エステバン・アレンダ兄弟のデビュー作「Sin fin」*マラガ映画祭2018 ⑭ ― 2018年04月21日 17:24
現在、過去、そして未来を飛び越えて旅するSFトーンのロマンス
★4月19日、セサル・エステバン・アレンダ&ホセ・エステバン・アレンダ兄弟の長編デビュー作「Sin fin」が上映されました。父親は映画プロデューサーで配給を手掛けるホセ・エステバン・アレンダ(息子と同名)、1983年、スペインに初めてアカデミー賞外国語映画賞をもたらしたホセ・ルイス・ガルシの『黄昏の恋』のプロデューサーとして知られている。兄弟二人は子供のころから、この父親の影響を受けて育った。既に短編では国際的に多くの受賞歴の持ち主です。ストーリーが時間を飛び越えて進むので、不自然にならないよう編集に多くの時間を割いた、とプレス会見で語っていた。主人公ハビエルとマリアの愛と失われた愛の物語。2014年、兄弟二人で撮った同じタイトルの短編がもとになっており、主役の二人も同じハビエル・レイとマリア・レオンが演じている。
(右がセサル、左がホセ、マラガに現れた兄弟監督)
「Sin fin」 2018
製作:Producciones Transatlanticas / Solita Films / Elamedia Estudios /
協賛RTVE / ICAA / Canal Sur / Crea SGR / アンダルシア評議会文化部
監督・脚本:セサル・エステバン・アレンダ&ホセ・エステバン・アレンダ
撮影:アンヘル・マモロス
音楽:セルヒオ・デ・ラ・プエンテ
編集:セサル・エステバン・アレンダ
美術:ロシオ・ペーニャ
製作者:ホセ・エステバン・アレンダ、フェリックス・ブルゴス、ホセ・アントニオ・エルゲタ、ロベルト・ブトラゲーニョ
データ:製作国スペイン、スペイン語、ドラマ、SF、97分、撮影地マドリード、マラガ、カディス(コニル・デ・ラ・フロンテラ)、マラガ映画祭2018正式出品4月19日上映、配給フィルマックス・インターナショナル
キャスト:ハビエル・レイ(ハビエル)、マリア・レオン(マリア)、フアン・カルロス・サンチェス(70代のハビエル)、マリ・パス・サヤゴ(マリ・カルメン)、パコ・オチョア(アントニオ)、ロベルト・カンピジョ(ペドリート)、アセンシオ・サラス(祖父)、パコ・モラ(チャーリー)、クリスティアン・ガメロ(ルカス)、ほか
プロット:ハビエルはマリアへの失われた愛を取り戻すために未来からやって来る。一緒に知り合った魅惑的な日を思い出す。明け方にマドリードを発ち夕暮れどきのアンダルシアの海岸にやって来る。すべては、マリアがかつて愛しあった頃の活気あふれる女性に戻れるようにするためだ。マドリード、マラガ、カディスを巡る一種のロード・ムービー。
(カディスの浜辺の二人)
(かつてのマリアとハビエル)
★マリアを演ずるマリア・レオン(1984セビーリャ)は、「マリアは旅が決して終わらないことを望んでいる」とプレス会見で語っている。ハビエル・レイ(ガリシア生れ)は、「マリア・レオンはマリアというとても複雑な人格を演じるのに相応しかった。この作品は時間の飛躍がずっと続くせいで、異なった側面をその都度切り替えて演じなければならなかった。綿密に検討しながら、結果的には満足したものになった」と語っている。マリア・レオンの公開作品は、ベニート・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び~』に出演、サンセバスチャン映画祭2011女優賞、ゴヤ賞2012新人女優賞を受賞している。批評家からは「映画はさておき、マリア・レオンという逸材を発掘した」と、その演技力が絶賛された。ハビエル・レイは、マリア・レオンの実兄パコ・レオンの『KIKI~愛のトライ&エラー』(16、ラテンビート上映)に小さな役で出演している。
*『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び~』の紹介記事は、コチラ⇒2015年05月09日
*『KIKI~愛のトライ&エラー』の紹介記事は、コチラ⇒2016年10月08日
(現在のマリアとハビエル)
*監督キャリア&フィルモテカ*
