バスク語映画 "Handia"*サンセバスチャン映画祭2017 ⑥2017年09月06日 15:16

    オフィシャル・セレクション第3弾『フラワーズ』の監督が再びやってくる

 

★世界の映画祭を駆け巡った『フラワーズ』(Loreak 14)の監督ジョン・ガラーニョと、その脚本を手掛けたアイトル・アレギが、19世紀ギプスコアに実在したスペイン一背の高い男ミケル・ホアキン・エレイセギ・アルテアガ(181861)にインスパイアーされて Handia を撮りました。本名よりもGigante de Altzoアルツォの巨人」という綽名で知られている人物です。前作でジョン・ガラーニョと共同監督したホセ・マリ・ゴエナガは、脚本&エグゼクティブ・プロデューサーとして参画しています。バスク自治州のサンセバスチャンで開催される映画祭ですが、オフィシャル・セレクションに初めてノミネートされたバスク語映画が『フラワーズ』だった。

 

 

            (ワーキング・タイトルのポスター)

 

 Handia(ワーキング・タイトルAundiya、英題 Giant 2017

製作:Irusoin / Kowaiski Films / Moriarti Produkzioak /

監督:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ

脚本:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アンド二・デ・カルロス

音楽:パスカル・ゲーニュ

撮影:ハビエル・アギーレ

編集:ラウル・ロペス、Laurent Dufreche

キャスティング:ロイナス・ハウレギ

プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ

メイクアップ&ヘアー:オルガ・クルス、Ainhoa Eskisabel、アンヘラ・モレノ、他

衣装デザイン:サイオア・ララ

プロダクション・マネージメント:アンデル・システィアガ

製作者:ハビエル・ベルソサ、イニャキ・ゴメス、イニィゴ・オベソ、

      (エグゼクティブ)ホセ・マリ・ゴエナガ、フェルナンド・ラロンド、コルド・スアスア

 

データ:スペイン、バスク語(スペイン語を含む)、2017年、歴史ドラマ、製作資金約200万ユーロ、サンセバスチャン映画祭2017正式出品、スペイン公開1020日予定

 

キャスト:エネコ・サガルドイ(ミゲル・ホアキン・エレイセギ)、ホセバ・ウサビアガ(兄マルティン・エレイセギ)、ラモン・アギーレ(父アントニオ・エレイセギ)、イニィゴ・アランブラ(興行主アルサドゥン)、アイア・クルセ(マリア)、イニィゴ・アスピタルテ(フェルナンド)、ほか

 

プロット:マルティンは、第一次カルリスタ戦争からギプスコアの集落で暮らす家族のもとに戻ってきた。そこで彼が目にしたものは、出征前には普通だった弟ホアキンの身長が見上げるばかりになっていたことだった。やがて人々がお金を払ってでも、地球上で最も背の高い男を見たがっていることに気づいた二人の兄弟は、野心とお金と名声を求めて、スペインのみならずヨーロッパじゅうを駆けめぐる旅に出立する。家族の運命は永遠に変わってしまうだろう。19世紀に実在した「アルツォの巨人」ことミケル・ホアキン・エレイセギの人生にインスパイアーされて製作された。

 

             

 

       スペイン海軍の将軍に扮した巨人ミゲル・ホアキン・エレイセギ

 

★実際のミゲル・ホアキン・エレイセギ・アルテアガ(バスク語ではMikel Jokin Eleizegi Arteaga)は、18181223日、ギプスコア県のアルツォ村で9人兄弟姉妹の4番目の男の子として生まれた。母親は彼が10歳のころに亡くなっている。20歳で先端巨人症を発症して死ぬまで身長が伸びつづけたということです。記録によると身長が227センチ、両手を広げると242センチ、靴のサイズは36センチだったという(身長には異説がある)。当時のヨーロッパでは最も背が高く「スペインの巨人」として、イサベル2世時代のスペイン、ルイ・フィリップ王時代のフランス、ビクトリア女王時代のイギリスなどを興行して回った。たいていトルコ風の服装、あるいはスペイン海軍の将軍の衣装を身に着けて舞台に立った。19611120日、肺結核のため43歳で死亡、遺体は生れ故郷アルツォAltzoに埋葬されたが、コレクターの手で盗まれてしまっている。映画は史実に基づいているようですが、やはりフィクションでしょうか。

 

       

       (スペイン海軍の将軍の衣装を着たミゲル・ホアキン)

 

 キャスト

★兄弟を演じるエネコ・サガルドイ1994)もホセバ・ウサビアガも初めての登場、二人ともバスク語TVシリーズ Goenkale に出演している。2000年から始まったコメディ長寿ドラマのようで、エネコ・サガルドイは本作で2012年にデビュー、翌年までに57話に出演している。身長が高いことは高いが227センチのミゲル・ホアキンをどうやって演じたのか興味が湧きます。二人ともバスク語の他、スペイン語、英語の映画に出演している。

 

 

          (ミゲル・ホアキン・エレイセギ役のエネコ・サガルドイ、映画から)

 

       

            (左端が兄マルティン役のホセバ・ウサビアガ、映画から)

  

  

  

★第一次カルリスタ戦争は1933年に勃発、1939年に一応終息しました。兄マルティンが復員してから物語は始まるから、時代背景は1940年代となります。イニィゴ・アランブラ扮するアルサドゥンは、実在したホセ・アントニオ・アルサドゥンというナバラ在住の男で、ホアキンを見世物にして金儲けしようと父親に掛け合った。なかなか目端の利いた男だったようです。父親役のラモン・アギーレ1949生れ)は、フェルナンド・フランコがゴヤ賞2014新人監督賞を受賞した La herida13)、公開されたアルモドバルの『ジュリエッタ』、イニャキ・ドロンソロの『クリミナル・プラン~』、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(2012パルム・ドール)などに出演しているベテラン。フェルナンド・フランコの新作 Morir が、今年の特別プロジェクションにエントリーされているので、時間的余裕があればアップしたい。

 

    

 (映画の宣伝をする?アルサドゥン役のアランブラ、ネパールのプーンヒル標高3310mにて)

 

 スタッフ

★製作者は、ラテンビート、東京国際映画祭で上映された『フラワーズ』 80 eguneanFor 80 Days)に参画したスタッフで構成されており、唯一人エグゼクティブ・プロデューサーのコルド・スアスアが初参加、過去にはフェルナンド・フランコの La herida、マルティネス=ラサロのヒット作 Ocho apellidos vascos14)、アメナバルの Regresión15、未公開)などを手掛けている。プロダクション・マネージメントのアンデル・システィアガも初参加、過去にはアレックス・デ・ラ・イグレシア映画『13 みんなのしあわせ』『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』他を手掛けている。音楽はフランス出身、1990年からサンセバスチャンに在住しているパスカル・ゲーニュと同じです。監督キャリア&スタッフ紹介は『フラワーズ』にワープしてください。

 

  

               (『フラワーズ』のポスター)

 

★前作の脚本を担当、本作で監督にまわったアイトル・アレギAitor Arregi は、ジョン・ガラーニョとの共同でドキュメンタリー Sahara Marathon0455分)を撮っている。他にイニィゴ・ベラサテギとアドベンチャー・アニメーション Glup, una aventura sin desperdicio0470分)、Cristobal Molón0670分)を共同で監督している。また本作では脚本と製作を担ったホセ・マリ・ゴエナガとドキュメンタリー Lucio0793分)を撮り、グアダラハラ映画祭のドキュメンタリー部門で作品賞を受賞している。

 

  

                   (ジョン・ガラーニョとアイトル・アレギ)

 

 

(ホセ・マリ・ゴエナガとアイトル・アレギ)

 

『フラワーズ』と 80 egunean の内容&キャリア紹介は、コチラ2014119


ディエゴ・レルマンの第5作*サンセバスチャン映画祭2017 ⑤2017年09月03日 14:52

   オフィシャル・セレクション第2弾、アルゼンチンからディエゴ・レルマン

 

★今年のオフィシャル・セレクションにノミネートされた4作は、スペイン語2作、バスク語、英語が各1作ずつと、例年とは少し様相が異なります。うちスペイン語はマヌエル・マルティン・クエンカの El autor ディエゴ・レルマン Una especie de familia 2作だけです。ディエゴ・レルマンは20代の半ばにモノクロで撮った第1作『ある日、突然。』(2002Tan de reoente)で「鮮烈デビュー」したアルゼンチンの監督。レイトショーとはいえ劇場公開され、その奇抜なプロットに驚かされました。エントリーされた新作は第5作目になります。

ラテンビート2017でも『家族のように』の邦題で上映が決定された。

 

  

 

