マリア・リポルの新作*モントリオール映画祭観客賞受賞作2014年12月18日 18:04

★マリア・リポルのRastros de sándalo (西≂インド≂仏)については、モントリオール映画祭「フォーカス・オン・ワールド・シネマ」部門で上映、観客賞を受賞した折りにごく簡単にストーリーをご紹介しました(コチラ⇒201496)。言語がカタルーニャ語と英語ということで、当ブログには該当しない作品ですが、バジャドリード映画祭Seminciでも上映され話題になったことや、監督並びに原作者アンナ・ソレル・ポントの紹介も兼ねて記事にしました。11月下旬バルセロナ、アリカンテ、マドリードでプレミア上映された後、1128日にスペインで公開、字幕入り上映ではなく吹替えのようです。

 


      Rastros de sándalo”(Traces of Sandalwood

製作Natixis Coficine / Pontas /

監督:マリア・リポル

脚本・プロデューサー・原作:アンナ・ソレル・ポント

音楽:Zeita Montes ゼイタ・モンテス/シモン・スミス

撮影:ラケル・フェルナンデス・ヌニェス

美術:アンナ・プジョル・タウラー

編集:イレーネ・ブレクア

プロデューサー(共同):リカルド・ドミンゴ(西)/マルク・ド・Gouvenain(仏)

データ:スペイン≂インド≂フランス、カタルーニャ語/英語、201495分、同名小説の映画化、撮影地:ムンバイ、ハイデラバード、バルセロナなど、製作費:約180万ユーロ、20141128日スペイン公開、同118日インド・インディペンデント映画祭上映

 

キャスト:ナンディタ・ダス(姉ミナ)、アイナ・クロテット(妹シータ、パウラ)、Naby Dakhil(プラカッシュ)、Subodh Maskara(サンジャイ)、Godeliv Van den Brandt(ニッキ)他

 

ストーリー:母親の死によって、無理やり引き離されたインドの姉妹の物語。30年の時が流れ、今では姉ミナはボリウッド映画の大スターになっている。別れたとき幼かった妹シータのことが片時も頭から離れない。一方、今ではパウラと呼ばれているシータは、自分が養女であることも知らずに、生物学者としてバルセロナで暮らしている。姉の突然のバルセロナ到着は、インドの記憶がないパウラの世界を激しく揺さぶることになる。パウラはインドからの若い移民プラカッシュの助けを借りてアイデンティティ探しの旅に出ることになる。自分が何者であるか知らずに生きることはできるのか、二人の再会はやがて彼女たち自身の内面を探る旅となるだろう。

 

                

            (ムンバイで暮らしていたころの姉妹)

 

★ストーリーは日常を淡々と語る方法で進行するが、さりげなさの中に複雑な感情を織り混ぜ、唯のロマンティック・メロドラマという非難から救い出している。エル・パイス紙のコラムニスト、ハビエル・オカーニャによると、それはリポル監督の素晴らしい撮影技法が甘美なメロドラマ的な欠点を覆い隠しているからだという。また完全なフィクションでありながら、原作者でもある脚本家ソレル・ポントが、インドの伝統文化を守りながらバルセロナで暮らす移民たちの家族の現実をきちんと描いたからだという。そういう緻密な取材がモントリオールの観客を感動させたのかもしれない。有名女優になった姉が、はるばるムンバイからバルセロナに生き別れの妹を探しにくるという、少し突飛なストーリーでありながら、浮足立っていないということでしょうか。オール女性スタッフとは言えないが、殆どが女性という珍しい布陣にも注目したい。

 

                  

             (姉ミナ役のナンディタ・ダス)

 

★“Rastres de sándal”は、比較的低予算で製作されたにしては良質のメロドラマと高評価です。アンナ・ソレル・ポントとAsha Miróが共同執筆したカタルーニャ語の同名小説(2007年刊)の映画化。ムンバイとバルセロナが舞台となり、撮影もインド、バルセロナと3週間ずつ、予算の関係でそれ以上の日数は掛けられなかったとエグゼクティブ・プロデューサーでもあるソレル・ポントは語っている。製作費180万ユーロのうち、バルセロナ自治州政府から7000ユーロの助成金を受けた。それっぽちと言うなかれ、そのお蔭でプロフェッショナルなスクリプト・エディター、コラル・クルスと契約できたとも語っている。

 

★この映画は、リポルの映画というよりソレル・ポントの映画の感が深い。文末の経歴を読んでいただければ、彼女の熱意のほどが分かります。スペインの映画界は男性優位で女性は低く見られてる。これは多くの女性シネアストの一致した声です。カンヌも似たようなものだが、ハリウッドはもっとヒドイ、女優は使い捨てが当たり前ですから。彼女によると「86回を数えるオスカー賞で、女性の監督賞受賞者は『ハート・ロッカー』(2009)のキャスリン・ビグロー唯一人しかいない」と。この第82回アカデミー賞は元夫婦対決として話題になった年、ジェームズ・キャメロンの3D『アバター』が涙を飲んだ授賞式でした。キャスリン・ビグローは、リポルと同じアメリカン・フィルム・インスティチュートAFIで学んでいますね。

