アルゼンチンからロミナ・パウラの第1作*サンセバスチャン映画祭2019 ⑳2019年09月10日 11:34

      ホライズンズ・ラティノ第6弾――ロミナ・パウラの第1作「De nuevo otra vez

 

      

 

★女優としてキャリアを積んできたロミナ・パウラの初監督作品です。いわゆる女性の危機と言われる40歳を迎え、一念発起して監督したデビュー作De nuevo otra vezのテーマは、女性の権利、母性、ゆれ動く気まぐれな欲求などを語っている。主役ロミナを自ら演じ、自身の母親と4歳になる息子も共演しており、フィクションとノンフィクションが混在しているようです。ロッテルダム映画祭2019Bright Future」部門に正式出品、他にインディリスボア・インディペンデント映画祭リスボン・シティ賞ノミネート、ウルグアイ映画祭イベロアメリカ部門作品賞を受賞している。ロミナ・パウラは、サンティアゴ・ミトレの「Estudiante」(11)でアルゼンチン・アカデミー2011の新人女優賞を受賞している。本作はラテンビート2012『エストゥディアンテ』の邦題で上映された。

 

      

             (自作を語るロミナ・パウラ、20196月)

    

      

     (エステバン・ラモチェとロミナ・パウラ、『エストゥディアンテス』から)

 

      

 De nuevo otra vez(「Again Once Again」)

製作:Varsovia

監督・脚本:ロミナ・パウラ

音楽:ヘルマン・コーエン

撮影:エドゥアルド・クレスポ

編集:エリアネ・カッツ

美術:パウラ・レペット

製作者:ルシア・チャバリ、フロレンシア・スカラノ(以上エグゼクティブ)、ディエゴ・ドゥブコブスキー

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン語・ドイツ語、2019年、ドラマ、84分。公開アルゼンチン201966

 

映画祭・受賞歴:ロッテルダム映画祭2019Bright Future」部門に正式出品、インディリスボア・インディペンデント映画祭リスボン・シティ賞ノミネート、シンガポール映画祭正式出品、ウルグアイ映画祭イベロアメリカ部門作品賞を受賞、他

 

キャスト:ロミナ・パウラ(ロミナ)、モニカ・ランク(母親モニカ)、ラモン・コーエン・アラシ(息子ラモン)、マリアナ・チャウド(マリアナ)、パブロ・シガル(パブロ)、デニーズ(ドゥニーズ)・グロエスマン(デニーズ)、エステバン・ビグリアルディ(ハビエル)、他

 

ストーリー:ロミナは息子ラモンを連れて実家に戻ってきた。ラモンの父親とは縁を切って、一時的に母親モニカの家に身を寄せている。ブエノスアイレスを訪れてから、自分がいったい何をしたいかはっきりさせたいと考えている。ドイツ語の教師をしながら独身時代のように夜の外出を試みる。自分が何者か知る必要に迫られて、原点に立ち戻りつつ、家族の過去を再建しようとする。予測可能な困難を避けながら、自ら選んだ道で生き生きしてくる。映画的探究は勿論のこと、洞察力のある、感受性豊かなドラマになっている。家族とは、母性とは、女性の権利とは、人生の半ばでゆれ動く欲望、女性の危機が語られる。                  (文責:管理人)

 

    

        40歳は女性の曲がり角――まだ冒険の時間が残されている

 

ロミナ・パウラ(ブエノスアイレス1979)は、アルゼンチンでは幾つもの顔をもつよく知られた才媛である。作家として3冊の小説に加えて短編集1冊、戯曲家、舞台演出家、女優、主にマティアス・ピニェイロ映画の常連である。例えば「El hombre robado」(07)、「Todos mienten」(09)、「Viola」(12)、「La princesa de Francia」(14)、「Hermia & Helena」(16)とピニェイロの長編全作に起用されています。そして今回の「De nuevo otra vez」で監督と脚本家としてのキャリアが加わった。「執筆したり、演出したり、演じたりしているなかで、映画を監督したら違う何かが見えてくるのではないかと冒険がしたくなった。身近だが普遍性のあるテーマにしたいと思った」とその動機を語っています。

 

         

          (処女作「¿ Vos me querés a mí ?」の表紙、2005年刊)

 

★出発点を個人的なテーマに選んだのは何故か。それは「母親を撮ることがそもそものアイデアだったから」と日刊紙「クラリン」のインタビューで語っている。「息子と私はいつも一緒に暮らしているが、母とはまったく違う。だから母を撮る一番いい方法は、ドイツ語を話している母の家を舞台にすることだった。わたしの家族はドイツ語を使っていない。母を出演させることで何かを掴みたかった」とその理由を語っている。家族を被写体にすることの困難さや母親や息子を演じさせることで二人が変わってしまうことはなかったか、という質問には「簡単だったかどうかは分からないが、予測に反してスムーズに進行した。確かに言えるのは、二人を自由気儘にさせたので撮影中は満足していたようだった。しかし母はいくつかのシーンではドラマチックな演技をしていた。これまで彼女にそんな才能があるなんて気づかなかったが、結果的にはそれは素晴らしいサプライズだった」と応えている。然り人間は演技する動物です。

 

    

                   (ロミナ、息子ラモン、母モニカ、映画から)

 

     (ラモンとロミナ)

 

★本作が最初で最後のフィルムでないのは当然ですが、文学や演劇のように簡単にはいかない。制作会社探しだけでなく諸々の準備が山ほどある。本作が評価されることも重要だが、まず観客を惹きつけるアイデアが生まれることが先決でしょうか。現代は女性でも何か冒険ができそうな時代になってきたので、次回作を期待したい。

 

 

★ベネチア映画祭も金獅子賞にトッド・フィリップス『ジョーカー』を選んで終幕しました(97日)。もうこれで主役のホアキン・フェニックス2020年アカデミー男優賞受賞は決りでしょうか。スペイン語映画も大賞受賞には及びませんでしたが、コンペ外で何作か目に入りましたので別途アップします。忘れていけないのが、ペドロ・アルモドバル栄誉金獅子賞受賞でした。


ニューディレクターズ全14作が発表*サンセバスチャン映画祭2019 ⑩2019年08月13日 14:49

         全容が明らかになったニューディレクターズ部門―チリとアルゼンチンから

 

730日、ホセ・ルイス・レボルディノス総ディレクターとニューディレクターズ部門の代表者イドイア・エルルベによって全14作品が発表になりました。スペイン語映画は、既に発表になっていたスペイン映画2作(La inocenciaLas letras de Jordi)は紹介済み、加えてアルゼンチン映画、チリ映画各1作ずつ、合計4作がノミネートされたことになりました。アジアからは関係がぎくしゃくしている日本と韓国から仲良く1作ずつ選ばれました。他、アルファベット順にブルガリア、米国、イスラエル、リトアニア、ノルウェー、イギリス、スイス、チュニスが選ばれましたが大方が合作、各国から満遍なく選ばれている印象です。

 

ルシア・アレマニーのLa inocencia」の紹介は、コチラ20190724

マイデル・フェルナンデス・エリアルテLas letras de Jordi」は、コチラ20190724

    

