マルク・レチャ、息子への愛の賛歌*サンセバスチャン映画祭2015 ⑩2015年10月01日 15:08

        テーマは父性についての考察

 

★結果は無冠に終わりましたが、オフィシャル・セレクションにノミネートされていたマルク・レチャUn dia perfecte per volar (Un dia perfecto para volar)が静かな感動を呼び起こしていたようです。オリジナル版はカタルーニャ語です。父親と7歳になる息子ロックの物語。子供は父親手作りの凧を空高く揚げたいと思っている。風が吹いてくるが一人で揚げられない、凧の糸が灌木の茂みに引っ掛かってしまって解けない、父親の手助けが必要だ。自然のまっただ中で、父と子はゆったりと過ごす。息子にせがまれて、父親はいつもお腹をすかしている巨人の話、幻覚キノコや赤い耳のウサギの話を語っている。次第に現実と幻想の境がぼやけていく。これは父性とは何かについての個人的な考察だ。

 


    (サンセバスチャン映画祭に出席した出演者とスタッフ、右端がレチャ監督)

 

  Un dia perfecte per volar (Un dia perfecto para volar)

製作:Batabat / カタルーニャTV / スペイン国営テレビTVE

監督・脚本:マルク・レチャ

撮影:Helene Louvart

音楽:パウ・レチャ(監督の兄弟)

データ:スペイン、カタルーニャ語、2015年、ミニ長編の70分、撮影地バルセロナ近郊のガラフGarraf自然公園(シッチェス市)、スペイン公開1023

キャスト:セルジ・ロペス(父親)、ロック・レチャ(息子)

 


           (凧を飛ばそうとするセルジ・ロペスとロック少年)

 

★子を演じるのは、いや演じているのではないようだが、監督自身の息子ロック、未だ上の前歯が生えかわっていない。幼児というほど幼くないが少年ともいえず、現実と幻想の垣根が低い年頃だ。サンタの存在に疑いを抱き始めているが、毎年枕元にあったプレゼントを忘れない。この年頃は短く、総じて体験主義者だから存在しているほうに傾く。カメラの前でも物怖じしない。撮ってるのは大好きなパパだし、パパ役はお隣りの小父さんだから、子供は自由で自然にふるまっている。ここに出てくる父親は、私たちが見なれている、生涯にわたって息子を苦しめる映画の対極にあるようだ。

 


           (大空に舞い上がった凧、ガラフ自然公園にて)

 

★父親にはセルジ・ロペス、セルジ・ロペスで思い出すのは、ギジェルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』で憎きファッシスト、少女の義父になったビダル大尉だ。しかしここでは息子に限りない愛をそそぐ父親になった。レチャ監督とロペスは友人というよりお隣りさん、だからロックにとっては隣りの小父さんにすぎない。「カメラの前でも緊張せず、つまり息子を俳優にする必要がなかったんだ」と監督。ドキュメンタリーの手法を活用しているが、これはあくまでもフィクション、撮影は地中海沿岸近くのガラフ自然公園で期間はたったの5日間だった由。テクノロジーを使用せず、大量消費とは無縁だが、こういう映画の編集は難しかったのではないかと想像する。

 


           (撮影中の監督とロック、こちらは実際の父子)

 

★ここに出てくるのは、手作りの凧、子供とその父親、人気のない小高い山、鄙びた自然の美しさ、父親が語る巨人の話、多くのスタッフや多額の資金も必要なく、ささやかな家族の物語が綴られる。しかし最後に観客は一緒に歩いてきた小道に落ちていたものが何だったかを理解するのではなかろうか。イングマール・ベルイマンのように生涯子供を罰したり苦しめたりする映画の対極にあるように思えます。テクノロジー優先の映画に食傷気味のシネマニアにも殊のほか好評で、特に子供のいる人々にはある種の感動を呼び起こしたようです。勿論退屈だった観客もいたわけで、みんなを満足させる映画などありません。それでもセルジ・ロペスの素晴らしい演技を褒める批評家が多かった。商業的な成功を求めずに撮ったにもかかわらず、1023日にスペイン公開が決定している。

 

   監督紹介&主なフィルモグラフィー

マルク・レチャ監督は、1970年バルセロナ生れ、監督、脚本家、デビュー作のEl cielo sube1991)以外、カタルーニャ語で映画を撮っており、ドキュメンタリーの映像作家としての評価も高い。1988年から数多くの短編を発表、デビュー作“El cielo sube”は、トゥリア賞(第1作作品賞1993)、ムルシア・ウイーク・オブ・スパニッシュ・シネマ賞(第1作作品賞1992)を受賞した。第2L’arbre de les cireres(“Tree of Cherries1998)が、ロカルノ映画祭で国際映画批評家連盟賞、トゥリア賞の新人監督賞、シッチェス映画祭カタラン賞などを受賞、第3Pau i el seu germa(“Pau and His Brother2001)が、

カンヌ映画祭にノミネートされ国際的な知名度をあげたほか、オンダス賞の監督賞を受賞した。第6Petit indi(“Little Indi2009は、ガウディ賞にノミネートされ、新作の主役セルジ・ロペスが出演している。基本的にはカタルーニャ語にこだわって映画を撮っているが、スペイン語、英語などが混在している作品も多い。

 

 

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