    Una especie de familiaA Sort of Family2017

製作:El Campo Cine(アルゼンチン)/ Bossa Nova(ブラジル)/ 27 Films Production(独)/

   Bellota Films(仏)/ Staron Films(ポーランド) 協賛INCAA

監督:ディエゴ・レルマン

脚本(共同):ディエゴ・レルマン、マリア・メイラ

撮影:ヴォイテク・スタロン

編集:アレハンドロ・Brodersohn

音楽:ホセ・ビリャロボス 

キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ

美術:マルコス・ぺドロン

衣装デザイン:バレンティナ・バリ

メイクアップ:ナンシー・Marignac

プロダクション・マネジメント:エセキエル・ラボルダ、イネス・ベラ

製作者:ニコラス・Avruj(エグゼクティブ)、ディエゴ・レルマン、他多数

 

データ:アルゼンチン=ブラジル=ポーランド=フランス、スペイン語、2017年、90分、社会派スリラー、ロード・ムービー。撮影地カタマルカ州、ブエノスアイレス、ミシオネス州、201611月初旬クランクイン、12月末アップ。トロント映画祭2017コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門上映98日、サンセバスチャン映画祭正式出品、アルゼンチン公開914

 

キャスト:バルバラ・レニー(マレナ)、ダニエル・アラオス(ドクター・コスタス)、クラウディオ・トルカチル(マリアノ)、ヤニナ・アビラ(マルセラ)、パウラ・コーエン(ペルニア医師)、他

 

プロット:ブエノスアイレスの中流家庭で育った38歳になる女医マレナのロード・ムービー。ある日の午後、ドクター・コスタスから直ちにアルゼンチンの北部に出立するよう電話が掛かってくる。待ち望んでいた赤ん坊の誕生が差し迫っているというのだ。マレナは逡巡しながらも、この不確かな旅に出立しようと決心する。行く手にはたくさんの罠が仕掛けられており、赤ん坊によってもたらされる予想外の高い代価や、自分が望んだものを手に入れるための限界はどこまでかを常に自問自答しながら、法にかなった道徳的な障害に直面する。私たちも新しい人生に立ち向かうマレナと一緒に旅をすることになるだろう。

 

★エグゼクティブ・プロデューサーのニコラス・Avrujによると、マレナは最近娘を亡くし夫とも別れている。母親になりたいが養子縁組のシステムが複雑で望みを叶えられない、という設定にした。養子縁組制度の欠陥という社会的問題にサスペンスの要素をミックスさせたドラマのようです。ミシオネス・ビジュアルアート研究所とアルバ・ポセ病院の協力を受けて撮影された。ミシオネスは北西をパラグアイ、北と東をブラジルと接している、アルゼンチンでも2番目に小さい州、パラナ、ウルグアイ、イグアスという大河が流れていて、河や密林の風景も映画の主人公のようです。 

   

   (赤ん坊を求めてミシオネスにやってきたマレナ役のバルバラ・レニー、映画から)

 

★デビュー作『ある日、突然。』前作 Refugiado も一種のロード・ムービーでしたが、本作でもヒロインはブエノスアイレスから北部を目指して旅をする。このラテンアメリカ映画に特徴的な「移動」は、たいていひょんなきっかけで突然やってくる。エル・パイス紙の記事によると、同じく金貝賞を狙う、ギリシャのアレクサンドロス・アブラナス Love me Not にテーマが類似しているという。あるカップルが若い移民女性を代理母として契約する。女性を彼らの瀟洒な別荘に招き、生活スタイルを教え楽しんでもらう。妻はある秘密を抱えているが表に出さない。夫が仕事に出かけた後、妻と女性は軽く飲んでドライブに出かける。翌朝、夫は妻が事故車のなかで焼死体となっていることを知らされる。大体こんな筋書です。両作に共通しているのは、これから生まれてくるはずの赤ん坊を待っていること、赤ん坊のメタファーに類似性があるようです。

 

★アレクサンドロス・アブラナス(1977、ラリッサ)は、第2Miss Violence が、ベネチア映画祭2013で監督賞(銀獅子賞)、フェデオラ賞(ヨーロッパ地中海映画)などを受賞している。ここでは深入りしませんが、Miss Violence もある秘密を抱えた少女の自殺をめぐる物語で、審査員や観客を魅了した。ディエゴ・レルマンと同世代の若手監督、ギリシャの次世代を担うだろう楽しみな監督です。Love me Not も賞に絡みそうな気がしますが、どうでしょうか。

 

 キャスト

★マレナ役のバルバラ・レニーは、アルゼンチン育ちのスペイン女優、アルゼンチン弁を克服して、『私が、生きる肌』『マジカル・ガール』『エル・ニーニョ』などに出演、日本での知名度も高いほうかもしれません。抜群のスタイルを生かしてモデル、映画にとどまらず舞台にも意欲的に出演、二足の草鞋派です。

バルバラ・レニーの主な紹介記事は、コチラ2016215

 

  

            (初めて赤ん坊を胸に抱くマレナ、映画から)

 

ダニエル・アラオスは、1962年コルドバ生れ。ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの監督コンビの第2作『ル・コルビュジエの家』(09)に初出演、不気味な隣りの男ビクトルに扮した俳優です。第3Querida, voy acomprar cidarrillo y vuelvo11)にも起用された。新作『笑う故郷』には出演しておりませんが、間もなく公開されます。クラウディオ・トルカチルは、1975年ブエノスアイレス生れ、公開作品では、パブロ・ヘンドリックの El Ardor14)に出演しています。ガエル・ガルシア・ベルナルがシャーマンに扮してジャングルでの撮影に臨んだ映画、新大陸にはタイガーは棲息していないのですが、『ザ・タイガー 救世主伝説』とまったく意味不明の邦題で公開されました。

『ザ・タイガー 救世主伝説』の記事は、コチラ20151218

 

   

       (打ち合わせをする製作者ニコラス・Avrujとダニエル・アラオス)

 

 スタッフ

ディエゴ・レルマン Diego Lermanは、1976年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者、舞台監督。産声を上げた324日が奇しくも軍事クーデタ勃発日、これ以後7年間という長きに及ぶ軍事独裁時代の幕が揚がった日でした。彼の幼年時代はまさに軍事独裁時代とぴったり重なります。体制側に与し恩恵を満喫し家族も少なからずいたでしょうが、レルマンの家族はそうではなかった。ブエノスアイレス大学の映像音響デザイン科に入学、市立演劇芸術学校でドラマツルギーを学ぶ。またキューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バーニョスの映画TV学校で編集技術を学んでいる当ブログでは、カンヌ映画祭2014「監督週間」に第4作目 Refugiado 選ばれたときに、キャリアとフィルモグラフィーの詳細を記事にしておりますが3年前になりますので、今回再構成して下記に付録としてアップしています。

 

   

               (ディエゴ・レルマン監督)

 

★第4作から撮影を手掛けているヴォイテク・スタロンWojtek (Wojciech) Staron(ヴォイテクは男子名ボイチェフの愛称)は、1973年生れのポーランド人、主にドキュメンタリー国際的に活躍している撮影監督です。なかでメキシコで脚本家として活躍しているアルゼンチンのパウラ・マルコヴィッチ長編デビュー作 El premio がベルリン映画祭2011にエントリーされ、スタロンは銀熊賞(芸術貢献賞の撮影賞)を受賞しています自分の少女時代を送ったサン・クレメンテ・デル・トゥジュという湯治場を舞台に軍事独裁時代を少女の目線撮ったマルコビッチの自伝的要素の強い映画アリエル賞も受賞している

 

   

    (銀熊賞のトロフィーを手にしたヴォイテクスタロン、ベルリン映画祭2011

 

  

付録:ディエゴ・レルマンの長編フィルモグラフィー

2002 Tan de repente (アルゼンチン)『ある日、突然。』監督・脚本・プロデューサー モノクロ

2006 Mientras tanto(アルゼンチン)英題 Meanwhile 監督・脚本

2010 La mirada invisibleアルゼンチン==西『隠れた瞳』監督・脚本・プロデューサー

2014 Refugiado (アルゼンチン=ポーランド=コロンビア=仏)監督・脚本・プロデューサー

2017 Una especie de familia 省略

他に短編、TVドキュメンタリーを撮っている。

 

1Tan de repente ロカルノ映画祭銀豹賞、ハバナ映画祭金の珊瑚賞、ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭銀のコロン賞、2003年にはニューヨーク・レズ&ゲイ映画祭でも受賞するなど多くの国際舞台で評価されました。まだ20代半ばという若さでした、計算されたプロットにはアメナバルデビュー当時を思い出させました。ユーロに換算すると4万ユーロという低予算で製作された。

 

