オリベル・ラシェのマラガ才能賞ガラ*マラガ映画祭2021 ⑮2021年06月08日 14:23

        オリベル・ラシェ、感謝を込めてガリシアのポピュラーソングを仲間と歌う

       

  

 

★映画祭4日め66日、特別賞の一つマラガ才能賞―マラガ・オピニオンの授賞式がセルバンテス劇場でありました。今年のマラガはレベル1ということで移動が緩和されているせいか、授賞式にはオリベル・ラシェのほか『ファイアー・ウィル・カム』でゴヤ新人女優賞を受賞したベネディクタ・サンチェスも出席、監督に促されてガリシアのポピュラー・ソングに合わせて、カンヌ映画祭でも披露したダンスを踊ったようです。楽器はパンデロという大型のタンバリンのみ、監督と友人ダビデ・サルバドダニエル・パルドのトリオ、アラブの影響を受けている曲ということでガリシア語とアラビア語で歌った。「気分が良くてハッピーだったら、みんなで歌おうよ」、ガリシアの故郷オス・アンカレスからマラガに来る車中でリハーサルしながら来たそうです(一部分ですがYuoTubeで愉しめます。あの物静かなラシェが別人のようです)。ガリシアからアンダルシアという道程は、ほぼスペインを縦断したことになります。

 

       

   (トロフィーを手に受賞スピーチをするオリベル・ラシェ、後方右が友人たち)

  

『ファイアー・ウィル・カム』の監督は、自分の映画は谷間に暮らす人々とその家族から生まれたと吐露しました。「至高を求めて作品を作っています。何故なら私の心底は少しも変わっていないからです。私の第一歩は小さなものでしたが、生命をもっていると思います」、またマラガ映画祭が自分の仕事を評価してくれたことを感謝した。この10年間でたくさんの賞を頂きましたが、いつも同じということではなかった。成功や失敗の概念は時代によって異なっていたからです。自分は常に周辺で暮らす人間だが、マラガに来られて素晴らしかった、とスピーチしたようです。

             

          

       (監督とベネディクタ・サンチェス、マラガFFのフォトコール)

 

 

     多面体のラシェ――映像作家、社会文化活動家、そして農村開発促進者

 

★授賞式に先だって、セルバンテス劇場のロッシーニ・サロンで恒例のミーティングが行われた。インタビュアーのフアン・アントニオ・ビガルは「マラガ才能賞は映画製作に関わる若い才能がこれからも創作活動を続けられるよう後押しする賞」と定義した。流行の言葉で言うなら持続可能な創作への招待状です。オリベル・ラシェがもつ「独特の世界観と、芸術的表現におけるコミットメント」を讃えた。ラシェ監督は現在田舎暮らし、次回作の脚本の完成も終盤に来ている。並行して撮影地探しのためモロッコとモーリタニアを行き来しており、撮影資金を得るためのリストを作り始めたと語った。同時進行でTVシリーズの準備をしており、現在の住居でもある、かつて祖父母が暮らしていた家のあるオス・アンカレスでの撮影が予定されている。

 

★アンカレスの社会文化的なプロジェクトについては、自然、ルーツ、家族の価値観、田舎暮らしのシンプルさが自分の映画にとって重要な要素であり、それとリンクしていること、「私の映画はシンプルさの集合体から生れ、複雑な世界のなかで小さな存在に感じますが、気分は良くなる」、親密な眼差しをもったラシェの仕事は、「自然と結びつきながら円環を閉じることで社会的な証言者の価値」をもっているとインタビュアー、「あなたの映画には、小さなときからアンカレスの野原で遊んでいた少年の雰囲気が残っている」ともビガルは言い添えた。ガジェゴの監督は、自分の映画は小さいときからの美と脆さを捉えようとしている、「自然を観察していると、自分が小さく思える」と応えた。

    

      

   (ビガルのインタビューを受ける監督、セルバンテス劇場のロッシーニ・サロンにて)

 

        「見るひとをその本質と結びつける」物語を語りたい

 

★ラシェは映画は、見るひとを本質的なものと結びつけ、彼らが求める視点を手助けできる物語を語るべきであると考えている。「映像作家の自由は視聴者が最も高く評価する」と強調した。自身を映像作家、風景作家と定義し、映像を心行くまで愉しむこと、反対に疵を引っかくようなことに興味があるとも語った。

 

★ミーティングとは別に多くのメディアからコメントを求められている。どの映画祭もマラガも含めて覇権主義的だが、雨の多い荒々しい北の国から来ると、温暖なマラガは美しく人々がゆったり接してくれるのが気に入ったようです。現在のスペイン映画についての質問には、コメントできない。と言うのも実際にそれほどたくさん観てるわけではないからだと。『ファイアー・ウィル・カム』の成功以来、行く先々で人々から「次回作はどんな映画?」と訊かれるが、「私は監督だったことを忘れていました」と。そろそろキッチンのコンロに火入れをしなければならない時期に来ている。上述したように次回作の脚本は脱稿しているようです。ゆっくりペースの監督、完成するのは何年先かなぁ。下記写真提供のCADENA SERは、マドリードに本部を置くラジオ局。

 

        

      (地中海に臨むグラン・ミラマル・ホテルで寛ぐ監督、CADENA SER提供)

 

監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20210501