第10回フェロス賞2023結果発表*サラゴサ開催 ― 2023年02月01日 10:27
『ザ・ビースト』と「Cinco lobitos」が痛み分け、鮮明だった女性主導
★去る1月28日PM10:00~00:46(現地時間)、第10回フェロス賞2023の授賞式がサラゴサ・オーディトリアム多目的ホールで開催されました。結果は以下の通りですが、近年で受賞作品が最も均等にばらけた結果になりました。作品のグループごとにテーブルを囲み、レストラン並みにワインとオードブルが提供されましたが終了時間にはグラスもお皿も空っぽでした。AICE スペイン映画ジャーナリスト協会主催。
★ロドリゴ・ソロゴジェンの『ザ・ビースト』が映画部門の作品賞・助演男優賞(ルイス・サエラ)・オリジナルサウンドトラック賞(オリヴィエ・アーソン)の3賞、アラウダ・ルイス・デ・アスアの「Cinco lobitos」が主演女優賞(ライア・コスタ)・助演女優賞(スシ・サンチェス)・脚本賞(アラウダ・ルイス・デ・アスア)の3賞と痛み分け、監督賞には「Alcarras」のカルラ・シモン、主演男優賞にナチョ・サンチェス(『マンティコア』)という具合でした。
★個人的には映画のコメディ部門にアルゼンチンの二人の監督、マリアノ・コーン&ガストン・ドゥプラットの「Competencia oficial」が受賞したことです。2021年製作ですがスペイン公開が2022年2月だったので1年遅れでノミネートされた。製作はカタルーニャのベテラン製作者ジャウマ・ロウレス、出演はアントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルス、オスカル・マルティネスの3人、『コンペティション』の邦題で今年3月17日公開がアナウンスされました。またフェロス感動賞(Premio Feroz Arrebato)フィクション部門で、デビュー作『スキン』以来6年ぶりに映画に戻ってきたエドゥアルド・カサノバの「La piedad」が受賞したことです。アンヘラ・モリーナ扮する母親と暮らす少年の物語だそうですが、いずれアップを予定しています。
(挨拶するAICE 会長マリア・ゲーラ)
★TVシリーズ部門の俳優賞も1作品に偏らないで、ドラマの「La ruta」とコメディの「No me gusta conducir」のほか『インティミダ』からも選ばれていました。フォルケ賞とは違う結果になったのもニュースかもしれません。やはり映画よりTVのほうが人気があるのか、出演者が多いこともあるのか、各ノミネート候補者たちは大勢で参加、大いに盛り上がっていました。
★会場を沸かせていたのがプレゼンターの3女優、コメディアンで女優、テレビ司会者のシルビア・アブリル、夫アンドリュー・ブエナフエンテとコンビを組んでゴヤ賞ガラの総合司会者を2年連続で務めたベテラン、初めてマドリードを離れてビルバオで開催された2019年ガラの総合司会者イングリッド・ガルシア=ヨンソン、監督賞候補が女4対男1だと黒一点のソロゴジェン監督をいじった女優のバルバラ・サンタ=クルス、また車椅子で登場した作家でテレビ評論家ロベルト・エンリケス(ボプ・ポップのほうが有名)などのモノローグでした。黒一点の監督賞ノミネートのリストからも分かるように女性が主導するイベントでした。
(栄誉賞受賞アルモドバルにインタビューするシルビア・アブリル)
(車椅子で登壇したボプ・ポップ)
*第10回フェロス賞2023受賞結果*(*印は作品紹介をしている受賞作)
◎作品賞(ドラマ)
「Alcarras」 カルラ・シモン監督
「As bestas」(邦題『ザ・ビ-スト』) ロドリゴ・ソロゴジェン *
「Cinco lobitos」 アラウダ・ルイス・デ・アスア
「Modelo 77」 アルベルト・ロドリゲス
「Un año, una noche」 イサキ・ラクエスタ
(ロドリゴ・ソロゴジェンほか製作者たち)
◎作品賞(コメディ)
「Competencia oficial」 監督マリアノ・コーン、ガストン・ドゥプラット *
「El Cuarto Pasajero」 同アレックス・デ・ラ・イグレシア
「Tenéis que venir a verla」 同ホナス・トゥルエバ
「Vacil」 同アベリナ・プラト
「Voy a pasármelo bien」 同ダビ・セラーノ
◎脚本賞DAMA
ロドリゴ・ソロゴジェン、イサベル・ペーニャ 「As bestas」
カルラ・シモン、アルナウ・ピラロ 「Alcarras」
アラウダ・ルイス・デ・アスア 「Cinco lobitos」 *
カルロタ・ペレダ 「Cerdita」監督カルロタ・ペレダ
フラン・アラウホ、イサ・カンポ、イサキ・ラクエスタ 「Un año, una noche」
◎監督賞
ピラール・パロメロ 「La Maternal」 ノミネート3カテゴリー
カルロタ・ペレダ 「Cerdita」
アラウダ・ルイス・デ・アスア 「Cinco lobitos」
カルラ・シモン 「Alcarras」 *
ロドリゴ・ソロゴジェン 「As bestas」
◎女優賞
アンナ・カスティーリョ 「Girasoles silvestres」 監督ハイメ・ロサーレス
ライア・コスタ 「Cinco lobitos」
ラウラ・ガラン 「Cerdita」
マリナ・フォイス 「As bestas」
カルラ・キレス 「La Maternal」
◎男優賞
カラ・エレハルデ 「Vasil」
ミゲル・エラン 「Modelo 77」
ドゥニ・メノーシェ 「As bestas」
ナウエル・ぺレス・ビスカヤール 「Un año, una noche」
ナチョ・サンチェス 「Mantícora」(『マンティコア』)監督カルロス・ベルムト *
ルイス・トサール 「En los márgenes」同フアン・ディエゴ・ボット
◎助演女優賞
アデルファ・カルボ 「En los márgenes」
アンヘラ・セルバンテス 「La Maternal」
カルメン・マチ 「Cerdita」
スシ・サンチェス 「Cinco lobitos」
エンマ・スアレス 「La consagración de la primavera」監督フェルナンド・フランコ
◎助演男優賞
ディエゴ・アニド 「As bestas」
ラモン・バレア 「Cinco lobitos」
ヘスス・カロサ 「Modelo 77」
オリオル・プラ 「Girasoles silvestres」
ルイス・サエラ 「As bestas」
◎オリジナルサウンドトラック賞
オリヴィエ・アーソン 「As bestas」
アランサス・カジェハ 「Cinco lobitos」
フェルナンド・ベラスケス 「Los renglones torcidos de Dios」監督オリオル・パウロ
フリオ・デ・ラ・ロサ 「Modelo 77」
ラウル・Refree 「Un año, una noche」
◎ポスター賞
ジョルディ・リンス、ルシア・ファライグFaraig 「As bestas」
エドゥアルド・ガルシア、ホルヘ・フエンブエナ 「Cerdita」
ゴンサロ・ルテ、キム・ビベス 「Girasoles silvestres」
ミカ・ムルフィーMurfhy 「La consagración de la primavera」
*カルロス・ベルムト 「Mantícora」
(ベルムト欠席で代理が受け取った)
◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トルドゥ 「As bestas」
マルタ・ロンガス 「Cerdita」 *
ミゲル・アンヘル・トルドゥ 「Mantícora」
アイトル・タピア 「Modelo 77」
「Los renglones torcidos de Dios」
◎TVシリーズ作品賞(ドラマ)
「¡García!」(HBO Max)
「Apagón」(Movister Plus)
「Intimidad」(Netfix)邦題『インティミダ』2022年6月10日配信開始
「La ruta」(Atresmedia Player)
「Rapa」(Movister Plus)
(大喜びの出演者と製作者一同、一番賑やかだった)
◎TVシリーズ作品賞(コメディ)
「Autodefensa」(Filmin)
「Fácil」(Movister Plus)
「Las de la última fila」(Netflix)邦題『最後列ガールズ』2022年9月23日配信開始
「No me gusta conducir」(TNT)
◎TVシリーズ脚本賞DAMA
イサベル・ペーニャ、アルベルト・マリニ、フラン・アラウホ、ラファエル・コボス、イサ・カンポ 「Apagón」
ベルタ・プリエト、ベレン・バーニーズ、ミゲル・アンヘル・ブランカ 「Autodefensa」
アンナ・R・コスタ、クリスティアナ・ポンス 「Fácil」
ベロニカ・フェルナンデス、ラウラ・サルミエント、ホセ・ルイス・マルティン 「Intimidad」
ボルハ・ソレル、ロベルト・マルティン・マイステギ、シルビア・エレロス・デ・テハダ、クララ・ボタス 「La ruta」
◎TVシリーズ女優賞
クラウディア・サラス 「La ruta」
(ベストドレッサーにも選ばれたクラウディア・サラス)
◎TVシリーズ男優賞