2Mientras tanto :アルゼンチン映画批評家協会賞にValeria Bertuccelli が主演女優賞(銀のコンドル賞)、クラリン・エンターテインメント賞(映画部門)にもBertuccelli が女優賞、ルイス・シエンブロスキーが助演男優賞を受賞しましたが、レルマン自身はベネチア映画祭のベネチア作家賞にノミネートされただけでした。「アルゼンチンの『アモーレス・ペロス』版」と言われた作品。『僕と未来とブエノスアイレス』(04、公開06)のダニエル・ブルマンがプロデューサーの一人。

 

3La mirada invisible 東京国際映画祭2010で『隠れた瞳』の邦題で上映された。映画祭では監督と主演女優フリエタ・シルベルベルクが来日しました。マルティン・コーハンのベストセラー小説Ciencias Morales2007エライデ賞受賞)にインスパイアーされての映画化。従ってタイトルも登場人物小説とは異なり、特に結末が大きくっていました。軍事独裁制末期1982年のブエノスアイレス、エリート養成の高等学校が舞台でしたが、国家主義的な熱狂、行方不明者、勿論フォークランド戦争は出てきませんが、この学校がアルゼンチン社会のアナロジーと考えると、その「見えない視線」に監視されていた社会の恐怖が伝わってくるという仕掛けがしてあった彼の作品の中で軍事独裁が顕著に現れているのが本作です。かつてブエノスアイレスが「南米のパリ」と言われた頃に建築された建物が高等学校として採用され、それ自体が絵になっています。

 

★第4 Refugiadoカンヌ映画祭2014「監督週間」にノミネーション。7歳のマティアスと母ラウラに起こったことがマティアスの無垢な驚きの目を通して語られる。父ファビアンのドメスティック・バイオレンスDVを逃れて、身重の母とティトを連れた息子は安全な避難場所を求めて都会を彷徨い歩く都会をぐるぐる廻るスリラー仕立てのロード・ムービー。

 

   

     (市内を逃げまわるマティアスと母親役のフリエタ・ディアス、映画から)

 

ディエゴ・レルマンのキャリア&フィルモグラフィーの記事は、コチラ2014511


マヌエル・マルティン・クエンカ*サンセバスチャン映画祭2017 ④2017年08月31日 15:11

   オフィシャル・セレクション第1弾、マルティン・クエンカの El autor

 

オフィシャル・セレクションの第1弾として、賞に絡みそうなマヌエル・マルティン・クエンカの第5 El autor のご紹介。当ブログでは前作『カニバル』(2013)と、当映画祭2005オフィシャル・セレクション部門に正式出品された2作目『不遇』をアップしておりますが、コメディ要素たっぴりの最新作が一番観客にも受け入れやすいのではないかと思っています。『カニバル』は批評家と観客の乖離があり過ぎました。本作はハビエル・セルカスのデビュー作 El móvil 1987、仮題「動機」)の映画化、ワーキング・タイトルはこちらでした。ハビエル・セルカス(1964、カセレス)は、国際的な成功を収めた『サラミスの兵士たち』(01、邦訳08)の著者として専ら知られている。これはダビ・トゥルエバが、2003年に映画化して話題になりました。大著『2666』で世界を驚かしたロベルト・ボラーニョとも接点のある作家です。

 

 

            (ワーキング・タイトルのポスター)

 

 El autorThe Mobile2017

製作:Icónica Producciones / La Loma Blanca P.C. / Alebrije Cine y Video /

      Canal Sur Televisión 他多数

監督:マヌエル・マルティン・クエンカ

共同脚本:マヌエル・マルティン・クエンカ、アレハンドロ・エルナンデス、

  ハビエル・セルカスの小説 El móvil の映画化

撮影:パウ・エステベ・ビルバ(『カニバル』『不遇』)

音楽:ホセ・ルイス・ペラレス

編集:アンヘル・エルナンデス・ソイド

美術:ソニア・ノリャ

録音:ダニエル・デ・サヤス

衣装デザイン:ペドロ・モレノ、エステル・バケロ

メイク&ヘアー:アナベル・ベアト(メイクアップ)、ラファエル・モラ(ヘアー)

キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラーノ

プロダクション・マネージメント:エルネスト・チャオ

製作者:モニカ・ロサーノ、ダビ・ナランホ、ゴンサロ・サラサル・シンプソン、ホセ・ノリャ(エグゼクティブ)、マヌエル・マルティン・クエンカ(共)

 

データ:スペイン=メキシコ、スペイン語、2017年、コメディ・ドラマ、20169月クランクイン、撮影地セビーリャ、他。トロント映画祭2017スペシャル・プレゼンテーション部門出品、サンセバスチャン映画祭オフィシャル・セレクション出品、スペイン配給Filmax、スペイン公開1117

 

キャスト:ハビエル・グティエレス(アルバロ)、アントニオ・デ・ラ・トーレ(フアン)、マリア・レオン(アマンダ)、テノッチ・ウエルタ(エンリケ)、アドリアナ・パス(イレネ)、アデルファ・カルボ(管理人)、ドミ・デル・ポスティゴ(エル・マヌ)、ラファエル・テジェス(セニョール・モンテロ)、ミゲル・アンヘル・ルケ(警官)、カルメロ・ムニョス・アダメ、他

 

プロット:アルバロはセビーリャの公証人事務所で書記として働いているが、人生は灰色に塗りつぶされている。純文学の作家になるのが夢だが、彼の小説は気取っているうえに退屈、失敗続きである。なかなか面白いアイディアが浮かばない、才能も想像力も枯渇しているからだ。彼とは対照的に、妻のアマンダは大地に根を張り、作家になろうなどとは夢にも思わないが、皮肉にも彼女はベストセラー作家になってしまった。今や二人の別居は避けられそうにない。そこで小説の基礎を研究、小説作法の教師をしているフアンに教えを請うことにする。あるときアルバロは、フィクションとは現実に立脚していなければならないことに気づいた。フィクションを超えたリアリティーある物語を創作するために、隣人や友人たちを操りはじめるが・・・

 

     

 

 キャスト

★主役アルバロ役のハビエル・グティエレスは、今回コンペティション外ですが La peste がノミネートされたアルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』や、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹』、今年春に公開されたイニャキ・ドロンソロの『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』などに出演して知名度は上がっている。小説の書き方を伝授する先生フアンのアントニオ・デ・ラ・トーレは、しばしば登場してもらっている。 

 

(執筆中のアルバロ)

   

 (アルバロとフアン先生)

               

★アマンダ役のマリア・レオンは、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス 沈黙の叫び』や兄パコ・レオンのコメディ「カルミナ」シリーズなどでご紹介していますが、久しぶりのブログ登場なのでおさらいしておきます。1984年セビーリャ生れ監督パコ・レオンは実兄TVシリーズSMS, sin miedo a soñar”(200607)でデビュー、フェルナンド・ゴンサレス・モリナのFuga de cerebros”(09)のチョイ役で映画デビュー。大きく飛躍したのがベニト・サンブラノのLa voz dormida11『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』)、本作でゴヤ賞2012新人女優賞を受賞した。スペイン内戦後、反フランコ活動をして収監されていた姉(インマ・クエスタ)が刑務所内で出産した姪を育てる妹に扮した。他にシネマ・ライターズ・サークル賞新人女優賞、サンセバスチャン映画祭2011最優秀女優賞、スペイン俳優組合賞などを受賞、フォルケ賞にもノミネーションされた。

母カルミナと兄パコの三人で5万ユーロで撮ったCarmina o revienta12)でゴヤ賞2013助演女優賞ノミネーション、カルミナ第2Carmina y aménでフェロス賞2015助演にもノミネートされた。ベレン・マシアスのMarsella14では、ゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル主演女優にノミネートされ

 

   

                (フアン先生とアマンダ)

 

★エンリケ役のテノッチ・ウエルタはキャリー・フクナガの『闇の列車 光の旅』やパトリシア・リヘンの『チリ33人 希望の軌跡』などに出演、イレネ役のアドリアナ・パスは、カルロス・キュアロンの『ルドとクルシ』や東京国際映画祭2013で上映されたアーロン・フェルナンデスの『エンプティ・アワーズ』で主役を演じている。共にメキシコの俳優です。ラファエル・テジェスはセビーリャ生れ、管理人のアデルファ・カルボはマラガ生れ、二人ともアンダルシアのことは知り尽くしている。

 

