ガルシア・マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』の映画化2014年01月23日 14:26

★ゴヤ賞候補主要作品の紹介は、授賞式までに1作ずつ間をおいてアップ、他のニュースがニュースでなくなるので、今回はノーベル賞作家ガルシア・マルケスの今のところ最新小説Memoria de mis putas tristes2004刊)の映画化について。77歳になった作家が久しぶりで書いた恋愛小説、同じノーベル賞作家川端康成の『眠れる美女』に触発されて書かれたということが話題になった。90歳の誕生日を迎えようとする老人と14歳の処女という「普通ではない」組合せも物議をかもした。老人の性愛もテーマの一つであろうが、真のテーマは「死と再生」でしょう。

 

原題:Memoria de mis putas tristes
(『わが悲しき娼婦たちの思い出』は小説の翻訳題による

監督・脚本:ヘニング・カールセンHenning Carlsen

脚本:ジャン=クロード・カリエール 原作:ガブリエル・ガルシア・マルケス

撮影監督:アレハンドロ・マルティネス

 

キャスト:ジュラルディン・チャップリン(ローサ・カバルカス)/エミリオ・エチェバリア(エル・サビオ)/パオラ・メディナ・エスピノサ(デルガディーナ)/アンヘラ&オリビア・モリーナ(カシルダ・アルメンタ)/アレハンドラ・バローサ(フロリーナ・デ・ディオス)/ドミニカ・パレタ(ヒメーナ・オルティス)/エバンヘリナ・ソサ(ダミアーナ)/ロドリーゴ・オビエド(ヒメーナの兄弟)/オフェリア・メディナ他

データ:メキシコ=スペイン=デンマーク=アメリカ 2011 言語スペイン語 90

 

2012年マラガ映画祭で特別若手審査員賞を受賞したので翌年には公開と思っていましたが、監督がデンマーク人がネックになったのか、ようやっとこの1月公開になりました。劇場公開になったのは、ロシア、デンマーク、ポーランド、メキシコ、ドイツ(DVD)、映画祭上映はマラガの他、リオ国際映画祭2011、グアダラハラ国際映画祭2012など。

 

カールセン監督は、1927年デンマークのオールボー市生れ。ガルシア・マルケスと奇しくも同年齢、脚本のカリエールも1931年生れだから「老青年3人組」の作品といえます。監督とラテンアメリカ映画との接点は、既に本作のプロデューサーの一人ラケル・グアハルドとタッグを組んだ経験があった。カリエールは、フェルナンド・トゥルエバの最新作『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』を手掛けている。

 

 

(カールセン監督)

最初語り手のエル・サビオ(小説では博士)にアルゼンチンのフェデリコ・ルッピかエクトル・アルテリオ、少女デルガディーナにキューバ出身のアナ・アルマス(スペイン在住)が予定されていたようですが、紆余曲折があって上記のようになった。具体化は2008年に製作会社も決定、撮影は200911月メキシコのカンペチェでクランクイン、20105月に終了している。

   キャスト陣のトレビア

語り手の主人公エル・サビオ役のエミリオ・エチェバリアは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』(第3部)の主人公エル・チボやアルフォンソ・キュアロンの『天国の口、終りの楽園』でお馴染みの国際派ベテラン俳優。『アモーレス・ペロス』が東京国際映画祭のグランプリを受賞した2000年に、監督と一緒に来日しております。

 


デルガディーナに扮するパオラ・メディナ・エスピノサは、メキシコの名花オフェリア・メディナの姪御さん、既に29歳。小説では14歳ですが、映画は17歳ぐらいに設定されているとはいえ、いささか無理がありますね。オフェリアも特別出演(多分入院中の母親役)して話題作りに貢献している。(写真:エル・サビオのエチェバリアとデルガディーナのパオラ)

 


