アルベルト・ロドリゲスのTVシリーズ「Anatomía de un instante」*SSIFF 2025 ④ ― 2025年08月01日 11:27
ダブル・ノミネートのアルベルト・ロドリゲスの歴史ドラマ

(終結後、家族に無事を知らせる電話をする議員たち)
★アウト・オブ・コンペティション部門には、既にご紹介したアグスティン・ディアス・ヤネスの新作「Un fantasma en la batalla」とアルベルト・ロドリゲスのTVミニシリーズ「Anatomía de un instante」(4話、180分)の2作が選ばれ、4話のうち3話が上映されるようです。ハビエル・セルカスの同名ノンフィクション小説(2009年刊)がベースになっています。フランコ没後の民主主義移行期に起きた1981年2月23日の軍事クーデタ未遂事件が舞台です。スペインの子供たちは歴史の教科書で学びます。当時の国王ドン・フアン・カルロスI世の力量を国民が初めて知ることになったドラマチックな事件でもありました。今日のスペイン民主主義体制の土台となった事件だけにヒット作になるでしょうが、制作会社の一つMovistar Plus+ が配信しますので、多分日本では見ることができないでしょう。

(下院議場中央壇上のアントニオ・テヘロ中佐)
「Anatomía de un instante / The Anatomy of a Momento」
アウト・オブ・コンペティション
製作;Arte France / DLO Producciones / Movistar Plus+
監督:アルベルト・ロドリゲス
脚本:ラファエル・コボス、フラン・アラウホ、アルベルト・ロドリゲス
(原作)ハビエル・セルカス
撮影:アレックス・カタラン
編集:ホセ・M・G・モヤノ、アナ・ガルシア
キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ
美術:ペペ・ドミンゲス・デル・オルモ
衣装デザイン:フェルナンド・ガルシア
プロダクションデザイン:アレックス・ミヤタ
メイク&ヘアー:ヨランダ・ピーニャ(主任)、イツィアル・コスタス、ナチョ・ディアス、アイダ・カルバリョ
製作者:ホセ・マヌエル・ロレンソ(クリエーター)、フラン・アラウホ、マヌエラ・オコン
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語、TVミニシリーズ4話、撮影地マドリードの下院議場、アルカラ・デ・エナレス、他。配給スペインMovistar Plus+ で配信が決定している。
キャスト:アルバロ・モルテ(総理大臣アドルフォ・スアレス)、エドアルド・フェルナンデス(スペイン共産党書記長サンティアゴ・カリージョ)、マノロ・ソロ(副総理グティエレス・メジャド陸軍将軍)、ダビ・ロレンテ(治安警備隊中佐アントニオ・テヘロ)、ミキ・エスパルペ(国王フアン・カルロスI世)、オスカル・デ・ラ・フエンテ(ミランス・デル・ボッシュ陸軍大将)、フアンマ・ナバス(アルフォンソ・アルマダ陸軍少将)、サムエル・ロペス(社会労働党アルフォンソ・ゲーラ)、イグナシオ・カステージョ(議長ランデリノ・ラビージャ)、ルイス・ベルメホ、ベネアロ・エルナンデス(フアン・ガルシア・カレス)、他多数
ストーリー:1981年2月23日、午後6時20分、治安警備隊アントニオ・テヘロ中佐と自動小銃で武装した警備隊員200名が下院議場を占拠、国王を擁した軍事政権樹立を要求する。テヘロ中佐が拳銃を手に議場に乱入、安全のため議席の足元の床に身を伏せるよう命令して辱めたが、アドルフォ・スアレス首相、サンティアゴ・カリージョ共産党書記長、グティエレス・メジャド副首相の3名は指示に従わなかった。民主主義の前進を率いたこの3人と軍事クーデタ未遂事件の首謀者3人、治安警備隊アントニオ・テヘロ中佐、ミランス・デル・ボッシュ陸軍大将、アルフォンソ・アルマダ陸軍少将を通して、スペイン民主化のプロセスを強化することになった「F-23事件」が語られる。

(テヘロ中佐を演じたダビ・ロレンテ、フレームから)

(メジャド副総理役のマノロ・ソロ、スアレス首相役のアルバロ・モルテ)

(カリージョ役のエドゥアルド・フェルナンデス)
★スペインで「F-23事件」と言えば、スペイン人なら1981年に起きた軍事クーデタ未遂事件と分かります。Fはスペイン語の2月 febrero の頭文字、わが国の「3-11」、アメリカの「9-11」と同じように、年号は不要です。三軍の長でもあったフアン・カルロスI世のクーデタ不支持表明で、発生から18時間後に終結した無血クーデタですが、スペイン民主主義の行方を決定づけたターニングポイントとなる事件でした。とはいえ現在でも事件の推移は混沌としており、事件の黒幕の解明には至っていないということです。製作者がどこまで事件に踏み込んでいるのか目下のところ分かりませんが、監督、脚本家など製作スタッフの顔ぶれから期待したいところです。
★2月23日は、アドルフォ・スアレス首相が政治的混乱、高い失業率、ETAのテロ活動の未解決の責任を取って辞意を表明(1月29日)、当日は新首相選出の手続きを行っていたところでした。従って与野党下院議員がほぼ全員出席、国営放送局によりテレビで生中継されていました。一方ミランス・デル・ボッシュ将軍がテレビ局を占拠、突然放映が中断されましたが、記録は残っています。ラジオからは内戦当時の軍隊行進曲が流され国民を40年前の恐怖に陥れた。因みにダニエル・カルパルソロのTVミニシリーズ「Asalto al Banco Central / Bank Under Siege」(24、5話、『バンク・アンダーシージ』Netflix)の第1話の冒頭にこのときの実写が挿入されています。下院議場の中央壇上に駆け上がって威嚇するテヘロ中佐、スアレス首相、カリージョ書記長、メジャド副首相の3人以外は議席の床に伏せている映像を見ることができます。本作はF-23事件から3ヵ月後の5月23日に起きたバルセロナにあるスペイン中央銀行へ押し入った強盗事件を描いています。

(反乱首謀者3人、左からテヘロ、アルマダ、ミランス・デル・ボッシュ)

(原作者ハビエル・セルカスが表紙に使用したクーデタ当日の下院議場内)
★コンペティション外、TVシリーズということもあるので、スタッフ、キャスト紹介は割愛しますが、ロドリゲス監督はセクション・オフィシアルの「Los Tigres」、脚本家ラファエル・コボスはマラガ映画祭2019でリカルド・フランコ賞を受賞した折に紹介、カリージョ役のエドゥアルド・フェルナンデスは映画国民賞2025受賞の記事で、副総理メジャド役のマノロ・ソロはビクトル・エリセの『瞳をとじて』やガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの『コンペティション』、ラウル・アレバロの『静かなる復讐』などに出演しています。原作者のハビエル・セルカス(カセレス1962)は小説家、翻訳家、日本では『サラミスの兵士たち』(“Soldados de Salamina” 2001)と、最近『テラ・アルタの憎悪』(“Terra Alta” 2019)の翻訳が出版されています。
*アルベルト・ロドリゲスの紹介記事は、コチラ⇒2025年07月24日
*ラファエル・コボスの紹介記事は、コチラ⇒2019年03月26日
*エドゥアルド・フェルナンデスの紹介記事は、コチラ⇒2025年07月13日
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