審査員特別賞受賞作品「Esto no es Berlín」*マラガ映画祭2019 ⑮ ― 2019年04月17日 11:49
「Esto no es Berlín」は監督の半自伝的な作品
★イベロアメリカ金のビスナガに続いて審査員特別賞もメキシコのシネアスト、ハリ・サマの「Esto no es Berlín」が受賞しました。ほかに批評家審査員特別賞、アルフレッド・アルタミラノのデラックス銀のビスナガ撮影賞、マウロ・サンチェス・ナバロの銀のビスナガ助演男優賞と4冠に輝きました。本映画祭でメキシコがこんなに評価された記憶はなく、そもそもノミネーション自体がありませんでした。舞台設定が80年代と「Las niñas bien」とほぼ同じですが、所属している社会階級が異なれば、見えてくる世界も全く別の姿を現すというわけです。映画祭には監督の分身カルロスを演じたハビアニ・ポンセ・デ・レオンと本作には出演のなかった俳優ダニエル・ビジャルと3人で出席した。
(左から、ダニエル・ビジャル、サマ監督、ハビアニ・ポンセ・デ・レオン、マラガ映画祭にて)
★ハリ・サマHari Sama(本名Carlos)、1967年メキシコシティ生れ。監督、脚本家、製作者、ミュージシャン。Hariは通称、デビュー作「Sin ton ni Sonia」のクレジットはカルロス・サマ、以降本名と通称を混在させている。メキシコシティの中流階級が多く住んでいるロマス・ベルデスの出身。映画養成センター(CCC)の映画科卒、メキシコシティの音楽研究スタジオセンター(CIEM)で作曲法を学んだ。若いときから映画と音楽に多くの情熱を注いでいる。彼の映画には痛みと居場所探し、衝動的な闇と光が混在している。作品の多くが自伝的な要素をもち、登場人物の造形には彼自身が投影されている。茶道や禅に魅せられており、ドキュメンタリー「Sunka Raku」を撮っている。グアダラハラやモレリアなどの国内映画祭のほか、サンセバスチャン、上海、ビアリッツ・ラテンアメリカ、各映画祭に出品、受賞している。フィルモグラフィーは後述。
「Esto no es Berlín」(「This Is Not Berlin」)
製作:Catatonia Cine 共同La Palma de Oro Films
監督・脚本・編集・プロデューサー:ハリ・サマ
脚本:ロドリゴ・オルドニェス、マックス・スニノ
音楽:Joy Division、Roxy Music、Devo他多数
撮影:アルフレッド・アルタミラノ(撮影賞受賞)
編集:ロドリゴ・リオス、ヒメナ・クエバス
美術:ディアナ・キロス
衣装デザイン:ガブリエラ・フェルナンデス
メイクアップ:カリナ・ロドリゲス
プロデューサー:アレ・ガルシア、アントニオ・ウルダピジェタ、ベロニカ・バラデス
データ:メキシコ、スペイン語、2019年、ドラマ、105分、公開スペイン6月予定
映画祭・受賞歴:第16回モレリア映画祭2018のインプルソ・モレリア Cinépolis Distribución賞特別メンションを受賞。サンダンス映画祭2019「ワールド・シネマ」ドラマ部門(1月25日)、マラガ映画祭正式出品(3月16日)審査員特別賞・批評家審査員特別賞・撮影賞・助演男優賞受賞、トライベッカ映画祭(4月28日予定)、マイアミ映画祭イベロアメリカ部門、モレリア映画祭もアナウンスされている。
キャスト:ハビアニ・ポンセ・デ・レオン(カルロス)、ホセ・アントニオ・トレダノ(親友ヘラ)、ヒメナ・ロモ(ヘラの姉リタ)、マウロ・サンチェス・ナバロ(ニコ)、クラウディア・ガルシア(マウド)、アメリコ・ホランダーHollander(ティト)、アリ・サマ(エステバン)、マリナ・デ・タビラ(カルロスの母カロリナ)、フアン・カルロス・レモリナ(エミリオ)、ルミ・カバソス(スサナ)、フェルナンド・アルバレス・レベイルRebeil、他多数
ストーリー:1986年メキシコシティ、居場所の見つからない17歳の高校生カルロスの物語。うつ状態の母親、いつも不在の父親、退屈な友達、しかし有名なナイトクラブ<El Azteca>に足を踏み入れたことで世界が一変する。夜のアンダーグラウンドでは、ポストパンク、奔放なセックス、ドラッグが充満していた。親友ヘラ、パンクロックのヘラの姉リタへのプラトニックな愛、アートへのパッションなど、奥深いヒューマニズムと実存的なドラマが語られる。監督が辿った人生の一部がノスタルジックに語られる自伝的な要素を含んでいる。映画は眠り込んだ現代社会を目覚めさせるために激しく反逆的だった時代に観客を運んでいくだろう。 (文責:管理人)