娼婦カシルダ・アルメンタの若い頃と現在を演じているのが、アンヘラ・モリーナオリビアの母娘。カシルダはエル・サビオが若い頃通っていた人気の娼婦、引退後に中国人と結婚して主婦になる。アンヘラは女優には珍しい5人の子持ち、オリビアはアンヘラの最初の夫との間に、1980年長女として誕生、この撮影後の2012年に長女を出産している。アンヘラは『ブランカニエベス』で白雪姫の祖母役を演じましたが、実際も撮影中に孫が出来たというわけです。アンヘラまたは映画人モリーナ一家についてはじっくりとご紹介したいと考えています。
(写真:エル・サビオとカシルダのアンヘラ)

 

 

 (ローサのジュラルディン)

娼家の女将ローサ・カバルカス役のジュラルディン・チャップリン、彼女が主役でしょうかね。昔は太った大女のローサも73歳になった今では、すっかり痩せて皺くちゃになっている。しかし頭の回転と毒舌は健在、エル・サビオに眠り姫デルガディーナを斡旋する。こういう役は彼女に打ってつけですね。1944年カリフォルニアのサンタ・モニカ生れ、父親の『ライムライト』(1952)のオープニング・シーンに現れる少女から数えると、出演本数130本以上になる。デヴィッド・リーンの『ドクトル・ジバゴ』(1965)から現在に至るキャリアをいずれきちんとご紹介したい。


エル・サビオの婚約者ヒメーナ・オルティス役のドミニカ・パレタは、1972年ポーランド生れ、若い頃メキシコに移住、テレビ界出身。エル・サビオの若くして亡くなる美貌の母親フロリーナ・デ・ディオス役のアレハンドラ・バローサは、1971年メキシコ市生れ、代表作はアレハンドロ・スプリンガルのNo eres tú, soy yo2010)、脚本も手がけている。この母親が主人公が抱えるトラウマの原因になっている。


グラシア・ケレヘタ”15 años y un día”*ゴヤ賞20142014年01月26日 11:26

★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(1


 *15 años y un día15 Years and One Day

製作:Tornasol Films S.A. / Castafiore Films S.L. ヘラルド・エレーロ 作品賞ノミネート

監督:グラシア・ケレヘタ (監督賞ノミネート

脚本:グラシア・ケレヘタ、アントニオ・メルセロ

撮影監督:フアン・カルロス・ゴメス (撮影賞ノミネート)

音楽:パブロ・サリーナス、アロン・ピペル、セシリア・フェルナンデス・ブランコ

   (歌曲賞ノミネート、“Rap 15 años y un día”)

  

キャスト:ティト・バルベルデ(マックス)/マリベル・ベルドゥ(マルゴ)/アロン・ピペル(ホン)/ベレン・ロペス(アレド)/スシ・サンチェス(カティ)/ボリス・クカロン(トニ)/パウ・ポチ(ネルソン)/スフィア・モハメド(エルサ)他


    

       (アロン・ピペルとマリベル・ベルドゥ)

上記以外のノミネート:ティト・バルベルデ(主演男優賞)、マリベル・ベルドゥ(助演女優賞)、ベレン・ロペス(新人女優賞)合計7部門

データ:スペイン・スペイン語 2013 96分 ドラマ 撮影地 Alacant(バルセロナ市)

オスカー賞2014スペイン代表作品、モントリオール映画祭2013出品、サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペインで上映、他。

 

受賞・ノミネート歴

マラガ映画祭2013「金のジャスミン」作品賞・「銀のジャスミン」脚本賞

シネマ・ライターズ・サークル賞2014(スペイン)ノミネート:作品賞・監督賞・男優賞・助演女優賞・脚本賞・新人女優賞

 

プロット:思春期の混乱の中にある若者ホンと退役軍人の祖父マックスの物語。母親のマルゴはホンが退学処分を受けると、息子の将来を考えてコスタ・デ・ラ・ルスの小村で暮らす父に託そうと決心する。危険な年頃の孫、退役後の人生を静かに心地よく暮らしたい祖父、二人は互いに抑制と不安を抱えて向き合うことになる。

 

 

              (アロン・ピペルとティト・バルベルデ)