★ホセ・エステバン・アレンダ(・ロドリゲス)は、監督、脚本家、製作者、俳優(クレジットはホセ・エステバン・ジュニア)。2003年ビジネス・スクールMEGA(Master Europeo en Gestion Audiovisual)卒業。セサル・エステバン・アレンダは、監督、製作者、脚本家、編集者。建築学を専攻。2004年、兄弟二人でアニメーション製作を主にした「Solita Films」を設立した。主な短編6作で500ヵ所の映画祭、100以上の受賞歴があるということです。他にドキュメンタリーなど他の監督作品を製作している。
*主なフィルモグラフィーは以下の通り。
2008「Manolo marca registrada」(9分、アニメ)監督・脚本セサル、製作ホセ
2008「La increible historia del hombre sin sombra」(9分、アニメ)監督・脚本・製作ホセ、
撮影・編集セサル。ゴヤ賞2009短編アニメーション賞受賞、
2010「El orden de las cosas」(20分)共同監督・脚本・製作、ゴヤ賞短編映画賞ノミネート、
エルチェ映画祭監督賞、、ワルシャワ映画祭短編賞スペシャル・メンション、
ナント・スペイン映画祭短編賞、他受賞歴多数
2011「Matar a un niño」(9分、アニメ)共同監督・脚本・製作、
マラガ映画祭2011短編銀のビスナガ、国際シネマ・バイア・デイズ短編賞受賞
2012「Inertial Love」(6分)マラガ映画祭2013短編銀のビスナガ、
夕張ファンタスティック映画祭2014短編賞、他
2014「Not the End」(29分)長編「Sin fin」のもとになった短編、
ヒホン映画祭、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭上映
2018「Sin fin」省略
(左がホセ・エステバン・アレンダ、右セサル、ゴヤ賞2009短編アニメーション賞を受賞)
(アニメーション「La increible historia del hombre sin sombra」のポスター)
第21回マラガ映画祭2018*最新フォト ③ ― 2018年04月22日 16:05
「金の映画」ペドロ・オレアの「Un hombre llamado Flor de Otoño」上映
★もう映画祭も終盤、日本時間で明日朝には結果が分かるはずです。作品紹介の続きは、結果発表後に秋の映画祭あるいは公開が期待できそうな作品を選んでアップいたします。マラガ映画祭の特別賞としてご紹介したペドロ・オレアの「金の映画」、モニカ・ランダルの「ビスナガ・シウダ・デル・パライソ」、ロドリゴ・ソロゴジェンの「マラガ才能賞-ラ・オピニオン・デ・マラガ」の授賞式の模様を簡単にアップしておきます。
(「Un hombre llamado Flor de Otoño」のポスター)
★公開40周年を記念して「金の映画」に選ばれた、ペドロ・オレアの8作目「Un hombre llamado Flor de Otoño」が、マラガのピカソ美術館で上映、オレア監督、主役のホセ・サクリスタン、作家・ジャーナリストのルイス・アレグレ、歴史家・映画評論家フェルナンド・メンデス・レイテ、ジャーナリスト・TV司会者エレナ・サンチェス、「シネマニア」誌編集長アンドレア・G・メルメホを交えてシンポジウムが開催されました。
(中央の二人がオレア監督とサクリスタン、4月16日のシンポジウム)
★フランコ体制後の民主主義移行期に製作されたホモセクシュアルをテーマにした最初の映画だった。ホセ・サクリスタン扮するルイス・デ・セラカントの物語、彼はバルセロナ上流階級に属しており、昼間は弁護士、夜はキャバレーの歌手として女装をして舞台に立つという二つの顔をもっていた。元は舞台用に書かれたホセ・マリア・ロドリゲス・メンデスの戯曲を映画化したもの。オレア監督によると自分以外にリカルド・フランコ、ハイメ・カミノ、ガルシア・ベルランガなどが候補に挙がっていたが、結局自分になったこと、戯曲家のロドリゲス・メンデスが脚本には自分が参画しないこと、執筆がラファエル・アスコナだったことに激怒したという。それは「舞台と映画のセリフは別のものと考えていたからだ」と。しかし、最後までアスコナに介入してきたそうです。また、マドリードやバルセロナのゲイからも話を聞き、そのときに未来の大監督となるペドロ・アルモドバルとも知り合ったと語っていた。
(オレア監督とホセ・サクリスタン)
(今は亡きラファエル・アスコナ)
