『ザ・キング・オブ・ハバナ』 エロスとタナトス *ラテンビート2015 ⑥2015年10月24日 11:58

愛だけでは生きていけない・・・

 

アグスティ・ビリャロンガの新作『ザ・キング・オブ・ハバナ』には、社会から落ちこぼれてしまった人間の悲惨というより孤独や優しさゆえの脆さが充満していた。愛だけでは生きていけないのはどこでも同じだが、愛するゆえに一緒に暮らしていけないこともある。エロスとタナトスは紙一重、ハバナの特殊な時代の極貧がなくても起こりうる物語だ。性と生にもう一つの政が加わって、三つ巴の組んずほぐれつの悲喜劇が猛スペードで終盤まで疾走する。性と生と政は、『ザ・クラブ』や『選ばれし少女たち』のテーマでもあったが、本作がより鮮明であったように感じた。作品データ、原作者ぺドロ・フアン・グティエレスなどについてはアップ済みなので割愛します。(コチラ⇒2015917

 

            忘れられた革命の落とし子の逞しさと脆さ

 

A: 撮影はICAICに拒否されたことで、急遽ドミニカ共和国のサン・ドミンゴに変更された。両方をご存知の方は違和感を感じたでしょうか。製作国とスタッフはスペインとドミニカ共和国、主なキャストはキューバ人という複雑な構成をしています。「あまりに人種差別的、性差別的、戯画化的、捉え方も表面的で悪すぎる」が拒否の理由でした。

B: 個人的には拒否するほどの内容じゃなかったと思う。監督の過去の作品を見ていたら分かったはずです。カストロ体制を批判しつづけている原作者ぺドロ・フアン・グティエレスに対する拒絶反応が作用したのではないか。 


           (若いキャストに囲まれた監督、サンセバスチャン映画祭にて)

 

A: ビリャロンガ監督は寡作ですが生と性に拘って撮りつづけている監督、話題作『ブラック・ブレッド』(2010)の他、『月の子ども』(1989)や『海へ還る日』(2000)など評価の高い記憶に残る映画を撮っています。未公開ですが『アロ・トルブキン――殺人の記憶』(LB2004上映)も忘れられない。

B: 『海へ還る日』は東京国際レズ&ゲイ映画祭上映時は、「エル・マール~海と殉教」だった。本作を見ながらちょっと思い出した映画です。本作の幕開きはグロテスクだがコメディタッチ、ところがあっという間に悲劇が起きる。

A: まさにジェットコースター、冒頭描写は過不足がない。母親を失うシーンでは一瞬『黒いオルフェ』(1959)を思い出した。横道になるが、オルフェには2通りあり、マルセル・カミュが撮ったほう、パルムドール受賞作品です。しかし映画としては後発のカルロス・チェギスの『オルフェ』(1999)のほうがよかった。

 

B: 端から死の匂いが漂っているが、時々織りこまれる笑いのタイミング、緩急のつけ方も上手かった。何の前触れもなく訪れる不幸が観客の意表をつく。

A: 1990年代のキューバは特殊な時代かもしれないが、革命の理想が崩壊、カストロ体制が「ルンペン」と称する革命の落後者に行き場はない。冤罪で少年院に放り込まれたレイナルドは読み書きができない孤児、観光資源として国家に寄与しているのに埒外に置かれる売春婦マグダや男娼ユニスレイディ、島脱出を夢想するマグダの兄ラウリート、逞しく脆くこんなに刹那的では濁水にまみれるしかない。 


               (マグダとレイナルド、映画から)

 

B: 自分に余裕がないと他人に優しくなれないから、彼らを外へ弾きだしてしまう。彼らも自分に敬意を払えないから救いの手を求めない。確かに最初から最後まで辛い話、カストロ政権が革命史から抹消したい時代にちがいない。

A: 彼らの辞書に「希望」とか「可能性」いう言葉はない。僅かな可能性があれば人間は死を選ばない。永遠の眠りについたマグダの傍らで、レイナルドがゴミに埋もれていくシーンは凄まじい。ハバナを見下ろすこの場所が安らかに眠れる彼らの終の棲家だと映画は言っている。

B: しかし、これは体制批判の部分が色濃いですが、愛があり、勿論セックスもある、一風変わった「ラブ・ストリー」ですね。

 

A: 前回「ラテンビートで上映される時には、サンセバスチャンの受賞結果が分かっています」と書きましたが、マグダ役のヨランダ・アリオサが見事銀貝賞の最優秀女優賞をゲットした。受賞に値する気迫に満ちた演技でした。監督からは「命をかけて演技してと要求された」とか。

B: 生き残りをかけてセントロハバナを駆け抜けていく、逞しさと脆さが共存する難しい役でした。メキシコからの観光客に披露するしなやかなダンスには、遠いアフリカから運んできたリズムがこだまして美しいシーンだった。

 


      
      (最優秀女優賞の銀貝賞トロフィーを手にしたヨランダ・アリオサ)

 

A: 観光旅行は売春旅行の側面をもっている。さて、『ブラック・ブレッド』の成功から5年、寡作家とはいえ長い沈黙だった。1953年生れだから日本風に言うと既に還暦も迎えていることになる。

B: パルマ・デ・マジョルカ生れ、バルセロナ派のベテランですね。

A: 声高でない静の人だが、逆に映画は雄弁です。「何かの賞に絡めば、『ブラック・ブレッド』同様、公開が期待できるかもしれません」とも書きましたが、どうでしょうか。

 

B: 目下IMDbにはキューバ公開、例年12月開催のハバナ映画祭などの上映はアナウンスされていません。難しそうですね。

A: マグダ役のヨランダ・アリオサがサンセバスチャンで、「この映画がキューバで公開されないのは正当なことじゃない、だってキューバ人には必要でしょ。上映しない正当な理由などないはず」と語っていた。以前からこの小説に興味をもち映画化の権利を買おうとした人たちがいたが纏まらなかった。例えばまだ夫婦であった頃のバンデラスとメラニー・グリフィスとか。今回成功したのは時の流れもあるが、水面下で進行していた雪解けが関係していたのかもしれない。来年、再来年を期待しましょう。


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