グラシア・ケレヘタ Gracia Querejeta 監督については若干「ゴヤ賞2014ノミネーション①」で写真とともにご紹介しております。1962年、大物プロデューサーだった父エリアス・ケレヘタと母マリア・デル・カルメン・マリンとの間にマドリードで生れる。母親はマイキ・マリンMaiki Marínの名でサウラやエリセの作品を手掛けている衣装デザイナー、娘の映画もデビュー以来ほぼ全作に携わっています。さしずめ両親の「七光り」という幸運の星の下で映画人生を始める。女優には全く興味がなく、マドリード・コンプルテンセ大学で古代史を専攻した。

       

主要長編作品

1992Una estación de paso バジャドリード映画週間特別審査員賞受賞

1994El último viaje de Robert Rylands シネマ・ライター・サークル賞

      作品・監督・撮影・音楽・編集を受賞

1999Cuando vuelvas a mi lado サンセバスチャン映画祭特別審査員賞(監督)、撮影賞を受賞

2004Héctor マラガ映画祭金のジャスミン作品賞、女優賞(アドリアナ・オソレス)受賞

2007Siete mesas de billar francés ゴヤ作品賞・監督賞ノミネート。

       主演女優賞(マリベル・ベルドゥ)、助演女優賞(アンパロ・バロ)受賞

  

ドキュメンタリー、短編、2007年からテレビ・シリーズ多数。特に2007年からはテレビの仕事が多い。昨年の暮、新しいTV シリーズがクランクアップしたばかり、今年お茶の間に登場する。

 

★テーマに家族を取り上げることが多いせいか、本作がオスカー賞2014スペイン代表作品に選ばれた際の記者会見でも同じ質問がでた。「こういうテーマが好きなこともあるが、息子が2歳くらいのとき夫と別れた。一人で子供を育てるのは常に不安で、息子との関係も緊密すぎてぎすぎすしたものがあった。家族のテーマを追求するなかで不利な点や複雑さを解消して喜びや利点に変えるべきだと考えるようになった」と語っている。マラガ映画祭でも「4年前に息子の身の上に起こった私自身の恐怖が織り込まれている」とも。スペインの若者は夢を見ることができなくなっており、彼らを取りまく環境はゾッとするようなものということです。これはスペインに限りませんね。

 

★本作は父エリアス・ケレヘタのプロデュースなしで作られた最初の作品だが、今後も父の助けなしで作ることになる。次回作はマリベル・ベルドゥを主役にして、タイトルもFelices 140に決まり、6月には撮影に入るということです。

 

ダニエル・サンチェス・アレバロ”La gran familia espanola”*ゴヤ賞2014ノミネーション2014年01月27日 13:27

★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(2

 


  La gran familia española Family United

製作:アトレスメディア・シネ(ミケル・レハルサ)、アティピカ・フィルム、S.L.(ホセ・アントニオ・フェレス)他 作品賞ノミネート     

監督・脚本:ダニエル・サンチェス・アレバロ 監督賞オリジナル脚本賞ノミネート

撮影:フアン・カルロス・ゴメス

音楽:Josh Rouse Do You Really Want To Be In Love? 歌曲賞ノミネート

アントニオ・デ・ラ・トーレとロベルト・アラモが揃って助演男優賞、パトリック・クリアドが新人男優賞にノミネート、他に編集賞(ナチョ・ルイス・カピジャス)、録音賞(カルロス・ファルオロ他)、特殊効果賞(フアン・ラモン・モリーナ他)、メイキャップ&ヘアデザイン賞(ロラ・ロペス他)を含めて10部門(ただし助演男優賞が二人なので≪11≫とカウントしている)の最多ノミネート。

 

キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(長男アダン)/ロベルト・アラモ(次男ベンハミン)/キム・グティエレス(三男カレブ)/ミケル・フェルナンデス(四男ダニエル)/パトリック・クリアド(五男エフライン)/ベロニカ・エチェギ(クリス)/サンドラ・マルティン(モニカ)/アランチャ・マルティ(カルラ)/アリシア・ルビオ(マリサ)/エクトル・コロメー(父親)他

