フアン・アントニオ・バヨナにレトロスペクティブ賞*マラガ映画祭2018 ②2018年03月24日 18:18

       『怪物はささやく』のバヨナ監督、レトロスペクティブ賞受賞 

 

レトロスペクティブ賞は、貢献賞、栄誉賞の色合いが濃く、どちらかというとベテラン勢が受賞することが多かった。当ブログ誕生後の過去4年間を遡る受賞者は、2014ホセ・サクリスタン1937)、2015イサベル・コイシェ1960)、2016グラシア・ケレヘタ1962)、昨2017年はフェルナンド・レオン・デ・アラノア1968)でした。1975年生れのフアン・アントニオ・バヨナは、輝かしいキャリアの持ち主とはいえ、世代的には一回りほど若くベテラン枠には入らない。今年から賞名が日刊紙「Málaga Hoy」とのコラボレーションとなりPremio RetrospectivaMálaga Hoyに変更されました。

  

 

★マラガ映画祭には特別賞として、前回アップのマラガ賞以下、リカルド・フランコ賞エロイ・デ・ラ・イグレシア賞銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞「金の映画」などがあり、コンペティション発表前に決まりしだい順次アナウンスされます。先頭を切って131日に発表されたのが本賞でした。今回の受賞者は長編3作すべてがヒットした、批評家からも観客からも受け入れられた稀有な監督、全作が劇場公開されました。日本語ウイキペディアでも詳しい情報が入手できますので簡単なデータ紹介にとどめます。

 

フアン・アントニオ・バヨナ Juan Antonio Bayona197559日バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACの監督科出身、Mis vacasiones99)、El hombre esponja02)など、短編多数を制作する。1993年、長編デビュー作『クロノス』を手にシッチェス映画祭に出席していたギレルモ・デル・トロより、将来的に制作支援を確約してもらえ、それが果たされたのが「母子三部作」の第1El orfanato『永遠のこどもたち』)、製作総指揮をデル・トロが担いました。カンヌ映画祭2007でプレミアされ、翌2008年のゴヤ賞新人監督賞を受賞した。

   

  

 

2012年「母子三部作」の第2Lo imposible『インポッシブル』)は、ハリウッド俳優を起用した英語映画にもかかわらず国内外で空前のヒット作となる。国内だけでも600万人以上が映画館に足を運び、ゴヤ賞5冠、彼は監督賞を受賞した。2004年スマトラ島沖地震の津波に巻き込まれたカタルーニャ一家の実話がもとになっている。ナオミ・ワッツ演じた母親マリア・ベロンがものした記録を、前作と同じ脚本家セルヒオ・G・サンチェスが脚色した。スペイン映画としては製作費$45,000,000は半端ではなかったが、トータルで$180,300,000を叩き出し、その功績のお蔭か、翌2013年の映画国民賞に歴代最年少で選ばれた。スペイン文化省とスペイン映画アカデミーが選考母体、格式はゴヤ賞より上でしょうか。時の文化教育スポーツ大臣出席のもとサンセバスチャン映画祭で授与式が行われる。2013年は消費税が3倍近く急騰した年だったことから、「教育を疎かにし文化にたいしては消費税増税をした」と、文化教育に冷たい政権に苦言を呈するという異例の受賞スピーチをして話題になった。

    

  

(国民党ラホイ政権の文化相ホセ・イグナシオ・ウェルトから授与されたバヨナ監督)

 

2014年、アメリカのテレビ局ショウタイムShowtime が企画し、サム・メンデス他によってプロデュースされたゴシック・ホラー、TVシリーズPenny Dreadful(第1話・第2話)を監督する。翌年WOWOWが「ナイトメア~血塗られた秘密」という邦題で放映された。

 

2015年、Oxfam Intermón のために短編ドキュメンタリー9 días en Haití37分、仮題「ハイチでの9日間」)を撮る。世界の極貧国の一つと言われるハイチの現状、開発協力の重要性、危機的状況からの緊急的脱出の必要性、またハイチの子供たちの目を通して、チャンスを得られる権利を訴えたドキュメンタリー。

 

          

      (自身出演した短編ドキュメンタリー9 días en Haitíのポスター)

 

2016年「母子三部作」の第3Un monstruo viene a verme(『怪物はささやく』)、本作はゴヤ賞2017では最多受賞の9冠、うち彼は監督賞を受賞した。

 

2017年、セルヒオ・G・サンチェスのホラー・スリラーEl secreto de Marrowboneをプロデュースする。ゴヤ賞2018新人監督賞にノミネートされた。サンチェスは『永遠のこどもたち』と『インポッシブル』の脚本家。

 

2018年、Jurassic World: El reino caídaを撮る。「ジュラシック・ワールド」シリーズの第5作、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮、201868日スペイン公開予定、日本公開は邦題『ジュラシック・ワールド/炎の王国』で713日がアナウンスされている。他にグスタボ・サンチェスの長編ドキュメンタリーI Hate New Yorkの製作を手掛ける。ニューヨークのアンダーグラウンドで生きる4人の女性アーティスト、トランスジェンダー活動家を追ったドキュメンタリー、本作は今年のマラガ映画祭で上映される予定。