サバルテギ部門ノミネーション*サンセバスチャン映画祭2016 ⑤ ― 2016年08月19日 11:51
長編1作、短編2作と今年は少なめです
★サバルテギZabaltegiは、バスク語で「自由」という意味、というわけで国、言語、ジャンル、長編短編を問わず自由に約30作品ほどが選ばれ、本映画祭がワールド・プレミアでない作品も対象のセクションです。今回スペインからは、バスク出身のコルド・アルマンドスの長編“Sipo phantasma”と短編2作がアナウンスされました。過去にはラテンビートなど映画祭で上映された、パブロ・トラペロ『カランチョ』、ホセ・ルイス・ゲリン『ゲスト』、パブロ・ラライン『No』、ブラジルのカオ・アンブルゲール『シングー』、昨年の話題作は、ロルカの戯曲『血の婚礼』を下敷きにしたパウラ・オルティスの“La novia”などが挙げられます。

*サバルテギ部門*
★“Sipo phantasma”(“Barco fantasma”、“Ghost Ship”)コルド・アルマンドス 2016
観客は約1時間の船旅を体験する。船にまつわる物語、映画、難破船、ゴースト、愛、吸血鬼に出会いながらクルージングを楽しもう。1990年代の終わり頃からユニークな短編を発信し続けているバルクの監督、今回長編デビューを果たしました。しかし一味違った長編のようです。

*コルド・アルマンドスKoldo Almandozhaは、1973年サンセバスチャン生れ、監督、脚本、製作、カメラ、編集と多才、ジャーナリスト出身。ナバラ大学でジャーナリズムを専攻、後ニューヨーク大学で映画を学ぶ。1997年短編“Razielen itzulera”(8分)でデビュー、ドキュメンタリーを含む短編(7分から10分)を撮り続けていたが、今回初めて長編を撮る。言語はスペイン語もあるにはあるが(例“Deus et machina”)、殆どバスク語である。カラー、モノクロ、アニメーション、音楽グループとのコラボと多彩です。なかで“Belarra”(03、10分)が新人の登竜門といわれるロッテルダム映画祭 2003で上映され話題となり、初長編となる本作も同映画祭2016で既にワールド・プレミアされている(2月3日)。シンポジウムで来日した折に撮った、京都が舞台の日西合作“Midori 緑”(06、8分、実写&アニメ)はドキュメンタリー仕立ての短編、タイトルのミドリは修学旅行に来たらしい女学生の名前。短編なので大体YouTubeで楽しむことができ、やはり“Belarra”(草という意味)は素晴らしい作品。

(コルダ・アルマンドス監督、サンセバスチャンにて)
★“Caminan”(“On the Path”)ミケル・ルエダ 短編 2015
*なにもない1本の道路、1台の車、1台の自転車、自分探しをしている独身の男と女が出会う。女役を演じるのは人気女優マリベル・ベルドゥです。バスク出身の8人の監督が参加したオムニバス映画“Bilbao-Bizkaía Ext: Día”の一編。他にはバスク映画の大御所イマノル・ウリベ(『時間切れの愛』)を筆頭に、エンリケ・ウルビス(『悪人に平穏なし』)、ペドロ・オレア、ハビエル・レボージョなどベテランから若手までのオール・バスク監督。

*ミケル・ルエダMikel Rueda は、1980年ビルバオ生れ、監督、脚本家、製作者。2010年長編デビュー作“Izarren argia”(“Estrellas que alcanzar”バスク語)がサンセバスチャン映画祭の「ニューディレクターズ」部門で上映、その後公開された。第2作“A escondidas”(14、バスク語)は、マラガ映画祭2015に正式出品、その後米国、イギリス、フランス、ドイツなど15カ国で上映された。短編“Agua!”(12、16分)もサンセバスチャン映画祭で上映、過干渉の父親、おろおろする母親、フラストレーションを溜め込んだ2人の高校生の日常が語られる。これはYouTubeで見ることができる。目下、長編第3作目を準備中。

(ミケル・ルエダ監督)
★“Gure Hormex / Our Walls”(“Nuestras paredes”)短編 2016 17分
マリア・エロルサ&マイデル・フェルナンデス・イリアルテ
*主婦たちの住む地区、不眠症患者の地区、無名の母親のキオスク、身寄りのない女性たちのアンダーグラウンド、「私たちの壁」は私たちが愛する人々に感謝のしるしを捧げるドキュメンタリー。二人の若いバスクの監督が人生の先達者に賛辞をおくる。