 

データ:スペイン・スペイン語 2013 コメディ 撮影地マドリード(20128月下旬より10月中旬まで) 2013913日公開(封切り1週目732.000ユーロ)

ノミネート歴:シネマ・ライターズ・サークル2014にベロニカ・エチェギ助演女優賞・ロベルト・アラモ助演男優賞。

 

プロット:人生とはサッカーのようなもの、ゴールを入れる決まった方法は一つじゃない。戦略を練って決断し、気力と夢と喜びをシャカシャカ振って作ったカクテルだ。勿論ちょっぴり運も必要なんだ。妻に5人の息子を押しつけられ逃げられた父親は未だにそのトラウマから抜け出せない。長男は鬱ぎみ、その娘は次男の≪無垢なる≫オトナと大の仲良し、三男は恋人クリスを四男に横取りされたショックでアフリカへ2年振りに帰国する、そして今日2010711日に18歳の五男が花婿になる。花嫁カルラのお腹は既にサッカー・ボール、なのに幼馴染のモニカが忘れられない。あいにく今日は南アフリカ・ワールド・カップの決勝戦、招待客は結婚式などそっちのけ、スペインじゅうがテレビに釘付けだ。スペインが決勝戦まで勝ち進むなんて誰が予想した!

 

    
        (ダニエル・サンチェス・アレバロ)

ダニエル・サンチェス・アレバロ Daniel Sanchez Arevalo は、1970年マドリード生れ。父ホセ・ラモン・サンチェス、母カルメン・アレバロは共にシネアスト、母親は本作にも出演している。以前にご紹介したことの繰り返しになるが、長編4作となるLa gran familia español”は、負け組5人兄弟のミクロな世界を描きながら、今やEUのお荷物となっているスペインの、嘘でかためた社会が抱えるマクロな問題にメスを入れている。彼自身16年間も精神分析を受けている思惑の人だから、兄弟の人格には彼が少しずつ投影されている。背景にハリウッドの古典、ブロードウェイでもロングランしたスタンリー・ドーネンの『掠奪された七人の花嫁』(1954)への目配せがあると語っておりましたが、あちらのようにハッピーエンドにはなりません。ワールド・カップ優勝のような目出度しメデタシでもないようです。

監督が「兄さん、兄さん」と呼んでるアントニオ・デ・ラ・トーレの紹介はあちこちでしてるから、今回初ノミネートの2人だけに致します。

 

(ロベルト・アラモ)

       

ロベルト・アラモ Roberto Alamo 1970年マドリード生れ。テレビ出身、人気TVシリーズAguila Roja200913)にレギュラー出演。サンチェス・アレバロの第2作『デブたち』、公開作品ではアルモドバルの『私が、生きる肌』、ボジャインの『あなたに目をあげる』、未公開だが最近セルバンテス文化センター土曜映画上映会(字幕なし)で上映されたダビ・セラーノのDias de fútbol2003)、2012年ゴヤ賞新人監督賞他ノミネートで話題となったパウラ・オルティスのDe tu ventana a la mía2011)などがある。ゴヤ賞ノミネートは今回が初めて

 

                 

                (左から、アランチャ・マルティ、パトリック・クリアド、サンドラ・マルティン)

パトリック・クリアド Patrick Criado 1995年マドリード生れ。テレビ出身、ロベルト・アラモと同じTVシリーズAguila Roja200913)のヌーニョ役でお茶の間にはお馴染み、ホセ・ラモン・アジェラのAguila Roja, la pelicula2011)にも同役で出演。本作の年齢設定が18歳、実年齢を演じたわけです。映画デビューはエミリオ・マルティネス・ラサロのLas 13 rosas2007)、本作は2008年ゴヤ賞作品賞以下10部門を制覇、次のホセ・ルイス・クエルダのLos girasoles ciegos2008)も2009年ゴヤ賞作品賞以下8部門を受賞していて、最初の出だしから恵まれている。ただし本人のゴヤ賞ノミネートは今回が初めて甘いマスクだけでは生き残れない。

