新年のご挨拶*2019年元旦 ― 2019年01月01日 14:45
明けましておめでとうございます 今年はどんな映画が見られるの?
★慌ただしい年末に更新もままならず、積み残しをしたまま年が明けてしまいました。去る12月28日からアルバロ・ブレッヒナーの「La noche de 12 años」が『12年の長い夜』の邦題でNetflix配信が開始されました。サプライズと喜んでいいのかどうか複雑な心境ですが、さっそく見てしまいました。本作はベネチア映画祭のコンペティション外で上映後、サンセバスチャン映画祭でもエントリー、ゴヤ賞2019イベロアメリカ映画賞ノミネーション、当ブログではかなり詳しくご紹介してきました。大筋で齟齬はきたさなかったと思いますが、書き足したいこともあり後日アップしたい。地味な映画ですがウルグアイ現代史に止まらずラテンアメリカ史を知る上での情報が詰まった作品です。ウルグアイ前大統領ムヒカ役のアントニオ・デ・ラ・トーレは本作で助演男優賞、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」で主演男優賞とダブルノミネート、一ファンとしても今回はぜひ受賞して欲しい。
*「La noche de 12 años」の紹介記事は、コチラ⇒2018年08月27日
(『12年の長い夜』撮影中の監督とアントニオ・デ・ラ・トーレ)
★『12年の長い夜』はゴヤ賞2019イベロアメリカ映画賞にもノミネートされておりますが、受賞はアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』にほぼ決定でしょうか。2作とも一見すると無関係なテーマに思えますが、深いところで繋がっており、現在のラテンアメリカ諸国が抱えている暗部にメスを入れたことでは、甲乙つけがたいと感じました。どちらもNetflixプレゼンツなのが気になります。キュアロンは「私が大好きな映画の多くは、大画面で見たことがない」と語っていたが、Netflixを受け入れた背景には、このような思いがあるのかもしれません。見たい映画が公開されず、年々街から映画館が消えつつある現代、映画館で映画を見るのは難しくなっている。
(『ROMA/ローマ』のポスター)
★ゴヤ賞にノミネートされている作品賞5作品、イベロアメリカ映画賞4作品は既にご紹介済みなので、新人監督賞のうち未紹介作品&監督紹介から今年は出発したい。次回は将来が楽しみなセリア・リコ・クラベリーノの「Viaje al cuarto de una madre」から、キャストは母親にロラ・ドゥエニャス(主演女優賞候補)、娘にアンナ・カスティーリョ(助演女優賞候補)が扮します。
(ロラ・ドゥエニャスとアンナ・カスティーリョ、「Viaje al cuarto de una madre」から)
新人監督賞セリア・リコ・クラベリーノのデビュー作*ゴヤ賞2019 ④ ― 2019年01月06日 20:49
セリア・リコのデビュー作「Viaje al cuarto de una madre」
★今年のゴヤ新人監督賞は、ノミネーション4作のうち女性監督が3人という珍しい女性対決の年になっています。女性監督が複数の年は第22回(08)のイシアル・ボリャインとグラシア・ケレヘタの1回のみでしょうか。今回のように3人は記憶にありません。そもそも女性監督の受賞は1997年の第11回が最初で、今は亡きピラール・ミロの『愛は奪う』でした。その後第18回には『テイク・マイ・アイズ』のイシアル・ボリャイン、「La suerte dormida」の新人アンヘレス・ゴンサレス=シンデと女性監督がダブルで受賞する異例の年になりました。続いて『あなたになら言える秘密のこと』のイサベル・コイシェ(20回、英語)、『家族との3日間』のマル・コル(24回、新人、カタルーニャ語)と、昨年はコイシェが再び英語で撮った「The Bookshop」が作品・監督・脚色の3賞をゲット、新人カルラ・シモンがカタルーニャ語で撮った『悲しみに、こんにちは』も受賞、確実に女性が認められる時代になってきています。
★ラテンビート上映の『カルメン&ロラ』のアランチャ・エチェバリア、「Sin fin」のホセ&セサル・エステバン・アレンダ兄弟は紹介済み、残る2作のうち始めにセリア・リコ・クラベリーノの「Viaje al cuarto de una madre」からご紹介したい。サンセバスチャン映画祭2018「ニューディレクターズ」部門正式出品、ユース賞・審査員スペシャルメンション・批評家連盟賞受賞作品、かつては「貧乏人の子沢山」が一般的だったスペインでも少子化が進み、家族、特に親子の関係の在り方が難しくなってきている。離れたいが離れられない母と娘の物語。
「Viaje al cuarto de una madre」(「Journey to a Mother's Room」)
製作:Amorós Producciones / Arcadia Motion Pictures / Sisifo Films AIE / (共)Pecado Films / Noodles Production(仏)/ 協賛Canal Sur Televición / TVE / Movistar+ / ICAA / アンダルシア評議会、他
監督・脚本・製作:セリア・リコ・クラベリーノ
撮影:サンティアゴ・ラカ
編集:フェルナンド・フランコ
美術:ミレイア・カルレス
録音:アマンダ・ビリャビエハ、アルベルト・マネラ
衣装デザイン:Vinyet Escobar エスコバル
キャスティング:ロサ・エステベス
製作者:ジョセップ・アモロス、イボン・コルメンサナ、(以下エグゼクティブ)アンヘル・ドゥランデス、イグナシ・エスタペ、マル・メディル、サンドラ・タピア、他
データ:スペイン、スペイン語、2018年、ドラマ、90分、スペイン公開2018年10月5日
映画祭・映画賞:サンセバスチャン映画祭2018「ニューディレクターズ」部門(9月24日上映)、ユース賞・審査員スペシャルメンション・批評家連盟賞受賞、ロンドン映画祭、ワルシャワ映画祭、モンペリエ地中海映画祭、トゥールーズ・シネエスパーニャ映画祭、ヒホン映画祭、ウエルバ映画祭、アルメリア映画祭、他フェロス賞2019(作品・脚本・主演ロラ・ドゥエニャス、助演アンナ・カスティーリョ)、ガウディ賞(監督・脚本・主演女優・助演女優・美術・録音・衣装デザイン・カタルーニャ語以外作品賞)、ゴヤ賞(新人監督・編集・主演女優・助演女優)各ノミネーション。
キャスト:ロラ・ドゥエニャス(母エストレーリャ)、アンナ・カスティーリョ(レオノル)、ペドロ・カサブランク(ミゲル)、アデルファ・カルボ(ピリ)、マリソル・メンブリージョ(アゲダ)、スサナ・アバイトゥア(ラウラ)、シルビア・カサノバ(ロサ)、アナ・メナ(ベア)、マイカ・バロッソ(メルチェ)、ルシア・ムニョス・ドゥラン(ロシータ)、ノエミ・ホッパー(アンドレア)ほか
ストーリー:家を出る時期だったのだが、レオノルは迷っていた。母を一人置いていく決心がつかないのだ。出ていくことを母が望んでいないからだ。しかしエストレーリャは娘を引き留めることはできないと分かっていた。母と娘は共に不安定なまま人生の岐路に立っていたが、互いに分かれて暮らせるだろうか。離れることができるかどうかは愛が証明するだろう。
(母エストレーリャと娘レオノル)
★セリア・リコ・クラベリーノ(クラベジーノ)Celia Rico Clavellino、1982年セビーリャ生れ、監督・脚本家・製作者・女優と幾つもの顔をもつ。セビーリャ大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科卒、バルセロナ大学で文学理論、比較文学を専攻、その後、映画文献調査、分析、脚本編集、オーディオビジュアル制作を学ぶ。現在Amorós Produccionesや Arcadia Motion Picturesのようなさまざまな制作会社で仕事をしているほか、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』(12)のキャスティング、ホセ・ルイス・ゲリンの『ゲスト』にも参加している。
(ゴヤ賞新人監督賞ノミネーションのセリア・リコ・クラベリーノ監督)
★2012年に短編「Luisa no está en casa」で監督デビュー、この短編が本作の土台になっている。同年アントニオ・チャバリアスのホラー『フリア、よみがえり少女』にセリア・リコとして出演、2016年、ポル・ロドリゲスのコメディ「Quatretondeta」の脚本執筆など。
(本作の土台となった短編「Luisa no está en casa」のポスター)
★撮影は監督のホームグラウンドであるセビーリャのコンスタンティナという町で、それも監督の実家に主演のロラ・ドゥエニャスとアンナ・カスティーリョを両親と同居させて撮ったそうです。「仕事がやりやすいと同時に自分を奮起させるような地元で撮ろうと決めていた。私の母は裁縫師でロラ(ドゥエニャス)に裁縫を教えるのにも都合よかった。母の部屋を舞台にしたので、みんなで撮影が終了するまで同居したのです。こんな経緯で映画を完成させたのです。それでこの映画が私の人生と深いところで融合していたことに後で気づいたのです」と監督。しかしアンダルシアに典型的な色調、白壁の家並みはほんの少ししかスクリーンに現れない。特に冬だと消えてしまう。
