ベネズエラ映画*マリオ・クレスポのデビュー作”Lo que lleva el r:io”2015年12月28日 12:25

        オリノコ・デルタで暮らす少数民族女性の向上心と愛の物語

 

★本作はアカデミー賞とゴヤ賞2016のベネズエラ代表作品でしたが、前者はプレセレクションの段階で落選、後者もノミネーションには至りませんでした。主人公ダウナDaunaは、ベネズエラのオリノコ・デルタに暮らす少数民族ワラオWarao(またはグアラオGuarao)語族の若い女性、彼女は女性特有の役割を強制する「共同体」から脱出して、町の学校で勉強したいと願っている。年々グローバル化する多文化の世界で、二つの社会を行ったり来たりする女性の困難さが語られる。ヒロインのダウナにはグアラオ語族出身のヨルダナ・メドラノが扮する。

 

         

                      (ダウナ役のヨルダナ・メドラノ、映画から)

 

    Dauna, Lo que lleva el río”(“Gone with the River”)2014

製作:Asociación Civil Yakari / Alfarería Cinematográfica

監督・脚本・プロデューサー:マリオ・クレスポ

脚本(共同)・プロデューサー:イサベル・ロレンス

音楽:アロンソ・トロ

撮影:ヘラルド・ウスカテギ

編集・プロデューサー:フェルミン・ブランヘル

衣装デザイン:フアン・カルロス・ビバス

メイクアップ:グスタボ・アドルフォ、ゴンサレス・バレシリョス

プロダクション・マネジメント:アドリアナ・エレラ

助監督:ルイス・フェルナンド・バスケス

音響:ガブリエル・デルガド・ペーターセン、グスタボ・ゴンサレス、他

 

データ:製作国 ベネズエラ、言語 ワラオ語・スペイン語(ワラオ語にはスペイン語字幕入り)、2014年、104分、製作費予算:626,500ドル(IMDbデータ)、撮影地 オリノコ・デルタ、カラカス、協賛CNAC Centro Nacional Autónoma de Cinematografía / IBERMEDIA 他、ベネズエラ公開320

 

受賞歴・映画祭上映:ベルリン映画祭2015正式出品、サンパウロ映画祭、モントリオール映画祭、ハバナ映画祭サラ・ゴメス賞、ウエルバ・イベロアメリカ映画祭スペシャル・メンションとイベロアメリカの現実を反映した映画に贈られる作品賞を受賞、バルセロナ・ラテンシネマ限定上映

 

キャスト:ヨルダナ・メドラノ(ダウナ)、エディー・ゴメス(タルシシオ)、ディエゴ・アルマンド・サラサール(フリオ神父)、他

 

プロット:オリノコ・デルタの北西で暮らす少数民族女性ダウナの向上心と愛の物語。語学の習得に優れた才能をもつダウナは、家族やフリオ神父の助けを借りて勉学に励んだ。子供の頃に将来を誓い合った恋人タルシシオも忍耐強く彼女を支えた。しかしどうしたらワラオ共同体の社会的圧力をはねつければいいのか、その術が分からなかった。ダウナのタルシシオへの愛に偽りはなかったが、彼が共同体の伝統に縛られ、いずれ敗北してしまうのではないかと怖れていた。

 

           

                            (ダウナとタルシシオ、映画から)

 

マリオ・クレスポMario Crespo 監督は、1949年キューバ生れ、脚本家、製作者、監督。チャベス政権初期の2000年、話者およそ35,000人を有する国内第2位のワラオ語消滅の危機を回避するためと少数民族の歴史的記憶の復権などの目的でベネズエラに赴いた。2001年、共同体のメンバーにビデオ撮影の技術指導をするため現地入りした。以後ベネズエラに定住しで映画製作に携わっている。ドキュメンタリー作家としての経歴が長く、65歳にして今回初めて長編劇映画に挑戦した。本作の構想は10年前から始まり、現地の数家族と居を共にして日常生活を観察しながら取材を重ねた。その後、共同脚本家のイサベル・ロレンスと二人で構想を練った。

 

 

 (ポスターを背にマリオ・クレスポ監督

 

★イサベル・ロレンスは、脚本家の言葉として〈闘う女性〉の姿を描き出したかった。例えばダウナは映画の4分の3、約1時間もスクリーンに登場、少数民族の女性が負わされている複雑に絡みあった困難に直面している。「どんな環境に暮らそうとも、いかなる人も、男でも女でも、何かを学びたいと考えるのは自然だ」というクレスポの言葉に共感していると語っている。

 

★本作はワラオ語とスペイン語のバイリンガルで撮られた世界初のフィクションになる。監督によると、「まずスペイン語の脚本をワラオ語に翻訳することから始めた。ところが出演者の大多数は字が読めないからワラオ語の台本作りは徒労に終わった。それでこれから撮影するシーンを何回も口頭で説明した。どんなシチュエーションなのか、彼らが理解しやすく内面化できるように記述を工夫した」と語っている。

 

★少ない資金のため夜間のシーン以外は照明を使用せず、撮り直しを避けて2台のカメラで撮影した。それは本作がドキュメンタリー要素の強いフィクションなので、即興で起る新鮮さを失わないためでもあった。例えば、まだ子供だったタルシシオが友達のダウナにプロポーズするシーンを撮っているとき、彼は恥ずかしくて両手で顔を被ってしまった。これはホンにはなかったことで、繰り返し撮ろうとしても上手くいかなかったろう。ワラオの人はとても控えめで、撮影の中断や繰り返しを自分たちのせいと思ってしまうのだろう。製作費はベネズエラのCNACIBERMEDIAの援助を受け、最終的には750万ボリーバル(約120万ドルに相当)だった。

  

      

               (ヨルダナ・メドラノ、クレスポ監督、ベルリン映画祭にて)