    

  (全14作を発表する、ホセ・ルイス・レボルディノスとイドイア・エルルベ、730日)

 

『よあけの焚き火』(「Bonfire at Dawn」)日本、土井康一

キャスト:大蔵基誠、大倉康誠、鎌田らい樹、坂田明 

650年の伝統を守る大蔵流狂言方の父と子の物語。大蔵流狂言方の実の親子が初出演している。ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜている。89日よりフォーラム山形で上映開始、全国各地で展開中。監督(横浜1978)、スタッフ、キャスト紹介の詳細は公式サイトで。

    

   

 

 

 

Algunas bestias / Some Beastsチリ、ホルヘ・リケルメ・セラーノ

 Cine en Construccion 35 Toulouse 受賞作品、2019年、監督第2作目、スリラー、97

キャスト:パウリナ・ガルシア(ドロレス)、アルフレッド・カストロ(アントニオ)、コンスエロ・カレーニョ(コンスエロ)、ガストン・サルガド(アレハンドロ)、アンドリュウ・バルグステッド(マキシモ)、ミジャレイ・ロボス(アナ)、他

ストーリー:ある家族がチリ南部の海岸沿いにある無人島に、観光ホテル建設の夢を抱いて喜び勇んでやってくる。本土から彼らを船に乗せてきた男が姿を消すと、家族は島の囚われ人となってしまう。水もなく寒さと不安で気力も失せ、家族の各々が隠しもっている悪霊が露わになるなかで、共同生活は次第に困難になっていく。

4日間で撮ったデビュー作Camaleón16)がロンドン映画祭などで高評価だったことが、比較的早い第2作に繋がった。「チリ社会に根源的に存在する悪霊がテーマ」と監督。

 

    

 (アルフレッド・カストロ、パウリナ・ガルシア)

     

   

 

Las buenas intenciones / The Good Intentionsアルゼンチン、アナ・ガルシア・ブラヤ

キャスト:ハビエル・ドロラス(グスタボ)、アマンダ・ミヌヒン(アマンダ)、エセキエル・フォンタネラ、カルメラ・ミヌヒン、セバスティアン・アルセノ、ハスミン・スタート、フアン・ミヌヒン

ストーリー1990年代のブエノスアイレス、アマンダは10歳、弟と妹がいる。子供たちは離婚した両親の家を行ったり来たりして暮らしている。父親と一緒のときは、アマンダはできる限り家事をこなして大人のように振るまわざるを得ない。それは父親が子供たちを自身よりほんの少しだけ愛しているようなとても風変わりなタイプの人間だったからだ。ある日のこと、母親が父親のきちんとできない生活からは程遠い外国を申し出る。その提案はアマンダを不安に陥れることになる。

監督デビュー作、1974年ブエノスアイレス生れ。実際の3人姉弟が演じる。

    

  

 (父親と子供たちをバックにしたポスター)

 

         

                          (きちんとした性格の母親)

  

「監督週間」のもう1作はアルゼンチン映画*カンヌ映画祭2019 ⑥2019年05月05日 21:00

         アレホ・モギジャンスキイの第6作目「Por el dinero

 

★今年の「監督週間」は24作中16作がデビュー作というなかで、アルゼンチンのアレホ・モギジャンスキイPor el dineroは第6作目と異例、少し変わった作風の監督という印象です。2009年の長編第2Castroがブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIで作品賞を受賞、続いてロカルノ、バンコク、ワルシャワ、ロンドン、ウィーン、テッサロニキほか各国際映画祭巡りをしました。BAFICI 4月下旬開催の映画祭で、マラガ映画祭と重なることから定期的に作品紹介はしておりませんが、カンヌのような大きな映画祭へ繋がるのでアルゼンチンの若手監督には重要な映画祭です。

 

           

                (キューバのカストロとは無関係なCastro」のポスター

 

★モギジャンスキイが編集を担当したマリアノ・ジナス監督のLa flor18)を製作したEl Pampero Cine が手掛けました。今作はBAFICI 2018の作品賞受賞作品、若い監督をサポートしている制作会社、ロカルノ、ニューヨーク、ウィーン各映画祭で上映された話題作です。モギジャンスキイは編集者として若手監督とのコラボを多く手掛けています。編集者というのは大体が監督との共同作業がもっぱらで目立たない存在ですが、これなくしては完成しない。マリアノ・ジナスは反対にモギジャンスキイの第4El escarabajo de oro14)の脚本を共同執筆するなどしている。エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』やロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』をベースにして作られたたコメディ・アドベンチャー映画です。

   

       

        (監督・脚本・編集のEl escarabajo de oro」のポスター

   

★前作5作まではすべてBAFICIに出品されましたが、Por el dinero」はいきなり「監督週間」でワールドプレミアされます。詳細を入手できていませんが、どうやら201610月に舞台で上演された同タイトルの映画化のようです。その際は女優でダンサーのルチアナ・アクーニャと共同で演出、主演しましたが、映画のほうはモギジャンスキイが一人で監督しました。

 

  

             (演劇Por el dinero」のポスター

   

   

         

     

                    (演劇Por el dinero」の舞台から4人の出演者

 

 

Por el dinero(「For the Money」)

製作:El Pampero Cine

監督・脚本:アレホ・モギジャンスキイ

脚本:ルチアナ・アクーニャ(共同執筆)

音楽:ガブリエルChwojnik

撮影:セバスチャン・アルペセジャArpesella

衣装デザイン:マリアナ・ティランテTirantte

 

データ・映画祭:製作国アルゼンチン、スペイン語、2019年、社会風刺コメディ。カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品。

 

キャストルチアナ・アクーニャ(ダンサー)、ガブリエルChwojnik(ミュージシャン)、マチュー・ペルポイント(フランス人ダンサー)、アレホ・モギジャンスキイ(シネアスト)

 

ストーリー:現代社会に生きるアーティストたち4人の現状にフォーカスした政治的風刺コメディ。一人はミュージシャン、二人は舞踊家、もう一人はシネアスト。私たち「どうやって生きていく?」「映画製作の資金は?」「生活費はどうやって稼ぐ?」「愛かお金かどっちがいい?」「すべきことは何?」エトセトラ。もしかしたら困難なテーマについて何かヒントが見つかるかもしれません。(文責:管理人)

 

★舞台と同じメンバーが出演していることからプロットに変更はなさそうですが、映像が入手できないので、これ以上は深入りできません。下の写真はたまたま見つかったもので、グーグルで目にするのは大体舞台で上映されたときの写真です。

 

    

(どういうシチュエーションか分からないが見つかったフォト)

 

     

              (ルチアナ・アクーニャ、後ろ向きはモギジャンスキイか)

 

アレホ・モギジャンスキイAlejo Moguillansky 1978年ブエノスアイレスうまれ、監督、脚本家、編集者、俳優、製作者。2004年映画編集者として出発、監督デビュー作はBAFICI出品のLa prisionera05)、以下の長編6作のほか、長編ドキュメンタリーや短編ドキュメンタリーを撮っている。第5作となるLa vendedora de fosforos2017The Little Match Girl」)が話題になった。

