ゴヤ賞2014*あれやこれやの雑談2014年02月13日 14:08

 

  「ゴヤ授賞式はまるで反PPキャンペーン大会だ」とオカンムリ

 

: 雨が降って赤絨毯もそぼ濡れてぬかるんで、そのうえ気温も懐も冷え冷え、それでも無事イベントは終了しました。結構感動ドラマもあったようでそれはまた後ほど。

: 入口玄関前に「コカ・コーラ閉鎖反対」のゼッケンを付けた200名ほどの解雇者が陣取っていて、いつもと違う異様な雰囲気でした。「消費税増税反対」に蔽われた政治ショーでもありましたが、いつまでもお祭り気分に浸ってもいられません。

 

: もともと映画関係者は文化政策にお金を出さないPPPartido Popular国民党・与党)嫌いが多い。そこへ入場料に大幅な消費税(IVA)をかけてきた。ただでさえ入館者の減少に苦しんでいるところへね。8年間つづいた前政権の社会労働党(PSOE)が比較的文化事業に予算を回してくれた反動もあるようです。

: 国家破産の瀬戸際にいるわけだから仕方ないのかもしれない。政府としては「EUの重病人」から早く脱却を図りたい。昨年もかなり政治的な発言が目立ちましたが、今年はそれ以上です。

 

: 昨年は消費税増税の移行期間にあってまだ据え置かれていた。スペインの消費税は複雑で細かく分かれている。食品も牛乳やパンは比率が低く贅沢品と区別している。入場料は以前は確か8%だったが、現在は21%です。5%から8%になるのとは次元の違う話です。

: あまりの反発に下げる方向にあるようですが。

 

: 現政権の教育文化スポーツ省のホセ・イグナシオ・ベルテ(Wert)大臣は評判がよくない。ゴヤ賞授賞式に招待されているが、わざわざブーイングされに行く気はなく、それで欠席の正当な理由づけにマドリードにいられないスケジュールを組んだ。「私の体は一つ、同時に二つの場所には居られない」と()

: 敵前逃亡ではないと。癌治療のため勇退したマドリード前市長エスペランサ・アギーレ氏(PP)が「賢明な判断、尊敬に値する。野次られるために反PPキャンペーン大会に行く必要はない。文化相がやるべき最重要な案件ではないし、政府にとっても文化省にとっても益にならない」とエールを送っていました。

 

: 前市長が口出すことではないでしょう。お茶の間で多くの人が生放送を楽しむテレビショーなんですよ。ただベルテ氏は巷で言われているような人ではなく、聡明で、辛辣な議論好き、知的な教養人なんだそうです。映画関係者すべてがPSOE支持者じゃないわけで、当日インタビューを受けた俳優のなかには理解を示す人もいましたね。

: 最近‘ivazo’イバッソ という新語を目にしますが、「IVAイバでノック・ダウンされてしまった」という意味でしょうか。20代から30代前半では失業率50%を超える、二人に一人は職がない、働いた経験がないと失業保険もない、若者の『月曜日にひなたぼっこ』が日常化している。

 

   ダビ・トゥルエバ「永遠に二番手」の世評を葬った

 

: ゴヤ賞レースは「トゥルエバ丸」乗員の大勝利、7個ノミネートで6個獲得ですから効率がいい。ダビ・トゥルエバの監督&脚本賞受賞、「永遠に二番手」と囁かれていましたが、もう敗者ではありません。義姉クリスティナ・ウエテの作品賞、ハビエル・カマラ主演男優賞、ナタリア・デ・モリーナ新人女優賞、パット・メセニー作曲賞、大賞6個ですから満足でしょう。ダビ・トゥルエバ11回ノミネート、ハビエル・カマラ6回、合計17回にしてやっとゴヤを抱きしめました



: 二人の合言葉「僕たち、1個もゴヤを持ってない」でした。「受賞はせめてハビエル・カマラだけでも」と先日の座談会で話していましたが、やはり自分が一番欲しかった()。英語教師アントニオのモデル、フアン・カリオン氏も89歳ながら御健在。

(写真は喜びの記者会見に臨む「トゥルエバ丸」船長以下乗員一同)

 