フアン・ディエゴ・ボット 「No me gusta conducir」
◎TVシリーズ助演女優賞
パトリシア・ロペス・アルナイス 「Intimidad」邦題『インティミダ』
◎TVシリーズ助演男優賞
ダビ・ロレンテ 「No me gusta conducir」
◎フェロス感動賞(フィクション)
「La piedad」 監督エドゥアルド・カサノバ
◎フェロス感動賞(ノンフィクション)
「La vida y unjardin secreto」 監督イレネ・M・ボレゴ
(左がイレネ・M・ボレゴ監督)
◎フェロス栄誉賞
ペドロ・アルモドバル 監督、脚本家、製作者
(母親の思い出で涙ぐむ受賞者)
★ガラの視聴率が最も高かったのはフェロス栄誉賞受賞のペドロ・アルモドバル登場のようでした。水色のスーツに赤のセーターで登壇、壇上には「アルモドバルのミューズたち」が勢揃い、フリエタ・セラノ、パルマ・デ・ロッシ、最新作『パラレル・マザーズ』出演のアイタナ・サンチェス=ヒホンとミレナ・スミット、ビビアナ・フェルナンデス、レオノール・ワトリングなどからのキス攻めにあいました。「私の映画のほとんどが、私の母親が与えてくれたインスピレーションのお蔭です」と亡き母親に感謝を捧げるスピーチをした。
(アルモドバルのミューズたちに囲まれて)
第10回フェロス賞2023はサラゴサ開催*ノミネーション発表 ― 2023年01月12日 11:28
フェロス賞2023の栄誉賞は、ペドロ・アルモドバル監督
★2022年11月24日、サラゴサの彫刻家パブロ・ガルガーリョ(1881~1934)の作品を収蔵しているガルガーリョ・ミュージアムで、第10回フェロス賞2023のノミネーション発表がありました。ゴヤ賞の前哨戦として2014年に始まったフェロス賞も節目の10回を迎えました。ゴヤ賞とは大分カテゴリーも異なりますが、一応そういうことになっています。選考母体はAICEスペイン映画ジャーナリスト協会、カテゴリーは映画部門11、TVシリーズ7の合計18カテゴリーです。
(カルロス・クエバスとミナ・エル・ハマニ)
★2021年に新設されたドキュメンタリー賞は、今回ノミネーション発表がありませんでしたが、昨年から始まったフェロス感動賞(フィクションとノンフィクションの2部門)のノミネートがありました。作品紹介は割愛しますが受賞結果はアップします。またオリジナル音楽賞はオリジナル・サウンドトラック賞と変更され、カテゴリーも流動的です。マリア・ゲーラAICE会長、サラ・フェルナンデス・エスクエルサラゴサ副市長出席のもと、人気俳優のカルロス・クエバスとミナ・エル・ハマニが進行役を務めました。授賞式は1月28日(土曜日)、昨年に続いてサラゴサ開催です。
(左から、カルロス・クエバス、AICE会長、サラゴサ副市長、ミナ・エル・ハマニ)
★映画部門最多ノミネートは、ロドリゴ・ソロゴジェンの「As bestas」の10とゴヤ賞と同じ流れです。TVシリーズのあるフォルケ賞とは違う流れになっています。アトレスメディアが手掛けた「La ruta」の6カテゴリーが最多、フォルケ賞受賞作の「Apagón」は4カテゴリーです。TVシリーズは作品賞と脚本賞をアップしておきます。ネットフリックスの2作品は目下配信中です。
(TVシリーズ最多ノミネートの「La ruta」のポスター)
★正式なノミネート発表の数週間前から秘密裏に決定されていたのがフェロス栄誉賞、今回は監督のペドロ・アルモドバルが受賞者です。フェロス賞関連では、2014年『アイム・ソー・エキサイテッド!』の予告編賞、2020年『ペイン・アンド・グローリー』の監督・脚本賞の2賞、『ジュリエッタ』も『パラレル・マザーズ』もノミネートに終わっています。海外での華々しい受賞歴に比して国内での受賞はそれほど多くありません。ただ出演キャストやスタッフに数々のトロフィーをもたらしている監督であることは間違いありません。
(第7回フェロス監督賞、脚本賞2冠だったアルモドバル、2020年ガラ)
*第10回フェロス賞2023ノミネーション*
◎作品賞(ドラマ)
「Alcarras」 カルラ・シモン監督 ノミネート3カテゴリー
「As bestas」(邦題『ザ・ビ-スト』) ロドリゴ・ソロゴジェン 同10カテゴリー
「Cinco lobitos」 アラウダ・ルイス・デ・アスア 同7カテゴリー
「Modelo 77」 アルベルト・ロドリゲス 同5カテゴリー
「Un año, una noche」 イサキ・ラクエスタ 同4カテゴリー
◎作品賞(コメディ)
「Competencia oficial」 監督マリアノ・コーン、ガストン・ドゥプラット
「El Cuarto Pasajero」 同アレックス・デ・ラ・イグレシア
「Tenéis que venir a verla」 同ホナス・トゥルエバ
「Vacil」 同アベリナ・プラト ノミネート2カテゴリー
「Voy a pasármelo bien」 同ダビ・セラーノ
◎脚本賞
ロドリゴ・ソロゴジェン、イサベル・ペーニャ 「As bestas」
カルラ・シモン、アルナウ・ピラロ 「Alcarras」
アラウダ・ルイス・デ・アスア 「Cinco lobitos」
カルロタ・ペレダ 「Cerdita」監督カルロタ・ペレダ ノミネート6カテゴリー
フラン・アラウホ、イサ・カンポ、イサキ・ラクエスタ 「Un año, una noche」
◎監督賞
ピラール・パロメロ 「La Maternal」 ノミネート3カテゴリー
カルロタ・ペレダ 「Cerdita」
アラウダ・ルイス・デ・アスア 「Cinco lobitos」
カルラ・シモン、アルナウ・ピラロ 「Alcarras」
ロドリゴ・ソロゴジェン 「As bestas」
◎女優賞
アンナ・カスティーリョ 「Girasoles silvestres」 監督ハイメ・ロサーレス
同3カテゴリー
ライア・コスタ 「Cinco lobitos」
ラウラ・ガラン 「Cerdita」
マリナ・フォイス 「As bestas」
カルラ・キレス 「La Maternal」
◎男優賞
カラ・エレハルデ 「Vasil」
ミゲル・エラン 「Modelo 77」
ドゥニ・メノーシェ 「As bestas」
ナウエル・ぺレス・ビスカヤール 「Un año, una noche」
ナチョ・サンチェス 「Mantícora」(『マンティコア』)監督カルロス・ベルムト
3カテゴリー
ルイス・トサール 「En los márgenes」同フアン・ディエゴ・ボット 2カテゴリー
◎助演女優賞
アデルファ・カルボ 「En los márgenes」
アンヘラ・セルバンテス 「La Maternal」
カルメン・マチ 「Cerdita」
スシ・サンチェス 「Cinco lobitos」
エンマ・スアレス 「La consagración de la primavera」監督フェルナンド・フランコ
2カテゴリー
◎助演男優賞
ディエゴ・アニド 「As bestas」
ラモン・バレア 「Cinco lobitos」
ヘスス・カロサ 「Modelo 77」
オリオル・プラ 「Girasoles silvestres」
ルイス・サエラ 「As bestas」
◎オリジナルサウンドトラック賞
オリヴィエ・アーソン 「As bestas」
アランサス・カジェハ 「Cinco lobitos」
フェルナンド・ベラスケス 「Los renglones torcidos de Dios」監督オリオル・パウロ
2カテゴリー
フリオ・デ・ラ・ロサ 「Modelo 77」
ラウル・Refree 「Un año, una noche」
◎ポスター賞
ジョルディ・リンス、ルシア・ファライグFaraig 「As bestas」
エドゥアルド・ガルシア、ホルヘ・フエンブエナ 「Cerdita」
ゴンサロ・ルテ、キム・ビベス 「Girasoles silvestres」
ミカ・ムルフィーMurfhy 「La consagración de la primavera」
カルロス・ベルムト 「Mantícora」
◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トルドゥ 「As bestas」
マルタ・ロンガス 「Cerdita」
ミゲル・アンヘル・トルドゥ 「Mantícora」
アイトル・タピア 「Modelo 77」
「Los renglones torcidos de Dios」
◎TVシリーズ作品賞(ドラマ)
「¡García!」(HBO Max) ノミネート2カテゴリー
「Apagón」(Movister Plus) 4カテゴリー
「Intimidad」(Netfix)邦題『インティミダ』2022年6月10日配信開始 4カテゴリー
「La ruta」(Atresmedia Player) 6カテゴリー
「Rapa」(Movister Plus) 2カテゴリー
◎TVシリーズ作品賞(コメディ)
「Autodefensa」(Filmin) ノミネート2カテゴリー
「Fácil」(Movister Plus) 2カテゴリー
「Las de la última fila」(Netflix)邦題『最後列ガールズ』2022年9月23日配信開始
「No me gusta conducir」(TNT) 4カテゴリー
◎TVシリーズ脚本賞
