カンヌ映画祭2014*コロンビア発の短編がパルムドール2014年05月30日 19:29

           カンヌ映画祭短編部門パルムドールはコロンビアの新人

      

★コロンビアのシモン・メサ・ソトのLeidi(コロンビア=英、16分)は本命視されていませんでしたが、短編部門のパルムドールを受賞しました。短編はUPしませんでしたが受賞したことだし、いずれ長編を撮るだろうと期待してアウトラインをご紹介いたします。ベルギー・アニメの父といわれるラウル・セルヴェのようにパルムドール受賞後も中短編しか撮らない監督もおります。しかし日本でも話題を呼んだ『アマロ神父の罪』のカルロス・カレラやジム・ジャームッシュのように過去の受賞者は長編を撮っています。今年の審査委員長アッバス・キアロスタミ(1940年テヘラン生れ)から手渡されていましたが、彼自身の処女作「パンと裏通り」(1970)も10分の短編でした。まだ詳しい情報が少ないのですが、分かった範囲で監督のキャリア、ストーリーなどをご紹介。

   

            

                        (授賞式でのシモン・メサ・ソト監督)

 

シモン・メサ・ソトSimón Mesa Soto:コロンビア第二の都市であるアンティオキア県都メデジン生れの28歳、誕生日前なら1985年生れか。アンティオキア大学マルチメディア&視聴覚コミュニケーション科卒、ロンドン・フィルム・スクールの映画監督科マスターコースで学ぶ奨学資金を得て留学、監督コースの他、撮影監督、撮影技師のプロジェクトに参加。中編Back Homeがロンドン・ナショナル・ギャラリーの録画(再放送用フィルム)部門の一部になった。受賞作はロンドン・フィルム・スクールの卒業制作として撮られた。5ヵ月前に完成しており既に何ヵ所かの映画祭で上映されているようです。

 

★今年の短編部門の応募作品は128ヵ国から3450本の中から9本が選ばれました。日本からも佐藤雅彦他の「八芳園」がエントリーされていました。選ばれるだけでも容易ではありませんが受賞となれば快挙でしょうね。映画発展途上国コロンビアのメディアが騒ぐのも当然です。カンヌ本体とは別団体が組織している「批評家週間」にノミネートされていた同世代のフランコ・ロジィのGente de bienが無冠に終わった鬱憤を解消したかたちになりました。

本作の紹介は、コチラ⇒2014年05月08

 

ストーリー シングルマザーのレイディLeidi は、小さい息子を抱えて母親と一緒にメデジン北部の共同集落で暮らしている。親としての責任を果たそうとしない赤ん坊の父親アレクシスを探しに出掛けるが・・・。レイディはここメデジンではありふれた自分の身の上話を語りはじめる。

 

    

        (息子の父親を探しにいくレイディ)


 
★彼女はここで暮らしている将来が全く描けない多くの若い母親の一人にすぎない。「レイディのようなメデジンで大きくなった女の子ならここでは簡単に出会うことができる。キアロスタミが『レイディが恋人に凭れかかるシーンを見たとき、これはパルムドールに値するシーンだと感じた』と言ってくれた。僕は胸がいっぱいになって・・」とインタビューで語っています。ポスターにもなったシーンでしょう。

  


★「これは生れ故郷メデジンの話ですが、レイディのような人物はラテンアメリカなら珍しい存在ではありません」。受賞後の記者会見では、「私の国とラテンアメリカの問題が凝縮されており、それを若い女性の視点から描きたかった」と語った。また「受賞は自分のキャリアに大きなインパクトを与えてくれた。しかしこれで有頂天にならず地道に努力していきたい」とも。

 

★本作は、大先輩監督アンティオキア出身のビクトル・ガビリアやイタリア・ネオレアリズモの作風に近く、シンプルで飾らない物語が展開するようです。ビクトル・ガビリアはRodrigo DNo futuro1990)とLa vendedora de rosas1998)がカンヌのオフィシャル部門に選ばれており(2作とも未公開)、前者は国際的な麻薬組織メデジン・カルテルが牛耳っていた時代のメデジンが舞台、20歳を待たずしてこの世を去っていく若者たちの青春残酷物語。麻薬戦争、私設軍隊パラミリタールやFARCに代表されるゲリラによって土地を奪われた国内難民の急増、コロンビア特有の階層社会が背景にあります。

 

★最近のコロンビアは国情が改善されたとはいえ、和平交渉は未だ道半ば、経済の二極化が深刻になっており、国内難民約500万人(50万ではありません)は「世界一」とアフリカ難民の追随を許さない。2003年の「映画法」成立後、ガビリアの次の世代アンドレス・バイス(『暗殺者と呼ばれた男』)、より若いリカルド・ガブリエリ(『ラ・レクトーラ』)などを当ブログでご紹介してきましたが、またより若い監督がカンヌで認められたことは嬉しい。

 

過去の短編部門パルムドール受賞者

ラウル・セルヴェ1928年ベルギーのオースティン生れ。1979年にHarpya(「ハーピア」アニメ)が受賞。

カルロス・カレラ1962年メキシコ・シティ生れ。1994年にHéroe(アニメ)が受賞。『アマロ神父の罪』(公開2003)の他、『ベンハミンの女』(同1996)、『差出人のない手紙』(同2000)など。

ジム・ジャームッシュ1953年オハイオ州生れ。1993年に「コーヒー&シガレッツ/カリフォルニアのどこかで」が受賞。本作を含めて撮りためていた短編11編を2003年にオムニバス映画『コーヒー&シガレッツ』として完成させた(公開2005)。

 

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