アルゼンチン映画 『明日に向かって笑え!』*8月6日公開 ― 2021年07月17日 16:26
ダリン父子がドラマでも父子を共演したコメディ
(スペイン語版ポスター)
★セバスティアン・ボレンステインの「La odisea de los giles」(英題「Heroic Losers」)が『明日に向かって笑え!』の邦題で劇場公開されることになりました。いつものことながら邦題から原題に辿りつくのは至難のわざ、直訳すると「おバカたちの長い冒険旅行」ですが、無責任国家や支配階級に騙されつづけている庶民のリベンジ・アドベンチャー。リカルド・ダリンとアルゼンチン映画界の重鎮ルイス・ブランドニが主演のコメディ、2年前の2019年8月15日に公開されるや興行成績の記録を連日塗り替えつづけた作品。本当は笑ってる場合じゃない。公開後ということで、9月にトロント映画祭特別上映、サンセバスチャン映画祭ではアウト・オブ・コンペティション枠で特別上映された。ダリンの息チノ・ダリンがドラマでも息子役を演じ、今回は二人とも製作者として参画しています。
(ドラマでも親子共演のリカルド・ダリンとチノ・ダリン)
*「La odisea de los giles」の作品紹介は、コチラ⇒2020年01月18日
*ボレンステイン監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2016年04月30日
*リカルド・ダリンの主な紹介記事は、コチラ⇒2017年10月25日
*チノ・ダリンの紹介記事は、コチラ⇒2019年01月15日
★公式サイトと当ブログでは、固有名詞のカタカナ起しに違いがありますが(長音を入れるかどうかは好みです)、大きな違いはありません。リカルド演じるフェルミンの友人、自称アナーキストのバクーニン信奉者ルイス・ブランドニ、フェルミンの妻ベロニカ・リナス(ジナス)、実業家カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセ、などのキャリアについては作品紹介でアップしています。悪徳弁護士フォルトゥナト・マンツィ役アンドレス・パラ、銀行の支店長アルバラド役ルチアノ・カゾー、駅長ロロ・ベラウンデ役ダニエル・アラオスなど、いずれご紹介したい。
(監督と打ち合わせ中のおバカちゃんトリオ)
★原作(“La noche de la Usina”)と脚本を手掛けたエドゥアルド・サチェリは、大ヒット作『瞳の奥の秘密』(09)でフアン・ホセ・カンパネラとタッグを組んだ脚本家、ボレンステイン監督とは初顔合せです。大学では歴史を専攻しているので時代背景のウラはきちんととれている。
*『瞳の奥の秘密』の作品紹介は、コチラ⇒2014年08月09日
★作品紹介の段階では、受賞歴は未発表でしたが、おもな受賞はアルゼンチンアカデミー賞2019(助演女優賞ベロニカ・リナス)、ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2020ラテンアメリカ映画賞、シネマ・ブラジル・グランプリ受賞、ハバナ映画祭2019、アリエル賞2020以下ノミネート多数。
(ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞のトロフィーを手にした製作者たち)
★ネット配信、ミニ映画祭、劇場公開、いずれかで日本上陸を予測しましたが、一番可能性が低いと思われた公開になり、2年後とはいえ驚いています。公式サイトもアップされています。当ブログでは原題でご紹介しています。
★1都3県の公開日2021年8月6日から順次全国展開、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、ほか。新型コロナウイリスの感染拡大で変更あり、お確かめを。
アルゼンチン映画「Karnawal」*マラガ映画祭2021 ⑱ ― 2021年06月13日 18:38
フアン・パブロ・フェリックスのデビュー作「Karnawal」
★フアン・パブロ・フェリックスのデビュー作「Karnawal」は、昨年トロント、グアダラハラ、オスロなど既に国際映画祭巡りをしてマラガにやってきました。アルゼンチン映画とはいえブラジル、チリ、メキシコ、ボリビア、ノルウェーとの合作。キャストにチリのベテラン俳優アルフレッド・カストロ、ガウチョ起源のタップダンス「マランボ」のダンサーに、マランボ・ワールドチャンピオンを連覇しているマルティン・ロペス・ラッチを起用、二人は複雑な父子関係を演じます。ボリビアと国境を接するアルゼンチン最北西部の州フフイで撮影された。マラガFFでは3日めの6月5日に上映され、監督以下主演演者二人も来マラガしてプレス会見に臨んだ。特に過去の暗部に縛られた父親を演じたカストロは、同じセクション・オフィシアルにノミネートされているクラウディア・ピントの「Las consecuencias」にも主演していることから、メディアのインタビューに追われているようでした。
(マルティン・ロペス・ラッチ、監督、アルフレッド・カストロ、6月5日)
「Karnawal」2020年
製作:Bikini Films(アルゼンチン)/ Moinhos Produçoes Artisticas(ブラジル)/
Picardia Films(チリ)/ Phottaxia Pictures(メキシコ)/
Londra Films(ボリビア)/ Norsk Filmproduksjon(ノルウェー)
監督・脚本:フアン・パブロ・フェリックス
音楽:レオナルド・マルティネリ、Tremor
撮影:ラミロ・シビタ
編集:エドゥアルド・セラーノ、ルス・ロペス・マニェ
キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ
プロダクション・デザイン:セサル・モロン
美術:ダニエラ・ヴィレラ
衣装デザイン:レジナ・カルボ、ガブリエラ・バレラ・ラシアル
メイクアップ:ナンシー・マリグナク
プロダクション・マネージメント:マリア・カルカグノCalcagno
製作者:アレクシス・ロディル、フリーダ・トレスブランコ、(エグゼクティブ)エドソン・シドニー、ほか多数
データ:製作国アルゼンチン、ブラジル、チリ、メキシコ、ボリビア、ノルウェー、スペイン語、2020年、ドラマ、95分、撮影地アルゼンチンのフフイ州、ボリビアのビリャソン、両国の国境地帯ほか
映画祭・受賞歴:トゥールーズ映画際2020正式出品、2021年6月アルフレッド・カストロ栄誉賞受賞、トロントTIFF、グアダラハラ映画祭、監督賞・男優賞(アルフレッド・カストロ)受賞、オスロ映画祭、サンタバーバラ映画祭2021、マラガ映画祭など
キャスト:マルティン・ロペス・ラッチ(カブラ)、アルフレッド・カストロ(カブラの父エル・コルト)、モニカ・ライラナ(母ロサリオ)、ディエゴ・クレモネシ(母の恋人エウセビオ)、他
ストーリー:カブラはボリビアの国境近くのアルゼンチン北部で母親と暮らしている。若者の夢はガウチョのフォルクローレのタップダンス、マランボのプロフェッショナルになることである。目前に迫ったカーニバルは、マランボ・ダンサーにとって最も重要な祭り、その準備に余念がない。ところが思いがけず詐欺師の父エル・コルトが数日間の休暇をもらって刑務所から戻ってくる。エル・コルトはカブラとその母親をミステリアスな旅に誘い出す。エル・コルトの真意が分からぬまま、母と息子は既に暴力と犯罪の危険に晒されていることに気づくだろう。カーニバルはディアブロも目覚めさせてしまうのだ。カブラはカーニバルのマランボ・コンクールに間に合うでしょうか。自分の夢を実現するために父を捨てることができるでしょうか。父と息子の境界線、父と母とその恋人との三角関係、アルゼンチンとボリビアの国境線、自由の息吹きとしてのアートの役割を織り交ぜて、ドキュメンタリーの手法を取り入れたロードムービー。
(再会した父と息子)
自由の息吹きとしての芸術の役割――ガウチョ起源の<マランボ>の魅力
★タイトル「Karnawal」は、先住民語のケチュア語とスペイン語の造語でカーニバルを指す。マランボMalamboというのは、アルゼンチン伝統の男性だけのフォルクローレ、もともとはガウチョ起源のタップダンスで、ガウチョの衣装とブーツ姿で踊る。映画に見られるように毎年マランボ・コンテストがあり、カブラを演じたマルティン・ロペス・ラッチはマランボ・チャンピオンを連覇しているプロフェッショナルだそうです。当ブログでは、ベルリン映画祭2018に正式出品されたサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno」を紹介しています。こちらのダンサーはプロのガスパル・ホフレです。