*マリア・エロルサMaría Elorzaは、1988年ビトリア生れ、監督。バルセロナのポンペウ・ファブラ大学でオーディオビジュアル情報学を専攻、その後バスク大学でアート創作科修士課程で学ぶ。2011年からフリーランサーの仕事と並行してドキュメンタリー製作のプロジェクトに参加する。2009年“Hamasei Lehoi”で短編デビュー、2012年ギプスコアの新人アーティストのコンクールに“Antología poética de conversaciones cotidianas”応募する。2014年“Errautsak”(ドキュメンタリー・グループ製作)、マイデル・フェルナンデス・イリアルテと共同監督した“Agosto sin tí”(15)、“El canto de los lujuriosos”(同)、他短編多数。
*マイデル・フェルナンデス・イリアルテMaider Fernandez Iriarteは、1988年サンセバスチャン生れ、監督。祖母についてのドキュメンタリー“Autorretrato”を撮る。タイトル「自画像」は、「祖母は私である」というメッセージが込められている。“Agosto sin tí”がセビーリャのヨーロッパ映画祭2015、ウエスカ映画祭2016などで上映された。“Historia de dos paisajes”がセビーリャ・レジスタンス映画祭2016で上映された後、バスク自治州やフランス側のバスク語地区を巡回している。フランス、ドイツなどヨーロッパ各地は勿論、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチア、ドミニカ共和国、モザンビークなどへ取材旅行をしている行動派。

(左がマリア・エロルサ、右がマイデル・フェルナンデス・イリアルテ)
ニューディレクターズ部門ノミネーション*サンセバスチャン映画祭2016 ④ ― 2016年08月14日 17:55
スペイン語映画はスペインの他アルゼンチンから2作品

★スペインからはネリー・レゲラの“María (y los demás)”1作のみ、アルゼンチンからフェデリコ・ゴッドフリードの“Pinamar”、モロコ・コルマンの“Fin de semana”の2作です。長編映画デビュー作になるわけですが、脚本家、助監督としてのキャリア、短編映画やドキュメンタリー製作など、かなり経験を積んだ監督が多い部門でもある。
*ニューディレクターズ部門*
★“María (y los demás)” ネリー・レゲラ スペイン 2016
人生の岐路に立つマリアの物語。35歳になったマリア(バルバラ・レニー)は、15歳のとき母親が亡くなったことで、父親(ホセ・アンヘル・エヒド)と兄弟たちの面倒をみてきた。というのもマリアが家族の大黒柱だったからだ。しかし父親がカチータ(マリア・スケル)という介護士と再婚したいと言い出したことで、今までの人生がかき回される事態になった。マリアはこれからの生き方を変える必要に迫られる。

*作品データ:製作Avalon / Frida Films 他、監督・脚本ネリー・レゲラの初監督作品、2016年、ガリシア・テレビTVGが参画、撮影地ガリシア州ア・コルーニャ県の自治体クジェレード、スペイン公開10月7日が決定している。
*キャスト:バルバラ・レニー(マリア)、ホセ・アンヘル・エヒド(父アントニオ)、ロシオ・レオン(フリア)、ビト・サンス(トニ)、マリナ・スケル(カチータ)、ルイサ・メレラス(ロサリオ)、パブロ・デルキ、フリアン・ビジャグラン、アイシャ・ビジャグラン、ほか多数

*ネリー・レゲラNery Reguera、カタルーニャ出身の脚本家、監督。短編“Ausencias”(02)でデビュー、同“Pablo”(09)、マル・コルがゴヤ賞新人監督賞を受賞した『家族との3日間』(09、“Tres dias con la familia”)の第1助監督を務めた。本作は東京国際女性映画祭2010のオープニング作品、まだデータが少ない監督だが、追い追い増えていくと思います。

