第76回ベネチア映画祭2019*結果発表 ③ ― 2019年09月12日 13:43
なんと金獅子賞は『ジョーカー』に微笑みました!
★9月7日(現地時間)第76回ベネチア映画祭2019の結果発表がありました。前回の最後に少し触れましたが、下馬評はともかく、審査委員長がルクレシア・マルテルだから金獅子賞がトッド・フィリップスの『ジョーカー』に微笑むなんて予想しませんでした。これで来年のアカデミー男優賞はホアキン・フェニックスに決まりでしょうか。彼の減量努力も讃えねばなりませんから。

(トッド・フィリップス監督とホアキン・フェニックス)

(踊るホアキン・フェニックス、映画から)
★審査員大賞(銀獅子)がロマン・ポランスキーの「J'accuse」に、その他国際批評家連盟賞なども受賞しました。1894年に起きたドレフュス冤罪事件に迫った力作で上映後の評価は高かった。しかしポランスキーが来ベネチアなら同席したくないという抗議も伝わってきたから、大賞受賞はないかなと思っていた。マルテル審査委員長も「J'accuse」上映には欠席すると事前に明言していた。しかし作品と人格は別ということで勝利の女神が微笑みました。マルテルとしてはかなり複雑な心境だったのではないでしょうか。結局監督はガラ欠席、代わりに夫人のエマニュエル・セニエがトロフィーを受け取ったようです。今作では共同プロデューサーを手掛けた俳優のルカ・バルバレスキーは「このイベントは映画祭であって道徳裁判ではない」と洩らしていたようですが。

(「J'accuse」受賞のトロフィーを手にしたエマニュエル・セニエ)
★同じく銀獅子の監督賞はロイ・アンダーソンの「About Endlessness」でした。最近のベネチアはアカデミー賞狙いが主流とか、受賞結果はそういう流れという印象でした。他に当ブログ関係では、パブロ・ララインの「Ema」がUNIMED賞、チロ・ゲーラの「Waiting for the Barbarians」がSIGNIS賞スペシャル・メンションを受賞しました。これは全キリスト教会のメディア協議会が選考母体、三大映画祭と言われるカンヌ、ベネチア、ベルリンほか、サンセバスチャン映画祭など主要な30以上の映画祭で出されている。

(ラライン監督と「Ema」主演のガエル・ガルシア・ベルナル)

(エマ役を演じたマリアナ・ディ・ジロラモを紹介するラライン監督)
★オリゾンティ部門では、テオ・コート(イビサ1980)の「Blanco en blanco」が、監督賞と国際批評家連盟賞他を受賞したのは特筆すべきニュースかもしれない。ノーチェックでしたので後日アップします。他にロドリゴ・ソロゴジェンの「Madre」に主演したマルタ・ニエトが女優賞を受賞した。「これは目覚めと再生について語った愛の物語です。この贈り物は私を覚醒してくれました」と受賞の喜びを語っている。


★第34回「国際批評家週間」では、チリのセバスティアン・ムニョスの「El príncipe」がクィア獅子賞を受賞した。LGBTをテーマにした作品に贈られる賞、本作はサンセバスチャン映画祭のホライズンズ・ラティノ部門でも上映される予定です。

★第16回「ベネチア・デイズ」では、グアテマラのハイロ・ブスタマンテの「La Llorona」が監督賞を受賞した。本作もサンセバスチャン映画祭のホライズンズ・ラティノ部門コンペティション外だが、クロージング作品です。

★栄誉金獅子賞にペドロ・アルモドバル、プレゼンターはマルテル審査委員長、彼女は授賞挨拶で感涙にむせんだとか。ともに抱き合って喜びに浸りました。アルモドバルの最新作「Dolor y Gloria」は、アカデミー外国映画賞スペイン代表作品最終候補3作の一つに踏みとどまっています。ライバルはアメナバルの「Mientras dure la guerra」です。哲学者ウナムノの最晩年を描いた力作、SSIFF 2019のコンペティション部門にノミネートされています。両監督ともそれぞれアカデミー賞外国語映画賞のオスカー像を持っています。