(セビーリャから北方87キロにある冬のコンスタンティナ)
★「手工芸的な映画を作りたかった」と監督、しかし人生は複雑で、「今になればはっきりするけれど、撮影中はエモーショナルな負担に気づかなかった」とも。人口7000人未満の小さな町で撮影するとなれば、お祭り騒ぎになるのは必然だから「自分を部屋に閉じ込め思索する場所を見失った」と語っている。物語は母の視点と娘の視点から構成されており、観客は二つの視点の間で揺れながら平衡を保たねばならない。一方だけを追っていると迷子になってしまうようだ。「娘が工場でアイロンがけしているときでも、背後に母親の存在があり、母親がベッドメーキングしているときでも、ドア越しに娘のベッドを見ている」。
(ゴヤ賞助演助演女優賞ノミネーションのアンナ・カスティーリョ)
★この映画は社会的な問題提起をしているわけではないが、監督のカメラが街路を映しだすとき、スペインの現実が描かれる。「私は子供のときから母親のミシンの音を聞きながら育った。想像することへの私のパッションは、母親が洋裁しているときの観察からきています。一枚の布からドレスを作り出すという、これほど創造的な仕事を他に思い浮かべることができません」。母へのオマージュなのかもしれません。
新人監督賞アンドレア・ハウリエタのデビュー作*ゴヤ賞2019 ⑤ ― 2019年01月08日 14:26
アンドレア・ハウリエタのデビュー作「Ana de día」
★新人監督賞ノミネーション最後のご紹介は、アンドレア・ハウリエタが7年の歳月を掛けて完成させたという「Ana de día」、マラガ映画祭2018でプレミア、限定ながら11月初旬に公開された。いわゆるドッペルゲンガーものらしいが、コメディを含んだ心理サスペンスということです。主演のイングリッド・ガルシア・ヨンソンが、昼間はアナ、夜間はニナの二役を演じ分ける。タイトル「Ana de día」(「Ana by Day」)はそこからきているが、ルイス・ブニュエルの『昼顔』(「Belle de jour」67)の西題「Bella de día」への目配せです。またクシシュトフ・キェシロフスキの『ふたりのベロニカ』(91)、クロード・シャブロルのサスペンス『ヴィオレット・ノジエール』(78)のような作品と対話しているとか。シャブロルのは未見だが、昼間は娼婦、夜はお嬢さまということで想像をたくましくするしかない。一部クラウドファンディングで資金を集めている。
(フェロス賞2019ポスター賞にノミネートされている)
「Ana de día」(「Ana by Day」)
製作:Andrea Jaurrieta PC / No Hay Banda / Pomme Hurlante Films /
クラウドファンディング、協賛ナバラ州政府
監督・脚本・製作:アンドレア・ハウリエタ
撮影:フリ・カルネ・モルトレル
音楽:アウレリオ・エドレル=コペス
編集:ミゲル・A・トルドゥ
キャスティング:アランチャ・ぺレス
プロダクション・デザイン:リタ・エチェバリア
衣装デザイン:ハビエル・ベルナル、クラウディア・ペレス・エステバン
メイクアップ:ルス・アルカラ
製作者:イバン・ルイス、マルティン・サンペル
データ:スペイン、スペイン語、2018年、コメディ、心理サスペンス、110分、撮影地ナバラとマドリードで2016年6月末~8月(約5週間)、製作費約45万ユーロ、販売Media Luna New Films、スペイン公開2018年11月9日(限定上映)
映画祭・映画賞:マラガ映画祭2018(4月14日上映)、バルセロナD'A映画祭2018正式出品、トゥールーズ・シネエスパーニャ2018「ベスト・ファースト・フィルム」スペシャル・メンション、第34回アレキサンドリア地中海映画祭2018作品賞・女優賞受賞、アンダルシア映画賞ASECAN作品賞・主演女優賞・助演女優賞(モナ・マルティネス)受賞、他
キャスト:イングリッド・ガルシア・ヨンソン(アナ/ニナ)、モナ・マルティネス(ソレ)、アルバロ・オガリャ(マルセロ)、マリア・ホセ・アルフォンソ(マダム・ラクロア)、フランシスコ・ビダル(アベル)、フェルナンド・アルビス(マエストロ)、イバン・ルイス(ラ・ビエハ)、イレネ・ルイス(アンヘラ)、イニャキ・アルダナス(イバン)、カルラ・デ・オテロ(ラ・ムエルタ)、アントニオ・ポンセ(ペペ)、アベル・セルボウティ(アシス)、ほか
ストーリー:アナは26歳、中流家庭の<フツウ>の教育を受けた模範的な女性である。新米弁護士として近く結婚を予定している。ある日、アナは誰かが自分のアイデンティティに取って代わっていることに気づく。最初は恐怖に陥るが、時間とともに自分の責任と義務を解放してくれる分身の存在に、自分が果たして本当にアイデンティティを主張する価値があるのか、あるいは以前の自己から別の自己になる価値があるのかどうか迷い始める。分身が自分の代わりをしているあいだ、アナは自分が完全に自由であることに気づくと、新しい匿名性と自由の限界を試そうと、または自分自身の存在の意味を求めて夜のマドリードに繰り出していく。キャバレーは闇に紛れて消えてしまいたい人々で溢れていた。 (文責:管理人)
(マドリードのキャバレーで自身に反乱を起こしているアナ)
(ASECAN賞助演女優賞受賞のモナ・マルティネス、映画から)
自分自身から逃げることは可能か不可能か?
★かなり野心的な映画のようだが、観客を疲れさせ混乱させる印象です。ストーリーの背後に見え隠れするのは、モラル的偽善が横行する時代におけるアイデンティティの希薄化についての問いかけのようだ。アナは夢想と現実のあいだで恐怖しているが、それが監督の意図でないことは明白でしょう。ニナはアナのドッペルゲンガーとして登場し、無名であることの恐れに直面するが、精神的な不滅を見つけ、匿名性の魅力から生まれる新しいアイデンティティに身を任せる。どういう結末を迎えるかでアカデミー会員の評価は分かれるだろう。
(アナとマルセロ役のアルバロ・オガリャ)
(マエストロ役のフェルナンド・アルビス)
★アナとニナを演じたイングリッド・ガルシア・ヨンソンの演技を賞賛する批評家が多かったが、残念ながらゴヤ賞でのノミネーションはなかった。マラガ映画祭では主演女優賞候補になった。スウェーデン出身の女優だが、セビーリャで幼少時を過ごしたのでスペイン語は堪能、スウェーデン語の他に英語、フランス語をこなす。ハイメ・ロサーレスの「Hermosa juventud」がカンヌ映画祭2014「ある視点」にノミネートされた折り、キャリアを簡単にご紹介しています。
*イングリッド・ガルシア・ヨンソンのキャリア紹介は、コチラ⇒2014年05月04日
★アンドレア・ハウリエタAndrea Jaurrietaは、1986年パンプローナ生れ、監督、脚本家、プロデューサー、女優。カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCAC、及びコンプルテンセ大学で学ぶ。現在、複数の教育センターの映画講座で教鞭をとっている。
★2013年、短編「Los años dirán」(15分)でデビュー、ヒロインを演じたのが、本作でラ・ムエルタになったカルラ・デ・オテロである。アルモドバルの『ジュリエッタ』(16)に監督補助として参加、ビデオ制作など手掛け、2018年「Ana de día」で長編映画デビューを果たす。女優としてはフェデリコ・ベイロフ(ベイロー)の『信仰を捨てた男』(「El apóstata」15、タイトルNetflix)に脇役で出演している。ここで信仰を捨てた男を演じたのが、本作でマルセロになったアルバロ・オガリャである。余談だがベイロフ監督は、サンセバスチャン映画祭2015で審査員スペシャル・メンションを受賞している。
(撮影中の監督とイングリッド・ガルシア・ヨンソン)
(左から、監督、イングリッド・ガルシア・ヨンソン、イレネ・ルイス、マラガ映画祭にて)
『12年の長い夜』 アルバロ・ブレッヒナー*ゴヤ賞2019 ⑥ ― 2019年01月15日 19:01
イベロアメリカ映画賞―アルバロ・ブレッヒナーの『12年の長い夜』
★イベロアメリカ映画賞は、アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』にほぼ決まりでしょうが、昨年暮れからアルバロ・ブレッヒナーの第3作「La noche de 12 años」が、邦題『12年の長い夜』でNetflixで配信が開始されました。サンセバスチャン映画祭2018「ホライズンズ・ラティノ」部門の目玉としてすぐさま記事をアップしましたおり、ゴヤ賞ノミネーションを予想いたしました。予想通りになりましたが前大統領ムヒカ役のアントニオ・デ・ラ・トーレが助演男優賞候補になるとは思っていませんでした。スペインも製作国の一つですから規則違反ではありませんが、少し強引でしょうか。