 

     

              (アレホ・モギジャンスキイ、2018年)

 

2005La prisionera」監督・脚本・編集

2009Castro」同上 BAFICI 2009 作品賞受賞作、

       インディリスボン映画祭2010国際映画批評家連盟FIPRESCI賞受賞作

2013El loro y el cisne同上、BAFICI 2013 スペシャル・メンション

2014El escarabajo de oro」監督・脚本・編集

2017La vendedora de fosforos」監督・脚本・編集

2019Por el dinero」同上、省略

 

『オフィシャル・ストーリー』にラテン金の映画賞*マラガ映画祭2019 ⑪2019年03月31日 11:53

     「ラテン金の映画賞」にルイス・プエンソの『オフィシャル・ストーリー』

    

     

 (養父母に扮したエクトル・アルテリオとノルマ・アレアンドロ、養女役アナリア・カストロ)   

 

★今回から「ラテン金の映画賞」が始まり、第1回目はルイス・プエンソのアルゼンチン映画『オフィシャル・ストーリー』La historia oficialが選ばれました。1986年に南米大陸に初のアカデミー外国語映画賞のオスカー像をもたらした映画、さらにゴールデン・グローブ賞も受賞しており、両賞を受賞した唯一のアルゼンチン映画でもある。その他カンヌ映画祭1985審査員エキュメニカル賞、養母を演じたノルマ・アレアンドロが女優賞を受賞している。そのほか銀のコンドル賞など数々の国際映画賞を受賞しており、今回の「ラテン金の映画賞」受賞は文句なしと言えるでしょうか。アルゼンチンが次にオスカー像を手にするには2009年のフアン・ホセ・カンパネラ『瞳の奥の秘密』まで待たねばならなかった。

 

2016年、公開30周年を記念して修復版が再上映されています。公開30年後のプレス会見で、民主化されたとはいえ軍事独裁政権(197683)の総括はなされていなかったから「撮影中には多くの脅迫や嫌がらせをうけた。当時4歳だった養女役のアナリア・カストロが撮影のため外出できないよう自宅を見張って妨害した」と監督は語っていた。また「脚本については、五月広場の祖母たちから貴重なデータや協力を受けた」とも語っています。有名なのは五月広場の母親たちですが、逮捕時に妊娠していた娘たちが出産後直ちに殺害されていたことが既に分かっていたから、孫捜索に切り替わっていた。『オフィシャル・ストーリー』で政府高官夫妻が養女にした子供の母親は、そういう犠牲者の一人でした。オフィシャルな歴史と現実は、往々にして一致しないものです。

   

      

  (30年後の養母役ノルマ・アレアンドロ、監督、養女ガビを演じたアナリア・カストロ)

 

321日、来マラガできなかったプエンソ監督の代理として、映画修復録音部門の責任者で、アルゼンチンの国立映画製作学校長、国立映画視聴覚芸術協会INCAA員のカルロス・アバテがビスナガのトロフィーを受け取った。彼はアルゼンチンのベテラン監督カルロス・ソリンマルセロ・ピニェエロフアン・ホセ・カンパネラの録音を手掛けている。プレゼンターはマラガ・フェスティバル・プログラム委員会のメンバーの一人ミリト・トレイロ氏でした。

    

       

          (カルロス・アバテとミリト・トレイロ、321日)

 

ルイス・プエンソの代表作

1985La historia oficial」(『オフィシャル・ストーリー』)アルゼンチン

   監督・脚本・製作、公開

1989Old Gringo」(『私が愛したグリンゴ』)アメリカ、監督・脚本、公開

1992La Peste」(『プレイグ』)フランス、監督、カミュの小説『ペスト』の映画化、公開

2004La puta y la ballena」(『娼婦と鯨』)アルゼンチン=西、監督・脚本・製作、DVD

2007XXY」(『XXY~性の意思~』)アルゼンチン、製作、監督ルシア・プエンソ、BSスカパー

 (以上字幕入りで観られるもの)

 

短編銀熊賞にアルゼンチンの「Blue Boy」*ベルリン映画祭20192019年02月21日 17:20

            マヌエル・アブラモヴィチの短編「Blue Boy」が銀熊賞

 

★短編部門の銀熊賞と審査員賞を受賞したBlue Boy19m)の監督マヌエル・アブラモヴィチ(ブエノスアイレス、1987)は、ドキュメンタリーの監督、脚本家、撮影監督、製作者。ブエノスアイレスの国立映画制作学校卒、撮影監督としてそのキャリアをスタートさせている。サンセバスチャン映画祭2018SSIFF)「サバルテギ-タバカレラ」部門でご紹介したロラ・アリアスTeatro de guerraで撮影を手掛けました。本作によりイベロアメリカ・フェニックス賞2018の撮影賞にノミネートされています。先にベルリン映画祭「フォーラム」部門でワールドプレミアされ、エキュメニカル審査員賞とC.I.C. A.E.アート・シネマ賞の受賞作でもありました。

Teatro de guerra」の作品紹介は、コチラ20180805

 

       

 

★マヌエル・アブラモヴィチが国際舞台に登場したのは、2013年の短編ドキュメンタリー、カーニバルのクイーンになりたい少女を追ったLa Reina19m「The Queen」)で、監督、撮影、脚本、製作のオールランドを担当、多くの国際映画祭で短編賞を受賞しました。うち代表的なものは、アブダビ、フライブルク、グアダラハラ、ハンプトン、カルロヴィ・ヴァリ、ロスアンゼルス、シアトルほか、各映画祭で短編ドキュメンタリー賞を受賞しました。

 

 

 

★長編ドキュメンタリーの代表作は、第67回ベルリン映画祭2017「ジェネレーション14plus」に出品されたSoldado72m「Soldier」)、上記のTeatro de guerra」同様SSIFFの「サバルテギ-タバカレラ」部門に出品されました。コロンビアのカリ映画祭で審査員特別賞、マル・デル・プラタ映画祭でFIPRESCIを受賞。軍事独裁から民主化されて30数年、戦争のないアルゼンチンで志願兵士になるとはどういうことか、という青年を追ったドキュメンタリー。

   

    

 

『サマ』17)撮影中のルクレシア・マルテル監督の姿を追ったドキュメンタリーAños luz72m「Light Years」)は、ベネチア映画祭2017ドキュメンタリー部門に出品され、Venezia Classici Awardにノミネートされた。『サマ』もコンペティション外ではありましたが出品された。アブラモヴィチによると「『サマ』撮影中のマルテル監督を主人公にしたドキュメンタリーを撮るアイデアをメールしたら」、マルテルから「私が主人公になるの?」と返ってきた。最初は俳優にあれこれ指示している監督を誰が見たいと思うかと乗り気でなかった。マルテルは凝り性で『サマ』も大幅に遅れ、春の一大映画イベントのカンヌには間に合わなかった。彼女がどの部分に拘り、どんな方法で撮るかは、アブラモヴィチだけでなく後進の映画作家には参考になったのではないか。『サマ』出演のダニエル・ヒメネス=カチョ、ロラ・ドゥエニャスなども登場する。