*「Malambo, el hombre bueno」の紹介は、コチラ⇒2018年02月25日
(マランボを踊るマルティン・ロペス・ラッチ、映画から)
(カブラと母ロサリオ役のモニカ・ライラナ)
(刑務所から戻ってきたエル・コルト役のアルフレッド・カストロ)
★監督紹介:フアン・パブロ・フェリックスは、1983年ブエノスアイレスのアレシフェス生まれ、監督、脚本家、製作者。ENERC卒業、学位取得後7年間、FXスタントチームの総プロデューサーとして特殊効果やアクション・デザインを手掛ける。TVシリーズ、短編、コマーシャル(アルゼンチン、スペイン)を製作後、2020年「Karnawal」で長編デビューした。2021年ドキュメンタリー「Fuerzas vivas」を撮る。
(第35回グアダラハラ映画祭2020監督賞受賞のフアン・パブロ・フェリックス)
★プレス会見で、「カーニバルの重要性は、人々を解放し、変革をもたらす自由の息吹きを秘めているからです。この地域の人々は普段はそっ気なく控えめですが、カーニバルがやってくると、伝統に則った象徴性とメタファーを通して自由奔放になります。それはカーニバルの数日間は悪魔から解放されるからです」と監督。また「レゲトンの商業的攻勢にもかかわらず、世代を超えてこのように文化遺産が守られていることに感動する」ともコメントした。
(左から、ロペス・ラッチ、監督、カストロ、プレス会見)
★父親エル・コルト役のアルフレッド・カストロは、「この映画は女性の視点から見ると、とても優れた深遠な興味を起させる外観をもっている。この文脈からはほとんど気づかれませんが、男性のマチスモが反映されています。というのも男性は驚くほど何もしません。毎日働くのは女性たち、商いをするのも、国境を越えるのも、すべて女性です」とコメントした。
(息子を危険に晒す父親エル・コルト、アルフレッド・カストロ)
★授賞発表が迫ってきていますが、カストロの男優賞受賞はかなりの確率でアリでしょうか。最優秀作品賞の金のビスナガは、スペイン映画とイベロアメリカ映画から1作ずつ選ばれます。後者は8作と作品数も少ないから、もしかしたら受賞するかもしれない。
エドゥアルド・クレスポの「Nosotros nunca moriremos」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑰ ― 2020年10月04日 10:30
セクション・オフィシアル部門にノミネートされたアルゼンチン映画
★ラテンアメリカ諸国からコンペティション部門に唯一ノミネートされた、エドゥアルド・クレスポの第3作目「Nosotros nunca moriremos」は、賞には絡めませんでしたが評価の高かった作品でした。上質のロードムービーのようで、主役の母親を演じたロミナ・エスコバルがトランスセクシュアルということも話題のようでした。クレスポは撮影監督でもあり、昨年のホライズンズ・ラティノ部門のオリソンテス受賞作品ロミナ・パウラの「De nuevo otra vez」を手掛けています。新作はラテンアメリカ映画の登竜門的セクションであるホライズンズ・ラティノではなくコンペティション部門ということで、コロナ禍の状況下にしては監督以下大勢が現地入りしていました。今年は中止と諦めかけていたラテンビート2020がオンラインで開催されるということで、もしかしたらと期待してアップしておきます。
*「De nuevo otra vez」の作品紹介は、コチラ⇒2019年09月10日
(ロミナ・エスコバルとエドゥアルド・クレスポ、9月23日のフォトコール)
「Nosotros nunca moriremos」(「We Well Never Die」)2020
製作:SANTIAGO LOZA / RITA CINE / PRIMERA CASA / EDUARDO CRESPO
監督:エドゥアルド・クレスポ
脚本:エドゥアルド・クレスポ、サンティアゴ・ロサ、リオネル・ブラベルマン
撮影:イネス・ドゥアカステージャ
音楽:ディエゴ・バイネル
編集:ロレナ・モリコーニ
製作者:サンティアゴ・ロサ、エドゥアルド・クレスポ、ラウラ・マラ・タブロン
データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、ドラマ、83分、スペイン公開2021年3月予定
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル部門正式出品、スペイン協力賞ノミネート
キャスト:ロミナ・エスコバル(母)、ロドリゴ・サンタナ(次男ロドリゴ)、ジェシカ・フリッケル(消防士)、ジョヴァンニ・ぺリツァーリ(消防士)、ブライアン・アルバ(長男)、セバスティアン・サンタナ、他
ストーリー:母親はロドリゴを連れて、22歳になる長男が死んだばかりという小さな町を訪れている。息子の遺体を確認し埋葬するためである。この穏やかな土地で服喪の最初の時間が流れる。次男ロドリゴは大人たちの痛みを垣間見ながら、それとは気づかれずに子供時代に別れを告げるだろう。母親は息子の死の謎を明らかにしたいと思っているが、それは彼の過去の人生を辿ることでもあった。この透明な映画は、愛を捧げようとする孤独な人々のメランコリックで控えめなユーモアに溢れている。家族間で露わになる記憶の合流をパラレルに描くことで、それぞれが自身と向き合うことになるだろう。時が止まったような忘れられた土地を彷徨う上質のロードムービー。
★エドゥアルド・クレスポ紹介、1983年アルゼンチンのエントレ・リオス州クレスポ生れ、監督、脚本家、撮影監督、製作者。2012年、長編「Tan cerca como pueda」(マル・デル・プラタ映画祭正式出品)、2016年、生れ故郷クレスポについてのドキュメンタリー「Crespo(La continuidad de la memoria)」、サンティアゴ・ロサと共同監督したTVシリーズ「Doce casas : historia de mujeres devotas」(14)は、マルティン・フィエロ賞ほかを受賞した。撮影監督としては上記の「De nuevo otra vez」の他、サンティアゴ・ロサの「Breve historia del planeta verde」(19)、イバン・フンドの「Hoy no tuve miedo」(11)などが挙げられる。
★主役のロミナ・エスコバルとサンセバスチャンの散策も楽しんだ監督、「ここに来られることが夢でした」。その理由を言う必要はありませんね。ロミナのほうが注目されても彼女の傍らで静かに見守りながらにこやかに対応する監督、映画と同じように静謐で控えめな監督は、アルゼンチンの農村部で暮らす人々に敬意を表する映画を撮った。
(クルサール会場近辺を散策するクレスポ監督とロミナ・エスコバル)
★ロミナ・エスコバル(ブエノスアイレス1974)は、主役の母親に抜擢された。昨年のベルリン映画祭2019パノラマ部門に出品された「Breve historia del planeta verde」は、ロサ監督がテディー賞とテディー・リーダー賞の2冠を受賞した作品。本作ではロミナ・エスコバルはトランスセクシュアルのDJ役になった。アルゼンチンではかなり注目されているスターのようで、TVシリーズ「Pequeña Victoria」(19、49話)出演で人気があるようです。新作ではトランスセクシュアルでない役柄に抜擢され「トランスセクシュアルの役柄ばかりでうんざりしていました。今回の母親役で、私が尊敬し、人生で私を支えてくれたアルゼンチンのすべての女性に敬意を表します」と、サンセバスティアンで語っている。アルゼンチンのTV局ともスカイプでインタビューを受けるほどの人気ぶりです。2006年のドノスティア栄誉賞受賞者マット・デイモンのツーショットや大ファンのヴィゴ・モーテンセンにも会え、大いに映画祭を楽しんだようです。
*「Breve historia del planeta verde」の作品紹介は、コチラ⇒2019年02月19日