★デ・ラ・トーレはロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」で主演男優賞にもノミネートされており、虻蜂取らずにならないことを祈りたいところです。彼が欲しいのは1個持っている助演ではなく、素通りつづきの主演のはずです。スペイン映画賞としては最初に蓋を開けるフォルケ賞2019が、1月12日夜に発表になり、幸先よく「El reino」の演技が認められて男優賞を受賞しました。因みに作品賞は予想通りハビエル・フェセルが監督した「Campeones」で、本作は「Cine y Educacion」賞とのダブル受賞、こういうケースは初めてだそうです。ゴヤ賞を占ううえで重要な映画賞、フォルケ賞2019の受賞結果は次回にアップいたします。
(フォルケ賞のトロフィーを手にしたアントニオ・デ・ラ・トーレ)
*『12年の長い夜』の作品・監督キャリア・キャスト紹介は、コチラ⇒2018年08月27日
*前回と重複しますがキャストとストーリーを以下に若干補足訂正して再録、前回アップ後の映画賞受賞歴も追加しました。
*『12年の長い夜』の主な出演者*
アントニオ・デ・ラ・トーレ(ペペ、ホセ・ムヒカ・コルダノ、2010~15年ウルグアイ大統領)
チノ・ダリン(ルソ、マウリシオ・ロセンコフ)
アルフォンソ・トルト(ニャト、エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、2016年8月5日没)
セサル・トロンコソ(トゥパマロス壊滅作戦「死の部隊」を指揮した軍人)
セサル・ボルドン(アルサモラ軍曹)
ミレージャ・パスクアル(ムヒカの母親ルーシー)
ソレダー・ビジャミル(精神科医)
シルビア・ペレス・クルス(ウイドブロの妻イヴェット、劇中ではグラシエラ)
ニディア・テレス(ロセンコフの母ロサ)
ルイス・モットーラ(少尉)
ジョン・デ・ルカ(マルティネス、兵士)
ロドリゴ・ビジャグラン(アルメイダ、兵士)
ダビ・ランダチェ(軍人)
ロヘリオ・グラシア
ルチアノ・Ciaglia(ゴメス)
ストーリー:1973年6月、ウルグアイは軍事クーデタにより軍部の政治介入が実現した。1971年の大統領選で左派連合が敗北してからは、都市ゲリラ「トゥパマロス」民族解放運動の勢いも失速、壊滅寸前になって既に1年が経過していた。多くのメンバーが逮捕収監され拷問を受けていた。1973年9月7日夜、軍部の掃討作戦で捕えられていたトゥパマロスの3人の囚人がそれぞれ独房から引き出され秘密裏に何処かへ護送されていった。これは12年という長きにわたって、全国に散らばっていた営倉を連れまわされることになる孤独の始りだった。それ以来、精神的な抵抗の限界を超えるような新式の実験的な拷問と孤独に耐え抜くことになる。軍部の目的は「彼らを殺さずに狂気に至らしめる」ことなのは明らか、彼らは囚人ではなく軍部の人質だった。一日の大半を頭にフードを被せられ、足枷をはめられたまま独房に閉じ込められていた3人の人質とは、ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカ、元防衛大臣で作家のエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、ジャーナリストで作家のマウリシオ・ロセンコフのことである。 (文責:管理人)
ウルグアイ軍事独裁政権の闇と孤独を描く12年間
A: 本作は「もし生きのびて自由の身になれたら、この苦難の事実を書き残そう」と誓い合った、エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロとマウリシオ・ロセンコフの共著「Memorias del calabozo」をもとに映画化されました。映画では3人に絞られていますが、実際は他にトゥパマロスのリーダー6人、合計9名だった。本著はこの9名の証言をもとに纏められたものです。
B: 民政移管になった1985年に釈放、バスで家族のもとに戻るさいに連呼された、ホルヘ・ベニテス、カルロス・ゴンサレス、ロベルト・イポリト、ワシントン・ゴンサレス・・・などが証言に応じた他の6人でしょうか。
A: 1993年にエドゥアルド・ガレアノの序文を付して再刊されたものを検索しましたが確認できませんでした。おそらく苦しみを分かち合った他の仲間たちへの敬意が込められていたのでしょう。収監中に亡くなった人が約100名、いわゆるデサパレシードス行方不明者が140名という記録が報告されています。
(txalaparta社から1993年に再刊された「Memorias del calabozo」の表紙)
B: 隣国アルゼンチンの軍事独裁政権の犠牲者3万人に比べれば桁違いですが、闘争中に射殺されたメンバーも多かった。屋根裏に逃げ込んだニャト(アルフォンソ・トルト)が逮捕されたとき、その家主夫婦が射殺されたシーンはそれを示唆しています。
A: そのときの掃討作戦を行なった<死の部隊>の指揮官の名前は映画では明らかにされなかった。当然分かっていたはずですが、IMDbにも軍人と表示されているだけです。セサル・トロンコソが演じていましたが、彼はウルグアイ出身、本邦ではセザール・シャローン&エンリケ・フェルナンデスの『法王のトイレット』(ラテンビート2008上映)の主役を演じている他、ルシア・プエンソの『XXY』(同2007)にも出演しているベテラン俳優です。
(憎まれ役の軍人に扮したセサル・トロンコソ)
B: 石をぶつけたいぐらい憎々しかったと褒めておきます。アルフォンソ・トルトもウルグアイ、その他にウルグアイからはルソ(チノ・ダリン)にラブレターを代筆してもらうアルサモラ軍曹役のセサル・ボルドン、ルソの母親ロサ役のニディア・テレスがウルグアイです。
A: エル・ペペの母親ルーシー役のミレージャ・パスクアルもウルグアイ、彼女については前回ご紹介しています。例の『ウイスキー』でデビューした独特の雰囲気のある女優です。ニディア・テレスはアルバロ・ブレッヒナー監督の第2作「Mr. Kaplan」(14)のカプラン夫人でデビューした遅咲きの女優です。以上がウルグアイの主な出演者です。
B: 多数の受賞歴をもつ「Mr. Kaplan」についても、前回の監督キャリア紹介にワープして下さい。
(ルソにラブレターの代筆をしてもらうアルサモラ軍曹)
A: アルゼンチンからはチノ・ダリンの他、精神科医を演じたソレダー・ビジャミル、スペインからはエル・ペペ役のアントニオ・デ・ラ・トーレの他、ニャトの妻になったシルビア・ペレス・クルスがそうですが、それぞれ前回簡単に紹介しています。監督がデ・ラ・トーレの出演交渉のためマドリードに出向きカフェで会った。すると「10分後には快諾してくれた」とベネチア映画祭のインタビューに答えていました。出演は即決だったようで、デ・ラ・トーレらしい。
(左から、ムヒカ前大統領、監督、デ・ラ・トーレ、ベネチア映画祭のプレス会見にて)
B: 幼児から80歳に近いエキストラは、ウルグアイの新聞に出した募集広告を見て参加してくれた方だそうです。200名ぐらい参加している。1985年民政移管になって釈放された9名を刑務所の門前や沿道で出迎えた家族、支持者たちを演じてくれた。
A: ウルグアイの人々にとって1970年代はそんなに昔のことではないのですね。ウルグアイの軍事独裁政権は、いわゆるブラジル型といわれる官僚主義体制で、隣国アルゼンチンのように軍人が大統領ではなかった。しかしトゥパマロス掃討に功績のあった軍部の政治介入を許した警察国家体制ではあった。
B: 劇中で「お前たちは囚人でなく人質だ」と言い放った<死の部隊>の指揮官がその典型、囚人でないというのは裁判の権利がないということです。都市型ゲリラのトゥパマロスの抵抗に長いあいだ煮え湯を飲まされ続けていた軍部の憎しみは、相当根深かったと言われていますね。
(再会を喜ぶニャトと家族、周囲の人は募集に応じたエキストラ)
1981年軍政合法化についての憲法改正の是非を問う国民投票
A: 劇中では1973年から1985年までの12年間が収監日数と共に表示される。1973年9月7日、9人のトゥパマロスのリーダーが収監されていた刑務所から、軍部の手で秘密裏に南部のリオ・ネグラらしき軍の施設に移送される。
B: 刑務所ではなく、ベッドも便器も一切ないから重営倉の兵士が入れられる独房のようです。約1年後に別の軍施設に移動、803日目の1975年から収監日数が表示される。およそ1年ごとに移動しており、その都度1976年1074日目、1977年1529日目・・・1980年2757日目という具合に日数が表示される。
A: 1981年に軍部の政治介入を合法化する「憲法改正」の是非を問う国民投票が実施され、国民の答えはNoだった。1983年3883日目に、ルソが恋文を代筆したアルサモラ軍曹の兵舎に戻ってくる。軍曹の計らいで手錠をされたままではあったが目隠しなしで初めて太陽の日差しを浴びることができた。
(初めて目隠しなしで顔を合わせる3人、生きていることを実感するシーン)