アドリアナ・パスは、1980年メキシコ・シティ生れ。16歳で舞台デビュー、メキシコ自治大学文学哲学部で劇作法と演劇を学ぶ。映画修業のため一時期スペイン、ポルトガルに滞在、メキシコに帰国後、キューバのロス・バニョス映画学校で脚本を学。女優ではなく監督、脚本家志望だったらしい。在学中よりセミプロとして舞台に立つ。映画デビューはセサル・アリオシャのTodos los besos07)、これはメキシコ・シティ国際現代映画祭、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭にも出品された。カルロス・キュアロンの『ルドとクルシ』(09)にディエゴ・ルナの妻役で出演、翌年のアリエル賞共演女優賞にノミネートされた。そのほか代表作にアリエル賞2010を総なめにしたカルロス・カレラのコメディEl traspatio、アントニオ・セラーノのMorelos12)、アンドレス・クラリオンドのデビュー作Hilda12『エンプティ・アワーズ』(13)など。役柄によって美しさが変化する女優として定評があ理論派、演技派の女優。

 

   

        (撮影中のハビエル・グティエレス、監督、アドリアナ・パス)

  

 スタッフ

マヌエル・マルティン・クエンカ1964年スペイン南部アルメリアのエル・エヒド生れ、監督、脚本家、製作者。グラナダ大学でスペイン哲学を学び、1989年マドリードのコンプルテンセ大学情報科学を卒業する。在学中の1988年から正式の監督アシスタントとして働き始め、マリアノ・バロッソ(1959)、ホセ・ルイス・クエルダ(1947)、イシアル・ボリャイン(1967)、ホセ・ルイス・ボラウ(1929)などとコラボする。短編、ドキュメンタリーなどを手掛けた後、2003年長編デビュー作 La fraqueza del borchevique がサンセバスチャン映画祭のオフィシャル・セレクションにノミネートされ高い評価を受けた。翌年のゴヤ賞2004では、脚色賞を受賞、主演のマリア・バルベルデが新人女優賞を受賞した。

 

      

            (撮影中の監督とハビエル・グティエレス)

 

★第2 Mala temporadas(『不遇』)もサンセバスチャン映画祭2005に正式出品、数々のノミネーションや賞を果たした。2010 La mitad de Oscar はトロント映画祭だったが、2013『カニバル』2014524日公開)は再びサンセバスチャン映画祭に戻って正式出品された。パウ・エステベ・ビルバが撮影賞(銀貝賞)を受賞、ゴヤ賞もゲットした。主役のアントニオ・デ・ラ・トーレが第1回フェロス賞の主演男優賞を受賞した作品。監督とサンセバスチャンは相性がよく、新作に期待が寄せられている。

 

2004年に制作会社「La Loma Blanca producciones Cinematograficas」を設立、第3 La mitad de Oscarから製作している。2009年には出版社「Lagartos Editores」を設立、若いアンダルシアの作家育成に尽力している他、映画関係書籍のコレクション、過去の映画テキストを刊行している。より詳しい監督キャリア&フィルモグラフィーについては『不遇』や『カニバル』を参照してください。キューバ出身スペイン在住の共同執筆者アレハンドロ・エルナンデスについても紹介しています。監督と二人三脚で執筆しているほか、アカデミー賞外国語映画スペイン代表作品の候補サルバドル・カルボの 1898, Los ultimos de Filipinas を単独執筆している。

 

★前2作、『カニバル』と La mitad de Oscar 音楽はなかったが、新作にはクエンカ生れ(1945)のシンガー・ソング・ライターのホセ・ルイス・ペラレスが担当して話題になっています。IMDbに記載がないのは、初めての経験で「できるかどうか分からなかったので伏せておくよう」依頼されていたから。レコーディング・スタジオで「ラテンジャズのメロディがちりばめられたシークエンスを監督と初めて観て、子供のように二人で笑ってしまった」と語っている。依頼を受けてからの9ヵ月間、まるで身重の女性のように大変だった。やっと無事に生まれてくれたようです。 

   

               (監督とホセ・ルイス・ペラレス)

 

『カニバル』の記事は、コチラ201398

Mala temporadas(『不遇』)の記事は、コチラ201461172

マリア・レオン『スリーピング・ボイス 沈黙の叫び』の記事は、コチラ201559

『エンプティ・アワーズ』の記事は、コチラ2013117

 

ホライズンズ・ラティノ部門12作*サンセバスチャン映画祭2017 ③2017年08月24日 14:12

             ベルリン、カンヌ、ベネチアなどに重なるラインナップ

 

  

 

★ラテンビートに関係の深い作品群がこの「ホライズンズ・ラティノ」、製作国がラテンアメリカに特化している部門です。12作品で決定のようです。取りあえず映画の原題、監督名、製作国を列挙しておきます。12作中半分の6がカンヌ映画祭などで既にアップ済みです。サンセバスチャンは9月末と三大映画祭後の開催ということもあって、なかなかワールド・プレミア作品を選ぶのは難しい。また今年目立ったのが、サンセバスチャン映画祭201516Cine en Construcción部門に参加した作品が7作もあったことでした。この部門の受賞者には、副賞として35,000ユーロの賞金が与えられます。

 

 1)Una mujer fantástica  監督セバスティアン・レリオ チリ=ドイツ=スペイン=米国

  1. ベルリン映画祭2017銀熊脚本賞、テディー賞ほか受賞作品、トロント映画祭2017出品 

    内容&監督キャリア紹介は、コチラ2017126222

  2.  

  1.  

      

  2. 2)La familia 監督グスタボ・ロンドン・コルドバ ベネズエラ=チリ=ノルウェー 

    カンヌ映画祭2017「批評家週間」正式出品 

    Cine en Construcción 30参加作品

    内容&監督キャリア紹介は、コチラ2017428

  3.  

  1.  

       

    3La novia del desierto 監督セシリア・アタンバレリア・ピバト アルゼンチン=チリ

    カンヌ映画祭2017「ある視点」正式出品

    Cine en Construcción 31参加作品 

    内容&監督キャリア紹介は、コチラ2017514 

  2.  

  1.  

       

  1. 4)Las hijas de Abril ミシェル・フランコ メキシコ  

    カンヌ映画祭2017「ある視点」審査員賞受賞作品

    内容&監督キャリア紹介は、コチラ201758526

  2.  

  1.  

      

  2. 5)Los perros マルセラ・サイド チリ=フランス 

    カンヌ映画祭2017「批評家週間」正式出品

    Cine en Construcción 31参加作品

    内容&監督キャリア紹介は、コチラ201751

  3.  

     

  1.     

  1. 6)Temporada de caza ナタリア・ガラジオラ アルゼンチン 監督  

    ベネチア映画祭2017「国際批評家週間」正式出品

    Cine en Construcción 31参加作品

    内容&監督キャリア紹介は、コチラ2017812

  2.  

  1.  

    以上6作は新たなアップは割愛いたします。

     

    7Al desierto 監督ウリセス・ロセル アルゼンチン=チリ

     

  1.  

  2.     

    8Arábia / Araby 監督アフォンソ・ウチョアジョアン・ドゥアン ブラジル

  3.   

  4.  

  1.  

  2.      

  1. 9)Cocote ネルソン・カルロス・デ・ロス・サントス・アリアス 

      ドミニカ共和=アルゼンチン=ドイツ=カタール 長編初監督作品 

      

  1.   

     

  2. 10)La educación del rey 監督サンティアゴ・エステベス アルゼンチン=スペイン 

      Cine en Construcción 30参加作品 長編初監督作品

  3.     

  1.   

     

  2. 11)Las olas アドリアン・ビニエス ウルグアイ=アルゼンチン 

    Cine en Construcción 30参加作品

      

  1.   

     

  1. 12)Medea アレクサンドラ・ラティシェフ コスタリカ=アルゼンチン=チリ 

      Cine en Construcción 30参加作品 長編初監督作品

  2.   

  1.  