(母親役のロミナ・エスコバル、映画から)
(ロドリゴ役のロドリゴ・サンタナ)
(消防士に扮するなるジョヴァンニ・ぺリツァーリとジェシカ・フリッケル)
(母親とロドリゴ)
(「Breve historia del planeta verde」のポスター)
★映画祭はとっくに終了してしまいましたが、気になりながら割愛していた作品を、11月19日から開催されるラテンビートを視野に入れてアップできたらと思っています。
金貝賞を競うスペイン映画は2作*サンセバスチャン映画祭2020 ④ ― 2020年08月02日 12:49
セクション・オフィシアルにパブロ・アグエロ
(セクション・オフィシアルのポスター)
★7月30日、コンペティション部門、コンペティション外ほか、ニューディレクターズ部門、サバルテギ-タバカレラ部門などがアナウンスされました。スペイン映画はコンペにパブロ・アグエロの「Akelarre」とアントニオ・メンデス・エスパルサの「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)の2作が金貝賞を競うことになりました。他にアウト・コンペティションには、ロドリゴ・ソロゴジェンのTVシリーズ「Antidisturbios」(全6話のうち2話)、特別上映作品としてアイトル・ガビロンドの「Patria」がエントリーされた。コンペ外のウディ・アレンの新作「Rifkin's Festival」はオープニング作品です(アップ済み)。
◎セクション・オフィシアル◎
①「Akelarre」 (スペイン=フランス=アルゼンチン)2020
製作:Sorgin Films / Kowalski Films / Lamia Producciones
監督:パブロ・アグエロ
脚本:パブロ・アグエロ、Katall Guillou
撮影:ハビエル・アギーレ
音楽:マイテ・アロタハウレギ、アランサス・カジェハ
編集:テレサ・フォント
録音:ウルコ・ガライ、ホセフィナ・ロドリゲス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、アナ・ルビオ、他
製作者:フレド・プレメル、グアダルーペ・バラゲル・Trellez、(エグゼクティブ)コルド・スアスア、他
データ:製作国スペイン、フランス、アルゼンチン、言語スペイン語・バスク語、2020年、スリラー・ドラマ、90分、撮影地ナバラ州レサカ、公開予定スペイン10月2日、フランス2021年3月24日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル
*パブロ・アグエロ(メンドサ1977)は、本映画祭2009ニューディレクターズ部門に「77 Doronship」で登場、同2015セクション・オフィシアルに「Eva no duerme」、当ブログではノミネート紹介だけでしたが、ガエル・ガルシア・ベルナルやイマノル・アリアスなどが出演していて、今回の「Akelarre」と同じくアルゼンチン西仏合作でした。アルゼンチンのメンドサ出身だがスペインやフランスとの合作が多く、バスクに軸足をおいている監督です。今回のノミネート作品も17世紀のバスクを舞台にした魔術による裁判のプロセスに着想を得た歴史ドラマで、長編第5作めになる。
(パブロ・アグエロ監督)
キャスト:アレックス・ブレンデミュール(ロステギ裁判官)、アマイア・アベラスツリ(アナ)、ジョネ・ラスピウル(マイデル)、ガラシ・ウルコラ、ダニエル・ファネゴ、ダニエル・チャモロ、他多数
ストーリー:1609年バスク、この地方の男たちは海に出かけてしまっている。アナは村の娘たちと一緒に森で行われるフィエスタに出かけていく。この地方にはびこる魔術による裁判を浄化するよう国王フェリペ3世に依頼された裁判官ロステギは、彼女たちを逮捕して魔術を告発する。彼は魔術の儀式アケラーレについて知る必要があるだろうと決心、おそらく悪魔が操っているにちがいないと調査に着手する。17世紀初頭の為政者による、一つの考え方、一つの言語、一つの宗教を強制することを願った魔女狩り裁判、地方文化の否定が語られる。
(撮影中の魅力的な魔女たち)
★ペドロ・オレアが1984年に撮った同名の映画「Akelarre」の舞台は、バスク州の隣りナバラ州でした。ナバラもアケラーレが行われていた。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』(13)の舞台もナバラ州の小村スガラムルディ、親子三代にわたる魔女軍団の物語。
*『スガラムルディの魔女』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月12日
★アントニオ・メンデス・エスパルサの「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)は次回にします。
マティアス・ピニェイロの「Isabella」*ベルリン映画祭2020 ― 2020年03月11日 21:00
マティアス・ピニェイロの「Isabella」はシェイクスピア・シリーズ第5作目
★マティアス・ピニェイロの「Isabella」は、今年新設された「エンカウンター部門」で上映された作品の一つ、スペシャル・メンションを受賞した。前回紹介したカミロ・レストレポ監督とマティアス・ピニェイロの二人は、ノミネーション段階からラテンアメリカの有望な監督として紹介されており、受賞は意外でなかったかもしれない。特にピニェイロ監督は、アテネ・フランセとアップリンク渋谷が共催したミニ映画祭が2014年9月と2017年6月に開催されており、監督来日もあった。「イザベラ」は彼のシェイクスピア・シリーズの第5作目に当たります。四大悲劇の一つ『オセロー』と同じ1604年に発表された『尺には尺を』(「Measure for Measure」)がベースになっている。監督は現在ニューヨーク在住のため、撮影は飛び飛び、2018年1月にクランクインしたものの最終は2019年8月だったそうです。
*「マティアス・ピニェイロ映画祭2017」の記事は、コチラ⇒2020年03月02日
(製作者メラニー・シャピロとマティアス・ピニェイロ、ベルリン2020年2月26日)
★マティアス・ピニェイロ、1982年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、アルゼンチン・ニューシネマの一人。国立映画大学で学び、後に同校で映画史、映画製作について教鞭をとる。2011年ハーバード大学のラドクリフ奨学金を得て渡米、現在は新たにニューヨーク大学の奨学金を受けてニューヨークに軸足をおいている。従ってコペンハーゲン・ドキュメンタリー・ラボでのスペインのロイス・パティーニョとの共同プロジェクトは断念している。
(マティアス・ピニェイロ、2月26日)
★2003年短編デビュー、数年助監督を務めたあと、2007年の「El hombre robado」で長編デビュー、チョンジュ映画祭でグランプリを受賞、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 BAFICI ではスペシャル・メンションを受賞した。本作は2014年のミニ映画祭で『盗まれた男』の邦題で上映された。主なフィルモグラフィーは以下の通り。
(デビュー作のポスター)
*フィルモグラフィー&主な受賞歴*(邦題は映画祭2017を使用)
2007「El hombre robado」チョンジュ映画祭グランプリ受賞、ラス・パルマスFF第1回作品賞
2009『みんな嘘つき』BAFICIスペシャル・メンション
2010『ロサリンダ』中編43分、シェイクスピア・シリーズ第1作、『お気に召すまま』
2012『ビオラ』シェイクスピア・シリーズ第2作、『十二夜』
BAFICI の国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、バルディビアFF特別審査員賞
2014『フランスの王女』シェイクスピア・シリーズ第3作、『恋の骨折り損』
BAFICIアルゼンチン映画賞、カトリックメディア賞SIGNISなど受賞
2016『エルミア&エレナ』シェイクスピア・シリーズ第4作、『夏の夜の夢』
2020「Isabella」シェイクスピア・シリーズ第5作、『尺には尺を』
