ブラジルSF映画 『神の愛』*ラテンビート2019 ⑧ ― 2019年11月08日 12:04
ブラジルの若手ガブリエル・マスカロの近未来映画『神の愛』

★ラテンビート2019、作品紹介が最後になったガブリエル・マスカロの『神の愛』(「Divino Amor」)は、近未来2027年のブラジルが舞台、真の愛は決して裏切らないかどうかが語られる。サンダンス映画祭2019「ワールドシネマ・ドラマ」部門でスタート、以来毎月のように世界のどこかの映画祭で上映されている。2月のベルリン映画祭パノラマ部門、3月にはマイアミ、グアダラハラ、香港など、なかでグアダラハラ映画祭では、FEISALを受賞しているほか、南アメリカ共和国のダーバン映画祭では、監督賞、ディエゴ・ガルシアが撮影賞を受賞している。ドキュメンタリーで出発、短編を含めて受賞歴多数。

(左から、編集者フェルナンド・エプスタイン、同リヴィア・セルパ、ディエゴ・ガルシア、
ジラ・パエス、ガブリエル・マスカロ監督、ベルリン映画祭2019フォトコール)
『神の愛』(「Divino Amor」、英題「Divine Love」)
製作:Desvia / Malbicho Cine / Snoeglobe Films / Jiraja / Mer Film / Bord Cabre Films / Canal Brasil 他
監督:ガブリエル・マスカロ
脚本:ガブリエル・マスカロ、Rachel Daisy Ellis、Esdras Bezerra、ルカス・パライソ
音楽:フアン・カンポドニコ、サンティアゴ・モレロ、オタヴィオ・サントス
撮影:ディエゴ・ガルシア
編集:リヴィア・セルパ、エドゥアルド・セラーノ、フェルナンド・エプスタイン、George Cragg
プロダクション・デザイン、美術:ターレス・ジュンケイラ
キャスティング:ガブリエル・ドミンゲス
衣装:リタ・アセベド
録音:ファビアン・オリヴェル
メイクアップ:Tayce Vale
製作者:レイチェル・デイジー・エリス、他共同製作者多数
データ:製作国ブラジル、ウルグアイ、デンマーク、ノルウェー、チリ、スウェーデン合作、ポルトガル語、2019年、SFドラマ、101分。公開ブラジル6月、ロシア8月、ウルグアイ9月、ポルトガル10月、以下予定ノルウェー12月、オランダ2020年1月、他
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2019「ワールドシネマ・ドラマ」部門出品、ベルリン映画祭パノラマ部門でワールドプレミア、マイアミFF正式出品、グアダラハラFF FELSAL賞、ダーバンFF(南アフリカ共和国)監督賞・撮影賞(ディエゴ・ガルシア)、イスタンブールFF、ミネアポリス・セント・ポールFF、ブエノスアイレスFF(BAFICI)、モスクワFF、ウルグアイFFイベロアメリカ部門、シドニーFF、メルボルンFF、リマFF、ワールドシネマ・アムステルダムFFスペシャル・メンション、チューリッヒFF、バンクーバーFF、ロンドンFF、ラテンビートFF、他多数
キャスト:ジラ・パエス(ジョアナ)、ジュリオ・マシャード(ダニロ)、テカ・ペレイラ(ダルヴァ師)、エミリオ・デ・メロ(牧師)、クライトン・マリアノ(郵便配達人ホドリゴ)、スージー・ロペス(洗浄者アマンダ)、マリアナ・ヌネス(リジーア)、トニー・シルバ(洗礼師)、カルム・リオ(ジョアナの息子、ナレーター)、ガブリエル・マスカロ(郵便配達人)、以下多数
ストーリー:2027年ブラジルは、福音派の教会が国民の日常生活のあらゆる分野を組み込んでいた。天上の愛のレイブが開催され、信仰の相談が日常化している。42歳になるジョアナは、結婚の危機を離婚で解決しようとする夫婦を救済するために設置された公証人事務所で働いている。更に夫婦関係をたもてるよう援助している宗教グループ「神の愛」のメンバーでもあった。しかしジョアナも夫ダニロも、夫婦の危機という問題を抱えこんでいた。最後の手段として神に近づいていくが、その努力に神の恩寵はまだ届かない。2027年は目の前に差し迫っている。マスカロが警告するブラジル人の信仰、愛、性が語られる。 (文責:管理人)


(ジョアナ役ジラ・パエス、ダニロ役ジュリオ・マシャード)
差し迫った警告的な寓話――ブラジル人の信仰心、愛、性が語られる
★ガブリエル・マスカロは、1983年生れ、監督、脚本家、撮影監督、製作者、俳優、ビジュアルアーティスト。ドキュメンタリー作家として出発、2008年の「KFZ -1348」に続いて撮った「Um Lugar ao Sol」(09)では、アルゼンチンBAFICIでFEISAL賞・スペシャル・メンションを受賞、「Avenida Brasília Formosa」(10)、「Doméstica」(12)などを撮る。長編映画第1作「Ventos de agosto」(ブラジル・ウルグアイ・オランダ)がロカルノ映画祭2014のスペシャル・メンション、ブラジル映画祭では自身が手掛けた撮影で、撮影賞を受賞した。本作で俳優デビューもしている。