     

    ★ナンバー(7)以降は、何作可能か分かりませんが、賞に絡みそうな作品からプロット、監督紹介を予定しています。今年のラインナップは粒ぞろいの印象、エントリー(8)番のブラジル映画 Arábia / Araby は、年初開催のロッテルダム映画祭で話題になって以来、既に世界各地の映画祭で上映されて受賞もしています。予告編からも「これは・・・」と思わせる凄さがあります。多分何かの賞に絡むでしょう。エントリー(11)番 Las olas のアドリアン・ビニエスは、アルゼンチン出身ですが現在はウルグアイで活動しています。ラテンビート2010で『大男の秘め事』が上映されている監督の長編3作目です。



ニューディレクターズ部門13作*サンセバスチャン映画祭2017 ②2017年08月23日 11:45

                スペイン語映画はドキュメンタリーを含む4作品

 

 

    

★スペインでも観光地バルセロナと近郊の都市を標的にしたテロがあり犠牲者が出ました。映画も政治と密接な関係がありますから、今年のサンセバスチャン映画祭が案じられます。ラインナップ13作品のうちアジアからも台湾、中国、韓国から各1作品、フィリピンからは2作品も選ばれてい。スペイン語映画からは、スペイン、コロンビア=アルゼンチン、チリ=スペイン=アルゼンチン、アルゼンチンの4作品です。各作品の内容並びに監督紹介は別途にアップする予定です。

 

★スペイン語映画の4作は、以下の通り:

Alberto García-Alix. La línea de sombra スペイン、ドキュメンタリー、

  監督ニコラス・コンバロ

解説:スペインの写真家アルベルト・ガルシア=アリックス(1956年)の足跡と作品を描いたドキュメンタリー。ニコラス・コンバロは、1979年ラ・コルーニャ生れのアーティスト。

 

 

 

Matar a Jesús コロンビア=アルゼンチン、フィクション、監督ラウラ・モラ

解説・プロット22歳の大学生パウラは大好きだった父親を殺害されてしまった。父親はメデジンの公立大学で政治科学の教授をしていた。離れたところからだが、犯人が猛スピードで走り去るモーターバイクが見えたが、パウラにはどうしてこんなことが起きてしまったのか理解できなかった。事件の2ヵ月後のクリスマスに、父親を殺害した若いヘススと偶然通りですれ違った・・・

ラウラ・モラは、メデジン生れの36歳、監督、脚本家、製作者。2006Brotherhood で短編 デビュー、TVシリーズ『パブロ・エスコバル 悪魔に守られた男』(20122話)を監督する。本作は2002年に父親を殺害された実体験がもとになっている。サンセバスチャン映画祭の総指揮者ホセ・ルイス・レボルディノスが、試写後2時間で即決したという力作。

 

  

 

Princesita チリ=スペイン=アルゼンチン、フィクション、監督マリアリー・リバス

解説・プロット12歳になるタマラは、地の果てチリ南部で暮らしている。タマラはあるカルト的集団のカリスマ的指導者ミゲルを崇拝している。しかし夏、彼女が初潮を迎えたらミゲルとのあいだに聖なる子供をもつというミッションを与えられる。タマラは自分が望んでいたものとはかけ離れた現実に直面していることに気づく。彼女の不服従は少女から女性に成長するなかで暴力に向きを変え、思いもかけないかたちで、自由を獲得するだろう。

マリアリー・リバスの長編第2作、サンセバスチャン映画祭2015Cine En Construcción」参加作品。チリ南部で実際に起きた事件にインスピレーションをうけて製作された。

 

   

 

Tigre アルゼンチン、フィクション

  監督シルビナ・シュニッセルSchnicer・シュリーマンウリセス・ポラ・グアルディオラ

解説・プロット65歳になったリナは、長いあいだ顧みなかった昔の家に、過去を取り戻し、家を建て直し、息子ファクンドとの関係も修復したいと帰ってきた。ここデルタ・デル・ティグレの奥深くにある島の家で息子を育て、人生の多くの時間を過ごしたのだ。息子もデルタを出てしまってずっと会っていない。やがて母と息子は再会するが、すべてが変わってしまったことに気づくだろう。デルタの時はゆっくり流れ、全ての人を包み込みながら混乱させる。スクリーンにさまざまな風景、活発な島の子供たちが現れるのを目にするだろう。

シルビナ・シュニッセル・シュリーマンはブエノスアイレス生れ、ウリセス・ポラ・グアルディオラはカタルーニャ出身だが現在はブエノスアイレスに在住している。共に初監督作品。デルタで4週間撮影したそうだが、次々に現れるデルタの自然も主人公の一人とか。過去にヴィゴ・モーテンセンが一卵性双生児の兄弟に扮したアナ・ピターバーグの『偽りの人生』(12)の舞台も、ここデルタ・デル・ティグレだった。

 

  

サンセバスチャン映画祭2017*オフィシャル・セレクション発表 ①2017年08月15日 17:55

           TVシリーズ La peste がオフィシャル・セレクションに初登場!

 

   

          (第65回サンセバスチャン映画祭2017のポスター)

 

オフィシャル・セレクション(セクション・オフィシアル)は、現在12作品がアナウンスされていますが追加される予定です。しかし目下検討中なのか追加発表はありません。スペイン映画は4作品とアナウンスされているのですが現在のところ3作品です。コンペティション外に2作品、特別上映1作品のトータル6作品です。その他スペイン語映画では、アルゼンチンからディエゴ・レルマン Una especie de familia がエントリーされています。

 

★話題になっているのがコンペティション外とはいえ、金貝賞を競うオフィシャル・セレクションにアルベルト・ロドリゲス TVシリーズ La peste が選ばれていることです。これは本映画祭では初めてのこと、映画祭も変化を余儀なくされているということでしょうか。テレビでは2018年に放映されるようで、IMDbでは第6話までがアナウンスされており、その第1話と第2話が上映される予定。

以下、タイトルと監督名をアップして、個別に作品紹介をしていくつもりです。

 

 オフィシャル・セレクション正式出品

El autor スペイン=メキシコ、監督:マヌエル・マルティン・クエンカ、スペイン語

Handia スペイン、監督:ジョン・ガラーニョアイトル・アレギ、バスク語

Life and Nothing More La vida y nada más)スペイン=米国、

監督:アントニオ・メンデス・エスパルサ、英語

Una especie de familia アルゼンチン=ブラジル=ポルトガル=フランス、

  監督:ディエゴ・レルマン、スペイン語  

 

 コンペティション外

La peste スペイン、監督:アルベルト・ロドリゲス、スペイン語 TVシリーズ(第12話)

Marrowbone El secreto de Marrowbone)スペイン、監督:セルヒオ・G・サンチェス、英語

 

 特別上映

Morir スペイン、監督:フェルナンド・フランコ、スペイン語

 

★ラテンアメリカ諸国の作品を集めた「ホライズンズ・ラティノ」部門は、まだ作品の一部が発表になっているだけです。まだ選考途中の部門が多く、発表になったらアップいたします。

 

    

           (「ホライズンズ・ラティノ」部門のポスター)

  

「国際批評家週間」アルゼンチン映画*ベネチア映画祭2017ノミネーション2017年08月12日 11:56

            ナタリア・ガラジオラの長編デビュー作 Temporada de caza

 

★最近国際映画祭での活躍が目覚ましいのが若手女性監督のデビュー作です。「国際批評家週間」コンペティション部門に選ばれた Temporada de caza 1982年生れという若いナタリア・ガラジオラの長編デビュー作。ベネチアの「批評家週間」は新人登竜門的な役割らしく、今年の7作品もすべて第1回作品のようです。昨年はコロンビアフアン・セバスチャン・メサのデビュー作Los nadieThe Nobody”)が観客賞を受賞しています。都会でストリート・チルドレンとして暮らす5人兄妹の愛と憎しみが語られる映画でしたが、こ Temporada de caza はアルゼンチン南部パタゴニアの森が舞台です。

 

   

 Temporada de cazaHunting Season2017 アルゼンチン

製作:Rei Cine (アルゼンチン) / Les Films de LEtranger () / Augenschein Filmproduktion () /

      Gamechanger Films () / 協賛INCAA

監督・脚本:ナタリア・ガラジオラ(ガラジョーラ?)

撮影:フェルナンド・ロケット

編集:ゴンサロ・トバル

美術:マリナ・ラッジオ

メイクアップ&ヘアー:ネストル・ブルゴス

助監督:ブルノ・ロベルティ

製作者:ベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガリェリ、マティアス・ロベダ、

    ゴンサロ・トバル、他共同プロデューサー多数

 

データ:製作国アルゼンチン・米・仏・独・カタール、スペイン語、2017年、ドラマ、100分。撮影期間2015年から翌年にかけてサン・マルティン・デ・ロス・アンデスで撮影された。資金提供、トゥールーズ映画祭ラテンアメリカ映画基金、ドイツのワールド・シネマ基金より3万ユーロ、他ロッテルダムやトリノ・フィルム・ラボのサポートを受けています。第74回ベネチア映画祭「国際批評家週間」正式出品された。アルゼンチン公開914日予定。

 

キャスト:ヘルマン・パラシオス(父親エルネスト)、ラウタロ・ベットニ(息子ナウエル)、ボイ・オルミ、リタ・パウルス、ピラール・ベニテス・ビバルト、他

 

プロット:母親が急死したとき、ナウエルはブエノスアイレスの高校を終了する間際だった。別の家族と暮らす父親には、息子が18歳になるまでの3か月間の養育義務があった。二人は10年間も会っていなかったが一緒に暮らすことになる。父エルネストは、パタゴニアのサン・マルティン・デ・ロス・アンデスの山間の村で腕利きのハンターとして尊敬を集めていた。怒りをため込み心の荒んだナウエルのパタゴニアへの旅が始まる。自然が人間を支配する新しい環境に直面しながら、ナウエルは殺すことと同じように愛することの力を学ぶことになるだろう。