 

★配給会社探しは困難を極めたらしい。ワラオ語の映画と聞けば、大抵の配給元は尻込みするだろう。移動スクリーンを使用して現地で撮影会をした。集まった出演者の驚きは相当なものだったらしい。それもこれも分かりますね。映画後進国ベネズエラの近年の躍進には目を見張るものがあります。当ブログで記事にしたロレンソ・ビガスの“Desde allá”(ベネチア映画祭2015金獅子賞)、マリアナ・ロンドンPelo malo”(サンセバスチャン映画祭2013金貝賞)、ミゲル・フェラリAzul y no rosa”(ゴヤ賞2014イベロアメリカ映画賞)などが記憶に新しい。

 

★つい最近126日にあった議会選挙では、1999年より政権をとっていたベネズエラ統一党が大敗を喫し、反チャベスの民主統一会議が勝利した。中国の出方にもよるが政治地図は大きく変わらざるをえない。国家の予算の大半を原油に頼るベネズエラでは、昨今の原油安は危急存亡の秋かもしれない。マドゥロ大統領の任期は2019年まであるが、ハイパー・インフレに苦しむ国民の忍耐が何時まで続くか、前途は厳しいのではないか。映画文化も無縁ではいられない。


アカデミー賞外国語映画プレセレクションにコロンビア代表作品が選ばれた2015年12月19日 15:54

     チロ・ゲーラの新作“El abrazo de la serpiente

 

★ゴヤ賞2016イベロアメリカ映画賞にもノミネーションされず、チロ・ゲーラの不運を嘆いておりましたが、アカデミー賞プレセレクション9作品の仲間入りを果たしました(英題Embrace of the Serpent”)。製作国は他にベネズエラとアルゼンチンが参加しています。後者のパブロ・トラペロの「ザ・クラン」は落選、アルゼンチンは昨年ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』が選ばれたので可能性は低かったかもしれません。1960年から70年代にかけては参加国も限られていたから、フランス、イタリア、北欧諸国が2年連続受賞ということもありましたが、21世紀に入ってからは流石にないようだ。他に中南米からはハイロ・ブスタマンテの『火の山のマリア』(グアテマラ)、初めて代表作品を送り込んだパラグアイのドキュメンタリー“El tiempo nublado”、スペインの『フラワーズ』は残れませんでした。

 

   

            (“El abrazo de la serpiente”のポスター)

 

★この9作品の中から最終的にノミネーション5作品が選ばれますが、もう受賞作はハンガリーの『サウルの息子』に決定しているとか。昨年はポーランドの『イーダ』が下馬評通り受賞しましたから、多分そうなるのでしょう、白けます。しかしノミネーションを受けるだけでも大変なこと、昨年ジフロンに付き添って現地入りしていたアグスティン・アルモドバルも「ノミネーションだけでも名誉なことだ」と語っていた。興行的にプラスになることが借金返済や次回作の資金集めに大いに寄与してくれるからです。

 

★チロ・ゲーラがコロンビア代表作品に選ばれるのは3回目、前回は2009年の“Los viajes del viento”(英題“The Wind Jouneys”)、コロンビアのノミネーションはまだゼロ、もし三度目の正直で残ったら初となる。本作はカンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」に正式出品された。その折、監督キャリア&フィルモグラフィー、並びに本作紹介記事をアップしております。

コチラ⇒2015524 

第7回「京都ヒストリカ国際映画祭」(10月31日~11月8日)で『大河の抱擁』の放題で上映されました。 

 

     アイルランド代表作品“Viva”は異色のスペイン語映画

 

★パディ・ブレスナックの新作“Viva”はアイルランド映画だが、キャストはキューバ人、舞台はハバナ、言語はスペイン語と異色づくめ。キューバは今年代表作を送らなかったが、アイルランドの代表作品がプレセレクションに選ばれた。キューバ映画の顔みたいなホルヘ・ペルゴリアが、主人公ヘススの父親アンヘル役で出演しています。18歳の主人公にエクトル・メディナ、15年の刑期を終えて出所してくる元ボクサーの父親にペルゴリア、脇をベテランが固めています。本作についても既に簡単ながら記事をアップしております。

コチラ⇒2015103  

 

  

          (ドラッグ・クイーンのエクトル・メディナ、映画から

 

G・G・ベルナル『ザ・タイガー救世主伝説』*アルゼンチン版ウエスタン2015年12月18日 13:33

           ガエル・ガルシア・ベルナルがシャーマンに変身

 

★撮影監督のフリアン・アペステギアが、昨年から始まった「フェニックス賞」(イベロアメリカ)で最優秀撮影賞を受賞した作品です。ガラにはパブロ・ヘンドリック監督、主演のGG・ベルナルアリシー・ブラガが出席、肝心の受賞者フリアン・アペステギア欠席で、代わりに監督がフェニックスの黒い卵のトロフィーを受け取りました。124日スペインで公開され話題になっているのでアップしようと思いたちIMDbを検索したら、なんと既に今年6月に劇場公開されているではないか(!)2014年から始まった「第2回カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション映画祭」(カリコレ映画祭)に、『ザ・タイガー 救世主伝説』という邦題で上映されていたのでした。しかしこんなタイトルでは“Ardor”に辿りつけないし、そもそも映画祭もノーチェックでした。今月WOWOWでも放映、DVDも新春そうそう発売される。

 

             

                  (ポスター)

 

   Ardor(“The Ardor”、『ザ・タイガー 救世主伝説』)2014

製作:Magma Cine / Bananeira Filmes / Manny Films / Canana Films

監督・脚本:パブロ・ヘンドリック

撮影:フリアン・アペステギア

音楽:セバスティアン・エスコフェト、フリアン・ガンダラ

音響:レアンドロ・デ・ロレド、ジョージ・サルダーニャ

編集:レアンドロ・アステ

美術:ミカエラ・Saiegh

セット・デコレーション:サブリナ・カンポス

メイクアップ:マルティン・マシアス・トルヒージョ、セレステ・アリサバラガ(特殊メイク)