B: 観客にも解放の日の近いことを暗示するシーン、人間らしさを失わなかった軍人は彼一人だったでしょうか。そして1984年3984日目に仲間の多くが収監されていた最初の刑務所に戻ってくる。
A: ニャトがよたよたしながら刑務所の中庭でサッカーのボールを蹴る真似をする。窓からは「ニャト、ニャト、ゴール」の大歓声、社会の無関心に絶望していた過去が一気に吹き飛ぶ忘れられないシーンでした。彼らを苦しめたのは孤独と自分たちは忘れられてしまったという社会の無関心でした。
B: 母親が差し入れた便器に種をまき咲かせたヒナゲシの植木鉢を抱えてムヒカが出所する。日数の表示は、1985年4323日目が最後になる。
(ピンクの便器を抱えて刑務所を出るエル・ぺぺ、2010年75歳でウルグアイ大統領になる)
冷戦時代の米国がもっとも恐れた裏庭の赤化
A: 各自逮捕時期は異なっており、この日数はあくまで1973年9月7日が起点のようで、囚人ではなく<人質>だった日数です。各自刑務所とシャバを出たり入ったりしていますから、別荘暮らしはトータルでは15年くらいだそうです。時には各人の幻覚や逮捕時の回想シーンが織り込まれておりますが、映画は時系列に進行していくので観客は混乱しません。
B: ウルグアイだけではありませんが、ラテンアメリカ諸国は二つの世界大戦には参戦しておりませんが、米ソ冷戦時代の煽りを食ったラテンアメリカ諸国の実態は複雑で、少しは時代背景の知識があったほうがいいかもしれません。
A: 劇中にもニカラグア革命との連携を疑う軍部やCIAの画策など、米国の関与を暗示するセリフが挿入されています。裏庭の赤化を恐れていたアメリカが軍事独裁政権の後ろ盾であったことは、後の調査で証明されています。赤化より軍事独裁政権のほうがマシというわけです。
B: ラテンアメリカ諸国が、人権や民主主義を標榜する大国アメリカを嫌うのには、それなりの理由があるということです。1979年、左派中道派からの要請で赤十字国際委員会が調査に現れるが、そのおざなりの調査にはあきれるばかりです。
A: どこからか入った横槍に屈したわけです。ほかにもカトリック教会批判がそれとなく挿入されている。精神を病んだペペが、ソレダー・ビジャミル扮する精神科医に「神を信じているか」と訊かれる。ペペの返事は「もし神がいるなら、私たちを救ってくれているはず」だった。
B: カトリック教会が軍部と結託していたことを暗示しているシーン。他のラテンアメリカ諸国も金太郎の飴ですが、保身に徹したカトリック教会と軍事独裁政権は太いパイプで繋がっていました。
(ペペを診察する精神科医役のソレダー・ビジャミル)
A: 信者が多いにもかかわらず、ラテンアメリカ諸国から長いあいだローマ法王が選ばれなかった経緯には、この軍事独裁政権との結託があったからでした。現ローマ法王サンフランシスコも加担こそしませんでしたが、民主化後に見て見ぬふりをしていたことを謝罪していたからなれたのでした。
B: バチカンも危険を冒してまで選出できなかった。ラテンアメリカ諸国のカトリック教徒の減少は、幼児性愛だけが理由ではありません。
A: 主演の3人、ぺぺ(1935)、ルソ(1933)、ニャト(1942~2016)は、共にウルグアイ生れだが、一番年長のルソは両親の時代にポーランドから移民してきたユダヤ教徒、ナチ時代にはポーランドに残った親戚の多くがゲットーやアウシュビッツで亡くなっている。
B: 3人のなかではルソ役のチノ・ダリンが一番若かったのでちょっと違和感があった。
A: 反対に一回り若いニャトはクランクイン前に鬼籍入りしてしまった。彼の一族はスペインからの移民です。リーダー格のぺぺの祖先も、1840年代にスペインのバスク州ビスカヤから移民してきた。
B: ウルグアイはまさに移民国家です。ミレージャ・パスクアルが演じていたペペの母親ルーシー・コルダノは、実名で映画に出ていた。ムヒカは当時独身、それで面会に来るのは母親でした。上院議員のルシア・トポランスキ(1944)との結婚は2005年だった。
(ホセ・ムヒカと夫人ルシア・トポランスキ、2010年)
A: 彼女は2期目となるタバレ・バスケス政権の副大統領を2017年9月から務めている。映画でも女性の力の大きさが際立っていましたが、土壇場で力を発揮するのは女性です。
B: 面会に来たルソの父親イサクの狼狽ぶりと母親ロサの気丈さが印象に残っています。女性のほうが打たれ強いのかもしれません。
A: 前回アップしたときは受賞歴はそれほどではありませんでしたので、以下に追加します。
*映画祭・受賞歴*
アミアン映画祭:観客賞
ビアリッツ映画祭(ラテンアメリカシネマ)観客賞
カイロ映画祭:ゴールデン・ピラミッド賞、FIPRESCI国際映画批評家連盟賞
カンヌ・シネフィル:グランプリ
オーステンデ映画祭(ベルギー)審査員賞
ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭:観客、カサ・デ・イベロアメリカ、作品、脚本、撮影の各賞
シルバー・コロン(監督・男優アルフォンソ・トルト)賞
ハバナ映画祭:作品賞(カサ・デ・ラス・アメリカス、キューバ映画ジャーナリズム協会)
サンゴ賞(編集、録音)、グラウベル・ローシャ賞、ラジオ・ハバナ賞
レジスタンス映画祭:監督賞
テッサロニキ映画祭:観客賞
ウルグアイ映画批評家協会:作品、監督、男優(アルフォンソ・トルト)
女優(ミレージャ・パスクアル)、録音の各賞
*以上は2018年開催の映画祭受賞歴(ノミネーションは割愛)
*ゴヤ賞2019ノミネーションは、イベロアメリカ映画賞、脚色賞、助演男優賞(アントニオ・デ・ラ・トーレ)の3カテゴリー。
第24回ホセ・マリア・フォルケ賞2019*結果発表 ― 2019年01月17日 16:20
ハビエル・フェセル「Campeones」が作品賞とCine y Educación en Valores のダブル受賞
(第24回フォルケ賞受賞者一同)
★1月12日夕べ、第24回ホセ・マリア・フォルケ賞の授賞式がサラゴサで盛大に開催されました。先日、作品賞とアントニオ・デ・ラ・トーレの男優賞受賞のニュースはアップいたしましたが、全容は以下の通りです。フォルケ賞は、監督ではなく縁の下の力持ちとして映画産業を支える製作者に光を当てるべく設けられた賞で監督賞はありません。本来なら制作会社名をを入れるべきなのですが、認知度のある監督名を便宜的に入れておりますが、今回受賞作には追加しました。選考母体はオーディオビジュアル著作権管理協会EGEDA(会長エンリケ・セレソ)です。ゴヤ賞の行方を占うにはカテゴリー数が少ないのですが、ある程度の目安にはなると思います。
(スピーチをする、EGEDA会長エンリケ・セレソ)
★2018年の長編映画賞はイサベル・コイシェの『マイ・ブックショップ』(3月公開予定)とマヌエル・マルティン・クエンカの「El autor」が分け合い、ゴヤ賞作品賞は前者、男優賞は後者の主役だったハビエル・グティエレスの手に渡りました。総合司会者のうち女性は昨年に引き続きジャーナリストのエレナ・サンチェス、男性は俳優のエドゥ・ソトに代わりました。
(平土間に降りてきて候補者にインタビューするエレナ・サンチェスとエドゥ・ソト)
★昨年の栄誉賞に当たるEGEDA金のメダル受賞者カルロス・サウラ、A.J. バヨナ、ロドリゴ・ソロゴジェン、アランチャ・エチェバリア、候補者ホセ・コロナド、ペネロペ・クルス、エバ・リョラチ、フォルケ氏の一人娘ベロニカ・フォルケの姿もありました。教育文化スポーツ相ホセ・ギラオ、アラゴン州知事ハビエル・ランバンも列席、ミュージカル仕立てで、7カテゴリーにもかかわらず2時間近い授賞式でした。
◎長編映画賞(フィクション&アニメーション、副賞30,000ユーロ)
★「Campeones」ハビエル・フェセル(アカデミー外国語映画賞スペイン代表作品)
制作会社:Morena Films / Pelícuias Pendeltón SA / Telefónica Audiovisual Digital
「Carmen y Lola」『カルメン&ロラ』アランチャ・エチェバリア
(カンヌ映画祭「監督週間」)
「El reino」ロドリゴ・ソロゴジェン(サンセバスチャン映画祭コンペティション)
「Entre dos aguas」イサキ・ラクエスタ(サンセバスチャン映画祭金貝賞・監督賞受賞)
(トロフィーを掲げているのが女優グロリア・ラモス、その右がハビエル・フェセル監督)
◎長編ドキュメンタリー賞(同6,000ユーロ)
★「El silencio de otros」ロバート・バハー&アルムデナ・カラセド
(ベルリンFF「パノラマ」のドキュメンタリー観客賞、オスカー賞スペイン代表作品)
制作会社:España BTeam Pictures /(共同)El Deseo
「Apuntes para una película de atracos」エリアス・レオン・シミニアニ
「Dessenterrando Sad Hill」『サッド・ヒルを掘り返せ』(2017)ギジェルモ・デ・オリベイラ
「Camarón: flamenco y revolución」アレシス・モランテ
(トロフィーを手にアルムデナ・カラセド)
◎短編映画賞(同3,000ユーロ)