ベルリン映画祭2020エンカウンター部門スペシャル・メンション
(以上、他にロカルノやトロント映画祭などのノミネーションは割愛)
「Isabella」2020
製作:Trapecio Cine
監督・脚本:マティアス・ピニェイロ
撮影:フェルナンド・ロケット
編集:セバスティアン・Schjaer
音楽:ガブリエラ・サイドン、サンティ・グランドネ(ン)Grandone
録音:メルセデス・テンニナTennina
プロダクション・デザイン&衣装デザイン:アナ・カンブレ
製作者:メラニー・シャピロ
データ:製作国アルゼンチン、フランス、スペイン語、2020年、ドラマ、80分、撮影地ブエノスアイレス、コルドバ、クランクインは2018年1月、2019年8月にクランクアップ。
映画祭・受賞歴:第70回ベルリン映画祭2020エンカウンター部門(2月26日)スペシャル・メンションを受賞。
キャスト:マリア・ビジャール(マリエル)、アグスティナ・ムニョス(ルシアナ)、パブロ・シガル(ミゲル)、ガブリエラ・サイドン(ソル)他
ストーリー:ブエノスアイレス生れの女優マリエルは、シェイクスピアのコメディ劇『尺には尺を』のヒロイン、イザベラ役の獲得に挑戦している。マリエルはオーディションで何度も、避けられない運命のように、ルシアナを見かけます。ルシアナは影のように振舞うが、同時に彼女を照らし魅了する。シェイクスピア喜劇における女性の役割について、現代の欲望の定義の難しさについて、ピニェイロ映画常連のマリア・ビジャールとアグスティナ・ムニョスが火花を散らす。
(マリア・ビジャールとアグスティ・ムニョス、映画から)
★新作「Isabella」の情報は少なく、シェイクスピア劇『尺には尺を』の知識が若干あったほうが楽しめそうです。マリエル役のマリア・ビジャール(1980)は、ピニェイロ映画には長編デビュー作以来、シェイクスピア・シリーズ全5作は勿論のこと、ほぼ全作に出演している。国立芸術大学演技科卒、同窓にマリア・オネットやリカルド・バルティスがいる。カルメン・バリエロがコーディネートする音楽グループのメンバー、他監督作品ではアレホ・モギジャンスキーの話題作「La vendedora de fosforos」やハビエル・パジェイロの「Respirar」に出演しているほか、舞台女優としても活躍している。同じくピニェイロ映画出演の多いロミナ・パウラとは親しく、最近彼女は監督デビューも果たした。
*ロミナ・パウラの紹介記事は、コチラ⇒2019年09月10日
★もう一人の主演者、ルシアナ役のアグスティナ・ムニョスは、女優、舞台演出家、劇作家と才色兼備。女優としては、2005年イネス・デ・オリベイラ・セサルの「Cómo pasan las horas」で映画デビュー、「Extranjera」ほか同監督の作品に出演、マティアス・ピニェイロとのコラボはシェイクスピア・シーリーズ第1作からすべてに出演している。第2作目『ビオラ』ではマリア・ビジャールやロミナ・パウラとBAFICIの最優秀女優賞を一緒に受賞している。他監督作品では、サンティアゴ・パラベシノの「Algunas chicas」が第70回ベネチア映画祭で上映され、監督と共演者たちと現地入りした。
(アグスティナ・ムニョス『フランスの王女』から)
(共演者アゴスティナ・ロペス、パラベシノ監督、ムニョス、ベネチアFFフォトコール)
★他にペパ・サン・マルティンの「Rara」に主演、本作は第66回ベルリン映画祭2016のゼネレーションKplus部門にエントリーされ審査員賞、ハバナFF特別審査員賞、バルデビアFF観客賞、サンセバスチャンFFホライズンズ・ラティノ部門グランプリを受賞した。ストーリーは2人の娘がいる女性とパートナーの4人家族、普通に見えながらフツーでないのはパートナーも女性であるから。主役が子供たち、特に長女の視点で語られる。
(サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」グランプリ受賞作「Rara」から)
★ピニェイロ監督によると、第5作目に『尺には尺を』を選んだのは「女性を主役にして映画を撮る場合、シェイクスピアの喜劇はテーマが豊富だからだが、原作はコメディの要素が少なく問題劇の要素を持っているので、トーンを変えるのに適切だった」と語っている。さらに「一般的に悲劇は男性の権力を取り扱っているが、コメディは女性たちの英知が物を言うからです」とも語っている。イザベラは修道院で修練者として暮らしている。ところが兄が婚前交渉で恋人を妊娠させてしまい裁判官から死刑の宣告を受けてしまう。正義、慈悲、真実、プライドと屈辱が語られる。罠がかけられて、結局兄は助かるが大団円とは違うようです。
(自作を紹介するマティアス・ピニェイロ監督、2月26日)
★2013年、シェイクスピア・シリーズの第2作目『ビオラ』でベルリン映画祭のフォーラム部門に参加している。「今回はカルロ・チャトリアンやマーク・ペランソンの手に委ねられたエンカウンター部門にノミネートされた。とても興味をそそられる部門で興奮している。受賞というのは少し審査員の独断もはいるから、3人とか5人とかの人が決める一種の福引のようなものです」と受賞前に語っていましたが、運よく当たりました。またアルゼンチンでは独立系の映画が映画館に届くことは難しく、1週間とか10日間とか日数を限ってラテンアメリカ・アート美術館や国立映画協会の映写室で限定上映をしてもらっているということでした。
(元ロカルノ映画祭ディレクターのカルロ・チャトリアンと監督、2月26日)
(プログラミング主任のマーク・ペランソンと監督)
(スペシャル・メンションの受賞スピーチをするメラニー・シャピロ、2月29日)
ナタリア・メタの第2作「The Intruder」*ベルリン映画祭2020 ― 2020年02月27日 08:48
ベルリン映画祭2020開幕、アルゼンチンからサイコ・スリラー
★2月9日から始まっていたベネチアのカーニバルが途中で中止になりましたが、2月20日、ベルリン映画祭2020は開幕しました(~3月1日)。ドイツも新型コロナウイルスが無縁というわけではありませんが予定通り開幕しました。ドイツは19日、フランクフルト近郊のハーナウで起きた連続銃乱射事件で8名の犠牲者がでたりと、何やら雲行きがあやしい幕開けでした。天候もあいにくの雨続きのようですが既に折り返し点にきました。
(左から、セシリア・ロス、ナタリア・メタ、エリカ・リバス)
(出演者とメタ監督、ベルリン映画祭2020、フォトコールにて)
★コンペティション部門18作のうち、スペイン語映画はアルゼンチン=メキシコ合作の「El prófugo」(映画祭タイトルは英題「The Intruder」)1作のみです。監督は『ブエノスアイレスの殺人』(ラテンビート2014)のナタリア・メタの第2作目です。ある外傷性の出来事によって現実に起きたことと想像上で起きたことの境界が混乱している女性の物語、悪夢や現実の概念の喪失がテーマのようですが、審査委員長ジェレミー・アイアンズ以下審査員の心を掴むことができるでしょうか、ちょっと難しそうですね。
*『ブエノスアイレスの殺人』の作品&監督紹介は、コチラ⇒2014年09月29日/11月01日
(ナタリア・メタ、プレス会見にて)
「El prófugo」(英題「The Intruder」)2020
製作:Rei Cine / Barraca Producciones / Infinity Hill / Picnic Produccionas / Piano / Telefe
監督・脚本:ナタリア・メタ
原作:C. E.フィーリング「El mal menor」(1996年刊)
撮影:バルバラ・アルバレス
音楽:Luciano Azzigotti
編集:エリアネ・カッツKatz
視覚効果:ハビエル・ブラボ
製作者:ベンハミン・ドメネチ、サンティアゴ・ガジェリGallelli、マティアス・ロベダ、他
データ:製作国アルゼンチン=メキシコ、スペイン語、2020年、サイコ・スリラー、90分、撮影地ブエノスアイレス、メキシコのプラヤ・デル・カルメン、他。ベルリン映画祭2020コンペティション部門でワールド・プレミア。
キャスト:エリカ・リバス(イネス)、セシリア・ロス(母マルタ)、ナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート(アルベルト)、ダニエル・エンドレル(レオポルド)、アグスティン・リッタノ(ネルソン)、ギジェルモ・アレンゴ(マエストロ)、他