 

         厳しいパタゴニアの風景をバックに対立する父と息子

 

★日本でパタゴニアと言えば氷河ツアーが人気のようだが、人間よりグアナコのような動物のほうが多い。舞台となるサン・マルティン・デ・ロス・アンデスもラニン国立公園がツアーに組み込まれるようになっている。「南米のスイス」と称されるバリローチェが舞台になったのは、ルシア・プエンソの心理サスペンス『ワコルダ』(『見知らぬ医師』DVD)でした。また詳細はアップしませんでしたが、今年のマラガ映画祭2017に正式出品されたマルティン・オダラの Nieve negra もパタゴニアが舞台、リカルド・ダリン扮する主人公は人里離れた山奥の掘立小屋に一人で暮らしている。父親が亡くなり遺産相続のため長らく会うこともなかった弟が妻を伴ってスペインから戻ってくる。この弟にレオナルド・スバラグリアが扮した。相続をめぐって対立する兄弟の暗い過去が直ちに表面化していくサスペンス。Temporada de caza のプロットを読んで真っ先に思い出したのが今作でした。

 

★ラテンアメリカ映画に特徴的なのが、何かを契機にA点からB点に移動して対立が起きる物語です。たいてい Nieve negra  Temporada de caza のように家族の死が多く、「シネ・エスパニョーラ2017」で短期上映されたイスラエル・アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』も音信不通だった母親と弟の死がきっかけでした。二人に掛けられていたという僅かな死亡保険金欲しさにブエノスアイレスから北部のラパチトに移動して殺人事件に巻き込まれるストーリーでした。 

 

★父エルネストを演じたヘルマン・パラシオスは、1963年ブエノスアイレス生れ。ルシア・プエンソの『XXY』(07)に、リカルド・ダリン扮する主人公の友人医師ラミロとして登場していました。TVシリーズでの出演が多い。息子ナウエル役のラウタロ・ベットニは本作が初出演のようです。ピラール・ベニテス・ビバルトは、Yeguas y cotorras に出演している。

 

    

 

 (パタゴニアの風景をバックにした父と子、映画から)

 

★製作者のベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガリェリ、マティアス・ロベダ、ゴンサロ・トバル、撮影監督のフェルナンド・ロケットは、共に Yeguas y cotorras に参画している。特にゴンサロ・トバルは、Temporada de caza で編集も担当しています。1981年生れの監督、脚本家、製作者、長編デビュー作 Villegas がカンヌ映画祭2012のカメラドールにノミネートされたほか、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIのアルゼンチン映画コラムニスト連合賞ACCA他を受賞している。映画後進国の南米においては、アルゼンチンは飛びぬけて輩出している。  

    

  (左から、ゴンサロ・トバル、監督、サンティアゴ・マルティ、マイアミ映画祭2016にて)  

 

 監督キャリア&フィルモグラフィー

ナタリア・ガラジオラNatalia Garagiola1982年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家。祖先はイタリア系移民だが、一応英語発音でカタカナ表記した(ガラジョーラかもしれない)。映画大学卒業後、2014年にスペインのメネンデス・ペラヨ国際大学(視聴覚研究財団)のシナリオ科の博士課程終了。短編がカンヌ映画祭に出品されていることもあり、若手監督として注目されている。

 

   

2011Rincón de López(短編11分)脚本、BAFICI出品

2012Yeguas y cotorras (短編30分)カンヌ映画祭2012「批評家週間」短編部門出品

2014Nordic Factory (フィンランド、デンマーク製作)監督6人のオムニバス

2014Sundays(短編16分)共同監督、脚本、カンヌ映画祭2014「監督週間」短編部門出品

2017Temporada de caza 省略

Yeguas y cotorras は、YouTube(英語字幕)で鑑賞できます。

 

追記:『狩りの季節』の邦題で Netflix 配信されました。 

カンヌを満喫するエンマ・スアレス*カンヌ映画祭2017 ⑨2017年05月26日 17:40

                 愛しすぎる母親は子供に取って重荷となる

 

    

★カンヌも後半、マンチェスター・アリーナのテロ事件のあおりを受けて、カンヌも警戒がますます厳しくなっているようです。今年のコンペティションは充実しているとかで、星取表も混戦模様、河瀨直美も上映後の10分間のスタンディング・オベーションに泣いていました。それにしてもタイトル『光』をイメージして芦田多恵に特注した豪華なドレスには驚きました。宝飾品はブルガリだそうで、お金持ちなんですねぇ。素直に喜びましょう。「ある視点」部門のミシェル・フランコLas hijas de Abrilの評判はどうだったのでしょうか。10分間のスタンディング・オベーションはあったのでしょうか(笑)。

  

  

  (エンリケ・アリソン、アナ・バレリア、監督、エンマ・スアレス、ホアンナ・ラレキ)

 

★昨年の『ジュリエッタ』に続いて今年もカンヌ入りしているエンマ・スアレス、「アブリルは私が演じたなかでも最高に難しい役だった。だって信念をもっている理性的な人とは全く反対な役、しかし高い目標に惹かれたの。演じる必要性を感じたし、中身をさらけ出して生きている。理解は難しいが、ただの悪役じゃやりたくなかった。たくさんの可能性があり、彼女なりのやり方だが娘たちに夢中になり守ろうとしている。私にとって幸いだったのは、私の視点を求められなかったこと。実際に脚本にあるような登場人物たちを裁けない。現実の社会が常に女性たちだけに強いている事柄、男性にはけっして要求されない何かについて熟考したかった。同時に家族の力学も大いに変化している」とカンヌでのインタビューで語っている。アブリルがバランスを欠いた錯乱した母親なのは、老いることを受け入れられないせいかもしれない。

 

   

      (突風に乱れた髪を押さえるエンマ・スアレス、520日、カンヌにて)

 

          4度目のカンヌ入りを果たした「カンヌのナイス・ガイ」

 

ミシェル・フランコ監督、「どうして母親役にスペイン女優を起用したのか」という質問には、「アメリカで映画を撮っているとき、まだプロジェクトも具体化していなかったが、この次は女性を主人公にしようと考えていた。『或る終焉』はアメリカで撮ったが、二度とアメリカで撮らないとは言わないけれど、次は故郷のメキシコで撮りたかった。アメリカでの経験を通して、母親が外国暮らしをしている母親不在の家族というアイデアが浮かんだ。じゃスペイン語が話せる外国人の女優では誰がいいだろうか、それがエンマだった。正しい選択だった。彼女なら登場人物になりきれるし、観客とも一体化できると考えた」とインタビューに応じていた。本作の撮影は約2か月、日曜日以外は休まなかった。その間「娘役たちは私たちのエネルギーを創り出すために一緒に生活した」そうです。彼の撮影方法は特別で、物語の進行にそって時系列に撮っていく。「新しい要素が急にはいるから、最終的には30%くらい撮り直しになる。なかには3回になることもある」という。これではいつ終わるのやら、一緒の仕事はなかなか大変です。

 

       

           (4度目のカンヌ、フランコ監督、上映会場にて)

 

★ここ数年、複雑な母親を描く作品が増えているのは、若い娘より経験豊かな母親のほうが多くの可能性を秘めているからだとも語っている。「迷宮からうまく抜け出してほしいが、本作を通じて女性を深く掘り下げることに興味をもった。主役に女性を選ぶのが好きな監督の気持ちがよく分かったということです」。本作のプロデューサーの一人、ベネズエラのロレンソ・ビガス監督もカンヌ入りしていました。『彼方から』2015)では、フランコ監督が反対にプロデューサーに回りました。ビガスの新作「La caja」にはフランコが製作に回るらしく、国境を越えて協力し合っているようです。フランコが現在手掛けているのは、エウヘニオ・デルベスと一緒にメキシコのテレビ用のコミック・シリーズ、これは面白い顔合わせでしょうか。エウヘニオ・デルベスは、第1回プラチナ賞2014の最優秀男優賞を受賞したコメディアンにして俳優、監督、プロデューサーと幾つもの顔をもつ才人です。

 

    

       (フランコ監督とプロデューサーのロレンソ・ビガス、カンヌにて)

 

Las hijas de Abril」の内容紹介は、コチラ201758

『或る終焉』の内容紹介は、コチラ2016615618

 

「ある視点」にアルゼンチンから二人の女性監督*カンヌ映画祭2017 ⑦2017年05月14日 16:15

          デビュー作「La novia del desierto」がノミネーション

 

 

