アメナバル始動*新作のテーマはウナムノとスペイン内戦2018年06月01日 14:13

         14年ぶりスペイン語で撮る「Mientras dure la guerra

 

★年明け2日に新作をアナウンスしていたアレハンドロ・アメナバルが、去る528日、サラマンカ市のプラサ・マジョールでクランクインしました。新作のタイトルはMientras dure la guerra哲学者、著作家ミゲル・デ・ウナムノの最晩年、1936717日スペイン内戦勃発から彼の死の1231日までの6か月間が描かれる。主な製作はフェルナンド・ボバイラと彼の制作会社MOD ProduccionesMovistar+Himenoptero、ほかICAAの援助を受けている。MODは過去に『アレクサンドリア』(09)や「Regression」(15、未公開)などアメナバル作品を手掛けている。製作資金638万ユーロ、うち昨年10月に140万を受け取っている。サラマンカ、トレド、マドリード、チンチョン、バスクなど、期間は8週間の予定。

 

     

 (1936年当時を再現するため植木鉢を設置したプラサ・マジョールを散策するアメナバル)

 

★発表時にはキャスト陣は伏せられていましたが、主人公のウナムノに同じバスク出身のカラ・エレハルデ、彼に対立するフランコ将軍の友人にして陸軍将官ホセ・ミリャン・アストライエドゥアルド・フェルナンデス、ほかフランコ総統にサンティ・プレゴナタリエ・ポサパトリシア・ロペスインマ・クエバスルイス・ベルメホなどが共演する。過去にアメナバル映画に出演したキャストは起用しない方針の監督、オール初出演となります。カラ・エレハルデはコメディ「オーチョ・アペジード」シリーズ、イシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』、古くはフリオ・メデムの『バカス』『赤いリス』ほか、当ブログでも何度もご登場願っているベテラン、対するエドゥアルド・フェルナンデスも演技は折り紙付き、『スモーク・アンド・ミラーズ』『エル・ニーニョ』『ブラック・ブレッド』などあくの強い役柄が多い。

 

     

   (ウナムノに扮したカラ・エレハルデ)

 

         

                     (カラ・エレハルデとミゲル・デ・ウナムノ)

  

2004年の『海を飛ぶ夢』以来14年ぶりにスペイン語で撮ることになったアメナバル、「このプロジェクトは特別です。と言うのも使用言語が長いあいだ撮っていなかったスペイン語だからです。スペインの過去の歴史に基づいているにもかかわらず、現在について語っています。スペイン内戦が始まったばかりの、軍人と文学者をめぐる二つの世界の一致と対立について語ります」とテーマを語っている。「ほかの作品ではクランクインする前はよく眠れないのですが、今回はかなり良く睡眠がとれています。多分スペイン語で撮るからだと思います。この変化でからだの調子もいい。矛盾しているようだが、今作は穏やかとは言えないテーマだからです」と撮影前のインタビューに応えていた。

 

        

     (アメナバル監督とウナムノ役のカラ・エレハルデ、サラマンカで撮影開始)

 

19361012日、サラマンカ大学講堂でのミゲル・デ・ウナムノミリャン・アストライの対決がクライマックスの一つと予想されます。ミリャン・アストライ18791954)は、1920年、フランコ将軍の指揮のもとにスペイン外人部隊(Legión Española)を設立した(異説もある)。スペイン・モロッコ戦争(192026)で右目と左腕を失っている。アメナバルは、外人部隊の退役軍人から「ウナムノとの対決については(ミリャン・アストライ)将軍の回顧録を読み、真実に基づいて語ること」という警告をうけている。つまり名誉を損なうような映画なら裁判に訴えるというわけです。「そんな脅しに屈服するようなアメナバルではない」というのが大方の予想です。二人とも鬼籍入りして半世紀以上も経つわけですが、ことスペイン内戦に関する限り、「ついこのあいだ終わったばかりの戦争」なのでしょう。スペインで「先の大戦」とは第二次世界大戦ではなくスペイン内戦を指すことに変わりない。

 

(フランコ総統とミリャン・アストライ)

    

 

    

 (フランコ総統のサンティ・プレゴ、ミリャン・アストライのエドゥアルド・フェルナンデス)

 

★まだ撮影が始まったばかりですが外野はかなり熱くなっているようです。アメナバルは「ウナムノは魅力的な人物、何に対しても妥協しない。言ったこと考えたことを練り上げる。そして修正し、撤回する・・・だからドラマ作りの観点からいえば金ですね」と語っている。やはり矛盾に満ちた哲学者に魅せられているようです。スペインではコメディが主流で、ドラマを撮るのは困難、『アレクサンドリア』が興行的に失敗だったことをまだ覚えているけれど、挑戦したいということです。ウナムノに「カラ・エレハルデ起用が意外と受け取られているが、彼はもう大した役者です。彼も脚本を気に入ってくれた。私は彼の演技や役作りが観客をきっと魅了するだろうことを確信している」と。

 

  

 (撮影風景、アメナバル監督)

 

            

                     (黒い帽子をかぶった白髭の老人がウナムノ役のカラ・エレハルデ)

  

★脚本は2年前に完成していたそうで、アレハンドロ・エルナンデスとの共同執筆です。脚本家エルナンデス(ハバナ1970)はキューバ出身の脚本家、2000年にスペインに亡命した才能流出組の一人。ベニト・サンブラノの『ハバナ・ブルース』(05、共同執筆)、2013年、マリアノ・バロッソの「Todas las mujeres」で、ゴヤ賞2014の脚色賞を監督と受賞する。マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』(15、監督との共同執筆)や「El autor」(17)、スペイン史のキイポイントとなるフィリピン割譲を余儀なくされた1898年を描いたサルバドル・カルボの「1898Los últimos de Filipinas」(16)などを手掛けており、作品は当ブログでご紹介しています。

 

★過去にはウナムノのビオピックとしてマヌエル・メンチョンLa isla del viento2016)があり、こちらのウナムノにはホセ・ルイス・ゴメスが扮した。架空の人物も登場させたフィクション性の高い映画ですが、同じサラマンカ大学講堂での「19361012日の論争」が一つの山場になっています。当ブログでは、映画紹介のほか、ミゲル・デ・ウナムノの経歴、ミリャン・アストライとの対決などを紹介しております。

La isra del viento」の紹介記事は、コチラ20161211

 

 

   

           (ホセ・ルイス・ゴメスが扮したウナムノ)