*トレビア:撮影地クジェレードは、ア・コルーニャ県でも12~13世紀の建築物が残っている美しい町、人口は現在3万人に満たないが、有名レストランパソ・デ・ビラボアでの結婚式など観光地として人気が高い。ガリシア語話者85パーセント以上と高率です。バルバラ・レニーによると、「こんな素晴らしい土地での撮影は初めて」と感激、北スペインはサンセバスチャンだけでなく魚貝類料理が美味しいようです。「暗い悲劇のようにみえますが、決してそうではない」とも語っている。『エル・ニーニョ』や『マジカル・ガール』出演により日本でも知名度が高くなりつつある。共演者のホセ・アンヘル・エヒドやパブロ・デルキは、短編“Pablo”にも出演しているベテランです。個人的には来年のゴヤ賞新人監督賞が楽しみになってきました。
★“Pinamar” フェデリコ・ゴッドフリード アルゼンチン 2016
母親が亡くなり、パブロとミゲルの兄弟がピナマルに帰ってくる。母親との別離の他に相続、つまり家族所有のアパートを売却するためだった。パブロはできる限り早く片付けて帰りたい、一方ミゲルは滞在をゆっくり楽しみたい。期せずしてこの旅は彼らの関係を見つめなおすことになる。
*フェデリコ・ゴッドフリードFederico Godfridは、アルゼンチンの監督、脚本家、俳優。2008年、フアン・サシアインとの共同監督の長編デビュー作“La Tigra, Chaco”はロマンチックコメディ。本作が初の単独での監督。俳優としては、アドリアン・Szmuklerの“Prepotencia de trabajo”(11)に出演している。

★“Fin de semana” モロコ・コルマン アルゼンチン 2016 77分
カルラ(マリア・ウセド)は数年ぶりにマルティナ(ソフィア・ラナロ)と過ごすために山間のサンロケ湖にやって来る。二人の関係がどこかよそよそしいのは、互いに語られない何か秘密があるようだった。マルティナにはディエゴ(リサンドロ・ロドリゲス)という人目を忍ぶ相手がおり、二人は激しいセックスゲームから抜けだせないでいた。カルラはこの関係を知ると、ディエゴと対決しようとする。


(左から、ソフィア・ラナロ、マリア・ウセド、モニカ役エバ・ブランコ、撮影現場から)
*モロコ・コルマンMoroco Colmanは、アルゼンチンのコルドバ出身の監督、脚本家、製作者。1990年代からコルドバでは有名なDJとして活躍している。2010年に同タイトルの短編“Fin de semana”がサンセバスチャ映画祭2010で上映されている。俳優も別ならストーリーも母娘の関係になっている。しかし舞台が都会でなく山に囲まれた湖に設定するという大枠は、短編を踏襲している。監督によると「山間の湖を舞台にすることが重要だった」と語っている。2011年に短編“Laura”を撮っている。

*パールズ(Perlas / Pearls)部門*
★チリ=仏=アルゼンチン=西合作、パブロ・ララインの“Neruda”(「ネルーダ」)1作のみです。カンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」にノミネーションされた折に、監督フィルモグラフィー並びにキャスト、ストーリーを紹介しております。尚、今年のトロント映画祭でも「スペシャル・プレゼンテーション」部門にエントリーされております。
*主な監督&作品紹介の記事は、コチラ⇒2016年5月16日
サンセバスチャン映画祭2016*ノミネーション発表(スペイン映画) ③ ― 2016年08月11日 15:59
コンペティションの目玉はアルベルト・ロドリゲスの新作か?

★7月末にオフィシャル・セレクション(セクション・オフィシアル)を含むノミネーションの全体像が姿を現しました。当ブログでは、スペインが関わった作品「15作」を取り敢えずご紹介します。うちコンペティションに正式出品されるのが3作、コンペ外が1作、特別プロジェクション2作です。ニューディレクターズ部門1作、ホライズンズ・ラティノ部門1作、パールズ部門1作、サバルテギ部門3作、国際フィルム学生の出会い部門に短編2作、他に3000人収容の大型スクリーンで上映されるベロドロモに、短編12作です。参加監督はコルド・アルマンドス、アシエル・アルトゥナ、ルイソ・ベルデホ、ダニエル・カルパルソロ、ボルハ・コベアガ、グラシア・ケレヘタ、イマノル・ウリベなどベテラン、中堅、新人が名を連ねています。映画際上映後に公開された『スガラムルディの魔女』(アレックス・デ・ラ・イグレシア)や『暴走車 ランナウェイ・カー』(ダニ・デ・ラ・トーレ)が上映されたのも、このベロドロモでした。
*オフィシャル・セレクション、コンペティション部門*
★“El hombre de las mil caras”(英題“Smoke and Mirrors”)
アルベルト・ロドリゲス
実在のスパイを主人公にしたスリラー、現代史に基づいていますがマヌエル・セルドンの小説“Paesa: El espía de las mil caras”の映画化、というわけでワーキング・タイトルは“El espía de las mil caras”でした。実話に着想を得たフィクション。諜報員フランシスコ・パエサにエドゥアルド・フェルナンデス、フランコ独裁体制を支えた治安警備隊長ルイス・ロルダンにカルロス・サントス、その妻ニエベスにマルタ・エトゥラ、ヘスス・カモエスにホセ・コロナド、と演技派を揃えている。