衣装デザイン:キカロペス

プロデューサー(共):バニア・カタニ、パブロ・クルス、GG・ベルナルほか多数

 

データ:製作国(アルゼンチン、メキシコ、ブラジル、仏、米、西)、言語(スペイン語・英語)、ウエスタン、2014年、101分、撮影地アルゼンチンのミシオネス州

 

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2014特別上映、第1回イベロアメリカ・フェニックス賞2014「最優秀撮影賞」受賞(フリアン・アペステギア)、アルゼンチン映画アカデミー(スール)賞2014には作品賞以下多数ノミネーション、アルゼンチン映画批評家協会が選ぶコンドル賞2015に助演男優賞クラウディオ・トルカチル、音楽賞セバスティアン・エスコフェト、フリアン・ガンダラ、撮影賞フリアン・アペステギアが、各銀のコンドル賞にノミネーション。

 

キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル(カイ)、アリシー・ブラガ(バニア)、チコ・ディアス(バニアの父ジョアン)、クラウディオ・トルカチル(トリキーニュ)、ホルヘ・セサン、フリアン・テジョ(バンド)、ラウタロ・ビロ(ハラ)他

 

プロット:ミシオネスの熱帯雨林を舞台に呪術をおこなう寡黙な一匹狼カイの物語。ふらりと現れたミシオネスでは、折りも折り土地の拡大を目論む権力者のために金で雇われた男たちがタバコ農場主ジョアンとその娘バニアを暴力で脅していた。カイは苦境に立たされている父娘を助ける決意を固める。しかし父親は抵抗むなしく殺害され娘は拉致されてしまう。若者は娘救出のため森林破壊者である権力者と対峙することになる。エコロジストの視点をもつ孤独な男のアルゼンチン版ウエスタン。                              (文責:管理人)

 

       

          (アリシー・ブラガ、GG・ベルナル、映画から)

 

監督キャリア&フィルモグラフィー

★パブロ・ヘンドリック Pablo Fendrik 1973年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、編集者。

2007El asaltante2009銀のコンドル賞(初監督賞)、2009スール賞(同)を共に受賞、

リマ・ラテンアメリカ映画祭初監督賞受賞、アミアン映画祭2007アミアン市賞受賞、カンヌ映画祭2007ゴールデン・カメラ賞にノミネーション、他

2008La sangre brota”カンヌ映画祭2008「批評家週間」に正式出品、ユース賞受賞、2010銀のコンドル(監督・オリジナル脚本賞)ノミネーション、2009スール賞(作品・監督・オリジナル脚本賞)ノミネーション

2014Ardor省略。

 

★他、短編は割愛、なお“Ardor”は、アミアン映画祭2009で脚本制作の基金を得ている。上記のフィルモグラフィーから分かるように長編全3作がカンヌ映画祭で上映され、デビュー作が有名なノートルダム大聖堂のあるアミアン映画祭で受賞するなどフランスと縁が深い。

 

 

 (GG・ベルナル、監督、アリシー・ブラガ、クラウディオ・トルカチル、カンヌにて)

 

 *トレビア

★タイトルはスペイン語圏でも上映国によって定冠詞ELが付いたり、スペインのように“Ardor. La justicia de los debiles”と副題が入るものもあり異なる。多分過去に同題の作品があるせいかと思う。また、映画に出てくるのは〈ジャガー〉で、〈タイガー〉は出てこない。そもそも南北アメリカ大陸にタイガーは生息していない。しかしアメリカ虎とも称するから英語字幕がアメリカ・タイガーなのかもしれない。映画の顔ともいうべきタイトルの付け方は、本当に難しい。

 

★ウエスタン風にするための図式を多用する不自然な筋運びが気になるが、監督は、ジョン・ウェインやゲイリー・クーパーが活躍した初期のウエスタンではなく、淀川長治が大嫌いだったサム・ペキンパーやマカロニ・ウエスタンの確立者セルジオ・レオーネの作風を意図しているのかもしれない。またオールドファンならヴェルナー・ヘルツォークの『アギーレ / 神の怒り』1972)、もう少し若い方ならクリント・イーストウッドが自作自演した『ペイルライダー』1985)などを思い浮かべるかもしれない。カイを裸のシャーマンに造形したのは、ホドロフスキーの『リアリティーのダンス』に登場する自然破壊を嫌った裸身のシャーマンをイメージさせる。魔術的なミステリーの要素、資本主義の搾取を告発する内容なども織り込まれている。撮影監督フリアン・アペステギアの仕事の評価は高く、GG・ベルナルの演技も評価された。

 

1978年生れのガエル・ガルシア・ベルナルにとっては、勿論「蒼ざめた馬」に乗って町にやってきたプリーチャーが活躍する『ペイルライダー』だろう。日本でも76世代といわれるグループは、自由な発想を得意とし縛られるのを嫌がる。しかし古い世代のことも知っている微妙な立ち位置にいる。TVに育てられた世代だが既に卒業もしている。スペイン公開前日にエル・パイス紙のインタビューを受けたガエルは、「質の悪い開発一辺倒の権力者に立ち向かうカイのようなヒーローにとって、飛び上がるには活力が必要だ。しかし社会を批判するだけの脚本ではダメ。脚本が優れていないとヒーローにも興醒めさせられるし、一歩間違うとプロパガンダになりかねない」と語っている。

 

