コスタ・ガヴラスにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ⑮ ― 2019年08月25日 15:37
パルム・ドール、金熊賞、金貝賞を受賞した監督にドノスティア賞
★9月19日、一人目のペネロペ・クルスに続いて、ギリシャ出身だがフランスで活動している監督コスタ・ガヴラスにサンセバスチャン映画祭の栄誉賞ドノスティア賞が贈られることがアナウンスされました。初期のイヴ・モンタンを起用して撮った『Z』(69)、『告白』(70)、『戒厳令』(72)の三部作をリアルタイムで観たオールドファン、『ミッシング』(82)を皮切りに『マッド・シティ』(97)などを堪能したハリウッド映画ファン、またはフランス映画祭で上映された『斧』や『西のエデン』で初めてガヴラス映画を観た若いファンにも嬉しいニュースに違いない。因みにフランス映画『ザ・キャピタル マネーにとりつかれた男』(12)は、第60回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2012の金貝賞受賞作品でした。
(三部作の1作目『Z』のポスター)
★授賞式は9月21日、ビクトリア・エウヘニア劇場で、当日には新作「Adults in the Room」(19、フランス=ギリシャ、言語は英語・ギリシャ語)の特別上映があります。ギリシャ出身の監督が初めてギリシャ語で撮った作品ということです。本作は「ギリシャ危機2015」当時、チプラス政権の財務大臣(任期1月21日~7月6日)だったヤニス・バルファキスの回想録「Adults in the Room: My Battle With Europe’s Deep Establishment」(2017年刊)がベースになっている。同年チューリッヒで舞台化されているそうです。8月31日、ベネチア映画祭でワールド・プレミアされ、本映画祭上映後、9月29日にギリシャで公開される予定。
(新作「Adults in the Room」から)
★ベネチア映画祭では新作「Adults in the Room」が上映されるだけでなく、野心的な作品を撮り続けている監督に贈られる「監督・ばんざい!賞」も授与されます。「人は決して生まれた国を忘れません。特にギリシャのような国ではそうです。そこから逃げてきたのは、私のような社会階級の若者には神政デモクラシーの服従しかなかったからです」と、22歳でパリに脱出した当時を語った監督、ギリシャ経済危機をテーマに再び自分の激情を表現するために故国に戻ってきた。新作はギリシャ語で撮る最初の作品になる。今年86歳になったガヴラスは、2018年8月30日、AP通信が死亡説を流して大騒ぎになったが、実は本作製作中だったのでした。
(「Adults in the Room」撮影中の監督とバルファキス財務大臣役のクリストス・ロウリス)
★コスタ・ガヴラス(ルトラ・イレアス1933、国籍ギリシャ、フランス)については、日本版ウィキペディアで主な作品は紹介されているので、キャリアは改めてご紹介するまでもありませんが、なかで当ブログと関係深いのが三部作の一つ、1970年のウルグアイの首都モンテビデオを舞台にした『戒厳令』(仏伊合作)です。本作はイタリア系アメリカ人ダン・アンソニー・ミトリオンが、都市ゲリラグループ「トゥパマロス」に誘拐され、最終的には殺害されるという実際にあった事件がモデルになっています。フランスのルイ・デリュック受賞作品。
★映画ではミトリオンは技師フィリップ・マイケル・サントーレとなり、シャンソン歌手として成功していたイヴ・モンタンが扮した。一人の新聞記者がこの事件を調査する課程で、サントーレが技師ではなく、南米の赤化を食い止めるためウルグアイの公安当局に派遣された、元CIAの諜報員であったことが分かってくる。当時はウルグアイだけでなく、アメリカの裏庭と称された南米諸国には、左翼弾圧を目的に送り込まれてくるCIAメンバーは、アルゼンチン、チリ他、南米全体に及んでいた。彼らはビジネスマンや技術者、領事館職員など仮の姿で入国、思想教育やベトナム戦争で培った拷問のノウハウを伝授したりした。これは後の歴史が証明していることです。世界は米ソ冷戦時代真っただ中だったのです。
*「トゥパマロス」については、アルバロ・ブレッヒナーの『12年の長い夜』で紹介しています。
(イヴ・モンタンと目出し帽を被ったトゥパマロスのメンバー、映画から)
★もう一つが、アメリカ映画界の足掛かりを掴んだ最初の英語作品、ジャック・レモンを主役に撮った、政治スリラー『ミッシング』(米仏合作)です。1973年9月11日、ピノチェトによって起されたチリの軍事クーデタのさなか行方不明になったチリ在住のアメリカ人チャールズ・ホーマン失踪事件を描いている。トマス・ハウザーの「The Execution of Chales Homan: An American Sacrifice」(1978年刊)の映画化。ジャック・レモンはチャールズの父親に扮した。シシー・スペイセクが義父と一緒にチャールズ捜索をする妻を演じた。カンヌ映画祭1982のパルム・ドール、ジャック・レモンが男優賞を受賞した他、翌年のアカデミー賞では脚色賞を受賞した。
(『ミッシング』のポスター、主演のジャック・レモンとシシー・スペイセク)
★1989年には『ミュージックボックス』(89、米)が第40回ベルリン映画祭の金熊賞を受賞した。1989年11月にベルリンの壁が崩壊した後に開催された最初の映画祭でした。ハンガリーのユダヤ人虐殺をテーマにした法廷ドラマ、ユダヤ人虐殺犯の容疑をかけられたハンガリー移民の父を弁護するため立ち上がった娘が見た真実とは、果たして父は有罪なのか無罪なのか、二転三転するスリリングなストーリー、弁護士の娘にジェシカ・ラングが扮してアカデミー主演女優賞にノミネートされた。ミュージックボックスとは決め手となるオルゴールから付けられた。
★また劇場未公開ながら人気ランキング上位なのが「Amen.」(02、仏独米ルーマニア合作)、邦題は『ホロコースト―アドルフ・ヒトラーの洗礼―』と非常に長いタイトルが付けられた。ナチズムが吹き荒れた時代のヴァチカンの沈黙がテーマでした。ポーランドのトレブリンカ絶滅収容所での大量虐殺を幇助したクルト・ゲルシュタインにウルリッヒ・トゥクルを起用した。何度もTV放映されているからご覧になった方が多いと思います。
(撮影中の左から、監督、マチュー・カソヴィッツ、ウルリッヒ・トゥクル)
★1998年、長年の業績に対してルネ・クレール賞。1982年から87年までと、2007年以降シネマテーク・フランセーズの理事長を務めている。
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