 

         

      

  

   

(中央がマルテル、左側にサマ役のダニエル・ヒメネス=カチョ)

 

★今回受賞したBlue Boyの舞台はドイツの首都ベルリン、まだIMDbにはアップされていないので詳細はアップできないが、ベルリンにあるバー「ブルー・ボーイ」でセックス・サービスを稼業にしている、ルーマニア出身の7人の青年たちを追ったドキュメンタリー。彼らはビジネスや旅行で訪れるお客様を満足させるために役者に変身する。彼らの目は鏡のように私たちの社会を照射する。セックス労働者の自立、都会の孤独が語られるようです。(字幕英語)

 

監督・撮影・製作:マヌエル・アブラモヴィチ、

メイン・プロデューサー:Bogdan Georgescu

録音:フランシスコ・ペデモンテ

キャスト:フローリン、ラズヴァン、ステファン、マリウス、ミハイル、ラファエル、ロベルト

 

   

  (左から、短編銀熊賞のマヌエル・アブラモヴィチと製作者Bogdan Georgescu

 

     

         (誰か同定できないが出演者の青年、映画から)

 

テディー賞&テディー・リーダー賞はアルゼンチン*ベルリン映画祭20192019年02月19日 17:34

    サンティアゴ・ロサの「Breve historia del Planeta Verde」はパノラマ部門

 

       

テディー賞テディー・リーダー賞のダブル受賞作品Breve historia del Planeta Verdeは、パノラマ部門出品のアルゼンチン、独、ブラジル、西の合作映画。サンティアゴ・ロサSantiago Loza は、昨年のマランボという踊り手が男性だけというアルゼンチン伝統のフォルクローレをテーマにしたMalambo, el hombre buenoに続いてパノラマに選出された。前作は賞に絡むことができませんでしたが、監督紹介を駆け足でいたしました。今年はテディー賞とテディー・リーダー賞の2冠を手にし、出演者やスタッフ総出で現地入りしており、揃って祝杯をあげることができました。

Malambo, El Hombre Bueno」の監督&作品紹介は、コチラ20180225

 

           

              (両手に花のサンティアゴ・ロサ)

 

           

        (赤絨毯のスタッフとキャストたち、ベルリン映画祭2019

 

 Breve historia del Planeta Verde(「Brief Story from the Green Planet」)

製作:Constanza Sanz Palacios Films(アルゼンチン)/ Anavilhana Filma(ブラジル)

    / Autentika Films(独)/ Zentropa Internacional Spain(西)

監督・脚本:サンティアゴ・ロサ

撮影:エドゥアルド・クレスポ

音楽:ディエゴ・バイネル Bainer

編集:ロレナ・モリコーニ、Iair Michel Attias

製作者:コンスタンツァ・サンツ・パラシオス、ダビ・マタモロス、アンヘレス・エルナンデス、ラウアナ・メルガソ、パウロ・ロベルト・ディ・カルバーニョ、Gudula Meinzolt

 

データ:製作国アルゼンチン=独=ブラジル=西、スペイン語、2019年、ドラマ、90

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2019パノラマ部門、第33回テディー賞、テディー・リーダー賞受賞。ランコントル・デ・トゥールーズ2019出品(322日~31日)

 

キャスト:ロミナ・エスコバル(タニア)、ルイス・ソダー(ペドロ)、パウラ・グリンスパン(ダニエラ)、エルビラ・オネット、アナベラ・バシガルポ、他

 

物語:タニアはブエノスアイレスでディージェーDJをしているトランス女性、ペドロはレギュラー・ダンサー、ダニエラはバーでウエイトレスをしている。三人は子供のときから土地の学校に通い、共にいじめられっ子だった。タニアは祖母が亡くなったという知らせを受け取る。タニアは祖母とある約束をしていた。そこで二人の友人を誘って祖母の過去を遡ろうと決心する。祖母はある授かり物を残しており、彼女の晩年の数年間を一緒に暮らしていたその風変わりな生物体を隠していたのだ。その生物体に永遠の平和がもたらされるような惑星に戻すというミッションが三人に与えられる。それは異星人にとってもタニアにとっても手遅れになる前に成し遂げねばなず、三人は旅に出発する。友情と誠実、そして受諾の試練が語られるロードムービー。 (文責:管理人)

 

      

                   (旅に出発するダニエラ、タニア、ペドロ、映画から)

 

        ジャンルの垣根を取り壊す、人間的な温もりに満ちている

 

★一応ドラマにジャンル分けしましたが、SF的な要素、寓話的な要素、ファンタジーでもあり、ミックスされてメタファー探しでもあるようです。サンティアゴ・ロサ(アルゼンチンのコルドバ1971年)は、ベルリナーレでの受賞は初めてですが、既に実績のある監督です。受賞スピーチでは「この映画は私のアイデンティティについて語っており、そういう作品での受賞は私のキャリアにとっても重要です。ロミナ・エスコバル―主人公ですが―は、彼女の人生で経験したことのないような限りない愛をベルリンで受け取りました。アルゼンチンやブラジルではトランスの人々にとって非常に厳しい時代です・・・これは違いを受け入れる人々の友情についての映画であり、友人たちに助けられ、彼らと一緒に映画を完成させました。私はその惑星出身です。彼らを大切に思っています」と語りました。

 

      

(スピーチするロサ監督、隣はプロデューサーのコンスタンツァ・サンツ・パラシオス) 

 

     

       (アニタ役のロミナ・エスコバルの目にご注目、映画から) 

 

★ビジュアルな側面から見ると、1980年代のエンターテインメント映画、例えば成長物語の古典と称されるロブ・ライナーの『スタンド・バイ・ミー』(86)やスピルバーグが製作総指揮をとった『グーニーズ』との関連があり、映像的にはアンドレイ・タルコフスキーのSF 『ストーカー』(79)やアントニオーニ映画を連想させるという。140秒程度の予告編からも感じ取れるが、赤ちゃんのような紫色の異星人は、眠れる森の美女のように横たわっている。三人も地球では異星人のようなものですが、ここがこんなにややこしい惑星だと知っていたら来なかったでしょう。冒頭はブエノスアイレスのゲイ・ショーで始まるようですが、フラッシュバッグで『E.T.』を見るところではモノクロとか、いろんなものがミックスされているようです。

 

   

(初めて異星人に対面したアニタ、ダニエラ、ルイス)

 

   

                       (眠れる森の美女のような異星人)


『夢のフロリアノポリス』*ラテンビート2018あれやこれや⑦2018年11月14日 14:41

           後半1日目はアナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』でスタート

 

