクセスの難しかった高山にもかかわらず、肉体的な限界というものを感じさせなかった」と語っている。今年のクラシック部門にルイス・ブニュエルが特集され、フランス映画『黄金時代』(30)とメキシコ時代の『忘れられた人々』(50)が4K修整、『ナサリン』(58)が3K修整で上映されるようです。今年もセレブが顔を揃えて華々しく開幕したニュースが入ってきました。高がカンヌ、されどカンヌですか。
(撮影中のグスマン監督と撮影監督のサムエル・ラフ)
*『光のノスタルジア』の作品紹介、監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2015年11月11日
*『真珠のボタン』の作品紹介記事は、コチラ⇒2015年11月16日
第6回イベロアメリカ・プラチナ賞2019*結果発表 ― 2019年05月17日 15:59
予想通りアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』が大賞5冠を独占!
★開催したばかりのカンヌ映画祭はしばらくお休みして、去る5月12日に結果発表があった第6回イベロアメリカ・プラチナ賞授賞式のご報告。今回は偶数回なのでスペイン開催のはずですが、今回も昨年に引き続いてメキシコのカンクン近郊のリゾート地シカレ・リビエラ・マヤで行われました。気温が高く赤絨毯を踏んだシネアスト、セレブたちは汗ダクダクだったとか。総合司会は今回で2回目となるスペインのサンティアゴ・セグラとTVシリーズ女優賞を受賞したメキシコのセシリア・スアレスでした。
(総合司会者のセシリア・スアレスとサンティアゴ・セグラ)
★もう受賞作品はやる前から決まっていたようなもので、予想通りアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』が大賞5冠を独占し、サプライズ零%のガラ、作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞・録音賞の5カテゴリーです。メキシコ開催の授賞式でしたが、受賞が100%分かっていたにもかかわらず御大は姿を現しませんでした。どんな理由があったにせよ白けます。外野から「メキシコには住んでないよ」の声あり。2月にあった米アカデミー賞で外国語映画賞・監督賞・撮影賞の3冠を受賞していましたが、格が違うということでしょう。因みに外国語映画賞は来年から国際映画賞と名称が変わりますが、ルール変更はないそうです。
(第6回イベロアメリカ・プラチナ賞の受賞者一同)
*17カテゴリーの受賞作品・受賞者名は以下の通りです。
◎作品賞(フィクション)
「Roma」(『ROMA/ローマ』2018年12月14日よりNetflix配信)メキシコ
(製作者ガブリエラ・ロドリゲスと共同製作者ニコラス・セリス)
◎監督賞
アルフォンソ・キュアロン(『ROMA/ローマ』)
◎オペラ・プリマ初監督作品賞
「Las herederas」(『相続人』)パラグアイ、監督マルセロ・マルティネシ
(右端がマルセロ・マルティネシ監督)
◎女優賞
アナ・ブルン(『相続人』)
(喜びが爆発したアナ・ブルン)
◎男優賞
アントニオ・デ・ラ・トーレ (「El Reino」)スペイン、監督ロドリゴ・ソロゴジェン
◎脚本賞
アルフォンソ・キュアロン (『ROMA/ローマ』)
◎撮影賞
アルフォンソ・キュアロン (『ROMA/ローマ』)
◎編集賞
アルベルト・デ・カンポ (「El Reino」)
◎美術賞
アンヘリカ・ぺレア (「Pájaros de verano」『夏の鳥』)コロンビア、
監督クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラ
◎オリジナル音楽賞
アルベルト・イグレシアス (「Yuli」)スペイン、監督イシアル・ボリャイン
◎録音賞
セルヒオ・ディアス、スキップ・リーヴセイ、ホセ・アントニオ・ガルシア、
クレイグ・ヘニガン(『ROMA/ローマ』)
(『ROMA/ローマ』のキャスト&スタッフ一同)
◎作品賞(アニメーション)
「Un día más con vida」(『アナザー・デイ・オブ・ライフ』)スペイン、
監督ラウル・デ・ラ・フエンテ&ダミアン・ネノウ
