リカルド・フランコ賞にフリア・フアニス*マラガ映画祭2021 ④ ― 2021年05月07日 17:29
フィルム編集者フリア・フアニスがリカルド・フランコ賞を受賞
(フリア・フアニス)
★去る5月4日、リカルド・フランコ賞にフィルム編集者フリア・フアニスの発表がありました。昨年の衣装デザイナーのタチアナ・エルナンデスに続いて女性シネアストが選ばれました。リカルド・フランコ賞の正式名はマラガ・フェスティバル・リカルド・フランコ賞といい、スペイン映画アカデミーとのコラボレーションです。カメラの背後で活躍するシネアストに贈られる賞です。2019年はグティエレス・ロドリゲス映画の脚本家として有名なラファエル・コボスが受賞しています。
*リカルド・フランコ賞の紹介記事は、コチラ⇒2020年09月05日
★フリア・フアニスJulia Juanizは、1956年ナバラ州アレリャーノ生れ、フィルム編集者、写真家、監督として短編を撮っている。アラゴン州のサラゴサ大学で医学を、同市のスペクトラム・ギャラリーの写真コースを学んでいる。1986年以来プロフェッショナルに映画に携わっている。1991年にビルバオのシネビ映画祭で短編「Train Time」がバスク映画グランプリを受賞するなどした。1990年からフィルム編集者として国内外の監督のもとでキャリアを積み始める。例えば、バシリオ・マルティン・パティノ、カルロス・サウラ、ビクトル・エリセ、ラファエル・ゴルドン、アルベルト・モライス、ラモン・バレア、ダニエル・カルパルソロ、パウラ・コンス、ボビー・モレスコ、ブライアン・グッドマン、マーク・スティーヴン・ジョンソンなど、ドキュメンタリーや短編を含めると60作以上になる。若いバスクの監督では、アルベルト・ゴリティベレア、ハビ・エロルテギ、ペドロ・アギレラ、アランツァ・イバラなどが挙げられる。
★特にアラゴン出身のカルロス・サウラとは『タクシー』(96)以来、多くの作品を単独で任されており信頼は厚い。監督と編集者は共にサンセバスチャン映画祭との関りが多く、『タクシー』(コンペティション)、『ブニュエル~ソロモン王の秘宝』(2001オープニング作品)、『ファド』(2007サバルテギ)などがある。サウラ映画では『ゴヤ』(99)と『イベリア 魂のフラメンコ』(05)の2作で、それぞれゴヤ賞の編集賞に2回ノミネートされている。2017年にはサンセバスチャン映画祭の特別栄誉賞の一つシネミラ賞を受賞している。
(ゴヤ賞2000編集賞にノミネートされた『ゴヤ』のポスター)
★フィルム編集のほか、写真家、ビデオアーティストとしてのキャリアも築いており、セル画やコラージュ、ビデオ作品は、パンプローナ、セゴビアなど国内のアートセンターや美術館で展示され、韓国、メキシコ、ロシア、エチオピアのような海外での展示会にも選ばれている。現在は大学や映画学校で編集と脚本分析を教えている。スペイン映画アカデミーのほか、米国映画アカデミー、欧州映画アカデミーのメンバーである。以下に映画賞と短編を除く主なフィルモグラフィーを列挙しておきます。
*受賞&ノミネート歴*
1991「Train Time」(短編)ビルバオ・シネビ映画祭でバスク映画グランプリを受賞
1999「Tango」(98、『タンゴ』カルロス・サウラ)アルゼンチンの銀のコンドル賞にノミネート
2000「Goya en Burdeos」(99、『ゴヤ』カルロス・サウラ)ゴヤ賞編集賞ノミネート
2006「El cielo gira」(04、ドキュメンタリー、共同編集、メルセデス・アルバレス監督)
シネマ・ライターズ・サークル編集賞を4名で受賞
2006「Iberia」(05、『イベリア 魂のフラメンコ』カルロス・サウラ)ゴヤ賞編集賞ノミネート
2017 サンセバスチャン映画祭特別栄誉賞シネミラ賞を受賞
2021「La isla de las mentiras」(20、パウラ・コンス)メストレ・マテオ賞ノミネート
2021 マラガ映画祭にてリカルド・フランコ賞を受賞
(シネミラ受賞スピーチをするフリア・フアニス、サンセバスチャンFF2017)
*主なフィルモグラフィー*
1996「Taxi」(邦題『タクシー』)カルロス・サウラ
1997「Pajarico」(スペイン映画祭1998仮題『パハリーコ~小鳥~』)カルロス・サウラ
1998「Tango」(邦題『タンゴ』)カルロス・サウラ
1998「Pecata minuta」ラモン・バレア
1999「Goya en Burdeos」(『ゴヤ』)カルロス・サウラ
2000「Asfalto」ダニエル・カルパルソロ
2001「Buñuel y la mesa del rey Salomón」(『ブニュエル~ソロモン王の秘宝』)
カルロス・サウラ
2002「Salomé」(『サロメ』)カルロス・サウラ
2002「Guerreros」ダニエル・カルパルソロル
2002「Alumbramiento」(英題「Lifeline」『ライフライン』)ビクトル・エリセ
「10ミニッツ・オーダー人生のメビウス」の1編
2004「El coche de pedales」ラモン・バレア
2004「El séptimo día」カルロス・サウラ
2004「El cielo gira」(ドキュメンタリー)メルセデス・アルバレス
2005「Iberia」(『イベリア 魂のフラメンコ』)カルロス・サウラ
2007「Miguel & William」イネス・パリス
2007「Fados」(ドキュメンタリー『ファド』)カルロス・サウラ
2009「IO, Don Giovanni」(『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツアルトの出会い』)同上
2010「Naufragio」ペドロ・アギレラ
2015「Todo mujer」ラファエル・ゴルドン
2016「La madre」アルベルト・モライス
2017「Black Butterfly」(『ブラック・バタフライ』西米伊、英語)ブライアン・グッドマン
2018「Bent」(米西、英語、共同編集)ボビー・モレスコ
2019「Finding Steve Macqueen」(米、英語、共同編集)マーク・スティーヴン・ジョンソン
2019「Trading Paint」(『ワイルド・レース』西米、英語、共同編集)Karzan Kader
2020「La isla de las mentiras」パウラ・コンス
2020「Retrato de mujer blanca con pelo cano y arrugas」イバン・フロレス・ルイス
2020「Cartas mojadas」(ドキュメンタリー、共同編集)パウラ・パラシオス
2021「Las cartas perdidas」(進行中)アンパロ・クリメント
*「La isla de las mentiras」の紹介記事は、コチラ⇒2020年09月16日
*「Las cartas perdidas」の紹介記事は、コチラ⇒2021年04月11日
マリサ・パレデス、ナント映画祭2021栄誉賞を受賞 ― 2021年04月11日 22:18
「決して無駄に生きてはこなかった」とマリサ・パレデス
(マドリードのカフェ・ヒホンで語るパレデス、2021年3月30日)
★マリサ・パレデス(マドリード1946)がフランスのナント映画祭2021で栄誉賞を受賞しました。受賞者の経歴については、ゴヤ賞2018栄誉賞を受賞した折りにフィルモグラフィーを紹介しておりますが、フランコ時代にデビュー、多くの先輩の薫陶を受けて舞台、映画、TV、ラジオと生きぬいてきた女優について、栄誉賞受賞を機に最近の出演映画や、今年公開が予定されているアンパロ・クリメントのドキュメンタリー・ドラマ「Las cartas perdidas」などをご紹介したい。本作はスペイン内戦を背景にした、オール女性出演のドクドラです。
★ゴヤ栄誉賞受賞後としては、バルバラ・レニーとの女優対決として話題を呼んだハイメ・ロサーレスの『ペトラは静かに対峙する』(18)をご紹介しております。75歳のバースデーを祝ったばかりですが、歩みを止めない、時間を無駄にしない女優です。詳細をまだ明かすわけにはいかないという三つの企画が、プラハ、イタリア、スペインで進行中だそうです。
*ゴヤ賞2018栄誉賞受賞の記事は、コチラ⇒2018年01月18日
*『ペトラは静かに対峙する』の紹介記事は、コチラ⇒2018年08月08日
(『ペトラ』のテーマ、エゴについて語り合うマリサ・パレデスとバルバラ・レニー、
2018年10月、エル・パイスの編集室にて)
★75歳の誕生日を数日後に控えた3月30日、エル・パイス紙のインタビューで、ウィキペディアでも触れられていない、デビューの経緯、両親、特に賢明な助言者であった母親、祖母、最初の結婚相手アントニオ・イサシ=イサメンディ、一人娘マリア・イサシ、パレデスの教師であった今は亡き先輩フェルナンド・フェルナン=ゴメスやマヌエル・アレクサンドレなどのシネアスト、スペイン映画アカデミーの会長時代のゴヤ賞ガラなどについて、マドリードのカフェ・ヒホンで語りました。