イサベル・ペーニャ、アルベルト・マリニ、フラン・アラウホ、ラファエル・コボス、
イサ・カンポ 「Apagón」
ベルタ・プリエト、ベレン・バーニーズ、ミゲル・アンヘル・ブランカ 「Autodefensa」
アンナ・R・コスタ、クリスティアナ・ポンス 「Fácil」
ベロニカ・フェルナンデス、ラウラ・サルミエント、ホセ・ルイス・マルティン 「Intimidad」
ボルハ・ソレル、ロベルト・マルティン・マイステギ、シルビア・エレロス・デ・テハダ、
クララ・ボタス、「La ruta」
◎TVシリーズ女優賞
◎TVシリーズ男優賞
◎TVシリーズ助演女優賞
◎TVシリーズ助演男優賞
第28回ホセ・マリア・フォルケ賞2023*受賞結果 ― 2022年12月26日 10:38
『ザ・ビ-スト』と「Cinco lobitos」が賞を分け合ったフォルケ賞
★去る12月17日、昨年から12月開催と前倒しに変更された第28回ホセ・マリア・フォルケ賞2023の授賞式が、1800人収容できるマドリードのパラシオ・ムニシパル IFEMA MADRID で開催されました。ゴヤ賞の前哨戦という立ち位置ですが、こちらは2021年1月開催だった第26回からTVシリーズも対象になりました。フォルケ賞に監督賞はなく、縁の下の力持ちである製作者に与えられる賞です。各賞に副賞として賞金が授与されます(俳優賞は各3,000ユーロ)。コロナは収束しておりませんがマスク着用が解除されました。ノミネーションはアップしませんでしたが、だいたいゴヤ賞と重なっています。優れた製作者に贈られるEGEDA金のメダルは、ホセ・ルイス・ベルムデス・デ・カストロが受賞しました。総合司会者は、俳優、ダンサー、歌手のアドリアン・ラストラとメキシコの女優エスメラルダ・ピメンテルが担いました。
(アドリアン・ラストラとエスメラルダ・ピメンテル)
*第28回ホセ・マリア・フォルケ賞2023受賞結果*
◎作品賞(フィクション&アニメーション)副賞30,000ユーロ
「As bestas」『ザ・ビースト』(2022;ロドリゴ・ソロゴジェン監督、Arcadia Motion Pictures / Caballo Films / Cronos Entertainment ALE / Le pacte / RTVE / Movistar+)
*ノミネート作品は、カルラ・シモンの「Alcarras」、アラウダ・ルイス・デ・アスアの「Cinco lobitos」、アルベルト・ロドリゲスの「Modelo 77」、ゴヤ賞と同じでした。
(スピーチするロドリゴ・ソロゴジェン)
◎長編ドキュメンタリー賞 副賞6,000ユーロ
「Labordeta, un homble sin más」(2022、パウラ・ラボルデタ&ガイスカ・ウレスティ監督;Urresti PC SL / Un hombre sin más AIE / Aragón TV)
◎女優賞
ライア・コスタ (「Cinco lobitos」)
*ノミネート候補者は、「Cinco lobitos」のスシ・サンチェス、「Cerdita」のラウラ・ガラン、「Girasoles silvestres」のアンナ・カスティーリョの3名でした。、
(ゴヤ賞主演女優賞にもノミネートされているライア・コスタ)
◎男優賞
ドゥニ・メノーシェ (「As bestas」)
*ノミネート候補者は、「En los márgenes」のルイス・トサール、「Modelo 77」のミゲル・エラン、「Manticora」のナチョ・サンチェスの3名でした。
(マドリード入りしていたメノーシェ)
◎TVシリーズ賞(フィクション)6,000ユーロ
「Apagón」(2022、フラン・アラウホ監督; Movistar+ / Buendia Studios)
(5部構成のTVシリーズ)
◎TVシリーズ女優賞
モニカ・ロペス (「Rapa」 2022、ホルヘ・コイラ&ペペ・コイラ;Movistar+ / Portocabo)
(モニカ・ロペスは舞台出演で欠席、ホルヘ・コイラ監督が代理で受け取った)
(主演のモニカ・ロペスとハビエル・カマラを配したポスター)
◎TVシリーズ男優賞
ヘスス・カロサ (「Apagón」)
◎短編賞 副賞3,000ユーロ
「Cuerdas」(2022、エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン;Sirimiri Films SL / Gariza Produkzioak SL / Kaiz Estudio SL / EITB)
◎ラテンアメリカ映画賞 副賞6,000ユーロ
「Argentina, 1985」『アルゼンチン 1985』(サンティアゴ・ミトレ監督;La Union de los Rios / Kenya Films / Amazon Studios / Infinity Hill Prime Video)
*ノミネートされた作品は、アレハンドロ・ロアイサ・グリシの「Utama」(ボリビア)、アルトゥーロ・モンテネグロのサスペンス「Cumpleaños」(パナマ)、マティアス・ビセの「El castigo」(チリ)、ゴヤ賞と重なったのは受賞作と「Utama」だけでした。
(スペインのアマゾンプライムビデオの責任者リカルド・カルボネロが受け取った)
◎Cine y Educación en Valores
「Cinco lobitos」(2022、アラウダ・ルイス・デ・アスア監督;Sayaca Producciones SL / Encanta FilmsSLU / Buena Pinta Media SLU / RTVE / ETB Orange TV)
*ノミネートされた作品は、カルラ・シモンの「Alcarras」、フアン・ディエゴ・ボットの「En los márgenes」、フェルナンド・フランコの「La consagración de la primavera」、カルラ・シモンは無冠に終わりました。
(アラウダ・ルイス・デ・アスア監督と製作者たち)
◎EGEDA金のメダル
ホセ・ルイス・ベルムデス・デ・カストロ
★受賞者は、1943年マドリード生れの製作者。主に60~70年代にスペイン映画およそ50作くらいを製作したプロデューサー。セルジオ・レオーネ、マリアノ・オソレス、フェルナンド・フェルナン=ゴメス、ハビエル・アギーレ、エロイ・デ・ラ・イグレシア、などの監督と仕事をした。俳優では現在でも現役のコンチャ・ベラスコ、カルメン・マウラ、アンヘラ・モリーナ、ホセ・サクリスタン、アントニオ・オソレスなど。最初に手掛けた映画はラモン・フェルナンデスの「Matrimonio al desnudo」、撮影費用が格安にできたためスペインで撮影された『ソロモンとシバの女王』(58)などハリウッド映画も手掛けている。
(受賞スピーチをするベルムデス・デ・カストロ)
★会場が感動の渦になったのは、作品賞受賞でもなく El Consorcio のグループが熱唱したメドレーでもなく、昨年12月13日、第27回フォルケ賞ガラの翌々日に突然鬼籍入りしたホセ・マリア・フォルケの愛娘ベロニカ・フォルケへのオマージュでした。共演が多かったアントニオ・レシネスの、私はベロニカの「夫、恋人、兄、上司、そして親友でした」という愛情込めたオマージュに会場もしんみり、つづくシルビア・アバスカルにも皆うるうるで、未だに愛され続けている在りし日のベロニカの映像に、スタンディングオベーションが何度も繰り返されました。
(ベロニカ・フォルケの映像)
(アントニオ・レシネスとシルビア・アバスカル)
デヴィッド・クローネンバーグに栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2022 ⑳ ― 2022年09月26日 10:04
カナダの監督デヴィッド・クローネンバーグにドノスティア栄誉賞
★9月21日、ビクトリア・エウヘニア劇場において、カナダの監督、脚本家、製作者、俳優のデヴィッド・クローネンバーグ(トロント1943)のドノスティア栄誉賞の授賞式がありました。ガラの進行役は本祭の総ディレクターホセ・ルイス・レボルディノス、彼はクローネンバーグ映画を「私たちの人間的な資質の隠された側面を描いている。それは普段は見せないものだが基本的な部分であり、私たちの現実の姿である」と端的に紹介した。
★プレゼンターは『アレックス』や『CLIMAX クライマックス』の問題作を撮っているフランスの監督ギャスパー・ノエ、キャリア&フィルモグラフィーを含めた長い祝辞のあと、やっと登壇した受賞者は、鳴りやまぬ拍手にしばしスピーチができなかった。ノエ監督はブエノスアイレス生れだがパリに在住して、両国の国籍を持っている。「クローネンバーグは映画に生物学者、外科医や精神科医が探索すると思われる新しいテーマやトリックを持ち込んで、異常で不穏だが円熟したプリズムを通して、私たち自身の存在を再考させてくれた」と称揚した。ガラの後、カンヌ映画祭2022に出品された最新作「Crimes of the Future」が上映された。
(ノエ監督からトロフィーを受け取る受賞者)