(アルモドバルとプレゼンターのマルテル審査委員長)
★また審査委員長のルクレシア・マルテルが特別賞の一つロベール・ブレッソン賞を受賞しました。ベネチアにフランスの監督の名を冠した賞があったんですね。しかしマルテルにとってブレッソン賞はぴったりです。大役、ご苦労様でした。

ベネチア映画祭の審査委員長にルクレシア・マルテル*ベネチア映画祭2019 ② ― 2019年06月27日 13:24
『サマ』のルクレシア・マルテルがコンペティションの審査委員長に
★第76回ベネチア映画祭は、8月28日から9月7日まで開催されます。先日アルモドバル監督の「栄誉金獅子賞」の受賞をアップしたばかりですが、今回はアルゼンチンを代表する女性監督ルクレシア・マルテル(サルタ1966)審査委員長就任のニュースです。昨年はメキシコのギレルモ・デル・トロ、ラテンアメリカから連続で選ばれたことになります。マルテルは2年前のベネチア映画祭2017にコンペティション外でしたが『サマ』のプレミア上映で来ベネチア、今回は審査委員長の重責を果たすためにやってきます。他の審査員8名の発表はまだのようですね。
*『サマ』の作品&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2017年10月13日
*『サマ』のラテンビート映画祭の記事は、コチラ⇒2017年10月20日

(メガネが印象的なルクレシア・マルテル監督)
★「これは名誉なことです。そしてこのような映画の祭典に、自らを理解したいという人間が本来もっている大きい望みに参加できる喜びと責任を感じています」とマルテル監督。映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラは「20年間という期間に、4作の長編作と短編を発表しただけで、ラテンアメリカに止まらず世界を代表する重要な監督になりました。彼女の作品は、スタイル探求の独創性、映像化の厳しさ、女性性のミステリアス、グループや階級のバイタリティの探索に専念した曖昧さのない世界のビジョンに貢献している」という、いささか難しいコメントの文書を発表した。
★「4作の長編作」とは、サルタ三部作と言われる出身地サルタを舞台にした、2001年の『沼地という名の町』、2004年の『ラ・ニーニャ・サンタ』、2008年の『頭のない女』、上述の『サマ』のことです。『ラ・ニーニャ・サンタ』以下は、ラテンビートで上映された。
ペドロ・アルモドバル 「栄誉金獅子賞」 受賞*ベネチア映画祭2019 ① ― 2019年06月15日 17:50
第76回ベネチア映画祭「栄誉金獅子賞」にペドロ・アルモドバル
★6月14日、映画祭主催者から第76回ベネチア映画祭2019の「栄誉金獅子賞」をペドロ・アルモドバルに授賞するとの発表がありました。今年は8月28日から9月7日まで開催されます。新作「Dolor y gloria」のスペインでの入場者チケットが92万枚、イタリアでも封切り4週間め調べで45万枚と好調です。だからというわけではないでしょうが、アルモドバルは「ルイス・ブニュエル以来スペインで最も影響力の大きい監督」、国際映画祭でも非常にエモーショナルな作品を製作していることが授賞理由のようです。因みにルイス・ブニュエルは、1969年から始まった栄誉金獅子賞の第1回受賞者でした。

(主な出演者に囲まれてファンに挨拶するアルモドバル監督、カンヌ映画祭2019、5月)
★最近の受賞者は複数が続いているので、この後もう一人アナウンスされるかもしれません。2018年はイギリスの女優ヴァネッサ・レッドグレーヴとデイヴィッド・クローネンバーグ監督、2017年はリテーシュ・バトラが監督した『夜が明けるまで』に共演したロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダ、2016年はジャン=ポール・ベルモンドとイエジー・スコリモフスキ監督でした。
★アルモドバルは授賞の知らせに「この栄誉賞という贈り物に感激と栄誉でいっぱいです。ベネチアには良い思い出しかありません。私が国際舞台にデビューしたのがベネチアで、1983年の『バチ当たり修道院の最期』、1988年の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』もベネチアでした。この栄誉賞は私のお守りにいたします。このような賞を与えてくれた映画祭に心から感謝いたします」と喜びを語った。

(新作「Dolor y gloria」ポスター)
★そろそろ秋の映画祭のニュースが飛び込むようになってきました。
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