「Nueve pasos」マリサ・クレスポ&モイセス・ロメラ
★「Cerdita」カルロタ・ペレダ
制作会社:Pantalla Partida / Imval Producciones
「Matria」アルバロ・ガゴ
(製作者マリオ・マドゥエニョとルイス・アンヘル・ラミレスに挟まれたカルロタ・ペレダ)
◎男優賞(同3,000ユーロ、Aisge基金より)
★アントニオ・デ・ラ・トーレ「El reino」
ハビエル・グティエレス「Campeones」
ハビエル・バルデム「Todos lo saben」『エブリバディ・ノウズ』アスガー・ファルハディ
(カンヌ映画祭オープニング作品)
ホセ・コロナド「Tu hijo」ミゲル・アンヘル・ビバス
(バジャドリード映画祭オープニング作品)
(受賞を確信していたアントニオ・デ・ラ・トーレ)
◎女優賞(同3,000ユーロ、Aisge基金より)
アレクサンドラ・ヒメネス「Las distancias」エレナ・トラペロ
(マラガ映画祭「金のビスナガ」)
★エバ・リョラチ「Quién te cantará」カルロス・ベルムト
(サンセバスチャン映画祭コンペティション)
ペネロペ・クルス「Todos lo saben」
バルバラ・レニー「Petra」ハイメ・ロサーレス(カンヌ映画祭「監督週間」、
サンセバスチャン映画祭「ペルラス」)
(ペネロペ・クルスやアレクサンドラ・ヒメネスをおさえて受賞したエバ・リョラチ)
◎長編イベロアメリカ映画賞(同6,000ユーロ)
★「ROMA」『ローマ』アルフォンソ・キュアロン(ベネチアFF「金獅子賞」)メキシコ
制作会社:Esperanto Filmoj / Participante Media
「Las herederas」『相続人』マルセロ・マルティネシ
(ベルリンFF「アルフレド・バウアー」賞他)パラグアイ他
「La noche de 12 años」『12年の長い夜』アルバロ・ブレッヒナー(ベネチアFF「オリゾンティ」、
サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」)ウルグアイ他
「Sergio y Serguei」『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』エルネスト・ダラナス
(サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」)キューバ他
(サプライズ・ゼロの受賞作「ROMA」、キュアロン監督は欠席でした)
◎Cine y Educación en Valores(副賞なし)
★「Campeones」
「Carmen y Lola」
「La enfermrdad del domingo」『日曜日の憂鬱』ラモン・サラサール
(ベルリン映画祭「パノラマ」)
◎EGEDA 金のメダル(栄誉賞)
★ホセ・フラデ(Jose Angel Frade Almohalla、マドリード1938、映画&テレビのプロデューサー)
*ホセ・フラデ受賞はノミネーション段階(12月5日)では未決定でしたが、半世紀に及ぶ映画&テレビ界への功績が讃えられて贈られることになりました。1996年、マドリードを中心に放映するCanal 7 Televisiónの設立者の一人。主なフィルモグラフィーとして、フランコ体制時代では検閲逃れのピンクコメディ、アルフレッド・ランダを主役にした「No desearás al vecino del quinto」(70、ティト・フェルナンデス)やサスペンスもの、1973年にはエウヘニオ・マルティンのミュージカル「La chica del Molino Rojo」を天才少女マリソル主演で製作している。
(EGEDA 金のメダル受賞のホセ・フラデ)
*フランコ没後の民主化移行期には、ペドロ・オレア監督と組んで「Tormento」や「Pim,pam,pum...!fuego!」、
1978年ホセ・サクリスタンが女装して出演した「Un hombre llamado Flor de Otoño」、ハイメ・カミーノとは70年代後半の優れた作品の一つと評価された「Las largas vacaciones del 1936」(76)を手掛けている。1989年のハビエル・エロリエタの「Sangre y arena」は、ビセンテ・ブラスコ・イバニェスの同名小説の映画化、言語が英語、人気の高い闘牛物ということで、邦題『血と砂』で公開された。まだそれほど有名でなかったシャローン・ストーンや『ミツバチのささやき』のアナ・トレントが出演していた。
*90年代後半からはTVシリーズの製作が中心、2016年のTVシリーズ「La sonata del silencio」(9話)、今年からアレクサンドラ・ヒメネス主演のコメディ「Hospital Valle Norte」が始まります。
第6回フェロス賞2019*結果発表 ― 2019年01月23日 12:49
★去る1月19日、第6回フェロス賞の授賞式がビルバオで開催され、受賞者が発表になりました。あいにくの雨で、赤絨毯を踏む出席者に傘をさしかけるスタッフはご苦労さまでした。それでもスマホに一緒に写りたいファンはお目当てが登場するまで待って、気軽に応じるセレブたちと一緒におさまってご満悦でした。予定通り22;00に開幕、会場の席は作品ごとにテーブルを囲みワインを楽しみながらの授賞式でした。ガラはたいてい助演女優賞か助演男優賞から始まるのが定番、今回も最初の受賞者はアンナ・カスティーリョの涙のスピーチで始まりました。彼女はTVシリーズでも受賞、トロフィーを両手に幸せをかみしめておりました。
★都市の文化的多様性をモットーに、初めてマドリードを離れてスペインで最も豊かなバスク州の首都ビルバオのビルバオ・アレナ(ビルバオ・バスケットボールの試合が行われるパビリオン)で開催されましたが、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」がメインの5冠、カルロス・ベルムトの「Quién te cantará」(『シークレット・ヴォイス』)が4冠と2作品に集中、文化の多様性とはなりませんでした。総合司会者はスウェーデン出身の女優イングリッド・ガルシア・ヨンソン、衣装替え5回と、八面六臂の大活躍でした。
(一人で大奮闘の総合司会者イングリッド・ガルシア・ヨンソン)
★マドリードならいざ知らず、北のビルバオとなると候補者でさえ一堂に集めるのは厳しい。今回もフォルケ賞には出席したペネロペ・クルスが欠席、バルバラ・レニーはどちらも欠席でした。下馬評で受賞なしだと参加しないようで、そこがゴヤ賞とは違うようです。受賞が確実視されていたアントニオ・デ・ラ・トーレの姿もありませんでした。フォルケ賞を受賞したばかりのハビエル・フェセルの「Campeones」はコメディ部門の作品賞だけ、主演男優賞候補のハビエル・グティエレスの姿も確認できなかった。彼は前回の受賞者、ハビエル・バルデムも可能性は低かったから納得の欠席だった。
★受賞結果は以下の通りです。
*映画部門ノミネーション*(初出に監督名、★印は当ブログ紹介作品)
◎作品賞(ドラマ)
「Carmen y Lola」『カルメン&ロラ』 監督アランチャ・エチェバリア 4個 ★
「Petra」 監督ハイメ・ロサーレス 5個 ★
「Quién te cantará」『シークレット・ヴォイス』 監督カルロス・ベルムト 8個(受賞4個) ★
〇「El reino」 監督ロドリゴ・ソロゴジェン 10個(受賞5個) ★
「Todos lo saben」『エブリバディ・ノウズ』 監督アスガー・ファルハディ 6個 ★
「Viaje al cuarto de una madre」 監督セリア・リコ・クラベリーノ 4個(個) ★
◎作品賞(コメディ)
〇「Campeones」 監督ハビエル・フェセル 4個(受賞1個) ★
「Casi 40」 監督ダビ・トゥルエバ ★
「Mi querida cofradía」 監督マリア・ディアス・デ・ロペ
「Superlópez」 監督ハビエル・ルイス・カルデラ
「Tiempo después」 監督ホセ・ルイス・クエルダ
◎監督賞
アランチャ・エチェバリア「Carmen y Lola」
ハビエル・フェセル「Campeones」
ラモン・サラサール「La enfermedad del domingo」『日曜日の憂鬱』 ★
〇ロドリゴ・ソロゴジェン「El reino」
カルロス・ベルムト「Quién te cantará」
◎主演女優賞
ペネロペ・クルス 「Todos lo saben」
ロラ・ドゥエニャス 「Viaje al cuarto de una madre」 ★
アレクサンドラ・ヒメネス 「Las distancias」★
バルバラ・レニー 「Petra」
〇エバ・リョラチ 「Quién te cantará」
◎主演男優賞
ハビエル・バルデム 「Todos lo saben」
ホセ・コロナド「Tu hijo」 監督ミゲル・アンヘル・ビバス ★
ハビエル・グティエレス「Campeones」