★受賞スピーチ「人生のある時点で生涯功労賞を受賞することは、もう映画を撮るのは止めるというメッセージであり、そう自分に言い聞かせる一つの方法だと思っていました。『もう充分だ、止めなさい』と。しかし、時間が経つにつれて、特にこのような賞を、長い歴史があり美しい街で開催される映画祭で頂けて、そうじゃないと思い直しています。この賞は、映画を作り続けるための励ましとして受け取ります」とスピーチした。また「アートは規範を揺るがすものであり、困難で暴力的、かつ破壊的で不安定な人間性の側面に取り組むという意味で、しばしばアートは犯罪であると考えてきました。ある意味でアートは、私たちが理解できるように、地球上で市民生活を続けるために必要である事柄を表現する方法を与えることによって、文明に寄与しています。昨今起こっている出来事を考えるに、かつてないほどアートの犯罪は焦眉の急です。それで私は、犯罪映画バンザイ!と言いたい」と。あと3ヵ月で80代の大台に乗りますが、制作意欲は以前と変わらない。
(右手にいるのがホセ・ルイス・レボルディノス)
★最初に監督の代表作、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)、『イースタン・プロミス』(07)、『危険なメソッド』(11)に主演したヴィゴ・モーテンセンがビデオでお祝いのメッセージを送ってきた。彼は2020年のドノスティア栄誉賞受賞者で、その節、監督からお祝いのビデオ・メッセージをもらっていた。彼の初監督作品「Falling」も正式出品され、クローネンバーグは本作に脇役でしたが出演していた。監督はカナダ、俳優はアメリカと出身国は異なっていますが、二人とも父方の祖父がデンマーク人という縁で結びついているようです。ヴィゴは語学の才人でデンマーク語も堪能です。
「親愛なるデヴィッド、サンセバスチャン映画祭によるあなたの価値ある評価を祝福します。あなたは世界中のシネマニア、愛好家にとって生きた伝説です。この数年間、あなたとコラボして多くのことを学べたことは、私にとって名誉であり特権でした」と。サンセバスティアンのように美しい街での滞在を楽しんでください。「私はあなたが好きです、デヴィッド」と最後はバスク語で締めくくった。
★ビデオ・メッセージの後、監督作品がメモランダムにスクリーンに映しだされました。モーテンセンが主演した上記の3作のほか、『クラッシュ』(96)、『ラビッド』(77)、『デッドゾーン』(83)、『コスモポリス』(12)、『エム・バタフライ』(93)、『戦慄の絆』(88)などが次々に映しだされました。ほとんどが公開作品、なかには吹替版で放映された映画もあり、我が国での人気ぶりを実感したことでした。クローネンバーグとタッグを組んだ4作目「Crimes of the Future」の予告編も上映された。日本公開は2023年の予定。
(新作出演のレア・セドゥと監督、カンヌFF2022)
(主演のモーテンセンとレア・セドゥ、新作のフレームから)
(2021年公開された『クラッシュ 4K無修正版』のポスター)
★1986年から始まったドノスティア栄誉賞の受賞者に監督が選ばれたのは、2019年のコスタ・カヴラス以来、10年遡っても受賞者26人中、是枝裕和(18)、アグネス・ヴァルダ(17)、オリバー・ストーン(12)の4人しかおりません。最近は受賞者が複数になって多くなりましたが、大方が俳優出身でした。
ジュリエット・ビノシュ、栄誉賞ガラ*サンセバスチャン映画祭2022 ⑱ ― 2022年09月20日 15:01
ジュリエット・ビノシュ、イサベル・コイシェの手からトロフィーを
★9月18日クルサール、フランス女優ジュリエット・ビノシュは映画祭の最高賞であるドノスティア栄誉賞を受賞しました。セレモニー後、クレール・ドゥニの「Avec amour el acharnement / Both Side of The Blade」(22、西題「Fuego」)が上映されました。トロフィーを手渡したのはイサベル・コイシェ、監督は「Nadie quiere la noche」(15)でビノシュとコラボしていました。ドゥニ監督も17日に現地入りしてガラを客席から見守ったようです。
(コイシェ監督からトロフィーを受け取る受賞者ジュリエット・ビノシュ)
(クレール・ドゥニ監督とビノシュ)
★受賞スピーチは、家族、友人、近親者、仕事仲間に感謝の言葉を述べた後、自分が愛してやまない映画作家たちの作品を上映してくれたサンセバスチャン映画祭にも感謝しました。「私は今、家にいるような温かさを感じています。ここに居られてとても光栄です」と。「また、忠実な旅の仲間である沈黙にも感謝しています。沈黙は存在です。ショットの前、演技の前に、沈黙は強さであり、その強さから感情や感覚を呼び起こし、それは意志とは関係なく現れます。沈黙がなければ言葉はありません。沈黙がなければ精神は存在せず、その沈黙が監督や俳優たち、スタッフたちと共有されると、金色の糸が織られ、後に映画になります。そこには女優になりたいという私の夢のすべての意味が、生きた作品として具現化されています」とスピーチした。ちょっと難しかったですね。
(うるうるだった受賞スピーチ)
★一方プレゼンターのコイシェ監督は、「彼女と一緒に仕事をしていると、映像、言葉、フレームを越えていく或る不思議な、まるで魔法にかかったような気になります。彼女の顔から光が発しているように感じるというのは本当なんです。しかしその光は信じられないほど寛容で、彼女と一緒に映画を作っているすべての人に浸透していくのです。彼女が演じる登場人物はそれぞれ全く異なっていても、みんなその稀有な並外れた光に触れているように思うのです」と、その魅力を称えました。
★ガラの進行役はエネコ・サガルドイ(『アルツォの巨人』の主役)で、「巨大な才能、スクリーンを超えたカリスマ性、そして彼女のキャリアを築いた一連の勇敢な選択」とフィルモグラフィーを定義した。
(ガラ進行役のエネコ・サガルドイ)
★今年は、セクション・オフィシアルにクリストフ・オノレの「Le lycéen / Winter Boy」がノミネートされており、19日午後10時から上映された。オノレ監督、主役のポール・キルヒャー、ヴィンセント・ラコステなども現地入りして、選ぶのに迷うほど写真がアップされていました。
(クリストフ・オノレ監督)
(左から、ポール・キルヒャー、ビノシュ、ヴィンセント・ラコステ、19日)
ジュリエット・ビノシュにドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2022 ⑯ ― 2022年09月17日 17:19
ジュリエット・ビノシュにドノスティア栄誉賞
(第70回の公式ポスターの顔でもある受賞者ジュリエット・ビノシュ)
★9月16日20時30分(現地時間)、第70回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2022が開幕しました。それは次回にまわすとして、今年のドノスティア栄誉賞は二人、フランスの女優ジュリエット・ビノシュとカナダの映画監督デヴィッド・クローネンバーグ、ビノシュはクローネンバーグの『コズモポリス』に出演している。本作はカンヌ映画祭2012コンペティション部門でプレミアされた。第70回の公式ポスターの顔でもある女優からアップします。短編、TVシリーズ出演を除いても70作以上に出演しているが、幸いフランス映画やハリウッド映画のこともあり、公開、映画祭上映、DVDなどで約80パーセントは字幕入りで観ることができているようです。授与式はメイン会場のクルサールが予定されています。
★ジュリエット・ビノシュ、1964年パリ生れの58歳、演技はコンセルヴァトワールで学んでいる。パスカル・カネの「Liberty Belle」(リバティ・ベル83)の小さな役で映画デビューした。先日スイスで自死同然の自殺幇助で鬼籍入りしたゴダールの『ゴダールのマリア』(85)やSSIFFのセクション・オフィシアルにノミネートされたジャック・ドワイヨンの『家族生活』に出演している。アンドレ・テシネの『ランデヴー』(85)で初めてセザール賞主演女優賞にノミネートされ、後に『溺れゆく女』(98)にも出演している。レオス・カラックスとの最初の作品『汚れた血』(86)、続いて『ポンヌフの恋人』(91)、後者でヨーロッパ映画賞女優賞を受賞、両作ともセザール賞主演女優賞にノミネートされた。彼とは一時期交際していた。他にルイ・マルの『ダメージ』(92)をあげておきたい。
(レオス・カラックス監督の『ポンヌフの恋人』ポスター)
★最初こそ国内映画出演でしたが、フィリップ・カウフマンの『存在の耐えられない軽さ』(88)やピーター・コスミンスキーの『嵐が丘』(92)など英語での文芸作品に主演した。しかし、彼女の存在を国際舞台に押し上げたのは『イングリッシュ・ペイシェント』(96)でした。アカデミー助演女優賞、ベルリン映画祭銀熊女優賞、英国アカデミー賞BAFTA助演女優賞、ヨーロッパ映画女優賞ほか、国際映画祭の受賞を攫った映画でした。主演女優のクリスティン・スコット・トーマスの印象を薄めてしまった。アンソニー・ミンゲラもアカデミー監督賞を受賞、作品賞をはじめ最多9部門を制覇したヒット作でした。英語圏の大物俳優、ダニエル・デイー=ルイス、レイフ・ファインズ、ジェレミー・アイアンズとの共演でした。
(ミンゲラの『イングリッシュ・ペイシェント』でオスカー像を手にしたビノシュ)