★映画の舞台となった「ミシオネス」は乾季のない熱帯雨林、アルゼンチンでも最も蒸し暑い州。北西をパラグアイ、北と東はブラジルと国境を接し、文化的にはブラジルに近い地域、パラグアイの公用語でもあるグアラニー語、ポルトガル語、ドイツ語が話されている。それはここに植民にしてきたのがゲルマン人だったからです。これらの白人が南米ウエスタンでの敵対者になる。先住民グアラニー族はかつてはジャングルには住んでおらず、コンキスタドールやイエズス会の神父たちに追われてジャングルの奥に逃げ込んでいったそうです。

 

      

           (裸のシャーマン、GG・ベルナル、映画から)

 

★ガエルによると、現場のジャングルに入るのに毎日50分ほど歩くという過酷な撮影だったという。ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)でピラニアがいる夜のアマゾン川を泳いだ若者も大変だったようだ。将来的にはアメリカTVシリーズの刑事ドラマ『ザ・ワイヤー』のような複数の人格が物語を構成するテレドラを考えているようです。メキシコを汚染する麻薬取引、政治、犯罪、社会教育など都市が抱える問題を描きたいようだ。〈カナナ〉の主力メンバー3人は、ディエゴ・ルナにしろ、本作のプロデューサーの一人パブロ・クルスにしろ、世界の不平等には黙っていられない人たちだ。20148月に『パウリーナ』のドロレス・フォンシと離婚したばかりだが、本作で意気投合したアリシー・ブラガが新恋人という噂です。ドロレスは既に『パウリーナ』の監督サンティアゴ・ミトレと再婚している。

 

 

       (ガエルとアリシー、第1回フェニックス賞授賞式にて、2014年)

 

 

パラグアイのドキュメンタリーがオスカー外国映画賞に初挑戦2015年12月13日 22:39

 

           アラミ・ウジョンが自身の母親と向き合うドキュメンタリー

 

                    (映画のポスター)

★オスカー賞2016の各国代表作品をリスト・アップした際に「これは是非見たい映画です」と書いた作品。El tiempo nublado(“Cloudy Times”パラグアイ=スイス合作)は、近年増加しているというパーキンソン病に罹ったウジョン監督自身の母親を追った重いテーマのドキュメンタリー、車椅子生活となった母と一人娘が向き合う映画です。ゴヤ賞2016「イベロアメリカ映画賞」のパラグアイ代表作品にも選ばれている。

 

      

      (母親ミルナとアラミ・ウジョン監督、映画から)

 

★実は、パーキンソン病の他にてんかん、高齢による知力減退が重なって自力で生活できなくなっていた。当時監督はパートナーのパトリックとスイスで暮らしていたが、実母の介護のためグアラニーの故国に戻ってきた。上記の写真からも分かるように自身も被写体にしており、監督、脚本家、共同製作者も兼ねている。アジェンデ大統領の孫娘タンブッティ・アジェンデのドキュメンタリーと同じく、非常に個人的な要素を含んだ作品ですが、「親が老いて病を得たとき、私たちは何をすべきか?」という根源的なテーマが語られている。つまり老親の介護は万人共通の普遍的なテーマだと言えるからです。複数の兄妹がいれば、ロドリゴ・プラの『マリアの選択』のような「誰が老親を看るか」という問題も発生するが、監督のように一人娘であれば選択肢はない。離れて暮らしている母と娘、母と息子、父と娘・・・など、少子化問題は我が国でも待ったなしでしょう。

 

★パラグアイのように福祉がおろそかにされている国では、個人的に対策を考えなければならない。政治は第3世代つまり老齢になった人々をフォローする余裕がない。「多くの老人が放置され、自分の境遇または家族の助けを諦めて耐えている。そのことに気づいた」と監督。「介護料は高額のうえ質も保証されておらず家族が奮闘することが当たり前だ」とも。「最も憂慮すべきことはこの問題に関してわたしたちが沈黙していること。老いや病について、患者の権利と介護者の権利について語り合うことがない。私の映画がそういう状況打開に一石を投ずることができたらと思う」と監督。まずディベートを始めることですね。

 

★「本作はある一つの現実を語ったものですが、母親と一緒に映画を作ることが一種の健康維持にもつながったという体験をした。以前は互いに避けていた事柄にきちんと向き合うこと、逃げ出さない義務があることを学んだ。そういう過程で母娘の関係性が強化された。多分他人の視点で自分の生き方を見ることができるようになったから」と締めくくった。これは素晴らしい体験です。だからといって介護は家族がすべきなのだとは絶対に思いません。

 

★受賞歴:スイスのバーゼル映画祭「Zoom Basler Filme ImFokus」で長編映画賞、同ニヨン市「Visions du Reel」で初監督賞を受賞している。

 

軍事独裁制(195984)が長く続いたパラグアイは文字通り映画後進国、映画アカデミーのような組織もなかった。これがないとオスカー賞に参加できない。2012年の話題作“7 cajas”も当時参加できなかった。その苦い経験から20131028日、初めてパラグアイ映画アカデミーACPY総会が開催され、今年の代表作品選考に辿りついた。初代会長は“7 cajas”の監督タナ・シェンボリ(1970、アスンシオン)。ACPY会員の投票で、第1回の代表作品にEl tiempo nublado”が選ばれた。

(写真下は、オスカー賞とゴヤ賞のパラグアイ代表作品のノミネーションを発表する代表者)

 

 

    (左から、第一書記イバナ・ウリサル、会長タナ・シェンボリ、812日)

 