 

★今年は混線状態だからノミネーションの数だけでは判断できないが、いくつかは受賞するでしょう。サンチェス・アルバロ監督は第1作『漆黒のような深い青』からラテンビートやスペイン映画祭などで紹介されている珍しい存在。愛あい、涙なみだ、そして品あるユーモア、今年のラテンビートも期待したい。


ダビ・トゥルエバ”Vivir es facil con los ojos cerrados”*ゴヤ賞2014ノミネーション2014年01月30日 23:13

★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(3

 


Vivir es fácil con los ojos cerradosLiving is Easy With Eyes Closed”)

製作:フェルナンド・トゥルエバ P.C. S.A.
(クリスティナ・ウエテ フェルナンデス=マキエイラ)
作品賞ノミネート

監督・脚本:ダビ・トゥルエバ 監督賞・オリジナル脚本賞ノミネート

撮影:ダニエル・ビラル

音楽:パット・メセニー オリジナル作曲賞ノミネート

他のゴヤ賞ノミネート、主演男優賞(ハビエル・カマラ)、新人女優賞(ナタリア・デ・モリーナ)、衣装デザイン賞(ララ・ウエテ)の合計7部門ノミネート、ウエテ姉妹が揃ってノミネートされています。

 

キャスト:ハビエル・カマラ(アントニオ)、ナタリア・デ・モリーナ(ベレン)、フランセスク・コロメール(フアンホ)、ホルヘ・サンス(フアンホ父)、アリアドナ・ヒル(フアンホ母)、ロヘリオ・フェルナンデス(ブルーノ)、ラモン・フォントセレ(ラモン)他

ザ・ビートルズのジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、ポール・マッカートニーの映像も登場する。

 

データ:スペイン・スペイン語 2013 コメディ 108分 
撮影地アルメリア県(アンダルシア州)
 1031日公開

サンセバスチャン映画祭2013コンペティション正式出品。

パーム・スプリングス映画祭2014「ラテン映画賞」受賞。カリフォルニア州のパーム・スプリングス市で1月に開催される国際映画祭。アマ・エスカランテの『エリ』と賞を分かち合いました。

 

プロット1966年、ジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来る。ビートルズの歌を教材に英語を教えていた高校教師のアントニオは、彼のヒーローに会おうと決心、休暇をとって旅に出る。道中家出してきた16歳フアンホと、何かから逃げてきた若い娘ベレンが仲間に加わり、1966年のアルメリアは3人にとって生涯忘れられない季節になる。

 


ダビ・トゥルエバ David Rodriguez Trueba 1969年マドリード生れ、監督・脚本家・作家・俳優・ジャーナリスト。トゥルエバ8人兄弟の末っ子、『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(ラテンビート2013上映)で初来日したオスカー賞監督フェルナンド・トゥルエバは実兄。母親に甘やかされて7歳まで学校に行かなかった話は有名。父親はタイプライターの訪問販売業を営み、そのタイプライターで幼少時から物を書いていたという早熟な子供だった。マドリード・コンプルテンセ大学ジャーナリズム情報科学科卒業。1992年米国に渡り「アメリカン・フィルム・インスティチュート」脚本科に入学。

(写真はトゥルエバ監督、ロケ地アルメリアの海岸にて)

 

ゴヤ賞トレビア:テレビ映画Felicidades, Alberti1991)の脚本家として出発、長編映画La buena vida1996)がデビュー作、ゴヤ賞1997新人監督賞・脚本賞にノミネートされた他、カルロヴィー・ヴァリー映画祭特別審査員賞、トゥリア賞(第1作に与えられる賞)を受賞した。2003年の話題作Soldados de Salaminaは、ハビエル・セルカスの同名小説の映画化、オスカー賞スペイン代表作に選ばれるも最終候補に残れなかった。またコペンハーゲン映画祭脚本賞、トゥリア賞(スペイン映画部門)を受賞したが、ゴヤ賞はノミネートに終わっている。大学在学中に脚本を書き始め、エミリオ・マルティネス・ラサロに認められ、後に彼の『我が生涯最悪の年』(1994の脚本を書き、ゴヤ賞1995脚本賞にノミネートされている。これまた受賞に至らずゴヤは「道険し」の感がありますね。