(一人娘の女優マリア・イサシからゴヤの胸像を受け取る、ゴヤ賞2018ガラにて)
★少女のときから舞台女優になるのが夢だったマリサ(マリシータ)によると、初舞台は14歳のときの「El padrino」で、「トゥリノ小父さんが殺されちゃった」と言いながらデビューした。これを見ていたビクトル・バドレイ(監督、脚本家)から、コメディ劇場でリハーサルをしているコンチータ・モンテスに会いに行くように言われたという。前向きな母親はともかく、父親は怒って反対したという。しかしマリシータの決心をもはや誰も覆すことはできなかった。まさに人生はドラマです。
★カフェ・ヒホンのテーブルをそっと撫でながら壁を見上げ、「ここの椅子に座っていたんです、フェルナンド・フェルナン=ゴメス、マヌエル・アレクサンドレ、ホセ・ガルシア・ニエト、ペペ・ディアス・・・私は15歳で、彼らが政治やアートについて、文学について議論を闘わせているのを聞いて学んだのです。自分がしなければならないこと、してはいけないことを学びました。先人の教えを忘れてはいけないのです」と。母親からは「共和政時代には認められていた女性参政権や市民婚は、フランコ体制下では取り消された」と聞かされていました。今の自分があるのも母親の支えがあったからで、彼女は言わば<共犯者>だったと。母と祖母は私に「怯えるな」と教えてくれた。祖母ガブリエラ・クリアドは、農民で11人の子供を育てた肝っ玉母さんだったらしく、うち3人が今でも健在、最年長の叔父は99歳ということです。
★コンチータ・モンテスに会いに行くとき、母親は「いいかい、マリシータ、自分が信じる道を行きなさい」と言った。相手は既にメジャーなスターで、15歳の小娘には近寄りがたい存在だったが、私はちっぽけじゃない、情熱では負けない、大きな夢をもっている、とみずからを鼓舞した。60年代の街中では小児性愛者が少女たちを追いかけまわしたり、独裁、抑圧、沈黙と恐怖が蔓延し、「皆なひそひそと話をし、秘密をもち、怯えていた。家の中も同じ、父親が怖くて、パパが帰ってくるというと、子供たちは固まった」と。
★アントニオ・イサシ=イサメンディ(1929-2017)との結婚と「私の人生の花」と形容する娘マリアの誕生(1975)については、両親の考えは違ったという。母親は17歳の年齢差と離婚ができないことから正式に籍を入れるべきでないと言い、父親はアントニオが籍を入れないなら母娘の面倒をみないと主張した。現実的な母親、世間を重んじる父親は万国共通です。後には孫娘を溺愛したそうですが。「アントニオとは同じ目的をもっていたのですが、次第に行き違いが重なり、娘が6歳のとき終わりました。多くの恋をしましたが、1983年、撮影監督、元国立フィルムライブラリー館長のチェマ・プラド(ルゴ1952、ホセ・マリア・プラド)と出会い再婚した。彼は「とても厳しく少し頑固だが誠実な人、皆がOKを出してもダメと言える人」だそうです。
(チェマ・プラドとのツーショット、カンヌ映画祭2018にて)
★忘れられない人として、「私をもっとも信頼してくれた」舞台演出家のリュイス・パスクアル、「自由な考え方、映画に起用してくれたことで私の人生を決定した」ペドロ・アルモドバルの名前を上げている。その他、監督のカエタノ・ルカ・デ・テナ、フアン・ゲレロ・サモラ、ホセフィナ・モリーナ、ピラール・ミロ、女優マリア・アスケリノも忘れられないと語った。ホセフィナ・モリーナ以外は鬼籍入りしています。彼女は映画やオーディオビジュアルで仕事をする女性の権利を守る組織CIMAの設立者で名誉会長、女性監督として2011年、初めてゴヤ賞栄誉賞を受賞した大先輩です。
(ビクトリア・アブリル、アルモドバルと。母と娘の愛憎劇『ハイヒール』から)
★2000年から3年間、スペイン映画アカデミー会長を務めた。2004年のゴヤ賞ガラも忘れられない。というのも大量破壊兵器保有を理由に米国がイラクに軍事介入した戦争に、当時のアスナール政権が同調したからだという。国民はこぞって戦争反対を表明した。仲間と「ノーモア・ウォー」のステッカーを付けてガラに出席した。いかなる戦争にも反対するのは母の教えだという。それは今年公開が予定されているアンパロ・クリメントの「Las cartas perdidas」出演にも繋がっている。
(撮影中のアンパロ・クリメント)
★新作はクリメント監督が演出をした同名戯曲の映画化、舞台は2年間のロングランをおさめたという。まだ内戦は終わっていないのです。プロットはスペイン内戦当時、追放または収監された女性たちの直筆の手紙がベースになっている、ドキュメンタリー・ドラマ、いわゆるドクドラというジャンルの映画です。共和政を支持した女性たちは、女子刑務所または強制収容所に送られた。撮影は最小のスタッフで、2020年9月24日クランクイン、撮影地は両軍の激戦地であったアラゴン州のベルチテ、カスティーリャ・デ・ラ・マンチャ、バレンシア、フランス南部など。出演はパレデス以下、ボイス出演のアナ・ベレン、『ペーパー・ハウス』のナイロビ役で知名度が上がったアルバ・フローレス、ベテランのノラ・ナバスなどオール女性、いずれご紹介する予定です。
(撮影中のマリサ・パレデス)
(全員マスク姿で撮影に臨むスタッフ)
第13回ガウディ栄誉賞にカルメ・エリアス ― 2021年03月29日 14:59
今年のガウディ栄誉賞は3年ぶりに女性シネアストの手に
(ビッキー・ペーニャからトロフィーを受け取るカルメ・エリアス)
★前回写真だけアップしたガウディ栄誉賞受賞者カルメ・エリアスのご紹介。トロフィーは盟友ビッキー・ペーニャから渡されました。アカデミーの授賞理由は「演劇、映画、テレビにおいて常に卓越した才能を発揮した」とペーニャが紹介した。エリアスは「目には見えない人々、私を支えてくれたエキスパート、ここにいる人いない人、私の演じた登場人物たちをステージに伴ってきた」と挨拶した。「俳優というのは、役作りには時には意識的に、時には無意識に人生から糧を得る」と告白、「彼らの怖れ、勇気、不確実性を乗り越えてキャラクターの立ち位置を見つけねばならない。もし見つからないときにはとんぼ返りをしなければならない」とスピーチした。
★また誰でも自分の足跡を残していること、そして「人生を暗闇でなく光の道にしようとすれば、登場人物の話に耳を傾けねばならない」と明かし、この栄誉賞を一般の人々に捧げました。19世紀後半にカタルーニャ語で詩を書き続けた詩人で司祭だったハシント・ベルダゲルの詩の一節でスピーチを締めくくる前に、「私たちのような文明社会では不当に収監された人々が自分自身を表現できる自由があるべきと考えている」とも語った。
★カルメ・エリアスは、1951年バルセロナ生れ、舞台俳優を志してバルセロナの演劇研究所や、ウィリアム・レイトンがバルセロナで創設した演劇ラボラトリーで演技を学び、その後ニューヨークに渡り、俳優学校リー・ストラスバーグのメソッド演技法を学んだ。舞台演出家レイトンは合衆国カンザス出身だが、ロンドンで演劇を学んだ後、1960年代からはスペインに軸足をおき、マドリードで演劇学校を開設、後にバルセロナに移って演劇ラボラトリーで後進の指導に当たった。卒業生には2014年にガウディ栄誉賞を受賞したフリエタ・セラーノ、アナ・ベレン、ナイワ・ニムリなど、後にスペイン演劇や映画の中核を担うアーティストを輩出している。
(栄誉賞受賞の知らせを聞いて、カルメ・エリアス)
★2009年から始まったガウディ賞も13回を迎え、栄誉賞も同時に始まっているから13人目になります。受賞者はバルセロナ派のシネアストから選ばれ、第1回目はバルセロナ生れのハイメ・カミーノ監督(1936~2015)でした。本邦では『1936年の長い休暇』が映画祭で上映されただけと思います。女性の受賞者はカルメ・エリアスが5人目、一人目は昨年11月に鬼籍入りしたモンセラット・カルーリャ(2013)、フリエタ・セラーノ(2014)、昨年春、癌に倒れたロサ・マリア・サルダ(2016)、メルセデス・サンピエトロ(2018)、5人の共通項は映画・舞台・TVで活躍した、あるいは現役の女優ということです。
★カルメはスペイン語読みカルメンとしてクレジットされることもありますが、現在はカタルーニャ語のカルメが多い。当ブログではベネズエラの監督クラウディア・ピントのデビュー作「La distancia más larga」がモントリオール映画祭で「グラウベル・ローシャ賞」を受賞した折りに記事をアップしています。エリアスは実年齢の60歳代の女性に扮し、スペインから思い出のいっぱい詰まった生れ故郷、ベネズエラに最期の旅をする物語でした。翌年マラガ映画祭上映、ウエルバ映画祭観客賞受賞作品。もう1作がカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(サンセバスチャン映画祭2018正式出品)で、そこで簡単にキャリア紹介をしています。バルセロナの演劇ラボラトリーの後輩ナイワ・ニムリと共演したメタファー満載のスリラーでした。
