第3回コロンビア映画上映会2018①*インスティトゥト・セルバンテス東京2018年11月26日 17:18

        新人ナタリア・サンタのデビュー作『ドラゴンのディフェンス』

 

★去る1113日~14日の2日間「コロンビア映画上映会2018」がありました。4作のうち1日目のナタリア・サンタ『ドラゴンのディフェンス』(「La defensa del dragón2017)とサミル・オリベロスのコメディ『ディア・デ・ラ・カブラ』(「El dia de la cabra2017)の2作を楽しんできました。2日目の『マテオ』『ママ』はチャンスを逃しましたが、マリア・ガンボアの『マテオ』は2014年の話題作、モントリオール、アカデミー外国語映画賞の前哨戦といわれるパームスプリングス、マイアミなどの各映画祭に正式出品され、アカデミー外国語映画賞2015のコロンビア代表作品にも選ばれた。第1回イベロアメリカ・プラチナ賞初監督作品賞にもノミネートされた。

 

★昨年の第2回は、『彷徨える河』、『ロス・オンゴス』、『グッド・ピープル』(「Gente de bien」)、『土と影』の4作、公開または映画祭上映作品が多かった。今回は日本初公開作品が並び、日本語字幕が英語字幕に急遽変更されるのではないか不安でしたが、コロンビア大使館職員の奮闘のお蔭で日本語字幕入りでした。ナタリア・サンタの『ドラゴンのディフェンス』、ドラゴンは出てきませんが期待通りだったのでアップいたします。

 

         

          (ポスターをバックにナタリア・サンタ監督)

   

『ドラゴンのディフェンス』は、2017年のカンヌ映画祭併催の「監督週間」に正式出品された折り、作品紹介をいたしました。コンパクトにストーリーを再録しますと、コロンビアの大都会の片隅で暮らす、年代の異なる旧知の友人たちサムエル、マルコス、ホアキンの3人の再出発物語。ボゴタの急激な変化に取り残されつつも、良き時代であった過去の思い出に安住している。人生のカウントダウンが既に始まっている男たちを、ある種のノスタルジーを込めて淡々と語っていく。やがて3人にも各々転機が訪れ再出発を迫られる。

 原題La defensa del dragón」の作品・監督紹介は、コチラ20170505

 

            到達できない何かを期待している男たち

 

A: 1年半前にアップした当ブログを検索していたら、ボゴタ在住の日本人の方からコメントを頂いていたことが分かった。それもこの『ドラゴンのディフェンス』にサムエルと対局する中国人チェスプレーヤー役で出演しておられた平入誠さんという方でした。もう驚くやら申し訳ないやらで。

B: ブログ始まって以来のサプライズ、では早速、平入誠さんにご登場いただきましょう。

 

      

    (左からサムエル、中央がサムエルの娘役の女の子、野球帽を被った平入誠さん)

 

A: コメントにはコロンビアでも話題になっているとありました。デビュー作が「監督週間」とはいえノミネーションされるのは、そんなに容易いことではありませんし、本作はカメラドール対象作品でもありました。残念ながら無冠でしたが、その後、エルサレム、ワルシャワ、テッサロニキ、フランスのヴィルールバンヌ(イベロアメリカ映画部門)など、各国際映画祭に正式出品されました。

B: イベロアメリカ・プラチナ賞2018初監督作品賞やマコンド賞(録音部門)にもノミネートされた。

 

A: さて、一番若い50代のサムエル(ゴンサロ・サガルミナガ)を軸にして物語は展開する。彼は三流どころのチェス・プレーヤーだが弟子を育て、地区のトーナメントに出場させようとしている。他に数学の家庭教師をしており、生徒の母親に魅力を感じている。どうやら離婚か別居のようだ。サムエルが借りている質素なアパートの家主は、母子家庭の設定か、ここにも父親の姿はない。勉強を見てやっている思春期の娘フリエタ(ラウラ・オスマ)に迫られている(笑)。

 

        

           (露出度の高い洋服で迫るフリエタとサムエル)

 

B: このチグハグがいかにも可笑しい。思う人には思われず、思わぬ人に思われて。本作はコメディでもある。

A: 娘を引き取って離婚した妻は再婚しており、現在10歳になる娘、上記の写真に映っていた女の子ですが、一緒に過ごすこともできる。円満離婚のようだが、本作に登場する家族像は以前とは様変わりしている。