2番目にご紹介するのが、アルゼンチンの二人の女性監督セシリア・アバレリア・ピバト長編デビュー作La novia del desiertoです。アルゼンチン=チリ合作、『グロリアの青春』でブレークしたチリのパウリナ・ガルシアとアルゼンチンのクラウディオ・リッシがタッグを組んだようです。本作はカメラ・ドールの対象作品でもあります。昨今のチリ映画界の躍進は、アルゼンチンに劣らず目覚ましいものがありますが、いずれも合作ですが「批評家週間」のLos perrosLa familiaを加えて3作に、当ブログでは受賞した場合だけアップしている短編Selva(ソフィア・キロス・ウベダ)があります。本作はまだ予告編さえアップされておりませんが、ブエノスアイレスからアルゼンチン北西の州サン・フアンへ、チリとの国境沿いまで砂漠を横切って旅をする一種の<ロード・ムービー>のようです。ここでもラテンアメリカ映画に顕著なテーマ「移行」が語られるようだ。

 

 

 (左から、ピバト、リッシ、アタン、製作者エバ・ラウリア、Pantalla Pinamar20173

 

La novia del desierto(カンヌでは英題The Desert Bride2017

作:Ceibita Films / El Perro en la Luna / Haddock Films

   協賛Flora Films de Florencia Poblete(サン・フアン州のプロデューサー)

監督・脚本・共同プロデューサー:セシリア・アタン&バレリア・ピバト

撮影:セルヒオ・アームストロング

編集:アンドレア・チニョーリChignoli

音楽:レオ(ナルド)Sujatovich

プロダクション・デザイン:マリエラ・リポダス

プロダクション・マネージメント:フアン・デ・フランチェスコ

録音:パブロ・ブスタマンテ、マウリシオ・ロペス、他

衣装デザイン:ベアトリス・ディ・ベネデット、ジャム・モンティ

プロデューサー:エバ・ラウリア、アレホ・クリソストモ、、ラウル・リカルド・アラゴン、

        バネッサ・ラゴネ

 

データ:アルゼンチン=チリ、スペイン語、ドラマ、85分、撮影地ブエノスアイレス州、サン・フアン州、撮影期間1120日から1216日、カンヌ映画祭2017「ある視点」正式出品&カメラ・ドール対象作品、アルゼンチン公開10月予定

資金援助:アルゼンチンINCAAのオペラ・プリマ賞、チリのCNCAオーディオビジュアル振興基金、第66回ベルリナーレ共同製作マーケット、トゥールーズの製作中の映画プログラムに参加して、フランスのCNCの奨学金を得る。

 

キャスト:パウリナ・ガルシア(テレサ)、クラウディオ・リッシ(エル・グリンゴ)、マルティン・スリッパック

 

物語:ブエノスアイレスで住み込みの家政婦として働いていた54歳になるテレサの物語。何十年も家政婦という決まりきった仕事に埋没していたテレサだが、雇い主が家を売却することになり行き場を失ってしまった。ブエノスアイレスでは次の雇い主を見つけることができず、サン・フアン州の新しい家族のもとで働くことを受け入れる。旅の道連れもなく砂漠の危険な旅に出発するが、奇跡を起こすという「ディフンタ・コレア」のある最初の宿泊先で、彼女は一切合財が入っていたバッグを失くしてしまった。テレサはある行商人と旅を共にすることになるが、彼は途方に暮れたテレサに助けの手を差し伸べてくれた唯一人の人物だった。旅の最後にはテレサにも救いが待っているのだろうか。

 

    

    (テレサ役のパウリナ・ガルシアとエル・グリンゴ役のクラウディオ・リッシ

 

★長年住み込み家政婦として働いてきた身寄りのない女性の心の救済がテーマのようです。この映画で重要な「Difunta Correa」(今は亡きコレア)について、少し説明が必要だろうか。「ディフンタ・コレア」とは、今でもアルゼンチン人の信仰を集めている伝説上の女性デオリンダ・アントニア・コレアのことである。サン・フアン州バジェシートVallesitoに礼拝堂があり、願いをする人、願いを叶えてもらった多くの人々が巡礼に訪れている。このバジェシートの伝説「ディフンタ・コレア」に着想を得て作られた本作には、サン・フアン州の人々がエキストラとして多数参加しているそうです。

  

デオリンダはサン・フアン州アンガコで、夫クレメンテ・ブストスと小さい息子の3人で暮らしていた。しかし内戦の嵐が吹き荒れ、夫は隣州ラ・リオハで戦うため1840年ころ強制的に徴兵されてしまった。ラ・リオハを進軍中のゲリラ兵に無理やり捕らえられ、デオリンダも辛い日々を送っていた。夫との再会を願って探しに行こうと決心する。渇きと空腹に耐えて歩き続けたが、山の気候の厳しさやサン・フアンの砂漠の過酷さに耐えきれずに命を落としてしまった。近くを通った子供たちが赤ん坊の泣き声が聞こえるというので村人が行ってみると、母親は死んでいたが赤ん坊はお乳を吸っていた。これは奇跡だと近くのバジェシートに礼拝堂を建てて母親を手厚く埋葬し、今は亡きコレアDifunta Correa」と名付けて、「ディフンタ・コレア」と書かれた十字架の付いた花束を飾った。この奇跡が口から口へ延々と語り継がれ、今日でも巡礼者で賑わっている。大体こんなお話ですが、他にも多数のバージョンがあるようです。

 

  

  (花束に埋まった母親ディフンタ・コレアとお乳を飲んでいる赤ん坊、サン・フアン州)

 

★奇跡を願う人々は古今東西、なくなることはありません。キリスト教と共存しながら伝説や神話は絶えることなく生き続けています。「ディフンタ・コレア」は砂漠のオアシスとしての役目もあるのかもしれません。本作で目立つのが監督を含めて女性シネアストの活躍です。それにアルゼンチンとチリ両国のスタッフが交じり合って担当していることです。例えば、衣装デザインのベテラン、ベアトリス・ディ・ベネデット(ルシア・プエンソの『ワコルダ』のデザイナー)やプロデューサーのエバ・ラウリアバネッサ・ラゴネはアルゼンチン人、撮影はラライン映画(『ザ・クラブ』『トニー・マネロ』『ネルーダ』など)を手掛けているセルヒオ・アームストロングと編集のアンドレア・チニョーリ(ララインの『トニー・マネロ』や『NO』アンドレス・ウッドの『ヴィオレータ、天国へ』など)はチリ人です。圧倒的にアルゼンチン人ですが、主役にはチリのパウリナ・ガルシアを据えています。

 

★セバスティアン・レリオの『グロリアの青春』13)で受賞できる賞の全てを手に入れた感のパウリナ・ガルシアは、女優の他、監督、劇作家としても活躍しています。EFEのインタビューによれば「長い間、私たちの国はアジェンデとピノチェトの対立により政治的条件が厳しく、他の国との合作映画など考えられなかった。チリでは経済力のある階級の人々は文化に対する理解が十分とは言えない。だから映画に携わる人の生活は恵まれていないのです」と、合作映画に出演できた喜びを語るガルシア。「まだ夜が明けたばかり、民間分野とアーティストたちの交流を図るための公的政策が足りないのです」とも。今年のカンヌには出席する予定だが、「チリとフランスの関係は非常に長い歴史をもっている。たくさんのアーティスト、製作者、監督が1970年代にはパリで暮らしていた。それでフランス映画のプロフェッショナルな人々との繋がりは強いのです」と、確かにそうですね。「批評家週間」ノミネートの「Los perros」や「La familia」を含めると、50人くらいの関係者が今年のカンヌに行くそうです。

 

      

            (サン・フアンの荒れ地にたたずむテレサ)

 

二人の監督紹介

バレリア・ピバトValeria Pivato は、アルゼンチンの監督、脚本家、プロデューサー。フアン・ホセ・カンパネラのEl hijo de la noviaのアシスタント監督やキャスティング、同Luna de Avellaneda『瞳の奥の秘密』のスクリプト、パブロ・トラペロの『檻の中』にアシスタントの共同監督に参加、テレドラも手掛けている。本作で長編デビューを果たした。他にウォルター・サーレス、ミゲル・ペレイラ、フアン・ソラナスなどとコラボしている。

  

セシリア・アタンCecilia Atánは、1978年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、プロデューサー、女優。監督としては2012年短編El marやテレドラも手掛けている。アシスタントや助監督としての経歴は長い。アルベルト・レッチのNueces para el amor2000)にアシスタント監督として参画、同作はハバナ、カルタヘナ、ビニャ・デル・マル各映画祭で作品賞を受賞した話題作。他ホセ・ルイス・アコスタのNo dejaré que no me quierasなど、スペインとの合作映画もある。また五月広場の母親たちのドキュメンタリーMadres de Plaza de Mayo, la historiaを撮っている。他にエクトル・ベバンコ、アレハンドロ・アグレスティなどともコラボしている。 

    

              (セシリア・アタンとバレリア・ピバト)

 

★カンヌが近づくにつれ情報が入ってきましたが、例えば、どうしてヒロインにアルゼンチンではなくチリの女優を選んだか、主要登場人物にシニアを設定したのはなぜか、アイデアの誕生など少しずつ分かってきましたが、今回はとりあえずこれでアップしておきます。 

「ある視点」にメキシコのミシェル・フランコ*カンヌ映画祭 ⑥2017年05月08日 12:12

       Las hijas de Abril」で4度目のカンヌに戻ってきました!

