アリエル賞2016結果発表*『選ばれし少女たち』が大賞を独占!2016年06月01日 19:16

           ダビ・パブロス監督、両手にトロフィー

 

★今年58回目を迎えたアリエル賞、『選ばれし少女たち』の5個、“Gloria”の同5個、技術部門を制した“El más buscado”の4個という具合に3作に集中して幕を閉じました。なかで作品賞を含めて大賞を独り占めした『選ばれし少女たち』は、作品賞(カナナのパブロ・クルス)のほか監督賞・オリジナル脚本賞(ダビ・パブロス)・撮影賞(カロリーナ・コスタ)・新人女優賞(ナンシー・タラマンテス)、パブロスが両手にしているのは監督賞と脚本賞です。

 

           

            (両手にトロフィー、喜びのダビ・パブロス)

 

★本作はホルヘ・ボルピの同名小説“Las elegidas”に着想を得ている。原作は1970年代以降売春、人身売買の忌まわしい慣習の町として悪名高いトラスカラ州テナンシンゴの「ファミリー」に着想を得て書かれた小説。カナナのパブロ・クルスが映画化権を取り監督を探していた。若いダビ・パブロスに白羽の矢が立ち、しかし原文が難解なことから脚本をボルピに委ねた。ところが作家と監督の話合いの結果、場所をテナンシンゴから監督が育ったティフアナに移すとか、どんどん原作から離れてしまった。しかし原作と脚本に相違があるのはどの映画にも言えることで個人的にはノミネーションの段階からオリジナル脚本賞が妥当かどうか疑問に思っていました。ホルヘ・ボルピは今年の3月に来日して講演したのですが、後に監督も一緒だったと知りましたが、後の祭りでした。

 

★製作会社カナナについてはガエル・ガルシア・ベルナルディエゴ・ルナしか日本では紹介されていませんが、二人は俳優・監督と忙しく、実際にカナナを総括しているのはパブロ・クルスです。トロフィーも製作会社を代表して彼の手に渡りました。作品賞は製作者がもらう賞です。パブロ・クルスと監督のキャリア紹介は、カンヌ映画祭2015「ある視点」を参照してください。

 

       

      (トロフィーを高く掲げているのがパブロ・クルス、右後方に監督)

 

★カロリーナ・コスタの撮影賞受賞は嬉しい。カンヌ映画祭「ある視点」やラテンビートの紹介記事でも、彼女の画面構成、照明の当て方などを褒めたように記憶しています。ナンシー・タラマンテスはシンデレラ娘、まだ子供といってもいい15歳、キャリアはこれからです。

関連記事:カンヌ映画祭2015「ある視点」の記事は、コチラ⇒2015531

ラテンビート2015の記事は、コチラ⇒20151021

 

        文句なしのソフィア・エスピノサの女優賞受賞

 

★もう一つの5個受賞はクリスティアン・KellerGloria、女優賞(ソフィア・エスピノサ)・男優賞(マルコ・ペレス)・編集賞(アドリアナ・マルティネスパトリシア・ロメル)、メイクアップ賞(ダビ・ガメロス)・録音賞(マティアス・バルベロ他)の5賞です。

 

★女優賞は下馬評通りでした。他にジェラルディン・チャップリン(“Dolares de arena”)やハナ(ジャナ)・ラルイ(『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』)など、既にご紹介した映画のヒロインもおりましたが、ソフィア・エスピノサの迫力には及びませんでした。メキシカン・ポップやロック界のアイコン、現在も活躍中のグロリア・トレビの栄光と転落を素材にしたビオピックだから強い。ノミネーション以来、アカデミー会員の信頼を事実上得たも同然だったし、自身も受賞を確信していたでしょう。プロデューサーのセルヒオ・アンドラーデ役のマルコ・ペレスも男優賞を受賞した。アルフォンソ・キュアロンの『アモーレス・ペロス』で長編デビュー、今回、特殊効果賞以下4賞を受賞した“El más buscado”、キュアロンの息子ホナス・キュアロン(クアロン)の第2作目“Desierto”などに出演している。

 

    

                          (ソフィア・エスピノサ)

 

    

 (ガラの写真が入手できないマルコ・ペレス、映画から)

 

         実在の銀行強盗を描いたミステリアスな人生

 

★タイトルが二転三転したホセ・マヌエル・クラビオトのEl más buscado、特殊効果賞(アレハンドロ・バスケス他)、視覚効果賞(エドガルド・メヒア他)、衣装賞(ヒルダ・ナバロ)、美術賞(バルバラ・エンリケス)の4賞。脱獄を繰り返している実在の銀行強盗アルフレッド・リオス・ガレアナを素材にしている。2006年に撮った短編El charro misteriosoを土台にして出来たのが長編El más buscado”である。IMDbはこちらを採用しているが、最近タイトルをMexican Gangsterに変更した。多分アメリカでの公開を意識しているのかもしれない。『選ばれし少女たち』は実際のテナンシンゴの「ファミリー」に着想を得ているし、Gloria”は実在のモデルがいる。「事実は小説よりも奇なり」と、今後ビオピックが映画界を席巻するのではないかと危惧してしまいます。

 

      

              (“El más buscado”のポスター)

 

600 millas2賞は、助演男優賞(ノエ・エルナンデス)とガブリエル・リプステイン(リプスタイン)の初監督作品賞です。ベルリン映画祭2015「パノラマ」部門の初監督作品賞受賞作品、サンセバスチャン映画祭2015「ホライズンズ・ラティノ」部門ほか、国際映画祭で上映されていた。ノミネーションも14カテゴリーと多く、アカデミー賞メキシコ代表作品でもあったから、もう少し賞に絡むかと思っていましたが残念でした。批評家の評価は高かったのですが、メキシコ公開では期待を裏切る興行成績、両者の乖離が明白になった印象です。メキシコ監督としては『夜の女王』や『大佐に手紙は来ない』など、カンヌ映画祭の常連だったアルトゥーロ・リプステインの息子。プロデューサー、脚本家。『大佐に手紙は来ない』の製作者の一人として映画界入りした。父親も現役ですからライバルです。

 

    

          (トロフィーを手にしたガブリエル・リプステイン)

 

★残念ついでに、ロドリゴ・プラの『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』の脚色賞1個は如何にも寂しい。監督夫人のラウラ・サントゥリョの同名小説の映画化、脚本も彼女が手がけた。ということでオリジナル脚本賞にノミネーションされると考えていました。昨年の東京国際映画祭で上映され、監督とプロデューサーが来日して、Q&Aに出席した。

東京国際FF『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』の記事は、コチラ⇒2015113

 

★栄誉賞にあたる「金のアリエル賞」は、ロシータ・キンテロポール・ルデュク、共にメキシコ映画黄金期のシネアスト二人が受賞した。

 

   

          (体調崩して車椅子で登壇したロシータ・キンタナ)

 

★イベロアメリカ映画賞は、パブロ・トラペロの“El Clan”(アルゼンチン)、セスク・ゲイの“Truman”(スペイン)などを制して、コロンビアのチロ・ゲーラ『大河の抱擁』でした。誰が受賞しても納得のいくノミネーションでした。3作とも既に紹介記事をアップしております。


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