(パエサに扮したエドゥアルド・フェルナンデス)
*A・ロドリゲス(1971、セビーリャ)の第7作め、本映画祭は『マーシュランド』(2014)に続いて3度め、三度目の正直となるか。下馬評では今年の目玉です。
*監督紹介と『マーシュランド』の紹介記事は、コチラ⇒2015年1月24日

(左から、E・フェルナンデス、J・コロナド、M・エトゥラ、C・サントス)
★“Que Dios nos perdone”(“May God Save Us”)ロドリーゴ・ソロゴイェン
経済危機の2011年夏、猛暑のマドリード、折しも首都はローマ教皇のマドリード到着を待ちわびる150万人の巡礼者でかつてないほどごった返していた。二人の刑事ベラルデ(アントニオ・デ・ラ・トーレ)とアルファロ(ロベルト・アラモ)は、できるだけ速やかにそれも目立たずに連続殺人犯を見つけ出さねばならない。しかし二人は犯人追跡が考えていたほど簡単でないことに気付かされる、二人のどちらも犯人像がひどく異なっていたからだ。

(映画から、アントニオ・デ・ラ・トーレとロベルト・アラモ)
*R・ソロゴイェン(ソロゴジェン)(1981、マドリード)の長編映画第3作、本映画祭オフィシャル・セレクションは初登場の監督。前作“Stockholm”(2013)でマラガ映画祭2013の監督賞(銀賞)を受賞、ゴヤ賞2014では新人監督賞にノミネーション、国際映画祭での受賞歴多数、次回作が待たれていた監督。二人の刑事にベテランを揃えた。
*監督紹介と“Stockholm”の記事は、コチラ⇒2014年6月17日

(左から、ロベルト・アラモ、監督、アントニオ・デ・ラ・トーレ)
★“La Reconquista”(“The Reunion”)ホナス・トゥルエバ
マヌエラとオルモは初めて恋をし、二人は15年後の再会を約して青春に別れを告げた。冬のマドリード、ある夜二人は再会する。これは現実には失われた時を求める物語であるが、意識の流れ、失われた時間の回復についての物語である。我々自身のなかにも思い出せない記憶、言葉や行為、感情やパッションがあり、記憶は修正されながら正確さは次第にあやふやになっていく。現在のマヌエラにイチャソ・アラナ、オルモにフランセスコ・カリルが扮する。カリルはJ・トゥルエバ作品の常連。

(映画から、イチャソ・アラナ、フランセスコ・カリル)
*J・トゥルエバ(1981、マドリード)の長編映画第4作め、本映画祭オフィシャル・セレクションは初登場。フェルナンド・トゥルエバが父、製作会社「フェルナンド・トゥルエバP.C.S.A」の責任者クリスティナ・ウエテが母、ダビ・トゥルエバが叔父と、実に恵まれた環境で映画作りをしている。しかし前作“Los exiliados románticos”(2015)では親離れして、自身が設立した製作会社「Los Ilusos Films」で撮り、マラガ映画祭で特別審査員賞(銀賞)を受賞した。ロドリーゴ・ソロゴイェンと同世代、サンセバスチャンも世代交代が進んでいる。
*監督紹介並びに“Los exiliados románticos”の記事は、コチラ⇒2015年4月23日

(撮影中のJ・トゥルエバ監督、右側は主役の二人)
*コンペティション外*
★“A Monster Calls”(“Un monstruo viene verme”)フアン・アントニオ・バヨナ
*作品紹介済みにつき割愛。

