スペイン映画 『ザ・ドーター』*東京国際映画祭2021 ― 2021年10月16日 15:03
マヌエル・マルティン=クエンカの新作「La hija」はスリラー
★東京国際映画祭TIFF 2021(10月30日~11月8日)のコンペティション部門でアジアン・プレミアされる、マヌエル・マルティン=クエンカの新作「La hija」(『ザ・ドーター』)は、トロント映画祭でワールド・プレミアされ、サンセバスチャン映画祭SSIFF ではアウト・オブ・コンペティションで上映されたスリラー。SSIFFの上映後に、多くの人からセクション・オフィシアルにノミネートされなかったことに疑問の声が上がったようです。選ばれていたら何らかの賞に絡んだはずだというわけです。SSIFFでのマルティン=クエンカ作品は、2005年の「Malas temporadas」、2013年の『カニバル』、2017年の「El autor」と3回ノミネートされており、3作とも紹介しております。新作スリラーは「El autor」で主人公を演じたハビエル・グティエレスと、「Ane」でゴヤ賞2021主演女優賞を受賞したばかりのパトリシア・ロペス・アルナイス、新人イレネ・ビルゲスを起用して、撮影に6ヵ月という昨今では珍しいロングロケを敢行しています。
(ロケ地アンダルシア州ハエン県のカソルラ山脈にて、左端が監督、2019年11月)
*『不遇』(Malas temporadas)の作品紹介は、コチラ⇒2014年06月11日/07月02日
*『カニバル』の作品紹介は、コチラ⇒2013年09月08日
*「El autor」の作品紹介は、コチラ⇒2017年08月31日
『ザ・ドーター』(原題 La hija)
製作:Mod Producciones / La Loma Blanca / 参画Movister+ / RTVE / ICCA / Canal Sur TV
協賛Diputación de Jaén
監督:マヌエル・マルティン=クエンカ
脚本:アレハンドロ・エルナンデス、マヌエル・マルティン=クエンカ、フェリックス・ビダル
撮影:マルク・ゴメス・デル・モラル
音楽:Vetusta Moria
編集:アンヘル・エルナンデス・ソイド
美術:モンセ・サンス
プロダクション・マネージメント:ロロ・ディアス、フラン・カストロビエホ
製作者:(Mod Producciones)フェルナンド・ボバイラ、シモン・デ・サンティアゴ、(La Loma Blanca)マヌエル・マルティン=クエンカ、(エグゼクティブ)アラスネ・ゴンサレス、アレハンドロ・エルナンデス、他
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、スリラー・ドラマ、122分、撮影地アンダルシア州ハエン県、カソルラ山脈、期間2019年11月~2020年4月、約6ヵ月。配給Caramel Films、販売Film Factory Entertainment、公開スペイン11月26日
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2021、サンセバスチャン映画祭2021アウト・オブ・コンペティション(9/22)、東京国際映画祭2021コンペティション(10/30)
キャスト:ハビエル・グティエレス(ハビエル)、パトリシア・ロペス・アルナイス(ハビエルの妻アデラ)、イレネ・ビルゲス(イレネ)、ソフィアン・エル・ベン(イレネのボーイフレンド、オスマン)、フアン・カルロス・ビリャヌエバ(ミゲル)、マリア・モラレス(シルビア)、ダリエン・アシアン、他
ストーリー:15歳になるイレネは少年院の更生センターに住んでいる。彼女は妊娠していることに気づくが、センターの教官ハビエルの救けをかりて人生を変える決心をする。ハビエルと妻のアデラは、人里離れた山中にある彼らの山小屋でイレネと共同生活をすることにする。唯一の条件は、多額の金銭と引き換えに生まれた赤ん坊を夫婦に渡すことだった。しかしイレネが、胎内で成長していく命は自分自身のものであると感じ始めたとき、同意は揺らぎ始める。雪の山小屋で展開する衝撃的なドラマ。
(イレネ役イレネ・ビルゲス、フレームから)
(ハビエルとアデラの夫婦、フレームから)
サンセバスチャン映画祭ではコンペティション外だった『ザ・ドーター』
★サンセバスチャン映画祭ではセクション・オフィシアルではあったが、賞に絡まないアウト・オブ・コンペティションだったのでご紹介しなかった作品。SSIFFには、上記の3作がノミネートされ、2005年に新人監督に贈られるセバスティアン賞を受賞しているだけで運がない。というわけで今回の東京国際映画祭に期待をかけているかもしれない。今年の審査委員長はイザベル・ユペールがアナウンスされているが、どうでしょうか。
(マヌエル・マルティン=クエンカとハビエル・グティエレス、SSIFFフォトコール)
★3人の主演者、ハビエル・グティエレスについては、「El autor」のほか、アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』(14)、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』(16)、ハビエル・フェセルの『だれもが愛しいチャンピオン』(18)、ダビ&アレックス・パストールの『その住人たちは』(20)などで紹介しております。バスク州の州都ビトリア生れのパトリシア・ロペス・アルナイスは、ダビ・ペレス・サニュドのバスク語映画「Ane」で、ゴヤ賞2021主演女優賞のほか、フォルケ賞、フェロス賞などの女優賞を独占している。アメナバルの『戦争のさなかで』では、哲学者ウナムノの娘マリアを好演している。難航していたイレネ役にはオーディションでイレネ・ビルゲスを発掘できたことで難関を突破できたという。監督は女優発掘に定評があり、当時ただの美少女としか思われていなかった14歳のマリア・バルベルデを起用、ルイス・トサールと対決させて、見事女優に変身させている。
(主役の3人、グティエレス、ビルゲス、ロペス・アルナイス、SSIFFフォトコール)
★共同脚本家のアレハンドロ・エルナンデスとは、「Malas temporadas」以来、長年タッグを組んでいる。彼はアメナバルの『戦争のさなかで』やTVシリーズ初挑戦の「La fortuna」も手掛けている。他にマリアノ・バロッソやサルバドル・カルボなどの作品も執筆している。キューバ出身だが20年以上前にスペインに移住した、いわゆる才能流出組の一人です。撮影監督のマルク・ゴメス・デル・モラルは、ストーリーの残酷さとは対照的な美しいフレームで監督の期待に応えている。既に長編映画7作目の監督がコンペティション部門にノミネートされたことに若干違和感がありますが、結果を待ちたい。
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