*「La distancia más larga」の紹介記事は、コチラ⇒2013年09月05日
*『シークレット・ヴォイス』の紹介記事は、コチラ⇒2019年03月13日
(祖母役に扮したエリアス、クラウディア・ピントのデビュー作から)
(『シークレット・ヴォイス』撮影時のベルムト監督とエリアス)
★出演作は1975年にデビューしたTVシリーズを含めると3桁に及びますが、以下に主な作品を列挙しておきます。本邦ではラテンビート2009の目玉、ハビエル・フェセル監督の信仰と幸福、命と死をテーマにした『カミーノ』でしょうか。エリアスは難病に罹った少女カミーノの母親役でゴヤ賞主演女優賞を受賞した。このゴヤ賞6部門制覇の実話にインスパイアされた作品は、後にオプス・デイ信者の遺族から裁判を起こされるなどした問題作。舞台とTV出演&受賞歴は割愛しますが、舞台女優としてはギリシャ悲劇からスペインの古典、チェーホフ、現代劇と幅広く出演している。
(カミーノ役のネレア・カマチョと頑迷なオプス・デイ信者の母親役のエリアス)
*タイトルと監督名、受賞歴の順(ノミネートは除外)
1985年「Stico」監督ハイメ・デ・アルミニャン、ベルリンFF正式出品
1990年「Pont de Varsovia」同ペレ・ポルタベリャ、
カタルーニャ自治政府の国民映画女優賞受賞
1991年「El rey pasmado」同イマノル・ウリベ
1994年『わが生涯最悪の年』同エミリオ・マルティネス=ラサロ、スペイン映画祭1997上映
1995年『私の秘密の花』同ペドロ・アルモドバル、公開
2000年「Morir (o no)」同ベントゥラ・ポンス、カタルーニャ語
2006年「Los aires dificiles」同ヘラルド・エレーロ、
マラガ映画祭金のビスナガ賞受賞作品
2008年『カミーノ』同ハビエル・フェセル、ラテンビート映画祭2009上映。
ゴヤ賞主演女優賞、サン・ジョルディ女優賞、トゥリア女優賞、
スペイン俳優組合女優賞など受賞
2011年「Planes para mañana」同フアナ・マシアス、
ムルシア・ウィーク映画祭フランシスコ・ラバル賞受賞
2012年「Tengo ganas de ti」同フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ
2013年「La distancia más larga」(ベネズエラとの合作)同クラウディア・ピント
第2回イベロアメリカ・プラチナ賞2015の初監督作品賞受賞作品
2018年『シークレット・ヴォイス』同カルロス・ベルムト
(ゴヤ賞2009主演女優賞のトロフィーを胸に)
★最近ではTVシリーズ出演が多いが、デミ・ムーア、ナスターシャ・キンスキー、ダリル・ハンナ、シガニー・ウィバーなどの声優としても活躍している。次回作はベネズエラのクラウディア・ピントの第2作目「Las Consecuencias」に出演、アルゼンチン出身だがスペインで活躍しているエクトル・アルテリオ、フアナ・アコスタ、チリのアルフレッド・カストロなどベテラン演技派と共演している。カナリア諸島のパルマで撮影したサイコ・スリラーということです。今回のガウディ栄誉賞ガラにピントも出席とあったがフォトは検索できなかった。
第35回ゴヤ賞の栄誉賞はアンヘラ・モリーナに*ゴヤ賞2021 ⑮ ― 2021年03月06日 20:17
初のゴヤ胸像――「ゴヤ栄誉賞は仲間からのサイコウの贈り物」
(ゴヤ賞2021の栄誉賞受賞のプレス会見、2021年2月28日、映画アカデミー本部にて)
★第35回ゴヤ賞栄誉賞の受賞者はアンヘラ・モリーナ(マドリード1955)とアップしておきましたが、ガラを目前に少し書き足しておきます。キャリア&フィルモグラフィーは、2016年の映画国民賞*を受賞した折りに紹介しています。45年の映画人生のなかで、ルイス・ブニュエルを筆頭にアルモドバル、ボラウ、グティエレス・アラゴン、ハイメ・チャバリ・・・と名監督に愛されたアンヘラ、しかしゴヤ賞はノミネートこそ5回ありますが、受賞は栄誉賞が初めてなのです。
*Premio Nacional de Cinematografía(国民映画賞とも訳される)
*キャリア&フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ⇒2016年07月28日
(映画国民賞授賞式のアンヘラ・モリーナ、2016年9月)
★マリアノ・バロッソk映画アカデミー会長に付き添われてプレス会見に臨んだアンヘラは、「思ってもいなかった受賞の知らせに喜びとともに驚いている。全人生を捧げてきた映画の仲間がこの賞をもたらしてくれたことが特に素晴らしことだった」と。映画国民賞は教育文化スポーツ省とICAAが選考母体だが、この賞は純粋に映画人が選ぶという違いがあります。2021年はパンデミックでテレマティクスとライブの混成になる。3月6日のガラには家族は同席できないようです。「そうすることが最善だと考えています。家族はお茶の間で楽しむことになるでしょう」。ノミネートされながらチャンスを活かせないケースもありそうですから本当に異例の授賞式になります。新型コロナを恨んでも詮ないことです。
★「誰にこの賞を捧げるか? このゴヤは私の父、私の母、私の夫、私の子供たち、愛するファンと友人たち」と明かしました。これ以外の答えはないと思いますが。離れていた時期もあったが、映画のほか舞台にも立っている。現在はラモン・カンポスやテレサ・フェルナンデス=バルデスが手掛けるTVシリーズ、スリラー「Un asunto privado」(全8話)を撮影中、2022年も既に出演作が複数決まっている。引退はまったく考えていないが、「時には疲れていると」と冗談を交えてかわしていたが、まだまだ引退の歳ではありません。
★映画アカデミーが選考母体の「金のメダル」を2013年に受賞しており、それに加えての栄誉賞受賞となりました。バロッソ会長は「私たちの映画の発展に寄与した素晴らしい女優、栄誉賞は彼女と一緒に映画を作った仲間たちの感謝が込められている。アンヘラ・モリーナと映画はフィードバックする。スクリーンの中で彼女を見ると、私たちは元気づけられる」と称賛した。
(2013年に受賞した金のメダルを手にしたアンヘラ)
(準備が整ったマラガの街路、アンヘラの写真を囲んで 左から3人目が会長)
マリオ・カサス、初のゴヤ賞ノミネート*ゴヤ賞2021 ⑫ ― 2021年02月23日 11:01
まさかのゴヤ賞初ノミネートにびっくり――マリオ・カサス
(ノミネート対象作品のダビ・ビクトリの「No matarás」)
★ゴヤ賞2021主演男優賞は、マリオ・カサス(ダビ・ビクトリ「No matarás」)、ハビエル・カマラ(セスク・ゲイ「Sentimental」)、エルネスト・アルテリオ(アチェロ・マニャス「Un mundo normal」)、ダビ・ベルダゲル(ダビ・イルンダイン「Uno para todos」)の4人、ノミネーション発表の最初からカサスかカマラのどちらかと予想しています。ダビ・ビクトリの「No matarás」以外は作品紹介をしているので、公平を期して作品紹介もしておこうとしたら、なんとマリオ・カサスはゴヤ賞は初ノミネートに驚きました。というのもTVシリーズも含めると20年近いキャリアがあり、それも話題作に出演していたからです。本邦でもアクション、スリラーが多いので、映画祭上映、ビデオやDVD、Netflix配信などで知名度があり、当ブログでも度々登場させていたから、受賞は別としてノミネートくらいはあると思っていたのでした。
(マリオ・カサス、「No matarás」から)
★マリオ・カサスは1986年、ガリシア州の県都ア・コルーニャ生れ、5人弟妹の長子、大工だった父親が19歳、母親が17歳のときに生まれた。1994年家族でバルセロナに転居、1995年からスペイン国有鉄道RENFEレンフェのコマーシャルに出演している。本格的に俳優を目指して18歳でマドリードに、演技はアルゼンチン出身の女優が設立したクリスティナ・ロタ演劇学校で学んだ。クリスティナ・ロタはフアン・ディエゴ・ボトー(助演ノミネート)、マリア・ボトーの母親でもある。卒業生にはゴヤ賞2021ノミネートのエルネスト・アルテリオ(主演)のようなアルゼンチン出身者だけでなく、ナタリエ・ポサ(助演)、アルベルト・サン・フアン(助演)、ペネロペ・クルス、エドゥアルド・ノリエガなどがおり、スペイン映画の隆盛に貢献している。
(マラガ映画祭主演男優賞を受賞した「La mula」のポスター)
★ダビ・ビクトリの「No matarás」主演で、ホセ・マリア・フォルケ賞に初ノミネートされましたが、ライバルのハビエル・カマラの手に渡った。現在結果が出ているのはサン・ジョルディ賞(スペイン男優賞)とディアス・デ・シネ賞(スペイン男優賞)の2賞です。今年はコロナ禍で映画賞は軒並みガラ開催が遅れています。ゴヤ賞(3月6日)、フェロス賞(3月2日)、ガウディ賞(3月21日)と大きい映画賞の発表はこれからです。以下に主なフィルモグラフィーを年代順に列挙しておきます。(邦題、原題、監督名、主な受賞歴の順)