★クシシュトフ・キェシロフスキの「トリコロール三部作」の『トリコロール/青の愛』(94)では、ベネチア映画祭女優賞(ヴォルピ杯)、セザール主演女優賞を受賞、ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされた。本作はSSIFFのサバルテギ部門で上映されている。SSIFF 1995にジャン=ポール・ラプノーの『プロヴァンスの恋』(95)がアウト・オブ・コンペティションだがクロージング作品に選ばれている。シャンタル・アケルマンの『カウチ・イン・ニューヨーク』(96)、パトリス・ルコントの『サン・ピエールの生命』(99)でダニエル・オートゥイユと、ラッセ・ハルストレムの『ショコラ』(00)でジョニー・デップと、ジョン・ブアマンの『イン・マイ・カントリー』(04)でサミュエル・L・ジャクソンと、ミヒャエル・ハネケの『コード・アンノウン』(00)や『隠された記憶』(05)も落とせないでしょう。
(キェシロフスキの『トリコロール/青の愛』ポスター)
★サンセバスティアン入りは今回で4回目になるようですが、最初は2002年、ダニエル・トンプソンのラブ・コメディ『シェフと素顔と、おいしい時間』で、アウト・オブ・コンペティション部門、ジャン・レノやセルジ・ロペスが共演した。アベル・フェラーラのサスペンス『マリー』(05、DVD)はペルラス部門にエントリーされた。異色なのはアジアの監督とのコラボ、例えば台湾の監督ホウ・シャオシエンの『レッド・バルーン』(07)やイスラエルのアモス・ギタイの『撤退』(07)、そしてイランのアッバス・キアロスタミの『トスカーナの贋作』(10)では観客をアッと言わせ、カンヌFFの女優賞を受賞した。またチリ鉱山の落盤事故に基づいたパトリシア・リケンの『チリ33人、希望の軌跡』(15)では、アントニオ・バンデラスと共演、世界を飛び回っている。脇役だがハリウッドのスーパープロダクション製作のギャレス・エドワーズの『GODZILLA ゴジラ』(14)、士郎正宗の漫画を原作としたルパート・サンダースのSFアクション『ゴースト・イン・ザ・シェル』(17)に出演、主役はスカーレット・ヨハンソンでしたが、ビートたけし、桃井かおりなど日本の俳優も共演した。
(キアロスタミの『トスカーナの贋作』フレームから)
★オリヴィエ・アサイヤスの『夏時間のパリ』(08、ペルラス部門)、『アクトレス 女たちの舞台』(14)、『冬時間のパリ』(18)と立て続けに主演した。ブリュノ・デュモンの彫刻家カミーユ・クローデルのビオピック『カミーユ・クローデル』(13 WOWOW)、イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」(15)と、SFを含めたラブコメからシリアスドラマまで、列挙した作品のほとんどが主演で、そのバイタリティには驚嘆するばかりである。コイシェ監督が「ぶっ飛んだ女優」と賞賛したのもむべなるかなです。
★2回目のサンセバスティアン入りは2018年、河瀨直美の『Vision ビジョン』とクレール・ドゥニの『ハイ・ライフ』の2作品がコンペティション部門にノミネートされたからでした。ドゥニ監督は初めて英語映画に挑戦したSF ミステリーてFIPRESCI 賞を受賞した。ビノシュはドゥニ監督とは前年「Un beau soleil intérieur」でコラボしていた。つい最近のベルリンFF 2022のコンペティション部門に出品され銀熊監督賞を受賞した「Avec amour et acharnement」(英題Both Sides of the Blade)にも主演、女一人と男二人の三角関係の由、共演者はバンサン・ランドンとグレゴワール・コラン。SSIFFでもドノスティア賞作品として上映され、ドゥニ監督も17日に現地入りの予定です。
(「Avec amour el acharnement」のフレームから)
(最近のジュリエット・ビノシュ、第72回ベルリン映画祭2022、2月12日)
★3回目は2019年、是枝裕和の『真実』で監督も現地入りした(フォト下)。是枝さんて「こんな面白い映画撮るんだ」と驚いた作品でした。サフィー・ネブーの『私の知らないわたしの素顔』(19)、エマニュエル・カレールの『ウイストルアム―二つの世界の狭間で』(21)は、ペルラス部門のヨーロッパ映画ドノスティア市観客賞を受賞した。今年が4回目になるが、栄誉賞のほかクリストフ・オノレが金貝賞を競う「Le lyceen」に出演している。
(レッド・カーペットに現れた是枝監督とビノシュ、第67回SSIFF2019、9月22日)
*イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」の作品紹介は、コチラ⇒2015年03月01日
*クリストフ・オノレの「Le lyceen」作品紹介は、コチラ⇒2022年08月06日
ペネロペ・クルスが映画国民賞2022を受賞 ― 2022年06月25日 15:45
いつもの年とは違った2021年、「パラレル・マザーズ」とヴォルピ杯受賞
(オスカー賞2022にノミネートされたペネロペ・クルス、授賞式にて)
★6月6日、今年の映画国民賞2022の受賞者はペネロペ・クルスとの発表がありました。文句なしの満場一致で決まったと各紙が報道しました。エル・パイス紙のコラムニストは「これまで彼女に授与しなかったのは侮辱だった」とまで言い切った。本賞は必ずしも年功序列ではありませんから侮辱とまでは思いませんが、国際的な貢献度を考えるといささか失礼だったかもしれません。オスカー賞の『ベルエポック』の監督が、2015年に受賞が発表されると「今さら貰っても・・・」と受賞を拒んだことを思い出しました。賞なら誰もが歓迎するとは言えず、タイミングが必要ということです。しかし今回はグッドタイミング、ベネチア映画祭のヴォルピ杯受賞、『パラレル・マザーズ』でオスカー主演女優賞ノミネート、サンタ・バーバラ映画祭モンテシート賞受賞と、いつもの年とは別格な2021年なのでした。
(スペイン女優初のヴォルピ杯を手にしたクルス、ベネチアFF2021にて)
★本賞の選考母体はスペイン文化スポーツ省と、映画部門では映画視聴覚芸術研究所ICAAです。ということは時の政権に若干左右されるケースが出てくる可能性があります。国民賞には他に文学、音楽、美術、スポーツ・・・などがあり、映画部門が参加したのは1980年から、第1回目の受賞者はカルロス・サウラで、まだゴヤ賞などがなかった時代でした。前年に国際的な活躍をした、監督、製作者、俳優、脚本家、撮影、音楽、映画産業に関わる全ての人々が対象です。副賞は3万ユーロと少ないがゴヤ賞を凌ぎます。女性の初受賞者カルメン・マウラ(1988)以降、女優はラファエラ・アパリシオ、マリア・ルイサ・ポンテ、マリサ・パレデス、メルセデス・サンピエトロ、マリベル・ベルドゥ、アンヘラ・モリーナ、他に故イボンヌ・ブレイク衣装デザイナー、ローラ・サルバドール脚本家、エステル・ガルシア製作者、ホセフィーナ・モリーナ脚本家、イサベル・コイシェ監督などが受賞しています。
★因みに最年少受賞者は、『インポッシブル』(12)でスペイン映画史上最高の興行成績を上げたフアン・アントニオ・バヨナの38歳でした。夫君ハビエル・バルデムは『ノーカントリー』(07)出演でアカデミー賞助演男優賞を受賞した2008年に選ばれており、夫婦揃っての受賞者になりました。昨年ベテラン演技派のホセ・サクリスタンが84歳で受賞したときは、「えっ、まだ貰っていなかったの!」と驚いたのでした。
(モンテシート賞のトロフィーを手に、サンタ・バーバラ映画祭2022にて)
★話をペネロペ・クルスに戻すと、キャリア&フィルモグラフィーについては既に何回もアップさせています。1974年マドリードの郊外アルコベンダス生れの48歳、早すぎる受賞というほど若くはありません。何しろ14歳でデビュー、30年以上のキャリアの持主、ハリウッドで活躍していた一時期には「ペネロペって、スペイン人だったの?」と揶揄されもしましたが、今ではそんな陰口をたたく人はいないでしょう。ビガス・ルナに始まって、フェルナンド・トゥルエバ、ペドロ・アルモドバル、アレハンドロ・アメナバル、イサベル・コイシェ、フリオ・メデム、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、海外勢とのコラボでは、ジョン・マッデン、セルジオ・カステリット、ウディ・アレン、リドリー・スコット、アスガー・ファルハディ・・・など錚々たる監督とタッグを組んでいます。
★母親になってからの挑戦は目を見張るものがあり、強靭で柔軟、ドラマからコメディへ容易に移れる多様性、母語のほか、英語、イタリア語、フランス語が堪能なのも強み、勤勉で探求心の強い努力家の証です。小さいときから人が選ばない生き方をしてきた女優は、見た目とは違って「水面近くでいつもアップアップしています」とも語っています。映画以外にも本人は公表していませんが、メディアの裏側ではソーシャルワークに非常に熱心です。マドリードの病院への援助、医療関係者が使用するマスク15万枚以上を寄付、オスカル・カンプスが2015年設立したスペインのNGOプロアクティバ・オープン・アームズのサポートもしています。この難民救助の活動を実話に基づいて描いた、マルセル・バレナの「Mediterraneo」(21)を当ブログでご紹介しています。
*「Mediterraneo」の作品紹介は、コチラ⇒2021年12月13日