7 cajasという映画は、社会から疎外された少年グループが複雑な闇社会に翻弄されるスリラー。フアン・カルロス・マネグリア(1966、アスンシオン)とタナ・シェンボリの共同監督作品。2011年サンセバスチャン映画祭「Cine en Construccion賞」という新人監督に与えられる賞をもらい、翌年の同映画祭で「Euskatel de la Juventud賞」(いわゆるユース賞)を獲得した。ゴヤ賞2013年パラグアイ代表作品に選ばれ、パラグアイ初のノミネーションを受けた。その他モントリオール、マル・デル・プラタ、パルマ・スプリングなどの国際映画祭で上映され、パルマでは「New Visions」部門で特別賞を受賞し、賞金5000$を得た。二人の監督は、1990年代にTVミニシリーズでコンビを組んで以来の仲間。

 

★スペイン代表作品はジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガの『フラワーズ』、めぼしいところを列挙すると、チリがパブロ・ララインの『ザ・クラブ』、これは最近ノミネーションが発表になったゴールデン・グローブ賞の5作品候に踏みとどまった。アルゼンチンがパブロ・トラペロの「ザ・クラン」、最終候補に残るスペイン語映画があるとすれば、本作が一番有力ではないかと思っています。

 

*関連記事・管理人覚え*

オスカー賞2016外国語映画賞(スペイン語)の主なリストは、コチラ⇒201510月3

  

マルティネス=ラサロの新作”Ocho apellidos catalanes”公開2015年12月09日 13:14

     1年半待たされましたがやっと“Ocho apellidos catalanes”が公開

 

★昨年のスペイン映画界の救世主Ocho apellidos vascos2014)の続編です。監督エミリオ・マルティネス=ラサロの希望というより製作者の「柳の下の二匹目の泥鰌」を狙っての企画だったようです。果たして泥鰌は「居たのか、居なかったのか」どっちなのでしょうか。クランクインの記事はアップしておりますが、改めてフィーバーぶりを。前作も日本では無視され続けておりますが(多分)、スペインでの興行成績は、毎回好評のサンティアゴ・セグラの「トレンテ」シリーズは言うまでもなく、あのフアン・アントニオ・バヨナの『インポッシブル』をも抜いたのでした。スペイン人を理解するには、格好の教材だと思うのですが、公開の道は遠そうです。

 

★スペインで映画館に足を運んだ人は延べ約1000万人、総人口4600万の国ですから、一つマルが間違っているのではないかと思うほどです。山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズは本編48作、ギネスブック入りだそうですが、それでも全作のトータル観客数は8000万、これも凄い数字ですけど、ちなみに第1作は54万人だったそうです。“Ocho apellidos vascos”の数字が如何に破格だったかが分かります。これは、映画館から何年も足が遠のいていた人、映画はテレビやDVDで観るものと決めていた人が行かないと達成できない数字です。

 

 

    (2015年興行成績ナンバーワンの結果に大喜びするスタッフ、キャストたち)

 

★第2作目、カタルーニャ編はどうだったか、思惑通り二匹目の泥鰌は居たようです。1127日、公開1週目の集計が出ました。観客動員数1,809,490人のおかげで、11,081,639ユーロ、うち観客の73%が初日に映画館に足を運んだそうです。「バスク編」のスクリーン数は350でしたが、「カタルーニャ編」は884だったそうです。封切り日は金曜日なのですが。結局2014年に引き続き、2015年も興行成績ナンバーワンになることは確実です。公開前の予想では、「バスク編5600万ユーロを超えることは不可能、うまくいって3000万ユーロ」と踏んでいたようですから期待以上の数字です。どうやら先が読めなくなってきたようだ。

 

(クララ・ラゴ、ダニ・ロビラ、カラ・エレハルデ、続編「カタルーニャ編」から)

 

★こうなると第3作、4作・・・と欲が出て、「ガリシア編」やら「アンダルシア編」などが撮られるかもしれない。脚本は前作と同じボルハ・コベアガディエゴ・サン・ホセが共同執筆した。国粋主義者の「コルドをニューヨーク入りさせたい。ブルックリン橋を船で潜らせ、『なんてこった、こりゃポルトゥガレテの吊橋じゃないか』と歓喜の声を上げさせたい」とサン・ホセ。「ポルトゥガレテの吊橋」というのは、1893年に完成したビルバオ川に架かった吊橋、世界遺産に登録されている。しかし規模は比較にならないほど小さいから笑える。このシリーズは、主役のダニ・ロビラクララ・ラゴより、バスク・ナショナリストに凝り固まったコルト役カラ・エレハルデ(クララの父、ゴヤ助演男優賞受賞)なしでは成立しないコメディです。海外編も考えているということですかね。

★「わたしたちが好きなコメディは、ジュリア・ロバーツが出演した『ベスト・フレンズ・ウェディング』なのです。かつての恋人―しばらく会っていないが今でも愛している―の結婚式をぶち壊して自身が花嫁になりたい。このようなコメディが元になっている」とコベアガ。ハリウッドのロマンティック・コメディの古典ですね。また「バスク編」のプロットは、ジェイ・ローチの『ミート・ザ・ペアレンツ』、主人公ベン・スティラーが恋人(テリー・ポロ)の父親(デ・ニーロ、元CIAの職員)に結婚の許しを得るためニューヨークに乗り込むお話でした。吹き替えでも繰り返し放映されたヒット・コメディ。カラ・エレハルデVSデ・ニーロ、ダニ・ロビラVSベン・スティラー、クララ・ラゴVSテリー・ポロという図式です。

 

★他に、ベルランガの『ようこそマーシャルさん』(1952)、セグラの「トレンテ」シリーズ、W・ベッカーの『グッバイ、レーニン!』(独2003)、それに戦前のハリウッド映画、ジョージ・キューカーの『フィラデルフィア物語』(1940)などを上げている。戦後間もない1948年に日本でも公開され、「こんな映画を作っていた豊かな大国と戦争してたんだ」と、観客はショックを受けた。

 

