アチェロ・マニャスの十年ぶりの新作*マラガ映画祭2020 ⑤ ― 2020年03月26日 14:04
アチェロ・マニャスの新作はブラック・コメディ「Un mundo normal」
★利害が複雑に絡みあってなかなか延期に踏み切れなかったIOCも、どうやら東京オリンピック・パラリンピック延期に舵を切った。安倍総理に下駄を預けたかたちのバッハ会長の狡さが際立った。元来決定権はIOCにあったと考えていたけれど、これじゃ責任転嫁です。中止があり得ないのは、もしそんなことをしたら2028年ロスが最後のオリンピックになってしまう恐れがあるからでしょう。新型コロナウィルスの勢いは増すばかり、ヒト、モノ、カネがストップして世界はマヒ状態、「コロナはアジアの感染症」と高を括っていた、WHOや欧米のリーダーたちの無能ぶりには開いた口が塞がらない。
★さて、第7回イベロアメリカ・プラチナ賞2020のノミネーションが発表になっていますが、ガラがいつ開催されるかは未定です。沈黙していたマラガ映画祭事務局も、MAFIZ(Málaga Festival Industry Zone)2020のMálaga WIP(Málaga Work in Progress)が3月23日からオンラインでの開催を発表した(3月20日)。22作が参加するということです。
(マラガ映画祭2020記者会見のフォトコール、3月3日マドリード)
★気になる監督、アチェロ・マニャスAchero Mañas(Juan Antonio Mañas Amyach)は、1966年マドリード生れの監督、脚本家、俳優。父は劇作家アルフレッド・マニャス、母は女優パロマ・ロレナ、2014年に自伝 ”Como un relámpago”(仮題「稲妻のように」)を出版している。マドリードの下町カラバンチェロで、文学やアート、演劇に囲まれながら育った。高校では絵画を、1984年に家族でニューヨークに移ってからは、Real Stageの演劇科で1年間演技を学んだ。映画界入りは俳優としてスタート、リドリー・スコットの『1492:コロンブス』(92)、カルロス・サウラの『愛よりも非情』(93)、1995年には立て続けに、マヌエル・グティエレス・アラゴンの「El rey del río」、アドルフォ・アリスタラインの「La ley de la frontera」、そしてフアン・セバスティアン・ボリャインの「Belmonte」では、ヘミングウェイを虜にした実在の闘牛士フアン・ベルモンテを演じている。舞台やTVシリーズにも出演しているが、監督デビューしてからは映画出演はない。
(自伝を手にした母親パロマ・ロレナ)
★第4作目となる「Un mundo normal」(20)は、2010年の第3作「Todo lo que tú quieras」以来久々のブラック・コメディです。10年間近く新作を発表しなかったわけで、スペインでも若い人にはよく知られていないかもしれない。2000年に父親の虐待をテーマにした「El Bola」で鮮烈デビューして、翌年のゴヤ賞では新人監督賞とオリジナル脚本賞の2冠、主役のフアン・ホセ・バジェスタが若干13歳で新人男優賞、更に作品賞にも輝いた。憎まれ役の父親にはマヌエル・モロンが扮した。監督が貰える賞のうち、ASECAN、トゥリア、サンジョルディ、スペイン俳優組合など23賞を獲得した。第2作「Noviembre」(03)はトロント映画祭FIPRESCI賞、サンセバスチャン映画祭審査員ユース賞などを受賞している。第2作と3作に母親のパロマ・ロレナが出演している。
(第1作「El Bola」バジェスタを配したポスター)
「Un mundo normal」2020
製作:Tornasol Films / Last Will Producciones Cinematográficas A.I.E. / Sunday Morning Production S.L.
