カルメロ・ゴメス*映画界から「サヨナラ」表明 ― 2015年05月01日 21:35
日毎に募る演劇への思い、「これからは舞台に専念したい」
★何か悪い予感がして(笑)、マラガ映画祭に出品されたアンドレス・ルケ&サムエル・マルティン・マテオスの“Tiempo sin aire”をアップした折、彼のキャリアを紹介いたしました。予感的中、映画祭終了後の4月28日、映画界からの正式引退表明をいたしました。なかには映画界復帰や二足の草鞋派もおりますが、ゴメスの性格というか美学からはちょっと考えにくい。この道一筋、いい意味での頑固者カベソン、もうこれでフリオ・メデムやイマノル・ウリベの映画で彼の姿は見られない。“Tiempo sin aire”は結果的にジャスミン賞に絡みませんでしたが、スペイン公開は5月1日です。他に日程はまだ確定しておりませんが、今年中に公開されるのが、ヘラルド・エレーロの“La playa de los ahogados”とダビ・カノバスのデビュー作“La punta del iceberg”(スリラー)の2作、後者が最後になります。

(引退声明をしたカルメロ・ゴメス、「エル・パイス」社にて、2015年4月28日)
★カルメロ・ゴメス Carmelo Gómez Celada は、1962年レオン県のサアグン生れの52歳。最初サラマンカへ移住して3年間、舞台俳優の仕事に専念する。クラリンの代表作『裁判官夫人』(“La Regenta”)などの舞台に立った。その後マドリードに出て、演技学校 Escuela de Arte Dramático に入学、その後 Compañia Nacional de Teatro Clásico への加入が許可された。映画デビューはフェルナンド・フェルナン・ゴメスの“El viaje a ninguna parte”(86)、フェルナンド・コロモのコメディ“Bajarse al moro”(88)に小さい役で出演した。
★彼を有名にしたのは、フリオ・メデムのバスク三部作の第1部『バカス』(91“Vacas”)、第2部『赤いリス』(93)、第3部『ティエラ―地』(96)で、3作ともエンマ・スアレスと共演、『バカス』は東京国際映画祭1992で上映され、ヤングシネマ・コンペティション部門*でメデム監督が東京ゴールド賞と都知事賞を受賞しました。しかし日本の観客を魅了したのは劇場公開されたイマノル・ウリベの『時間切れの愛』(94)でしょうか。フアン・マドリの同名小説の映画化。本作にはその後スペイン映画界で活躍する若いころのハビエル・バルデム、カンデラ・ペーニャ、ペポン・ニエトなどが出演しています。
*本賞は1997年第10回で廃止された賞、現在はありません。

(親マヌエル、息子イグナシオ、孫ペルーと三世代を独りで演じたゴメス。『バカス』から)

(左から、『時間切れの愛』の共演者、カンデラ・ペーニャ、ペポン・ニエト、
ルス・ガブリエル、カルメロ・ゴメス、ハビエル・バルデム)
★ウリベ監督の『キャロルの初恋』(02)も第1回ラテンビート上映後に劇場公開され、ほかにピラール・ミロの『愛の虜』(96)、モンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』(97)、アントニオ・ホセ・ベタンコルの『マラリア』(98)、マヌエル・ゴメス・ペレイラの『スカートの奥で』(99)など、彼ほど公開、映画祭上映、ビデオ発売、テレビ放映の違いはあっても日本語字幕入りで見られた俳優はそう多くないと思います。未公開作品だが話題作となったホルヘ・サンチェス=カベスードのデビュー作“La noche de los girasoles”(06)では主役になり、シネマ・ライターズ・サークル男優賞を受賞している。
★ヘラルド・エレーロの青の旅団をテーマにした“Silencio en la nieve”(11)に出演後、エレーロ作品(上記の“La playa de
los ahogados”など)に連続出演しておりますが、そろそろ舞台に専念したいと「エル・ムンド」のインタビューで語っていた通りになりました。引退には複雑な理由があるようですが、一つにはスペイン映画が芸術愛好家向きになっていることが不満なようです。また映画賞受賞は励みにはなるが中毒を起こさせる危険があることも冷静に受け止めており、自分の限界を知っている俳優が一人いなくなるのは寂しいかぎりです。

(主役フアン・ディエゴ・ボトーと、“Silencio en
la nieve”から)
「小さい子供のような気分だよ」
★ジェットコースターに乗ったような約30年間の俳優人生は一旦終止符が打たれますが、監督とかで復帰はあるかもしれない。本人はジェットコースターより「もっと並外れの上昇と下降」と言ってますが。舞台と俳優志願のクラスで劇作法ドラマツルギーとか、自分の知っていることを後進に伝えたい。「とにかくやりたいことで頭の中は煮えたぎっている」そうです。バロック演劇の劇作家カルデロン・デ・ラ・バルカのコメディ『サラメアの司法官』の準備に忙しく「小さい子供のような気分だ」そうです。人生の折り返し点を迎えた50代の初めは、カウントダウンには少し早いが、本当にやりたい仕事は何かを整理する時期なのかもしれない。ゴメスもそういう年齢になったということか。

(舞台“Elling”に出演のゴメスとハビエル・グティエレス 2012年)
★受賞歴:『時間切れの愛』でゴヤ賞1995主演男優賞、スペイン俳優組合賞ほか受賞、マルセロ・ピニェイロの“El método”でゴヤ賞2006助演男優賞を受賞した。ゴヤ賞では『愛の虜』で主演男優賞、ゴンサロ・スアレスの“El portero”(00)で助演男優賞にノミネートされている。『バカス』でスペイン俳優組合主演男優を受賞している。ほか受賞歴多数につき割愛。
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