2006年「El camino de camino」脇役、アントニオ・バンデラス
2009年『セックスとパーティーと嘘』(『灼熱の肌』「Mentiras y gordas」)群像劇
アルフォンソ・アルバセテ&ダビ・メンケス
マドリード・レズビアン&ゲイ映画祭2009レズゲイ賞、サラゴサFF 2009若い才能賞受賞
2009年「Fuga de cerebros」主役、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ
サラゴサ映画祭2009若い才能賞受賞
2010年「Carne de neón」主役、パコ・カベサス
2010年『空の上3メートル』(「Tres metros sobre el cielo」)主役、
フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ ACE賞2011新人男優賞受賞
2012年『UNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』(「Grupo 7」)脇役、アルベルト・ロドリゲス
フォトグラマス・デ・プラタ賞2013映画部門男優賞受賞
2012年『その愛を走れ』(「Tengo ganas de tí」)主役、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ
2013年「La mula」主役、マイケル・ラドフォード マラガ映画祭2013主演男優賞受賞
2013年『スガラムルディの魔女』(「Las brujas de Zugarramurdi」)
アレックス・デ・ラ・イグレシア フェロス賞2014助演男優賞受賞
2013年「Ismael」マルセロ・ピニェエロ
2015年『チリ33人、希望の軌跡』(「Los 33」)群像劇、パトリシア・リッヘン
2015年『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』(「Mi gran noche」)
アレックス・デ・ラ・イグレシア フェロス賞2016助演男優賞受賞
2015年『ヤシの木に降る雪』(「Palmeras en la nieve」)主役、フェルナンド・G・モリーナ
フォトグラマス・デ・プラタ賞2016映画部門男優賞受賞
2016年『ザ・レイジ 果てしなき怒り』(「Toro」)主役、キケ・マイーリョ
2016年『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(「Contratiempo」)主役、オリオル・パウロ
2017年『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』(「El bar」)群像劇、
アレックス・デ・ラ・イグレシア
2017年『オオカミの皮をまとう男』(「Bajo la piel de lobo」)主役、サム・フエンテス
2018年『マウトハウゼンの写真家』(「El fotógrafo de Mauthausen」)、マル・タルガロナ
2019年「Adiós」パコ・レオン
2020年『その住民たちは』(「Hogar」)脇役、ダビ&アレックス・パストール
2020年『パラメディック――闇の救急救命士』(「El practicante」)主役、カルレス・トラス
ディアス・デ・シネ賞2021スペイン男優賞受賞
2020年「No matarás」省略
*ゴチック体は当ブログに紹介記事があります。ビデオ、短編、TVシリーズは割愛。
*『スガラムルディの魔女』の紹介記事は、コチラ⇒2014年10月12日
*『ザ・レイジ 果てしなき怒り』の紹介記事は、コチラ⇒2016年04月14日
*『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』の記事は、コチラ⇒2017年02月17日/04月14日
*『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』の紹介記事は、コチラ⇒2017年04月04日
*『マウトハウゼンの写真家』の紹介記事は、コチラ⇒2019年03月03日/03月05日
*『その住民たちは』の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月31日
★TVシリーズでお茶の間ファンを獲得、映画デビューはアントニオ・バンデラスの「El camino de camino」に脇役で出演した。これはバンデラス監督と同郷の作家アントニオ・ソレルの同名小説の映画化だった。カサスをスターにしたのは「Mentiras y gordas」でした。お茶の間のアイドル脱出を模索していたときにオファーを受け、結果を出した。邦題は英語タイトルの直訳、原題を直訳すると「嘘っぱちとデブ女たち」になるが、gordaは強めの要素で会話などで使う「まさかそんなこと嘘でしょ」くらいになる。コメディと紹介されることもあるが、それは見た目だけで的外れ、居場所のない孤独と愛を探す若者たちを描いた青春ドラマでした。カサスは好きな親友に愛を告白できないゲイを演じた。本作はアルモドバルのカンヌ映画祭パルムドールにノミネートされた『抱擁のかけら』を抜いて興行成績ナンバーワンになったが、批評家の評価は当然のごとく分かれた。1996年のダニー・ボイルの『トレインスポッティング』が下敷きになっているようです。本作でユアン・マクレガーはスターの座にのしあがった。
(『セックスとパーティーと嘘』から)
★ゴヤ賞関連では、共演者はノミネートされるが、カサス自身は外されることが多く、アルベルト・ロドリゲスの『UNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』で助演男優賞ノミネーションを期待したが、共演者のフリアン・ビジャグランがノミネートされ受賞した。またサム・フエンテス監督のオファーを台本を読まずに話だけでOKした『オオカミの皮をまとう男』でもノミネートがなく、翌年の『マウトハウゼンの写真家』では減量して挑戦したもののまたもや素通り、映画アカデミーから嫌われているのかと思っていた。新作「No matarás」の監督は、マリオ・カサスを念頭において脚本を書いたと語っているが、サム・フエンテスもカサスに惚れ込んで「彼しかこの役はできない」とインタビューに応えていた。以下に新作の紹介をしておきます。
(『UNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』から)
(『マウトハウゼンの写真家』のポスター)
「No matarás」(英題「Cross the Line」)
製作:Castelao Pictures / Castelao Production / Filmax / Movistar+ / RTVE / TV3 他
監督:ダビ・ビクトリ
脚本:ダビ・ビクトリ、ジョルディ・バリェホ、クララ・ビオラ
音楽:フェデリコ・フシド、エイドリアン・フォルケス
撮影:エリアス・M・フェリックス
編集:アルベルト・グティエレス
キャスティング:アレハンドロ・ヒル
プロダクション・デザイン&美術:バルテル・ガジャルト
衣装デザイン:オルガ・ロダル、イランツゥ・カンポス
メイクアップ&ヘアー:ナタリア・アルベール、パトリシア・レイェス、(特殊メイク)ルシア・ソラナ
舞台装置:Thais・カウフマン
プロダクション・マネージメント:エステル・べラスコ、アルフレッド・アベンティン
製作者:ラウラ・フェルナンデス・Brites、(エグゼクティブ)カルロス・フェルナンデス
データ:製作国スペイン、スペイン語・英語、2020年、アクション・スリラー、92分、撮影地バルセロナ、シッチェス映画祭2020(10月10日上映)、公開スペイン10月16日、チリ10月16日(ネット)、アルゼンチン12月1日、ドイツ2月25日(DVD発売3月5日)、他
キャスト:マリオ・カサス(ダニ)、ミレナ・スミット(ミラ)、フェルナンド・バルディビエルソ(レイ)、エリザベス・ラレナ(ラウラ)、ハビエル・ムラ(ベルニ)、アレックス・ムニョス(デルガド)、アンドレウ・Kreutzer(フォルニド)、オスカル・ぺレス(従兄弟)、シャビ・シレス(刑事)、ミゲル・アンヘル・ゴンサレス(物乞い)、アルベルト・グリーン、ヘラルド・オムス(ヘラルド)、シャビ・サエス(ルベン)、ビクトル・ソレ(見張り役)、ミゲル・ボルドイ(ダニの父親)、他
*ゴチック体はゴヤ賞にノミネートされている俳優、新人女優賞、新人男優賞。
ストーリー:ダニはここ数年、病気の父親の介護をしながら旅行会社で働いていた。父親が亡くなると自分の人生を変えようと世界をめぐる旅に出ようと決心する。そんな折も折、セクシーだが精神が不安定なミラという女性と運命の出会いをしてしまう。その夜を境にダニの人生は本物の悪夢と化してしまうだろう。ミラはダニを想像もできない破局に導いていく。本作はもし平凡な人間が誰かを殺すことが可能かどうか考える物騒な映画。