★第5回イベロアメリカ・フェニックス賞の結果が発表になっておりますが、記憶が薄れないうちにラテンビートの感想を先に。後半は『夢のフロリアノポリス』、『ベンジーニョ』、『夏の鳥』、最終上映となった『アナザー・デイ・オブ・ライフ』4本を鑑賞しました。アルゼンチンの監督アナ・カッツ『夢のフロリアノポリス』(アルゼンチン・ブラジル・仏、アルゼンチン語・ポルトガル語、106分)は、パンフレットでブラジル映画の特集欄に入っていたこともあって、スペイン語映画ではないと思っていた方がいらしたかもしれない。4本のなかでは一番空席が目立っていて勿体なかった。言語だけでなく両国の国民性の違いがアイロニーを込めて語られ、シリアス・コメディとしては若干長すぎましたが楽しめました。本作Sueño Florianópolisについては、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門にエントリーされた折り、ストーリー、キャスト、監督フィルモグラフィーなどを紹介しています。

『夢のフロリアノポリス』の紹介記事(配役は下記に再録)は、コチラ20180921

 

          ブラジル映画でなく、やはりアルゼンチン映画です

 

A: 舞台は1992年のブラジルのリゾート地フロリアノポリス、25年前ほどのお話とはいえ両国のお国柄は変わらない。アルゼンチンは債務不履行を性懲りもなく繰り返している国、90年代初頭は正義党(ペロン党)のメネム大統領時代で、2001年の国家破産前夜だった。そういうブエノスアイレスから精神分析医をしているペドロとルクレシアの夫婦が、年頃の子供二人とフロリアノポリスにオンボロ車でやってくる。

B: 一方、アルゼンチン一家を迎えるブラジルは、南米第一の人口を抱える汚職大国、1992年のインフレ率は1110%という信じられないハイパー・インフレだった。

 

    

  (マルコも荷物持ちを手伝ってフロリアノポリスの梅に到着した一家、中央が娘フローラ)

 

A: そんな事態になってもめげないブラジルに、マンネリムードの夫婦がバケーションにやって来た。目下お試し別居中だがバケーションは別というわけです。せっかく一緒にきたのだから久しぶりにセックスもいいか(笑)。医者という職業柄中流階級に属しているが台所状態は中流のイメージとは程遠く、朝食に出たパンを昼食用にそっとトートバッグに詰め込んだりして笑わせる。

B: まだ二人だけだった頃、夫婦は来たことがあるという設定、暮らし向きも今より良かったらしく、もっと高級なホテルに滞在していた良き思い出を引きずっている。予約したコンドミニアムは耐え難く、途中ガス欠が取り持つ縁で知り合ったブラジル人のマルコの別荘に宿替えする。

 

A: その別荘というのがマルコの自宅で、彼の家族はもっと狭い家に移って稼ぎ時の夏場の商売に精を出す。借り手も貸し手も経済状態はイマイチ、魅力的なのはタダで泳げる海と素晴らしい景観、週末にマルコの元恋人ラリッサのバーで開催されるカラオケでのサンバのリズムというわけです。互いに自国の言葉で話すからチグハグになることもあり、その意思疎通のあやが面白さの一つになっている。

B: 字幕だけでは分からないおもしろさです。ややこしい話、具合の悪い話になると、「えっ、なんて言ったの?」と通じないふりをする。

 

       

        (人生は短いのだからと波乗りに興じるマルコとペドロの家族、

         左から、フリアン、ペドロ、ルクレシア、ラリッサ、マルコ)

 

A: お互い見えないところでは相手国の悪口を言ってるが、表面的には教養ある大人らしく友好ムードに終始する。これが正しい国際関係というものです。

B: 別居中なのだから相手の自由は尊重しないといけない。というわけでルクレシアはマルコと、ペドロはラリッサとつかの間の恋のアバンチュールを楽しむが・・・

A: 理性と感情は理屈通りにいかないのが世の常、バツの悪さもさりながら二人の微妙な心の揺れも見所の一つである。

 

   

                  (ガードの堅いルクレシアに言い寄る伊達男マルコ)

 

   

     (にこやかに談笑しているが、心穏やかでないルクレシアとラリッサ)

 

B: ルクレシアを演じたメルセデス・モラン(サン・ルイス、1955)は、カルロヴィ・ヴァリ映画祭で女優賞を受賞した。

A: 彼女はパンフでの紹介以外にも、サンセバスチャン映画祭2018の開幕作品だったフアン・ベラEl amor menos pensadoリカルド・ダリンとタッグを組んでいる。同じような離婚の危機を迎えた夫婦の機微を描いたロマンティック・コメディです。こちらはアルゼンチンでは大ヒットした。

B: ハリウッドと違うのは、少々太めの熟女でもヒロインに起用されることでしょう。ハリウッドでは40代はもはや90代のおばあさんが常識、熟女で主役を演じられるのはメリル・ストリープくらいででしょうか。

    

       

   (ペドロのラリッサとの不倫告白に、自分を棚に上げて機嫌を損ねるルクレシア)

 

A: ペドロ役のグスタボ・ガルソンは、1955年ブエノスアイレス生れの俳優、脚本家。1981年デビューのベテラン。数多くのTVシリーズに出演、映画ではロリー・サントスのスリラー「Qué absurdo es haber crecido」の主役、『人生スイッチ』が大ヒットしたダミアン・ジフロンの「El fondo del mar」で2003年、銀のコンドル賞クラリン・エンターテインメント賞男優賞を受賞しています。

B: ラテンビート2016では『名誉市民』の邦題で上映された、ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンのコメディ『笑う故郷』にも脇役だが出演している。

 

A: 夫婦の二人の子供を演じたホアキン・ガルソンマヌエラ・マルティネスは、彼の実子だそうです。フローラ役のマヌエラはラストで両親を窮地に陥れます。

B: 冒頭に張られた伏線通りになりました。まったく笑ってなどいられません。

A: アルゼンチン・コメディのファンにはお薦めの映画、大阪、横浜会場で上映されます。なお監督紹介は前回アップしております。

 

    

(カルロヴィ・ヴァリ映画祭「審査員特別賞」のトロフィーを手にしたアナ・カッツ監督)

 

 

 付録・キャスト紹介

キャスト:グスタボ・ガルソン(夫ペドロ)、メルセデス・モラン(妻ルクレシア)、ホアキン・ガルソン(息子フリアン)、マヌエラ・マルティネス(娘フロレンシア、フローラ)、マルコ・ヒッカ(ブラジル人マルコ)、アンドレア・ベルトラン(マルコの元恋人ラリッサ)、カイオ・ホロヴィッツ(マルコの息子セザル)、他

 

El amor menos pensado」の紹介記事は、コチラ20180814    


アナ・カッツの「Sueño Florianópolis」*サンセバスチャン映画祭2018 ㉑2018年09月21日 12:39

       「ホライズンズ・ラティノ」第4弾―カルロヴィ・ヴァリのFIPRESCI受賞作品

 

       

★「ホライズンズ・ラティノ」部門12作品のうち3作が女性監督、うちアルゼンチンのアナ・カッツの新作コメディSueño Florianópolis」は、カルロヴィ・ヴァリ映画祭2018に正式出品され、既に国際映画批評家連盟賞 FIPRESCI ほか審査員特別賞、主演のメルセデス・モランが女優賞を受賞している。アナ・カッツは過去にもサンセバスチャン、カンヌ、サンダンスなどの映画祭にエントリーされている監督、紹介がアルゼンチンに偏ってしまうので迷っていましたが、やはり今年の目玉の一つであるのでアップすることにしました。