 

★姉にナンディタ・ダスNandita Das1969デリー生れ)、妹に“Elisa K”(2010)で主役のエリサを演じたアイナ・クロテットAina Clotetが演じています。ナンディタは役柄と同じボリウッド映画の大スターですが、アイナ・クロテットは金髪のカタルーニャ人、それでも監督はアイナに拘った。当時、彼女はロスの舞台に立っていたのでEメールでやり取りした。監督は「この役はアイナ以外に考えていない」と口説き落としたようです。 それからアイナの猛勉強が始まった。「生物学から養子縁組の制度まで勉強して、撮影に入るまでにマックスの準備をして臨んだ」と語っています。

   

                            

             (妹パウラのアイナ・クロテット)

 

*キャリアとフィルモグラフィー*

マリア・リポルMaria Ripoll1965年バルセロナ生れ、監督、脚本家。ロスアンジェルス・カリフォルニア大学UCLAで演技指導と脚本作法を学んだ後、ロスのアメリカン・フィルム・インスティチュートAFI1967設立)で演出を学ぶ。在籍中の1993年に撮った短編“Kill me later”が、ドイルのオーバーハウゼン映画祭で観客賞を受賞、以後アメリカで映画やテレビの仕事をする。1998年、ロンドンで撮影したコメディ、長編デビュー作となる“The Man with Rain in His Shoes”(Lluvia en los zapatos)が話題になる。2001年、ロスで撮影したロマンティック・コメディ“Tortilla Soup”(英語・西語)、2003年の第3Utopía”は『ユートピア/未来を変えろ。の邦題で公開された。「私の映画では、有名でない俳優を起用することが重要」と語っていたのですが、当時人気絶頂だった『炎のレクイエム』のレオナルド・スバラグリアと『アナとオットー』のナイワ・ニムリが出演した映画でした。

 


スペインが製作国ということもあるのか一番評価の高いのが、第4作“Tu vida en 65 minutos”(2006)。アルベルト・エスピノサ(1973年バルセロナ生れ)の有名な同名戯曲の映画化、「自分が撮れるなんて信じられない」と語っていたリポル監督、映画のキイ・ポイントは、<><>という重いテーマでした。主役はハビエル・ペレイラ、ロドリーゴ・ソロゴジェンの“Stocholm”でゴヤ賞2014の新人男優賞を受賞しましたが、当時はまだ「有名でない俳優」でした。第5作目が本作です。第6作となるラブ・コメディAhora o nuncaが来年の完成を目指して撮影中、来年のゴヤ賞ガラの総合司会者ダニ・ロビラと『解放者ボリバル』で薄命のボリバル夫人を演じたマリア・バルベルデが夫婦役、クララ・ラゴも脇役で出演します。

 

       

     (左から、バルベルデ、ロビラ、ラゴ 進行中の“Ahora o nunca”)

 

アンナ・ソレル・ポントAnna Soler-Pont 1968年バルセロナ生れ、作家、脚本家、プロデューサー。バルセロナ大学でアラビア哲学を学ぶかたわら、出版社で校正の仕事、編集、翻訳などに携わる。199110月、カイロに1ヵ月滞在、尊敬するノーベル賞作家ナギーブ・マフフーズ(191120061988年受賞)と知り合うことができた。エジプトの多くの女性作家たちと知己を得て、彼女たちからヨーロッパへの作品紹介の翻訳を依頼される。バルセロナに帰国すると作家や編集者とのコネクションを求めて、異なった文化の橋渡しに尽力する。

 


19925月、24歳のとき自ら文学仲介業の代理店ポンタスPontas を設立する。パリ、アムステルダム、フランクフルトなどのブック・フェアに参加して、アフリカ、アラブ、アジアの無名の女性作家の作品紹介及び販売に努める。ポンタスは映画やテレビのようなオーディオビジュアルな媒体にも進出して、アニメーションも製作している。これらのビジネス全てを独学で学んだというからその才能とバイタリティには舌を巻く。1992年には、バルセロナからトルコ、クルディスタン、イラン、パキスタンを通ってインドのニューデリーまで車で走破した。これが本作にも大いに役立っている。現在は文学と映画の橋渡しの仕事に力を注いでいる。

 

作品:“Cuentos y leyendas de Africa”(プラネタ社アフリカの短編のアンソロジー

   Rastros de sándalo”(2007プラネタ社アシャ・ミロとの共著、本作の原作

 

 

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://aribaba39.asablo.jp/blog/2014/12/18/7519351/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。