(マリオ・カサス、映画から)
★カサスによると、シナリオを読むなりこのプロジェクトに参加したいと思った。「この役柄を演じられる自信はなかったが、これも挑戦だと魅了された。スリラーが好きなのです」と。監督もカサスについて「脚本は常にマリオを念頭において書きすすめた」と打ち明ける。「マリオの視線を通して、この登場人物を変身させる。観客もこの人物のなかにある真実を体験できるだろう」とコメントしている。
(撮影中の監督とカサス)
★ダビ・ビクトリは1982年バルセロナ生れの監督、脚本家、製作者。スペインと米国で映画を学んだ。2008年短編「Reaccion」でデビュー、同「Zero」(15)がアリカンテのラルファス・デル・ピ映画祭で監督賞と作品第2席を受賞、2018年長編デビュー作「El pacto」は公開された。ベレン・ルエダやダリオ・グランディネッティが出演している。本作は第2作目。
(シッチェス映画祭2020、フォトコール)
(マリオ・カサスとミレナ・スミットに挟まれた監督)
★ゴヤ賞新人女優賞にノミネーションされている、ミレナ・スミットは1996年エルチェ生れ、ホテルのフロントで働いていたところをスカウトされた。未だ24歳だが妖艶な雰囲気があり、もしかすると受賞するかもしれない。次回作はアルモドバルの新作「Madres paralelas」に出演が決まり、既にクランクインしている。共演者はペネロペ・クルスとアイタナ・サンチェス=ヒホン、他にアルモドバル常連のロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ、イスラエル・エレハルデなど賑やかです。ゴヤ賞のライバルは「Ane」のホネ・ラスピウルか。
(ミレナ・スミットとカサス、映画から)
★新人男優賞ノミネーションのフェルナンド・バルディビエルソは、1984年マドリード生れ。2005年短編でデビュー、主にTVシリーズに出演している。2008年イサベル・デ・オカンポのスリラー短編「Miente」でラルファス・デル・ピ映画祭2008男優賞を受賞している。当ブログで作品紹介をしているダニエル・カルパルソロのスリラー「Hasta el cielo」に警官役で出演している。特異な風貌から役柄が限られそうだが、異色の新人として大いに脈がありそうです。
(フェルナンド・バルディビエルソ、シッチェスFFのフォトコール)
ダビ・マルティンのデビュー作 『マリアの旅』*ラテンビート2020 ⑦ ― 2020年10月27日 20:33
ベテラン女優ペトラ・マルティネスを主役に起用した自由への旅
★ラテンビートに新たにドラマ2作が発表になりました。共催作品ではありませんが、両作とも10月31日にオープンするTIFF東京国際映画祭TOKYOプレミア2020部門で上映されます。一つはスペイン映画からダビ・マルティン・デ・ロス・サントスの長編デビュー作『マリアの旅』(「La vida era eso」)、もう一つはポルトガル映画からマリオ・バローゾの『モラル・オーダー』(「Ordem Moral」)です。今回はTIFFがワールド・プレミアの前者のご紹介。監督のダビ・マルティンは短編では国際映画祭の受賞歴が多数あり、デビュー作とはいえ見ごたえのあるドラマになっているようです。
『マリアの旅』(「La vida era eso」英題「Life Was That」)
製作:Lolita Films / Mediaevs / Smiz and Pixel / Canal Sur Televisión / ICAA /
La vida era eso 協賛マドリード市、アルメリア市
監督・脚本:ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス
撮影:サンティアゴ・ラカ(『さよならが言えなくて』『悲しみに、こんにちは』)
編集:ミゲル・ドブラド(『さよならが言えなくて』「La zona」)
美術:ハビエル・チャバリア
キャスティング:トヌチャ・ビダル(『さよならが言えなくて』)
録音:エバ・バリニョ(『悲しみに、こんにちは』「Yuli」)
衣装デザイン:ブビ・エスコバル
メイクアップ:マリア・マヌエラ・クルス
サウンドトラック:”LA VIDA ERA ESO”
フェルナンド・バカス&エストレーリャ・モレンテ曲
エストレーリャ・モレンテ歌
製作者:(エグゼクティブ)ダミアン・パリス、マリア・バロッソ、ホセ・カルロス・コンデ、他
データ:製作国スペイン=ベルギー、スペイン語・フランス語、2020年、ドラマ、109分、撮影地アンダルシア州アルメリアのカボ・デ・ガタ(猫岬)、クランクイン2019年5月26日
映画祭・受賞歴:東京国際映画祭TOKYOプレミア2020部門正式出品(11月6日上映)、第17回セビーリャ・ヨーロッパ映画祭セクション・オフィシアル部門(11月6日~14日)、ラテンビート2020オンライン上映
キャスト:ペトラ・マルティネス(マリア)、アンナ・カスティーリョ(ベロニカ)、ラモン・バレア(マリアの夫ホセ)、フローリン・ピエルジク・Jr.(バルのオーナー、ルカ)、ダニエル・モリリャ(ベロニカの元恋人フアン)、ピラール・ゴメス(美容室経営のコンチ)、マリア・イサベル・ディアス・ラゴ(イロベニー)、アリナ・ナスタセ(クリスティナ)、ジョルディ・ヒメネス(看護師)、クリストフ・ミラバル(マリアの長男ペドロ)、マールテン・ダンネンベルク(同次男フリオ)、他
ストーリー:世代の異なる二人のスペイン女性マリアとベロニカは、ベルギーの病院で偶然同室となる。マリアは若い頃に家族とベルギーに移住してきた。ベロニカは故国では決して手に入れることのできないチャンスを求めて最近来たばかりであった。ここで二人は友情と親密な関係を結んでいくが、ある予期せぬ出来事が、ベロニカのルーツを探す旅にマリアをスペイン南部のアルメリアに誘い出す。それは彼女自身の世界を開くと同時に、人生の信条としてきた確かな土台を揺るがすことにもなるだろう。 (文責:管理人)
(マリア役のペトラ・マルティネス、ベロニカ役のアンナ・カスティーリョ)
自由と欲求に目覚めた女性の未知への遭遇
★監督キャリア&フィルモグラフィー:ダビ・マルティン・デ・ロス・サントスは、監督、脚本家、製作者。短編やドキュメンタリーを手掛け、2004年の短編「Llévame a otro sitio」は、アルメリア短編FFのナショナル・プロダクション賞、ニューヨーク市短編FF観客賞ノミネート、2015年の「Mañana no es otro día」は、アルカラ・デ・エナレス短編FFのマドリード市賞・脚本賞を受賞、続く2016年の短編ドキュメンタリー「23 de mayo」は、メディナ映画祭の作品賞・撮影賞を受賞した。今回の「La vida era eso」が長編映画デビュー作。セビーリャ・ヨーロッパFFの上映日がまだ発表されていないようで東京国際映画祭がワールド・プレミアのようです。スペインはコロナ禍第2波の関係でカナリア諸島を除いて夜間外出禁止のニュースも飛び込んできているので、今後スペインで開催される映画祭の行方が懸念されます。
(短編「Llévame a otro sitio」のポスター)
★本作について、アルメリアのカボ・デ・ガタでクランクインしたときの監督インタビューで「マリアは家族つまり夫や子供たちや両親を優先するような教育を受けた世代に属している。自分自身の欲求は二の次、抑圧されることに甘んじていた。マリアのエロティシズムを目覚めさせることを含めて、観客は自由と友情を通して、マリアの未知への遭遇に沈思するだろう」とコメントしている。さしずめマリアは良妻賢母教育を受けた世代の代表者という設定です。いくつになっても人生の転機はやってくる、勇気をもらいましょう。
(自作を語るダビ・マルティン監督)
(ペトラ・マルティネスとアンナ・カスティーリョと打ち合わせをする監督)
★キャスト紹介:ペトラ・マルティネス(ハエン県リナレス1944)は、舞台、映画、TVの女優。父親がスペイン内戦で共和派で戦ったことで亡命、その後逮捕されてビルバオのタバカレア刑務所に収監された。3歳のときマドリードに移住、16歳のときロンドンに旅行して舞台女優になる決心をする。米国からスペインに移住した劇作家ウィリアム・レイトンが設立したTeatro Estudio de Madrid(TEM)に入学、そこで後に夫となる舞台演出家で俳優のフアン・マルガーリョと知り合う。演劇グループ Tábano に参加、フランコ末期の1970年代は国内では検閲のため上演ができなかったこともあって、米国やヨーロッパ諸国の国際演劇祭に参加している。1985年マルガーリョとUroc Teatro を設立、スペイン国内に限らずヨーロッパやラテンアメリカ諸国を巡業した。フアン・マルガーリョは、俳優としてハビエル・フェセルの『だれもが愛しいチャンピオン』(18)に出演、ゴヤ賞2019助演男優賞にノミネートされている。
