今年はスペイン映画界は「黄金の年」だった2014年12月30日 23:07

 スペイン製映画が健闘した1年だった

★間もなく2014年も幕を閉じますが、ハリウッドに負けず劣らずメイド・イン・スペイン映画が健闘した年でした。全体の25.5%は37年ぶり「夢でしか見たことのない」数字だそうです。37年前の1977年がどういう年であったかといえば、フランコ没後2年、民主主義移行期、検閲制度廃止(19764月)後に作られた映画が上映された年ということです。

 

 1977年にブレークした映画

★まず、スペイン映画界を長らく牽引してきたフアン・アントニオ・バルデム19222002)監督のシリアス・ドラマ“El puente”(仮題「夏季休暇」)、これはゴヤ賞2014作品・監督賞を含めて6賞を勝ちとったダビ・トゥルエバの“Vivir es fácil con los ojos cerrados”(ラテンビート上映)にアイデアを与えたという作品です。マヌエル・グティエレス・アラゴン(1942~)の“Camada negra”(映画講座邦題『黒の軍団』、ベルリン映画祭監督部門の銀熊賞)、フェルナンド・フェルナン≂ゴメスの“Mi hija Hildegart”(仮題「わが娘ヒルデガルト」)、ビセンテ・アランダの“Cambio de sexo”(同「性転換」)、ほかハイメ・チャバリ、フェルナンド・コロモ、エトセトラ。

 

★また今年Ocho apellidos vascas5600万ユーロという驚異的な収益金を上げたエミリオ・マルティネス≂ラサロが“Las palabras de Max”(同「マックスの言葉」)でデビューしている。他にもホセ・ルイス・ガルシが“Asignatura pendiente”(同「保留科目」)でデビューし、しばらく検閲に苦しんでいた、スペインで一番愛された映画監督と言われるルイス・ガルシア・ベルランガ19222009)の「ナシオナル」三部作の第1作ブラック・コメディ“La escopeta nacional”(78、仮題「国民銃」)がクランクインして話題を呼んだ年でもあった。

 

 25.5%は今年だけ?

25.5%は2013年の89%増、金額的にいうと、12300万ユーロだそうで、2100万人がスペイン映画を見た勘定になるらしい(消費税増税21%は20134月からだから単純に比較できないと思うが)。その内訳がびっくりもの、第1位“Ocho apellidos vascos”が前述のように5600万(約1000万人)、第2位モンソンの『エル・ニーニョ』1620万ユーロ(270万人)、第3位セグラのトレンテ・シリーズ“Torrente V1070万ユーロ(180万人)、第4位アルベルト・ロドリゲスの“La isla mínima600万ユーロ(100万人)、最近公開されたハビエル・フェセルのシリーズ“Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cochondo”が1128日封切りわずか12日目でチケット売上げが48万枚にも驚きます(3Dのアニメーション)。日本でもいずれ劇場公開間違いなしです。

    

               

                     (フェセル監督を挟んでモルタデロとフィレモン)

 

 全館満席だった「映画フィエスタ」

★ベスト・テンが大方を占めたということはこれまた由々しきこと、ほうっておいていいのかどうか。誰がみても2015年が25.5%を超えられないことは自明のことですから知恵を絞らないといけない。2009年から始まった映画フィエスタ(年1回)を今年は3月末と10月末の2回開催した。これは3日間に限り半額以下の2.90ユーロで見られるという「映画の日」(第7回は1027日~29日の3日間、平日にもかかわらず最高の2196000人が全国361館のスクリーンで見た!)。これは値段が手頃なら観客を映画館に呼び戻せるということです。

 

               

                        (マドリードの映画館での行列、1028日)

 

★また“Ocho apellidos vascos”の快進撃にはバスク自治州政府の熱意と努力も大いに功績があった。マドリード公開時には、「バスクの食と映画」のようなキャンペーン行事を行い、ビトリア市長、バスクの有名シェフ、出演者のカラ・エレハルデが応援に駆け付けて宣伝に一役買った。他にも「ロケ地巡り」の撮影バスツァーを企画、映画のリピーターが押し寄せたとか()。パコ・レオンが“Carmina y amén”の「1日限定の無料上映会」をしたり、それなりの新機軸を出したお蔭だと思います(コチラ⇒1227)。

 

     

      (左ビトリア市長ハビエル・マロト、右カラ・エレハルデ、料理は残念ながらフォト)

 

 トレンタッソ torrentazo とは?

★サンチャゴ・セグラのトレンテ・シリーズは毎回大当たりする、それでトレンタッソという新造語ができてしまった。新作Torrente VOperación Eurovegas”は、ハリウッド・スターのアレック・ボールドウィンを起用したり、盛大に物を壊したせいか製作費が850万ユーロ掛かっている。1070万ではとても喜べない。もっとも10月初めの公開だからこれから数字は伸びると思います。『トレンテ4 』(2011、ラテンビート上映)は、封切り3日間で110万人、840万ユーロを叩きだした。トータルでは1957万ユーロ(製作費1000万)、これは2011年のスペイン製映画の総売上高の5分の1に相当するという。ウディ・アレンのアカデミー賞脚本賞受賞の『ミッドナイト・イン・パリ』でさえ790万ユーロと後塵を拝した。

 

        

          (サンチャゴ・セグラ監督とアレック・ボールドウィン)

 

★ゴヤ賞2012の大賞(作品・監督・脚本・主演男優など6部門)制覇のエンリケ・ウルビスの『悪人に平穏なし』(400万)、アルモドバルの『私が、生きる肌』(460万)などと比較しても、貢献度はピカイチだった。しかしゴヤ賞はノミネーションさえゼロだった。「清く正しく美しく」はありませんが、多くの観客が楽しんだのです。トレンテ・シリーズにはもっと敬意をはらってほしい。 


★第1作にあたる“Torrente, el brazo tonto de la rey”(98)で新人監督賞を受賞しているからゴヤ賞無冠というわけではありませんが、ハビエル・カマラのコメディアンとしての才能に目が止まった作品でした。ゴヤ賞がらみでは、1993年に撮った短編“Perturbado”で短編映画賞、今年のラテンビートで再上映されたアレックス・デ・ラ・イグレシアの『ビースト獣の日』(95)で新人男優賞を貰っている。この二人ほど才能豊かなシネアストは他にそんなにいないのではないか。2015年には揃って50歳になる、大暴れして欲しい。

 

 鬼が笑うノミネーション予想

★“Ocho apellidos vascos”は、フォルケ賞に作品賞と男優賞(カラ・エレハルデ)、今年から始まったフェロス賞に作品賞(コメディ部門)、助演男優・女優とトレーラー賞の4個にノミネートされている。ゴヤ賞の作品賞はドラマとコメディに分かれていないのでノミネーションはアリと思うが受賞は難しいかな。期待できるのは助演の2人カラ・エレハルデとカルメン・マチでしょうか。主演の2人ダニ・ロビラとクララ・ラゴもノミネーションはアリでしょう。作品賞はフォルケ賞に重なるような気がする。発表前にアレコレ言っても始まらないから新春を待つことに。

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