Los peores anos de nuestra vida日本スペイン協会創立40周年記念を祝して開催された「スペイン映画祭1997」で上映されたときの邦題。フアンホの両親役に扮するホルヘ・サンスとアリアドナ・ヒルが恋人役で出演している。ヒルはトゥルエバ監督と結婚していたが別れたようだ。

 

★ビートルズ・ファンなら題名を見て、ジョン・レノンの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」(1967)から取られたことが分かるでしょう。ビートルズ映画を撮った監督リチャード・レスターの『ジョン・レノンの僕の戦争』撮影のため、レノンは実際にアルメリアに滞在していた。しかしこれはレノンの伝記映画ではない。1960年代スペインの、ちっとも言うことを聞かない生徒にうんざりした英語教師と出奔女性と家出少年三人の物語だ。時代は1966年と監督の生れる前のスペイン、民主主義の足音も遥か彼方、スペインは灰色に沈んでいた。アルメリアの人々は農業と漁業に従事して生活は貧しく、自由に憧れる若者にとってビートルズはまさにヒーロー、希望の星でもあった。

原題How I Won the War1967イギリス、パトリック・ライアンの同名小説の映画化。未公開だったがビデオが発売されたときに付けられた邦題(廃盤)。戦争の愚かさをブラック・ユーモアで笑い飛ばした映画で、本作のメタファーにもなっている。

 

 

 
        (写真左からフランセスク・コロメール、ハビエル・カマラ、ナタリア・デ・モリーナ)

 

★英語教師アントニオにはモデルがいる。監督によれば、ずっと以前のことだがアドルフォ・イグレシアスという記者が書いた「カルタヘナの英語教師」という記事を目にした。フアン・カリオンという美声の英語教師がビートルズの歌を使って英語を教えている。そしてジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来るというので会いに出掛けた、という記事だ。そこに先輩監督フアン・アントニオ・バルデムがフランコ没後の第1作として撮ったコメディEl puente1977、仮題「夏季休暇」)がひらめいた。主役のアルフレッド・ランダが夏季休暇を利用してバイクでマドリードからトレモリーノスへ旅をする話で、一種のロードムービー。そこでトゥルエバはカルタヘナ(ムルシア州)をアルバセテ(カスティリャ=ラマンチャ州)に変更してオリジナル脚本を書いたというわけです。

直訳だと「橋」ですが、休日に挟まれた平日に「橋」をかけて連休にする意味もあり、ここでは「夏季休暇」にした。読みかじりですが本作にもモデルがいたようです。横道になりますが、モスクワ映画祭グランプリ受賞作品、主役のアルフレッド・ランダが一躍注目を集め、この成功はマリオ・カムスの『無垢なる聖者』(1984)、ホセ・ルイス・クエルダの『にぎやかな森』(1987)へと繋がっていく。

 

★舞台となるアルメリア(県都)もかれこれ40年も経てば様変わりしていて、60年代を再現するのは難しかった。ここには2日間しかいなかった。ロケ地探しには苦労したようで、アルメリア県内の内陸部のタベルナス、ロダルキラル、地中海沿いのカボ・デ・ガタなどで撮影は行われた。

 


★新人女優賞にノミネートのナタリア・デ・モリー Natalía de molina は、アンダルシアの観光地ハエン近郊のリナレス生れ、グラナダで育った(正確な生年がIMDbでもアップされていないが、201311月に受けたインタビューで23歳と答えているので1990年ごろか)。俳優・歌手・バレエダンサー(短編で共演しているセリナ・デ・モリーナとは姉妹)。マラガ高等演劇芸術学校で2年間ミュージカルの基礎を学んだ後、マドリードに出て、演劇学校ガレージ・リュミエールGaraje Lumiere やスタジオ・コラッサEstudio Corazzaで演技を学ぶ。長編第1作でゴヤ新人女優賞にノミネートされた。インタビュアーから「スター誕生ですね」と言われて、「そうなれば嬉しい」と答えている。今年の新人女優賞は激戦だからどうでしょうか。