★主な受賞歴は、4回のオスカー賞ノミネート、うち2009年にウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』で助演女優賞受賞、4回目のノミネートが今年の『パラレル・マザーズ』主演女優賞でした。2018年フランス・アカデミーのセザール栄誉賞、サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞、イギリスのバフタ賞、カンヌ映画祭2006のアルモドバルの『ボルベール〈帰郷〉』で異例のグループ女優賞、イタリアのドナテッロ主演女優賞も受賞しています。他に先述したようにベネチア映画祭のヴォルピ杯、サンタ・バーバラ映画祭のモンテシート賞、女優が一番大切にしているというゴヤ賞は13回ノミネートで3賞(『美しき虜』『ボルベール』『それでも恋するバルセロナ』)他、ヨーロッパ映画賞、フォトグラマス・デ・プラタ賞など書ききれない。
(オスカー助演女優賞のトロフィーを手に、アカデミー賞2009年)
(プレゼンターが恩師アルモドバルだったセザール賞2018)
(スペイン女優2人目の受賞者となったドノスティア賞2019)
★彼女は常に根気よく努力すること、犠牲をはらって物事の価値を優先するよう躾けられて育った。また将来に確実なものなどなく、常に疑問を持ち続けるようにしているとも語っている。美容師だった母親と義母になった闘う女優ピラール・バルデムの影響が大きいと語っています。肺気腫を病みながら生涯現役を貫いたピラールは昨年7月に82歳で旅立ってしまいましたが、支援を必要としている人々の側に立つことを教えてくれた人生の先輩でもありました。また二人の子供については「子供たちは私の優先事項です」ときっぱり宣言、公私の区別にぐらつきはない。
★少女がいつ女優になろうと決心したのか定かではありませんが、アルコベンダスの映画館で観た『アタメ』に目が眩んだという。これがアルモドバルとの最初の出会いだったかもしれません。それから『ライブ・フレッシュ』(97)に辿りつくまで時間がかかりましたが、その後の活躍は書くまでもないでしょうか。『オール・アバウト・マイ・マザー』のシスター・ロサ役に始まって、『ボルベール〈帰郷〉』のライムンダに到達、これで完結したかと思っていたら『パラレル・マザーズ』のシングルマザー役に続いていたのでした。
(2022年秋劇場公開予定の『パラレル・マザーズ』のフレームから)
★成功の陰で忘れられがちなのが2000年前半の出演作、例えばホラー映画『ゴシカ』、リュック・ベンソン製作のフランス映画『花咲ける騎士道』(リメイク版)、マシュー・マコノヒーと共演した『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』、そしてイタリア映画『赤いアモーレ』では、セルジオ・カステリットからメロドラマ的な手法で内部から自身を壊すチャンスを与えられたと言われ、イタリアのアカデミー賞ドナテッロ主演女優賞を受賞した。
★現在、マイケル・マンの「Ferrari」に没頭しています。アダム・ドライバーが演じるフェラーリの創業者でレーシング・ドライバーでもあったエンツォ・フェラーリの妻ラウラに扮します。イタリアで撮影しますがアメリカ映画ですね。それが終わる秋には、イタリア映画祭2012で上映され公開もされた『海と大陸』の監督エマヌエーレ・クリアレーゼの新作「L’mmensita」が公開されます。1970年代のローマが舞台だそうで、主役クララを演じます。そして友人でもある俳優フアン・ディエゴ・ボットの監督デビュー作に製作者として参加するようです。まだ詳細はアップされていません。『パラレル・マザーズ』の日本公開は今年の秋ということです。
◎主な関連記事◎
*クルスのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2019年05月20日
*セザール栄誉賞受賞の記事は、コチラ⇒2018年03月08日
*ドノスティア栄誉賞の記事は、コチラ⇒2019年10月04日
*ピラール・バルデムの紹介記事は、コチラ⇒2017年06月13日
第14回ガウディ賞2022*結果発表 ― 2022年03月10日 17:48
世代交代が鮮明になったガウディ賞、若手女性監督が勝利の杯を手にした
★去る3月6日、ガウディ賞の授賞式がバルセロナのカタルーニャ美術館MNACで開催された。昨年もノミネーションを割愛、受賞作品&受賞者をアップしただけでした。ゴヤ賞、フォルケ賞、フェロス賞とは異なり、カタルーニャ映画アカデミーが選考母体、作品賞はカタルーニャ語映画、カタルーニャ語以外の映画に分かれている。後者も他の3賞とは視点が異なり、バルセロナ派のスペイン語映画がノミネートされる傾向にある。従って登壇してトロフィを受け取る顔ぶれも違ってくる。今年はロシアのウクライナ侵攻に反対する青と黄色のリボンを付けている人が目立ち、ノーモア戦争が鮮明の授賞式でした。
★カタルーニャ語作品賞にネウス・バリュスの「Sis dies corrents」(「Seis días corrientes」)、カタルーニャ語以外にはクララ・ロケの「Libertad」(『リベルタード』)が受賞、共に若手女性監督が大賞を制した。前者は作品・監督・主演男優・助演男優・編集の5冠、後者は作品・脚本・主演女優・撮影の4冠と、二人で主要カテゴリーを制した。カロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」に出演したアンヘラ・セルバンテスが助演女優賞を受賞するなど、若手女性監督が輝いたガウディ賞の夕べでした。バリュス監督の新作は未紹介ですが、ロカルノ映画祭でプレミアしたおり、ヨーロッパシネマ賞や主演・助演男優賞などを受賞、バジャドリード映画祭では銀の麦の穂賞と観客賞、トロント映画祭では「The Odd-Job Men」の英題で出品された。いずれアップを予定しています。
(カタルーニャ語版のポスター)
(ヨーロッパ映画賞を受賞した監督と主演者、ロカルノ映画祭)
★ゴヤ賞では撮影賞にキコ・デ・ラ・リカが受賞しただけのマルセル・バレナの「Mediterraneo」は、プロダクション・オリジナル作曲・視覚効果・観客賞の4賞、ダニエル・モンソンの「Las leyes de la frontera」は、美術・衣装デザイン・メイクアップ&ヘアーの3賞、ゴヤ賞では監督とホルヘ・ゲリカエチェバリアが脚色賞、チェチュ・サルガドが新人男優賞を受賞していた。ほとんどカテゴリーの受賞者が一致しないのが特徴的でした。
*第14回ガウディ賞2022受賞結果*
◎作品賞(カタルーニャ語)
「Sis dies corrents」 監督ネウス・バリュス
(5冠制覇の「Seis días corrientes」チーム)
◎作品賞(カタルーニャ語以外)
「Libertad」(邦題『リベルタード』) 監督クララ・ロケ
(中央がクララ・ロケ監督)
◎監督賞
ネウス・バリュス、「Sis dies corrents」
◎脚本賞
クララ・ロケ、「Libertad」
◎主演女優賞
マリア・モレラ、「Libertad」
◎主演男優賞
モハメド・メラリ、「Sis dies corrents」
(息子と登壇した新人モハメド・メラリ)
◎助演女優賞
アンヘラ・セルバンテス、「Chavalas」
◎助演男優賞
バレロ・エスコラル、「Sis dies corrents」
◎撮影賞
グリス・ジョルダナ、「Libertad」
◎プロダクション賞
アルベルト・エスペル、Kostas Sfakianakis、「Mediterraneo」
◎美術賞 *
バルテル・ガリャル 「Las leyes de la frontera」
◎編集賞
ネウス・バリュス、アリアドナ・リバス、「Sis dies corrents」
◎オリジナル作曲賞
アルナウ・バタジェール、「Mediterraneo」
◎衣装デザイン賞 *
Vinyet Escobar 「Las leyes de la frontera」
◎録音賞 *
ダニエル・フォンロドナ、オリオル・タラゴ、マルク・ビー、マルク・オルス「Tres」
◎視覚効果賞
アレックス・ビリャグラサ 「Mediterraneo」
◎メイクアップ&ヘアー賞 *
サライ・ロドリゲス、ナチョ・ディアス、ベンハミン・ぺレス
「Las leyes de la frontera」
(3冠の「Las leyes de la frontera」のスタッフ、レッド・カーペット)
◎ドキュメンタリー賞
「El retorn:La vida després de l’ISIS」 監督アルバ・ソトラ
◎アニメーション賞
「Mironins」監督ミケル・マス、Txesco Montalt
◎短編映画賞
「Farrucas」 監督イアン・デ・ラ・ロサ
◎TV映画賞
「Frederica Montseuy, la dona que paela」 監督ラウラ・マニャ
◎ヨーロッパ映画賞 *
「Otra ronda」(デンマーク、邦題『アナザーラウンド』)監督トマス・ヴィンターベア
◎観客特別賞
「Mediterraneo」
★ガウディ栄誉賞
撮影監督のトマス・プラデバル・フォンタネ Tomas Pradevall Fontanet、プレゼンターはバルセロナ派を代表するベテラン俳優、ジョセップ・マリア・ポウとメルセ・サンピエトロでした。
