『暗殺者と呼ばれた男』”Roa”アンドレス・バイス*第10回LBFF④ ― 2013年10月03日 18:35
ボラーニョのドキュメンタリーで中座しておりましたがLBFFを再開いたします。
★1948年4月9日、自由党党首ホルヘ・エリエセル・ガイタンが首都ボゴタで4発の弾丸を受けて殺害された。本作はいわゆる≪ボゴタッソ≫の謎に包まれた真相に迫るサスペンス仕立てのドラマ。現実に起こった事件だがフィクション。プロットはラテンビートに紹介あり。今回彼のデビュー作“Satanás”も『ある殺人者の記録』の邦題で初上映される。2作目“La cara oculta”は昨年『ヒドゥン・フェイス』として劇場公開されたから、長編は全て字幕入りで見ることができる。
*監督紹介*
★アンドレス・バイス・オチョアAndrés
Baiz Ochoa:監督/脚本家/製作者、1975年コロンビアのカリ市生れ。コロンビアでは、アンディ(Andy/Andi)で親しまれている。ニューヨーク大学で映画監督および制作を学ぶ。Tisch School of the Artsで映画理論の学位を取る。卒業後フランスの映画監督ラファエル・ナジャリRaphael Nadjari*の後援を受け、ホラーの短編4作を二人で製作する。ニューヨークを拠点にプロダクションCentro-Filmsで監督、製作、編集をする(2001~04)、同時期雑誌“LOFT”に映画評論を掲載。2007年カンヌ映画祭「監督週間」に短編“Hoguera”が出品され、国際舞台にたつ。セルヒオ・カブレラ、カルロス・ガビリアの後を継ぐ監督として期待されている。
*お気に入りの映画監督:ハリウッド伝説に生きた監督ハワード・ホークス、ルイス・ブニュエル、ヌーヴェル・ヴァーグに多大な影響を与えたジャン・ルノアール、非ハリウッド系ニューヨーク派の旗手シドニー・ルメット、マーティン・スコセッシなど。老いてますます元気なスコセッシ以外は鬼籍入りしている。やはり自国の先輩監督の名前は出てこない、そんなもんです。
*長編フィルモグラフィー*
2007“Satanás”『ある殺人者の記録』監督/脚本、コロンビア=メキシコ合作
2011“La cara oculta”『ヒドゥン・フェイス』同上、コロンビア=スペイン合作、サスペンス・ドラマ、2012ベルリン・ファンタジック映画祭出品、配給コムストック・グループ、2012年9月公開
2013“Roa”『暗殺者と呼ばれた男』同上、コロンビア=アルゼンチン合作
他に、『そして、ひと粒のひかり』の製作、短編5作、ミュージカル・ビデオ3作、ドキュメンタリー1作など。
*『暗殺者と呼ばれた男』キャスト*
*マウリシオ・プエンテス Mauricio Puentes(フアン・ロア・シエラ)
*カタリーナ・サンディノ・モレノ Catalina Sandino Moreno(マリア・デ・ロア、妻)
*マリア・エルビラ・ラミレス Maria Elvira Ramírez(マグダレナ、娘)
*レベッカ・ロペス Rebeca López(ドーニャ・エンカルナシオン、母)
*サンティアゴ・ロドリゲス Santiago Rodríguez(ホルヘ・エリエセル・ガイタン)
*エクトル・ウジョア Héctor Ulloa(カメラマン)
*ニコラス・カンシノ Nicolas Cancino(エル・フラコ)/カルロス・マヌエル・ベスガ Carlos Manuel Vesga(ビセンテ)他
*アルゼンチンからベテランのアルトゥーロ・ゴッツ Arturo Goetz(『ラ・ニーニャ・サンタ』LBFF2004、『幸せのパズル』2011公開)やセサル・ボルドンCesar Bordón(『頭のない女』LBFF2008)が出演。
★マウリシオ・プエンテス Mauricio
Puentes:俳優/舞台監督/製作者。1973年5月13日(聖母の日)ボゴタ生れ、マウロ(Mauro)の愛称で親しまれている。子供のときから俳優になるのが夢で、現在ロア役で実現した喜びに浸っている。デビューは演劇畑から。演劇のワークショップに役者兼監督として多数参加、なかでもファビオ・ルビアノの“Ornitorrincos”“Mosca”が代表作。ルビアノが自分のマエストロであると語っている。映画デビューは、『暗殺者の聖母』の邦題で公開寸前に中止となったフランスのバーベット・シュローダーの“La Virgen de los sicarios”(2000)にチョイ役で出演。エドウィン・コルテスの“Soy una invencion”、エドガー・シエラ/アンドレス・セラーノの“4 Grados”の他、アンドレス・バイスの3作品すべてに起用されている。テレビは麻薬王エスコバルをテーマにした“Escobal, el patrón del mal”ほか。
