アントニオ・レシネス*映画アカデミー新会長 ― 2015年05月11日 16:27
厄介ごと“marrón”を引き受けたアントニオ・レシネス
★5月9日、正式に新会長に承認されました。本当は引き受けたくなかったようですが、真面目で誠実、ユーモアのセンスで困難を乗りきるだろう、というのが巷の大方の意見です。第一副会長のグラシア・ケレヘタ監督並びに第二副会長の製作者エドモン・ロチの3人の顔ぶれについては既に紹介しております(コチラ⇒4月3日)。
(スペイン映画アカデミーの新旧二人の会長)
★基本路線は前会長エンリケ・ゴンサレス・マチョを踏襲すると明言して承認されたわけですが「行政機関との関係には流動性をもたせたい」と新会長は語っている。これから理事会というか執行部のメンバー14名の選出が始まりますが、各々専門分野から満遍なく選ばれるようです。監督、脚本、撮影、音楽、美術、特殊効果、衣装デザイン、編集、アニメ、等などです。理事会の任期は6年、選挙は本部での投票、郵便、オンラインから選ぶことができる。
★ラホイ国民党政権というか文化省との不協和音はずっと鳴りっぱなしですが、去る4月半ば、関係修復改善の昼食会が、モンクロアの首相官邸で行われました。モンクロアは17世紀に建造された宮殿ですが、1977年よりスペイン首相官邸となっています。政府側からはラホイ首相、マリア・ドロレス・コスペダル幹事長、アカデミー側からはレシネス新会長、製作会社モレナ・フィルム*のフアン・ゴルドン、ダニエル・カルパルソロ監督などが出席した。どうして肝心の文化相以下、お役人たちが出席していないかというと、コスペダル幹事長の肝いりで開催されたから。文化省内には自分たちの頭越しに企画された会合が気に入らずカンカンに怒っている人もいるとか。いやはや、こんなことで修復改善はできるのでしょうか。
*Morena Films :1999年設立の映画製作会社、フアン・ゴルドンは設立者の一人。ダニエル・モンソンの『プリズン211』(09)、イシアル・ボジャインの『雨さえも~ボリビアの熱い一日~』(10)、パブロ・トラペロの『ホワイト・エレファント』(12)、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー』(12)など話題作を送り出している。
★アメリカとキューバも仲直りしたいと握手しましたが(脚は蹴飛ばしあっている?)、こちらの対立はなかなか根深い。2時間半の昼食会で、何が話題になったかというと、勿論映画は当然ですが、映画新法、負債の割り当て、消費税21%の削減、ラホイとレシネス両人が最近読んだという推理作家フィリップ・カー(1956年エディンバラ)にまで及んだとか。推理小説「ベルリン三部作」、ファンタジー・シリーズ「ランプの精」など邦訳も多い英国スコットランドの作家。日本ではちょっと考えられない話題だよ(笑)。
★消費税21%は如何にも高い、EU内でも最高らしく、これは交渉の余地があるようだ。しかし経済・大蔵省の管轄で文化省がどうこうできる問題ではない。政府が約束した助成金の支払いも遅れているようで、プロデューサーたちからは多くの不満が噴出している。総額1400万ユーロに達する支払いを分割して支払うことが決まっているが実行されていないようです。銀行側が製作側を信用してくれることが必至だが、政府が資金を渡してくれないので信用して貰えない。どうも上手く機能してないようです。
アカデミーはどんな仕事をするの?
★大きい仕事はゴヤ賞の選定、授賞式の開催ですが、その他にも上記のような交渉をやらねばならない。今年、第8回を数える「映画フェスティバル」の企画もその一つ。間もなく始まります(5月11~13日)が、各セッション総入れ替えでチケット代3分の1の2.90ユーロで見ることができる。昨年は延べ8700万人の観客が押し寄せた。ハリウッドに代表される外国映画がお目当てですが、スペイン映画も見てもらえる。今年はまだ大ヒット作はないようですが、「マラガ映画祭」でご紹介した作品賞受賞のダニエル・グスマンのデビュー作“Cambio de nada”、ルケ・アンドレス&サムエル・マルティン・マテオスの“Tiempo sin aire”、時間切れでご紹介できなかったマヌエラ・モレノの“Cómo sobrevivir a una
despedida”、アレホ・フラの“Sexo fácil, pelicula tristes”、他にガルシア・ケレヘタの悲喜劇、マリベル・ベルドゥ主演“Felices 140”などが人気を呼んでいる。
★スペイン国営テレビの「La 2 de TVE」を通して、“Historia de nuestro cine”というプログラムが始まる。1930年代から2000年まで言わば「スペイン映画史」みたいな番組、厳選した690本を3年がかりでゴールデン・タイムに放映する。こんな企画もアカデミーの仕事です。お茶の間が名画劇場に早変わりする。古くはエドガル・ネビーリェ、ブニュエル、ガルシア・ベルランガ、まだフラメンコ映画など撮っていなかった頃のサウラ、初期のアルモドバル作品、などが続々登場します。これについては次回にUPします。
(ガルシア・ベルランガの『ようこそマーシャルさん』1952)
◎ダニエル・グスマンの記事は、コチラ⇒2015年4月12日
◎ルケ・アンドレス&サムエル・マルティン・マテオスの記事は、コチラ⇒2015年4月26日
◎グラシア・ケレヘタの記事は、コチラ⇒2015年1月7日
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