(ペトラ・マルティネス)
★映画出演は、公開、TV放映作品ではマテオ・ヒルの長編デビュー作『パズル』(99)、アルモドバルの『バッド・エデュケーション』(04)の母親役、ハイメ・ロサーレスの『ソリチュード~孤独のかけら』(07、スペイン俳優連合主演女優賞)や『ペトラは静かに対峙する』(18)、ジャウマ・バラゲロの『スリーピング・タイト』(11、スペイン俳優連合助演女優賞)など上げられる。未公開作だが代表作に選ばれているのがミゲル・アルバラデホの「Nacidas para sufrir」(09)で、シネマ・ライターズ・サークル賞女優賞を受賞した。一見地味な辛口コメディだが、女性が置かれている社会的地位の低さや男性による不寛容、女性の不屈の精神を描いて訴えるものがあった。これは『マリアの旅』に繋がるものがあり、TIFF のスクリーン上映、並びに LBFF オンライン上映が待たれる。
(「Nacidas para sufrir」のポスター)
★ラテンビートの作品紹介にあるように、もう一人の主役ベロニカ役のアンナ・カスティーリョ(バルセロナ1993)は、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』(16)でゴヤ賞新人女優賞を受賞している。共演のハビエル・グティエレスは「女優になるべくして生まれてきた」と。他にハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシの『ホーリー・キャンプ!』(17)に出演している。両作ともLBFF 上映作品です。
(ゴヤ賞2017新人女優賞のトロフィーを手に喜びのアンナ)
★他に評価の高かったセリア・リコ・クラベリーノの「Viaje al cuarto de una madre」(18)では、ロラ・ドゥエニャスと母娘を演じて成長ぶりを披露した。ガウディ賞、フェロス賞、シネマ・ライターズ・サークル賞の助演女優賞を受賞、ゴヤ賞は逃した。次回作はハイメ・ロサーレスの新作に起用されている。『オリーブの樹は呼んでいる』と「Viaje al cuarto de una madre」の作品紹介でキャリア紹介をしています。共演者にロラ・ドゥエニャスにしろペトラ・マルティネスにしろ、演技派の先輩女優に恵まれている。今後が楽しみな若手女優の一人。
*「Viaje al cuarto de una madre」は、コチラ⇒2019年01月06日
*『オリーブの樹は呼んでいる』は、コチラ⇒2016年07月19日
(ロラ・ドゥエニャスとアンナ、サンセバスチャン映画祭2018にて)
★エグゼクティブ・プロデューサーのダミアン・パリスは、制作会社 Lolita Films をハビエル・レボーリョとロラ・マヨと設立、リノ・エスカレラの『さよならが言えなくて』でASECAN賞2018を受賞、同監督の「Australia」(14分)はゴヤ賞短編ドラマ部門にノミネートされた。ハビエル・レボーリョの「La mujer sin piano」(09、カルメン・マチが主演)や「El muerto y ser feliz」(12、ホセ・サクリスタンが主演)など高評価の作品を手掛けている。
(左から、ダミアン・パリス、ダビ・マルティン、フェルナンド・ヒメネス)
★次回はマリオ・バローゾの『モラル・オーダー』の予定。
受賞結果落穂ひろい*サンセバスチャン映画祭2020 ⑯ ― 2020年09月29日 15:16
ホライズンズ・ラティノ部門の受賞者はメキシコのフェルナンダ・バラデス
★セクション・オフィシアル部門以外のホライズンズ・ラティノ部門、ニューディレクターズ部門、サバルテギ-タバカレラ部門などの受賞者は全員女性監督、メイド・イン・スペイン部門でも触れましたが元気な若い女性たちの受賞が目立ちました。今年はラテンビートもないことだしと勝手に決め、作品紹介が手薄でしたが、なかには受賞作をアップしているのもありました。以下スペイン語映画を中心に受賞結果を羅列しておきました。
◎オリソンテス賞(ホライズンズ・ラティノ部門)
「Sin señas palticulares / Identifying Features」(メキシコ=スペイン)
監督フェルナンダ・バラデス
*他にスペイン協力賞も受賞した。
*作品紹介は、コチラ⇒2020年09月09日
(賞状を披露するフェルナンダ・バラデス)
(英題のポスター)
◎クチャバンク賞(ニューディレクターズ部門)
「La última primavera / Last Days of Spring」(オランダ=スペイン)
監督イサベル・ランベルティ
(トロフィーを手にしたイサベル・ランベルティ)
◎サバルテギ-タバカレラ賞
「A metamorfose dos pássaros / The Metamorphosis of Birds」(ポルトガル)
*ドキュメンター・ドラマ、伝記
監督カタリナ・ヴァスコンセロス
(カタリナ・ヴァスコンセロス)
◎イリサル賞(バスク映画賞)
「Ane / Ane is Missing」(スペイン)
監督ダビ・ペレス・サニュド
*他にバスク脚本賞受賞(マリナ・パレス・プリド、ダビ・ペレス・サニュド)
(賞状を披露するダビ・ペレス・サニュド)
(主役のパトリシア・ロペス・アルナイス)
★他にメイド・イン・スペイン部門で上映されたパウラ・パロメロの「Las niñas / School Giris」がSGAE財団のドゥニア・アヤソ賞、ヴィゴ・モーテンセンのデビュー作「Falling」がセバスティアン観客賞を受賞した。
◎特別栄誉賞シネミラ
★特別賞のシネミラ栄誉賞には、キャスティング・ディレクターのサラ・ビルバトゥア(ギプスコア1958)が受賞した。1990年代から手掛けた映画は、本邦で公開された作品も含めて相当の数にのぼる。例えば、フリオ・メデムの『ルシアとSEX』『アナとオットー』、フアン・カルロス・フレスナディジョの『1億分の1の男』、アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』、ギレルモ・デル・トロの『デビルス・バックボーン』『パンズ・ラビリンス』、カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』『シークレット・ヴォイス』、しばらくTVシリーズに専念していたが映画に戻り、最近カルロス・セデスの「El verano que vivimos」を手掛けた。次回作はイサベル・コイシェの「It Snows in Benidorm」で、イギリスとスペインの個性派をキャスティングしている。プロデューサー同様、縁の下の力持ちのキャスティング・ディレクターに光が当たった。既にマラガ映画祭2013でリカルド・フランコ賞を受賞している。
(トロフィーを手にスピーチするサラ・ビルバトゥア)
★「El verano que vivimos」は、本映画祭では賞に絡まないチャリティー上映でしたが、パートナーになってから初めて共演するブランカ・スアレスとハビエル・レイをキャスティング、他にカルロス・クエバス、シンガーのアレハンドロ・サンス、マリア・ペドラサなど、目下話題の若手を起用した。オープニング・セレモニーには監督以下主演者たちが一堂に会し、その華やかさでコロナ禍吹き飛ばしに一役買った。ワーナーブラザーズで11月6日公開が決定している。オンライン配信を期待しています。
*オープニング・セレモニーの記事は、コチラ⇒2020年09月21日
パスカル・ランベールの「Hermanas」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑬ ― 2020年09月24日 10:53
メイド・イン・スペイン――TVシリーズ「Escenario 0」の第1作「Hermanas」
(イレネ・エスコラルとバルバラ・レニーを配置した「Hermanas」のポスター)
★HBO(Home Box Office)ヨーロッパ製作のTVシリーズ「Escenario 0」(全6作)の第1作パスカル・ランベール&ディエゴ・ポスティゴの「Hermanas」がメイド・イン・スペイン部門で上映されました。フランスはニース生れの劇作家、舞台演出家、監督のランベールは来西しなかったようで、フォトコールに現れた監督はポスティゴだけでした。ポスティゴはブリュッセル生れだがスペインで活躍している。本作はもとはフランスの舞台で演じられていた作品で、スペインではイレネ・エスコラルとバルバラ・レニーが姉妹を演じていた。二人以外の女優も演じているようです。しかしコロナによるパンデミックで劇場が閉鎖され、テレビ化の企画が持ち上がって撮られた。全6作は監督も出演者もそれぞれ異なるが、イレネ・エスコラルは3作に出演している。
(パスカル・ランベールを囲んで)
(イレネ・エスコラルとバルバラ・レニー、「Hermanas」のフォトコール、9月20日)
