審査員特別賞フェルナンド・フランコ*サンセバスチャン20132013年11月27日 13:45

          審査員特別賞に新星フェルナンド・フランコ

   

★マリアナ・ロンドンのPelo malo金貝賞受賞にも驚きましたが、フェルナンド・フランコLa heridaWounded)審査員特別賞にはもっと驚きました。ノミネートの段階では、マヌエル・マルティン・クエンカのCaníbalやダビド・トゥルエバのVivir es fácil con los ojos cerradosに気をとられてノーチェックでした。「ゴリアテに立ち向かうダビデ」のようだと評されていたほど。マヌエル・マルティン・クエンカやダビド・トゥルエバが巨人とは思いませんが、第1作がサンセバスチャンのコンペに名を連ねるのは珍しいことでした。「ほんとにクラクラ目眩がしました」と喜びを語ったフランコ監督、「5年前に台本を渡されていました」と語った主役マリアン・アルバレス、若いシネアストたちに希望と勇気を与えてくれました。

 

      
               (監督とマリアン・アルバレス、サンセバスチャン海岸にて)

★受賞後慌ててキャリアを調べたらパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』のフィルム編集をしており、短編、ドキュメンタリー、TVを含めると40本近い編集を手掛けているベテラン。マルティン・ロセテのVoice Over2011)が、今年の第8回札幌国際短編映画祭に『ボイス・オーバー』の邦題でエントリーされ、フィルム編賞をしたフランコが最優秀編集賞を受賞していたのでした。『ボイス・オーバー』は世界各国の短編映画祭を一巡して受賞を独り占めにした話題作、いずれこの監督も長編で注目されるようになるでしょう。

 

    

                 ( 審査員特別賞のトロフィーを手にしたフランコ監督)

フェルナンド・フランコ Fernando Franco1976年セビーリャ生れ。ただし本作のロケ地は映画祭の開催されていたサンセバスチャンということもあって、セビリャっ子には自分は知られていないとインタビューに答えていました。5本の短編を撮っておりますがビルバオとか北スペインが多く、短編デビュー作Mensajes de voz2007)と第2Tu(a)mor2009)がアンダルシアの映画祭マラガで受賞しています。フィルム編集者として、上記の『ブランカニエベス』のほか、最近の話題作にモンチョ・アルメンダリスのNo tengas miedo2011)、ダビド・ピニリョスのBon appetit2010)など。既に例年2月に行われるスペイン最大の映画の祭典ゴヤ賞ノミネートが話題になっており、新人監督賞ノミネートは確実と思いますが、作品賞はどうでしょうか。

 

★脚本共同執筆者にエンリク・ルファスの名前がありました。彼はハイメ・ロサーレスの『ソリチュード:孤独のかけら』でロサーレスの共同執筆者でした。フランコ監督の映画仲間はいわゆるバルセロナ派に多く、この二人の他イサキ・ラクエスタ監督、脚本家ルイソ・ベルデホなどの名前を挙げています。スペイン映画界ではどちらかというと傍流、癖のある凝り性の人たちです。


    
      (銀貝賞を手にしたマリアン・アルバレス)

★本作はヒロインのアナ役マリアン・アルバレス Marian Alvarez1978年マドリード生れ)が、女優賞(銀貝賞)を貰うという快挙も加わり、スペイン作品ということもあってベネズエラのPelo malo金貝賞よりニュースになりました。マリアン・アルバレスと言えば、ロセル・アギラールのLo mejor de mi2007The Best of me)の主役を演じた女優、ロカルノ映画祭で銀ヒョウ女優賞を受賞した。トゥリア Turia 映画祭2008で新人女優賞受賞など話題になりました。TVドラマのシリーズで2000年デビュー、2005年ごろから映画の脇役で出演、Lo mejor de miの主役で「銀ヒョウ賞」を獲得したのでした。

そして6年ぶりの映画界復帰でサンセバスチャンの人気を攫いました。まだ秘密のベールに包まれているマリアンだが、女優賞(または新人女優賞)ノミネート(または受賞)の可能性は100%でしょう。映画はともかく彼女の演技には、日刊紙「エル・パイス」のメイン映画批評家、辛口でうるさ型、みんなの嫌われ者カルロス・ボジェロが太鼓判押しているのですから。

 

★それでLa heridaはどんな映画なんでしょうか。タイトルがタイトルですから、見て楽しめる映画でないのは100%保証です。主人公アナは20代後半、救急車のドライバー、他人を救助するという有益な仕事に満足感を感じている。しかし≪境界性パーソナリティ障害≫という病気をもっている。アナは自分を苦しめているのが病気なのかどうかも知らない。少しずつアナの心は壊れていく。映画はアナの苦しみと絶望をゾッとするような冷静さで語っていく。ちょっと見るのは覚悟がいりそうです。確かにアナのような人生を送るヒロインを演じるのは女優とはいえ容易いことではない。輝く光と暗い闇を演じ分けたマリアン・アルバレスこそ、今年もっとも力強く生きいきした演技をした女優、と批評家連が口を揃えて絶賛しています。あのボジェロ氏さえ「納得の演技」と言ってるんだから見ないわけにもいかないか。

 

★来年になりますが、いずれ鑑賞したらアップ致します。作品紹介はそちらで。

 

思春期ごろに特に女性に発症するという病気、1970年代頃から患者が増えているという。原因も治療法も研究なかばで確立されていないらしい。対人関係が上手くコントロールできず、不安定な自己、衝動的な自己破壊(リストカットなどの自傷行為)、拒食・過食、アルコール依存症など様々、他人からは理解してもらえない行為、自殺で解決する例もあるなど深刻な病気です。

 

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