 

   

★今年の「ある視点」部門には、メキシコのミシェル・フランコLas hijas de Abrilとアルゼンチンの二人の女性監督セシリア・アタン&バレリア・ピバトが撮ったデビュー作La novia del desierto2作品、さらに追加作品として一縷の望みをかけていたアルゼンチンのサンティアゴ・ミトレの最新作La Cordilleraがノミネートされました。順番通りにご紹介していきます。ミシェル・フランコは当ブログでは何度か登場させています。『或る終焉』英語映画でしたが、今度はスペイン語で撮りました。エンマ・スアレス(『ジュリエッタ』)過去のフランコ映画出演したエルナン・メンドサ(『父の秘密』)モニカ・デル・カルメン(「A los ojos」)若いアナ・バレリアホアンナ・ラレキエンリケ・アリソンを絡ませました。

 

デビュー作Daniel & Ana09)がカンヌ映画祭と併行して開催される「監督週間」、第2『父の秘密』12Después de Lucía)がカンヌ映画祭「ある視点」のグランプリ、そして『或る終焉』15Chronicがコンペティション部門でまさかの脚本賞受賞、そして新作Las hijas de Abril「ある視点」に戻ってきました。このセクションはコンペティションより面白く、ベテランと新人が入り乱れ、今回はどうも賞に絡むのは難しいと予想します。過去の作品紹介、監督フィルモグラフィーに関連する記事は、下記にアップしております。

『父の秘密』の内容紹介記事は、コチラ20131120

『或る終焉』の物語と監督フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ201661518

 

 

    (アナ・バレリアと監督、2016年12月12日、プエルト・バジャルタでの記者会見

      

   

  (左から、エンリケ・アリソン、アナ・バレリア、監督、スアレス、ホアンナ・ラレキ)

      

   Las hijas de Abril(「April's Daughter」)2017

製作:LUCIA FILMS 協賛EFICINE PRODUCCION

監督・脚本・編集・製作者:ミシェル・フランコ

撮影:イヴ・カープ

編集():ホルヘ・ワイズ

録音():マヌエル・ダノイ、フェデリコ・ゴンサレス・ホルダン(ジョルダン)

メイクアップ:ベロニカ・セフード

衣装デザイン:イブリン・ロブレス

サウンドデザイン:アレハンドロ・デ・イカサ

製作者:ロドルフォ・コバ、ダビ・ソナナ、ティム・ロス、ガブリエル・リプスタイン(以上エグゼクティブ)、ロレンソ・ビガス、モイセス・ソナナ

 

データ:製作国メキシコ、スペイン語、2017年、ドラマ、103分、撮影201617、撮影地プエルト・バジャルタ、グアダラハラ、メキシコシティ。カンヌ映画祭2017「ある視点」正式出品、メキシコ公開予定6月、配給元Videocineビテオシネ

 

キャスト:エンマ・スアレス(アブリル)、アナ・バレリア・べセリル(バレリア)、ホアンナ・ラレキ(クララ)、エンリケ・アリソン(マテオ)、エルナン・メンドサ(マテオの父グレゴリオ)、イバン・コルテス(ホルヘ)、モニカ・デル・カルメン、他

 

プロット17歳になるバレリアは妊娠7ヵ月、異父姉のクララとプエルト・バジャルタで暮らしている。バレリアは離れて暮らしている母親アブリルに長らく会っていない。自分の妊娠を知られたくなかったのだが、クララはこれからの経済的負担や生まれてくる赤ん坊の育児という責任感の重さから母に知らせようと決心する。アブリルは娘たちの力になりたいとやってくるが、どうしてバレリアが母親と距離をおきたかったのか、観客はすぐに理解することになるだろう。

 

 

          (左から、監督、エンマ・スアレス、撮影監督イヴ・カープ)

 

     重要なことは世界に作品を発信して新しい観客に届くよう論議を呼ぶこと

 

★英語題はAbrilを名前でなく4月の意味に解釈したらしくAprilになっていますが、深い意味でもあるのでしょうか。さてフランコ監督への電話インタビュー(Grupo Milenio)によれば、主催者からの一報は「素晴らしいニュースでした。カンヌに行けるのは私にとって重要なことなのです。4回目になりますが、初めてのときに感じたと同じ高揚感と感動を覚えています。本作は私の過去の映画、例えば『ある終焉』や『Daniel & Anaとは違ったエネルギッシュな物語なのです。重要なことは賞を取るだけではなく、世界に向けて作品を発信して、新しい観客に届くよう論議を呼ぶことなのです」とコメントしています。果たして論議を呼ぶことができるでしょうか。映画を作ることが難しくなっている現状で、カンヌに出品できるような高レベルを維持していくのは易しいことではないとも語っており、「多くの監督が1度か2度はカンヌに来られるが、その後戻っては来られない」と、カンヌが狭き門であることを強調しています。メキシコの若手監督が2009年から2017年の間に4回は確かに異例です。先輩監督カルロス・レイガダスをおいて他にはおりません。

2002年『ハポン』カメラドールのスペシャル・メンション、2005年『天国のバトル』正式出品、2007年『静かな光』審査員賞、2012年『闇のあとの光』監督賞受賞。

 

★プロデューサーの一人として、ベネズエラのロレンソ・ビガスが参画していることが話題になっています。デビュー作『彼方から』がベネチア映画祭2015の金獅子賞を受賞した監督。フランコ監督の設立したLUCIA FILMSが同作に出資している。他にもベネズエラのロドルフォ・コバ(「Azul y no tanto rosa」)や『600マイルズ』のガブリエル・リプスタインが両方に参画しています。ラテンアメリカ映画もかなり認知度が高くなりましたが、まだ足の引っ張り合いを始めるには早すぎることを肝に銘じて、国境を越えて協力していくことが必要ということでしょうか。イヴ・カープは『ある終焉』の撮影監督も手掛けています。

        

          エンマ・スアレスは2年連続でカンヌ入り

 

エンマ・スアレス1964、マドリード)は、昨年のカンヌにはアルモドバルの『ジュリエッタ』で、今年はメキシコ映画でと、大西洋を挟んでの活躍が目覚ましい。両作とも娘とうまくいかない母親役、最近活躍が目立つのは、アルモドバルのお蔭か、あるいは年齢的に吹っ切れたせいかもしれない。1990年代にフリオ・メデムの『バカス』『赤いリス』、続いて『ティエラ―地―』、今は亡きピラール・ミロの史劇『愛の虜』(映画祭タイトル『愛は奪った)などの初々しさを知っているファンには隔世の感があるでしょうか。『バカス』で思春期の少女に扮したとき、既に20代後半だった。『愛の虜』『ジュリエッタ』でゴヤ賞主演女優賞199720172011年のフォルケ賞主演女優賞をLa mosquiteraで受賞しているほか、受賞歴

エンマ・スアレスのキャリア紹介は、コチラ⇒2015年4月5日

           

       

        (母親役のエンマ・スアレスと娘バレリア役のアナ・バレリア)

 

エルナン・メンドサは、フランコ監督の『父の秘密』で父親役を演じた俳優、テレドラ出演が多い役者ですが、最近53日にノミネーションが発表になったアリエル賞最多の「La 4a compañia」に準主役で出演、13年ぶりに復活したという<Actor de cuadro>賞にノミネートされています。賞の性格がよく分かりませんが、英語では<Table of Actor>とありました。同作はアミル・ガルバン・セルベラAmir Galván Cerveraミッチ・バネッサ・アレオラMitzi Vanessa Arreolaという二人の新人監督作品、作品賞を含む20カテゴリーにノミネートされています。ここでは深入りしませんが刑務所内で結成されたアメリカン・フットボール・チームの名前がタイトルになっています。一般観客向けの面白いストーリー展開なので公開が期待できそうですが、予告編からメンドサを見つけ出すのはなかなか大変です。

 

 

   (背番号79がエルナン・メンドサ、10番が主人公のアドリアン・ラドロン)

『母という名の女』の邦題で2018年6月公開が決定、ユーロスペース。