◎作品賞(ドキュメンタリー)
「El silencio de otros」スペイン、監督ロバート・バハル&アルムデナ・カラセド
◎価値あるシネマ教育プラチナ賞
「Campeones」スペイン、監督ハビエル・フェセル
◎TVミニシリーズ賞
「Arde Madrid」スペイン
(インマ・クエスタ、パコ・レオン、製作者アンナ・R・コスタ、アンナ・カスティーリョ)
◎TVシリーズ女優賞
セシリア・スアレス (「La casa de las flores」『ハウス・オブ・フラワーズ』
2018年8月10日よりNetflix 配信)メキシコ、ブラックコメディ、制作マノロ・カーロ
◎TVシリーズ男優賞
ディエゴ・ルナ (「Narcos: México」『ナルコス:メキシコ編』
2018年11月16日よりNetflix 配信)米国の犯罪ドラマ、製作総指揮カルロ・ベルナルド他
◎プラチナ栄誉賞
ラファエル(スペインのシンガーソングライター、俳優)
(喉もご披露したラファエル)
(左から、プラチナ賞ディレクターのエンリケ・セレソ、栄誉賞受賞者ラファエル、
総ディレクターのミゲル・アンヘル・ベンサル、アドリアン・ソラル)
★ざっと以上のようでした。第1回2014年(『グロリアの青春』)と2018年(『ナチュラルウーマン』)の受賞国チリ、2015年(『人生スイッチ』)と2017年(『笑う故郷』)の受賞国アルゼンチンは、ゼロ個と沈黙を強いられました。2016年はコロンビアの『彷徨う大河』、今回コロンビアは『夏の鳥』が美術賞を受賞して面目を施しました。昨年はメキシコ開催でしたがメキシコはゼロ個、今年はTVシリーズを含めると7個でした。録音賞のみがグループ受賞で、他はアルフォンソ・キュアロンの一人勝ちでした。
★スペインは作品賞を受賞したことはありませんが、今回は男優賞・オリジナル音楽賞・編集賞・ドキュメンタリー賞・アニメーション賞・価値あるシネマ教育プラチナ賞・TVシリーズ作品賞の7カテゴリー、さらにプラチナ栄誉賞をイベリア半島に運んできましたから、もう言うことなしです。
★『ROMA/ローマ』に限ったことではありませんが、Netflixや米国の制作会社の存在感はTVシリーズの受賞作品にみられるように顕著になってきました。映画祭のコンペティション部門にノミネートされたばかりなのに、映画祭が終わると1ヵ月もしないでお茶の間で見られる。その速さには実際驚きます。最初からNetflixオリジナル作品なら分かりますが。
ペネロペ・クルス、第67回サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞に ① ― 2019年05月20日 10:51
ドノスティア栄誉賞にペネロペ・クルス、映画祭の「顔」にもなりました!
(公式ポスターを披露するホセ・ルイス・レボルディノス、撮影者:ニコ・ブストス)
★去る5月10日、第67回サンセバスチャン映画祭2019(9月20日~28日)のドノスティア栄誉賞と公式ポスターの発表がありました。1986年から始まったドノスティア栄誉賞にスペイン人シネアストが選ばれるのは、ペネロペ・クルスで5人目、女性としては2013年のカルメン・マウラに続いて2人目となります。フェルナンド・フェルナン=ゴメス(1999)、パコ・ラバル(2001)、アントニオ・バンデラス(2008)、受賞年齢45歳は最年少受賞者となります。因みに昨年の受賞者はジュディ・デンチ、ダニー・デヴィート、それに『万引き家族』の是枝裕和監督とベテラン揃いでした。どこの国際映画祭でも宣伝も兼ねて栄誉賞は海外から選ばれることが多く、ドノスティア賞もアメリカ勢が目立つ。そんななかでキャリアは申し分ないとはいえこの若さで選ばれるのは異例かもしれない。昨年のセザール栄誉賞受賞が刺激になったのかもしれない。
*セザール栄誉賞授賞式及びキャリア紹介記事は、コチラ⇒2018年03月08日/02月03日
★受賞者の喜びの弁は「ドノスティア賞受賞というエモーショナルな知らせに接し、このような素晴らしい栄誉を与えてくれたサンセバスチャン映画祭に感謝いたします。・・・サンセバスチャンは尊敬すべき国際映画祭というだけでなく、わが国で最も重要な映画祭、さらに私自身とても特別な思い入れのあるところです。そういうわけで若いときから訪れており、今は喜びに浸っております。本当に心からありがとうございます」とコメントを寄せました。
