『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』Q&A*第10回LBFF20132013年10月31日 11:35

1014日上映後のQ&A

出席:フェルナンド・トゥルエバ監督  司会:アルベルト・カレロ氏

 

★午後5時に到着して駆けつけてくれたという監督を大きな拍手で迎えました。当然初来日ですね。イベントがあったシアトルからいらしたそうで、これからスペインに帰国すると地球を1周したことになり1日若返るとジョークを飛ばして場内を沸かせました。

 

★司会者からまず監督のキャリア紹介があり、そのあと「アイデアは何処から」の質問で始まりました。

トゥルエバ:少年時代は画家になりたかった。アイデアはピカソの「芸術家とモデル」シリーズから。若くして死去した彫刻家の兄に捧げています。若さと老いのコントラスト、早くから温めていたアイデアだったが、当時は若すぎて老いというものが理解できなかった。しかし自分も58歳になってやっと老いることがどういうことか少し分かるようになった。自分がその年になるのを待っていたら、こんなにかかってしまった()

(管理人:1990年代から構想されていた作品

 

司会者キャスト選びは?

トゥルエバ:シナリオ段階でマルクは(ジャン・)ロシュフォールに決めておりました。レア役の(クラウディア・)カルディナーレは、少年の時からの憧れの女優さんだった。メルセ役の(アイダ・)フォルチは、まだ彼女が14歳だった時にEl embrujo de Shanghaiに起用したことがあり、以前から知っておりました。

(管理人:フアン・マルセの同名小説を映画化した英題The Shanghai Spell2002「上海の魔力」仮題)のこと**

 

司会者より「個人的なことなのだが、自分が子供だったとき監督がOpera Primaという作品をもって来校したことがあり、こうやって舞台に並んで立てるなんて本当に感激です。

(管理人:トゥルエバのデビュー作「オペラ・プリマ」(1980仮題)のこと。「君が好きだよ」と決して言わない愛のオハナシ、いわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」のコメディ。肉派のボーイ25歳、野菜派のガール18歳、何につけ対照的な二人の愛の行方は? アントニオ・レシーネスも出演している。)

 

質問男性1:モノクロの映像が素晴らしかった。モノクロにした理由は?

トゥルエバ:子どものとき見ていたブラッサイの写真はモノクロでそれが美しかった。ピカソ、セザンヌ、ジャコメッティ、マティス等の絵の写真です。最初からモノクロで撮ると決めていました。

(管理人:ブラッシャイ(18991984ブラッサイ仏語)は、ハンガリー出身の写真家。パリで活躍、ピカソ、ジャコメッティ、マティスと親交があった。映像はブラッサイの写真を彷彿させるものがある。)

 

質問女性2:舞台がスペインでも俳優が英語をしゃべるという映画が増えました。それについてどう思われますか。

トゥルエバ:俳優がフランス人ならフランス語、ドイツ人ならドイツ語でかまわないと思います。映画の物語に自然ならそれでいい。国境は意識しておりません。

(管理人:質問と答えがちょっと噛みあいませんでしたね。)

 

質問女性3:三島を読んでいるが、芸術家は仕事をやり遂げると死を選ぶのか、絶望で死を選ぶのか、マルクの場合どっちだったでしょう。

トゥルエバ:老いが選ばせたと思う。彼はマティス等と同時代の年齢設定で既に75歳は過ぎていることにしました。

(管理人:マティスは1869年生れで1954年没、映画の時代は終戦間際ですから745歳になります。マルクの性愛は芸術として美しい体、芸術がイコール人生だったマルクにとって彫刻は老いへの挑戦でもあった。)

 

司会者:次回作はどんな映画になりますか。

トゥルエバ:次はコメディです。自分はこのジャンルが好きで、特にアメリカン・コメディが好きなんです。

(管理人:監督はビリー・ワイルダーの大ファン、『ベルエポック』(1992)アカデミー賞外国語映画賞受賞のときの逸話は前にご紹介しました。繰り返しになりますが、受賞の喜びを語るなかで「受賞できたのは神様のお蔭、信じていてよかった。しかし本当はビリー・ワイルダーのお蔭です」と。すると翌日「やあ、フェルナンド、私だ、神様だよ」とワイルダー本人から電話がかかってきた()。そういえば、デビュー作「オペラ・プリマ」もコメディ、『ベルエポック』も『あなたに逢いたくて』(1995)もコメディでした。)

 

★司会者が、「次の『チコとリタ』も見て下さい。『皆殺しの天使』のように皆をここから出さないから」と冗談おっしゃっていたが通じたかな。

(管理人:メキシコ時代のブニュエルが1962年に撮ったEl ángel exterminadorのこと。晩餐会に招かれた客全員が呪縛されたように客間から出られなくなる話。映画のテーマの一つが「自由とは一つの幻想」。

 

*管理人の解説と感想*

本作は最初、彫刻家の兄マキシモMaximoとのコラボで企画されたのですが、19961月に彼が交通事故で急死してしまった(マドリードのビジャヌエバ・デ・ラ・カニャーダ通りで正面衝突、享年42歳)。その後、兄のためにも何とか完成させたいと脚本家ラファエル・アスコナ(2008年没)と取り組んだが上手くいかなかった(アスコナは気難しい人でしたが、スペインでは3本の指に入る名脚本家)。今回フランスの老大家ジャン=クロード・カリエールとの共同執筆でやっと日の目を見ることができたという次第。マキシモの彫刻は調和のとれた簡潔な作風、主に石像を得意とし、1978年ごろからグループ展に出品、個人展も開いている。映画の中でマルクが芸術には疎いメルセにレンブラントのデッサンの素晴らしさを語るところがあります。マルクが何を求めていたかが分かる後半の大きな山場になっていますが、まるでマキシモが語っているかのような錯覚を覚えた忘れられないシーンです。監督によると、実際はイギリスの20世紀を代表する画家デイヴィッド・ホックニー(ロサンゼルス在)が或るインタビューで語っていたことにヒントを得たそうです。

 


**最初ビクトル・エリセの監督で出発した作品ですが、種々の軋轢をクリアーできずスタッフ、キャスト総入れ替えで再出発したいわくつきの映画。マルセもエリセも折り紙つきの凝り性ですからね。『ベルエポック』出演のアリアドナ・ヒル、フェルナン=ゴメス、ホルヘ・サンス、トゥルエバ常連のアントニオ・レシーネス、カメレオン俳優エドゥアルド・フェルナンデスなどの演技派揃いながら、トゥルエバとしては成功作とはいえないですかね。

(写真:子役フェルナンド・ティエルベとアイダ・フォルチに演技指導をする監督)

 

★原題はピカソの「El artista y la modelo」(芸術家とモデル、または画家とモデル)シリーズ作品から取られた。ピカソとマリー=テレーズのことです。

★モデル役のアイダ・フォルチはこの映画のためにパリで数カ月フランス語を学んだ由。お手伝い役のチュス・ランプレアベ以外もご老体揃いなので、一日に撮影できる時間が限られてしまったとか。スペインの日刊紙「エル・ムンド」が毎日撮影日誌を掲載しておりました。

★劇場公開も決定しているので、いずれトゥルエバ映画についてはきちんと検討したい。