*好きな監督はマーティン・スコセッシ、好きな俳優はトーマス・アルフレッドソンの『裏切りのサーカス』(2011)の主役、イギリスのゲイリー・オールドマンだそうです。占星術のファンでトランプ星占いも信じている由。
★カタリーナ・サンディノ・モレノ Catalina Sandino Moreno:1981年ボゴタ生れ。ジョシュア・マーストンの第1作『そして、ひと粒のひかり』(2004、第1回LBFF2004題「マリア・フル・オブ・グレイス」)で衝撃のデビュー、アカデミー主演女優賞ノミネート(受賞者はジェンキンスの『モンスター』主役シャーリーズ・セロン、演技のレベルが違いましたね)、ほかベルリン銀熊女優賞受賞を筆頭に34受賞、ノミネート24という多くの映画賞に輝いた。アントニオ・クアドリの“EL corazón de la tierra”(2007“The Heart of the Earth”)の主役ブランカ役、マイク・ニューウェルの『コレラの時代の愛』(2007)やスティーブン・ソダーバーグの『チェ』2部作(2008、09公開)、今回上映される『マジック・マジック』出演は先述した通りです。
*女優として難しい年齢と言われる30代に入りました。本作では8歳の娘をもつ母親役、でも台本を読んで一発で出演を決めた。ハリウッドのキャリアが長いのでコロンビア関係者は神経質になっていたが、「上手くフアンとマリアになれた」と夫役のプエンテスはインタビューに答えている。
★サンティアゴ・ロドリゲス Santiago
Rodríguez:ジャーナリスト/TV司会者/コメディアン/俳優。1991年にコロンビア・エクステルナド大学(Universidad Externado de Colombia)のジャーナリズムと社会情報学科を卒業。コロンビアの日刊紙“EL PAIS”の編集、“EL TIEMP”のコラムニストのかたわら、コメディ“Married with Children”や“Casado con hijos”などに出演、人気TVシリーズ“Colombia tiene talento” の司会者として番組を成功させている。本作が映画デビューという変わり種だが、すでに知名度抜群の「新人」ですけど新人じゃないか。
*トレビア*
★この映画は悲劇の英雄ガイタンの物語ではなく、歴史に埋もれてしまった悲劇の暗殺者ロア・シエラの物語です。バイス監督がどうしてコロンビアのヒーローでなく、暗殺者≪ロア≫を主人公に選んで映画にしたか。「切手にもなっているガイタンの視線からボゴタッソを描いたものは数えきれないぐらいある。反対に暗殺者ロアは謎だらけのうえデータは驚くほど少ない。その欠落部分を補ってロアの視線で描いたらどうなるか、それに興味があった」と。
★コロンビアではガイタンが暗殺された4月9日に劇場公開された。
★“El
vuelco del cangrejo”(2009)に匹敵する力作(アルゼンチンの日刊紙“La Nación”評)。オスカル・ルイス・ナビアOscar Ruiz Naviaのコロンビア=フランス合作映画。2010年ベルリン映画祭フォーラム部門に出品、国際映画批評家連盟賞FIPRESCI受賞の他、ハバナ映画祭特別審査員賞、ブエノスアイレス映画祭スペシャル・メンション賞他を受賞した映画。
*ラファエル・ナジャリと一緒に映画作りをしていたなんて驚きです。ナジャリは今年第14回目を迎える東京フィルメックス映画祭で『テヒリーム』(イスラエル、2007)がグランプリに輝いたユダヤ系フランス人の監督。テヒリームというのはヘブライ語で「詩篇」という意味です(作曲家スティーヴ・ライヒの声楽曲「テヒリーム」のほうが有名でしょうか)。『テヒリーム』はカンヌ映画祭コンペ作品で話題になっていましたし、彼の前作『アヴァニム』(2003)もフィルメックスで上映されていましたから最優秀作品賞受賞は織り込み済みだったかもしれない。受賞理由はテーマとなっている「方向性の欠如」、バイスのデビュー作に繋がっているかな。
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