本作では独身で妊娠してしまった21歳のマラゲーニャ役、アンダルシア訛りが出来ることが出演の幸運を呼び込んだ。写真でも分かるようにナタリー・ポートマンに似ているが、よく言われるとのこと。彼女も踊れて演技できるから「とても光栄に思っている」由。

 


★フアンホ役のフランセスク・コロメールは、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』の少年アンドレウで既に新人男優賞をゲットしています。3年ですっかり若者になりましたが、あの独特の目ですぐ分かります。今回はカツラなしで登場のハビエル・カマラはご紹介するまでもないですね。

 

フェルナンド・フランコ”La herida”*ゴヤ賞2014ノミネーション2014年01月31日 14:22

★作品賞ノミネーションの「落ち穂拾い」、以下の2作品はゴヤ賞ノミネーション以前にご紹介しておりますが、少し追加いたします。

 

  La herida Wounded

★サンセバスチャン映画祭2013の正式出品作、主演のマリアン・アルバレスが女優賞を受賞しました。その記事はコチラです。またフォルケ賞については結果のみお知らせしましたが(1月14日)、本作は作品賞とマリアン・アルバレスが女優賞を受賞しました。

  


★ゴヤ賞ノミネート:作品賞
コワルスキ・フィルム、S.L. コルド・スアスア他)、新人監督賞(フェルナンド・フランコ・ガルシア)、オリジナル脚本賞(監督とエンリク・ルファス)、主演女優賞マリアン・アルバレス)、録音賞(アイトル・ベレンゲル・アバソロ、ハイメ・フェルナンデス、ナチョ・アレナス)、編集賞(ダビ・ピニリョス)の6部門

 

下馬評では最有力候補のようですが、新人監督賞と主演女優賞の受賞は間違いないでしょう。録音賞のハイメ・フェルナンデスはLa gran familia españolaとのダブル・ノミネートです。

 

  *CaníbalCannibal

★トロント国際映画祭2013の参加作品としてご紹介した記事はコチラです。気になる贔屓監督として早々とアップ致しました。主演のアントニオ・デ・ラ・トーレについてもご紹介しています。本作はダニエル・サンチェス・アレバロのLa gran familia españolaと同様、2014年オスカー賞スペイン代表作品の最終候補作品でしたが、結果はガルシア・ケレヘタの15 años y un díaになりました。

  


★ゴヤ賞ノミネート:作品賞(ラ・ローマ・ブランカP.C.S.L. マヌエル・マルティン・クエンカ他)、監督賞(マヌエル・マルティン・クエンカ)、オリジナル脚色賞(監督、アレハンドロ・エルナンデス)、主演男優賞アントニオ・デ・ラ・トーレ)、新人女優賞(オリンピア・メリンテ)、撮影監督賞(パウ・エステベス・ビルバ)、 録音賞(エバ・バリーニョ他) 美術賞(イサベル・ビニュアレス)の8部門

 


好き嫌いがはっきり分かれる映画なので作品賞は難しいかなと思いますが、ハイメ・ロサーレスの『ソリチュード 孤独のかけら』のようなサプライズを思い出すと一概に言えません。

今年の主演男優賞は演技派揃い、デ・ラ・トーレは器用貧乏というかカメレオン俳優というか、星の巡り合わせも悪くて賞に恵まれない。「今までのなかで役作りが一番難しかった」とインタビューに答えていました。エドゥアルド・フェルナンデスはフォルケ賞を受賞したから、スペイン・アカデミーの皆さん、今回はハビエル・カマラかデ・ラ・トーレに投票してね。
(写真:主演の二人 サンセバスチャン映画祭にて)