★映画祭に間にあうよう、コンペ作品だけでもキャスト&スタッフ、ストーリーなどの詳細をアップ致します。
追記:ホナス・トゥルエバ「La Reconquista」が邦題『再会』で Netflix 配信された。
シガニー・ウィーバーがドノスティア賞を受賞*サンセバスチャン映画祭2016 ② ― 2016年07月22日 11:52
J・A・バヨナのファンタジー「怪物はささやく」はコンペ外上映
★第63回サンセバスチャン映画祭の栄誉賞ドノスティア賞は英国女優エミリー・ワトソン一人でしたが、今年は米国女優のシガニー・ウィーバーがアナウンスされました。今のところ受賞者は一人、時期的にはかなり早い発表ですから、増える可能性があります。フアン・アントニオ・バヨナの新作“A Monster Calls”(西題“Un monstruo viene a verme”仮題「怪物はささやく」)に出演しているので、周囲は予想していたかも知れません。授賞式は本作上映の9月21日当日に、メイン会場クルサール・オーディトリアムの予定です。イチイの大木の怪物(リーアム・ニーソン)と13歳のコナー少年(ルイス・マクドゥーガル)のファンタジー・ドラマ。シガニーはコナー少年の祖母役です。

(シガニー・ウィーバー、右手にあるのがドノスティア賞のトロフィー)
★“A Monster Calls”の製作発表は2014年3月でしたから大分待たされました。オリジナル言語は英語です。第64回サンセバスチャン映画祭2016のコンペティション外でワールド・プレミアされます。癌で夭折したシヴォーン・ダウドの原案をパトリック・ネスとイラストレーターのジム・ケイが完成させたもの。若い読者のためのベストセラー小説の映画化、本作ではパトリック・ネスが脚本を手掛けました。日本では、児童図書出版社から『怪物はささやく』の邦題で既に翻訳書が出ています(2011年、あすなろ書房)。

(イチイの大木とコナー少年、映画“A Monster Calls”)
★シガニー・ウィーバー(ウィーヴァー)Siigourney Weaver、1949年ニューヨーク生れの66歳、40年のキャリアがあります。リドリー・スコット、ピーター・ウィアー、ジュームス・キャメロンなどに起用されている。一応代表作はシリーズ『エイリアン』のリプリー役、ゴールデン・グローブ賞助演女優賞の『ワーキング・ガール』(88、マイク・ニコルズ)、同主演女優賞(ドラマ部門)の『愛は霧のかなたに』(88)、ロマン・ポランスキーの『死と乙女』(94)、英国アカデミー助演女優賞『アイス・ストーム』(97、アン・リー)、J・キャメロンの『アバター』(09)など多数。

(リーアム・ニーソン、ルイス・マクドゥーガル、パトリック・ネスと一緒に)
★フアン・アントニオ・バヨナの「母子三部作」の最終編、「母子三部作」というのは、第1作『永遠のこどもたち』(07)と第2作『インポッシブル』(12)、本作が第3作になります。「これで母子三部作は終りにするつもりだ」と監督は語っています。公開は来年でしょうか。

サンセバスチャン映画祭2016*テーマは「出会い」 ① ― 2016年05月26日 11:51
世界中に拡散した暴力は無視できない
★カンヌが終わったら次は何だったかしら? カンヌもコンペティション外や特別招待作品などを積み残しており、落ち穂拾いが必要ですが気分を変えたい。メキシコのアカデミー賞「アリエル賞」結果発表は、今年は5月28日とちょっと先です。というわけで少し気が早いけれどサンセバスチャン映画祭のご紹介、去る5月5日に「第64回サンセバスチャ2016」の部門ごとのポスターが発表になっておりました。9月16日から24日までの9日間、作品選考はこれから、ノミネーション発表は8月初旬でしょうか。ホセ・ルイス・レボルディノスが今年も映画祭総代表者を務めます。