1個のオスカーとカンヌ、3個のゴヤ賞、1個のBAFTA、そしてセザール栄誉賞
★ペネロペ・クルス・サンチェス(マドリード1974年4月28日、45歳)、今は亡きビガス・ルナの『ハモンハモン』(92)でデビュー、ステージパパだった父親に守られて10代から荒波を越えてきた。その父親も鬼籍入り、デビュー作で共演したハビエル・バルデムと2010年結婚、二人の子供を育てながら才能に磨きをかけている。オスカー賞助演女優賞(ウディ・アレン『それでも恋するバルセロナ』08)受賞を含むノミネーション2回(ロブ・マーシャル『NINE』助女、アルモドバル『ボルベール<帰郷>』主女)、カンヌ映画祭2006ではカルメン・マウラ以下グループ6人で女優賞を受賞した(『ボルベール<帰郷>』)。ゴヤ賞はフェルナンド・トゥルエバの『美しき虜』、『それでも恋するバルセロナ』と『ボルベール<帰郷>』の3個、2016年のフリオ・メデム『あなたのママになるために』では製作者としてもデビューした。
(ハビエル・バルデムと共演した『それでも恋するバルセロナ』から)
★サンセバスチャン映画祭との関りも深い。アルバロ・フェルナンデス・アルメロの「Todo es mentira」(94)、ビガス・ルナの『裸のマハ』(99)、イタリアのセルジオ・カステリット『ある愛へと続く旅』(12)、2017年フェルナンド・レオン・デ・アラノアの「ラビング・パブロLoving Pablo」では、コロンビアのメデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバルの愛人を演じた。ペルラス部門のクロージング上映には監督とパブロを演じたバルデムと一緒に登壇、3000人収容のベロドロモ・デ・アノエタの観客を沸かせた。
★昨年のカンヌ映画祭2018ではイランのアスガー・ファルハディの『誰もがそれを知っている』(本邦公開6月1日)がオープニング作品となり、今年はアルモドバルの「Dolor y gloria」がノミネートされ、監督、スタッフともども大勢でカンヌに押し掛けている。こちらはドノスティア賞受賞者のアントニオ・バンデラスが監督の分身を演じ、クルスは彼の子供時代の母親になる。18日に上映された評判はまずまず、上映後10分間のオベーションに一同涙ぐんだニュースが伝わってきました。アルモドバル映画がカンヌで好評なのは久しぶりでしょうか。スペインでは既に公開されており、こちらも珍しく高評価、今度こそ期待してもよいでしょうか。
(左から、ノラ・ナバス、監督、クルス、バンデラス、アシエル・エチェアンディア、
レオナルド・スバラグリア、カンヌ映画祭レッド・カーペットにて)
★来年公開が予定されているオリヴィエ・アサヤスの「Wasp Network」に、エドガー・ラミレスやガエル・ガルシア・ベルナルなどと共演する。1990年代後半に米国に潜入した5人のキューバ人諜報員の実話をベースにしたスリラーのようです。またサイモン・キンバーグの「355」では、ファン・ビンビン、マリオン・コティヤール、ジェシカ・チャステイン、ルピタ・ニョンゴなどオスカー女優たちと競演する。これもスパイ・スリラーということです。いずれもアメリカ映画ですから言語は英語です。主役ではなさそうですが、なかなか忙しい。
イサベル・コイシェの新作「Elisa y Marcela」がNetflix配信前に劇場公開 ― 2019年05月21日 15:32
2週間限定スペイン公開5月24日、Netflix配信6月7日から
★5月13日、イサベル・コイシェがモノクロで撮った新作「Elisa y Marcela」がNetflix配信に先立ってスペイン公開がアナウンスされました。記録に残るスペイン最初の同性婚をした、二人の女性エリサとマルセラの勇気をテーマにした映画。2週間限定とはいえ、Netflixオリジナル作品がオンラインより先に劇場公開されるのは、ネット配信を優先するというNetflixの方針からすれば異例中の異例です。ベルリン映画祭2019でワールドプレミアされることが決定したとき、「私だって、できれば映画館を満席にしたいわよ」と語っていたコイシェ監督、希望通り映画館をいっぱいにすることができるでしょうか。本作の紹介記事並びにナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデスについては既にアップしております。