ストーリー:女優のイネスは歌手として合唱団で歌っている。パートナーのレオポルドと一緒に出掛けたメキシコ旅行で受けたひどい外傷性の出来事により、現実に起きたことと想像上のことの境界が混乱するようになり、悪夢と日常的に襲ってくる反復的な音に苦しんでいる。イネスはコンサートのリハーサルで若いアルベルトと知り合うまで母親マルタと暮らしていた。彼とは問題なく過ごしているようにみえたが、ある危険な予感から逃れられなかった。夢からやってくるある存在が、彼女の中に永遠に止まりたがっていた。 (文責:管理人)
豪華なキャスト陣を上手く泳がすことができたでしょうか
★主役イネスにエリカ・リバス(ブエノスアイレス1974)は、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)で、結婚式当日に花婿の浮気を知って逆上する花嫁を演じた。若い女性役が多いが実際は既に40代の半ば、銀のコンドル賞(助演『人生スイッチ』、女優賞「La luz inncidente」)、スール賞、クラリン賞、マルティン・フィエロ賞、イベロアメリカ・プラチナ賞などを受賞、映画以外にもTVシリーズ出演は勿論のこと、舞台でも活躍しているベテランです。フォード・コッポラのモノクロ映画『テトロ』(09)、サンティアゴ・ミトレの『サミット』(17)では、リカルド・ダリン扮するアルゼンチン大統領の私設秘書を演じた。2作ともラテンビート映画祭で上映されている。
(母親役のセシリア・ロスとエリカ・リバス、映画から)
★イネスの恋人レオポルドには監督デビューも果たしたダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)が扮した。ウルグアイとアルゼンチンで活躍、『夢のフロリアノポリス』のアナ・カッツ監督と結婚している。アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』(17)他で何回かキャリア紹介をしている。彼も銀のコンドル賞、スール賞以下、アルゼンチンのもらえる賞は全て手にしている。
*キャリア&フィルモグラフィーの紹介は、コチラ⇒2017年02月20日/04月09日
(レオポルド役のダニエル・エンドレル、映画から)
★イネスの新しい恋人アルベルト役のナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート(ブエノスアイレス州1986)は、アルゼンチンとフランスで活躍している(スペイン語表記ナウエル・ペレス・ビスカヤルト)。ロバン・カンピヨの『BPMビート・パー・ミニット』(17)がブレイクしたので、フランスの俳優と思っている人が多いかもしれない。彼自身もセザール賞やルミエール賞の男優賞を受賞したことだし、公開されたアルベール・デュポンテルの『天国でまた会おう』(17)もフランス映画だった。最初は俳優になるつもりではなかったそうですが、2003年アドリアン・カエタノのTVミニシリーズ「Disputas」に17歳でデビュー、2005年にはエドゥアルド・ラスポの「Tatuado」で銀のコンドル新人賞を受賞している。アルゼンチンではTVシリーズ出演がもっぱらだが、トロント映画祭2014年で上映されたルイス・オルテガの「Lulú / Lu-Lu」に主役ルカスを演じた。2016年に公開されるとヒット作となり、彼も銀のコンドル賞にノミネートされた。家庭の愛をうけることなく成長した車椅子のルドミラLudmiraとルカスLucasの物語、タイトルは二人の名前から取られた。
(アルベルト役のナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)
(アルベルトとイネス、映画から)
★ラテンアメリカ映画、特にラプラタ地域では悪夢や分身をテーマにすることは珍しくない。さらに特徴的なのが <移動> した先で事件が起きること。本作でも主人公はアルゼンチンからメキシコに旅行している。資金調達のために合作が当たり前になっているラテンアメリカでは都合がいい。原作はブエノスアイレス市内で起きた事件なのに、舞台をスペイン北部に移してしまう作品だって過去にはあった。賞に絡むことはないかもしれないが、『ブエノスアイレスの殺人』の監督、ナタリア・メタの第2作ということでご紹介しました。
ダリン父子が初共演の「La odisea de los giles」*ゴヤ賞2020 ⑬」 ― 2020年01月18日 17:25
イベロアメリカ映画賞部門にアルゼンチンの「La odisea de los giles」が有力
★アルゼンチン興行成績史上初という快挙を遂げたセバスティアン・ボレンステインの「La odisea de los giles」は、2019年8月15日公開以来過去の記録を更新し続けている。しかしアドベンチャー・コメディ、スリラーなら何でも成功するというわけではない。アルゼンチン人なら誰一人として忘れることができない2001年12月23日の<デフォルト>宣言に始まる<コラリート>を時代背景にしているからです。世界を震撼させた無責任国家の破産を舞台にして、煮え湯を飲まされた住民が反旗を翻す物語、それをリカルド&チノのダリン父子が初共演、ベテランのルイス・ブランドニやリタ・コルテセを絡ませているから、何はともあれ映画館に足を運ばねばならない。第1週380館でスタートしたが、12月半ばには482館、180万枚のチケットが売れたそうです。地元紙は2018年のルイス・オルテガの「El Angel」(『永遠に僕のもの』354館)をあっさり抜いたと報じている。因みにコラリートとは預金封鎖のことで、銀行に預けた自分のお金が引き出せないということです。
(現地入りしたダリン父子とブランドニ、サンセバスチャン映画祭2019フォトコールから)
★個人的には、アルゼンチン国民ほど近隣諸国から嫌われている国はないと考えていますが、このデフォルトによって中間層が貧困層に転落、それは国民の60%近くに及んだという。20世紀初頭には「南米のパリ」ともてはやされたブエノスアイレスも、夜中にゴミあさりをする人たちで、塵一つ落ちていない清潔な街になったと皮肉られた。アルゼンチン経済立て直しと称して、1990年にメネム政権が打ち出した1弗=1ペソ政策は見た目には成功しているかに思われたが、所詮錯覚に過ぎず、厚化粧が剥げれば経済だけでなく政治も社会も三つ巴になってデフォルトに直進した。相続・贈与税がそもそもなく、累進課税制度もないから、富める者はますます富み、貧しい人々はますます貧しくなる構図があり、自分さえよければよいという風潮が蔓延している。見た目と実態がこれほど乖離している国家も珍しい。そういう国で起きた騙されやすいオメデタイ人々が起こしたリベンジ・アドベンチャーです。
「La odisea de los giles」(「Heroic Losers」)2019
製作:Mod Producciones / K&S Films / Kenva Films 協賛:TVE / Televisión Federa(Telefe)
監督:セバスティアン・ボレンステイン
脚本:セバスティアン・ボレンステイン、原作者エドゥアルド・サチェリ
音楽:フェデリコ・フシド
撮影:ロドリゴ(ロロ)・プルペイロ
編集:アレハンドロ・カリージョ・ペノビ
特殊効果:Vfx Boat
録音:ビクトリア・フランサン
製作者:フェルナンド・ボバイラ、ハビエル・ブライア、ミカエラ・ブジェ、レティシア・クリスティ、チノ・ダリン、リカルド・ダリン、シモン・デ・サンティアゴ、Axel Kuschevatzky、他
データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、2019年、アドベンチャー・コメディ、スリラー、116分、配給元ワーナーブラザーズ。第92回米アカデミー賞国際映画賞アルゼンチン代表作品(落選)。公開アルゼンチン8月15日、ウルグアイ同22日、パラグアイ同29日、以下ボリビア、チリ、コロンビア、ペルー、ブラジル、メキシコなどラテンアメリカ諸国、スペイン11月29日