★ホセ・サクリスタンは、本作のルイス役でサンセバスチャン映画祭で最優秀男優賞を受したのですが、「本当は男優賞ではなくて最優秀女優賞を与えるべきだったんですよ」と冗談を飛ばしていたようです。またオレア監督と名脚本家ラファエル・アスコナについての「Pedro Orea, Azcona Y un lobo」という著書の紹介がありました。ベルナルド・サンチェス&チェチュ・レオンの共同執筆です。監督にとって思い出深い映画祭になったことでしょう。
(監督を挟んで二人の著者、各自著書を携えている、4月17日)
第201回マラガ映画祭2018*最新フォト ④ ― 2018年04月23日 11:44
「ビスナガ・シウダ・デル・パライソ」授賞式、モニカ・ランダル
★4月19日、モニカ・ランダルを迎えて「ビスナガ・シウダ・デル・パライソ」の授賞式がありました。
*モニカ・ランダルの紹介記事は、コチラ⇒2018年03月30日
「マラガ才能賞-La Opinión de Málaga」授賞式、ロドリゴ・ソロゴジェン
★4月20日、「エロイ・デ・ラ・イグレシア」改め、今年から「マラガ才能賞-La Opinión de Málaga」となりました。受賞者ロドリゴ・ソロゴジェンをむかえて授賞式がありました。
*ロドリゴ・ソロゴジェンの紹介記事は、コチラ⇒2018年03月26日
ロレアルの「Belleza Comprometida」賞にバルバラ・レニー
★4月19日、今年で第8回目となる、スランスの「ロレアル・プロフェッショナル」が選ぶ「Belleza Comprometida」賞が、バルバラ・レニーに授与されました(副賞6000ユーロ)。2016年3月からロレアル・プロフェッショナルの総支配人を務めているJuditフディト・デ・ラ・フエンテから渡されました。ロレアルはエイズ予防財団を設立、エイズ予防の教育活動に力を入れており、本賞もその宣伝の一環として設けられたようです。
*バルバラ・レニーの紹介記事は、コチラ⇒2016年02月15日
(左から、デ・ラ・フエンテ、バルバラ・レニー、映画祭総指揮者フアン・アントニオ・ビガル)
★昨年の受賞者はマリベル・ベルドゥでしたが、今までにはアルモドバルの『ジュリエッタ』主演アドリアナ・ウガルテ、ビガス・ルナの『女が男を捨てるとき』主演ベロニカ・エチェギ、デ・ラ・イグレシアの「Perfectos desconocidos」出演のフアナ・アスコナ、今年ノミネートされた「Sin fin」主演のマリア・レオンなど、いずれも才色兼備の女優たちが受賞しています。
第21回マラガ映画祭2018*結果発表 ⑮ ― 2018年04月25日 14:55
エレナ・トラぺの「Las distancias」とグスタボ・ピッツィの「Benzinho」が作品賞
★4月22日、マラガ映画祭が閉幕いたしました。昨年からスペイン映画とイベロアメリカ映画の2本立てを一本化して、しかしそれぞれに作品賞である「金のビスナガ」を授与する方針に変更されました。スペイン映画は エレナ・トラぺの第2作「Las distancias」、イベロアメリカ映画はグスタボ・ピッツィの「Benzinho」に、それぞれトロフィーが渡されました。エレナ・トラぺの監督賞受賞は意外でしたし、後者はもしかしたら観客賞をとるかなと思っていましたが、金賞受賞は個人的にはサプライズでした。いずれご紹介する予定です。取りあえず主な受賞結果をお知らせします。金賞は作品賞だけで、あとは全て銀賞です。
◎「金のビスナガ」(スペイン映画作品賞)副賞12,000ユーロ
「Las distancias」監督エレナ・トラぺ
(左から、トラぺ監督、スピーチするプロデューサーのマルタ・ラミレス)
◎「金のビスナガ」(イベロアメリカ映画作品賞)副賞12,000ユーロ
「Benzinho」VOSE 監督グスタボ・ピッツィ (ブラジル、ウルグアイ)
◎審査員特別賞銀賞
「Casi 40」監督ダビ・トゥルエバ(スペイン)
「The Queen of Fear」(「La reina del miedo」)
監督ヴァレリア・ベルトゥチェッリ&ファビアナ・ティスコルニア
(アルゼンチン・デンマーク)
◎監督賞銀賞
エレナ・トラぺ 「Las distancias」
◎女優賞銀賞(Hotel AC Málaga Paracio)
ヴァレリア・ベルトゥチェッリ 「The Queen of Fear」(「La reina del miedo」)