(退屈な高校生活をおくっていた頃のカルロス、ハビアニ・ポンセ・デ・レオン)
(アートで生きる道を発見したカルロス)
(カルロスの親友ヘラ、ホセ・アントニオ・トレダノ)
★プレス会見のQ&Aでは「この映画はとても個人的な難解な映画で製作が難しかった。現代のスペインで評価してもらえてとても嬉しい」と監督。自分はとても保守的な環境で育ち、鬱ぎみの母親と父親はいつも不在の家庭でした。本質的な痛みを昇華させる方法をアートに求めた狂気の面白い人々と知り合うことで、私の人生は変わりました。つまりアートで生きる道があることを発見したのです。タトゥー、イヤリング、髪を染めること、同性愛が許される世界でした。自身はゲイでドラッグを常習していました。友人の多くが死んで、親友も90年代の初めにエイズで亡くなりました。この映画には当時の自分が投影されています。80年代のメキシコの若者の憧れの地は、ベルリン、ロンドンなどのヨーロッパ、メキシコの現実を考えないですむ美学や言語がとても必要だったのです。そこからタイトルが付けられました。
(自伝的作品と語るサマ監督、マラガ映画祭プレス会見、3月16日)
★大体こんな内容でした。本作にはトレードマークの帽子を脱いで鬘を被って登場します。主役の青年に自分のクリスチャン・ネームを付けたことからも分かるように、主人公は当時の監督の等身大かと想像します。脚本にロドリゴ・オルドニェスの助けを借り客観性をもたせようとしたのも、自身を語ることの難しさを感じたからのようです。
★キャスト紹介:主役のカルロスを演じたハビアニ・ポンセ・デ・レオンは当時16歳だった由。2011年TVシリーズでデビュー、2013年からの長寿TVシリーズ「Violetta」(160話)に出演、映画は本作が初めて。マラガではかなり大人っぽい感じでしたが、細い鼻すじの美形で女性ファンが付きそうです。一体にイケメン揃いなのは監督の好みかもしれない。親友ヘラ役のホセ・アントニオ・トレダノは映画初出演、アニメーションのボイス出演がある。助演男優賞を受賞したマウロ・サンチェス・ナバロは、2010年TVシリーズでデビュー以来テレビでの仕事が多く、お茶の間の人気度は高いようです。本作出演は2作目。
(ニコ役で助演男優賞を受賞したマウロ・サンチェス・ナバロ)
★ヘラの姉リタを演じたヒメナ・ロモは、2008年「Voy a explotar」でデビュー、映画とTVシリーズにかなり出演しているが脇役に甘んじている。現在進行中のマリアナ・ゴンサレスのデビュー作「Fractal」には主演している。アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』の演技で一躍脚光を浴び、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたマリナ・デ・タビラが,カルロスの鬱ぎみの母親役で出演している。
(パンクロッカーのリタを演じたヒメナ・ロモ)
(カルロスの母親を演じたマリナ・デ・タビラ、映画から)
*主なフィルモグラフィー*
1996「Una suerte de galleta」短編デビュー
2003「Sin ton ni Sonia」長編デビュー、グアダラハラ映画祭観客賞、モレリア映画祭出品
2005「La cola entre las patas」短編、グアダラハラ映画祭短編賞
2007「Tiene la tarde ojos」短編
2011「El sueño de Lu」モレリア映画祭栄誉メンション、上海映画祭正式出品
2013「Despertar el polvo」
2014「La tiara vacía」短編
2015「Sunka Raku: alegrñia evanescente」ドキュメンタリー
2015「El espacio que buscas」アルバロ・フェルナンデスとの共同監督
2016「Ya nadie toca el trombón」短編ドキュメンタリー
2017「Pinocho」
2019「Esto no es Berlín」省略
(TVシリーズは割愛)
最近のコメント