イマノル・ウリベ*新作のテーマはETA ― 2014年11月30日 20:33
★9月初めにイマノル・ウリベの新作“Lejos del mar”の発表があり、10月末か11月半ばには舞台となるアルメリアでクランクインするとアナウンスされていました。予定通り11月10日に監督、主演者エドゥアルド・フェルナンデス(サンティ役)が現地入りして撮影が始まりました。12月中旬までかかる由、カンヌ映画祭2015に間に合わせたい、とプロダクション・マネージャーのエルネスト・チャオ氏。スペインでの公開は秋になります。
(ウリベ監督、エレナ・アナヤ、エドゥアルド・フェルナンデス)
★物語は、「パロット・ドクトリン」*が適応されてソト・デル・レアル刑務所を出所したETAの元テロリストのサンティが、かつて同房だった友人と再会するためアルメリアへの旅を決意する。彼らのテロで犠牲になった男の娘マリナ(エレナ・アナヤ)をサンティは愛するようになるだろう。他にもこういうラブ・ストーリーあったのではないかと突っ込みたくなりますが、まだ全体像が明らかになっておりません。キャスト陣も二人の主役とホセ・ルイス・ガルシア・ぺレス、ナチョ・マテオしかアップされておりません(IMDb)。ウリベのETA物は、『ミケルの死』(84)にしろ『時間切れの愛』(94)にしろ「愛」がテーマでしたが。
*パロット・ドクトリン Doctrina Parot:2006年2月28日にスペイン最高裁判所が判決に基づいて制定された一般名称。ETAのテロリスト組織のメンバー、アンリ・パロットの上告によって制定されたことから彼の名がついた。いわゆる複数の罪を足し算して禁固1000年とか科するのは国家にとっても不利益とする考え方。1973年制定された刑法でも、既に刑期は最長30年とされていた。2008年7月3日、禁固2700年のイネス・デル・リオ・プラダ(ETAメンバー)が18年間の刑期で自由の身になった(スペインは死刑廃止国)。
★イマノル・ウリベImanol Uribe:1950年、エルサルバドルの首都サンサルバドル生れ、両親はバスクのギプスコア出身でスペインに戻った。マドリードの公立ジャーナリズム学校卒、マドリード国立映画研究所の監督科の学位を取る。1975年プロダクションZeppo Films設立、1979年Cobra Films、他を設立した。1979年のドキュメンタリー“El proceso de Burgos”でデビュー、これは1970年ブルゴスで行われたETAメンバー6人の軍事裁判を再現したもの。第2作がセゴビアの刑務所を脱獄する“La fuga de Segovia”(81)、バスクの急進的政党abertzaleのメンバーであるミケルの不可解な死を描いた“La muerte de Mikel”(84、『ミケルの死』の邦題で第1回スペイン映画祭1984で上映)が、バスク三部作と言わる初期の代表作品。この映画祭には故ピラール・ミロー団長以下、故アントニオ・バルデム、カルロス・サウラ、ハイメ・デ・アルミニャン、他若いウリベ監督も来日した。
(ミケルを演じたイマノル・アリアスもギプスコア出身、『ミケルの死』)
★第1回ラテンビート上映の“El viaje de Carol”(02、『キャロルの恋』)は、キャロルに扮したクララ・ラゴが来日したり、その愛くるしさも幸いしたのか公開された。ただ『ミケルの死』や『時間切れの愛』を見ていた観客には物足らなかったかもしれない。以上の4作が字幕入りで見られた作品。他にコメディ“El rey pasmado”(91)も、ゴヤ賞1992のオリジナル脚色賞、音楽・美術・音響・衣装デザイン・メイクアップ賞の他、フアン・ディエゴが助演男優賞を受賞した。ウリベは寡作のほうですが、下準備も入念にするタイプ、比較的賞に恵まれている。(写真下は、揃ってゴヤ賞にノミネートされた『時間切れの愛』の出演者たち、ゴチック体は受賞者)
(左から、カンデラ・ペーニャ、ペポン・ニエト、主演ルス・ガブリエル、
主演カルメロ・ゴメス、助演ハビエル・バルデム)
★ウリベ監督にとってアルメリアは思い出深い土地、18年前に『ブワナ』をここ国立公園のガータ岬(Cabo de Gata)で撮影した。その折り歩き回ったので公園内は隅々まで知り尽くしているとか。今回は難しい立場に立つ主人公のテロリズムについての考えを語ることになる。『時間切れの愛』を完成した後の1996年ごろから構想していたテーマだったが、撮るには時代が早すぎることもあって、今日まで持ち越してきてしまったという。監督としては『ミケルの死』、続く『時間切れの愛』の集大成として“Lejos del mar”を撮りたいと考えているようです。この3作が後には「バスク三部作」と言われるようになるのではないか。
★プロデューサーのアントニオ・ペレスによると、自分は仕事柄「多くの脚本を読んでいるが、一読してこれはイケルと直感した」、完成度の高い脚本で、間違いなく来年の話題作になるだろうと、獲らぬ狸の皮算用、製作費は約200万ユーロ、製作は『エル・ニーニョ』も手掛けたセビーリャのMaestranza Films社。プロダクション・マネージャーのエルネスト・チャオも「全面的にウリベを信頼している」と断言、主役二人の演技は折り紙つき、予想通りになることを期待したい。
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