★「第1作の成功がプレッシャーになっていたが、脚本は自由裁量であった。二人が恐れていたのは筋のマンネリ化、それを避けるためガラリと変えた。続編は恋の三角関係です」とサン・ホセ。スタッフもキャストもほぼ同じですが、クララ・ラゴ(アマイア)のカタルーニャでの新恋人にブルト・ロメロ、その祖母役に大ベテランのロサ・マリア・サルダが加わった。この家族は典型的なカタルーニャ気質を体現しており、バスクのクラシック・ジョークを言い換えながら笑わせる。どうやらバスクとカタルーニャの違いが分からないと笑えないのかもしれない。ジハード・テロリストについてのジョークもちょこっとあるようだ(心配?)。ロメロが演じる新恋人は、現代アーティストでヒップスターという役柄、「この役はマリオ・カサスには無理だよ、それで僕のところに回ってきたんだ」とロメロ。エル・パイス紙の購読者向けに企画された公開2日前インタビューで冗談をとばしていた(司会は本紙の批評家グレゴリオ・ベリンチョン)。

 

  

  (左から、カルメン・マチ、ブルト・ロメロ、マルティネス=ラサロ監督、1118日)

 

★このインタビューから見えてきたのは、バスク編製作中に続編が構想されていたが、「実際に私が、決心したのは第1作の大成功が分かった時点」とマルティネス=ラサロ監督。また「映画は数多くのおバカさんで成り立っている」とも語っていた。確かホセ・ルイス・ゲリンも「クレージーでないと映画は作れない」と語っていた。監督キャリアはバスク編で紹介しています。

 

カルメン・マチは続編も同じメルチェ役、バスク編ではゴヤ助演女優賞を受賞した。多くの批評家が脇役エレハルデとカルメンのベテラン勢の演技なしに大成功はなかったと口を揃えた。彼女は、2010年エミリオ・アラゴンの『ペーパーバード 幸せは翼にのって』がラテンビートで上映されたとき、監督と一緒に来日した。アルモドバル新作「フリア」(「沈黙」を改題)には出演していませんが、アルモドバルの常連さんでもある。ゴヤ賞2015ノミネーション他でキャリア紹介しています。

 

関連記事・管理人覚え

◎バスク編の紹介記事は、コチラ⇒2014327

◎バスク編フィーバーの記事は、コチラ⇒2014513

◎ゴヤ賞2015ノミネーションの記事は、コチラ⇒2015128


バヨナ、新作「怪物はささやく」の予告編を披露した2015年11月26日 13:02

          公開は1年先の201610月に決定

 

★昨年12月にキャストやスタッフなど大枠をアップいたしましたが、先日最初の予告編が監督のツイッター上に登場しました。1分ちょっとの本当に短いものですが見上げるようなイチイの大木です。リーアム・ニーソンがこのイチイのモンスターになります。スペイン語題はUn monstruo viena a vermeですが、言語は英語です。邦題がどうなるか分かりませんが、パトリック・ネスの同名小説“A Monster Calls”が既に『怪物はささやく』として翻訳されておりますので、決定するまで当ブログではこれを採用します。

 

      

              (イチイの大木を見上げるコナー少年)

 

★フアン・アントニオ・バヨナの「母子三部作」の最終回です。「母子三部作」というのは、2007年の『永遠のこどもたち』2012年の『インポッシブル』のこと、テーマ的には第1作に近い。というのは「現実的な家族を描きますが、領域的には死が身近にあり、エモーショナルな激しさを共有しているから」だそうです。『インポッシブル』は、昨年のOcho apellidos vascosが記録を塗り替えるまで、スペインでの興行成績ナンバーワン、国内でこそ記録は破られましたが、世界記録は保持しています。本作でバヨナはゴヤ賞監督賞のみならず、最年少「国民賞」(映画部門)受賞者にも輝いた。今年の受賞者がフェルナンド・トゥルエバでしたから、いかに異例の受賞だったかが分かります。

 

主役のコナー少年にはオーディションを受けた約1000人の中から選ばれたルイス・マクドゥーガル、ほか主な登場人物は、癌闘病中の母親にフェリシティ・ジョーンズ、祖母にシガニー・ウィーバー、『永遠のこどもたち』にも出演したジェラルディン・チャップリンなどがクレジットされている。リーアム・ニーソンを含めて大物俳優が脇を固めている。

 

(最後列L・ニーソン、脚本家P・ネス、S・ウィーバー、前列L・マクドゥーガル)

 

本作“Un monstruo viena a verme”のデータは、コチラ⇒20143171213


アルモドバル、新作タイトル”Silencio”を”Julieta”に変更2015年11月21日 14:32

 

   スコセッシの新作“Silence”との「将来的な混乱」を避けるため

 

1119日、製作会社「エル・デセオ」を通して正式に発表された。予てから、同年公開、同タイトルではややこしいなと思っていたので、タイトル変更は歓迎です。両作とも劇場公開は100パーセントですから。新タイトルはヒロインの名前「フリエタ」から採られた。日本メディアはヒロイン名を「ジュリエッタ」と紹介しているので、どうなるかは不明です。既にクランクアップしており、音楽担当のアルベルト・イグレシアスもすべての作曲を終了した由、2016318日スペイン公開が決定しております。

 

  

          (二人のフリエタ、左からエンマ・スアレス、アドリアナ・ウガルテ)

 

★アルモドバルによると、タイトルは「沈黙」と同じでも、‘Silencio’と‘Silence’と違うし、物語や製作国はまったく異なるから問題なしと考えていたようです。しかし将来的には混乱が起きる可能性無きにしも非ずと思い直したようです。スコセッシの方は遠藤周作の同名小説の映画化だから、改題はありえないと考えたのかもしれません。

 

★アルモドバルは、13日に起きたパリ同時多発テロに言及、「エル・デセオの仲間は13日以来喪に服している」と、犠牲者の家族とパリを愛する多くの人々への連帯を表明した。

