第7回フェロス賞2020*結果発表 ― 2020年01月22日 13:57
アルモドバルの「Dolor y gloria」が6カテゴリーを独占したフェロス賞
★去る1月16日、第7回フェロス賞2020の結果発表が、マドリードのアルコベンダスで開催されました。総合司会は女優のマリア・エルバス。ドラマ部門は ペドロ・アルモドバルの「Dolor y gloria」がメインの作品・監督・脚本・主演男優・助演女優・オリジナル作曲賞の6冠を制しました。主演男優のアントニオ・バンデラスは欠席でしたが、ホセ・マリア・フォルケ賞に続いての受賞、第92回米アカデミー賞の男優賞にもノミネートされましたから、2020年は大変な年になりそうです。「Dolor y gloria」も国際映画賞部門の最終候補5作に選ばれ、師弟揃ってハリウッド入りになります。本作でアルモドバルの分身サルバドールを演じたバンデラスについて「彼は時には私の内面に入り込んできた」とガラで語っていた。
(赤絨毯に登場した総合司会者のマリア・エルバス)
★助演女優賞にはペネロペ・クルスとフリエタ・セラノの2人が同じ枠にノミネートされていましたが、予想通り先輩に軍配が上がりました。自分を起用してくれた監督に対して「贈り物だった」と感謝のスピーチをした。オリジナル作曲賞は最近のアルモドバル映画の殆ど全作を手掛けているアルベルト・イグレシアスでした。下の写真は6冠の「Dolor y gloria」、それぞれトロフィーを手にした4人、ペドロ・アルモドバルが3個手にしているのはバンデラスの分が含まれているのか。本当の勝負は間もなく開催されるマラガ対決です。
(左から、アルベルト・イグレシアス、監督・脚本賞のP・アルモドバル、
フリエタ・セラノ、A・アルモドバル)
(3個のトロフィーを手にしてご満足のアルモドバル監督)
★6部門ノミネートだった「La trinchera infinita」は、ベレン・クエスタの主演女優賞のみ、3部門ノミネートのアメナバルの『戦争のさなかで』は無冠でした。11部門しかないなかで、今年のように1作に集中した結果に白けた方もいたはずです。両作の監督たちの姿も見当たりませんでした。ベレン・クエスタの受賞は意外と受け止められたようです。下馬評ではロドリゴ・ソロゴジェンの「Madre」出演のマルタ・ニエトを推す人が多かったということでしたが、どちらも未見ですから何とも言えません。
★フェロス賞はドラマ部門とコメディ部門に分かれ、後者アリッツ・モレノの『列車旅行のすすめ』でした。ダニエル・サンチェス・アレバロの『SEVENTEENセブンティーン』は残念でした。以下が受賞結果です(ゴチック体が受賞)。
*映画*(11カテゴリー)
◎作品賞(ドラマ部門6作)
Dolor y gloria El Primer Deseo AIE / El Deseo DASLU (10個)
El hoyo(The Platform) Basque Films (6個)
La trinchera infinita Irusoin / La Claqueta / Manny Films / Moriarti Produkzioak(6個)
Lo que arde Miramemira, SL / Kowalski Filma / 4 a 4 Productions / Tarantura Luxemburgo
『ファイアー・ウィル・カム』(5個)
Los días que vendrán Avalon PC / Lastor Media SL
Quien a hierro mata Vaca Films / Atresmedia Cine, SLU
〇作品賞のプレゼンターはドレスが不評だった『アタメ!』主演のビクトリア・アブリル、「El Deseo」のアグスティン・アルモドバルが代表で受け取りスピーチ、続いて兄が弟より長いスピーチをしました。壇上にはペネロペ・クルス、フリエタ・セラノ、アルベルト・イグレシアス、助演ノミネートのアシエル・エチェアンディアなどが登壇しました。
◎作品賞(コメディ部門5作)
Diecisiete Atípica Films 監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ『SEVENTEEN セブンティーン』
El incríble finde menguante Montreux Entertainment / Trepamuros Producciones