(左から、ジョセップ・マリア・ポウ、受賞者、メルセ・サンピエトロ)
★以上が23カテゴリーの受賞者です。観客賞に選ばれた「Mediterraneo」は、バルセロナ出身のオスカル・カンプスが設立した人道支援組織オープン・アームズ NGO Proactiva Open Armsの活動を描いた実話、受賞はほぼ決定しておりました。(*印はゴヤ賞と結果が同じ)
★今年は8月下旬に開催されていたマラガ映画祭が、コロナウイリス以前の3月開催に決定(3月18日~27日)しており、ノミネーションも発表になっている。新作が揃ったマラガ優先にアップしたい。
セシリア・バルトロメ*第9回フェロス栄誉賞受賞 ― 2022年02月09日 16:17
反フランコを貫く勇敢な映像作家セシリア・バルトロメ
(フェロス栄誉賞のポスターを背にしたセシリア・バルトロメ)
★第9回フェロス栄誉賞を受賞したセシリア・マルガリタ・バルトロメ・ピナは、1940年9月10日バレンシア州のアリカンテ生れ、映画監督、脚本家、製作者。7歳のとき父親が当時のスペイン植民地で映画検閲の責任者に任命されて以来、家族と赤道ギニアのフェルナンド・ブー島に移住した。当地の演劇学校で演技と演出を学び、10代後半には先住民高等学校の生徒たちを指導した。20歳のときマドリードに引っ越すまで暮らしている。数年後のインタビューで「私は適応するのに時間がかかった途方もない不道徳と、間違いを認めようとしないマチスモに出会った」と語っている。後にここの体験をテーマにした長編「Lejos de África」(96)を撮ることになる。
(自らの少女時代の体験を織り込んだ長編「Lejos de África」のポスター)
(受賞を前にしたセシリア・バルトロメ、マドリードの8 2/1書店にて)
★スペインに戻ると、大学で工学と経済科学を専攻したが断念、1947年に開校したマドリードの国立映画研究所*に入学して、本格的に映画を学ぶことにした。1969年、今は亡きピラール・ミロ、現役で活躍するホセフィーナ・モリーナと共に卒業、本校最初の女性シネアストの一人になった。既に「La noche del doctor Valdés」など数編の短編を送り出しており、1970年の離婚をテーマにしたミュージカル「Margarita y el lobo」(モノクロ、45分)が卒業制作作品。本作はフランコ政権を挑発しているということで検閲に引っかかり、民主主義の到来まで国外で秘密裏に上映されていた。バルトロメの名前はブラックリスト入りしてしまい、卒業後は宣伝や産業ドキュメンタリーしか撮ることが出来なくなった。他の監督のプロジェクトでも背後に彼女の影を見つけると検閲が通らず、長いブランクを余儀なくされた。セクシュアリティや離婚、中絶問題、女性の自由などは検閲を通らない時代であった。
*国立映画研究所は、イタリア映画のネオレアリズモの流れをくむ新しい考え方をもとに設立され、内容の乏しい映画を拒否した。スペイン映画史に名を残したフアン・アントニオ・バルデム、ガルシア・ベルランガなどが第1期生卒業生、後マドリードのコンプルテンセ大学に発展解消された映画研究所。
(35ミリで「La noche del doctor Valdés」を撮影するバルトロメ、1964年)
(中編ミュージカル「Margarita y el lobo」のポスター)
★フランコ没後の民主主義移行期に最初に撮った、1977年の「Vámos, Bárbara」は、マーティン・スコセッシの『アリスの恋』(74)に触発された作品、スペイン最初のフェミニスト映画といわれる。エンディングを変更して、スペインのアリスは白馬に乗った王子様を夢見ない、自立した自身を見つける女性として描いている。主役アナをアンパロ・ソレル・レアルが扮し、バルバラは12歳になる一人娘の名前。撮影監督はパートナーだったホセ・ルイス・アルカイネが手掛けている。
(アンパロ・ソレル・レアルと娘バルバラ役のクリスティナ・アルバレス)
★1979年から翌年にかけて、兄ホセ・フアン・バルトロメと移行期のスペインを描いたドキュメンタリー2編「Después de.....」(No se os puede dejar solos / Atado y bien atado)の撮影に取りかかり完成させる。しかし独裁政権の終りのスペインの変化を批判的に描いているため公開が遅れ、1981年のクーデタ未遂事件を経て、3年後の1983年、ピラール・ミロが映画総局長に就任したことで紆余曲折があったにしろ陽の目を見ることができた。検閲は1976年4月全廃されたが表現の自由は直ぐには手に入らなかった。ミロ監督は1984年の「第1回スペイン映画祭」の企画者で、団長としてフアン・アントニオ・バルデムやカルロス・サウラ以下と一緒に来日している。心臓にトラブルを抱えており、撮影中に心臓発作で急死している。
(ドキュメンタリー「Después de.....」のポスター)
(ホセ・アントニオ・バルトロメとセシリア・バルトロメ)
★1996年、脚本を兄ホセ・フアン・バルトロメと共同執筆した長編「Lejos de África」を撮る。キューバとの合作で、キューバで撮影した。アフリカにおけるスペイン植民地主義に関する最初の映画といわれ、二十歳まで暮らしていた赤道ギニアの体験を織り込んでいる。白人と黒人という2人の少女の友情と冒険という単純なストーリーのなかに、少女たちの無垢な目を通して、異文化間の対立、人種差別、政治情勢の推移を描いている。
(2人の少女を演じたニーニャ、フレームから)
★2005年、放映時間には通りに人影が途絶えたと言われた長寿TVシリーズ「Cuéntame cómo pasó」(01~)のドキュメンタリー編「Especial Carrero Blanco: el comienzo del fin」を撮る。フランコ総統の右腕であった軍人ブランコ首相の生涯と暗殺事件を精査、分析したドキュメンタリーである。これが最後の作品となっている。女性映画製作者協会 CIMA の名誉会員。
*映画祭の受賞歴、映画賞は以下の通り:
2009年、アリカンテ大学と女性学センターが共催した回顧展が企画された。
2012年、第50回ヒホン映画祭で ”Mujeres de cine” 賞を受賞。
2014年、美術功労賞〈金のメダル〉受賞、スペイン文化省が選考母体。
2018年、バレンシア視聴覚アカデミー賞受賞。
2019年、スペイン映画アカデミー主催の「マエストロ」プログラムが企画される。
2021年、第4回女性映画祭のキャリア賞受賞。
2022年、フェロス栄誉賞受賞
(フェリペ6世、レティシア王妃、国王夫妻列席のもと授与された〈金のメダル〉
授与式は2015年2月)
(盟友ホセフィーナ・モリーナから〈金のメダル〉を手渡される)
第9回フェロス賞2022*受賞結果発表 ― 2022年02月05日 16:49
作品賞はコメディ部門「El buen patrón」とドラマ部門「Maixabel」が受賞
★去る1月30日、第9回フェロス賞2022の授賞式がマドリードからサラゴサ・オーディトリアムに舞台を移して開催されました。ゴヤ賞前哨戦という立ち位置ですが、結果は以下の通りになりました。作品賞は下馬評通り「Maixabel」(2賞)と「El buen patrón」(3賞)になりましたが、監督賞が当ブログではノーマークだったロドリゴ・コルテスの「El amor en su lugar」となりました。第二次世界大戦中の劇場への個人的なオマージュということです。コルテス監督といえばその斬新な切り口でファンを驚かせた「Buried」(10、英語・アラビア語)の監督、国際的に大ヒットして、我が国でも『リミット』のタイトルで公開されました。
★アルモドバル監督も主演のペネロペ・クルスも赤絨毯を踏みませんでしたが、「Madres paralelas」は、アイタナ・サンチェス=ヒホンが助演女優賞、アルベルト・イグレシアスがオリジナル音楽賞、ハビエル・ハエンのポスター賞の3賞をゲットしました。TVシリーズ(ドラマ部門)のアナ・ルハスとクラウディア・コスタフレダの「Cardo」受賞は番狂わせとか。主役を演じたアナ・ルハスは主演女優賞も受賞しました。カテゴリーの数も種類もゴヤ賞とは異なり、こちらのほうが視聴者の目線に近いかもしれない。コメディ部門は2作しか紹介できませんでしたが、スペイン人のコメディ好きは相変わらずです。
(PCR 検査をする、総合司会者のナチョ・ビガロンド監督とコメディアンのパウラ・プア)
★昨年新設された二つの特別賞(フィクション&ノンフィクション)がFeroz Arrebato 賞となり、「激しい感動」という意味なので、一応「フェロス感動賞」と訳しておきます。今回はドラマ部門の作品賞にもノミネートされたチェマ・ガルシア・イバラのロカルノ映画祭特別賞受賞作SFコメディと、アドリアン・シルベストレのトランスジェンダーの心の傷を描いたドキュメンタリーが受賞しました。国内ネットワークでは放映されませんでしたが、YuoTubeで楽しめたようです。降格されてもフェロス賞は生き残る必要があるということです。以下が受賞結果、脚本賞以下は受賞者のみをアップ、ゴチック体が受賞者、*印は当ブログで作品紹介をしたものです。
*第9回フェロス賞2022受賞結果*