(マドリードのEl Pavón Kamikaze劇場のポスター、2018年12月)
「Hermanas」(TVシリーズ「Escenario 0」の第1話)
製作:HBO EUROPE
監督:パスカル・ランベール、ディエゴ・ポスティゴ
脚本:パスカル・ランベール
撮影:サンティアゴ・ラカホ
編集:マルタ・ベラスコ
音楽:Sin Música
プロデューサー:ミゲル・サルバト
データ:製作国スペイン、2020年、89分、配給HBO ESPAÑA
キャスト:バルバラ・レニー、イレネ・エスコラル
ストーリー:二人の姉妹のあいだに起きる無数の対立が描かれ、非難と愛を絡ませた冷酷なストーリーが展開される。同じ肉体から発せられる二つの存在のあいだで結束し敵対する。からだをぶつけ合っての死闘。これらの姉妹は私自身の姿であり、我々自身がそれぞれ無数に持っているものである。この無数とは強要、真実、闘いと呼ばれるものである。
★日本で問題化される家族の対立では、姉妹より自分の果たせなかった夢を一人娘に託す母と娘のケースが多い。二人というのは冷静な中立者がいないから社会が成立しない。家族間の対立は狭い密封された空間で起きるから表面化するのに時間がかかる。憎しみと愛が複雑に絡み合ってどうしても深刻化する。夫婦なら別れることも可能だが親子はそう簡単にいかない。両親からも世間からも暗黙のうちに優劣が比較されがちな二人姉妹はこじれると収拾がつかない。3人以上いれば2人が対立しても残る一人が仲介役となる。映画より舞台のほうが面白そうです。
(ぶつかり合う二人の姉妹、バルバラとイレネ)
★姉役のバルバラ・レニー(マドリード1984)は、本邦ではカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』で知名度を上げた女優。マドリード生れだが、両親がアルゼンチンの軍事独裁政権を逃れてスペインに亡命中に生れた。その後、両親と一緒に帰国したので幼少期はアルゼンチンで育った。以前キャリア&フィルモグラフィーを紹介したことがあるので詳細は割愛するが、当時は『マジカル・ガール』で共演したイスラエル・エレハルデが相思相愛のパートナーでしたが、2017年に関係を解消して、現在は共同監督のディエゴ・ポスティゴがパートナー、彼の娘二人とマドリードで暮らしている。
*バルバラ・レニーの主なキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2015年03月27日
★ディエゴ・ポスティゴは、2005年にアントニア・サン・フアンと共同監督した短編「La China」がニューヨークシティ短編映画祭作品賞、パルマ・スプリング短編映画祭審査員賞を受賞、「Run a Way」(12)、「Ruido」(13)などの短編を撮っており、海外での受賞歴多数。2017年二人の娘を残して乳がんで亡くなったビンバ・ボゼーと結婚していた(2006~13)。ローマ生れのモデル出身の女優、スペイン映画に出演している不思議な魅力を放つ女性だった。祖母はフアン・アントニオ・バルデムの『恐怖の逢びき』のヒロインを演じたルチア・ボゼーです。バルバラはポスティゴの家族(娘2人)と一緒に暮らしており、彼のティーンエイジャーになった長女ドラも、最近映画デビューした。
(幸せそうなバルバラとポスティゴ)
(『ペトラは静かに対峙する』のポスターを背に、マドリード公開2018年10月)
★イレネ・エスコラル(マドリード1988)は、女優で最近脚本も執筆する才媛。19世紀から続く舞台俳優の名門一家グティエレス・カバの血を引く。大叔母フリア・グティエレス・カバ、大伯父エミリオ・グティエレス・カバは、共にゴヤ賞やマラガ映画祭の特別栄誉賞の受賞者。祖母イレネも大女優だったが1995年に死去している。映画、TVシリーズ、舞台と引っ張り凧、
*グティエレス・カバ一族の紹介記事は、コチラ⇒2019年03月17日
(左から、大叔父エミリオ、イレネ・エスコラル、大叔母フリア)
(マラガ映画祭2019特別賞受賞の大叔母フリアとイレネ)
★カルロス・サウラやビセンテ・アランダの作品に脇役で出演しはじめ、ホセ・ルイス・クエルダの話題作「Los girasoles ciegos」(07)、アルバロ・フェルナンデス・アルメロのコメディ『迷えるオトナたち』(14、Netflix)、コルド・セラの「Gernika」(16)、イレネが主役を演じたララ・イサギレの「Un otoño sin Berlin」が、サンセバスチャン映画祭2015でイリサル賞を受賞して注目された。翌2016年のゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞の新人女優賞も受賞した。他にNetflix関連ではサム・フエンテスの『オオカミの皮をまとう男』(17)、マテオ・ヒルの『熱力学の法則』(18)などが字幕入りで観ることができる。
*『熱力学の法則』の作品紹介は、コチラ⇒2018年04月02日
★目下の話題作は今年から始まったTVシリーズの「Dime quién soy」(9話)で主役を演じている。またHBO EUROPE製作のTVシリーズ「Escenario 0」では、ナオ・アルベト&マルセル・ボラスの「Mammón」と、カルラ・シモンの「Vania」の2作に出演、バルバラ・レニー他と脚本も共同執筆している。前者にはカルメン・マチやルイス・トサール、後者にはアリアドナ・ヒルやルイス・ベルメホが共演している。
ヴィゴ・モーテンセンにドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2020 ② ― 2020年07月08日 16:57
ヴィゴ・モーテンセンにドノスティア栄誉賞の発表
★去る6月22日、第68回サンセバスチャン映画祭2020(9月18日~26日)の栄誉賞ドノスティア賞の発表がありました。開催自体を危惧してアップしないでおきましたが、どうやら動き出しました。栄誉賞受書者は、最近では複数(2人か3人)が多いので、もう一人くらい選ばれるのではないでしょうか。アメリカの俳優ヴィゴ・モーテンセンは、ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(01~03)のアラゴルン役で多くのファンを獲得しました。アメリカ映画は日本語版ウイキペディアに詳しいので紹介要りませんので、スペイン語映画を中心にアップいたします。当ブログではリサンドロ・アロンソの『約束の地』(14)の劇場公開に合わせて作品&キャリアを紹介しております。
*『約束の地』の記事は、コチラ⇒2015年07月01日
(リサンドロ・アロンソの『約束の地』の原題「Jauja」から)
★本映画祭で初監督作品「Falling」(カナダ=イギリス合作)が上映されます。サンダンス映画祭2020のクロージング作品、カンヌ映画祭2020のコンペティションにも選ばれました。ベテランのランス・ヘンリクセンと彼自身が親子を演じたほか、脚本も自ら執筆した。父と息子の確執、受け入れ、許しが語られるようです。10月2日スペイン公開も予定されています。
(監督デビュー作「Falling」で親子を演じた、ランス・ヘンリクセンとヴィゴ)
★ヴィゴ・モーテンセン、1958年ニューヨークのマンハッタン生れ、俳優、脚本家、詩人、写真家、画家、ミュージシャン、出版社パーシヴァル・プレス(Perseval Presse2002年設立)経営者、今年「Falling」で監督デビューも果たした。父親はデンマーク人の農業経営者、母親は米国人(ヴィゴ11歳のとき離婚、共同親権)、父親の仕事の関係で特に幼少年期にはベネズエラ、アルゼンチンで育ったことからスペイン語が堪能、父親の母語デンマーク語、加えて母親がノルウェー語ができたのでノルウェー語、ほかスウェーデン語、フランス語、イタリア語もできる。
★1985年、ピーター・ウィアーの『刑事ジョン・ブック/目撃者』のアーミッシュ役でスクリーンに本格デビューした。米アカデミー賞主演男優賞ノミネート3回、デヴィッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』(07)、マット・ロスの『はじまりへの旅』(16)、ピーター・ファレリーの『グリーンブック』(18)がある。クローネンバーグとは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)や『危険なメソッド』(11)でもタッグを組んでいる。
(クローネンバーグの『イースタン・プロミス』から)
★スペイン語映画ではアグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)のディエゴ・アラトリステ役、アルゼンチン映画では、双子の兄弟を演じたアナ・ピターバーグの『偽りの人生』(12)、上記のリサンドロ・アロンソの『約束の地』(14、アルゼンチン、デンマーク合作)のグンナー・ディネセン大尉役など。
(ディエゴ・アラトリステ役のヴィゴ・モーテンセン)