Litus A Contracorriente Films / SL AlamoPASL / Neón Producciones SL
監督:ダニエル・デ・ラ・オルデン
Lo dejo cuando quiera Telecinco Cinemas, SAU / Mod Pictures, Mod Producciones, SL
Ventajas de viajar en tren Morena Films / Señor y Señora, SL 『列車旅行のすすめ』(7個)
〇ダニエル・サンチェス・アレバロ『SEVENTEEN セブンティーン』は残念でした。
◎監督賞
ペドロ・アルモドバル 「Dolor y gloria」
ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アイトル・アレギ 「La trinchera infinita」
ガルデル・ガステル⋍ウルティア 「El hoyo(The Platform)」
オリベル・ラシェ 『ファイアー・ウィル・カム』
アリッツ・モレノ 『列車旅行のすすめ』
(監督・脚本どちらか区別できませんが、受賞スピーチをするアルモドバル)
◎主演女優賞
ピラール・カストロ 『列車旅行のすすめ』
ベレン・クエスタ 「La trinchera infinita」
グレタ・フェルナンデス 「La hija de un ladrón」 監督:ベレン・フネス
マルタ・ニエト 「Madre」 監督:ロドリゴ・ソロゴジェン
マリア・ロドリゲス・ソト 「Los días que vendrán」 監督:カルロス・マルケス=マルセ
〇「La trinchera infinita」からは、ベレン・クエスタの1賞だけでした。今年のドレスは白と黒が流行でしたが、彼女のドレスはレトロ過ぎたということで若干不評でした。襟元がⅤ字にあいているのも今年の流行のようです。
◎主演男優賞
アントニオ・バンデラス 「Dolor y gloria」(欠席)
アントニオ・デ・ラ・トーレ 「La trinchera infinita」
カラ・エレハルデ 『戦争のさなかで』(4個)
ルイス・トサール 「Quien a hierro mata」 監督:パコ・プラサ
ダビ・ベルダゲル 「Los días que vendrán」
◎助演女優賞
ペネロペ・クルス 「Dolor y gloria」
モナ・マルティネス 「Adiós」
ライア・マルル 「La inocencia」
アントニア・サン・フアン 「El hoyo(The Platform)」
フリエタ・セラノ 「Dolor y gloria」
〇大喜びの受賞者、自分を起用してくれたアルモドバル監督に感謝の辞を述べました。
◎助演男優賞
エンリク・アウケル Enric Auquer 「Quien a hierro mata」
アシエル・エチェアンディア 「Dolor y gloria」
エドゥアルド・フェルナンデス 『戦争のさなかで』
キム・グティエレス 『列車旅行のすすめ』
レオナルド・スバラグリア 「Dolor y gloria」
〇飛び上がって喜ぶ受賞者は、TVシリーズ部門でもレティシア・ドレラの「Vida perfecta」出演で助演男優賞を受賞しました。今宵のダブル受賞はこれからの人生でも忘れられない一日となるでしょう。
◎脚本賞
ペドロ・アルモドバル 「Dolor y gloria」
ダビ・デソラ&ペドロ・リベロ 「El hoyo(The Platform)」
ホセ・マリ・ゴエナガ&ルイソ・ベルデホ 「La trinchera infinita」
オリベル・ラシェ&サンティアゴ・フィリョル 『ファイアー・ウィル・カム』
ハビエル・グジョン 『列車旅行のすすめ』
◎オリジナル音楽賞
セルティア・モンテス 「Adiós」
アルトゥーロ・カルデルス 「Buñuel en el laberinto de las tortugas」
アルベルト・イグレシアス 「Dolor y gloria」
パスカル・ゲーニュ 「La trinchera infinita」
アレハンドロ・アメナバル 『戦争のさなかで』
クリストバル・タピア・デ・ベエル 『列車旅行のすすめ』
〇トロフィーのコレクター、いつも穏やかで謙虚なアルベルト・イグレシアス。久しぶりに音楽を担当したアレハンドロ・アメナバルは残念でした。
◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ 「Adiós」
ホルヘ・ルエンゴ 「Dolor y gloria」
ラウル・ロペス 「El hoyo(The Platform)」
マルコス・フロレス 『ファイアー・ウィル・カム』
ラファ・マルティネス 『戦争のさなかで』
◎ポスター賞
ミゲル・ナビア 「El crack cero」
エドゥアルド・ガルシア 「El hoyo(The Platform)」
ラウラ・レナウ 『8月のエバ』 監督:ホナス・トゥルエバ
アイトル・エラスキン&カルロス・イダルゴ 『ファイアー・ウィル・カム』
ホセ・アンヘル・ペーニャ 『列車旅行のすすめ』
〇このポスターは文句なしの受賞でしょうか。実に素晴らしい。「El crack cero」は引退したとばかり思っていたホセ・ルイス・ガルシが監督しました。私立探偵ヘルマン・アレタを主人公にした、1981年の「El crack」と1983年の「El crackⅡ」と合わせて三部作になる。今回はモノクロでガルシ監督が撮るということで、ルイス・アンヘル・ぺレス、カエタナ・ギジェン・クエルボ、カルロス・サントス、マカレナ・ゴメスなど演技派が参集しました。ガルシは『黄昏の恋』(82)でスペインに初のオスカーをもたらした監督です。
★TVシリーズ部門は、主要作品を満遍なく選び、4作品にばらけました。コメディ部門で選ばれた、レティシア・ドレラが監督主演した「Vida perfecta」は、第2回カンヌ国際シリーズ映画祭2019で作品賞に当たるシリーズ賞と主演賞(演技賞)をレティシア・ドレラ、アイシャ・ビリャグラン、セリア・フレイジェイロの3人が揃って受賞した作品。サンセバスチャン映画祭の大型スクリーンで上映されるベロドロモ部門でも上映されているから受賞は想定内でした。レティシアは主演、アイシャとセリアは助演女優賞にノミネートされていましたが、カンデラ・ペーニャ(主演)とヨランダ・ラモス(助演)の手に渡りました。代わりにエンリク・アウケルが今宵2個目となる助演男優賞を手にしました。
*「Vida perfecta」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月04日
*TVシリーズ*(6カテゴリー)
◎作品賞(ドラマ部門)
Hierro (Movistar+)
(Movistar+ の製作者のようですが・・・)
〇「Hierro」(シーズン1、8話)のキャスト陣は、主演女優賞のカンデラ・ペーニャの他、ダリオ・グランディネッティが主演男優賞ノミネートされていた。他にKimberley Tell、フアン・カルロス・ベジィド、マルガ・アルナウ、アントニア・サン・フアンも出演している。カナリア諸島を舞台にしたスリラー。
◎作品賞(コメディ部門)
Vida perfecta (Movistar+)
(喜びのスピーチをする監督主演のレティシア・ドレラ、右端)
(全員登壇して喜び合ったスタッフと俳優陣)
◎主演女優賞
カンデラ・ペーニャ 作品「Hierro」
〇ミニスカート姿のカンデラ・ペーニャ、以前と雰囲気が変わった印象、レティシア・ドレラやヨランダ・ラモスもミニスカートでしたが、これも今年の流行でしょうか。
◎主演男優賞
ハビエル・カマラ 作品「Vota Juan」(コメディ)
◎助演女優賞
ヨランダ・ラモス 作品「Paquita Salas」(コメディ『パキータ・サラス』Netflix配信)
◎助演男優賞
エンリク・アウケル 作品「Vida perfecta」
*特別賞*
◎栄誉フェロス賞(Premio Feroz de Honor)
(受賞者フリア・グティエレス・カバとエミリオ・グティエレス・カバの姉弟)
(左側にプレゼンターのベレン・ルエダの姿が見える)
★今年AICE(スペイン映画ジャーナリスト協会)が選んだ栄誉フェロス賞は、フリア・グティエレス・カバ、エミリオ・グティエレス・カバの姉弟シネアストでした。フリアは1932年マドリード生れの舞台・映画・TVシリーズで活躍する女優。アントニオ・バルデムの「Nunca pasa nada」(63、1966フォトグラマス・デ・プラタ賞)やホセ・マリア・フォルケのコメディ「Un millón en la basura」(67)、代表作はマリオ・カムスの「El color de las nubes」で主役を演じゴヤ賞1998にノミネート、ホセ・ルイス・ガルシの「You're the One」でゴヤ賞2001の助演女優賞を受賞した。公開作品ではギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)がある。本作の主役を演じたベレン・ルエダがプレゼンターでした。シネマ・ライターズ・サークル賞3回、フォトグラマス・デ・プラタ賞2回、サン・ジョルディ賞2回、マラガ映画祭2019の特別賞ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞を受賞している。