アレクサンドラ・ヒメネス 「Las distancias」
◎男優賞銀賞(VIBUK)
ハビエル・レイ 「Sin fin」監督セサル=ホセ・エステバン・アレンダ
(右は共演者のマリア・レオン)
◎助演女優賞銀賞
カルメン・フロレス 「Mi querida cofradía」監督マリア・ディアス・デ・ロペ(スペイン)
(カルメン・フロレス、4月17日マラガ映画祭にて)
◎助演男優賞銀賞
ウラジミール・クルス 「Los buenos demonios」監督ヘラルド・チホーナ(キューバ)
◎脚本賞銀賞
ダニエル・ディアス・トーレス&アレハンドロ・エルナンデス 「Los buenos demonios」
◎音楽賞銀賞
エデシオ・アレハンドロ 「Los buenos demonios」
◎撮影賞銀賞(DELUXE)
ギジェルモ・ニエト「No dormirás」監督 G.エルナンデス(アルゼンチン、西、ウルグアイ)
◎編集賞銀賞
パブロ・スマラガ 「No dormirás」
◎観客賞銀賞(GAS NATURAL FENOSA)
「Mi querida cofradía」
*以上がコンペティション部門の主な受賞作品です。以下は映画製作にコラボした製作会社、TV局、協力団体、企業などに付属賞が贈られました。受賞作品と同じですので作品名を列挙しておきます。
◎「Benzinho」
◎「Casi 40」 ★
◎「Las distancias」
◎「Los buenos demonios」
◎「Mi querida cofradía」
◎「No dormirás」 ★
◎「Sin fin」 ★
◎「The Queen of Fear」(「La reina del miedo」) ★
*★印が当ブログ紹介作品です。
★ノミネーションはアップしませんでしたが、Zonazine部門の
◎作品賞
「Amb el vent」(「Con el viento」)監督Meritxell Colell (スペイン映画部門)
「Casa Coraggio」監督バルタサル・トクマンBaltazar Tokman (イベロアメリカ映画部門)
◎監督賞
バルタサル・トクマン「Casa Coraggio」
★今年のマラガ映画祭の観客動員数は、141,000人、昨年より2.5%増加、5%の増益だったそうです。第22回マラガ映画祭2019は、例年に戻って3月15日~24日まで10日間がアナウンスされました。
「金のビスナガ」 受賞作 「Las distancias」*マラガ映画祭2018 ⑯ ― 2018年04月27日 14:54
エレナ・トラぺが作品賞「金のビスナガ」と監督賞受賞
★エレナ・トラぺの長編第2作「Las distancias」が作品賞(スペイン映画部門)、トラペ自身も監督賞を受賞しました。昨年のカルラ・シモンの『夏、1993』に続いて、カタルーニャの若い女性監督が「金のビスナガ」を受賞したことになります。ESCAC*の監督科出身、先輩イサベル・コイシェの薫陶を受けているようです。秋の映画祭上映への期待やゴヤ賞2019ノミネーションを考えてアップしておきます。
*ESCAC(Escuela Superior de Cine y Audiovisuales de Cataluña)1994年バルセロナ大学の付属上級映画学校として設立された。現在は近郊のタラサに本部を移して活動している。フアン・アントニオ・バヨナ、キコ・マイリョ、マル・コル、ハビエル・ルイス・カルデラなどバルセロナ派の監督の多くが本校の出身者です。
(赤絨毯に現れた、左からブルノ・セビーリャ、エレナ・トラぺ監督、
アレクサンドラ・ヒメネス、マリア・リベラ、ミキ・エスパルベ、マラガFF 2018)
「Las distancias」(「Les distáncies」)2018
製作:Coming Soon Films / Miss Wasabi
協賛 TV3(カタルーニャTV)/ RTVE / ICEC / ICAA
監督:エレナ・トラぺ
脚本:エレナ・トラぺ、ミゲル・イバニェス・モンロイ、Josan Hetero、
撮影:フリアン・エリサルデ
編集:リアナ・アルティガル
美術:アンヘラ・リベラ
録音:ジョルディ・ロシニョール・コロメル、アルベルト・マネラ
キャスティング:アンナ・ゴンサレス
