第3回コロンビア映画上映会②*インスティトゥト・セルバンテス東京2018年11月28日 18:12

             サミル・オリベロスのデビュー作『ディア・デ・ラ・カブラ』

 

1113日上映作品サミル・オリベロスのデビュー作『ディア・デ・ラ・カブラ』の舞台は、カリブ海に浮かぶ美しいプロビデンシア島、観光地化されているサンアンドレス島から北へ80キロに位置し、5000人足らずの住民は、英語、スペイン語をベースにしたクレオール語を話す。ニカラグアから240キロとコロンビアより近いので、両国は長年統治権を争っていたが、1991年国際司法裁判所がサンアドレス、プロビデンシアを含む7島の統治権をコロンビアに認めた。コロンビア人でさえ知ってる人は多くないとか。そんな島で喧嘩ばかりしている兄妹(姉弟?)と不運なヤギが繰り広げる可笑しなロードムービー。オリジナル・タイトルはBad Lucky Goatです。

   

          

           (オリジナル・タイトルのポスター、SXSW映画祭)

    

★監督はボゴタ出身の28歳、ニューヨークのビジュアル・アート・スクールで映画を学んでいる。2014年短編Morphoを撮っているほか、詳細が検索できなかった。

   

        

            (サミル・オリベロス監督、SXSW映画祭2017にて)

 

 『ディア・デ・ラ・カブラ』(「El dia de la cabra」「Bad Lucky Goat」)2017

製作:Solar Cinema S.A.S.

監督・脚本:サミル・オリベロス・サイド

撮影:ダビ・クルト

音楽:エルキン・ロビンソン

編集:セバスティアン・エルナンデス

キャスティング:カルロス・メディナ

プロダクション・デザイナー:ルル・サルガド

製作者:アンドレス・ゴメスD.、ジーン・ブッシュ

 

データ:コロンビア、クレオール語、2017年、ミステリアス・コメディ、76分、撮影地プロビデンシア島、期間20日。コロンビア公開2017119

映画祭・受賞歴:サウス・バイ・サウスウエスト映画祭 SXSW(グローバル部門)、トロント映画祭、ミルウォーキー映画祭、ロンドン映画祭、ムンバイ映画祭、フィラデルフィア映画祭(Archie賞受賞)、デンバー映画祭、パシフィック同盟国映画祭(オタワ)など、いずれも2017年開催。

 

キャストHonlenny Huffington(コーン)、キアラ・ハワード(リタ)、ラモン・ハワード、エルキン・ロビンソン、マイケル・ロビンソン、ジーン・ブッシュ、フェリペ・カベサス、他

 

ストーリー:喧嘩ばかりしているリタとコーンの姉弟のミステリアスなロードムービー。リタは父親の軽トラックを運転中にコーンと言い争いをしていたせいで何かを轢いてしまう。放し飼いにされているヤギだった。おまけに父親の軽トラのフロントバンパーを壊してしまった。ヤギの死体はどうしよう? 両親に内緒で軽トラの修理代を捻出するには? というわけで二人は喧嘩しいしい知恵を絞るのだが・・・仲直りの冒険にいざ出発。

 

          不運なヤギの名前はヴィンセント・ヴァン・ゴート  

 

A: アフリカ系コロンビア人の島民5000人の10パーセントがエキストラを含めて映画作りに参加したそうです。上映会には家族揃って見に来た。まだ観光地化されていないせいか、本土のコロンビア人でも島の存在を知らない人が多いとか。

B: 美しいショットの数々、プロビデンシア島に今も息づく文化、伝統、音楽、宗教、クレオール語など、コロンビア大使館が一丸となって宣伝する意気込みが理解できた。コロンビア映画の多様性を知ってもうためにも、麻薬密売やテロリストなどがスクリーンに現れない映画を紹介したかった。 

 

         

        (父親の軽トラックの修理代に思案投げ首のコーンとリタ)

 

A: 英語をベースにしたクレオール語の印象でした。キャストの苗字を見ても、ハワードとかロビンソンです。最初に入植したのが17世紀初めのイギリスのピューリタンという影響でしょうか。その後スペイン人がイギリス人を追い払ったようです。

B: 全編がリアリズムで押していくのですが、それがいわゆるマジックリアリズムで。ヤギは島中に放し飼いになっている。不運なヤギの名前は、ヴィンセント・ヴァン・ゴートとおちゃめ。