*フリア・グティエレス・カバのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年03月17日
(ゴヤ賞2001助演女優賞のトロフィーを手にしたフリア)
(マラガ映画祭2019ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞の受賞スピーチをするフリア)
★エミリオ・グティエレス・カバは1942年バジャドリード生れの俳優。両親とも俳優という俳優一家の末っ子として父親と同じ名前エミリオを貰った。長姉イレーネも女優でしたが1995年に鬼籍入りしている。周囲の環境もあって子供の頃にスタート、芸歴は長く勿論現役で200作を超える。映画は1966年にカルロス・サウラの『狩り』やバシリオ・マルティン・パティノの「Nueve cartas a Berta」に出演した。ピラール・ミロの「Wether」(86)、マラガ映画祭1998に出品されたミゲル・アルバラデホの「La primera noche de mi vida」で男優賞を受賞した。しかし忘れていけないのがアレックス・デ・ラ・イグレシアのヒット作『13みんなのしあわせ』で第15回ゴヤ賞2001助演男優賞、スペイン俳優ユニオンやシネマ・ライターズ・サークルの助演男優賞などを受賞した。翌年アルバラデホのロマンティック・コメディ「El cielo abierto」で2個目のゴヤ賞助演を受賞した。
(『13みんなのしあわせ』でゴヤ賞助演男優賞受賞)
★他にパブロ・ララインの『ネルーダ』(16)でのピカソ役、アルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』(17)、Netflixで配信されたフェルナンド・ゴンサレス・モリナの『ヤシの木に降る雪』(15)やフリオ・メデムの『ファミリー・ツリー~血族の秘密~』(18)がある。マラガ映画祭2016で姉より一足先に特別賞ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞に輝いた。
*エミリオ・グティエレス・カバのキャリア紹介は、コチラ⇒2016年04月14日
(マラガ映画祭2016ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞を姉から受け取った)
★ドキュメンタリー賞に、ビクトル・モレノの「La ciudad oculta」が受賞しました。ノミネートがあったのかどうか気づきませんでしたが、今までなかったカテゴリーです。ゴヤ賞にはノミネートされておりません。
(ビクトル・モレノ監督と撮影監督のホセ・アラヨン)
★ノミネートされたり、プレゼンターとして招かれた出席者のうち、ベスト・ドレッサー、ワースト・ドレッサーは、こんなシネアストたちでした。
(スパンコールのシャネル・スーツのペネロペ・クルス、エレガントではあるが平凡の採点)
(『列車旅行のすすめ』で主演女優賞ノミネートのピラール・カストロ)
(昨年12月にはなかったというタトゥーを披露した、ベレン・ルエダ、栄誉賞プレゼンター)
(ベストに選ばれたグレタ・フェルナンデスの左右対称の黒のドレス)
(「El hoyo」で助演女優賞ノミネートのアントニア・サン・フアン、ワースト採点)
(ドラマ部門作品賞プレゼンターのビクトリア・アブリル、ワースト採点)
(今年の流行、黒のミニスカートのレティシア・ドレラ)
(セリア・フレイジェイロ、「Vida perfecta」で助演助演女優賞ノミネート)
(常に品よくはみ出さない、ロドリゴ・ソロゴジェンとマルタ・ニエトのカップル)
(グレーのスリー・ピースのアントニオ・デ・ラ・トーレ)
(相変わらず目立つスーツのアシエル・エチェアンディア)
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