ハビエル・レイ「Sin fin」 監督セサル=ホセ・エステバン・アレンダ ★
〇アントニオ・デ・ラ・トーレ「El reino」
(アントニオ・デ・ラ・トーレ「El reino」から)
*アントニオ・デ・ラ・トーレは欠席、ロドリゴ・ソロゴジェンが代理でトロフィーを受取りました。スピーチは最近流行のスマホで代読、時代も変わりました。
◎助演女優賞
〇アンナ・カスティーリョ「Viaje al cuarto de una madre」
バルバラ・レニー「Todos lo saben」
ナタリア・デ・モリーナ「Quién te cantará」
マリサ・パレデス「Petra」
アナ・ワヘネル「El reino」
◎助演男優賞
ジョアン・ボテイ「Petra」
エドゥアルド・フェルナンデス「Todos lo saben」
イグナシオ・マテオス「Animales sin collar」 監督ホタ・リナレス
ホセ・マリア・ポウ「El reino」
〇ルイス・サエラ「El reino」
◎脚本賞
アランチャ・エチェバリア 「Carmen y Lola」
ハイメ・ロサーレス、ミシェル・ガスタンビデ、クララ・ロケ「Petra」
カルロス・ベルムト「Quién te cantará」
〇ロドリゴ・ソロゴジェン、イサベル・ペニャ「El reino」
セリア・リコ・クラベリーノ「Viaje al cuarto de una madre」
◎オリジナル音楽賞
ルカス・ビダル「El árbol de la sangre」 監督フリオ・メデム
ニコ・カサル「La enfermedad del domingo」
〇アルベルト・イグレシアス「Quién te cantará」
オリビエル・アルソンOlivier Arson「El reino」
アルベルト・イグレシアス「Yuli」 監督イシアル・ボリャイン ★
(2作品でノミネートされていたトロフィーのコレクター、アルベルト・イグレシアス)
◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ、ラファ・マルティネス「Campeones」 ペドロ・ヒメネス「Carmen y Lola」
〇ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ「Quién te cantará」
ラファ・マルティン「El reino」
アスガー・ファルハディ「Todos lo saben」
*ミゲル・アンヘル・トゥルドゥが登壇しましたが、フォトが未入手です。
◎ポスター賞
バルバラ・マグダレナ「Ana de día」 監督アンドレア・ハウリエタJaurrieta
エレナ・カスティーリョ「Las distancias」
ジョルディ・リン「La enfermedad del domingo」
〇カルロス・ベルムト「Quién te cantará」
ゴンサロ・ルテ「El reino」
*TVシリーズ部門ノミネーション*
◎ドラマ部門
「El día de mañana」(シーズン1) 5個
「Élite」(シーズン1)『エリート』の邦題でNetflix配信中
〇「Fariña」(シーズン1) 3個(受賞3個)Netflix邦題『ホワイトパウダー』で配信
「Gigantes」(シーズン1)監督エンリケ・ウルビス&ホルヘ・ドラド ★
「La peste」(シーズン1)
◎コメディ部門
〇「Arde Madrid」(シーズン1)監督パコ・レオン&アンナ・R・アコスタ 7個(3個) ★
「Paquita Salas」(シーズン2) 4個
「Vergüenza」 (シーズン2) 4個
(アンナ・R・アコスタにキスをするパコ・レオン)
◎主演女優賞
マレナ・アルテリオ「Vergüenza」
〇インマ・クエスタ「Arde Madrid」
アウラ・ガリード「El día de mañana」
ナイワ・ニムリ「Vis a vis」
エバ・ウガルテ「Mira lo que has hecho」
◎主演男優賞
Brays Efe「Paquita Salas」
ハビエル・グティエレス「Vergüenza」
パコ・レオン「Arde Madrid」
オリオル・プラ「El día de mañana」
〇ハビエル・レイ「Fariña」
◎助演女優賞
〇アンナ・カスティーリョ 「Arde Madrid」
ベレン・クエスタ 「Paquita Salas」
ファビアナ・ガルシア「Arde Madrid」
デビ・マサール「Arde Madrid」
リディア・サン・ホセ「Paquita Salas」
(映画部門の助演女優賞のトロフィーと。盆と正月が一緒に来たアンナ・カスティーリョ)
◎助演男優賞
ヘスス・カロサ「El día de mañana」
カラ・エレハルデ「El día de mañana」
〇アントニオ・ドゥラン・<モリス>「Fariña」
ミゲル・レリャン「Vergüenza」
マノロ・ソロ「La peste」
フリアン・ビリャグラン「Arde Madrid」
◎スペシャル・フェロス イサキ・ラクエスタ監督「Entre dos aguas」
◎ドキュメンタリー賞 エリアス・レオン・シミニアニ監督「Apuntes para una pelicula de atracos」
◎栄誉賞 ホセ・ルイス・クエルダ
★ノミネーション発表時には受賞者が未定でしたが、1月15日に監督・脚本家・製作者のホセ・ルイス・クエルダ受賞がアナウンスされました。今回のフェロス賞コメディ部門に「Tiempo después」がノミネートされておりましたが、ハビエル・フェセルの手に渡った。本邦では1987年の『にぎやかな森』や1999年『蝶の舌』が公開されただけでしょうか。40年以上のキャリアを持ちながら寡作ということもあって、賞の数は少ないかもしれない。未公開作品に面白いのがあり、1988年のコメディ「Amanace, que no es poco」はスペイン人が時代を超えてリクエストする作品です。2008年「Los girasoles ciegos」のテーマは『蝶の舌』と同じ内戦もの、アカデミー賞スペイン代表作品に選ばれ、ゴヤ賞脚色賞を受賞している。
★製作者としては、アレハンドロ・アメナバルの才能をいち早く見出し、デビュー作『テシス 次に私が殺される』をプロデュース、続いて『オープン・ユア・アイズ』や『アザーズ』を手掛けています。音楽家でもあるアメナバルは『蝶の舌』の音楽を担当しています。というわけでプレゼンターはアメナバルでした。トロフィー授与の前に代表作のメモランダム上映がありました。会場からはスタンディングオベーションが沸きあがり、どの映画賞でも見られる光景でした。
(アメナバルとホセ・ルイス・クエルダ)
★フェロス賞の選考母体は、スペイン映画ジャーナリスト協会AICE、現会長はマリア・ゲーラ、今回は開催地ビルバオ市、授賞式にはフアン・マリ・アブルト市長の出席もあり、主演男優賞ノミネートのホセ・コロナドと同じテーブルを囲んでいました。恒例のゲーラ会長スピーチはガラ中ほどにありました。
(AICE会長マリア・ゲーラ)
(AICE会長ゲーラ、ビルバオ市長フアン・マリ・アブルト、総合司会者ガルシア・ヨンソン)
『ROMA/ローマ』*アルフォンソ・キュアロンの記憶の旅 ― 2019年01月27日 20:35
「リボにはたくさんの借りがあるのです」とアルフォンソ・キュアロン
★ゴールデン・グローブ賞2冠、アカデミー賞2019ノミネーション10部門と、アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』を取りまく環境が慌ただしくなってきました。当ブログでは度々記事にしておりいささか食傷気味ですが、作品賞と外国語映画賞のダブル・ノミネーションと聞いては話題にしたくなります。過去のダブルのケースでは後者の受賞は確実らしい。今までスペイン語映画の作品賞ノミネートは縁がなかったので無関係と思っていた。しかし『ROMA/ローマ』の外国語映画賞受賞が確実なら、昨年のセバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』に続いてスペイン語映画が連続で受賞することになります。しかしゴールデン・グローブ賞受賞作品はオスカーは取れないというジンクス通りなら作品賞は受賞なしということになる。今年は8作品ノミネーションと多いから票は割れるでしょう。
(ゴールデン・グローブ賞2冠、作品賞・監督賞のトロフィーを両手にした監督)
★アカデミー賞の作品賞に外国語映画がノミネートされるのは珍しく、スペイン語映画では初めてとなります。外国語映画賞にもダブってノミネートされた作品は、直近ではミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』があり外国語映画賞を受賞しています。外国語映画部門がなかった時代ならいざ知らず、常々ダブルのノミネーションに違和感を覚えていますが、本作は監督・脚本・撮影、前評判では候補にも上がっていなかった主演女優(ヤリッツァ・アパリシオ)と助演女優(マリナ・デ・タビラ)まで浮上して、全部で10部門には驚きを通りこして腰が引けてしまいました。製作のガブリエラ・ロドリゲスは、ラテン系では初めての女性プロデューサーということで、老害が懸念される米国アカデミー会員の「初物食い」を期待しておきます。