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019特別上映、サンセバスチャン映画祭2019正式出品、パルマ・スプリングス映画祭2020外国語映画部門上映、など。
キャスト:リカルド・ダリン(フェルミン・ペルラッシ)、ルイス・ブランドニ(友人アントニオ・フォンタナ)、チノ・ダリン(息子ロドリゴ)、ベロニカ・リナス(妻リディア)、ダニエル・アラオス(駅長ロロ・ベラウンデ)、カルロス・ベジョソ(爆発物取扱いのプロ、アタナシオ・メディナ)、リタ・コルテセ(実業家カルメン・ロルヒオ)、マルコ・アントニオ・カポニ(カルメンの息子エルナン)、アレハンドロ・ヒヘナ&ギレルモ・ヤクボウィッツJucubowicz(エラディオ&ホセ・ゴメス兄弟)、アンドレス・パラ(弁護士フォルトゥナト・マンツィ)、ルチアノ・カゾーCazaux(銀行家アルバラド)、アイリン・ザニノヴィチ(弁護士秘書フロレンシア)、他
ストーリー:2001年8月、アルシナはこれといった資源もない、アルゼンチン東部の寂れた小さな町である。元サッカー選手だったフェルミンと妻リディアは、廃業したサイロを購入して協同組合を立ち上げ、地域経済の活性化を図ろうと決意する。年長者の友人アントニオ・フォンタナ(自称アナーキストでバクーニンの信奉者)、駅長ロロ・ベラウンデ、実業家カルメン・ロルヒオ、爆発物のエキスパートのアタナシオ・メディナ、ゴメス兄弟などが資金を出し合ってグループ事業を計画する。フェルミンとリディアは、アルシナには銀行がなかったので、銀行家のアルバラドを信用して金庫ごと、近郊のビジャグラン市に運ぶことにする。一方銀行家は彼自身の銀行に金庫の中身を移し替えるよう二人を説得にかかる。果たしてマネーの行方は・・・? 破産させられた住民たちが彼ら独自の方法でリベンジできるチャンスを見つけるが、その方法とは? コラリートを生き延びるために隣人たちが乗り出したアドベンチャーが語られる。 (文責:管理人)
『瞳の奥の秘密』の原作者エドゥアルド・サチェリの小説の映画化
★原作はエドゥアルド・サチェリ(カステラル1967)の小説 ”La noche de la Usina”(2016年刊)の映画化、サチェリは2個目のオスカー像をアルゼンチンにもたらしたフアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』(09)の原作者でもあります。大学では歴史学を専攻、現に高校や大学で教鞭を執っているから、時代背景などはきちんと裏が取れている。アルゼンチンの経済危機は1998年から2002年まで、多くの国が煮え湯を飲まされた。IMFの不手際も原因の一つだったから、日本も借金を棒引きして救済したのでした。彼らにしてみれば、返せる能力もない人にお金を貸すほうが悪いというわけで、ぼくたちは悪くない。
★セバスティアン・ボレンステイン(ブエノスアイレス1963)は、2011年のヒット作「Un cuento Chino」(「Chinese Take-Away」)で、リカルド・ダリンの魅力を思う存分引き出した監督。あれはまさにリカルドのための映画だった。アルゼンチン映画アカデミーの作品・主演男優・助演女優賞(ムリエル・サンタ・アナ)を受賞、米アカデミー賞アルゼンチン代表作品にも選ばれた。更にゴヤ賞2012イベロアメリカ映画賞も受賞した。
★コメディとスリラーを交互に撮っている監督は、2015年にスリラー「Kóblic」(スペインとの合作)を撮った。マラガ映画祭2016に正式出品、1977年の軍事独裁政権を時代背景に軍務と良心の板挟みになるコブリック大佐にリカルド・ダリンが扮した。悪玉の警察署長を演じたオスカル・マルティネスが助演男優賞、撮影監督ロドリゴ・プルペイロが撮影賞を受賞した(プルペイロはロドリゴの愛称Roloロロでも表記される)。スペイン側からインマ・クエスタが出演しているが、なかなかマネできないアルゼンチン弁に苦労した。翌年9月『コブリック大佐の決断』でDVDも発売されている。当ブログでは、詳細な監督紹介と時代背景をアップしています。
* 監督キャリア&フィルモグラフィー、「Kóblic」の紹介記事は、コチラ⇒2016年04月30日
(『コブリック大佐の決断』撮影中のボレンステイン監督とリカルド・ダリン)
一癖も二癖もあるキャスト陣が大いに興行成績に寄与している?
★新作「La odisea de los giles」出演の顔ぶれを見ると、なかなか味のあるキャスティング、主演のダリン父子は何回か登場してもらっているので、さしあたり自称アナーキストでバクーニンのファンというフォンタナ役を演じたルイス・ブランドニから。1940年ブエノスアイレス州の港湾都市アベジャネダ生れ、俳優で政治家、アルゼンチン映画界の重鎮の一人、UCR(ユニオン・シビカ・ラディカル)党員で国会議員に選ばれている。1962年舞台俳優としてデビュー、翌年TVシリーズ、映画デビューは1966年。1970年代から主役を演じている。1984年のアレハンドロ・ドリアの「Darse cuenta」で主役に起用された。本作は銀のコンドル賞の作品・監督賞他を受賞したことで話題になった。ブランドニはドリア監督の「Esperando la carroza」(85)でも起用されている。『笑う故郷』のガストン・ドゥプラットの「Mi obra maestra」(18)にギレルモ・フランチェラ(ギジェルモ・フランセージャ)と共演している。間もなく80代に突入だが依然として主役に抜擢されている。
(ガストン・ドゥプラットの「Mi obra maestra」から、左側はギレルモ・フランチェラ)
★長寿TVシリーズ「Mi cuñado」(93~96)で2回マルティン・フィエロ賞を受賞、他作でも2回、計4回受賞している。新作ではロシアの哲学者、無政府主義者の革命家ミハイル・バクーニン(1814~76)の信奉者という役柄、日本では教科書で習うだけの思想家バクーニンが、アルゼンチンでは今でもファンがいるというのがミソ、マルクスのプロレタリア独裁に対立した革命家でもあった。
*リカルド・ダリンの主な紹介記事は、コチラ⇒2017年10月25日
(ラテンアメリカから初のドノスティア賞のリカルド・ダリン、SSIFF 2017)
(リカルド・ダリン、ベロニカ・リナス、ルイス・ブランドニの三人組、映画から)
★チノ・ダリンは、1989年ブエノスアイレスのサン・ニコラス生れ、俳優、最近父親リカルド・ダリンが主役を演じたフアン・ベラの「El amor menos pensado」で製作者デビューした。本作はSSIFF2018のオープニング作品である。映画デビューはダビ・マルケスの「En fuera de juego」(11)、本邦登場はナタリア・メタの『ブエノスアイレスの殺人』(「Muerte en Buenos Aires」14)の若い警官役、ラテンビートで上映された。翌年韓国のブチョン富川ファンタスティック映画祭で男優賞を受賞した。続いてディエゴ・コルシニの「Pasaje de vida」(15)で主役に抜擢されるなど、親の七光りもあって幸運な出発をしている。他にルイス・オルテガの「El Angel」(18、『永遠に僕のもの』)、ウルグアイの監督アルバロ・ブレッヒナーの『12年の長い夜』で実在した作家でジャーナリストのマウリシオ・ロセンコフを演じた。役者としての勝負はこれからです。
* 他にチノ・ダリンの紹介記事は、コチラ⇒2019年01月15日
(劇中でも父子を演じたリカルド&チノ・ダリン親子、映画から)
★女優軍は、フェルミンの妻リディア役のベロニカ・リナス、1960年ブエノスアイレス生れ、女優、舞台、TVシリーズで活躍、映画監督、舞台演出家でもある。父は最近癌で鬼籍入りした作家のフリオ・リナス、母は若くして癌に倒れた画家のマルタ・ペルフォ、映画監督のマリアノ・リナス(1975)は実弟。自らラウラ・シタレジャと共同監督・主演した「La mujer de los perros」(15)撮影中に夫も癌で亡くしている。本邦では馴染みがないなかで、サンティアゴ・ミトレの『パウリナ』に出演している。コメディ出演が多いが、マルティン・フィエロ賞をコメディとドラマ部門で受賞、銀のコンドル賞も受賞するなどの演技派です。
(デフォルトのニュースを聞いて気絶する夫フェルミンを支える妻リディア)
(監督&主演した「La mujer de los perros」から)