衣装デザイン:マルタ・ムリーリョ、サラ・クレメンテ
メイクアップ:ダナエ・ガテル
プロダクション・デザイン:バネッサ・Locke、ノラ・ウィリー
助監督:アンナ・カプデビラ
製作者:マルタ・ラミレス、(協力)イサベル・コイシェ、マルセロ・ブッセ
データ:製作国スペイン、言語カタルーニャ語・スペイン語、2018年、99分、ドラマ、マラガ映画祭2018正式出品、4月17日上映、スペイン今秋公開が決定している。配給Sherlock Films
キャスト:アレクサンドラ・ヒメネス(オリビア)、ミキ・エスパルベ(コマス)、イサク・フェリス(ギリェ)、ブルノ・セビーリャ(エロイ)、マリア・リベラ(アンナ)他
プロット:オリビア、エロイ、ギリェ、アンナの仲間4人は冬のベルリンにやって来る。35歳の誕生日を迎えるコマスを驚かすためだ。しかしコマスは彼らが期待したようではなかった。週末までずっとグループは彼の友情の感じ方に疑問をもちながら次第にばらばらになっていくだろう。彼の生き方が、彼らが若かった頃に共有していたようなものではないことを受け入れ、それぞれ失望に向き合うことになる。
(左から、ミキ・エスパルベ、マリア・リベラ、ブルノ・セビーリャ、トラペ監督、
アレクサンドラ・ヒメネス、プロデューサーのマルタ・ラミレス、4月17日にて)
永遠にはつづかない壊れやすい友情についての物語
★ストーリーからは特別なハプニングが起きる印象を受けませんが、見た目にそうであっても実は深層では登場人物が葛藤しているという作品があるから未見では判断できない。というのは中心人物コマスの寡黙さが逆に雄弁に感じられるからです。若者たちが30代半ばになり、友情の美名のもとに邂逅する。ところが彼らがかつて描いていた夢の挫折に直面すると、美名に隠れていたフラストレーションが引き起こされ徐々に覆いが外されていく。友情は永遠にはつづかない。コマスを演じたミキ・エスパルベ(1983バルセロナ)はコマスと同世代、マラガ映画祭2016コンペティション部門に出品されたマルク・クレウエトの辛口コメディ「El rey tuerco」の主役を演じている。
*「El rey tuerco」の紹介記事は、コチラ⇒2016年05月05日
★もう一人の主役オリビア役で女優賞を受賞したアレクサンドラ・ヒメネス(1980サラゴサ)は、目下引っ張り凧の女優の一人、バレリーナとして15歳でプロデビューしたという抜群のプロポーション、本映画祭でもベストドレッサーとしてメディアの注目を浴びていた。公開作品はナチョ・G・ベリジャの『シェフズ・スペシャル』(08)、ハビエル・ルイス・カルデラの『最終爆笑計画』(09、未公開DVD)、『ゴースト・スクール』(12)や『SPY TIME スパイ・タイム』(15)、パコ・レオンの『KIKI~恋のトライ&エラー』など比較的公開作品が多く、コメディ・ファンにはお馴染みです。未公開ですがフアナ・マシアスのコメディ「Embarazada」では、パコ・レオンとタッグを組み、40代で子供を持とうと奮闘する夫婦役を演じた。夫とは子供願望度に温度差があり次第に食い違っていく妻役が高評だった。バレリーナから転向後、マドリードのEscuela Superior de Artes TAI(1970年創立)で演技を学んだという努力家でもある。
*『SPY TIME スパイ・タイム』の紹介記事は、コチラ⇒2016年02月02日
*『KIKI~恋のトライ&エラー』の紹介記事は、コチラ⇒2016年06月05日
(ミキ・エスパルベとアレクサンドラ・ヒメネス、映画から)
★30代後半というのは微妙な年齢で、自分に合った仕事、夢見るような愛などの限界が見えてしまう世代だから生き辛い。彼らの望みは次第にしぼんでいき、見た目ほどにはお気楽な独身生活を送っているわけではないのだろう。青春時代の確固たる友情は脆く、冬のベルリンで各自失望や幻滅を味わうことになる。セリフを極力ふるい落とし、5人はしぐさや視線での演技を要求され、充分それに応えたという。このことも作品賞受賞に繋がったのかもしれない。目の演技は役者にとって難問、却って途切れなく続くセリフで意思伝達をするほうが易しい。舞台を寒々とした冬のベルリンに選んだのはトラぺ監督の希望だったそうですが、これもなにかのメタファーと思われます。