★主人公クレオのモデルで、監督にインスピレーションを与えたniñeraベビーシッター兼nana乳母リボ、リボリア・ロドリゲスもニューヨーク映画祭2018に登場して『ROMA/ローマ』のプロモーションに一役買いました。現在74歳になるリボリアが、メキシコでも貧しいと言われるオアハカ州北部ミシュテカ地方の村を出てキュアロン家にやって来たのは1962年、監督が生後9ヵ月、彼女が18歳のときだった。「家族の一員、みんなのお気に入り、私の人格形成をした人、リボには大きな借りがあるのです」と監督。「私たちが小さい頃にはみんな<ママ>と呼んで、彼女と結婚するんだと言い合っていたのです」と、常に物静かに接してくれたリボの人柄をCNNのインタビュアに語ったそうです。
(ヤリッツァ・アパリシオ、リボリア・ロドリゲス、監督、ニューヨーク映画祭、2018年10月)
★幼年期のキュアロンは、彼女の故郷オアハカ州テペルメメ・ビリャ・デ・モレロス村の話を聞くのが好きだった。彼女はスペイン人がやってくる前の伝統的な遊戯がどんなものか、シャーマンたちが如何にして人々を癒してくれたかについて語った。今なおメキシコに存続している不平等、ミシュテカ族の少女が舐める辛酸、寒さ、飢え、貧しさについて知りえたのもリボのお蔭だと。12歳の誕生日に父親からプレゼントされたペンタックス・カメラが子供たちに革命を起こした。ミノルタ・スーパー8を買うために節約し、1年後に手にしたキュアロンは、母親、3人の弟妹、甥、勿論リボを主人公にして短編を撮りはじめた。小さな映画監督の誕生、ペンタックス・カメラの到来はまさに革命だった。
(クレオ・ママに抱かれて眠る末っ子ぺぺとソフィ)
★1991年、すぐ下の弟カルロス・キュアロンと共同監督したデビュー作『最も危険な愛し方』(「Solo con tu pareja」)にリボリアも出演してるそうです。10年後に撮った『天国の口、終りの楽園。』(「Y tu mamá también」)にもちょとだけ顔を出しているそうですがどこでしょうか。因みにディエゴ・ルナが扮した政治家の息子、乳母をママと呼んでいたテノッチは、キュアロン監督の分身でしょう。『ノー・エスケープ自由への国境』が公開された長男ホナス・キュアロンのデビュー作「Año uña」(07)にもボイス出演している。何十年も一緒に暮らしたリボなのに、実は何も知らなかったと感じた一瞬があった由、それは祖母が電気代に口うるさかったので、夜は電気を消してロウソクで過ごしたことを聞いた時だった。それは劇中でクレオともう一人の家政婦アデラの会話に活かされていました。
「それでどういう映画なの?」―「勇気ある女性たちの物語よ」
★リボ=クレオを演じたヤリッツァ・アパリシオは、1993年オアハカ州トラヒアコ生れ、映画に出る前は保育園(幼稚園)の先生だった。演技経験は何もなかったがオーディションに駆けつけ、その穏やかな物腰が監督の目に留まった。それ以来、彼女の人生は180度変わってしまい、今やメキシコの重要な顔となった。「今まで不可能だと決めつけていた事が、決してそうではなかった。素晴らしいチャンスをもつことができた」とアパリシオ。彼女がモード雑誌「ヴォーグ」(勿論メキシコ版)の表紙を飾ったニュースを記事にしましたが、彼女だけでなく、雇い主のソフィア夫人役マリナ・デ・タビラ(1974メキシコシティ)、同僚家政婦アデラ役のナンシー・ガルシアも映画祭出席、インタビューと引っ張り凧です。
(インタビューを受ける、マリナ・デ・タビラ、ヤリッツァ・アパリシオ、ナンシー・ガルシア)
★マリナ・デ・タビラは自身の役柄について「ソフィアの長所は、夫との不和に苦しんでいるが、4人の子供たちの前では明るく振舞って、子供たちを前向きに育てようとしている。クレオとアデラの雇い主として家庭を守っている」女性だと分析、「クレオの美点は、子供たちに常に愛情深く接して、信じられない存在だ」と断言した。監督がソフィア夫人の造形は母親クリスティナ・オロスコにほぼ一致すると語っていたが、彼女は昨年3月鬼籍入りした。ここ40年間ほどでメキシコ社会での女性の役割は変化してきているが、まだ道半ばだという点で、3人の女性の意見は一致している。
(子供たちに父親がいなくてもみんなで頑張ろうと話すソフィア夫人)
★ナンシー・ガルシアは「映画のなかでは、女性たちが思い切って何かをすることはできないテーマが際立っていた。女性たちが尊敬しあい高め合う何かを、私はできるんだと自分に言い聞かせる事が必要です。父親の庇護なしでも子供たちを育てられると女性たちが認識するようになってきた」と指摘した。2017年の統計では、3430人のメキシコ人女性が殺害の犠牲になった。人種差別と女性蔑視は見え隠れするが、現在では上流階級でもクレオのような仕事をする女性を雇う家庭は減少しているということです。10代から住み込みで働くこの制度に多くの問題が潜んでいるのは確かです。遅い歩みではあるが静かな地殻変動は起きている。
★それで「この映画は一言でいうとどんなお話?」、「勇気ある女性たちについての映画です」とナンシー・ガルシア、「人生そのものについての物語」と穏やかにヤリッツァ・アパリシオ、「幼年時代の心の傷についてのお話」とマリナ・デ・タビラ、ええ、そういう映画なんです。今日はロスアンゼルス、明日はニューヨークと走り回り、いよいよ2月24日が近づいてきました。ハリウッドの人々は、この地味なモノクロ映画をどう評価するのでしょうか。ゴヤ賞イベロアメリカ映画賞もほとんど受賞が確定していますからサプライズはないでしょう。
第11回ガウディ賞2019*結果発表 ― 2019年01月29日 17:04
フェロス賞では無視されたイサキ・ラクエスタの「Entre dos aguas」が輝いた夕べ
★去る1月27日、第11回ガウディ賞2019のガラが現地時間22:10からバルセロナの国会議事堂で開催されました。結果はフェロス賞ではノミネーション零のイサキ・ラクエスタの「Entre dos aguas」が大賞を制し、その違いを見せつけました。もともとガウディ賞はバルセロナ映画賞(2002年設立)が前身のカタルーニャ語映画を軸にした映画賞で、他のスペインの映画賞とは方向性が異なっています。昨今のカタルーニャ独立運動という政治的要因も絡んでマドリード派とバルセロナ派は感情的に対立している印象です。というわけでフェロス賞で輝いたロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」は、反対にノミネーション零でした。
(主演男優賞のイスラエル・ゴメスとイサキ・ラクエスタ監督)
★選考母体はカタルーニャ映画アカデミー(現会長イソナ・パッソーラ)、正式名は「カタルーニャ映画アカデミー”ガウディ”賞」です。総合司会者はマグ・ラリ、教育文化スポーツ相フアン・ギラオ、カタルーニャ自治州知事キム・トッラ、バルセロナ市長アダ・コラウなどが列席した。カテゴリー22部門の結果は以下の通り、うち作品賞・主演男優女優賞以外は受賞者のみアップいたします。
(左から、フアン・ギラオ、イソナ・パッソーラ、キム・トッラ)
*作品賞(カタルーニャ語)
「Formentera Lady」 監督パウ・ドゥラ
「Jean-Francois i el sentit de la vida」 同セルジ・ポルタベリャ
「Yo la busco」 同サラ・グティエレス・ガルベス
◎「Les distancies」 同エレナ・トラぺ 7個ノミネートで1個受賞
*作品賞(カタルーニャ語以外)
◎「Entre dos aguas」 監督イサキ・ラクエスタ 9個ノミネートで7個受賞
「Viaje al cuarto de una madre」 同セリア・リコ
「El fotógrafo de Mauthausen」 マル・タルガロナ 4個受賞と健闘
「Petra」 同ハイメ・ロサーレス
(受賞者一同)
*監督賞
◎イサキ・ラクエスタ(Entre dos aguas)
他ノミネーションは、ハイメ・ロサーレス、セリア・リコ、エレナ・トラぺ
*脚本賞
◎セリア・リコ(Viaje al cuarto de una madre)
(赤絨毯でのフォトコール)
*主演男優賞
◎イスラエル・ゴメス(Entre dos aguas)
アレックス・ブレンデミュール(Petra)
セルジ・ロペス(La vida lliure)
マリオ・カサス(El fotógrafo de Mauthausen)
*主演女優賞
◎ロラ・ドゥエニャス(Viaje al cuarto de una madre)
アレクサンドラ・ヒメネス(Les distancies)
バルバラ・レニー(Petra)
カルメ・エリアス(Quién te cantará)
*助演男優賞
◎オリオル・プラ(Petra)
*助演女優賞
◎アンナ・カスティーリョ(Viaje al cuarto de una madre)
(フェロス賞に続いて受賞したのはアンナ・カスティーリョ一人?)