 

        

        (弟子の対局を見守る、ホアキン、マルコス、サムエルの3人組)

 

B: スペイン出身の70代のマルコス(マヌエル・ナバラ)は、ホメオパシー療法の医師だが患者が減り続けている。ナバラ自身も実際にスペイン出身だそうですね。

A: 医師なのにマリファナ依存症で運任せの勝負事に人生を賭けている。ホセフィナ(ビクトリア・エルナンデス)という看護婦と同居しているが、家族はスペインにいるという設定です。息子が彼の年金を送金してこないので理由を調べなくてはと思っている。

B: 理由が分かるのはラスト部分、ほかにスクリーンに登場はしない息子の秘密も明らかになる。ホセフィナも彼のもとを去り、大きな転機を迎えることに。

 

            

        (息子の最期と秘密を淡々と話すマルコス、聞き入るサムエルとホアキン)

      

B: 60代半ばのホアキン(エルナン・メンデス)は、時計店を営んでいるがデジタルは扱わないので、このご時世では客足はさっぱりです。家賃の督促を受けている。

A: 親から受けついだ時計店も今や風前の燈火。彼も一人暮らしだが、追い追い息子がいることが観客にも分かってくる。三人の共通項は既婚者だったが現在は一人ということ。いずれ我も行く道だから切ない。各自何かが足りないが、それでも何かを期待している

B: ホアキンは職人気質が裏目になり、時代の波に乗れないが、やがて彼にも転機が訪れる。

 

         

             (黙々とアナログ時計に固執するホアキン)

 

        愛、希望、夢がスクリーンに現れなくても人生は捨てたものじゃない

  

A: カメラは少ししか動かないか静止している。そして注意深く細部を映しだす。撮影監督のイバン・エレーラはサンタ監督の夫君です。エレーラが長年撮りためてきたボゴタ市の風物が本作の原点になっていると監督が語っている。映画の色調にそって暗く、現代のボゴタが過去のボゴタにワープしたような印象を受けます。

B: しかし表層的には動きがゆっくりでも、じゃあ退屈かというと、そういうわけではなく、内面が少しずつ変化していくのが感じられる。

 

A: ボゴタで一番古いチェス・クラブ「Laskerの存在を知り、トーナメント観戦などをしながら取材していった。チェス・プレーヤーのサムエルを主人公にした映画を構想していった。3人のうちでも丁寧に描かれていたのがサムエルでした。

B: それはタイトルの『ドラゴンのディフェンス』にも表れている。チェスは皆目分かりませんが、ウイキペディアのにわか勉強によると、ドラゴン・ヴァリエーションはチェスのオープニングのシシリアン・ディフェンスの変化の一つで最もポピュラーな定跡らしい。

A: サンタ監督もチェス・ファンではないとか。シシリアン・ディフェンスは他より勝率が高いということで、つまりドラゴンは出てきません(笑)。このタイトルに決まるまで時間を要したとカンヌで語っていた。

  

     

               (チェス・クラブ「Lasker」内部)

 

B: クラブ「Lasker」の他にも、カジノ・カリブ、老舗カフェテリア「ラ・ノルマンダLa Normanda」が登場していた。

A: コロンビアは「エストラート」といわれる階層社会で6段階に分かれている。しかしそれは表向きで、「1」にも含まれない「0」もあり、一握りの金持ちと権力者の所属する「6」も「6-」「6+」など細分化されている由。ボゴタ市は階層によって暮らす地区が色分けされている。この3人のエストラートはどこらへんなのか。

          

B: もう1作がサミル・オリベロスのデビュー作『ディア・デ・ラ・カブラ』17、コメディ、76)、こちらには正真正銘のカブラことヤギが登場します。クラウド・ファンディングで資金を集めたと大使館の方が紹介しておられた。

 

      

A: 人口5000人というカリブ海に浮かぶ美しいプロヴィデンシア島が舞台、言語がクレオール語と、コロンビア映画の多様性、裾野の広がりを感じさせる映画でした。フィラデルフィア映画祭、テキサス州オースティンで開催されるサウス・バイ・サウスウエスト映画祭SXSW2017でも好評だったらしく、ストーリーも興味深いものでした。紹介は後日に回したい。