 

        

(トロフィーを手に喜びのアナ・カッツとメルセデス・モラン、カルロヴィ・ヴァリFF2018

 

 Sueño Florianópolis(「Florianópolis Dream」)2018

製作:Bellota Films(仏、ドミニク・Barneaud/

    El Campo Cine(アルゼンチン、ニコラス・Avruj/ Laura Cine(同、アナ・カッツ)/

      Groch Films(ブラジル、カミラ・Groch/ Prodigo Films(同、ベト・ガウス)

監督・脚本・製作:アナ・カッツ

脚本:(共)ダニエル・カッツ(アナ・カッツ「Los Marziano」)

撮影:グスタボ・ビアッツィBiazzi(サンティアゴ・ミトレ『パウリナ』

     『エストゥディアンテス』)

編集:アンドレス・タンボルニノ(アナ・カッツ「Mi amiga del parque」)

美術:ゴンサロ・デルガド(『ウィスキー』)

音楽:エリコ・テオバルド(ブラジル)、マクシミリアノ・シルベイラ

      (「Mi amiga del parque」)

製作者:ニコラス・Avruj(エグゼクティブ、アルゼンチン『家族のように』)、ディエゴ・レルマン(アルゼンチン)、カミラ・Groch(ブラジル)、ベト・ガウス(同)、フランセスコ・シビタ(同)、ドミニク・Barneaud(仏)ほか

 

データ:製作国アルゼンチン=ブラジル=フランス、スペイン語・ポルトガル語、2018年、コメディ・ドラマ、106

映画祭・受賞歴:カルロヴィ・ヴァリ映画祭201874日)、国際映画批評家連盟賞・審査員特別賞・女優賞受賞。トロント映画祭(96日)、サンセバスチャン映画祭(924日)、シカゴ映画祭(1012日)、他

 

キャスト:グスタボ・ガルソン(夫ペドロ)、メルセデス・モラン(妻ルクレシア)、ホアキン・ガルソン(息子フリアン)、マヌエラ・マルティネス(娘フロレンシア、フロール)、マルコ・ヒッカ(ブラジル人マルコ)、アンドレア・ベルトラン(マルコの元恋人ラリッサ)、カイオ・ホロヴィッツ(マルコの息子セザル)、他

 

物語1992年夏、ルクレシアとペドロの夫婦は、二人のティーンエイジャーの子供フリアンとフロレンシアを連れて休暇を過ごすため、蒸し暑いブエノスアイレスを逃れてブラジルのリゾート地フロリアノポリスにやって来た。夫婦は少し前から別居をしていたがバカンスの計画は中止しなかった。ブラジル人のマルコの別荘を借り、マルコの元ガールフレンドのラリッサともどもバカンスを満喫することに。浜辺では波乗り、カラオケ、水中散歩、言葉の壁を越えて幾つか恋も生まれ、子供たちは子供たちで、大いにブラジルの休暇を楽しんでいたが、陽気なサンバのリズムにも次第に飽きがきて・・・思わぬ事態に遭遇することに。

 

      

 (左から、メルセデス・モラン、監督、ニコラス・Avruj、カルロヴィ・ヴァリFF2018

 

1990年代のアルゼンチンでは、夏のバカンスはブラジルのリゾート地に行くのが中流階級のステータスだったらしい。国家破産を何度も繰り返し、国際的な援助のお蔭で救われても「喉元過ぎれば熱さを忘れる」が得意な国民は、プライドばかり高く実績に見合わない贅沢好き。現在も通貨ペソの下落でIMFに泣きついている。アルゼンチンはラテンアメリカでは、ブラジルと並んで映画先進国、大いに楽しませてもらっているが、政治経済的には問題国、隣国からは嫌われている。本作のコメディもそんな意地悪な視点から見ると面白いかもしれない。

 

         

      (ブラジルのリゾート地フロリアノポリスにやって来た家族)

 

アナ・カッツ Ana Katz は、1975年ブエノスアイレス生れ、監督、製作者、女優。

2002El juego de la silla

 (デビュー作、SSIFFシネ・エン・コンストルクシオン参加、メイド・イン・スぺインの

  スペシャル・メンション受賞、2003年サバルテギ・ニューディレクターズに正式出品)

2007Una novia errante

  (シネ・エン・コンストルクシオンIndustria賞受賞、カンヌ映画祭「ある視点」正式出品)

2011Los MarzianoSSIFFコンペティション部門正式出品)

2014Mi amiga del parque

 (シネ・エン・コンストルクシオン出品、サンダンス映画祭2016出品、審査員賞・脚本賞受賞)

2018Sueño Florianópolis省略

 

(本作撮影中の監督)

          

★女優としては、自作のEl juego de la silla」「Una novia errante」「Mi amiga del parque」のほか、フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストールの『ウィスキー』04)、パコ・レオンのKIKI~愛のトライ&エラー~(ラテンビート2016)などに出演している。私生活ではウルグアイ出身の俳優、監督ダニエル・エンドレル2007年に結婚、『ウィスキー』では二人ともチョイ役だが共演している。

 

      

 (ベレン・クエスタ、パコ・レオン、アナ・カッツ、『KIKI~愛のトライ&エラー~』) 

 

      

           (ダニエル・エンドレルとアナ・カッツ)

 

★脚本を共同執筆したダニエル・カッツは弟、他に「Los Marziano」も手掛けているほか、Una novia errante」のアシスタント監督、「Mi amiga del parque」に出演している

 

      

 

★本映画祭では3回上映(924日~26日)され、Q&Aには監督、メルセデス・モラン、マヌエラ・マルティネス、製作者のカミラ・Groch、美術を手掛けたゴンサロ・デルガドが登壇予定。デルガドはモンテビデオ出身のアート・ディレクター、監督、脚本家、俳優。美術では『ウィスキー』を手掛けている他、2016年、コメディLas toninas van al Esteを女優のベロニカ・ぺロッタと共同で監督、脚本も共同執筆、共に出演、ぺロッタは主役でした。子供を演じた二人は夫ペドロ役のグスタボ・ガルソンの実の子供だそうです。

追記:ラテンビート2018に邦題『夢のフロリアノポリス』で上映が決定しました。


アルゼンチンから「El motoarrebatador」*サンセバスチャン映画祭2018 ⑲2018年09月07日 16:50

         ホライズンズ・ラティノ部門第3弾―バイクひったくり魔の心の遍歴

 

     

★ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品パラグアイの「Las heredoras」、チリの「Marilyn」、ウルグアイの「La noche de 12 anos」、メキシコの「Nuestro tiempo」を既に紹介しているので、今回はラテンアメリカの映画大国アルゼンチンからEl motoarrebatadorをアップします。アグスティン・トスカノ監督の紹介は後述するとして、本作はカンヌ映画祭併催の「監督週間」2018正式出品、データ蒐集もしておきながら賞に絡めずお蔵入りさせてしまった作品。彼はブエノスアイレス出身のシネアストとは一味違う、トゥクマン州サン・ミゲル生れ、将来が有望視されている監督の一人。8月下旬に開催されるチリのサンティアゴ映画祭Sanficマルセロ・マルティネシの「Las heredoras」を押さえて作品賞を受賞したばかりです。

