イベロアメリカ「金のビスナガ」受賞作品*マラガ映画祭2019 ⑭2019年04月14日 14:31

      メキシコを襲った経済危機をバックに上流階級の女性たちのカオスを描く

 

   

      

★イベロアメリカ諸国で製作された映画に贈られる「金のビスナガ」賞は、メキシコのアレハンドラ・マルケス・アベジャの第2Las niñas bienが受賞した。トロント映画祭2018でプレミアされて以来、国際映画祭での受賞歴をもつコメディ、何かの賞に絡むとは思っていましたが、金のビスナガは想定外でした。他に脚本賞・編集賞3冠、少し意外でした。サン・ルイス・ポトシ生れだがメキシコ・シティで育った。バルセロナのカタルーニャ映画スタジオ・センターの映画監督科で学ぶ。監督紹介によれば、2009年に撮った短編5 recuerdos」が140ヵ所の国際映画祭で上映されたとある。映画祭の多さにはあきれるばかりですが、2015年長編デビュー作Semana Santaがトロント映画祭に出品、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト映画祭)やカルロヴィ・ヴァリ映画祭でも上映された。

 

       

           (自作を語るアレハンドラ・マルケス・アベジャ)

 

★メキシコ公開日(322日)と重なったことから残念ながら来マラガはなく、上映後のプレス会見も検索できなかった。脚本賞のプレゼンターは、今回リカルド・フランコ賞を受賞した脚本家のラファエル・コボスであったが、マルケス・アベジャはビデオ参加にとどまった。

 

       

 (ビデオ参加のアレハンドラ・マルケス・アベジャ、右端にラファエル・コボス、ガラにて)

  

 

Las niñas bien(「The Good Girls」)

製作:Woo Films / LATAM & North America Distribution / Cinepolis

監督・脚本:アレハンドラ・マルケス・アベジャ

   原作グアダルーペ・ロアエサの同名小説

撮影:ダリエラ・ルドロー

編集:ミゲル・シュアードフィンガー

音楽:トマス・バレイロ

美術:クラウディオ・ラミレス・カステリ 

製作者:ロドリゴ・ゴンサレス、ラファエル・レイ、ガブリエラ・マイレ、マリア・コルドバ

 

データ:製作国メキシコ、スペイン語、2018年、コメディ・ドラマ、93分、公開メキシコ322

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2018、ローマ、シカゴ、モレリア、テッサロニキ、ストックホルム、マラケシュ、マカオ(観客賞)、ハバナ(女優賞イルセ・サラス)以上2018年開催。パームスプリングス映画祭2019Directors to Watch)、マラガ(作品賞・脚本賞・編集賞)、D'A映画祭、他

 

キャスト:イルセ・サラス(ソフィア)、フラビオ・メディナ(ソフィアの夫フェルナンド)、カサンドラ・シアンヘロッティ(アレハンドラ)、パウリナ・ガイタン(アナ・パウラ)、ヨハンナ・ムリージョ(イネス)、ヒメナ・ゲーラ(クリスティナ)、アナ・ホセ・アルドレテ(ロレナ)、パブロ・チェモル(ダニエル)、クラウディア・ロボ(マリルス)、ダニエル・アダッドHaddad(ベト)、アレハンドラ・マルドナド、ディエゴ・ハウレギ(ハビエル)、レベッカ・デ・アルバ(同)、ガブリエル・ヌンシオ、他多数

 

       

       (4人の良家の子女、ソフィア、アレハンドラ、アナ・パウラ、イネス)

 

ストーリー:時はホセ・ロペス・ポルティージョ政権の1982年、メキシコは重大な経済危機に陥っていた。想像だにしたこともない社会崩壊が起きるまで、ソフィアは魅力にあふれ、その上品さにおいても完璧な女性、友人グループのリーダー的存在だった。ソフィアは体面を保とうと腐心するが、夫の負債、世間の中傷に晒される。彼女の精神的ダメージは避けられず、金の切れ目は縁の切れ目であることに気づく。ソフィアを中心に社会的ピラミッドの頂点に立つ4人の女性たち、アレハンドラ、イネス、アナ・パウラが辿る救済ではなく成熟への旅が語られる。 (文責:管理人)

 

          

        (誕生会のドレスを綿密に点検するソフィア、冒頭シーンから)

 

 

      グアダルーペ・ロアエサの同名小説「良家の子女」をベースにして製作された

 

1987年に刊行されたグアダルーペ・ロアエサの小説「Las niñas bien」がベースになっている。作家によると「脚本にはタッチしていないが、私の小説の映画化では最もよくできている。セリフも衣装も当時の雰囲気を上手く再現できている。映画に登場する宝石類は、友人のデザイナーダニエル・エスピノサが制作したコレクションから提供されたものです」と語っている。

 

     

(メキシコのオープニングに駆けつけた作家ロアエサとデザイナーのエスピノサ、322日)

 

      

  (監督、原作者、パウリナ・ガイタン、カサンドラ・シアンヘロッティ、イルセ・サラス

 

