イサベル・コイシェの新作はサイコ・スリラー”Another Me”2014年07月27日 17:38

★最近「ミス・ワサビ」ことイサベル・コイシェの話題が聞こえないなぁと思っていたら、ホラー映画Another Me2013、英≂西)が、スペイン題Mi otro yo627日公開されました。残念ながら言語は英語です。6月末のことだから、もうニュースじゃないか。その後、立て続けに新作がアナウンスされています。コイシェも1960年生れだから人生の折り返し点に差しかかってきた。

    

                        

            (ソフィー・ターナー、Another Meから

 

★イマイチだった『エレジー』(2008)に続いて『ナイト・トーキョー・デイ』(2009)ではガックリしてしまったのですが、新作は面白そうです。『ナイト・トーキョー・デイ』以来、ガルソン判事のドキュメンタリー、ドラマではAyer no termina nuncaYesterday Never Ends)が「ベルリン映画祭2013」のコンペに出品され、「マラガ映画祭2013」でもエントリーされた。コイシェが銀のジャスミン監督賞、カンデラ・ペーニャが同女優賞、ジョルディ・アサテギが同撮影監督賞・編集賞のダブル受賞をしてマラガでは話題になりましたがヒットしなかった。わが子を失ったことで壊れてしまった夫婦が、5年後にバルセロナで再会するという地味な内容というか、デジャヴュのせいか、経済危機のせいか歓迎されなかったようです。夫婦を演じたのがペーニャとハビエル・カマラと申し分なかったのですが。

 

★さて、前作とがらりとスタイルを変えて登場したAnother Meは、例年11月開催の「ローマ映画祭2013」でプレミアされた。主にイギリスの俳優を起用(言語が英語ですから)、撮影もウェールズの首都カーディフで行われた。オリジナル・タイトルはPanda eyesでしたがAnother Meに改題された。いわゆるドッペルゲンガーもの(英語だとダブルといってる、要するに「もう一人の自分を幻視する」こと)。ホラーというよりコイシェ風に味付けされたサイコ・スリラーの印象です。思えば彼女のデビュー作Demasiado viejo para morir joven1989)はスリラーでした。「コイシェ、激しい妄想に取りつかれるサイコ・スリラーに初めて挑戦」と書かれていますが、「再び」が正しそうです。ホラー大好き日本、既にどこかが配給権取ってるのかな。

 

Another MeMi otro yo

製作Rainy Day Films /  Tornasol Films

監督・脚本:イサベル・コイシェ

原作:キャサリン・マクフェイルの同名小説Another Me

撮影:ジャン≂クロード・ラリュー

音楽:マイケル・プライス

   


データ:英≂西合作 言語:英語 2013 ミステリー 撮影地:ウェールズのカーディフ 86

 

キャスト:ソフィー・ターナー(フェイ)/ジョナサン・リース・マイヤーズ(教師ジョン)/クレア・フォラーニ(フェイの母アン)/リス・エヴァンス(フェイの父ドン)/グレッグ・Sulkin(ドリュー)/ジュラルディン・チャップリン(ブレナン夫人)/イバナ・バケロ(Kaylie)/レオノール・ワトリング他

 

プロット:高校生フェイの人生は完璧のように思われたが、すべてが思いがけないやり方で少しずつ変わり始めていた。ある日のこと、フェイは何者かに付け狙われているような感覚を覚えた。それは彼女そっくりのもう一人の自分、次第にフェイの内面に入りこみ彼女を脅かすようになった。アイデンティティばかりでなく人生そのものが崩壊していくなかで、フェイの過去の秘密が明かされてゆく・・・

 

★日本のホラー映画『リング』(1998)にインスパイアーされたと言われていますが、監督自身によると「リングはそんなに怖くなかったの。より大きい影響を受けた映画は、スウェーデンのヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが2004年に発表したサスペンス小説“Let the Right One in”で、それを映画化したもの」という。いわゆるヴァンパイア映画でスウェーデンのトーマス・アルフレッドソンが監督した。シッチェス映画祭2008で上映され、日本では『ぼくのエリ200歳の少女』の邦題で2010年に公開されヒットした。2010年に英語版をマット・リーヴスが舞台をニューメキシコに移してLet Me inとして リメイクした。こちらも『モールス』の邦題で2011年公開された。スペインではどちらのタイトルもDéjame entrarで、題名からだけではどちらを指すか分からない(困ったもんだ)。

 

★以前から自分の好みとは無関係のジャンルで撮りたいと模索していた。若者の世界に引きつけられていて、たまたまそういうとき、テレビで故ロバート・マリガンの“The Other1972、スペイン題El otro)を見た。とても怖かったと語っています。日本では『悪を呼ぶ少年』の邦題で公開、じわじわと恐怖が湧きおこるスリラー映画の佳作。マリガン監督はサマセット・モームの『月と六ペンス』を映画化したり、ゲイリー・クーパーを主役にした『アラバマ物語』などでオールド・ファンには懐かしい。