★実業家カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセは、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』で、同僚のウエートレスの家族を破滅に追い込んだお客に猫いらず入りの料理を出して殺害しようとする料理女(ゴリラ)、塀の中体験者で「刑務所暮らしのほうがシャバより余程まし」とうそぶく、アルゼンチンの社会的不公平を逆手にとって金持ちに復讐する迫力満点の料理人を演じた。パウラ・エルナンデスの『オリンダのリストランテ』(01、08年公開)で主役のオリンダに扮した。ここでも料理をしていた(笑)。物言う女優の一人、リタ・コルテセについては別の機会にご紹介したい。
(カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセ)
(料理人に扮したリタ・コルテセ、『人生スイッチ』から)
★その他の出演者たち、アレハンドロ・ヒヘナ&ギレルモ・ヤクボウィッツが扮したゴメス兄弟、アンドレス・パラが扮したマンツィなど。
★いずれ何かの形で、つまりネット配信、ミニ映画祭、劇場公開、DVDなどで字幕入りで観られる機会があるのではないでしょうか。
アルゼンチンからロミナ・パウラの第1作*サンセバスチャン映画祭2019 ⑳ ― 2019年09月10日 11:34
ホライズンズ・ラティノ第6弾――ロミナ・パウラの第1作「De nuevo otra vez」
★女優としてキャリアを積んできたロミナ・パウラの初監督作品です。いわゆる女性の危機と言われる40歳を迎え、一念発起して監督したデビュー作「De nuevo otra vez」のテーマは、女性の権利、母性、ゆれ動く気まぐれな欲求などを語っている。主役ロミナを自ら演じ、自身の母親と4歳になる息子も共演しており、フィクションとノンフィクションが混在しているようです。ロッテルダム映画祭2019「Bright Future」部門に正式出品、他にインディリスボア・インディペンデント映画祭リスボン・シティ賞ノミネート、ウルグアイ映画祭イベロアメリカ部門作品賞を受賞している。ロミナ・パウラは、サンティアゴ・ミトレの「Estudiante」(11)でアルゼンチン・アカデミー2011の新人女優賞を受賞している。本作はラテンビート2012で『エストゥディアンテ』の邦題で上映された。
(自作を語るロミナ・パウラ、2019年6月)
(エステバン・ラモチェとロミナ・パウラ、『エストゥディアンテス』から)
「De nuevo otra vez」(「Again Once Again」)
製作:Varsovia
監督・脚本:ロミナ・パウラ
音楽:ヘルマン・コーエン
撮影:エドゥアルド・クレスポ
編集:エリアネ・カッツ
美術:パウラ・レペット
製作者:ルシア・チャバリ、フロレンシア・スカラノ(以上エグゼクティブ)、ディエゴ・ドゥブコブスキー
データ:製作国アルゼンチン、スペイン語・ドイツ語、2019年、ドラマ、84分。公開アルゼンチン2019年6月6日
映画祭・受賞歴:ロッテルダム映画祭2019「Bright Future」部門に正式出品、インディリスボア・インディペンデント映画祭リスボン・シティ賞ノミネート、シンガポール映画祭正式出品、ウルグアイ映画祭イベロアメリカ部門作品賞を受賞、他
キャスト:ロミナ・パウラ(ロミナ)、モニカ・ランク(母親モニカ)、ラモン・コーエン・アラシ(息子ラモン)、マリアナ・チャウド(マリアナ)、パブロ・シガル(パブロ)、デニーズ(ドゥニーズ)・グロエスマン(デニーズ)、エステバン・ビグリアルディ(ハビエル)、他
ストーリー:ロミナは息子ラモンを連れて実家に戻ってきた。ラモンの父親とは縁を切って、一時的に母親モニカの家に身を寄せている。ブエノスアイレスを訪れてから、自分がいったい何をしたいかはっきりさせたいと考えている。ドイツ語の教師をしながら独身時代のように夜の外出を試みる。自分が何者か知る必要に迫られて、原点に立ち戻りつつ、家族の過去を再建しようとする。予測可能な困難を避けながら、自ら選んだ道で生き生きしてくる。映画的探究は勿論のこと、洞察力のある、感受性豊かなドラマになっている。家族とは、母性とは、女性の権利とは、人生の半ばでゆれ動く欲望、女性の危機が語られる。 (文責:管理人)
40歳は女性の曲がり角――まだ冒険の時間が残されている
★ロミナ・パウラ(ブエノスアイレス1979)は、アルゼンチンでは幾つもの顔をもつよく知られた才媛である。作家として3冊の小説に加えて短編集1冊、戯曲家、舞台演出家、女優、主にマティアス・ピニェイロ映画の常連である。例えば「El hombre robado」(07)、「Todos mienten」(09)、「Viola」(12)、「La princesa de Francia」(14)、「Hermia & Helena」(16)とピニェイロの長編全作に起用されています。そして今回の「De nuevo otra vez」で監督と脚本家としてのキャリアが加わった。「執筆したり、演出したり、演じたりしているなかで、映画を監督したら違う何かが見えてくるのではないかと冒険がしたくなった。身近だが普遍性のあるテーマにしたいと思った」とその動機を語っています。
(処女作「¿ Vos me querés a mí ?」の表紙、2005年刊)
★出発点を個人的なテーマに選んだのは何故か。それは「母親を撮ることがそもそものアイデアだったから」と日刊紙「クラリン」のインタビューで語っている。「息子と私はいつも一緒に暮らしているが、母とはまったく違う。だから母を撮る一番いい方法は、ドイツ語を話している母の家を舞台にすることだった。わたしの家族はドイツ語を使っていない。母を出演させることで何かを掴みたかった」とその理由を語っている。家族を被写体にすることの困難さや母親や息子を演じさせることで二人が変わってしまうことはなかったか、という質問には「簡単だったかどうかは分からないが、予測に反してスムーズに進行した。確かに言えるのは、二人を自由気儘にさせたので撮影中は満足していたようだった。しかし母はいくつかのシーンではドラマチックな演技をしていた。これまで彼女にそんな才能があるなんて気づかなかったが、結果的にはそれは素晴らしいサプライズだった」と応えている。然り人間は演技する動物です。
(ロミナ、息子ラモン、母モニカ、映画から)
(ラモンとロミナ)
★本作が最初で最後のフィルムでないのは当然ですが、文学や演劇のように簡単にはいかない。制作会社探しだけでなく諸々の準備が山ほどある。本作が評価されることも重要だが、まず観客を惹きつけるアイデアが生まれることが先決でしょうか。現代は女性でも何か冒険ができそうな時代になってきたので、次回作を期待したい。
★ベネチア映画祭も金獅子賞にトッド・フィリップスの『ジョーカー』を選んで終幕しました(9月7日)。もうこれで主役のホアキン・フェニックスの2020年アカデミー男優賞受賞は決りでしょうか。スペイン語映画も大賞受賞には及びませんでしたが、コンペ外で何作か目に入りましたので別途アップします。忘れていけないのが、ペドロ・アルモドバルの栄誉金獅子賞受賞でした。
ニューディレクターズ全14作が発表*サンセバスチャン映画祭2019 ⑩ ― 2019年08月13日 14:49
全容が明らかになったニューディレクターズ部門―チリとアルゼンチンから
★7月30日、ホセ・ルイス・レボルディノス総ディレクターとニューディレクターズ部門の代表者イドイア・エルルベによって全14作品が発表になりました。スペイン語映画は、既に発表になっていたスペイン映画2作(「La inocencia」、「Las letras de Jordi」)は紹介済み、加えてアルゼンチン映画、チリ映画各1作ずつ、合計4作がノミネートされたことになりました。アジアからは関係がぎくしゃくしている日本と韓国から仲良く1作ずつ選ばれました。他、アルファベット順にブルガリア、米国、イスラエル、リトアニア、ノルウェー、イギリス、スイス、チュニスが選ばれましたが大方が合作、各国から満遍なく選ばれている印象です。
* ルシア・アレマニーの「La inocencia」の紹介は、コチラ⇒2019年07月24日
* マイデル・フェルナンデス・エリアルテ「Las letras de Jordi」は、コチラ⇒2019年07月24日