*プロダクション賞
◎エドゥアルド・バリェス、Hanga Kurucz(El fotógrafo de Mauthausen)
(トロフィーを放って喜ぶ、エドゥアルド・バリェス)
(監督のマル・タルガロナ、フォトコールで)
*ドキュメンタリー賞
◎「Petitet」 監督カルレス・ボッシュ
(カルレス・ボッシュと主演者たち)
〇ノミネーションされていたグスタボ・サンチェスの『I Hate New York』(ラテンビート2018上映)は残念でした。
*短編映画賞
◎「La útima virgen」 監督バルバラ・ファレ
*テレビ映画賞
◎「Vida Privada」 監督シルビア・ムン
(赤絨毯でのフォトコール)
*アニメーション賞
◎「Memories d'un home en pijama」 監督カルロス・フェルナンデス・デ・ビゴ
〇『しわ』が公開されたパコ・ロカのコミックのアニメ化(スペイン語タイトルのポスター)
*美術賞
◎ロサ・ロス(El fotógrafo de Mauthausen)
*編集賞
◎セルジ・ディエス(Entre dos aguas)
*撮影賞
◎ディエゴ・ドゥセエル(Entre dos aguas)
*オリジナル作曲賞
◎キコ・ベネノ、ラウル・レフレエ(Entre dos aguas)
*衣装賞
◎メルセ・パロマ(El fotógrafo de Mauthausen)
*録音賞
◎アレハンドロ・カスティーリョ、アマンダ・ビリャビエハ(Entre dos aguas)
*視覚効果賞
◎ラウラ・ペドロ、リュイス・リベラ、リカルド・バリガ(Superlópez)
*メイクアップ&ヘアー賞
◎Caitlin Achenson、ヘスス・マルトス(El fotógrafo de Mauthausen)
*ヨーロッパ映画賞
◎「Cold War」(ポーランド) 監督パヴェウ・パヴリコフスキ
〇他は、ルカ・グァダニーノの『君の名前で僕を呼んで』(伊仏米ブラジル)、ポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』(米)などでした。
*ガウディ栄誉賞(正式名Premio Gaudí de Honor - Miquel Perter)*
◎ジョアン・ぺラ Joan Pera(俳優・声優)1948年9月27日、バルセロナのマタロー生れ、主にTVシリーズ出演が多い。最新作はフェロス栄誉賞を受賞したばかりのホセ・ルイス・クエルダのコメディ「Tiempo después」に出演している。
(昨年の受賞者メルセデス・サンピエトロの手から)
★昨年のガウディ賞はカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』がぶっちぎりの受賞でしたが、今年はフェロス賞では全く無視されたイサキ・ラクエスタの「Entre dos aguas」が、9個ノミネーション7個受賞と破格の成績で面目を施しました。初めてタイトルを目にするマル・タルガロナの「El fotógrafo de Mauthausen」が4賞、セリア・リコの「Viaje al cuarto de una madre」が3賞、観客賞も受賞している。女性の活躍が目立った年ではないでしょうか。
★マル・タルガロナは1953年バルセロナ生れ、バヨナの『永遠のこどもたち』やギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』の製作を手掛けているベテラン。セリア・リコはセビーリャ出身だが、ここ約10年間はバルセロナに腰を落ち着けて撮っているうえ、カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACで教鞭もとっているから、今じゃカタルーニャ人でしょうか。主演女優賞受賞のロラ・ドゥエニャスはガリシア出身で、アルモドバル映画にも出ているが、どちらかというとバルセロナ寄りの女優さんです。いよいよ来週2月2日は締めくくりのゴヤ賞がセビーリャで開催され結果が発表になります。マドリードを離れての授賞式には異論続出らしく、経済的効果も含めて雑音入りのガラとなるようです。
◎ガウディ賞関連記事(管理人覚え)
*「Entre dos aguas」の紹介記事は、コチラ⇒2018年07月25日
*「Viaje al cuarto de una madre」の紹介記事は、コチラ⇒2019年01月06日
*「Formentera Lady」の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月17日
*「Les distancies」の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月27日
*「Memories d'un home en pijama」の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月15日
*「Superlópez」の紹介記事は、コチラ⇒2018年12月14日
*「Petra」の紹介記事は、コチラ⇒2018年08月08日
*「Quién te cantará」の紹介記事は、コチラ⇒2018年07月25日
新人監督賞ノミネーション*ゴヤ賞2019⑦ ― 2019年01月31日 15:08
(着々と準備が進んでいるセビーリャ会場の夜景)
★あと数日に迫った第33回ゴヤ賞授賞式は、マドリードを離れてセビーリャで開催されることになっている。セビーリャは、昨年11月に第15回を迎えたセビーリャ映画祭(グランプリ名は金のヒラルダ賞)を開催したばかり、ヨーロッパ映画賞ノミネーションの発表がある国際映画祭として経験豊富、第31回となるヨーロッパ映画賞授賞式もセビーリャで行われました。因みに受賞作品は、ゴヤ賞2019ヨーロッパ映画賞にも名を連ねているポーランドのパヴェウ・パヴリコフスキの「Cold War」でした。スペイン語と英語字幕入りで上映され、国際映画祭の基準を満たしています。セビーリャは、2000年のバルセロナに続いて、マドリード以外の3番目のゴヤ賞ガラ開催都市になりました。
★作品賞にノミネートされた映画は既に作品紹介を記事にしておりますので、今回はまだ本邦ではあまり馴染みのない新人監督4名を纏めてみました。こちらもそれぞれ作品紹介はしておりますが、3人が女性監督という異例の年になりました。なかでアランチャ・エチェバリアが、ラテンビート2018に来日したこともあって一番知名度があるでしょうか。
◎アランチャ・エチェバリア*『カルメン&ロラ』
1968年ビルバオ生れ。二人の主役サイラ・ロメロ(ロラ役)とロシー・ロドリゲス(カルメン役)に挟まれてポーズをとる監督(2018年8月27日)。カンヌ映画祭2018併催の「監督週間」上映作品。ゴヤ賞ノミネーション7部門8個(作品・新人監督・オリジナル脚本・オリジナル歌曲・助演女優・新人男優・新人女優2)、4作のうち作品賞にノミネートされたのは『カルメン&ロラ』だけ、Netflixで配信されていることを考慮すると先頭を切っているのではないか。
*監督紹介記事は、コチラ⇒2018年05月13日
(左から、サイラ・ロメロ、監督、ロシー・ロドリゲス、2018年8月27日)
◎セリア・リコ*「Viaje al cuarto de una madre」
1982年セビーリャ生れ。アランチャ・エチェバリアのすぐ後ろを走っているのがセリア・リコ。先週開催されたフェロス賞では脚本賞を受賞した。ほかにロラ・ドゥエニャスが主演女優賞、アンナ・カスティーリョが助演女優賞、正式カテゴリーではないが観客賞を受賞しているのが大きな強みです。ゴヤ賞では4部門(新人監督・主演女優・助演女優・編集)、フェルナンド・フランコの編集賞は射程距離に入っているか。
*監督紹介記事は、コチラ⇒2019年01月06日
(第6回フェロス賞ガラでのセリア・リコ、2019年1月19日)
◎アンドレア・ハウリエタ*「Ana de día」
1986年パンプローナ生れ。デビュー作「Ana de día」はマラガ映画祭2018コンペティション部門にノミネートされ、その他国際映画祭ノミネーション、及び受賞多数。主役のアナには、フェロス賞授賞式でメイン司会者を務めたイングリッド・ガルシア・ヨンソンが2役を好演したがノミネーションされなかった。今回ゴヤ賞ノミネーションは1部門のみ。
*監督紹介記事は、コチラ⇒2019年01月08日
(本作撮影中のアンドレア・ハウリエタ)
◎セサル&ホセ・エステバン・アレンダ*「Sin fin」
セサル・エステバン・アレンダ(弟)とホセ・エステバン・アレンダ(兄)兄弟。マラガ映画祭正式出品作品、メランコリックなSFロマンス。ゴヤ賞では1部門ノミネーション、主演のハビエル・レイとマリア・レオンは残念ながら選外だった。
*監督紹介記事は、コチラ⇒2018年04月21日
(左側がホセ、エステバン・アレンダ兄弟、2018年10月22日、マドリードのプレス会見にて)
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