「批評家週間」にラテンアメリカから2作*カンヌ映画祭2015 ③2015年05月19日 13:35

 


         秀作の予感がする“La tierra y la sombra

 

★今年54回を迎える「批評家週間」のオフィシャルは7本、うちラテンアメリカから選ばれたのが、コロンビアのセサル・アウグスト・アセベドのデビュー作La tierra y la sombra2015)とアルゼンチンのサンティアゴ・ミトレLa patota2015、“Paulina”のタイトルで上映)の2本です。デビュー作または2作目ぐらいから選ばれるから知名度は低い。しかし新人とはいえ侮れない。ここから出発してパルムドールに到着した監督が結構いますから。まずコロンビアの新人セサル・アウグスト・アセベドの作品から、予告編から漂ってくるのは心をザワザワと揺さぶる荒廃と静寂さだ。

 


★地元コロンビアでは「1100作品の中から選ばれたんだって」と、このビッグ・ニュースに沸いている。初めて目にする監督だしキャストも、マルレイダ・ソト以外はオール新人のようですが、地元メディアも「この高いレベルをもった映画が、我が国の映画館で早く鑑賞できるよう期待している」とエールを送っている。Burning Blueが主たる製作会社なのも要チェックです。ここでは簡単に紹介しておきますが、後できちんとアップしたい映画であり監督です。

 

La tierra y la sombra(“Land and Shade”)

製作Burning Blue(コロンビア)、 Cine-Sud Promotion(仏)、Tocapi Films(蘭)、

Rampante Films(チリ)、Preta Porte Films(ブラジル)

監督・脚本セサル・アウグスト・アセベド

製作国コロンビア、仏、オランダ、チリ、ブラジル

データ2015年、言語スペイン語、97分、撮影地コロンビアのバジェ・デル・カウカ、製作費約57万ユーロ、ワールド・プレミアはカンヌ映画祭2015「批評家週間」

 


受賞歴・援助金:カルタヘナ映画祭2014で監督賞。2009年コロンビア映画振興より5000ドル、2013年「ヒューバート・バルス・ファンド」より脚本・製作費として9000ユーロなど

Hubert Bais FundHBF’(1989設立):オランダのロッテルダム映画祭によって「発展途上国の有能で革新的な映画製作をする人に送られる基金」、ラテンアメリカ、アジア、アフリカの諸国が対象。当ブログでアップしたコロンビアの監督では、昨年東京国際映画祭で上映された『ロス・ホンゴス』オスカル・ルイス・ナビアが貰っている。
本作の記事はコチラ
20141116

 

キャスト:ハイマー・レアルHaimer Leal(アルフォンソ)、イルダ・ルイスHilda Ruiz(妻アリシア)、エディソン・ライゴサEdison Raigosa(息子ヘラルド)、マルレイダ・ソトMarleyda Soto(嫁エスペランサ)、フェリペ・カルデナスFelipe Cardenas(孫マヌエル)他

 

         (17年ぶりに帰郷した祖父アルフォンソと孫のマヌエル)

 

プロット:サトウキビを栽培する農民一家の三世代にわたる物語。アルフォンソは17年前、妻と一人息子を捨てて故郷を後にした。老いて戻ったきた故郷は自分の知らない土地に変わり果てていることに気づく。アリシアは土地を手放すことを拒んで家族を守ろうと懸命に働いている。重病のヘラルドは母親を助ける力がない。気丈なエスペランサは姑と共に闘っている。小さなマヌエルは荒廃の真っただ中で成長していた。家族は目に見えない脅威にさらされ家族は崩壊寸前だった。アルフォンソは愛する家族のためにも過去の誤りに直面しなければならなかった。粗末な家と荒々しいサトウキビ畑に取り囲まれた1本の樹、ミクロな視点でマクロな世界を照射する。

 

           (サトウキビ畑で働くエスペランサとアリシア)

 

解説:背景に前世紀から続いているコロンビア内戦が透けて見える。長い年月をかけて温めてきたテーマを静謐に描いているようだ。脚本執筆中に母親を失い、その中でゴーストのようになった父親、「この映画のテーマは個人的な悲しみから生れた」と監督。そういえば『ロス・ホンゴス』のルイス・ナビアも同じようなことを東京国際映画祭のQ&Aで語っていた。揺るがぬ大地のような女性たち、危機のなかで影のように彷徨う男性たち、平和を知らないで育つ子供たち、ここにはコロンビア内戦の爪痕が色濃く漂っている。ラテンアメリカ諸国でもコロンビアは極端な階層社会、貧富の二極化が進んでいる。二極化といっても富裕層はたったの2パーセントにも満たない。世界一の国内難民約500万人を抱えている国。社会のどの階層を切り取るかで全く違ったコロンビアが見えてくる。

 

トレビア:製作は5カ国に及ぶ乗り合いバスだが、ラテンアメリカの若い世代に資金提供をしているのが、コロンビアのBurning Blueだ。上述した『ロス・ホンゴス』の他、コロンビアではウイリアム・ベガの La Sirga”(2012)、フアン・アンドレス・アランゴ“La Playa D.C.”(2012)など、カンヌ映画祭に並行して開催される「監督週間」や「批評家週間」に正式出品されているほか世界の映画祭に招待上映されている。ホルヘ・フォレロの“Violence”はベルリン映画祭2015の「フォーラム」部門で上映、それぞれデビュー作です。アルゼンチンのディエゴ・レルマン4作目Refugiado2014)にも参画、本作は2014年の「監督週間」で監督キャリア紹介も含めて記事をアップしています(2014511)。

 

セサル・アウグスト・アセベドCésar Augusto Acevedoはコロンビアのカリ生れ、監督、脚本家。『ロス・ホンゴス』の助監督&脚本を共同執筆する。短編“La campana”(2012)はコロンビア映画振興基金をもとに製作した。

 

エスペランサ役のマルレイダ・ソトMarleyda Sotoは、カルロス・モレノの力作“Perro come perro”(2008)の脇役で映画デビュー、同じ年トム・シュライバーの“Dr. Alemán”では主役を演じた。麻薬戦争中のカリ市の病院に医師としてドイツから派遣されてきたマルクと市場で雑貨店を営む女性ワンダとの愛を織りまぜて、暴力、麻薬取引などコロンビア社会の闇を描く。本作の製作国はドイツ、言語は独語・西語・英語と入り混じっている。カルロヴィヴァリ、ワルシャワ、ベルリン、バジャドリーなど国際映画祭で上映された。本作も撮影地はLa tierra y la sombra”と同じバジェ・デル・カウカでした。