◎作品賞(ドラマ部門)
Espíritu sagrado 監督チェマ・ガルシア・イバラ
Libertad クララ・ロケ 邦題『リベルタード』 *
Madres paralelas ペドロ・アルモドバル *
Tres フアンホ・ヒメネス・ペーニャ&ペレ・アルタミラ
Maixabel イシアル・ボリャイン *
*製作者はコルド・スアスア、フアン・モレノ、ギジェルモ・セムペレ。ウルコ・オラサバルの助演男優賞の2冠に終わりました。オリジナル音楽賞ダブル・ノミネートのアルベルト・イグレシアスはアルモドバル映画で受賞、フェロス賞女優賞受賞者のブランカ・ポルティーリョなどは残念でした。
(イシアル・ボリャイン)
(左側が製作者コルド・スアスア)
◎作品賞(コメディ部門)
El cover 監督セクン・デ・ラ・ロサ *
Chavalas カロル・ロドリゲス・コラス
Seis días corrientes ネウス・バリュス
Un efecto óptico フアン・カベスタニー
El buen patrón フェルナンド・レオン・デ・アラノア *
*製作はレオン・デ・アラノア、ジャウマ・ロウレス、ハビエル・メンデス・ソリとの共同製作、フェロス賞受賞は初めて。
(左から2人め、ハビエル・バルデム、レオン・デ・アラノア監督、セルソ・ブガージョ、
アルムデナ・アモール)
◎監督賞
ペドロ・アルモドバル Madres paralelas
イシアル・ボリャイン Maixabel
フェルナンド・レオン・デ・アラノア El buen patrón
クララ・ロケ Libertad
ロドリゴ・コルテス El amor en su lugar
(第5作目で受賞者となったロドリゴ・コルテス)
◎主演男優賞
ロベルト・アラモ Josefina *
リカルド・ゴメス El sustituto
エドゥアルド・フェルナンデス Mediterráneo *
ルイス・トサール Maixabel
ハビエル・バルデム El buen patrón
*フォルケ賞は受賞がほぼ決定していましたが欠席、今度はさすがに出席しました。フェロス賞は『誰もがそれを知っている』(18)でノミネートされただけで今回が初受賞です。
(下馬評通りの受賞者ハビエル・バルデム)
◎主演女優賞
タマラ・カセリャス Ama *
ペネロペ・クルス Madres paralelas
マルタ・ニエト Tres
ブランカ・ポルティーリョ Maixabel
ペトラ・マルティネス La vida era eso『マリアの旅』
(ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス) *
*60年のキャリアを持つペトラに今宵もっとも大きな拍手喝采が送られました。「私の同僚の女優たちはみんな素晴らしいのです。しかし最高の女優は私です」と、お茶目なスピーチをして満場を沸かせたそうです。
(77歳とは思えない受賞者ペトラ・マルティネス)
◎助演男優賞
セルソ・ブガージョ El buen patrón
ペレ・ポンセ El sustituto
チェチュ・サルガド Las leyes de la frontera *
マノロ・ソロ El buen patrón
ウルコ・オラサバル Maixabel
(ウルコ・オラサバル)
◎助演女優賞
アルムデナ・アモール El buen patrón
アンナ・カスティーリョ La vida era eso
ミレナ・スミット Madres paralelas
カロリナ・ジュステ Chavalas (カロル・ロドリゲス・コラス)
アイタナ・サンチェス=ヒホン Madres paralelas
(大人の気品あふれる受賞者アイタナ)
◎脚本賞
フェルナンド・レオン・デ・アラノア El buen patrón
(2冠達成のフェルナンド・レオン・デ・アラノア)
◎オリジナル音楽賞
アルベルト・イグレシアス Madres paralelas
(トロフィーを手にしたアルベルト・イグレシアス)
◎ポスター賞
ハビエル・ハエン Madres paralelas
(ハビエル・ハエン)
◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ La abuela パコ・プラサ監督 *
*2015年の 『マジカル・ガール』 ノミネート以来7回目、2019年の 『シークレット・ボイス』、2020年のパコ・カベサスの 「Adiós」 と2回受賞しているベテラン、今回の受賞で3勝目となった。
(ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ)
◎TVシリーズ作品賞(ドラマ部門)
Cardo 創作者アナ・ルハス&クラウディア・コスタフレダ
製作Suma Latina(ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ)/ Atresmedia Television
*プロデューサーのハビエル・アンブロッシはステージで「若い才能に声をかけたら、彼らに任せてください。彼ら自身に物語を語らせてください」と懇願しました。ロス・ハビスは『ホーリー・キャンプ!』を共同で監督しました。1話25分のミニシリーズ(全6話)
(アナ・ルハス、クラウディア・コスタフレダ)
(80年代ファッションを着たハビエル・カルボとハビエル・アンブロッシ)
◎TVシリーズ作品賞(コメディ部門)
Venga Juan 創作者ディエゴ・サン・ホセ 製作TNT España / 100 Bala
*昨年の第2シーズン「Vamos Juan」に続いて受賞した、政治家フアン・カラスコを主役にした政治コメディ。長寿TVシリーズの第3シーズン。脚本家ディエゴ・サン・ホセは、「オーチョ・アペジードス」シリーズを手掛けたベテランです。
(中央がディエゴ・サン・ホセ)
◎TVシリーズ主演男優賞
ハビエル・カマラ Venga Juan
*主役の政治家フアン・カラスコに扮して、昨年逃したトロフィーを手にした。今回は相棒のマリア・プハルテも助演女優賞を受賞した。
(昨年トロフィーを逃したハビエル・カマラ、マリア・プハルテ)
◎TVシリーズ主演女優賞
アナ・ルハス Cardo
(デュオールのドレスで登壇したアナ・ルハス)
◎TVシリーズ助演男優賞
エンリク・アウケル Vida perfecta (監督レティシア・ドレラ)
*ゴヤ賞2020新人男優賞受賞から注目されている若手俳優、フェロス賞2020に続く2度目の受賞。目が離せなくなった個性派です。
(1970年代に流行した幅広のパンタロン姿で登壇した)
◎TVシリーズ助演女優賞
マリア・プハルテ Venga Juan
(マリア・プハルテ)
◎フェロス感動賞(フィクション部門)
Espíritu sagrado 監督チェマ・ガルシア・イバラ
(チェマ・ガルシア・イバラ)
◎フェロス感動賞(ノンフィクション部門)
Sedimentos (ドキュメンタリー) 監督アドリアン・シルベストレ
*6人のトランスジェンダーの女性の人生について欄外から描いたドキュメンタリー。タイトルは心の傷、わだかまりの意。
(左側、アドリアン・シルベストレ)
◎フェロス栄誉賞
セシリア・バルトロメCecilia Bartolomé(1940年アリカンテ生れ)
*監督、脚本家、プロデューサーとして、スペインの女性たちに課せられたタブーに挑戦した映画業界のパイオニア的存在。鬼籍入りしているピラール・ミロや未だ現役の先輩ジョセフィナ・モリーナ監督などと協力して、女性シネアストの地位向上に尽くしている。別途キャリア紹介を予定しています。コチラ⇒2022年02月09日
(多くの女性シネアストたちが登壇して祝福しました)
★以下は話題を呼んだレッドカーペット上のファッション・ショー、若手の男性たちのルックスは、黒のジャケットを脱ぎ捨てて以前とは大分変わりました。女性の人気ファッションは相変わらずモノクロが多かった印象です。
(毎回ベストドレッサーに選ばれるクララ・ラゴ)
(TVシリーズ「La fortuna」で主演女優賞ノミネートのアナ・マリア・ポルボロサ)
(「Madres paralelas」で助演女優賞ノミネートのミレナ・スミット)
(TVシリーズの助演男優賞プレゼンターのインマ・クエスタ)
(カルメン・アルファト)
(「Chavalas」で助演女優賞ノミネートのカロリナ・ジュステ)
(「Tres」で主演女優賞ノミネートのマルタ・ニエト)
(『マリアの旅』で助演女優賞ノミネートのアンナ・カスティーリョ)
(TVシリーズ『ペーパー・ハウス』で助演女優賞ノミネートのナイワ・ニムリ)
(TVシリーズ「Hierro」で主演女優賞ノミネートのカンデラ・ペーニャ)
(「El buen patrón」で助演女優賞ノミネートのアルムデナ・アモール)
(「Vida perfecta」の監督レティシア・ドレラ)
(エレガントなAICA会長マリア・ゲーラ、ポデモス統一のヨランダ・ディアス)
★アルモドバルは国内では振るいませんでしたが、イギリスのアカデミー賞と言われるバフタ賞 BAFTA(英語以外の映画部門)にノミネートされ、濱口竜介、セリーヌ・シアマ、パオロ・ソレンティーノなどと競います。
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