A: ストーリーもユーモアが溢れていて、時間がゆるやかに流れている。都会の子供にはちょっと残酷に思えるシーンもありましたが、自己責任などという言葉とは無縁かな。

    

        

    (ヤギを肉屋に売る名案を思いつき肉屋に向かうヤギとコーンとリタの3人組)

 

          

         (怪しまれつつもなんとかヤギを肉屋に買ってもらえた二人)

 

B: 兄弟姉妹がライバル意識をもって張り合っている構図は、どこの家庭にも見られること。字幕ではリタが妹だったように記憶していますが、お姉さんの印象でした。

A: 長幼の序は日本ほど厳しく区別しません。単車のドライバーは写真のようにコーンでしたが、軽トラックの運転はリタでした。監督によると自身の姉妹との関係が、二人のアクションや会話に投影されているということです。彼女も参画しているようです。

 

       

            (両親に自分の正当性を訴える、コーンとリタ)

          

B: 島にもミニ・カジノがあって、闘鶏が大人の娯楽の一つになっている。でもアタマを利かせれば子供も入れちゃうのが可笑しい。ここで二人は大儲けする。

A: ガルシア・マルケスの短編『大佐に手紙は来ない』や、イニャリトゥの『アモーレス・ぺロス』を持ちだすまでもなく、ラテンアメリカでは盛んです。元手のかからないギャンブルだからでしょう。 

           

            (修理代を稼ごうと二人が紛れ込んだ闘鶏場)

 

          「島を舞台に映画を撮る」が最初にありき

 

B: サミル・オリベロス監督によると「映画を撮る前にプロビデンシア島を訪れ、全編ロケはここにしよう、さらにスペイン語ではなく島の人々が話す、英語をベースにしたクレオール語で撮ることも決めた」と語っている。

A: 島の根っことなる文化やクレオール語を回復させることが動機のひとつだった。ジャマイカに住んでいる女友達と一緒に島めぐりをしたとき聞いた「まだ人通りのない早朝にヤギでなく牛を轢いて途方に暮れた」話がヒントになっている。島を舞台にして撮りたかったようです。撮影は20日間の日程、ボゴタから18人のクルーで乗り込み、現地の35人と合流した。撮影機材を運ぶのに船や飛行機を使用したのでコストも掛かり、制作会社としては大きな挑戦だった、とプロデューサのアンドレス・ゴメス

 

B: 本作は「島の文化を回復させるのに良い機会だった」わけです。特に印象的なのが音楽、オリジナル歌曲8作が含まれているCDが発売されている。アフリカ系の打楽器とスペイン人がもたらした弦楽器に手作りの楽器の混交で演奏されていた。エルキン・ロビンソンは島のミュージシャンだそうです。自作の楽器で演奏しているシーンも出てきました。

 

            

          (多分、この中にエルキン・ロビンソンもいる?)

 

A: ジーン・ブッシュもプロビデンシア島の人で、プロデューサーと役者の掛け持ち、どの役か分かりませんが、想像するに質屋さん役かもしれない。「本作のミステリアスなところが私を捉えた。島に魅せられた監督に協力したかった。映画が100%クレオール語で撮られたことは重要。こういう例はコロンビア映画では皆無です。私たちの言語が失われない機会にもなった。今ではサンアンドレス島でも3040%の人しかクレオール語を理解できない」とも語っていた。

B: 言語は思考のもとですから。

 

            

             (二人が貰った時計を持ち込んだ質屋さん)

 

A: 主人公を演じたHonlenny Huffingtonキアラ・ハワードの二人は映画や音楽の愛好家で、キャスティングを決める段階で監督の頭の中にあったという。男の子は音楽家になる夢をもつ子供、女の子は少し年上で自説を曲げないタイプの見栄っ張りの子供を構想していた。コーンはハモニカが得意だった。二人とも演技がとても自然で直ぐ決まったという。

B: やはり姉弟のようですね。仕切っていたのはリタだった。

       

     

             (リタがけなしたハモニカを吹くコーン)

 

B: アンドレス・ゴメスは「テキサスのサウス・バイ・サウスウエスト映画祭でワールド・プレミアできたことが大きかった」とインタビューで語っていた。ヨーロッパでもスイス、フランス、ロシアなどの上映の足掛かりになったと。

A: 大使館の方の挨拶では、若い世代に浸透し始めたクラウド・ファンディングで61,000ドルの資金を集めたと紹介されました。今度は日本で撮りたいとも。お薦めできませんが(笑)。