ジョニー・デップ栄誉賞授賞式*サンセバスチャン映画祭2021 ㉕2021年09月24日 17:57

     史上最も物議を醸したドノスティア栄誉賞受賞者ジョニー・デップ

 

     

 

922日、予定通りジョニー・デップのドノスティア栄誉賞の授賞式が行われました。というのも栄誉賞受賞が発表されると、スペイン女性映画製作者協会CIMAAsociación de Mujeres Cineastas de España)が元妻アンバー・ハード(2016年離婚)への家庭内暴力DV疑惑を理由に抗議の声を挙げたからでした。日本でも報道されているように、ジョニデを「DV夫」と報じたイギリスの大衆紙ザ・サンをめぐって起された訴訟で敗訴したからです。対して映画祭事務局が「我々が入手できたデータによると、彼は女性に対する暴力で逮捕、起訴、または有罪判決を受けておりません」と反論、無罪の推定の権利を擁護した。なんとももやもやした経緯でもたれた授賞式でした。

キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20210831

 

★授賞式の当日午前中に行われたフォトコールには、関係者にガードされ、最近では定番になった帽子と衣装で時間通り姿を見せ、報道陣の要求に気軽に応じていました。50分に及ぶプレス会見は、モデレーターがCIMAの件についての質問を許可しなかったからか概ね好意的な雰囲気で、ジョニー・デップは「私を追い出すつもりだと思っていた」などと冗談を言い、最後には「ありがとうございました」とスペイン語で締めくくったということです。

 

     

     (カメラにおさまったジョニー・デップ、922日のフォトコール)

 

★デップは敗訴後ワーナー・ブラザーズから映画シリーズ「ファンタスティック・ビースト」の大規模プロジェクトを解雇され、窮地に立たされ行き詰っています。ハリウッドから離れた仕事しかできないことから、今回の栄誉賞をとても感謝しているようでした。2010年代半ばから顕著になった<キャンセル・カルチャー>は、「Me Too」運動とも連動していますが、一歩間違うと社会における検閲機関となりかねません。沈黙は金とジャーナリストや作家が公に発言することを恐れるようになる可能性がある。日本では923日から公開が始まった、アンドリュー・レヴィタスの新作MINAMATA~ミナマタ』も米国での公開は決まっていない。

     

        

          (プレス会見でのジョニー・デップ、9月22日)

 

★プレス会見では「私が子供の頃、テレビで見た映画は無声が基本でした。チャールズ・チャップリン、バスター・キートンなどです。大きくなってモノクロのクラシック・ホラーを見ました。私はホラーの大ファンで、それがティム・バートンに繋がりました。このジャンルは仮面とかメイクの後ろに隠れて重力の負荷から逃れることができました。ロン・チャイニー**が姿を消してキャラクターになる能力について考えます。衣装や義肢は、私を自身から遠ざけ、キャラクターに集中させます」と。

 

  「あなたを沈めるには、たった一つのフレーズを言うだけで充分です」

 

★夜のステージでのキャンセル・カルチャーについての発言は、既に日本のメディアでも伝えられていると思いますが、ゆっくりとしたリズムで考え考えながらスピーチした。「今夜、まず第一に、ホセ・ルイス、映画祭関係者、市民の方に感謝します。私が選ばれたのは感動的です」と。このフェスティバルには34回来ていますが、これが本当の映画祭だと思って気に入っています。私はあえて自分をアーティストとは言いませんが、映画のクリエイティブな側面の一部であるよう感じています。「とても謙虚に感謝しています」、「この賞は皆さまのものです、観客がいなければ映画には意味がありません。観客は私の主人です」などとスピーチした。そしてハリウッドは大衆を過小評価し、物語の力が観客を魅了するのを忘れていますとも。「あなたを沈めるには、たった一つのフレーズを言うだけで充分です。防御できません」と、アンフェアな立場にいることを訴え、「愛する人や信じている人が被害者である場合には立ち上がってください」と述べた。スピーチは女性の聴衆によって何度も中断された。やれやれ・・・

     

    

 

キャンセル・カルチャー:主に著名人や権力をもつ人物団体の法的、社会的、倫理的違反を糾弾し、公の非難を通じて責任を問うやり方。デップのケースは映画テレビ出演を一方的に中止させることで、社会的排除の動きを加速させている。どちらに正義があるか今後の推移を待ちたい。彼がアンバー側を名誉棄損で訴えた裁判はパンデミックで遅れ、来年になる由。

**ロン・チャイニー(18831930)は、メイクと演技力で<千の顔を持つ男>と言われたサイレント時代の米国の名優、『ノートルダムのせむし男』(23)の鐘つき男カジモト、『オペラ座の怪人』(25)の怪人が有名。1957年ジェームズ・ギャグニー主演の『千の顔を持つ男』で、その生涯が映画化された。


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