(コマスを訪ねてベルリンにやってきた、エロイ、オリビア、マリア、ギリェ)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★エレナ・トラぺ Elena Trapé は監督、脚本家。バルセロナ自治大学で芸術史を専攻、バルセロナ大学Gestió Culturalのマスター卒。2004年ESCAC監督科を出る。2003年短編「Dónde París」、2006年「No quiero la noche」、2008年「Pijamas」、同年TV映画「La Ruïna」はガウディ賞2009にノミネートされた。2010年長編デビュー作「Blog」はサンセバスチャン映画祭「サバルテギ」部門に正式出品「Otra Mirada」を受賞した。2015年のドキュメンタリー「Palabras, mapas, secretos, otras cosas」は、イサベル・コイシェ監督についてのポートレート、一種のロード・ムービー、コイシェ監督の友人、家族、ジャーナリストへのインタビューからなる。マラガ映画祭2015で上映された。本作「Las distancias」が長編2作目となる。
(エレナ・トラぺ、マラガ映画祭2018 授賞式にて)
(長編デビュー作「Blog」のポスター)
ブラジル映画「Benzinho」が金のビスナガ*マラガ映画祭2018 ⑰ ― 2018年04月30日 17:31
ブラジル中流家庭の或る一面を切り取った映画
★今年はブラジルから2作ノミネートされ、その一つウルグアイとの合作、グスタボ・ピッツィの長編第2作「Benzinho」が、イベロアメリカ部門の作品賞「金のビスナガ」を受賞した。ピッツィ監督は目下TVミニシリーズ撮影中で来マラガできなかったが、製作者を代表して参加したウルグアイの共同プロデューサー、アグスティナ・チアリノが金のビスナガのトロフィーを受け取りました。サンダンス映画祭2018でワールドプレミア、続いてロッテルダム映画祭、スウェーデンのヨーテボリ映画祭、ウルグアイのプンタ・デル・エステ映画祭などに出品された後、マラガにやってきました。ブラジル中流家庭の日常、新居の購入、息子の自立、母親の子離れの難しさをコメディタッチで描く。いずれにしろ子供は親の知らないうちに大人になってしまうのです。
(トロフィーを手に喜びのスピーチをする製作者アグスティナ・チアリノ)
「Benzinho」(「Loveling」)2018
製作:Bubbles Project / Baleia Films / Mutante Cine / TvZERO
監督・脚本・製作者:グスタボ・ピッツィ、脚本クレジットはグスタボ・パッソス・ピッツィ
脚本(共):カリネ・テレス、レイテ・デ・ソウサ・ピッティ
撮影:ペドロ・ファエルステイン
音楽:ダニエル・ロランド、ペドロ・サー、マクシミリアノ・シルベイラ
編集:リビア・セルパ
美術:ディナ・サレム・レヴィ
衣装デザイン:ディアナ・レステ
メイクアップ:ビルヒニア・シルバ
製作者:タティアナ・レイテ(エグゼクティブ)、ロドリゴ・レティエル、アグスティナ・チアリノ(ウルグアイ)、フェルナンド・エプステイン(ウルグアイ)
データ:製作国ブラジル=ウルグアイ、ポルトガル語、2018年、コメディ・ドラマ、98分、撮影地リオデジャネイロ近郊のペトロポリス。サンダンス、ロッテルダム、ヨーテボリ、プンタ・デル・エステ、マラガ、各映画祭2018正式出品。マラガ映画祭イベロアメリカ部門の作品賞受賞作品、ブラジル公開8月23日。配給New Europe Film Saes
物語:イレーニとクラウスが結婚したのは随分前のことだ。イレーニは38歳になりクラウスと言えば45歳になった。二人は4人の息子とリオデジャネイロの近郊ペトロポリスに住んでいる。子供が大きくなり狭くなった、おまけにガタのきた家から出たいと思っている。それで夫婦で一生懸命働き数年がかりで新居を建てようと夢をふくらませている。イレーニはハイスクールの卒業証書をもらうための勉強のかたわらセールスの仕事をしている努力家だ。一方クラウスは既に斜陽になったコピーショップを経営、書籍の販売もしているが転職を目論んでいる。16歳になる長男のフェルナンドはハンドボールの有力選手で、シーズンのハイライトの後、ドイツのプロチームからオファーをうけた。嬉しいニュースには違いないが、家族に微妙なさざ波が、特にイレーニが動揺しはじめた。自慢の息子フェルナンドとこんなに早く離れて暮らすとは考えてもいなかった。巣立ちするには早すぎる、新居には彼の部屋も用意していたのだ。もう少し後のはずだったのに間もなくドイツに行ってしまうのだ。フェルナンドのいない新しい生活に順応しなければならない。子供は知らないうちに大きくなってしまうのだ。