<niñas bien>というのは、日本語の「良家の子女」に当たるだろうか。経済的に恵まれた上流階級の娘たちで、子供時代は祖母や母親から躾けられ、文化や伝統が優先される家庭環境で過ごしている。お金は天から降ってくるのであるから心配する必要がないはずだが実はそうではなかった。ヒロインのソフィアは、夫がどうやってお金を稼いでいるか知らないし知ろうともしない。興味があるのは自分たちエリート階級の特権的な生活を楽しむことである。お金を失うと、金持ちは何を失うのでしょうか。銀食器、シャネルのバッグ、ディオールのドレス、ジュエリー、シャンパン、エトセトラ。この映画は社会的不平等を批判的に見ているが告発しているのではなく、エリートが失う特権は何かを探す映画である。

 

   

      (豪華なジュエリー、シャンパン、贅沢は永遠に続くと思っていたソフィア)

      

      

 (ソフィアと夫のフェルナンデス)

   

1981年の石油価格の暴落が引き金となって、メキシコ・ペソは大暴落、海外の銀行は融資を拒絶する。翌年8月、ロペス・ポルティージョ大統領は利払いの一時停止を宣言するが時すでに遅し、国民は急激なインフレと失業の増大に苦しむことになる。階級差別と不平等が根づいた時代が背景になっている。「何が起ころうがメキシコは変わらない。そういうことを気づかせるために年代物の映画を作っている。この分析で分かったことは、自分が抑圧される代わりに抑圧者となることができるなら直ちにチャンスを掴むべきだという権力の理想がまだ浸透していないということだった」と監督。

 

★メキシコの階級主義は常に身近にあるが、現在では面と向かい合ってと同じくらいネットワーク上での関心が高まってきている。2018年総領選挙ではメキシコをこき下ろす隣国大統領に怒りが集中、「反トランプ」に掻き立てられた国民が団結して、新興左派政党を勝利させ、新大統領ロペス・オブラドールは得票率53%の歴史的勝利をおさめた。しかしこの政権交代の流れは欧米が望む左派政党の退潮の維持と矛盾している。階級主義と不平等は現在でも80年代と変わらずメキシコに根づいてしまっているが、映画も政治に無関心ではいられない。

 

★ソフィアを演じたイルセ・サラスは、1981年メキシコ・シティ生れ、映画、TV、舞台で活躍。国立演劇学校で演技を学んだ。舞台やTVシリーズ出演後、アントニオ・セラノ・アルグエジェスの「Hidalgo, La historia jamás contada」(10)のオーディションを受け映画デビューする。続いてセバスティアン・デル・アモの「Cantinflas」や本邦でも話題になったアロンソ・ルイスパラシオスがモノクロで撮ったデビュー作『グエロス』と第2作「Museo」に出演している。ロベルト・スネイデルの「Me estás matando Susana」には、G.G.ガエルと共演している。NetflixオリジナルのTVシリーズ「Historia de un criman: Colosio」(7話)が、『コロシオ 犯罪アンソロジー大統領候補の暗殺』という邦題で322日から配信されている。1994年にティフアナで起きたコロシオ暗殺事件をベースにした犯罪ドラマ。サラスはコロシオの妻ディアナ・ラウラを演じている。アロンソ・ルイスパラシオス監督とのあいだに2児、母親業も楽しんでいる。メキシコに根をおろしてしまった社会問題の解決を目指す文化芸術グループに参加している、物言う女優の一人でもある。

『グエロス』の作品紹介は、コチラ20141003

Museo」の作品紹介は、コチラ20180219

Me estás matando Susana」の作品紹介は、コチラ20160322

 

       

   (不治の病と闘っている大統領候補者の妻に扮したイルセ・サラス、TVシリーズから)

 

★アナ・パウラ役のパウリナ・ガイタン(メキシコ・シティ1992)は、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』で意志の強い女性を演じて好評だった。アレハンドラ役のカサンドラ・シアンヘロッティ(メキシコ・シティ1987)は、映画やTVシリーズのほか舞台女優としても活躍、サラス同様「Cantinflas」のほか、イシアル・ボリャインの『雨さえも、ボリビアの熱い一日』に出演している。イネス役のヨハンナ・ムリジョは、TVシリーズ出演が多く舞台でも活躍しているせいか、本邦公開作品は見つからなかった。映画ではディエゴ・ルナのロード・ムービー「Sr. Pig」に脇役ながら出演のほか、まだ未公開だが Axel Muños ムニョスの「Noches De Julio」では主役に起用されている。

『闇の列車、光の旅』の作品紹介は、コチラ20131110

 

★次回は、審査員特別賞のアリ・サマEsto no es Berlínを予定しています。こちらも1980年代のメキシコが舞台のようです。当時のメキシコ人の憧れの地は、ロンドンかベルリンだったそうです。

    

追加情報:『グッド・ワイフ』の邦題で2020年07月10日に劇場公開されました。


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