 

             

        (ミゲル役のセルヒオ・プリナ、El motoarrebatador」から

  

  El motoarrebatador(「The Snatch Thief」)2018

製作:Rizoma Films / Murillo Cibe / Oriental Features Films /

     協賛Gloria Films / INCAA / ICAU / IBERMEDIA / トゥクマン州政府

監督・脚本:アグスティン・トスカノ

撮影:アラウコ・エルナンデス・ホルツ

プロダクション・デザイン&衣装:ゴンサロ・デルガド・ガリアナ

編集:パブロ・バルビエリ・カレラ

録音:カト・ビルドソラVildosola

音楽:マキシ・プリエット

製作者:ヘオルヒナ・バイスチGeorgina Baisch(エグゼクティブ)、ナターシャ・セルビ、エルナン・ムサルッピ、セシリア・サリン、(共)サンティアゴ・ロペス

 

データ:製作国アルゼンチン、ウルグアイ、フランス、スペイン語、2018年、94分。ベルリナーレ・タレント・プロジェクト・マーケット、サンセバスチャン映画祭IV Foro de Coproduccion Europa-America Latina 2015 参加作品。撮影トゥクマン州サンミゲル市&郊外、公開アルゼンチン67

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭併催の「監督週間」2018で5月15日上映、ワールドプレミア。チリ・サンティアゴ映画祭2018作品賞受賞、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門正式出品作品。

 

キャスト:セルヒオ・プリナ(ミゲル)、リリアナ・フアレス(エレナ)、レオン・セララジャン、ダニエル・エリアス(ミゲルの引ったくり仲間)、カミラ・プラアテ、ミレージャ・パスクアル、ピラール・ベヌテス・ビバルト、他

    

物語:ミゲルはアルゼンチン北部トゥクマンの町で「モトチョロ」をして生計を立てていた。コンビを組んでバイクに乗ったまま獲物目がけて所持品を引ったくるバイクひったくり犯だ。年配の女性エレナのバッグを盗んだとき、数メートル引きずって大怪我を負わせ、気を失ったままの女性を置き去りにしてしまう。この偶発的な出来事から罪の意識が芽生え、犠牲者を忘れることができなくなる。バッグの中のIDから病院を突き止めると秘かに訪れる。エレナは記憶喪失になっている。ミゲルは彼女の近親者になりすまして世話をしはじめる。エレナに近づけば近づくほど嘘を重ねることになるが、恐ろしくて真実は話せないミゲル。過去に苦しみながらも真の救いを得られない。                         

     

              

             (ミゲルのバイクに引きずられるエレナ)

 

 

     フィクションだが今現在アルゼンチンで起きている現実が描かれている

 

アグスティン・トスカノAgustin Toscanoは、1981年サン・ミゲル・デ・トゥクマン生れ、監督、脚本家、編集者、俳優。トゥクマンの国立大学で演劇を学び、俳優として出発したが、並行して短編映画El hostil06)を撮る。2009年、Zuhair JuryEl piano mudoSobre el éxodo y la esperanza」に出演、これはピアニスト、ミゲル・アンヘル・エストレージャの軍事独裁時代に焦点を絞ったビオピック。長編デビュー作Los dueños13)は、同郷のエセキエル・ラドスキーとの共同監督、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」2013に出品され、揃ってスペシャル・メンションを受賞した他、アルゼンチン映画批評家協会賞2015のデビュー作に贈られるオペラ・プリマ「銀のコンドル」を受賞した。

 

     

    (デビュー作Los dueños」のポスター)

 

      

  (エッフェル塔をバックに、ラドスキー、トスカノ両監督、カンヌ映画祭2013にて)

  

★第2作目El motoarrebatadorで一本立ちした。「motoarrebatador」はモーターバイクと貴金属品(時計、ブレスレット、ネックレスなど)を引ったくって盗む人の造語、アルゼンチンでは「motochorro モトチョロ」という。「ドラえもん」に出てくるジャイアンの名台詞「お前の物は俺の物、俺の物も俺の物」思考をもつ人は、貧富の違いとは無関係にどこにでも存在する。トゥクマンでは警察官ストが始まると、略奪行為は日常茶飯事、ミゲルが犯している盗みは珍しくないという。モトチョロがサイテイなのは自身より弱者を餌食にすることだ。本作はフィクションだが今現在アルゼンチンで起きている現実が描かれているというのが観客のコメントに多く見かけられた。監督自身の母親が襲われたことがヒントになっているようです。自分勝手な哲学で引ったくる、逃げる、そして罪と向き合う」ミゲル、ダルデンヌ兄弟が描く世界と雰囲気が似ているか。

 

   

  (本作撮影中のアグスティン・トスカノ監督)

 

       

      (セルヒオ・プリナ、リリアナ・フアレス、監督、カンヌ映画祭2018にて)

 

★ミゲルを演じるセルヒオ・プリナは、監督デビュー作「Los dueños」にも出演しているほか、TVシリーズ・アニメーションMuñecos del destino12)にボイス出演、本作にはトスカノ監督、エセキエル・ラドスキー監督、共演者のリリアナ・フアレス、ダニエル・エリアスも共演しており、このアニメ出演が接点のようです。ホルヘ・ロッカEl mejor de nosotros14)は、子供のころ一緒に育った5人の若者の青春群像、その一人エル・チノに扮した

 

        

(コメディ・アニメーションMuñecos del destino

 

       

                  (エレナの世話を焼くミゲル、El motoarrebatador

 

★エレナ役リリアナ・フアレスは、プリナ同様Muñecos del destino」と「Los dueños」に出演して高い評価を受けた。本作でカンヌにも同行している。ミゲルのモトチョロ仲間になるダニエル・エリアスは短編Pichuko11)を撮っており、トスカノ監督が編集を手掛けている。

  

       

            (リリアナ・フアレス、Los dueños」から)

  

開幕作品はアルゼンチンのコメディ*サンセバスチャン映画祭2018 ⑩2018年08月14日 16:16

         リカルド・ダリンとメルセデス・モランが夫婦になります

 

    

★サンセバスチャン映画祭は921日開幕、まだひと月以上ありますが、オープニング作品にアルゼンチンの新人監督フアン・ベラのロマンティックコメディEl amor menos pensadoが選ばれました。結婚25年目、子供も巣立ちして鳥の巣が空っぽになった熟年夫婦の危機が語られる。夫マルコスにリカルド・ダリン、妻アナにメルセデス・モラン、脇をベテラン勢が固めています。フアン・ベラの監督デビュー作だが、既に製作者としては、ルクレシア・マルテルの『サマ』、パブロ・トラペロの『檻の中』(08)でアシスタント・プロデューサーとして初参加、続いて『ハゲ鷹と女医』(「カランチョ」10)、『ホワイト・エレファント』(12)などを手掛け、ディエゴ・カプランの『愛と情事の間』(「2212)では、ダニエル・クパロと脚本も共同執筆している。クパロは本作の脚本の共同執筆者です。アルゼンチンでは既に劇場公開され(82日)、前夜祭にはスタッフ、出演者以外の大勢のセレブたちが毛皮や革のコートに身を包んで馳せつけました。