 

       マーティン・スコセッシ念願の“Silence

★マーティン・スコセッシの「Silence沈黙」は、ご存じ遠藤周作(192396)の同名小説の映画化、1966年、谷崎潤一郎賞ほかを受賞したベストセラー歴史小説。監督が企画してから数年経ち、スケジュールの関係でキャストも二転三転、やっと陽の目を見るとこになった監督念願の大作。江戸時代初めのキリシタン弾圧下の日本に潜伏して布教するポルトガル青年司祭ロドリゴが主人公、懐疑と内面的な救いにもがく姿を描いた。「沈黙」とは「神の沈黙」です。1971年、篠田正浩監督が『沈黙 SILENCE』のタイトルで映画化している。今回はロドリゴにアンドリュー・ガーフィールド、師フェレイラ神父にリーアム・ニーソン、通詞に浅野忠信(前は渡辺謙だった)、塚本晋也監督もモキチ役で登場します。台湾で撮影中セットが崩れて死者一人が出るなどの不幸もあったが、撮影終了、来年公開です。 

関連記事*管理人覚え

Silencio”製作発表の記事は、コチラ⇒2015315

エンマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテの紹介記事は、コチラ⇒201545

クランクアップの記事は、コチラ⇒2015818



フアン・ディエゴ & アイタナ・サンチェス=ヒホンに「金のメダル」2015年11月20日 11:55

 

「金のメダル」受賞者はスペイン映画界きっての論客の手に

 

★今年はスペイン映画アカデミー設立30周年の年、新会長アントニオ・レシネスの手から、「金のメダル」が師弟愛で固く結ばれているシネアストフアン・ディエゴアイタナ・サンチェス=ヒホンの二人に贈られた。二人揃って記者会見に臨んだが、何しろ名うての論客だから例年より盛り上がったようです。二人とも映画のみならず舞台にテレビにと幅広く活躍しており、特にアイタナ・サンチェス=ヒホンは最近、映画から遠ざかって舞台に専念していたので予期せぬ受賞だったようです。 

 

  (メダルを手に喜びのフアン・ディエゴとアイタナ)

 

アイタナ・サンチェス=ヒホン(1968年、ローマ生れ)は、ゴヤ賞の候補にさえ選ばれなかったのに、スペイン映画アカデミーの最初の女性会長を務めた稀有の女優。「わたしが16歳でデビューしたとき、フアンが近づいてきて話しかけてくれた。お世辞を言う人ではない、そのとき以来のわたしの助言者、先生です。演技のメソッドについての本をプレゼントしてくれた。彼は私のピグマリオンです。30年後に先生と一緒にメダルがもらえるなんて夢みたい」と、傍らの恩師に言及しながら喜びを語った。「(アカデミー会長の)アントニオから電話で知らせがあったとき、本当は当惑したの。受話器を置いてからも呆然としてしまって、この私がフアン・ディエゴと一緒? まさか。現在は映画に出演していないし、でも結局、アカデミーの意向を受け入れようと。メダルが私を元気づけてくれたことに気がついた」と、受賞をまったく予期していなかったようです。受賞がアナウンスされたときにキャリアとフィルモグラフィーをご紹介しています。

*コチラ⇒201581

 

★受賞がアナウンスされたとき、「現在はとてもワクワクしている。ずっと前から待っていたからね」と語っていたフアン・ディエゴ1942年、セビーリャのボルムホス生れ)の喜びの弁は、「アイタナと一緒の受賞は素晴らしいことだよ。重要なのはまだ若くて人を愛せる年齢の人に与えることだ」と。金のメダルは功成り名遂げた人に与える名誉賞ではないということか。自分は遅すぎたという感慨があるのかもしれない。ゴヤ賞主演助演を含めて3個を受賞している実力者の言葉は重いです。受賞は逃したが、彼の代表作の一つが、カルロス・サウラの“La noche oscula”(「暗夜」1989)、16世紀の聖人、神秘思想家サン・フアン・デ・ラ・クルスに扮した作品です。タイトルは彼の有名な詩集『暗夜』から取られた。当ブログには度々登場してもらっています。特に「マラガ映画祭2014」で輝かしい受賞歴、主なフィルモグラフィーをご紹介しております。

*コチラ⇒2014421

 

   

   (“La noche oscula”でサン・フアン・デ・ラ・クルスに扮したフアン・ディエゴ)

 

★女優が40代に入ると、だんだん舞台にシフト替えしていくのは、舞台のダイレクトな反応に魅了されることも大きいが、オファーが減ることにも一因がある。アイタナも「スペインでは円熟した女性を主人公にした映画があまりない。フランスではジュリエット・ビノシュやイザベル・ユペールのために映画が製作される。スペインは18歳から35歳まで、36歳過ぎると母親役が回ってくる。そういう風潮を変えることが必要」と。40歳は95歳と言われるハリウッドほどではないが女優業は年齢との戦いだ。売れっ子女優シャーリー・マクレーンのオスカー賞受賞の弁「あまりに遅すぎます」は有名ですが、彼女も40代初めは一時引退状態だった。『愛と追憶の日々』(83)で受賞したときには49歳だった。娘になったデブラ・ウィンガーは、干されないうちに早々と引退してしまった。大きな損失だと思いますね。

 

           実るほど頭を垂れる稲穂かな

 

フアン・ディエゴ:「女性は突然やめてしまい、結果的に舞台に鞍替えする。せっかくお金をかけて育てたのに、映画界にとってはとても残念なことだ」。彼も一人芝居の魅力にとり憑かれている。平土間の観客から受ける反応が堪らないからのようだ。しかし来年2月に30万ユーロで映画を撮る予定、「それは映画が好きだし、映画の仲間も好きだから」だそうです。彼は内戦終結直後の生れ、つまりフランコ体制時代の教育を受けて育っている。独裁制と民主主義移行期の混乱を体験している。社会に対して仲間に対しての義務を果たすことにも精を出している。だから皆から信頼されるのだろうと思う。役者が天職という彼だが、「身を粉にして一生懸命学び、はたらき、真実を求める」が信条、これからの活躍を期待したい。そのための「金のメダル」だから。