(第64回のメインポスターをお披露目するホセ・ルイス・レボルディノス)
★第64回のポスターには16人の人物が描かれておりますが、これは偶然ではなく、2016と9月16日オープニングが掛けてあるらしい。デザイナーは「スタジオ・プリモ」のホルヘ・エロセギ、スペインのデザイン事務所が応募した10作の中から、映画祭実行委員会が選考にあたった。エロセギによると、「この作品は、ジャーナリストとして観客として、映画産業に携わる多くのプロフェッショナルな人の出会いを表現している」ようです。レボルディノスも「みんなで映画祭に行こう!」というアイデアを反映させたもの、と説明している。
★世界中で起きている政治的対立が本映画祭のテーマの一つになるようです。2016年の選考基準の一つとして、コンペティション部門を含めて、今多くの地域で起きているバイオレンスの状況を冷静に分析した作品を特別に考慮して、前途多難な未来を語った作品を多めに選考する。なぜなら「映画祭といえども、今世界で起きていることに背を向けていることはできない」とJ・L・レボルディノス。サンセバスチャンは他の映画祭に比較すると政治的メッセージの強い映画祭ですが、今年はそれが更に強まりそう、昨年は管理人の好きな「ユーモア」だったのですが。
★世界に拡散した暴力をテーマにした「The Act of Killing, Cine y Violencia Global」部門では、暴力をテーマにした過去の優れた映画の回顧上映も予定されている。日本のフィルム・ノワールや2000~15に製作された独立系の新しい映画が上映される。タイトルの由来は、勿論ジョシュア・オッペンハイマーが2012年に撮った『アクト・オブ・キリング』(英=デンマーク=ノルウェー、製作総指揮ヴェルナー・ヘルツォーク)から取られている。劇場公開は2014年でした。1965年、インドネシアで起こった「赤狩り」と称した100万人規模の大虐殺のドキュメンタリー。複雑すぎて一言では紹介できませんが、「本当の悪とは何か」をテーマにした、ただ恐ろしいだけの映画ではなく、人間が犯す悪の正体を掘り下げている。

フランスとの連携を深めるサンセバスチャン
★昨年の特集は日本映画でしたが、今年は「ジャック・ベッケル」の回顧上映が特集されます。フランソワ・トリュフォーなどヌーヴェル・ヴァーグの監督たちに尊敬されたフランスの監督(1906~60,享年53歳)。映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』の執筆陣に大きい影響を与えた監督。ルノワールの助監督を務めた後、1942年『最後の切り札』(未公開)でデビュー、シモーヌ・シニョレ主演の『肉体の冠』(51)は日本でも話題を呼んだ。フレンチ・フィルム・ノワール『現金(げんなま)に手を出すな』(54)では、主役のジャン・ギャバンがベネチア映画祭で男優賞を受賞した。ジュラール・フィリップがモディリアーニを演じた『モンパルナスの灯』(58)、脱獄映画の傑作と言われる遺作『穴』(60)など、ドラマ、サスペンス、コメディと簡潔だがきちんと計算された構成にファンは魅了されている。長編13作がスペインでは未公開、フランコ時代の理不尽な検閲をパスできなかった。大きな損失ですよ。日本でも全作が直ぐ公開されたわけではなく未公開作品もありますが、DVDなど一応字幕入りで見ることができます。

(ジャック・ベッケル回顧上映のポスター)
★サバルテギZabaltegi部門は、ジャンルがアバウトです。〈サバルテギ〉はバスク語で「自由」という意味、というわけで国籍、言語やジャンル、長編短編を問わずドキュメンタリーも含めて自由に約30作品ほどが選ばれるセクションです。「コンペティション部門」は勿論ですが、サバルテギの中からもゴヤ賞ノミネーションを受けることが多い。「サンセバスチャンは、ゴヤ賞の石切り場」と言われる所以です。

(サバルテギ・セクションのポスター)
★映画祭総予算は750万ユーロ、メドはたったのでしょうか。J・L・レボルディノスもカンヌに出掛けて根回しをしてきたようです。作品選考、赤絨毯を歩くスターたちのリストアップ、サミットほどではないでしょうが、テロ対策も含めて国際映画祭の準備は待ったなしです。ラテンビート上映に関係ある「ホライズンズ・ラティノ」部門は、ノミネーション発表の折にご紹介したい。

(ホライズンズ・ラティノ部門のポスター)
★コンペティション部門の審査員は、金貝賞Concha de Oro以下、合計6賞の選出をする。基本的にはカンヌ映画祭と同じように「1作につき1賞」ですが、例外的に2014年の“Magical Girl”の金貝賞と銀貝賞(監督賞)のダブル受賞もありました。
*金貝賞は、作品賞として製作者に与えられ、金賞はこれ一つ
*銀貝賞は、監督賞、女優賞、男優賞 の3賞
*審査員賞は、撮影賞、脚本賞 の2賞
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