監督・脚本:アチェロ・マニャス
撮影:ダビ・オメデス
音楽:バネッサ・ガルデ
編集:ホセ・マヌエル・ヒメネス
衣装デザイン:クリスティナ・ロドリゲス
メイク&ヘアー:ビセン・ベティ(ヘアー)、アントニア・ぺレス(メイク)、アントニオ・ナランホ(特殊メイク)
製作者:ヘラルド・エレーロ、ペドロ・パストール、(エグゼクティブ)マリエラ・ベスイエフスキー
データ:製作国スペイン、スペイン語、2020年、ブラック・コメディ、103分、撮影地バレンシア州のリィリア、アルプエンテ、アルカセル、他。スペイン公開5月22日予定
映画祭・受賞歴:マラガ映画祭2020セクション・オフィシアル出品
キャスト:エルネスト・アルテリオ(エルネスト)、ガラ・アムヤチ(娘クロエ)、ルス・ディアス(フリア)、パウ・ドゥラ(マックス)、マグイ・ミラ(カロリナ)、オスカル・パストール、アブデラティフ・ウイダルHwidar、ラウラ・マニャス、他
ストーリー:エキセントリックな舞台演出家エルネストの物語。母の訃報を受けたエルネストは帰郷する。セメンテリオに向かう途中、母の遺骨をおさめた柩を盗んでしまう。海に散骨することが母の願いだったからである。娘のクロエは世間の慣習に拘らない父親についていけず疲労困憊している。しかし父との旅のなかで、彼の振る舞いが狂気でないことが分かってくる。父が望んでいることは自分自身に誠実なこと、しばしば世間の常識と異なっていることもあるのだ。
(霊柩車の運転手を追い出して柩を盗んだ父と揉める娘クロエ)
★監督曰く「人はそれぞれ違っている独特な存在。家族との繋がり、そして死による別れがある。私を此の世に連れてきてくれた母へのオマージュ、常識に抵抗するのに必要なのは愛と支えだと気がついた。多くのことが私たちの精神を痛めつけている。そこからフラストレーション、無力感、苛立ち、失望が生み出されている」と。もっと人生は自由であっていいのではないかという提案らしい。もしかしたら母の死が今回の新作の動機の一つだったのかもしれない。
(父エルネストと娘クロエ、映画から)
★主役のエルネスト・アルテリオ(1970)は、ブエノスアイレス出れだが、家族(父エクトル・アルテリオ)と一緒に5歳でスペインに移住している。アレックス・デ・ラ・イグレシアの「Perfectos desconocidos」に、2018年夏別れたフアナ・アコスタと危機に瀕した夫婦役で出演していた。オシドリ夫婦の評判でしたが映画完成後に本当に別れてしまった。キャリア&フィルモグラフィは以下にアップしています。
*エルネスト・アルテリオのフィルモグラフィは、コチラ⇒2018年07月11日
(父エクトルとエルネスト)
★娘クロエを演じたガラ・アムヤチは、映画初出演、まだ情報がない。カロリナ役のマグイ・ミラ(バレンシア1944)はTVシリーズ出演が多いが、ソエ・ベリエトゥアの「En las estrellas」(18)に出ている。アレックス・デ・ラ・イグレシアとカロリナ・バングが製作を手掛けているせいか、『パパと見た星』の邦題でNetflixで配信されている。フリア役のルス・ディアス(カンタブリア1975)は、ラウル・アレバロの『物静かな男の復讐』に出演、ベネチア映画祭2016「オリゾンティ部門」の女優賞を受賞している。短編を撮るなど監督デビューもしている。
*ルス・ディアスの紹介記事は、コチラ⇒2017年01月09日
(ルス・ディアス)
★強力な3人のベテラン製作者ヘラルド・エレーロ、ペドロ・パストール、マリエラ・ベスイエフスキーは制作会社Tornasol Films に所属している。字幕入りで最近観られた作品のなかで、受賞歴の多いヒット作、『瞳の奥の秘密』、『ゴッド・セイブ・アス~マドリード連続老女強姦事件』、『12年の長い夜』などを手掛けている。
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