 

        

    (フアン・ベラ監督、リカルド・ダリン、メルセデス・モラン、真冬の81日)

 

El amor menos pensado(「An Unexpected Love」)2018

製作:Patagonik Film Group / Kenya Films / Boneco Films / INCAA(協賛)

監督:フアン・ベラ

脚本(共):ダニエル・クパロ、フアン・ベラ

撮影:ロドリゴ・プルペイロ

編集:パブロ・バルビエリ

製作者:クリスティアン・ファイジャセ、フアン・パブロ・ガジィ、フェデリコ・パステルナク、チノ・ダリン、リカルド・ダリン、フアン・ベラ

(エグゼクティブ・プロデューサー)フアン・ロベセ

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、2018年、ロマンティック・コメディ、136分、撮影地ブエノスアイレス、配給元 Walt Disney Studios Motion Pictures(アルゼンチン)、公開アルゼンチン82

映画祭:サンセバスチャン映画祭2018オープニング作品(921日上映)。カンヌ映画祭2018フィルム・マーケットに出品、Film Sharksにより欧米アジア各国(スペイン、フランス、ギリシャ、台湾、ブラジル他)での配給が契約された。

 

キャスト:リカルド・ダリン(マルコス)、メルセデス・モラン(アナ)、クラウディア・フォンタン、ルイス・ルビオ、アンドレア・ピエトラ、ジャン・ピエール・ノエル、クラウディア・ラパコ、チノ・ノバロ、アンドレア・ポリティ、ガブリエル・コラード、アンドレス・ジル(ルチアーノ)、マリウ・フェルナンデス、ノルマン・ブリスキ、フアン・ミヌヒン他

 

物語:結婚25年目、アナとマルコス夫婦の一人息子が外国で大学課程を始めるため出立した。空っぽになった鳥の巣に危機が訪れる。互いが邪魔になったわけではないが、深く考えることもなく別の人生を歩むことに決心する。独身生活は興味深く魅惑的にうつる。最初は刺激的で興奮したが、順調に思えた別居生活もたちまち彼女にはモノトーンに、彼には受難の連続となる。二人は愛について、本当の望みについて、貞節について、互いに疑問を投げかけあうことに。それぞれの人生は永遠に変わることになるだろう。熟年夫婦の危機がコミカルに語られる。

 

            

           (一人息子を見送るアナとマルコス夫婦)

 

★熟年夫婦の危機をテーマにしたアルゼンチン・コメディで、直ぐに思いつくのがダニエル・ブルマンEl nido vacío08)、『笑う故郷』のオスカル・マルティネスと『オール・アバウト・マイ・マザー』のセシリア・ロスが夫婦役を演じ好評だった。本作の評価は、136分というコメディとしては破格の長さにもかかわらず、各紙誌とも概ねポジティブなのは、主演のリカルド・ダリンとメルセデス・モランの好感度もさりながら、コメディで一番重要だと言われる脇役に演技派を揃えたことによるのではないか。公開第1週目にトップテンの第1位、22万人が映画館に足を運んだ。トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を抜いたということです。ストーリーは特別際立っているわけではないから、「もう全然面白くない」とオカンムリの観客もいるでしょうが、何事によらず好みは十人十色です。

 

      

               (アナとマルコス、映画から)

 

フアン・ベラ監督は上述したようにプロデューサー歴が長く、TVシリーズを手掛けた後、フアン・ホセ・カンパネラの成功作El hijo de la novia01)のエグゼクティブプロデューサー、本作にはリカルド・ダリンも出演している。ルクレシア・マルテルの『サマ』、パブロ・トラペロの『ハゲ鷹と女医』や『ホワイト・エレファント』などを手掛けている。他にサンダンス映画祭2018でワールドプレミアされ、マラガ映画祭に正式出品されたヴァレリア・ベルトゥッチェリ&ファビアナ・ティスコルニアLa reina del miedoがある。製作と同時に初めて脚本を手掛けたのが、ディエゴ・カプランIgualita a mi10)、同22(『愛と情事の間』未公開、DVD)、アリエル・WinogradMamá se fue de viaje17)と本作の4本、すべてコメディで共同執筆です。

 

『サマ』の紹介記事は、コチラ20171013

La reina del miedo」の紹介記事は、コチラ20180410

 

★サンセバスチャン映画祭のオープニング作品に選ばれて、にわかに身辺が慌ただしくなった監督、以前から「たとえオーストラリアの熊の物語でも、すべての映画は自伝的な要素を含んでいます」と語っていましたが、当たり前の話です。

 

       

     (「すべての映画は自伝的な要素を含んでいます」と語るフアン・ベラ監督)

 

リカルド・ダリン(ブエノスアイレス、1957)は、2015年、セスク・ゲイ『しあわせな人生の選択』で共演のハビエル・カマラと男優賞、昨年はラテンアメリカ初のドノスティア賞受賞、今年もオープニング作品の主役ですから現地入りとなるでしょう。キャリアは割愛するとして、もう一人のメルセデス・モラン(サン・ルイス、1955)は、アルゼンチンのルクレシア・マルテル、フアン・ホセ・カンパネラ、アナ・カッツにとどまらず、ブラジルのウォルター・サレス、チリのパブロ・ララインなどに起用されているベテランです。

  

       

     (ドノスティア賞のトロフィーを手にしたリカルド・ダリン、SSIFF2017授賞式)

 

★メルセデス・モランは、マルテルの出身地サルタを舞台にした「サルタ三部作」の第1『沼地という名の町』01)と第2『ラ・サンタ・ニーニャ』04)に出演、前者でクラリン女優賞を受賞しています。カンパネラのLuna de Avellaneda04)ではダリンと共演、サレスの『モーターサイクル・ダイヤリーズ』(04)ではチェ・ゲバラの母親役、アナ・カッツのLos Marzianoは、本映画祭SSIFF2011に正式出品されています。ララインの『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』16)では、詩人の妻に扮しました。

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ20160516/20171122

 

      

              (本作撮影中のメルセデス・モラン)

 

★更にアナ・カッツの最新コメディSueño Florianópolisが、7月開催のカルロヴィ・ヴァリ映画祭2018に正式出品され、モランがベスト女優賞、監督がFIPRESCIと審査員特別賞と3賞を受賞した。SSIFFのパールズ部門でEl Angelがエントリーされたことは既に紹介しておりますが、今作ではリカルドの息子チノ・ダリン扮する暗殺仲間ラモンの母親役で登場しています。チノ・ダリンは本作「El amor menos pensado」には出演しませんが、父親とともに製作者デビューを果たしました。