*「Elisa y Marcela」の内容&シネアスト紹介記事は、コチラ⇒2019年02月11日
(エリサ役ナタリア・デ・モリーナとマルセラ役グレタ・フェルナンデス)
★異例中の異例の例としては、アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』が思い出されます。ファンの要望にこたえるかたちで、日本でもネット配信後に数ヵ所の映画館で公開されました。こちらもモノクロ映画、クラシック映画ではない最新作を映画館で観るのは、不思議な感覚でした。パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』(12)、第84回アカデミー賞(作品・監督)賞を受賞したミシェル・アザナヴィシウスの『アーティスト』など、モノクロ映画も健在です。
アルモドバル新作「Dolor y gloria」が好評*カンヌ映画祭2019 ⑪ ― 2019年05月25日 11:47
フランス各紙誌の評価はトップを走っている!
(監督とバンデラスからキスを受けるペネロペ・クルス、19日の共同記者会見前)
★アルモドバルの「Dolor y gloria」が好評です。2017年の『ジュリエッタ』とは大分カンヌの雰囲気が違うようです。というのもフランスほか各紙誌の評価がトップを走っているから。当然のことだがパルム・ドール受賞と星取表は必ずしも一致しませんが確率は高い。22日に上映されたポン・ジュノの「Parasite」も好感度バツグンだし、今年はケン・ローチ以下、大物監督の新作も完成度が高いようなので独走というわけではありません。「パルムドールには拘っていない」と言ってるそうだが、本心ではないに決まっています。上映後の12分間のオベーションに一同うるうるだったそうです。
(オベーションをうける監督ほか出演者たち、ノラ・ナバス、バンデラス、クルス)
★19日午前に行われた共同プレス会見には監督の他、アントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルス、レオナルド・スバラグリア、アシエル・エチェアンディア、ノラ・ナバスが出席した。18日の上映日は明け方からイマイチで雨に見舞われたようですが、そんなことは些細なことで気にならなかったと語っていた。「今まで経験したこともない幸せな雨でした。昨夜のことは忘れることができないでしょう」ということでした。夜が壮観だったなら朝のインターナショナルな批評は成功を裏付けるものになる。フランスの各紙誌の評価は平均3.4点、3点以上は例年では少ない。実力者の一人ステファニー・ザカレックも最高点をつけている。パルムドールを予想する批評家は15人ちゅう11人、ホントかな。
(左から、ナバス、バンデラス、監督、クルス、エチェアンディア、スバラグリア)
(監督を挟んでバンデラスとクルス、共同記者会見)
★アルモドバル嫌いで常に辛口批評で有名なエル・パイス紙のコラムニスト、カルロス・ボジェロも「すれすれでパルムドール圏内にいる」が、審査委員長「アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ好みはテレンス・マリックの「A Hidden Life」、個人的にはケン・ローチの「Sorry We Missed You」に感動した」ということです。彼は『抱擁のかけら』を無視したコラムニストだが、「Dolor y gloria」スペイン公開時にはペネロペ・クルスの演技を褒めていた。いよいよ明日がコンペティション部門の発表です。
★発表が一日早い「ある視点」の結果は、当ブログ紹介のオリヴェル・ラセの「O que arde」が審査員賞(写真下)、評価が分かれたアルベルト・セラの「Liberté」が審査員特別賞、未紹介でしたがブラジルのカリム・アイノーズの「Vida invisível」がグランプリを受賞するなど収穫の多い年になりました。
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