ブラジルの観客は社会的階級を反映した映画を見る習慣がありません。
★今回映画祭にはウルグアイ側の製作者アグスティナ・チアリノだけが来マラガした。監督はTVミニシリーズの撮影に入ってしまって出席できなかったということです。プレス会見では「フレッシュで飾らない日常を描いた映画には価値があるのですが、ブラジルの観客には、このような社会的階級を反映した映画を見る習慣がありません」とコメント。これはどこの国にもいえることです。物語が身近すぎるから平凡に感じてしまうのです。カンヌやベルリンで評価されても変わりありません。
(一人で来マラガしたアグスティナ・チアリノ、プレス会見、4月19日)
★また「脚本を共同執筆した監督と主役イレーニを演じたカリネ・テレスは、実生活では夫婦ですが、彼らのビオピックではありません。双子の兄弟を演じた子役は夫妻の実の子供ですから、勿論ストーリーには家族のエッセンスが流れ込んでいます」ということでした。それで撮影中は実生活と映画の線引きがややこしかったこともあったようです。「今のママはどっちなの?」というわけです。
(双子の兄弟と次男ロドリゴ、映画から)
(家族揃って参加したロッテルダム映画祭2018)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★グスタボ・ピッツィGustavo Pizziは、1977年ペトロポリス生れ、監督、製作者、脚本家。リオデジャネイロのフルミネンセ連邦大学UFF映画科卒。2006年ドキュメンタリー「Preterito Perfeito」を撮る。2010年、長編デビュー作「Riscado」(英題「Craft」)は、XAXW映画祭2011でワールドプレミアした。その後40か所以上の映画祭で上映された。同2010年、共同で監督した短編「A Distração de Ivan」では製作も手掛け、カンヌ映画祭と併催の「批評家週間」に出品されている。2012年、ドキュメンタリー「Oncoto」を撮る。本作「Benzinho」が長編第2作目になる。TVシリーズの脚本を執筆、現在TVミニシリーズ「Gilda」の撮影中で来マラガできなかった。
(長編デビュー作「Riscado」のポスター)
(グスタボ・ピッツイ=カリネ・テレス夫妻、2010年ごろ)
★イレネ役のカリネ・テレスは、1978年、監督と同郷のペトロポリス生れの39歳、女優、脚本家、製作者。映画、TVシリーズ、舞台で活躍している。監督長編デビュー作「Riscado」に出演している。ペトロポリスは本作の撮影地、監督が生れ故郷を舞台に選んだのは、子供のころ過ごした好きな町だからです。夫役のオタヴィオ・ミュラーは、1965年リオデジャネイロ生れ、映画にTVにと出演キャリアの長いのベテランです。
(イレネとクラウスの夫婦、映画から)
(イレネとソニア役のアドリアナ・エステベス、映画から)
(ハンドボールの選手フェルナンド役のコンスタンティノス・サリス、映画から)
★出演者は、第1作に出演した俳優が多く、スタッフも重なっている印象でした。ウルグアイのもう一人のプロデューサー、フェルナンド・エプステインは、フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストールの共同監督「25 Watts」や、公開された『ウィスキー』、同じくフェデリコ・ベイロフ『アクネACNE』やアドリアン・ビニエス『大男の秘め事』、最近ではパラグアイ映画ですが、ベルリン映画祭2018のマルセロ・マルティネシ「Las Herederas」など話題作を手掛けています。ウルグアイは小国で市場も限られているので、隣国アルゼンチンやブラジルとの合作が多い。個人的には金のビスナガを受賞するとは考えておりませんでしたが、もしかするとブラジル映画祭にエントリーされるかもしれません。
*「Las Herederas」の記事紹介は、コチラ⇒2018年02月16日
* 第15回ラテンビート2018上映が決定、邦題は『ベンジーニョ』
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