コスタ・ガヴラスに栄誉賞ドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ㉔ ― 2019年09月25日 16:04
コスタ・ガヴラスのスピーチはスペイン語、短くてエモーショナル

★9月21日ビクトリア・エウヘニア劇場で、コスタ・ガヴラスがドノスティア賞のトロフィーを本映画祭の総指揮者ホセ・ルイス・レボルディノスから受け取りました。レボルディノスより監督のキャリア紹介があり、その後代表作がメモランダムにスクリーンに映し出されました。初期の三部作『Z』、『告白』、『戒厳令』の他、『ミッシング』、『マッド・シティ』、『ザ・キャピタル マネーにとりつかれた男』(2012年の金貝賞受賞作品)、『ホロコースト―アドルフ・ヒトラーの洗礼―』、『ミュージックボックス』など公開作品の多くが現れ、トロフィーに値するシネアストの感を深くしました。

(ホセ・ルイス・レボルディノスからトロフィーを受け取るコスタ・ガヴラス、9月21日)
★登場したコスタ・ガヴラスのスピーチは、短かっただけでなくエモーショナルで、これぞ受賞スピーチのお手本と感じいりました。監督はスペイン語も流暢ですから、スピーチが短かったのはスペイン語だったからではないのでした。舞台には授与式のあと特別上映される「Adults in the Room」(仏=ギリシャ)に出演のヴァレリア・ゴリノ他2人も登壇、それぞれ簡単なスピーチをしました。彼女はイタリア女優ですが、母親がギリシャ人でアテネとナポリで育ったからギリシャ語も堪能です。本作は終了したばかりのベネチア映画祭のコンペティション外で既にワールド・プレミアされています。

(コスタ・ガヴラスとヴァレリア・ゴリノ)
★監督が初めてギリシャ語で撮った「Adults in the Room」は、いわゆる「現代のギリシャ悲劇」と称されたギリシャ金融危機2015を乗り切った、当時の元財務大臣ヤニス・バルファキスの回想録「Adults in the Room: My Battle With Europe’s Deep Establishment」*がベースになって映画化された。欧州連合の債務に抵抗したギリシャの人々の半年間の闘いの記録。フランスで故国の窮状をニュースで知るにつけ構想を固めていった。原作は『黒い匣 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命』として翻訳書が刊行されている(明石書店、2019年4月20日刊)。

(新作「Adults in the Room」から)
★ドノスティア賞授賞式数時間前にエル・パイス紙のインタビューに語ったところによると、監督を魅了したのは、バルファキスの不屈のレジスタンス精神だったと語っている。「バルファキスは英雄ではなく、抵抗する人です。それが私を魅了しました。人生で最も重要なのは抵抗です。それは自身を社会を変える唯一の方法だからです。抵抗するには常にそれなりの根拠があるのです」と。当時のIMF専務理事クリスティーヌ・ラガルドの発言「この部屋に必要なのは大人です」がヒントになったそうです。それも男性だけでなくより多くの大人の女性たちが権力の中枢に入ることが唯一の希望だと付け足した。

(新作のインタビューに応えるコスタ・ガヴラス、サンセバスチャン映画祭2019)
★映画は殆ど不安が支配しており、現代のギリシャ悲劇そのもの、数人の政治家、それを支える権力のある組織、資本家が数百万のギリシャ国民の希望を打ち砕いた。ここ数年間で約50万人が故国を離れた。「政治家は恐怖に目覚めたが、彼らは国民が求めたものに応えられなかった。しかし私たちにもこのような危機を出来させた責任がある。彼らが真実を知らせたら、私たちは彼らに投票しない。私たちも甘い白鳥の歌を常に聴きたがっているからです」と残念がる。現実に目をふさぎ、耳に心地よい話ばかりを聞きたがった国民にも責任の一端がある。現在は右も左も道に迷っており方向が見えない。「常に事実は知らせるべきだが、変革には責任と長い痛みをともなうこともはっきり言うべきです」と。10月18日スペイン公開が決定している。
*キャリア&フィルモグラフィー、「Adults in the Room」の記事は、コチラ⇒2019年08月25日
最近のコメント