★国際的な注目を集めたのが第72回ベネチア映画祭2015オリゾンティ部門に出品された第2作目「Boi Neon」(「Neon Bull」)、特別審査員賞を皮切りに数々の受賞歴を誇る。トロント映画祭では「今年のトロントのA級ランクの作品」と絶賛され、オナラブル・メンションを受けた。他カルタヘナFF作品賞、ハンブルクFF批評家賞、ハバナFF特別審査員賞、リマFF撮影賞(ディエゴ・ガルシア)、リオデジャネイロFF作品・監督・脚本・撮影賞、サンパウロ芸術批評家協会賞APCAトロフィー、トランシルベニアFFFIPRE、マラケシュFF監督賞、アデレードFF国際ヒューチャー賞、イベロアメリカ・フェニックス賞2016では脚本・撮影賞を受賞(本賞は資金難で2019年度は中止)した他ノミネーション多数。第3作「Divino Amor」が国際映画祭巡りをしているのは、第2作目の成功が寄与している。ブラジルの若手監督として、同世代のなかでも最も大胆で才能ある監督の一人。監督は新作に俳優として出演している。

(第2作目「Boi Neon」のポスター)


(特別審査員賞のトロフィーを手にした監督、第72回ベネチア映画祭2015ガラにて)
★撮影監督ディエゴ・ガルシアは、マスカロ監督の第2作目「Boi Neon」で、先述したように各映画祭で撮影賞を受賞している他、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクンの『光りの墓』(15)、メキシコのカルロス・レイガダスの『われらの時代』(18、共同)、俳優ポール・ダノの監督デビュー作『ワイルドライフ』(18)なども撮っている。今年7月公開されたばかりのアメリカ映画、キャリー・マリガンとジェイク・ギレンホールが夫婦役を演じている。国境を越えて活躍するのが若手シネアストのトレンドらしい。

(ディエゴ・ガルシア、ベルリン映画祭2019プレス会見にて)
★プロダクション・デザインと美術を手掛けたターレス・ジュンケイラもクレベール・メンドンサ・フィリオの『アクエリアス』(16、共同)、続いて今年の米アカデミー賞ブラジル代表作品の最終候補だった「Bacurau」、アナ・ミュイラートの『セカンドマザー』(15)と話題作に起用されている若手です。
★レイチェル・デイジー・エリスは、イギリス生れ、2004年にブラジルに移住してきた製作者、脚本家、監督。マスカロ監督とはドキュメンタリー「Um Lugar ao Sol」以来タッグを組んでいる。2012年の「Doméstica」、フィクション全3作と、マスカロ映画の殆どを手掛けている。他の監督ではアルゼンチンのベンハミン・ナイシュタットのミステリー「Rojo」を共同で製作している。サンセバスチャン映画祭2018でナイシュタットが監督賞、主演のダリオ・グランディネッテイが男優賞を受賞した話題作。『神の愛』では脚本も共同執筆、2018年に短編ドキュメンタリー「Mini Miss」を監督している。
*ベンハミン・ナイシュタットの「Rojo」紹介記事は、コチラ⇒2018年07月16日
★主人公ジョアナを演じたジラ・パエスは、1996年、ローゼンベルグ・カリリーの「Corisco & Dadá」で主役のダダを演じ注目された。ブラジリアFFやフロリアノポリスFFなどで主演女優賞を受賞した。公開作に、クラウディオ・アシスの『マンゴー・イエロー』(03)でブラジリアFF審査員特別賞、ブレノ・シウヴェイラの『フランシスコの2人の息子』では、若くして7人の子持ちになった母親を演じ、ポルトガルのシネポートで女優賞を受賞、他クアリダーデ・ブラジル賞、コンチゴ映画賞などを受賞しているベテラン女優。

(ジョアナ役のジラ・パエス、映画から)

(ジラ・パエス、ベルリン映画祭2019プレス会見にて)
★ジュリオ・マシャードは、2006年タタ・アマラルの「Antonia」でデビュー、主にTVシリーズに出演している。代表作はマルセロ・ゴメスの「Joaquim」(17)で主人公のジョアキン・ジョゼ・ダ・シルバ・シャヴィエルを演じた。ブラジル独立運動の先駆者で宗主国ポルトガル政府に逮捕され処刑された、ブラジルの英雄ジョアキン(別名チラデンテス)を虚実織り交ぜて描いたビオピック。続いてガブリエラ・アマラルの「A Sombra do Pai」(18)に出演、リオ・ファンタジック・フェスティバル2018で審査員賞を受賞している。

(本作撮影中のジュリオ・マシャードと撮影監督のディエゴ・ガルシア)
★既にラテンビートは開幕しております。人名表記などに誤りがあれば、鑑賞後に訂正したいと考えております。
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