『或る終焉』ミシェル・フランコ*患者と共に死に向き合う ① ― 2016年06月15日 17:30
癒やされない喪失感と孤独、そして愛についての物語
★ミシェル・フランコの『或る終焉』という邦題で公開中の“Chronic”は、カンヌ映画祭2015の脚本賞受賞作品、当時、本作の受賞を予想した人はそう多くはなかったでしょう。そうそうパルムドールがブーイングという年でしたね。デビュー作“Daniel & Ana”(09)がカンヌ映画祭と併行して開催される「監督週間」、第2作『父の秘密』(12“Después de Lucía”)がカンヌ映画祭「ある視点」のグランプリ、そして本作がコンペティション部門の脚本賞と順調に1段1段、階段を上っている。カンヌ以降、多数の国際映画祭に招待されたが、受賞はカルタヘナ映画祭2015での「Gemas賞」1個にとどまった。当ブログで第3作目としてご紹介した“A los ojos”(2013、“In Your Eyes”、妹ビクトリアと共同監督)は、第11回モレリア映画祭2013で上映されていますが、公開は順序が逆になり今年5月20日にメキシコで限定上映されました。
★医学の進歩とともに終末医療は、以前とは比較にならないほど引き伸ばされ、死が生の一部であることを感じさせるようになりました。時には自分の最期を自ら選ばなくてはならなくなってもいる。それにつれて別の世界に入ろうとしている人の命と向き合いながら自宅でケアし、最後には看取るという孤独な新しい職業が成立した。細心の注意をはらって患者の恐怖心を和らげることが求められる厳しい職業です。終末医療の看護師とは、医療技術は勿論のこと、忍耐と心の平静、冷静な判断が求められる。以前当ブログで、「『父の秘密』同様、フィナーレに衝撃が待っている」と書きましたが、確かに見事な幕切れが待っていました。ネタバレさせずに書くのは容易ではありません。
(2015年5月、カンヌ入りした監督以下主な出演者、左からサラ・サザーランド、監督、
ティム・ロス、ロビン・バートレット、ナイレア・ノルビンド。
他に製作者のガブリエル・リプステイン、モイセス・ソナナなども参加した)
『或る終焉』 (原題“Chronic”) 2015
製作:Stromboli Films / Vamonos Films
監督・脚本・編集(共)・製作(共) :ミシェル・フランコ、
撮影:イヴ・カープ
編集(共):フリオ・ペレス4世
衣装デザイン:ディアス
プロダクション・デザイン:マット・ルエム
音響デザイン:フランク・ガエタ
製作者:ガブリエル・リプスティン、モイセス・ソナナ、ジーナ・クォン、製作総指揮ティム・ロス、ベルナルド・ゴメス、フェルナンド・ペレス・カビラン、エミリオ・アスカラガ・ヘアン
データ:製作国メキシコ=フランス、言語英語、93分、撮影地ロスアンゼルス、メキシコ公開2016年4月8日(メキシコ・タイトル“El último paciente:Chronic”)
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2015脚本賞、カルタヘナ映画祭2015「Gemas賞」受賞。メルボルン、サラエボ、サンセバスチャン(ホライズンズ・ラティノ部門)、ヘルシンキ、釜山、バンクーバー、ロンドン、シカゴ、テッサロニキなど国際映画祭で上映、メキシコでは例年10月下旬に開催されるモレリア映画祭で上映された。
キャスト:ティム・ロス(介護師デヴィッド)、ロビン・バートレット(マーサ)、マイケル・クリストファー(ジョン)、レイチェル・ピックアップ(サラ)、サラ・サザーランド(デヴィッドの娘ナディア)、ナイレア・ノルビンド(デヴィッドの元妻ローラ)、ビッツィー・トゥロック(ジョンの娘リディア)、デヴィッド・ダストマルチャン(レナード)、メアリーベス・モンロー(サラの姪)、カリ・コールマン(サラの妹)、ジョー・サントス、他
解説:終末期の患者をケアする看護師デヴィッドの物語。息子ダンの死をきっかけに妻とは別れ、別の土地で看護師の仕事をしている。サラを見送ったあと受け持ったジョンとの信頼関係は築かれていたが、家族から思いもかけないセクハラ告訴をえて失職する。長く疎遠だった妻と娘が暮らす町に戻ったデヴィッドは、医学を学ぶ娘ナディアと一度は再婚したが今は一人の元妻ローラと、共に悲しみを共有した家族が再会する。やがて新しい患者マーサと出会うが、彼はある難しい決断を求められる。終末期の患者とその家族との関係性が淡々と語られるが、それがテーマではない。ドラマの背後で進行するデヴィッドの深い喪失感と孤独からくる長く深くつづく憂鬱が真のテーマであろう。 (文責:管理人)
(メキシコのタイトル“El último paciente:Chronic”のポスター)
監督紹介:ミシェル・フランコ Michel Franco、1979年メキシコ・シティ生れ、監督、脚本家、製作者。イベロアメリカ大学でコミュニケーションを専攻、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのスタッフとして仕事をした後、ニューヨークの映画アカデミーで監督・演出を学ぶ。短編、TVコマーシャル、音楽ビデオの制作、ルシア・フィルムを設立した。
*主なフィルモグラフィー*(最近の短編は除く)
2001“Cuando seas GURANDE”*
2003“Entre dos”短編 ウエスカ映画祭グランプリ、ドレスデン映画祭短編賞受賞
2009“Daniel & Ana” 監督、脚本、製作 長編デビュー作
カンヌ映画祭2009監督週間正式出品、サンセバスチャン、シカゴほか国際映画祭で上映、フランス、メキシコ、米国ほかで公開
2012 “Después de Lucía”『父の秘密』監督、脚本、製作、編集
カンヌ映画祭2012「ある視点」グランプリ、シカゴ映画祭審査員特別賞、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ作品賞、ハバナ映画祭監督賞
*作品紹介ほか関連記事は、コチラ⇒2013年11月20日
2013“A los ojos”ビクトリア・フランコとの共同監督、脚本、製作、編集
第11回モレリア映画祭2013上映、公開は2016年5月限定上映
2015“Chronic”『或る終焉』省略
2015“Desde allá”製作 (監督ロレンソ・ビガス、製作国ベネズエラ==メキシコ)
ベネチア映画祭2015金獅子賞受賞作品
*作品紹介ほか関連記事は、コチラ⇒2015年8月8日、9月21日、10月8日
2015“600 millas”製作 (監督ガブリエル・リプスティン、製作国メキシコ)
ベルリン映画祭2016パノラマ部門初監督作品賞、アリエル賞2016初監督作品賞受賞作品
*作品紹介ほか関連記事は、コチラ⇒2016年6月1日
*2001年の“Cuando seas GURANDE ”は短編ではなく、「汚職撲滅運動」のキャンペーンの一環として製作された映画の一部を監督したもののようで、メキシコの500館で上映された(スペイン語版ウィキペディア)。
(フランコ兄妹に挟まれたモニカ・デル・カルメン、“A los ojos”のプレス会見から)
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://aribaba39.asablo.jp/blog/2016/06/15/8112230/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。