: 10個ノミネートで8個受賞のLas brujas de Zugarramurdiについてはどうですか。

: テレレ・パベス助演女優賞受賞は、ハイライトのひとつでしょう。登壇するときから泣いてましたよ。周囲も涙、涙の大洪水、涙声でスピーチがよく分からなかった。

: 「今まで生きてきて、こんな嬉しいことはない」じゃないですか。12歳でデビュー、現在74歳の初受賞には驚きます。半世紀以上に及ぶ役者人生ですから。もっともゴヤ賞は1987年から、活躍していた時代がそれ以前だと珍しくないことです。5回目のノミネートで宿願を果たしました。ガルシア・ベルランガ(19212010)の第3Novio a la vista1953「一見、恋人」仮題)がデビュー作です。


 


: 監督アレックス・デ・ラ・イグレシアと同じビルバオ生れ、彼がゴヤ監督賞を受賞した『ビースト、獣の日』(1995)にも出演しています。

: 生れはビルバオでも育ったのはマドリードです。彼女の一族も有名な芸術家一家、いずれ御紹介する機会をつくりたい。今月のセルバンテス土曜映画上映会は、マリオ・カムスの『無垢なる聖者』1984、字幕英語)ですが、これに主人公の妻レグラ役で出演しています。ミゲル・デリーベスの同名小説の映画化、1960年代のスペイン農民のレクイエムです。これは20世紀スペイン映画史に残る名画、パベスの最高傑作と言ってもいい。残念ながらまだゴヤ賞は始まっていませんでした。(写真はゴヤ胸像を手に涙、涙のテレレ・パベスとプレゼンターのハビエル・バルデム)

 

: 前回「8個は貰いすぎ」と言ってましたが・・・

: まず10個のなかに監督賞・作品賞が含まれていない。10個もノミネートしながら指揮官たる船長が無視されるなんて変だと思いませんか。彼のゴヤ賞は、『ビースト、獣の日』一作だけと聞いたら「まさかぁ」と思うでしょ。

: なるほど、まず候補者の選択が気に入らないのですね。

: 「興行成績が好調なら名画だ」とはいくらなんでも言いません。以下は授賞式前の大雑把な数字ですが、La gran familia española300万ユーロ、これ1作で他の4作を超えています。Vivir es fácil con los ojos cerrados70万ユーロ、La herida12.2万ユーロなど。候補作にならなかった次の3作品『アイム・ソー・エキサイテッド』、Tres bodas de másLas brujas de Zugarramurdi が各400万ユーロです。勿論Vivir es fácil con los ojos cerradosのような大賞受賞作品はこれから再上映されますから上方修正されるはずです。

 

: アカデミーと観客の乖離は今に始まったことではありませんが、こういう数字を見ると、映画産業の低迷の一端はアカデミーにもありそうです。

: トゥルエバのは既に60館が再上映を決定、リターンマッチに挑むことになっています。もともと181部コピーを製作していたところ配給元との意見の不一致で50部がお蔵入りになった経緯があったようです。「今更犯人捜しをしても始まらないが、はっきりしていることは私たちには大打撃だった」と語っています。

 

: ゴヤ賞は何の役に立つか、それは次の映画が作れるということに繋がる。トゥルエバは次回作の予定はなく小説を執筆中と話しておりましたが、自作の映画化も期待できるかな。

: 大賞とは関係なく、Las brujas de ZugarramurdiDVDやブルーレイが来月早々発売されます。ラテンビートも期待できるし、年内か来年初めには劇場公開になりますね。現在のスペイン映画界でデ・ラ・イグレシアほど機知に富んだ、並外れた想像力の持主を見つけるのは難しい。あのアタマのなかにぎっしり詰まった才能は枯れることがない。

 



: フランコのLa heridaは、受賞しても観客は期待できないでしょうか。90万ユーロかけても1213万では厳しいですね。見ていて辛くなる映画はなかなか足を運んでもらえない。アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』も辛い内容でしたが、受賞後興行成績を伸ばすことができた。

: ちょっと難しそうですね、テーマも個人的な病気と違いますから。『ブラック・ブレッド』は、スペインの大人なら全員が経験した事柄がテーマでした。カタルーニャ映画がゴヤ賞の作品賞・監督賞を含む9個制覇は、ゴヤ賞始まって以来の快挙でもあった。87万ユーロが、授賞式当日に110万、数字は増え続け最終的には270万になったそうです。

 

: 積み残しは沢山ありますが、一応ゴヤ賞関連記事はこれで打ち止めにしましょうか。

: 「今スペインで映画を撮ることは、英雄的行為です」とアカデミー会長エンリケ・ゴンサレス・マチョが挨拶しましたが、厳しくても難しくてもやはり撮って下さい。

(写真は新人監督賞のフランコ、主演女優賞のマリアン・アルバレス)


コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://aribaba39.asablo.jp/blog/2014/02/13/7221312/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。