(全14作を発表する、ホセ・ルイス・レボルディノスとイドイア・エルルベ、7月30日)
◎『よあけの焚き火』(「Bonfire at Dawn」)日本、土井康一
キャスト:大蔵基誠、大倉康誠、鎌田らい樹、坂田明
*650年の伝統を守る大蔵流狂言方の父と子の物語。大蔵流狂言方の実の親子が初出演している。ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜている。8月9日よりフォーラム山形で上映開始、全国各地で展開中。監督(横浜1978)、スタッフ、キャスト紹介の詳細は公式サイトで。
◎「Algunas bestias / Some Beasts」チリ、ホルヘ・リケルメ・セラーノ
Cine en Construccion 35 Toulouse 受賞作品、2019年、監督第2作目、スリラー、97分
キャスト:パウリナ・ガルシア(ドロレス)、アルフレッド・カストロ(アントニオ)、コンスエロ・カレーニョ(コンスエロ)、ガストン・サルガド(アレハンドロ)、アンドリュウ・バルグステッド(マキシモ)、ミジャレイ・ロボス(アナ)、他
ストーリー:ある家族がチリ南部の海岸沿いにある無人島に、観光ホテル建設の夢を抱いて喜び勇んでやってくる。本土から彼らを船に乗せてきた男が姿を消すと、家族は島の囚われ人となってしまう。水もなく寒さと不安で気力も失せ、家族の各々が隠しもっている悪霊が露わになるなかで、共同生活は次第に困難になっていく。
*4日間で撮ったデビュー作「Camaleón」(16)がロンドン映画祭などで高評価だったことが、比較的早い第2作に繋がった。「チリ社会に根源的に存在する悪霊がテーマ」と監督。
(アルフレッド・カストロ、パウリナ・ガルシア)
◎「Las buenas intenciones / The Good Intentions」アルゼンチン、アナ・ガルシア・ブラヤ
キャスト:ハビエル・ドロラス(グスタボ)、アマンダ・ミヌヒン(アマンダ)、エセキエル・フォンタネラ、カルメラ・ミヌヒン、セバスティアン・アルセノ、ハスミン・スタート、フアン・ミヌヒン
ストーリー:1990年代のブエノスアイレス、アマンダは10歳、弟と妹がいる。子供たちは離婚した両親の家を行ったり来たりして暮らしている。父親と一緒のときは、アマンダはできる限り家事をこなして大人のように振るまわざるを得ない。それは父親が子供たちを自身よりほんの少しだけ愛しているようなとても風変わりなタイプの人間だったからだ。ある日のこと、母親が父親のきちんとできない生活からは程遠い外国を申し出る。その提案はアマンダを不安に陥れることになる。
*監督デビュー作、1974年ブエノスアイレス生れ。実際の3人姉弟が演じる。
(父親と子供たちをバックにしたポスター)
(きちんとした性格の母親)
「監督週間」のもう1作はアルゼンチン映画*カンヌ映画祭2019 ⑥ ― 2019年05月05日 21:00
アレホ・モギジャンスキイの第6作目「Por el dinero」
★今年の「監督週間」は24作中16作がデビュー作というなかで、アルゼンチンのアレホ・モギジャンスキイ「Por el dinero」は第6作目と異例、少し変わった作風の監督という印象です。2009年の長編第2作「Castro」がブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIで作品賞を受賞、続いてロカルノ、バンコク、ワルシャワ、ロンドン、ウィーン、テッサロニキほか各国際映画祭巡りをしました。BAFICI は4月下旬開催の映画祭で、マラガ映画祭と重なることから定期的に作品紹介はしておりませんが、カンヌのような大きな映画祭へ繋がるのでアルゼンチンの若手監督には重要な映画祭です。
(キューバのカストロとは無関係な「Castro」のポスター)
★モギジャンスキイが編集を担当したマリアノ・ジナス監督の「La flor」(18)を製作したEl Pampero Cine が手掛けました。今作はBAFICI 2018の作品賞受賞作品、若い監督をサポートしている制作会社、ロカルノ、ニューヨーク、ウィーン各映画祭で上映された話題作です。モギジャンスキイは編集者として若手監督とのコラボを多く手掛けています。編集者というのは大体が監督との共同作業がもっぱらで目立たない存在ですが、これなくしては完成しない。マリアノ・ジナスは反対にモギジャンスキイの第4作「El escarabajo de oro」(14)の脚本を共同執筆するなどしている。エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』やロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』をベースにして作られたたコメディ・アドベンチャー映画です。
(監督・脚本・編集の「El escarabajo de oro」のポスター)
★前作5作まではすべてBAFICIに出品されましたが、「Por el dinero」はいきなり「監督週間」でワールドプレミアされます。詳細を入手できていませんが、どうやら2016年10月に舞台で上演された同タイトルの映画化のようです。その際は女優でダンサーのルチアナ・アクーニャと共同で演出、主演しましたが、映画のほうはモギジャンスキイが一人で監督しました。
(演劇「Por el dinero」のポスター)
(演劇「Por el dinero」の舞台から4人の出演者)
「Por el dinero」(「For the Money」)
製作:El Pampero Cine
監督・脚本:アレホ・モギジャンスキイ
脚本:ルチアナ・アクーニャ(共同執筆)
音楽:ガブリエルChwojnik
撮影:セバスチャン・アルペセジャArpesella
衣装デザイン:マリアナ・ティランテTirantte
データ・映画祭:製作国アルゼンチン、スペイン語、2019年、社会風刺コメディ。カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品。
キャスト:ルチアナ・アクーニャ(ダンサー)、ガブリエルChwojnik(ミュージシャン)、マチュー・ペルポイント(フランス人ダンサー)、アレホ・モギジャンスキイ(シネアスト)
ストーリー:現代社会に生きるアーティストたち4人の現状にフォーカスした政治的風刺コメディ。一人はミュージシャン、二人は舞踊家、もう一人はシネアスト。私たち「どうやって生きていく?」「映画製作の資金は?」「生活費はどうやって稼ぐ?」「愛かお金かどっちがいい?」「すべきことは何?」エトセトラ。もしかしたら困難なテーマについて何かヒントが見つかるかもしれません。(文責:管理人)
★舞台と同じメンバーが出演していることからプロットに変更はなさそうですが、映像が入手できないので、これ以上は深入りできません。下の写真はたまたま見つかったもので、グーグルで目にするのは大体舞台で上映されたときの写真です。
(どういうシチュエーションか分からないが見つかったフォト)
(ルチアナ・アクーニャ、後ろ向きはモギジャンスキイか)
★アレホ・モギジャンスキイAlejo Moguillansky 1978年ブエノスアイレスうまれ、監督、脚本家、編集者、俳優、製作者。2004年映画編集者として出発、監督デビュー作はBAFICI出品の「La prisionera」(05)、以下の長編6作のほか、長編ドキュメンタリーや短編ドキュメンタリーを撮っている。第5作となる「La vendedora de fosforos」(2017「The Little Match Girl」)が話題になった。
(アレホ・モギジャンスキイ、2018年)
2005「La prisionera」監督・脚本・編集
2009「Castro」同上 BAFICI 2009 作品賞受賞作、
インディリスボン映画祭2010国際映画批評家連盟FIPRESCI賞受賞作
2013「El loro y el cisne」同上、BAFICI 2013 スペシャル・メンション
2014「El escarabajo de oro」監督・脚本・編集
2017「La vendedora de fosforos」監督・脚本・編集
2019「Por el dinero」同上、省略
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