 

アイタナ・サンチェス=ヒホン「フアンほど真摯な人にはあったことがない。年を重ねるごとに顕著になっていく」と言うアイタナだが、「ビガス・ルナが亡くなってほんとに寂しい。私にとって仕事の上でも個人的なことでも重要な監督だった」と鬼籍入りした監督を懐かしむ。彼女にサンセバスチャン映画祭1999の最優秀女優賞をもたらした『裸のマハ』の監督です。主役はアルバ公爵夫人を演じたアイタナでしたが、日本ではペピータ役のペネロペ・クルスが話題をさらった。ビガス・ルナ監督も正当に評価されているとは思えない。個人的には銀幕にカムバックして欲しい。 

 

    (ゴヤの「着衣のマハ」のポーズをとるアルバ公爵夫人、『裸のマハ』から)

 

『ミューズ・アカデミー』 がセビーリャ・ヨーロッパ映画祭「金のヒラルダ」受賞2015年11月18日 18:26

   セビーリャ・ヨーロッパ映画祭「金のヒラルダ」を受賞

 

★記憶が残っているうちにアップしようと思っている『ミューズ・アカデミー』「金のヒラルダ」Giraldeillo de Oro)を受賞しました。例年11月半ばにセビーリャで開催される映画祭の最高賞です。ヨーロッパ映画賞の前哨戦の意味合いがあり、この映画祭でノミネーションが発表される(今年は既に発表)。ここでの受賞作品はヨーロッパ映画賞ノミネーションの確率が高く、ただ『ミューズ・アカデミー』は選ばれませんでした。ヨーロッパ映画賞のうち技術部門(音響・衣装デザイン・編集など)は10月末に受賞者が決定されている。

 

    

       (ラファエレ・ピント教授と妻 『ミューズ・アカデミー』から)

 

★『ミューズ・アカデミー』受賞はちょっと意外、というのも下馬評ではポルトガルのミゲル・ゴメスのArabian Nights(“As mil e una noites”ポルトガル、仏、独、スイス)か、トルコ映画“Mustang”が高得点だったこと、既に発表されていたヨーロッパ映画賞の作品賞以下のノミネーションがゼロだったからでした。“Arabian Nights”は「銀のヒラルダ」Giraldeillo de Plata)を受賞、ヨーロッパ映画賞(技術部門)の音響デザイナー賞の受賞が決定しています。

 

★その他では、観客賞受賞のトルコのMustang(監督Deniz Gamze Erguven 仏、独、トルコ、カタール)が作品賞とディスカバリー賞にノミネーションされています。トルコ映画ですがフランス、ドイツが製作国に参加ですから対象作品です。カンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」の話題作、カンヌ以来、世界各地の映画祭、ベネチア、トロント、バジャドリード、ニューヨークと次々に招待され、フランス、ベルギー、アルゼンチンなどで公開、来年にかけても続々公開が決まっています。両親が亡くなり孤児となってしまったトルコ北部の村で暮らす5人姉妹のドラマ、祖母と叔父の庇護のもと、彼女たちがボーイフレンドたちと巻き起こす自由奔放な行動、フリーダム、女性の権利、親族によるレイプ、スキャンダル、死、社会的圧力など、現代トルコが抱える問題が描かれる。

               

                (“Mustang”のポスター)

 

★今年のセビーリャ・ヨーロッパ映画祭の授賞式は、パリで起きた同時多発テロの影響でキャンセルされました。セビーリャのロペ・デ・ベガ劇場で行われる予定だったアメリカの歌手ソフィー・オースターのコンサートも中止となり、テロの影響は深刻です。

 

★『ミューズ・アカデミー』のアップは、1回鑑賞ではすこぶる心もとないですが、「金のヒラルダ」を受賞したことだし、時間が経つと億劫になりそうなので、次回にまとめます。

 

ゴヤ賞2016 「栄誉賞」 はマリアノ・オソレス監督が受賞 ①2015年11月18日 17:33

 

ゴヤ賞2016「栄誉賞」はコメディ監督マリアノ・オソレス

 

★ゴヤ賞授賞式は来年2月と大分先ですが、ゴヤ賞2016の「栄誉賞」はコメディ監督マリアノ・オソレスが選ばれました。昨年のアントニオ・バンデラスのように日本での知名度はありませんが、スペイン人で彼の映画を見たことがない人は少ない。ゴヤ賞とは無縁の監督でしたが、40年間で96作、低予算、短期間で1年間に5作品撮った年もあるとか。どの作品も観客に受け入れられた、つまり映画館に足を運んだ観客は延べ8700万人、総人口の倍近いそうです。スペイン人がコメディ好きなのは、暗い時代が長かったから、せめて映画館の中だけでも笑いたかったのかもしれません。

         

        

               (ゴヤ賞2016の栄誉賞に選ばれたマリアノ・オソレス監督)

 

1926年マドリード生れ、監督、脚本家。両親は俳優だったが監督の道を選んだ。俳優を選んだのは兄弟のホセ・ルイスとアントニオ、最近では姪のエンマ・オソレス、アドリアナ・オソレスなど。「考え深い人で、とても控えめだが、人々を幸せにできる人。驚くべきことは、常に誇りをもって映画に取り組んだ監督、受賞にふさわしい人は彼以外にいない」と映画アカデミー会長アントニオ・レシネスの弁。ゴヤ賞が近づいたら、改めてご紹介いたします。