★他にショーン・ペーンの初監督作品『インディアン・ランナー』(91)、ブライアン・デ・パルマ『カリートの道』(93)、ジェーン・カンピオン『ある貴婦人の肖像』(96)、リドリー・スコットの『G.I. ジェーン』(97)、エド・ハリスの監督2作目となるウエスタン『アパルーサの決闘』(08)、コーマック・マッカーシーのベストセラー小説をジョン・ヒルコートが映画化した『ザ・ロード』(09)、ブラジル仏合作のウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』(12)、アルベール・カミュの短編の映画化、監督のダヴィド・オールホッフェンが、ヴィゴを念頭において台本を執筆したという『涙するまで、生きる』(14)などなど数えきれない。モーテンセンのような経歴の持主はそうザラにはいないのではないか。
(フランス映画『涙するまで、生きる』のポスター)
★私生活では、12年前から『アラトリステ』で共演したアリアドナ・ヒルとマドリードのダウンタウンに在住している。現在のパートナーに映画同様永遠の愛を捧げているとか。お互い再婚同士、当時アリアドナはダビ・トゥルエバと結婚しており2人の子供もいた。ヴィゴの一人息子ヘンリーはドキュメンタリー作家。またサッカー・ファンでもあり、『約束の地』の脚本家で詩人のファビアン・カサスとクラブチーム「サンロレンソ・デ・アルマグロ」の熱狂的なサポーターである。カサスの詩集を自分が経営するパーシヴァル・プレスから出版したのが縁ということです。
(ヴィゴの息子ヘンリー、ヴィゴ・モーテンセン、アリアドナ・ヒル、
『グリーンブック』で主演男優賞にノミネートされた米アカデミー賞2019の授賞式)
ナタリア・メタの第2作「The Intruder」*ベルリン映画祭2020 ― 2020年02月27日 08:48
ベルリン映画祭2020開幕、アルゼンチンからサイコ・スリラー
★2月9日から始まっていたベネチアのカーニバルが途中で中止になりましたが、2月20日、ベルリン映画祭2020は開幕しました(~3月1日)。ドイツも新型コロナウイルスが無縁というわけではありませんが予定通り開幕しました。ドイツは19日、フランクフルト近郊のハーナウで起きた連続銃乱射事件で8名の犠牲者がでたりと、何やら雲行きがあやしい幕開けでした。天候もあいにくの雨続きのようですが既に折り返し点にきました。
(左から、セシリア・ロス、ナタリア・メタ、エリカ・リバス)
(出演者とメタ監督、ベルリン映画祭2020、フォトコールにて)
★コンペティション部門18作のうち、スペイン語映画はアルゼンチン=メキシコ合作の「El prófugo」(映画祭タイトルは英題「The Intruder」)1作のみです。監督は『ブエノスアイレスの殺人』(ラテンビート2014)のナタリア・メタの第2作目です。ある外傷性の出来事によって現実に起きたことと想像上で起きたことの境界が混乱している女性の物語、悪夢や現実の概念の喪失がテーマのようですが、審査委員長ジェレミー・アイアンズ以下審査員の心を掴むことができるでしょうか、ちょっと難しそうですね。
*『ブエノスアイレスの殺人』の作品&監督紹介は、コチラ⇒2014年09月29日/11月01日
(ナタリア・メタ、プレス会見にて)
「El prófugo」(英題「The Intruder」)2020
製作:Rei Cine / Barraca Producciones / Infinity Hill / Picnic Produccionas / Piano / Telefe
監督・脚本:ナタリア・メタ
原作:C. E.フィーリング「El mal menor」(1996年刊)
撮影:バルバラ・アルバレス
音楽:Luciano Azzigotti
編集:エリアネ・カッツKatz
視覚効果:ハビエル・ブラボ
製作者:ベンハミン・ドメネチ、サンティアゴ・ガジェリGallelli、マティアス・ロベダ、他
データ:製作国アルゼンチン=メキシコ、スペイン語、2020年、サイコ・スリラー、90分、撮影地ブエノスアイレス、メキシコのプラヤ・デル・カルメン、他。ベルリン映画祭2020コンペティション部門でワールド・プレミア。
キャスト:エリカ・リバス(イネス)、セシリア・ロス(母マルタ)、ナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート(アルベルト)、ダニエル・エンドレル(レオポルド)、アグスティン・リッタノ(ネルソン)、ギジェルモ・アレンゴ(マエストロ)、他
ストーリー:女優のイネスは歌手として合唱団で歌っている。パートナーのレオポルドと一緒に出掛けたメキシコ旅行で受けたひどい外傷性の出来事により、現実に起きたことと想像上のことの境界が混乱するようになり、悪夢と日常的に襲ってくる反復的な音に苦しんでいる。イネスはコンサートのリハーサルで若いアルベルトと知り合うまで母親マルタと暮らしていた。彼とは問題なく過ごしているようにみえたが、ある危険な予感から逃れられなかった。夢からやってくるある存在が、彼女の中に永遠に止まりたがっていた。 (文責:管理人)
豪華なキャスト陣を上手く泳がすことができたでしょうか
★主役イネスにエリカ・リバス(ブエノスアイレス1974)は、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)で、結婚式当日に花婿の浮気を知って逆上する花嫁を演じた。若い女性役が多いが実際は既に40代の半ば、銀のコンドル賞(助演『人生スイッチ』、女優賞「La luz inncidente」)、スール賞、クラリン賞、マルティン・フィエロ賞、イベロアメリカ・プラチナ賞などを受賞、映画以外にもTVシリーズ出演は勿論のこと、舞台でも活躍しているベテランです。フォード・コッポラのモノクロ映画『テトロ』(09)、サンティアゴ・ミトレの『サミット』(17)では、リカルド・ダリン扮するアルゼンチン大統領の私設秘書を演じた。2作ともラテンビート映画祭で上映されている。
(母親役のセシリア・ロスとエリカ・リバス、映画から)
★イネスの恋人レオポルドには監督デビューも果たしたダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)が扮した。ウルグアイとアルゼンチンで活躍、『夢のフロリアノポリス』のアナ・カッツ監督と結婚している。アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』(17)他で何回かキャリア紹介をしている。彼も銀のコンドル賞、スール賞以下、アルゼンチンのもらえる賞は全て手にしている。
*キャリア&フィルモグラフィーの紹介は、コチラ⇒2017年02月20日/04月09日
(レオポルド役のダニエル・エンドレル、映画から)
★イネスの新しい恋人アルベルト役のナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート(ブエノスアイレス州1986)は、アルゼンチンとフランスで活躍している(スペイン語表記ナウエル・ペレス・ビスカヤルト)。ロバン・カンピヨの『BPMビート・パー・ミニット』(17)がブレイクしたので、フランスの俳優と思っている人が多いかもしれない。彼自身もセザール賞やルミエール賞の男優賞を受賞したことだし、公開されたアルベール・デュポンテルの『天国でまた会おう』(17)もフランス映画だった。最初は俳優になるつもりではなかったそうですが、2003年アドリアン・カエタノのTVミニシリーズ「Disputas」に17歳でデビュー、2005年にはエドゥアルド・ラスポの「Tatuado」で銀のコンドル新人賞を受賞している。アルゼンチンではTVシリーズ出演がもっぱらだが、トロント映画祭2014年で上映されたルイス・オルテガの「Lulú / Lu-Lu」に主役ルカスを演じた。2016年に公開されるとヒット作となり、彼も銀のコンドル賞にノミネートされた。家庭の愛をうけることなく成長した車椅子のルドミラLudmiraとルカスLucasの物語、タイトルは二人の名前から取られた。
(アルベルト役のナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)
(アルベルトとイネス、映画から)
★ラテンアメリカ映画、特にラプラタ地域では悪夢や分身をテーマにすることは珍しくない。さらに特徴的なのが <移動> した先で事件が起きること。本作でも主人公はアルゼンチンからメキシコに旅行している。資金調達のために合作が当たり前になっているラテンアメリカでは都合がいい。原作はブエノスアイレス市内で起きた事件なのに、舞台をスペイン北部に移してしまう作品だって過去にはあった。賞に絡むことはないかもしれないが、『ブエノスアイレスの殺人』の監督、ナタリア・メタの第2作ということでご紹介しました。
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