 

★今までの個人的な好みが強く、デリケートで、少しもったいぶったカルト的映画とは違った本作は、広い層に受け入れられているようです。あるコラムニストは、荘子の説話「胡蝶の夢」に言及している。荘子が胡蝶が飛んでいる夢を見て目覚めたが、「果たして自分が夢を見て蝶になったのか、あるいは蝶が夢を見て自分になったのか」と自問する説話です。自分をフェイ、胡蝶を分身に置き換えると分かりやすい。分身がフェイの内面に入りこんできてしまう。

 

★監督はアルゼンチンの作家フリオ・コルタサルの『コーラ看護婦』に触発されて、『あなたになら言える秘密のこと』を撮ったというほどのコルタサル・ファンです。彼の分身ものとは少し違いますが、ドッペルゲンガー、鏡、悪夢、写真、空想と共通項が多い。過去に戻ろうとしても一回りしてくると現実に戻ってくる。メビウスの帯のように無限に繰り返され、逃げ口は閉ざされている。逃げても追いかけてくる怖い話です。 

     

                                                                                   

                      (右端がジュラルディン・チャップリン)

★主役のソフィー・ターナーは、人気テレドラ・シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のサンサ役でお馴染みですね。1996年生れの17歳と演技は未知数ですが、コイシェによれば、「ワルキューレのようにエネルギーに溢れ、それでいてよく秩序を守り、純粋よ」と高評価、「リス・エヴァンスは雰囲気作りが上手くセット以外でもお父さんのようだった」。他にコイシェがすべてのジャンルを網羅できると信頼しているのがジュラルディン・チャップリン、「そのインテリジェンスとエネルギーには脱帽」とぞっこん。次回作にも出演の予定。友人でカメオ出演しているのがレオノール・ワトリング、「もっと重要な役をやりたかったのに」と監督に文句言ってたらしいけど、「いずれ彼女を主役に撮るつもりだ」とコイシェ。ジュリエット・ビノシェを主役にしたNobody Wants the Night2015予定)の後になるようだ。デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(2006)の美少女イバナ・バケロも大人になって出演しています。

『ゲーム・オブ・スローンズ』については、10,000 KMの主演女優ナタリア・テナのところで触れています。(411⇒コチラ

 

    

(監督が手を焼いた、ジョナサン・リース・マイヤーズ)

 

★反対に二度と仕事をしたくないのがジョナサン・リース・マイヤーズ、「勿論イケメンよ、しかし秩序は乱すし、悩みの種だった。可能性を秘めてるけど、コミュニケートするのが難しかった。忍耐に忍耐を重ねて完成させたの。今までこんな経験したことなかった」と不満を吐露した。はっきりものを言うコイシェだが、自作に起用したばかりの俳優について、しかも公開インタビューの席での発言にしては珍しい。ウディ・アレンの『マッチポイント』(2005)の冷酷な殺人犯役が記憶にありますが、扱いにくかったようです。ローマ映画祭にも現れませんでしたね、お互い顔を合わせたくなかったのでしょう。

 

                                       

 (左から、ワトリング、グレッグ、監督、ソフィー、クレア・フォラーニか。ローマFF)

 

世界を駆け巡るミス・ワサビ

★次回作はLearning to drive、『エレジー』に出演したベン・キングズレーがパトリシア・クラークソンとタッグを組んで、ニューヨークでの撮影も昨年終了した。今年中に完成の予定。クラークソンは『アンタッチャブル』でデビュー、『エデンより彼方に』などが代表作。サラ・ケルノチャンの同名エッセイの映画化。やはり言語は英語です。ケルノチャンはロバート・ゼメキスが監督した『ホワット・ライズ・ビニース』(2000)の原作者、ハリソン・フォードとミシェル・ファイファーが主演したサスペンス・スリラーでした。

 

★現在は先述のNobody Wants the NightNadie quiere la noche)がカナリア諸島で進行中、ジュリエット・ビノシェ、ガブリエル・バーン、『ナイト・トーキョー・デイ』の菊池凛子、脚本はミゲル・バロスと国際色豊か。バロスはマテオ・ヒルが監督した『ブラックソーン』(2011)の脚本家、伝説の無法者ブッチ・キャシディの伝記映画。コイシェは「脚本は何回も満足いくまで書き直す、これも4年前から温めていたプロジェクトです。3年前にアビニョン演劇祭でビノシェに会い、出演が決まった」という。こちらも英語です。

 

★いつも上手くいくとは限らない、例えばロベルト・サビアーノの小説の映画化を企画してイタリア語を勉強していたが実現に至らなかったそうです。サビアーノはベストセラー小説『死都ゴモラ』の著者、2008年に映画化された『ゴモラ』もヒット、ナポリのマフィア組織を糾弾したことで脅迫を受けていた。


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